特許第6125317号(P6125317)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6125317モールド材の処理方法及び構造体の製造方法
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  • 特許6125317-モールド材の処理方法及び構造体の製造方法 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6125317
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】モールド材の処理方法及び構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/56 20060101AFI20170424BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   H01L21/56 R
   H01L21/304 622J
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-99658(P2013-99658)
(22)【出願日】2013年5月9日
(65)【公開番号】特開2014-220433(P2014-220433A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】藤井 恭
(72)【発明者】
【氏名】中村 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】岩田 泰昌
(72)【発明者】
【氏名】石田 信悟
【審査官】 秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0117702(US,A1)
【文献】 特開2010−056409(JP,A)
【文献】 特開昭56−163438(JP,A)
【文献】 特開2009−289985(JP,A)
【文献】 特開2001−118965(JP,A)
【文献】 特開平11−58604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/56
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールド材からなるモールド材層を加熱して、当該モールド材層を構成するモールド材から気体を放出させる加熱工程、および、
加熱工程の後、上記モールド材層の表面に、接着層を設ける接着層形成工程、を含み、
上記接着層の表面であって上記モールド材層とは反対側の面に、支持体が熱圧着によって積層され、
上記加熱工程では、モールド材層を215℃以上、250℃以下にて15分以上加熱することを特徴とするモールド材の処理方法。
【請求項2】
上記加熱工程では、大気圧よりも圧力の低い減圧環境下で上記モールド材を加熱することを特徴とする請求項1に記載のモールド材の処理方法。
【請求項3】
上記モールド材層の表面に、加工が施される被加工部材が載置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のモールド材の処理方法。
【請求項4】
上記接着層が、炭化水素樹脂、およびエラストマー樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のモールド材の処理方法。
【請求項5】
上記炭化水素樹脂が、樹脂(A)および/または樹脂(B)であり、
当該樹脂(A)は、シクロオレフィン系ポリマーであり、
当該樹脂(B)は、テルペン樹脂、ロジン系樹脂、および石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂であることを特徴とする請求項4に記載のモールド材の処理方法。
【請求項6】
上記エラストマー樹脂が、水添物であるエラストマー、および、両端がスチレンのブロック重合体であるエラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂であることを特徴とする請求項4に記載のモールド材の処理方法。
【請求項7】
上記接着層と上記支持体との間に、分離層が形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のモールド材の処理方法。
【請求項8】
上記モールド材層は基板上に形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のモールド材の処理方法。
【請求項9】
モールド材からなるモールド材層を加熱して、当該モールド材層を構成するモールド材から気体を放出させる加熱工程、および、
加熱工程の後、上記モールド材層の表面に、接着層を設ける接着層形成工程、を含み、
上記接着層の表面であって上記モールド材層とは反対側の面に、支持体が積層され、
上記加熱工程では、モールド材層を215℃以上、250℃以下にて15分以上加熱することを特徴とする構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモールド材の処理方法及び構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、半導体チップがキャリアプレート上に保持されたワークを、樹脂とともにプレス部に搬入して樹脂モールドするための樹脂モールド装置が記載されている。
【0003】
特許文献2には、ダイのパッケージについて記載されている。具体的には、特許文献2には、ダイをキャリアプレート上に配置して成形封入物を用いて成形した後、ダイの裏面からモールドコンパウンドを除去して、ダイの厚さを薄くするために、ダイの裏面を研磨することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−126074号公報(2012年7月5日公開)
【特許文献2】特開2006−287235号公報(2006年10月19日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、モールド材に、チップ等のデバイス、ダイ等の素子を載せて加工をすることがある。この加工の前に支持体をモールド材に加熱して貼り付けるとき、熱がモールド材に加わることにより、当該モールド材からガスが発生して、十分な強度で貼り付かないなどの悪影響が生じるという問題が生じる。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みて成されたものであり、デバイス、素子等の被加工部材を搭載して加工を行なうために支持体を貼り付けるモールド材において、貼り付けの際にガスが生じることによる悪影響を低減するためのモールド材の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るモールド材の処理方法は、モールド材からなるモールド材層を加熱して、当該モールド材層を構成するモールド材から気体を放出させる加熱工程を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、デバイス、素子等の被加工部材を搭載して加工を行なうために支持体を貼り付けるモールド材において、貼り付けの際にガスが生じることによる悪影響を低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る処理方法の一実施形態における処理の流れについて模式的に説明する概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<モールド材の処理方法>
本発明に係るモールド材の処理方法は、モールド材からなるモールド材層を加熱して、当該モールド材層を構成するモールド材から気体を放出させる加熱工程を含む。
【0011】
〔モールド材〕
本発明に係るモールド材の処理方法において処理の対象となるモールド材は、特に限定されるものではない。本発明に係るモールド材の処理方法は、様々なモールド材について適用できる。
【0012】
本発明に係るモールド材の処理方法は、支持体を貼り付ける前に、モールド材からガスを予め出して、貼り付けに対する悪影響を低減させるものである。
【0013】
モールド材層とは、モールド材からなる層である。本発明に係るモールド材の処理方法は、モールド材層のみのもの、例えば、板状のモールド材に対しても適用でき、また、ガラスやシリコン等の基板上にモールド材層が形成された積層板に対しても適用できる。
【0014】
〔加熱工程〕
加熱工程では、モールド材層を構成するモールド材から気体を放出させるようにモールド材層を加熱すればよい。これにより、ガスが放出されるため、支持体を貼り付ける際にはガスが発生することを防ぎ、貼り付けの際に生じる悪影響を低減できる。
【0015】
加熱する温度は、モールド材の種類に応じて適宜設定すればよく、例えば、100℃以上であり、また、250℃以下であり、好ましくは220℃以下である。加熱時間は例えば15分以上、好ましくは1時間以上である。より具体的な例として、120℃以上、160℃以下の範囲で、長時間(1時間以上)、ゆっくりと昇温しながら加熱することにより急激な反りを発生させないでガスを放出することができる。また、215℃にて15分以上加熱することにより、ガスの放出はほぼ無くなることが分かっている。
【0016】
加熱工程を行なう環境は、大気圧下でもよく、大気圧よりも圧力の低い減圧環境下でもよいが、大気圧よりも圧力の低い減圧環境下でモールド材を加熱することがより好ましい。これにより、モールド材からのガスを排出する効率が向上する。
【0017】
〔被加工部材〕
モールド材層の表面には、加工が施される被加工部材が載置されていてもよい。
【0018】
被加工部材とは、本発明に係るモールド材の処理方法をモールド材層に対して施した後に、何らかの加工が加えられる部材である。被加工部材の具体例としては、チップ等のデバイス、ダイ等の素子が挙げられる。例えば、モールド材層がガラスやシリコン等の基板上に設けられているときはチップ等のデバイスを載置してもよく、モールド材層のみの場合はダイ等の素子を載置してもよい。また、何らかの加工とは、例えば、デバイス及び素子の薄化等の加工が挙げられる。
【0019】
〔接着層形成工程〕
本発明に係るモールド材の処理方法は、モールド材層の表面に、接着層を設ける接着層形成工程を、加熱工程の後に含んでもよい。接着層におけるモールド材層とは異なる面に、例えば支持体等を貼り付けて、様々な処理を行なうことができる。
【0020】
接着層の形成方法としては、モールド材に接着剤を塗布してもよいし、モールド材に貼り付ける支持体に接着剤を塗布してもよいし、接着剤が両面に塗布された接着テープを基板又はモールド材に貼り付けてもよい。モールド材層に被加工部材が載置されている場合、被加工部材の上から接着剤を塗布してもよい。支持体に接着剤を塗布する場合であって、支持体に分離層が設けられているときは分離層の上から接着剤を塗布してもよい。接着剤の塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、ディッピング法、ローラーブレード法、ドクターブレード法、スプレー法、スリットノズル法による塗布法等が挙げられる。また、接着剤を塗布した後、加熱により乾燥させてもよい。
【0021】
接着層の厚さは、貼り付けの対象となる支持体の種類、貼り付け後の積層体に施される処理等に応じて適宜設定すればよいが、10μm以上、300μm以下の範囲内であることが好ましく、70μm以上、200μm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0022】
(接着剤)
接着剤として、例えばアクリル系、ノボラック系、ナフトキサン系、炭化水素系、ポリイミド系、エラストマー等の、当該分野において公知の種々の接着剤が、接着層を構成する接着剤として使用可能である。
【0023】
接着層が含有する樹脂としては、接着性を備えたものであればよく、例えば、炭化水素樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、マレイミド系樹脂、エラストマー樹脂等、又はこれらを組み合わせたものなどが挙げられる。
【0024】
(炭化水素樹脂)
炭化水素樹脂は、炭化水素骨格を有し、単量体組成物を重合してなる樹脂である。炭化水素樹脂として、シクロオレフィン系ポリマー(以下、「樹脂(A)」ということがある)、並びに、テルペン樹脂、ロジン系樹脂及び石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(以下、「樹脂(B)」ということがある)等が挙げられるが、これに限定されない。
【0025】
樹脂(A)としては、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分を重合してなる樹脂であってもよい。具体的には、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分の開環(共)重合体、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分を付加(共)重合させた樹脂などが挙げられる。
【0026】
樹脂(A)を構成する単量体成分に含まれる前記シクロオレフィン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセンなどの四環体、シクロペンタジエン三量体などの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの七環体、又はこれら多環体のアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)置換体、アルケニル(ビニルなど)置換体、アルキリデン(エチリデンなど)置換体、アリール(フェニル、トリル、ナフチルなど)置換体等が挙げられる。これらの中でも特に、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、又はこれらのアルキル置換体からなる群より選ばれるノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0027】
樹脂(A)を構成する単量体成分は、上述したシクロオレフィン系モノマーと共重合可能な他のモノマーを含有していてもよく、例えば、アルケンモノマーを含有することが好ましい。アルケンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1‐ブテン、イソブテン、1‐ヘキセン、α‐オレフィンなどが挙げられる。アルケンモノマーは、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
【0028】
また、樹脂(A)を構成する単量体成分として、シクロオレフィンモノマーを含有することが、高耐熱性(低い熱分解、熱重量減少性)の観点から好ましい。樹脂(A)を構成する単量体成分全体に対するシクロオレフィンモノマーの割合は、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることがさらに好ましい。また、樹脂(A)を構成する単量体成分全体に対するシクロオレフィンモノマーの割合は、特に限定されないが、溶解性及び溶液での経時安定性の観点からは80モル%以下であることが好ましく、70モル%以下であることがより好ましい。
【0029】
また、樹脂(A)を構成する単量体成分として、直鎖状又は分岐鎖状のアルケンモノマーを含有してもよい。樹脂(A)を構成する単量体成分全体に対するアルケンモノマーの割合は、溶解性及び柔軟性の観点からは10〜90モル%であることが好ましく、20〜85モル%であることがより好ましく、30〜80モル%であることがさらに好ましい。
【0030】
なお、樹脂(A)は、例えば、シクロオレフィン系モノマーとアルケンモノマーとからなる単量体成分を重合させてなる樹脂のように、極性基を有していない樹脂であることが、高温下でのガスの発生を抑制するうえで好ましい。
【0031】
単量体成分を重合するときの重合方法や重合条件等については、特に制限はなく、常法に従い適宜設定すればよい。
【0032】
樹脂(A)として用いることのできる市販品としては、例えば、ポリプラスチックス株式会社製の「TOPAS」、三井化学株式会社製の「APEL」、日本ゼオン株式会社製の「ZEONOR」及び「ZEONEX」、JSR株式会社製の「ARTON」などが挙げられる。
【0033】
樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることが特に好ましい。樹脂(A)のガラス転移温度が60℃以上であると、積層体が高温環境に曝されたときに接着層の軟化をさらに抑制することができる。
【0034】
樹脂(B)は、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂及び石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である。具体的には、テルペン系樹脂としては、例えば、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、水添テルペンフェノール樹脂等が挙げられる。ロジン系樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジン、水添ロジンエステル、重合ロジン、重合ロジンエステル、変性ロジン等が挙げられる。石油樹脂としては、例えば、脂肪族又は芳香族石油樹脂、水添石油樹脂、変性石油樹脂、脂環族石油樹脂、クマロン・インデン石油樹脂等が挙げられる。これらの中でも、水添テルペン樹脂、水添石油樹脂がより好ましい。
【0035】
樹脂(B)の軟化点は特に限定されないが、80〜160℃であることが好ましい。樹脂(B)の軟化点が80℃以上であると、積層体が高温環境に曝されたときに軟化することを抑制することができ、接着不良を生じない。一方、樹脂(B)の軟化点が160℃以下であると、積層体を剥離するときの剥離速度が良好なものとなる。
【0036】
樹脂(B)の分子量は特に限定されないが、300〜3,000であることが好ましい。樹脂(B)の分子量が300以上であると、耐熱性が充分なものとなり、高温環境下において脱ガス量が少なくなる。一方、樹脂(B)の分子量が3,000以下であると、積層体を剥離するときの剥離速度が良好なものとなる。なお、本実施形態における樹脂(B)の分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の分子量を意味するものである。
【0037】
なお、樹脂として、樹脂(A)と樹脂(B)とを混合したものを用いてもよい。混合することにより、耐熱性及び剥離速度が良好なものとなる。例えば、樹脂(A)と樹脂(B)との混合割合としては、(A):(B)=80:20〜55:45(質量比)であることが、剥離速度、高温環境時の熱耐性、及び柔軟性に優れるので好ましい。
【0038】
(アクリル−スチレン系樹脂)
アクリル−スチレン系樹脂としては、例えば、スチレン又はスチレンの誘導体と、(メタ)アクリル酸エステル等とを単量体として用いて重合した樹脂が挙げられる。
【0039】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステル、脂肪族環を有する(メタ)アクリル酸エステル、芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数15〜20のアルキル基を有するアクリル系長鎖アルキルエステル、炭素数1〜14のアルキル基を有するアクリル系アルキルエステル等が挙げられる。アクリル系長鎖アルキルエステルとしては、アルキル基がn−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基等であるアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。なお、当該アルキル基は、分岐状であってもよい。
【0040】
炭素数1〜14のアルキル基を有するアクリル系アルキルエステルとしては、既存のアクリル系接着剤に用いられている公知のアクリル系アルキルエステルが挙げられる。例えば、アルキル基が、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、ドデシル基、ラウリル基、トリデシル基等からなるアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。
【0041】
脂肪族環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、1−アダマンチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、テトラシクロドデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、イソボルニルメタアクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0042】
芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されるものではないが、芳香族環としては、例えばフェニル基、ベンジル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェノキシメチル基、フェノキシエチル基等が挙げられる。また、芳香族環は、炭素数1〜5の鎖状又は分岐状のアルキル基を有していてもよい。具体的には、フェノキシエチルアクリレートが好ましい。
【0043】
(マレイミド系樹脂)
マレイミド系樹脂としては、例えば、単量体として、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−sec−ブチルマレイミド、N−tert−ブチルマレイミド、N−n−ペンチルマレイミド、N−n−ヘキシルマレイミド、N−n−へプチルマレイミド、N−n−オクチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−ステアリルマレイミドなどのアルキル基を有するマレイミド、N−シクロプロピルマレイミド、N−シクロブチルマレイミド、N−シクロペンチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−シクロヘプチルマレイミド、N−シクロオクチルマレイミド等の脂肪族炭化水素基を有するマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−m−メチルフェニルマレイミド、N−o−メチルフェニルマレイミド、N−p−メチルフェニルマレイミド等のアリール基を有する芳香族マレイミド等を重合して得られた樹脂が挙げられる。
【0044】
例えば、下記化学式(8)で表される繰り返し単位及び下記化学式(9)で表される繰り返し単位の共重合体であるシクロオレフィンコポリマーを接着成分の樹脂として用いることができる。
【0045】
【化1】
【0046】
(化学式(9)中、nは0又は1〜3の整数である。)
このようなシクロオレフィンコポリマーとしては、APL 8008T、APL 8009T、及びAPL 6013T(全て三井化学株式会社製)などを使用することができる。
【0047】
(エラストマー)
エラストマーは、主鎖の構成単位としてスチレン単位を含んでいることが好ましく、当該「スチレン単位」は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜5のアルコキシアルキル基、アセトキシ基、カルボキシル基等が挙げられる。また、当該スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲であることがより好ましい。さらに、エラストマーは、重量平均分子量が10,000以上、200,000以下の範囲であることが好ましい。
【0048】
スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲であり、エラストマーの重量平均分子量が10,000以上、200,000以下の範囲であれば、後述する炭化水素系の溶剤に容易に溶解するので、より容易且つ迅速に接着層を除去することができる。また、スチレン単位の含有量及び重量平均分子量が上記の範囲であることにより、ウエハがレジストリソグラフィー工程に供されるときに曝されるレジスト溶剤(例えばPGMEA、PGME等)、酸(フッ化水素酸等)、アルカリ(TMAH等)に対して優れた耐性を発揮する。
【0049】
なお、エラストマーには、上述した(メタ)アクリル酸エステルをさらに混合してもよい。
【0050】
また、スチレン単位の含有量は、より好ましくは17重量%以上であり、また、より好ましくは40重量%以下である。
【0051】
重量平均分子量のより好ましい範囲は20,000以上であり、また、より好ましい範囲は150,000以下である。
【0052】
エラストマーとしては、スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲であり、エラストマーの重量平均分子量が10,000以上、200,000以下の範囲であれば、種々のエラストマーを用いることができる。例えば、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロックコポリマー(SEP)、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(SBS)、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SBBS)、及び、これらの水添物、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー)(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(SEEPS)、スチレンブロックが反応架橋型のスチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(SeptonV9461(株式会社クラレ製))、スチレンブロックが反応架橋型のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(反応性のポリスチレン系ハードブロックを有する、SeptonV9827(株式会社クラレ製))等であって、スチレン単位の含有量及び重量平均分子量が上述の範囲であるものを用いることができる。
【0053】
また、エラストマーの中でも水添物がより好ましい。水添物であれば熱に対する安定性が向上し、分解や重合等の変質が起こりにくい。また、炭化水素系溶剤への溶解性及びレジスト溶剤への耐性の観点からもより好ましい。
【0054】
また、エラストマーの中でも両端がスチレンのブロック重合体であるものがより好ましい。熱安定性の高いスチレンを両末端にブロックすることでより高い耐熱性を示すからである。
【0055】
より具体的には、エラストマーは、スチレン及び共役ジエンのブロックコポリマーの水添物であることがより好ましい。熱に対する安定性が向上し、分解や重合等の変質が起こりにくい。また、熱安定性の高いスチレンを両末端にブロックすることでより高い耐熱性を示す。さらに、炭化水素系溶剤への溶解性及びレジスト溶剤への耐性の観点からもより好ましい。
【0056】
また、エラストマーとして用いられ得る市販品としては、例えば、株式会社クラレ製「セプトン(商品名)」、株式会社クラレ製「ハイブラー(商品名)」、旭化成株式会社製「タフテック(商品名)」、JSR株式会社製「ダイナロン(商品名)」等が挙げられる。
【0057】
また、接着層を構成する接着剤中のエラストマーの含有量としては、例えば、接着剤組成物全量を100重量部として、50重量部以上、99重量部以下が好ましく、60重量部以上、99重量部以下がより好ましく、70重量部以上、95重量部以下が最も好ましい。これらの範囲にすることにより、耐熱性を維持しつつ、ウエハと支持体とを好適に貼り合わせることができる。
【0058】
また、エラストマーは、複数の種類を混合してもよい。複数の種類のエラストマーのうち少なくとも一つが、主鎖の構成単位としてスチレン単位を含んでいることがより好ましい。また、複数の種類のエラストマーのうち少なくとも一つが、スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲である、又は、重量平均分子量が10,000以上、200,000以下の範囲であることがより好ましい。また、接着剤において、複数の種類のエラストマーを含む場合、混合した結果、スチレン単位の含有量が上記の範囲となるように調整してもよい。例えば、スチレン単位の含有量が30重量%である株式会社クラレ製のセプトン(商品名)のSepton4033と、スチレン単位の含有量が13重量%であるセプトン(商品名)のSepton2063とを重量比1対1で混合すると接着剤組成物に含まれるエラストマー全体に対するスチレン含有量は21〜22重量%となり、従って14重量%以上となる。また、例えば、スチレン単位が10重量%のものと60重量%のものとを重量比1対1で混合すると35重量%となり、上記の範囲内となる。また、接着剤に含まれる複数の種類のエラストマーは、全て上記の範囲でスチレン単位を含み、且つ、上記の範囲の重量平均分子量であることが最も好ましい。
【0059】
(希釈溶剤)
後述する分離層、接着層を形成するときの希釈溶剤として、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、メチルオクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の直鎖状の炭化水素、炭素数4から15の分岐状の炭化水素、例えば、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ナフタレン、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレン等の環状炭化水素、p−メンタン、o−メンタン、m−メンタン、ジフェニルメンタン、1,4−テルピン、1,8−テルピン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン、ツジャン、カラン、ロンギホレン、ゲラニオール、ネロール、リナロール、シトラール、シトロネロール、メントール、イソメントール、ネオメントール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、テルピネン−1−オール、テルピネン−4−オール、ジヒドロターピニルアセテート、1,4−シネオール、1,8−シネオール、ボルネオール、カルボン、ヨノン、ツヨン、カンファー、d−リモネン、l−リモネン、ジペンテン等のテルペン系溶剤;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン(CH)、メチル−n−ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2−ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、又はジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、前記多価アルコール類又は前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテル又はモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体(これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい);ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル等の芳香族系有機溶剤等を挙げることができる。
【0060】
(その他の成分)
接着層を構成する接着剤は、本質的な特性を損なわない範囲において、混和性のある他の物質をさらに含んでいてもよい。例えば、接着剤の性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、接着補助剤、安定剤、着色剤、熱重合禁止剤及び界面活性剤等、慣用されている各種添加剤をさらに用いることができる。
【0061】
〔支持体〕
本発明に係るモールド材の処理方法は、接着層の表面であってモールド材層とは反対側の面に、支持体が積層されていてもよい。接着層を介して、モールド材層と支持体とが積層されているので、例えば、モールド材層に被加工部材を載置している場合、当該被加工部材の加工が容易となる。つまり、モールド材及び被加工部材が支持体で支えられているので、モールド材及び被加工部材に力を加えても位置がずれる等の弊害を抑制できる。
【0062】
一実施形態において、支持体は光透過性を有しており、また、後述のように、接着層と支持体との間に分離層が形成されている。そのため、支持体に向けて光が照射されたときに、該光が支持体を通過して分離層に到達する。また、支持体は、必ずしも全ての光を透過させる必要はなく、分離層に吸収されるべき(所定の波長を有している)光を透過させることができればよい。
【0063】
また、支持体は、モールド材層を支持するものであり、モールド材層に載置した被加工部材の薄化、搬送等のプロセス時に、モールド材層及び被加工部材の破損又は変形を防ぐために必要な強度を有していればよい。以上のような観点から、支持体としては、ガラス、シリコン、アクリル樹脂からなるもの等が挙げられる。
【0064】
支持体をモールド材層に積層させる方法としては特に限定されず、例えば、支持体に上述した接着層を設けてモールド材層に積層させてもよく、モールド材層上に上述した接着層を設けて支持体を貼り付けてもよい。
【0065】
〔分離層〕
本発明に係るモールド材の処理方法では、接着層と支持体との間に、分離層が形成されていてもよい。必要な加工を被加工部材に施した後等、支持体が不要になったときに、支持体とモールド材層とを容易に分離することができる。
【0066】
一実施形態において、分離層は、支持体を介して照射される光を吸収することによって変質する材料から形成されている層である。本明細書において、分離層が「変質する」とは、分離層をわずかな外力を受けて破壊され得る状態、又は分離層と接する層との接着力が低下した状態にさせる現象を意味する。光を吸収することによって生じる分離層の変質の結果として、分離層は、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失う。
【0067】
また、分離層の変質は、吸収した光のエネルギーによる(発熱性又は非発熱性の)分解、架橋、立体配置の変化又は官能基の解離(そして、これらにともなう分離層の硬化、脱ガス、収縮又は膨張)等であり得る。分離層の変質は、分離層を構成する材料による光の吸収の結果として生じる。よって、分離層の変質の種類は、分離層を構成する材料の種類に応じて変化し得る。
【0068】
分離層の厚さは、例えば、0.05μm以上、50μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上、1μm以下であることがさらに好ましい。分離層の厚さが0.05μm以上、50μm以下の範囲内に収まっていれば、短時間の光の照射及び低エネルギーの光の照射によって、分離層に所望の変質を生じさせることができる。また、分離層の厚さは、生産性の観点から1μm以下の範囲内に収まっていることが特に好ましい。
【0069】
なお、分離層と支持体との間に他の層がさらに形成されていてもよい。この場合、当該他の層は光を透過する材料から構成されていればよい。これによって、分離層への光の入射を妨げることなく、支持体等に好ましい性質等を付与する層を、適宜追加することができる。分離層を構成している材料の種類によって、用い得る光の波長が異なる。よって、他の層を構成する材料は、すべての光を透過させる必要はなく、分離層を構成する材料を変質させ得る波長の光を透過させることができる材料から適宜選択し得る。
【0070】
分離層は、光を吸収する構造を有する材料のみから形成されていることが好ましいが、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、光を吸収する構造を有していない材料を添加して、分離層を形成してもよい。また、分離層における接着層に対向する側の面が平坦である(凹凸が形成されていない)ことが好ましく、これにより、分離層の形成が容易に行なえ、且つ貼り付けにおいても均一に貼り付けることが可能となる。
【0071】
分離層は、以下に示すような分離層を構成する材料を予めフィルム状に形成したものを支持体に貼り合わせて用いてもよいし、支持体上に分離層を構成する材料を塗布してフィルム状に固化したものを用いてもよい。支持体上に分離層を構成する材料を塗布する方法は、分離層を構成する材料の種類に応じて、化学気相成長(CVD)法による堆積等の従来公知の方法から適宜選択することができる。
【0072】
分離層は、レーザから照射される光を吸収することによって変質するものであってもよい。すなわち、分離層を変質させるために分離層に照射される光は、レーザから照射されたものであってもよい。分離層に照射する光を発射するレーザの例としては、YAGレーザ、リビーレーザ、ガラスレーザ、YVOレーザ、LDレーザ、ファイバーレーザ等の固体レーザ、色素レーザ等の液体レーザ、COレーザ、エキシマレーザ、Arレーザ、He−Neレーザ等の気体レーザ、半導体レーザ、自由電子レーザ等のレーザ光、又は、非レーザ光等が挙げられる。分離層に照射する光を発射するレーザは、分離層を構成している材料に応じて適宜選択することが可能であり、分離層を構成する材料を変質させ得る波長の光を照射するレーザを選択すればよい。
【0073】
(フルオロカーボン)
分離層は、フルオロカーボンからなっていてもよい。分離層は、フルオロカーボンによって構成されることにより、光を吸収することによって変質するようになっており、その結果として、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失う。よって、わずかな外力を加える(例えば、支持体を持ち上げるなど)ことによって、分離層が破壊されて、支持体とモールド材とを分離し易くすることができる。
【0074】
また、一つの観点からいえば、分離層を構成するフルオロカーボンは、プラズマCVD法によって好適に成膜され得る。なお、フルオロカーボンは、C(パーフルオロカーボン)及びC(x、y及びzは整数)を含み、これらに限定されないが、例えば、CHF、CH、C、C、C、C等で有り得る。また、分離層を構成するために用いるフルオロカーボンに対して、必要に応じて窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス、アルカン、アルケンなどの炭化水素、及び、酸素、二酸化炭素、水素を添加してもよい。また、これらのガスを複数種混合して用いてもよい(フルオロカーボン、水素、窒素の混合ガス等)。また、分離層は、単一種のフルオロカーボンから構成されていてもよいし、2種類以上のフルオロカーボンから構成されていてもよい。
【0075】
フルオロカーボンは、その種類によって固有の範囲の波長を有する光を吸収する。分離層に用いられたフルオロカーボンが吸収する範囲の波長の光を分離層に照射することにより、フルオロカーボンを好適に変質させ得る。なお、分離層における光の吸収率は80%以上であることが好ましい。
【0076】
分離層に照射する光としては、フルオロカーボンが吸収可能な波長に応じて、例えば、YAGレーザ、リビーレーザ、ガラスレーザ、YVOレーザ、LDレーザ、ファイバーレーザ等の固体レーザ、色素レーザ等の液体レーザ、COレーザ、エキシマレーザ、Arレーザ、He−Neレーザ等の気体レーザ、半導体レーザ、自由電子レーザ等のレーザ光、又は、非レーザ光を適宜用いればよい。フルオロカーボンを変質させ得る波長としては、これに限定されるものではないが、例えば、600nm以下の範囲のものを用いることができる。
【0077】
(光吸収性を有している構造をその繰り返し単位に含んでいる重合体)
分離層は、光吸収性を有している構造をその繰り返し単位に含んでいる重合体を含有していてもよい。該重合体は、光の照射を受けて変質する。該重合体の変質は、上記構造が照射された光を吸収することによって生じる。分離層は、重合体の変質の結果として、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失っている。よって、わずかな外力を加える(例えば、支持体を持ち上げるなど)ことによって、分離層が破壊されて、支持体とモールド材とを分離し易くすることができる。
【0078】
光吸収性を有している上記構造は、光を吸収して、繰り返し単位として該構造を含んでいる重合体を変質させる化学構造である。該構造は、例えば、置換もしくは非置換のベンゼン環、縮合環又は複素環からなる共役π電子系を含んでいる原子団である。より詳細には、該構造は、カルド構造、又は上記重合体の側鎖に存在するベンゾフェノン構造、ジフェニルスルフォキシド構造、ジフェニルスルホン構造(ビスフェニルスルホン構造)、ジフェニル構造もしくはジフェニルアミン構造であり得る。
【0079】
上記構造が上記重合体の側鎖に存在する場合、該構造は以下の式によって表され得る。
【0080】
【化2】
【0081】
(式中、Rはそれぞれ独立して、アルキル基、アリール基、ハロゲン、水酸基、ケトン基、スルホキシド基、スルホン基又はN(R)(R)であり(ここで、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である)、Zは、存在しないか、又はCO−、−SO−、−SO−もしくは−NH−であり、nは0又は1〜5の整数である。)
また、上記重合体は、例えば、以下の式のうち、(a)〜(d)の何れかによって表される繰り返し単位を含んでいるか、(e)によって表されるか、又は(f)の構造をその主鎖に含んでいる。
【0082】
【化3】
【0083】
(式中、lは1以上の整数であり、mは0又は1〜2の整数であり、Xは、(a)〜(e)において上記の“化1”に示した式のいずれかであり、(f)において上記の“化1”に示した式のいずれかであるか、又は存在せず、Y及びYはそれぞれ独立して、−CO−又はSO−である。lは好ましくは10以下の整数である。)
上記の“化2”に示されるベンゼン環、縮合環及び複素環の例としては、フェニル、置換フェニル、ベンジル、置換ベンジル、ナフタレン、置換ナフタレン、アントラセン、置換アントラセン、アントラキノン、置換アントラキノン、アクリジン、置換アクリジン、アゾベンゼン、置換アゾベンゼン、フルオリム、置換フルオリム、フルオリモン、置換フルオリモン、カルバゾール、置換カルバゾール、N−アルキルカルバゾール、ジベンゾフラン、置換ジベンゾフラン、フェナンスレン、置換フェナンスレン、ピレン及び置換ピレンが挙げられる。例示した置換基が置換を有している場合、その置換基は、例えば、アルキル、アリール、ハロゲン原子、アルコキシ、ニトロ、アルデヒド、シアノ、アミド、ジアルキルアミノ、スルホンアミド、イミド、カルボン酸、カルボン酸エステル、スルホン酸、スルホン酸エステル、アルキルアミノ及びアリールアミノから選択される。
【0084】
上記の“化2”に示される置換基のうち、フェニル基を2つ有している5番目の置換基であって、Zが−SO−である場合の例としては、ビス(2,4‐ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,4‐ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5‐ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,6‐ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3‐ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(2‐ヒドロキシフェニル)スルホン、及びビス(3,5‐ジメチル‐4‐ヒドロキシフェニル)スルホンなどが挙げられる。
【0085】
上記の“化2”に示される置換基のうち、フェニル基を2つ有している5番目の置換基であって、Zが−SO−である場合の例としては、ビス(2,3‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(5‐クロロ‐2,3‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,4‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,4‐ジヒドロキシ‐6‐メチルフェニル)スルホキシド、ビス(5‐クロロ‐2,4‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,5‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(3,4‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(3,5‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,3,4‐トリヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,3,4‐トリヒドロキシ‐6‐メチルフェニル)‐スルホキシド、ビス(5‐クロロ‐2,3,4‐トリヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,4,6‐トリヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(5‐クロロ‐2,4,6‐トリヒドロキシフェニル)スルホキシドなどが挙げられる。
【0086】
上記の“化2”に示される置換基のうち、フェニル基を2つ有している5番目の置換基であって、Zが−C(=O)−である場合の例としては、2,4‐ジヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4‐トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’‐テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,5,6’‐テトラヒドロキシベンゾフェノン、2‐ヒドロキシ‐4‐メトキシベンゾフェノン、2‐ヒドロキシ‐4‐オクトキシベンゾフェノン、2‐ヒドロキシ‐4‐ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’‐ジヒドロキシ‐4‐メトキシベンゾフェノン、2,6‐ジヒドロキシ‐4‐メトキシベンゾフェノン、2,2’‐ジヒドロキシ‐4,4’‐ジメトキシベンゾフェノン、4‐アミノ‐2’‐ヒドロキシベンゾフェノン、4‐ジメチルアミノ‐2’‐ヒドロキシベンゾフェノン、4‐ジエチルアミノ‐2’‐ヒドロキシベンゾフェノン、4‐ジメチルアミノ‐4’‐メトキシ‐2’‐ヒドロキシベンゾフェノン、4‐ジメチルアミノ‐2’,4’‐ジヒドロキシベンゾフェノン、及び4‐ジメチルアミノ‐3’,4’‐ジヒドロキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0087】
上記構造が上記重合体の側鎖に存在している場合、上記構造を含んでいる繰り返し単位の、上記重合体に占める割合は、分離層の光の透過率が0.001%以上、10%以下になる範囲にある。該割合がこのような範囲に収まるように重合体が調製されていれば、分離層が十分に光を吸収して、確実かつ迅速に変質し得る。すなわち、モールド材層上から支持体の除去が容易であり、該除去に必要な光の照射時間を短縮させることができる。
【0088】
上記構造は、その種類の選択によって、所望の範囲の波長を有している光を吸収することができる。例えば、上記構造が吸収可能な光の波長は、100nm以上、2000nm以下であることがより好ましい。この範囲のうち、上記構造が吸収可能な光の波長は、より短波長側であり、例えば、100nm以上、500nm以下である。例えば、上記構造は、好ましくはおよそ300nm以上、370nm以下の波長を有している紫外光を吸収することによって、該構造を含んでいる重合体を変質させ得る。
【0089】
上記構造が吸収可能な光は、例えば、高圧水銀ランプ(波長:254nm以上、436nm以下)、KrFエキシマレーザ(波長:248nm)、ArFエキシマレーザ(波長:193nm)、F2エキシマレーザ(波長:157nm)、XeClレーザ(波長:308nm)、XeFレーザ(波長:351nm)もしくは固体UVレーザ(波長:355nm)から発せられる光、又はg線(波長:436nm)、h線(波長:405nm)もしくはi線(波長:365nm)などである。
【0090】
上述した分離層は、繰り返し単位として上記構造を含んでいる重合体を含有しているが、分離層はさらに、上記重合体以外の成分を含み得る。該成分としては、フィラー、可塑剤、及び支持体の剥離性を向上し得る成分などが挙げられる。これらの成分は、上記構造による光の吸収、及び重合体の変質を妨げないか、又は促進する、従来公知の物質又は材料から適宜選択される。
【0091】
(無機物)
分離層は、無機物からなっていてもよい。分離層は、無機物によって構成されることにより、光を吸収することによって変質するようになっており、その結果として、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失う。よって、わずかな外力を加える(例えば、支持体を持ち上げるなど)ことによって、分離層が破壊されて、支持体とモールド材とを分離し易くすることができる。
【0092】
上記無機物は、光を吸収することによって変質する構成であればよく、例えば、金属、金属化合物及びカーボンからなる群より選択される1種類以上の無機物を好適に用いることができる。金属化合物とは、金属原子を含む化合物を指し、例えば、金属酸化物、金属窒化物であり得る。このような無機物の例示としては、これに限定されるものではないが、金、銀、銅、鉄、ニッケル、アルミニウム、チタン、クロム、SiO、SiN、Si、TiN、及びカーボンからなる群より選ばれる1種類以上の無機物が挙げられる。なお、カーボンとは炭素の同素体も含まれ得る概念であり、例えば、ダイヤモンド、フラーレン、ダイヤモンドライクカーボン、カーボンナノチューブ等であり得る。
【0093】
上記無機物は、その種類によって固有の範囲の波長を有する光を吸収する。分離層に用いた無機物が吸収する範囲の波長の光を分離層に照射することにより、上記無機物を好適に変質させ得る。
【0094】
無機物からなる分離層に照射する光としては、上記無機物が吸収可能な波長に応じて、例えば、YAGレーザ、リビーレーザ、ガラスレーザ、YVOレーザ、LDレーザ、ファイバーレーザ等の固体レーザ、色素レーザ等の液体レーザ、COレーザ、エキシマレーザ、Arレーザ、He−Neレーザ等の気体レーザ、半導体レーザ、自由電子レーザ等のレーザ光、又は、非レーザ光を適宜用いればよい。
【0095】
無機物からなる分離層は、例えばスパッタ、化学蒸着(CVD)、メッキ、プラズマCVD、スピンコート等の公知の技術により、支持体上に形成され得る。無機物からなる分離層の厚さは特に限定されず、使用する光を十分に吸収し得る膜厚であればよいが、例えば、0.05μm以上、10μm以下の膜厚とすることがより好ましい。また、分離層を構成する無機物からなる無機膜(例えば、金属膜)の両面又は片面に予め接着剤を塗布し、支持体及びモールド材層に貼り付けてもよい。
【0096】
なお、分離層として金属膜を使用する場合には、分離層の膜質、レーザ光源の種類、レーザ出力等の条件によっては、レーザの反射や膜への帯電等が起こり得る。そのため、反射防止膜や帯電防止膜を分離層の上下又はどちらか一方に設けることで、それらの対策を図ることが好ましい。
【0097】
(赤外線吸収性の構造を有する化合物)
分離層は、赤外線吸収性の構造を有する化合物によって形成されていてもよい。該化合物は、赤外線を吸収することにより変質する。分離層は、化合物の変質の結果として、赤外線の照射を受ける前の強度又は接着性を失っている。よって、わずかな外力を加える(例えば、支持体を持ち上げるなど)ことによって、分離層が破壊されて、支持体とモールド材とを分離し易くすることができる。
【0098】
赤外線吸収性を有している構造、又は赤外線吸収性を有している構造を含む化合物としては、例えば、アルカン、アルケン(ビニル、トランス、シス、ビニリデン、三置換、四置換、共役、クムレン、環式)、アルキン(一置換、二置換)、単環式芳香族(ベンゼン、一置換、二置換、三置換)、アルコール及びフェノール類(自由OH、分子内水素結合、分子間水素結合、飽和第二級、飽和第三級、不飽和第二級、不飽和第三級)、アセタール、ケタール、脂肪族エーテル、芳香族エーテル、ビニルエーテル、オキシラン環エーテル、過酸化物エーテル、ケトン、ジアルキルカルボニル、芳香族カルボニル、1,3−ジケトンのエノール、o−ヒドロキシアリールケトン、ジアルキルアルデヒド、芳香族アルデヒド、カルボン酸(二量体、カルボン酸アニオン)、ギ酸エステル、酢酸エステル、共役エステル、非共役エステル、芳香族エステル、ラクトン(β−、γ−、δ−)、脂肪族酸塩化物、芳香族酸塩化物、酸無水物(共役、非共役、環式、非環式)、第一級アミド、第二級アミド、ラクタム、第一級アミン(脂肪族、芳香族)、第二級アミン(脂肪族、芳香族)、第三級アミン(脂肪族、芳香族)、第一級アミン塩、第二級アミン塩、第三級アミン塩、アンモニウムイオン、脂肪族ニトリル、芳香族ニトリル、カルボジイミド、脂肪族イソニトリル、芳香族イソニトリル、イソシアン酸エステル、チオシアン酸エステル、脂肪族イソチオシアン酸エステル、芳香族イソチオシアン酸エステル、脂肪族ニトロ化合物、芳香族ニトロ化合物、ニトロアミン、ニトロソアミン、硝酸エステル、亜硝酸エステル、ニトロソ結合(脂肪族、芳香族、単量体、二量体)、メルカプタン及びチオフェノール及びチオール酸などの硫黄化合物、チオカルボニル基、スルホキシド、スルホン、塩化スルホニル、第一級スルホンアミド、第二級スルホンアミド、硫酸エステル、炭素−ハロゲン結合、Si−A結合(Aは、H、C、O又はハロゲン)、P−A結合(Aは、H、C又はO)、又はTi−O結合であり得る。
【0099】
上記炭素−ハロゲン結合を含む構造としては、例えば、−CHCl、−CHBr、−CHI、−CF−、−CF、−CH=CF、−CF=CF、フッ化アリール、及び塩化アリールなどが挙げられる。
【0100】
上記Si−A結合を含む構造としては、SiH、SiH、SiH、Si−CH、Si−CH−、Si−C、SiO−脂肪族、Si−OCH、Si−OCHCH、Si−OC、Si−O−Si、Si−OH、SiF、SiF、及びSiFなどが挙げられる。Si−A結合を含む構造としては、特に、シロキサン骨格及びシルセスキオキサン骨格を形成していることが好ましい。
【0101】
上記P−A結合を含む構造としては、PH、PH、P−CH、P−CH−、P−C、A−P−O(Aは脂肪族又は芳香族)、(AO)−P−O(Aはアルキル)、P−OCH、P−OCHCH、P−OC、P−O−P、P−OH、及びO=P−OHなどが挙げられる。
【0102】
上記構造は、その種類の選択によって、所望の範囲の波長を有している赤外線を吸収することができる。具体的には、上記構造が吸収可能な赤外線の波長は、例えば1μm以上、20μm以下の範囲内であり、2μm以上、15μm以下の範囲内をより好適に吸収できる。さらに、上記構造がSi−O結合、Si−C結合及びTi−O結合である場合には、9μm以上、11μm以下の範囲内であり得る。なお、各構造が吸収できる赤外線の波長は当業者であれば容易に理解することができる。例えば、各構造における吸収帯として、非特許文献:SILVERSTEIN・BASSLER・MORRILL著「有機化合物のスペクトルによる同定法(第5版)−MS、IR、NMR、UVの併用−」(1992年発行)第146頁〜第151頁の記載を参照することができる。
【0103】
分離層の形成に用いられる、赤外線吸収性の構造を有する化合物としては、上述のような構造を有している化合物のうち、塗布のために溶媒に溶解でき、固化されて固層を形成できるものであれば、特に限定されるものではない。しかしながら、分離層における化合物を効果的に変質させ、支持体とモールド材層との分離を容易にするには、分離層における赤外線の吸収が大きいこと、すなわち、分離層に赤外線を照射したときの赤外線の透過率が低いことが好ましい。具体的には、分離層における赤外線の透過率が90%より低いことが好ましく、赤外線の透過率が80%より低いことがより好ましい。
【0104】
一例を挙げて説明すれば、シロキサン骨格を有する化合物としては、例えば、下記化学式(1)で表される繰り返し単位及び下記化学式(2)で表される繰り返し単位の共重合体である樹脂、あるいは下記化学式(1)で表される繰り返し単位及びアクリル系化合物由来の繰り返し単位の共重合体である樹脂を用いることができる。
【0105】
【化4】
【0106】
(化学式(2)中、Rは、水素、炭素数10以下のアルキル基、又は炭素数10以下のアルコキシ基である。)
中でも、シロキサン骨格を有する化合物としては、上記化学式(1)で表される繰り返し単位及び下記化学式(3)で表される繰り返し単位の共重合体であるt−ブチルスチレン(TBST)−ジメチルシロキサン共重合体がより好ましく、上記式(1)で表される繰り返し単位及び下記化学式(3)で表される繰り返し単位を1:1で含む、TBST−ジメチルシロキサン共重合体がさらに好ましい。
【0107】
【化5】
【0108】
また、シルセスキオキサン骨格を有する化合物としては、例えば、下記化学式(4)で表される繰り返し単位及び下記化学式(5)で表される繰り返し単位の共重合体である樹脂を用いることができる。
【0109】
【化6】
【0110】
(化学式(4)中、Rは、水素又は炭素数1以上、10以下のアルキル基であり、化学式(5)中、Rは、炭素数1以上、10以下のアルキル基、又はフェニル基である。)
シルセスキオキサン骨格を有する化合物としては、このほかにも、特開2007−258663号公報(2007年10月4日公開)、特開2010−120901号公報(2010年6月3日公開)、特開2009−263316号公報(2009年11月12日公開)及び特開2009−263596号公報(2009年11月12日公開)において開示されている各シルセスキオキサン樹脂を好適に利用することができる。
【0111】
中でも、シルセスキオキサン骨格を有する化合物としては、下記化学式(6)で表される繰り返し単位及び下記化学式(7)で表される繰り返し単位の共重合体がより好ましく、下記化学式(6)で表される繰り返し単位及び下記化学式(7)で表される繰り返し単位を7:3で含む共重合体がさらに好ましい。
【0112】
【化7】
【0113】
シルセスキオキサン骨格を有する重合体としては、ランダム構造、ラダー構造、及び籠型構造があり得るが、何れの構造であってもよい。
【0114】
また、Ti−O結合を含む化合物としては、例えば、(i)テトラ−i−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、及びチタニウム−i−プロポキシオクチレングリコレートなどのアルコキシチタン;(ii)ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、及びプロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセテート)などのキレートチタン;(iii)i−CO−[−Ti(O−i−C−O−]−i−C、及びn−CO−[−Ti(O−n−C−O−]−n−Cなどのチタンポリマー;(iv)トリ−n−ブトキシチタンモノステアレート、チタニウムステアレート、ジ−i−プロポキシチタンジイソステアレート、及び(2−n−ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタンなどのアシレートチタン;(v)ジ−n−ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタンなどの水溶性チタン化合物などが挙げられる。
【0115】
中でも、Ti−O結合を含む化合物としては、ジ−n−ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン(Ti(OC[OCN(COH))が好ましい。
【0116】
上述した分離層は、赤外線吸収性の構造を有する化合物を含有しているが、分離層はさらに、上記化合物以外の成分を含み得る。該成分としては、フィラー、可塑剤、及び支持体の剥離性を向上し得る成分などが挙げられる。これらの成分は、上記構造による赤外線の吸収、及び化合物の変質を妨げないか、又は促進する、従来公知の物質又は材料から適宜選択される。
【0117】
(赤外線吸収物質)
分離層は、赤外線吸収物質を含有していてもよい。分離層は、赤外線吸収物質を含有して構成されることにより、光を吸収することによって変質するようになっており、その結果として、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失う。よって、わずかな外力を加える(例えば、支持体を持ち上げるなど)ことによって、分離層が破壊されて、支持体とモールド材とを分離し易くすることができる。
【0118】
赤外線吸収物質は、赤外線を吸収することによって変質する構成であればよく、例えば、カーボンブラック、鉄粒子、又はアルミニウム粒子を好適に用いることができる。赤外線吸収物質は、その種類によって固有の範囲の波長を有する光を吸収する。分離層に用いた赤外線吸収物質が吸収する範囲の波長の光を分離層に照射することにより、赤外線吸収物質を好適に変質させ得る。
【0119】
〔構造体の製造方法〕
モールド材からなるモールド材層を加熱して、当該モールド材層を構成するモールド材から気体を放出させる加熱工程を含む構造体の製造方法も本発明の範疇である。当該構造体は、例えば、加熱工程に供されたモールド材層が、上述した基板の上に載せられたものであってもよく、また、さらに上述した支持体等を積層させたものであってもよい。
【0120】
〔モールド材の処理方法の一実施形態〕
次に、図1を用いて、本発明に係るモールド材の処理方法の一実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係るモールド材の処理方法における処理の流れについて模式的に説明する概略の断面図である。本実施形態では、モールド材層に載置したチップに対して研磨を行ない薄化するという加工を行なう。
【0121】
図1の(a)に示すように、本実施形態ではモールド材層11は基板12上に設けられている。モールド材層11には複数のチップ(被加工部材)20が載置されている。
【0122】
ここで、モールド材層11、基板12及びチップ20を加熱工程に供する。これにより、モールド材層11からガスが発生する。
【0123】
次に、図1の(b)に示すように、サポートプレート(支持体)15を積層する。サポートプレート15には予め分離層14及び接着層13が設けられている。
【0124】
サポートプレート15をモールド材層11に積層するとき、熱圧着を行なう。仮に上述の加熱工程を行なっていなければ、ここでガスが発生して、サポートプレート15を十分に貼り付けることができないなどの悪影響が生じる。しかし、本発明においては加熱工程において予めガスをモールド材層11から放出しているので、このような悪影響を抑えることができる。
【0125】
次に、図1の(c)に示すように、基板12を剥がす。
【0126】
次に、図1の(d)に示すように、モールド材層11における基板12が設けられていた方の面の方を研磨する。これにより、チップ20が研磨され、チップ20を薄化させることができる。
【0127】
次に、図1の(e)に示すように、サポートプレート15のモールド材層11とは逆側の面に向けてレーザ光を照射する。これにより分離層14が変質して接着層13とサポートプレート15との接着力が低下する。
【0128】
次に、図1の(f)に示すように、サポートプレート15を剥がす。上述のように、分離層14にレーザ光を照射して変質させているので、サポートプレート15を接着層13上から容易に剥がすことができる。
【0129】
次に、図1の(g)に示すように、接着層13を構成する接着剤を溶解する溶媒等を用いて、接着層13を除去する。これにより、薄化されたチップ20が載置されたモールド材層11が得られる。ユーザは、チップ20を用いる際にモールド材層11から取り出して適宜使用することができる。
【0130】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上述の説明にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0131】
〔実施例1 熱伝導率の高い基板にモールド材が塗布されている場合〕
基板上にモールド材層を形成した。また、支持体側に接着剤を塗布してモールド材層上に貼り付けた。接着剤の膜厚は200μmとした。塗布時のベークは90℃、160℃、220℃を各12分で行なった後、塗布膜形成後の加熱工程は215℃で20分行ない、ガスを放出させた。貼付は1t、215℃で10分間押さえることにより行なった。貼付開始時の貼付チャンバ内の圧力は1.2Paであった。貼付開始後、予めガスを放出させていたので、ガスが発生せず、圧力は0.6Paまで下がった。
【0132】
〔比較例1〕
実施例1の加熱工程(塗布膜形成後の215℃で20分の加熱工程)を省いた以外は実施例1と同じ操作を行なった。
【0133】
貼付時にガスが発生するため、貼付チャンバ内の圧力が1.2Paのままか、又は、1.2Pa〜2.4Paの間になってしまい、減圧下で貼付けを行なうことができなかった。
【0134】
〔実施例2 熱伝導率の低い基板にモールド材が塗布されている場合〕
基板側のモールド材層上に接着剤を塗布して、接着剤層の膜厚は70μmとした。塗布時のベークは90℃、160℃、220℃を各6分行なった。塗布膜形成後の加熱工程は215℃で15分行ない、貼付は4t、215℃、10分押さえることにより行なった。これ以外の操作は実施例1と同じとした。貼付開始時の貼付チャンバの圧力は1.2Paであり、貼付開始後、ガスが発生しないため、0.6Paまで下がった。
【0135】
〔比較例2〕
実施例2の加熱工程(塗布膜形成後の215℃で15分の加熱工程)を省いた以外は実施例2と同じ操作を行なった。その結果、貼付時にガスが発生するため、貼付チャンバ内の圧力が1.2Paのままか、又は、1.2Pa〜2.4Paの間になってしまい、減圧下で貼付けを行なうことができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明に係るモールド材の処理方法は、例えば、微細化された半導体装置の製造工程において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0137】
11 モールド材層
12 基板
13 接着層
14 分離層
15 サポートプレート(支持体)
20 チップ(被加工部材)
図1