特許第6125969号(P6125969)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6125969殺菌パウチ、殺菌システム、殺菌方法および活性酸素種インジケータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6125969
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】殺菌パウチ、殺菌システム、殺菌方法および活性酸素種インジケータ
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/28 20060101AFI20170424BHJP
   A61L 2/26 20060101ALI20170424BHJP
   A61L 2/20 20060101ALI20170424BHJP
   A23L 3/3418 20060101ALI20170424BHJP
   A23L 3/00 20060101ALI20170424BHJP
   A61J 1/16 20060101ALI20170424BHJP
   A61L 101/10 20060101ALN20170424BHJP
【FI】
   A61L2/28
   A61L2/26
   A61L2/20 100
   A23L3/3418
   A23L3/00 101A
   A61J1/16 C
   A61L101:10
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-209900(P2013-209900)
(22)【出願日】2013年10月7日
(65)【公開番号】特開2015-73588(P2015-73588A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年4月13日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502110780
【氏名又は名称】ピエゾパーツ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000192
【氏名又は名称】岩崎電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100181537
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓之
(72)【発明者】
【氏名】野田 和俊
(72)【発明者】
【氏名】岩森 暁
(72)【発明者】
【氏名】早川 祐介
(72)【発明者】
【氏名】木下 忍
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 達行
(72)【発明者】
【氏名】吉野 潔
(72)【発明者】
【氏名】松本 裕之
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−226095(JP,A)
【文献】 特開昭56−132956(JP,A)
【文献】 特開2009−034269(JP,A)
【文献】 特表2006−518592(JP,A)
【文献】 特表2009−501592(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/035304(WO,A1)
【文献】 特開2009−098133(JP,A)
【文献】 特開平09−250979(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/024309(WO,A1)
【文献】 特開2003−102811(JP,A)
【文献】 実開昭51−025077(JP,U)
【文献】 特開2007−136035(JP,A)
【文献】 特開2005−315828(JP,A)
【文献】 特開2006−020669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00− 2/28
A61L 11/00−12/14
A61J 1/00−19/06
A23L 3/00− 3/3598
B65D 67/00−79/02
B65D 81/18−81/30
B65D 81/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を入れて密封される殺菌部と、
活性酸素種インジケータが設置されるインジケータ部とを有し、
該殺菌部は少なくともその一部に微生物およびウイルスを透過しない素材を含み、
該インジケータ部は少なくともその一部に微生物およびウイルスを透過しない素材を含み、
該インジケータ部は、向かい合う内表面間に設けられた、剛性を有する持ち上げ部材を有し、
該インジケータ部には活性酸素種インジケータを含み、
該活性酸素種インジケータは、
振動子と、
該振動子をはさんで上下に存在する活性酸素種との反応により質量が増加する電極層と、
を有することを特徴とする殺菌パウチ。
【請求項2】
被処理物を入れて密封される殺菌部と、
活性酸素種インジケータが設置されるインジケータ部とを有し、
該殺菌部は少なくともその一部に微生物およびウイルスを透過しない素材を含み、
該インジケータ部は少なくともその一部に微生物およびウイルスを透過しない素材を含み、
該インジケータ部は、向かい合う内表面間に設けられた、剛性を有する持ち上げ部材を有し、
該インジケータ部には活性酸素種インジケータを含み、
該活性酸素種インジケータは、
振動子と、
該振動子をはさんで上下に存在する電極層と、
該電極層上に存在する活性酸素種との反応により質量が減少する層と、
を有することを特徴とする殺菌パウチ。
【請求項3】
前記振動子は少なくとも1つの空孔を有する、請求項1または2に記載の殺菌システム。
【請求項4】
前記空孔は、前記振動子が支えられる点をとおりインジケータ長手方向と直行する直線と交わるように存在する、請求項3に記載の殺菌パウチ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の殺菌パウチと、前記活性酸素種インジケータから活性酸素種の存在量の値を読み取るリーダー部とを有する、活性酸素殺菌システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性酸素種による殺菌処理に用いる殺菌パウチ、この殺菌パウチを用いる殺菌システムおよび殺菌方法、ならびにこの殺菌システムおよび殺菌方法に用いる活性酸素種インジケータに関する。
【背景技術】
【0002】
医療、食品、微生物関連産業等では、微生物やウイルス等による汚染を防ぐため、殺菌または滅菌(以下単に殺菌と表す)が必須である。
被処理物を殺菌する方法として、高温高圧蒸気によるもの(オートクレーブ)、エチレンオキサイドガス(EOG)によるもの、γ線等の放射線によるもの等が知られている。しかし、オートクレーブはプラスチック製の容器のように高温では変形してしまうような製品の殺菌には用いることができない。また、EOGは変異原性、発がん性等の毒性を有するほか、爆発性を有するため、作業者の健康上および作業環境上の制約が大きく、かつ使用後の処理に時間がかかる。また、放射線を用いる方法では作業者への被爆を防ぐ必要があり、管理上の制約により装置が大型になってしまう。
【0003】
そのため、高温にする必要がなく、人体への被爆のおそれが少なく、より小型の装置で殺菌が可能な、活性酸素種を用いる殺菌方法が開発されている(特許文献1参照)。活性酸素種とは、酸素分子に放電や紫外線または放射線を照射して得られるもので、例えば、励起状態の酸素分子、オゾン(O)、酸素イオン(O、O、O、Oなど)、酸素ラジカル(原子状酸素、分子状酸素のラジカル)、過酸化水素(H)、ヒドロキシラジカル(・OH)等を含む反応性の高い酸素含有化合物の総称である。
特許文献1は、酸素を含むガスをチャンバー内に供給し、紫外線発生ランプから紫外線を照射することによってチャンバー内で活性酸素種を発生させて、被処理物を殺菌する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−275330号公報
【特許文献2】特開2009−98133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
殺菌の効果は、活性酸素種の濃度と処理時間との積の関数で表すことができると考えられる。ここで、特許文献1に記載の方法では、酸素を含むガスと紫外線とをチャンバー内で反応させることにより活性酸素種を発生させているが、発生する活性酸素種の量に関与するパラメータは多数存在するため、実際に発生する活性酸素種の量には設定した値からのずれが生じることを考慮する必要がある。活性酸素種の量にばらつきが生じると、当然に活性酸素種の濃度にも設定した値からのずれが生じることになる。このずれがある活性酸素種の濃度に処理時間を積算して殺菌の効果を推定すると、推定された効果にも事前に設定した程度からのずれが生じる可能性があるし、処理時間が長いほど殺菌の効果のずれは大きくなると考えられる。この殺菌効果のずれを防ぐため、活性酸素種量測定器(インジケータ)をチャンバー内に設けて、実際に発生した活性酸素種の量を測定し、測定された活性酸素種の値を処理時間と積算することで、より正確な殺菌効果の推定が可能となる。
【0006】
このとき、特に被処理物が病院で用いられる器具や食品等の場合は、より確実な殺菌が求められるため、なるべく被処理物の近傍にインジケータを設けることが望ましい。一方で、これらの被処理物は、殺菌した状態を保ったまま持ち運んだり保管したりすることもあるため、微生物およびウイルスを透過しないが活性酸素種は透過するような通気性素材からなる袋の内部に入れた状態で特許文献1に記載のような装置内に入れ、殺菌するとよい。
【0007】
ただし、微生物およびウイルスを透過しない通気性素材からなる袋の外部から内部へ活性酸素種が透過するとはいえ、活性酸素種の量は袋の内外で当然に異なる。そのため、たとえば、インジケータも袋の中に入れることでより正確に被処理物に接触した活性酸素種の量を測定することが可能になる。しかし、インジケータと被処理物とを同じ袋の内部に投入すると、使用者にとって作業が煩雑になる。そればかりでなく、処理前の投入時や処理後の持ち運び中にインジケータが被処理物と接触して被処理物が破損するおそれがあるし、処理中にインジケータの検出面が被処理物と接触することにより活性酸素種量の検出が妨げられたりする可能性もある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み、本発明は、被処理物を入れて密封される殺菌部と、活性酸素種の量を測定する活性酸素種インジケータが設置されるインジケータ部とを有し、該殺菌部は少なくともその一部に微生物およびウイルスを透過しない素材を含み、該インジケータ部は該殺菌部の占有空間の外部に設けられている、殺菌パウチに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、処理前にインジケータを被処理物が入った袋に投入する時や処理後の被処理物が入った袋の持ち運び中にインジケータが被処理物と接触して被処理物が破損する可能性を減少することができる。また、殺菌処理中にインジケータの検出面が被処理物と接触することにより活性酸素種量の検出が妨げられる可能性を減少することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る殺菌パウチを表す構成図。
図2】本発明の一実施形態に係るインジケータ部の構成を示す断面図。
図3】本発明の一実施形態に係る活性酸素種インジケータの(a)俯瞰図および(b)IIIb−IIIb線矢視断面を横から見た図。
図4】本発明の一実施形態に係る活性酸素種インジケータの振動子の構成を表す平面図。
図5】本発明の一実施形態に係る殺菌システムの構成を表す構成図。
図6】本発明の一実施形態に係る処理装置の構成を表す概念図。
図7】本発明の一実施形態に係る処理の手順を表すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態は、活性酸素種と接触する環境に置くことで、内部に侵入した活性酸素種により、その内部に置かれた被処理物を殺菌または滅菌するための殺菌パウチに関する。なお、本発明において殺菌とは、細菌およびバクテリア等の微生物ならびにウイルス等の数を減少することをいう。微生物またはウイルスがどの程度減少すれば殺菌が達成されたといえるかは、被処理物の種類や殺菌が行われる場面等によって異なるため、処理者が任意に定めてよい。ISO/TS1139によれば、「滅菌」という用語の厳密な定義は、「製品を生育可能な微生物が存在しない状態にするために用いる、バリデートされたプロセス」とあるが、確率論からいうと生育可能な微生物やウイルスの数をゼロにすることは不可能である。よって、本発明においては、滅菌を、無菌性保証水準(Sterility Assurance Level:SAL)において、SAL≦10−6、すなわち、被処理物(製品)に微生物の生存する確率が100万分の1以下である意として定義する。本発明においては、単に殺菌と表現した場合、殺菌および滅菌の両方を意味する。
【0012】
本発明の一実施形態に係る殺菌パウチを図1に示す。本実施形態に係る殺菌パウチ110は、殺菌部120、インジケータ部130および殺菌部120とインジケータ部130とを空間的に遮断する区画部140を有する。すなわち、区画部140は、殺菌部120とインジケータ部130との境界部である。よって、殺菌パウチ110は、区画部140により2つの空間(殺菌部120、インジケータ部130)を有する。この区画部140により、殺菌部120およびインジケータ部130は互いに対して空間的に隔離されている。被処理物160を殺菌部120の内部に入れ、活性酸素種インジケータ150をインジケータ部130に設置した状態で、殺菌パウチ110は活性酸素種と接触する環境に置かれる。
【0013】
殺菌部120は袋状の構成を有し、被処理物160を内部に入れた後に密封することが可能なように構成される。本発明でいう密封とは、内容物の流出または異物もしくは微生物もしくはウイルス等の混入がない、あるいはほとんどない状態であり、具体的には殺菌部120等を構成する素材同士が実質的に隙間なく接着された状態を意味する。被処理物160を殺菌部120の内部に入れるには、例えば、殺菌部120の一辺を開口部としてファスナーまたは粘着テープ等によって開閉可能な構造としてもよいし、開口部から非処理物160を内部に入れた後にヒートシール等によって開口部を密閉させてもよい。開閉可能な構造にすると、殺菌部を複数回使用することが可能になるし、一方でヒートシール等によって密閉させる構造にすると、殺菌後の微生物またはウイルスの混入をより確実に防止することができる。殺菌部120を密封することで、殺菌処理後、内部を殺菌状態に保ったまま被処理物160を持ち運びおよび保管することができる。
【0014】
殺菌部120は、微生物およびウイルスを透過しない素材を含む。このような素材として、後述する微生物およびウイルスを透過しない通気性素材のほか、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂等が挙げられる。微生物およびウイルスを透過しない素材を用いることで、殺菌処理後の持ち運び中または保管中に微生物またはウイルスが殺菌部120内に入り込むことを防ぐことができる。なお、本発明の一実施形態では、「微生物およびウイルスを透過しない素材」は、その名の通り、微生物およびウイルスを透過させないことが理想的であるが、品質保持に影響を与えない程度の量であれば、微生物またはウイルスを透過しても問題はない。すなわち、本発明における「微生物およびウイルスを透過しない、微生物およびウイルスを透過させない」とは、微生物およびウイルスを全く透過させないことを意図するものではなく、ユーザが品質が損なわれると認定する程度の量以上の微生物またはウイルスを透過しない、という意味である。
【0015】
また、殺菌部120は、少なくともその一部に微生物およびウイルスを透過しない通気性素材を含んでもよい。すなわち、活性酸素種は透過させるが、微生物およびウイルスは透過させない素材を、殺菌部120の少なくとも一部に設けてもよい。このような素材として、ポアサイズが0.5〜0.05μm、好ましくは0.2〜0.1μmの半透過膜、不織布、ポリウレタンやポリエチレン、ポリプロピレン等のフィルム素材等があげられる。通気性の素材とすることで、活性酸素種と接触する環境に置いたときに、活性酸素種が殺菌部120の内部に透過し、内部を殺菌することができる。殺菌部120の全てを通気性の素材としてもよいが、少なくとも一部を通気性の素材とすれば、殺菌処理中に活性酸素種がそこから殺菌部120の内部に拡散し、内部を殺菌することが可能であるため、その他の部分は通気性を有しなくてもよい。たとえば、装置内の活性酸素種雰囲気に暴露される面のみを不織布等の通気性素材とし、装置内に設置する際に装置と接触する面にはポリ塩化ビニル等の透明の素材を用いることができる。このように構成することで、持ち運びまたは保管をする際に透明の素材を用いた部分から内部を確認しやすくし、殺菌後の管理を容易にすることができる。
【0016】
インジケータ部130には活性酸素種インジケータ150を設置することができる。殺菌部120とは別にインジケータ部130を設けることで、殺菌パウチ110内における被処理物160とは別の空間にインジケータ150を設置することができる。インジケータ150と被処理物160とを同一の空間(殺菌部120の内部等)に入れると、インジケータと被処理物の接触によるインジケータ150または被処理物160の破損や、インジケータの検出面が被処理物により覆い隠されることによる検出不良等が生じるおそれがある。これに対して、本発明の一実施形態では、殺菌パウチ110を区画部140により殺菌部120とインジケータ部130とに区画し、被処理物160を殺菌部120内に設置し、インジケータ150を殺菌部120とは別空間であるインジケータ部130に設置することで、インジケータ150と被処理物160とが接触することによる破損や検出不良を低減することができる。特に医療機器、医療器具および微生物関連機器等は、わずかな破損によってもその性能が大きく損なわれる可能性があるし、食品もインジケータとの接触によって美観が損なわれることによってその価値を大きく減ずるおそれがある。また、これらの被処理物は、人体が直接接触または摂取するものであるため、より精確に殺菌の程度(活性酸素種の濃度と時間との積の関数で表すことができる)を測定することにより、人体への微生物やウイルス等の感染をより確実に低減することが期待される。なお、本発明に係る殺菌パウチ110の使用方法はここで述べた方法に限られるものではなく、使用の状況に応じて適宜変更することが可能である。たとえば活性酸素種インジケータ150は殺菌部120に設置してもかまわないし、殺菌部120およびインジケータ部130の両方に活性酸素種インジケータ150を設置するような使用方法も当然に許容される。
【0017】
本実施形態におけるインジケータ部130は、殺菌部120と同様に、活性酸素種を透過し、かつ微生物およびウイルスを透過しない通気性素材を含む密封された袋状であり、その内部にインジケータ150を収納する構成である。よって、外部から内部への活性酸素種の透過を殺菌部120とインジケータ部130とで同じ条件にして測定することができるため、より正確に殺菌部120の活性酸素種の量を推測することができる。このとき、外部の活性酸素種雰囲気と被処理物160とを隔てる殺菌部120の通気性素材の厚さと、外部の活性酸素種雰囲気とインジケータ150とを隔てるインジケータ部130の通気性素材の厚さとが同じようにすることで、殺菌部120内部およびインジケータ部130内部への活性酸素種の透過率を同等にして、より殺菌部120の内部とインジケータ部130の内部との間で活性酸素種の存在量を互いに近づけることができる。
【0018】
インジケータ部130は、殺菌部120から取り外し可能なように構成することができる。このような構成とすることにより、インジケータ150を殺菌部120とは別個に持ち運びすることが可能となる。よって、インジケータ150から活性酸素種の値を読み取るリーダーを殺菌装置から離れた場所に設置することできるため、より柔軟なシステムの構成が容易となる。
【0019】
本発明の一実施形態では、区画部140は、ヒートシールが施された領域である。例えば、活性酸素種を透過するが、微生物およびウイルスを透過しない通気性素材を含む袋を、区画部140の形成予定線に沿ってヒートシールすることにより、区画部140を境に、殺菌部120とインジケータ部130とを形成することができる。このとき、鋏などにより区画部140に沿って切断した場合、分離された殺菌部120およびインジケータ部130の双方とも切断部において密閉状態が保たれるようにヒートシールを施してもよい。すなわち、区画部140は、殺菌部120とインジケータ部130との分離が行なわれる領域であり、分離後に殺菌部120の区画部140に対応する領域において密閉が維持されるように、区画部140は殺菌部120とインジケータ部130とを結ぶ方向に幅員を持たせて構成されている。このような構成によれば、殺菌部120の密閉状態を保ったままインジケータ部130を取り外し可能になり、分離後の殺菌部120の内部を殺菌状態に保つことができる。たとえば、インジケータ部130と殺菌部120との間にヒートシールにより形成された区画部140にミシン目等をいれてもよい。これにより、殺菌部120とインジケータ部130との切断を容易に行うことができる。本実施形態においては、分離後にインジケータ部130の区画部140に対応する領域においても密閉が維持されるように、区画部140を殺菌部120とインジケータ部130とを結ぶ方向に幅員を持たせて構成することで、分離後の殺菌部120の内部も殺菌状態に保ったままインジケータ150をリーダーに持ち運ぶことができる。
【0020】
なお、インジケータ部130と殺菌部120とを容易に分離可能な構成とすることができれば、殺菌パウチ110はいかなる構造であってもよい。例えば、活性酸素種を透過するが、微生物およびウイルスを透過しない通気性素材を含む2つの袋状部材を用意し、一方の袋を殺菌部120とし、他方の袋をインジケータ部130とする。そして、これら2つの袋を、例えば粘着テープ等、上記2つの袋を接着および分離可能にさせる部材により接着させる。このような形態においては、上記粘着テープ等の部材が区画部140を構成する。
【0021】
なお、インジケータ部130と殺菌部120とは殺菌処理後に分離してもよいし、殺菌処理前に分離してもよい。殺菌処理前に分離する場合、分離したインジケータ部130と殺菌部120とは互いから近い距離に置いて殺菌処理をすると、それぞれの内部の条件を近づけることができる。また、区画部140を設けずに、初めから分離した状態で別個にインジケータ部130と殺菌部120とを製造し、使用することもできる。
【0022】
また、本発明の他の実施形態では、インジケータ部130の位置や形状は特に限定されるものではない。たとえば、殺菌部120の外表面を一部延伸させてその上にインジケータ150を載置するような構成とすることができる。殺菌部120の外表面上や前記延伸部上に樹脂等からなる載置部を設け、その上にインジケータ150を載せる構成としてもよい。また、活性酸素種を透過するが、微生物およびウイルスを透過しない通気性素材で殺菌部120またはその延伸部の外表面上を部分的に覆い、その中にインジケータ150を収納する構成としてもよい。すなわち、殺菌部120の外表面の一部にインジケータ150を載置し、カバー部としての、活性酸素種を透過するが、微生物およびウイルスを透過しない通気性素材(好ましくは、殺菌部120と同一の通気性素材)により、上記載置されたインジケータ150を覆う。殺菌状況の測定時においてこのカバー部を剥がせば、インジケータ150を殺菌パウチ110から取り外すことができる。
【0023】
インジケータ部130を袋状の構成または殺菌部120等の表面を通気性素材で覆った構成等にする場合、図2に示す断面図のように、剛性を有する持ち上げ部材210を向かい合う内表面間に設けて、インジケータ部130の内表面がインジケータに接触するのを防ぐことができる。持ち上げ部材210の高さは、インジケータの厚みよりも高くするとよい。特に、薄膜と活性酸素種との反応を振動子で検出するインジケータを用いる場合、持ち上げ部材210の高さは、インジケータ150の底面から、活性酸素種との反応で質量が減少または増加する材料の層330までの厚みよりも高くするとよい。持ち上げ部材210の形状は特に限定されないが、円柱、角柱、円錐、角錐、棒状のもの等を用いることができる。持ち上げ部材210の材料としては、活性酸素種の検出感度に影響するようなガスを排出せず、かつ活性酸素種と反応しないものであればよく、ポリテトラフルオロエチレン等の合成樹脂、ガラス、アルミナおよび窒化チタン等の無機化合物、ならびにアルミ、ステンレス、銅およびチタン等の金属等を用いることができる。持ち上げ部材210の個数は特に限定されず、1個のみを設けてもよいが、インジケータ150をはさむように複数の持ち上げ部材210を設けることで、より確実にインジケータ部130の内表面がインジケータに接触するのを防ぐことができる。
【0024】
インジケータ150は、活性酸素種の存在量を測定する。活性酸素種の測定方法としては、オゾン検知法、発光分光分析法、および活性酸素種との反応で引き起こされる薄膜の質量変化を振動子で検出する方法等が知られている。これらのうち、薄膜と活性酸素種との反応を振動子で検出する方法は、活性酸素種を構成する複数の酸素含有化合物を包括的に測定でき、かつ検出感度に優れている。
【0025】
この方法は、特許文献2に記載されているように、活性酸素種との反応で質量が減少または増加する材料の層を振動子の表面に形成し、質量の増加または減少による振動子の振動数(周波数)の変化を読み取ることで、活性酸素種の存在量を推定するものである。振動子としては、水晶振動子や、水晶振動子の一種であるSAW(surface acoustic wave)デバイス(表面弾性波素子)等を用いることができる。
【0026】
具体的には、インジケータ150は図3(a)およびそのIIIb−IIIb線矢視切断面における断面を横から見た図3(b)に示すような構成とすることができる。振動子310をはさんで上下の面に電極320が設けられており、電極320には金、白金もしくは耐酸化処理された金属層、または二酸化ケイ素などの無機材料層が上部に積層された金属層を用いることができる。さらに電極320の上には、炭素の同素体または炭化水素を含む化合物からなる、活性酸素種との反応によって質量が減少する有機系薄膜の層330を設けることができる。
【0027】
ここでいう炭素の同素体としては、カーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドおよびカーボンナノチューブなどから選ばれる単一の成分又はこれらの複合成分を用いることができる。薄膜層を形成する場合には、これら炭素の同素体を公知の真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、プラズマCVD法またはスピンコート法等の技術により形成する。特にカーボンナノチューブなどのナノ構造の炭素同素体の薄膜層を振動子310上の不活性な電極層320上に安定して形成する場合には、まずニッケル(Ni)やコバルト(Co)などの金属触媒を形成した上で、熱CVD法などでナノカーボン構造を形成する方法が公知の技術として知られている。
【0028】
また、炭化水素を含む化合物としては、炭化水素を含む化合物をポリマー化して形成されるポリマー、特にポリイミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメチルジシロキサン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン、ポリカーボネートおよびポリ四フッ化エチレンを挙げることができる。これらのうち、ポリイミド、ポリエチレンまたはポリ四フッ化エチレンを用いると形成が容易であり、また材料も入手しやすい。これらの材料からなる層330は、例えばディップコート法、スピンコート法、蒸着重合法またはスパッタリング法等の公知の技術により形成することができる。
【0029】
これらの材料は、活性酸素種と反応して一酸化炭素(CO)または二酸化炭素(CO)のような揮発性有機物として飛散したり、または活性酸素種の力学的な衝突によって物理的エッチングされたりすることにより、活性酸素種の存在量に比例してその質量が減少する。
【0030】
また、図3(b)において、層330を設けずに、電極320を活性酸素種との反応により質量が増加する層としてもよい。このような電極320の材料としては、銀(Ag)と白金(Pt)、銀(Ag)とパラジウム(Pd)、銀(Ag)とロジウム(Rh)、または銀(Ag)と銅(Cu)等による任意の組成比の合金を用いることができる。
【0031】
このような構成のインジケータ150によれば、層330または電極320の質量が殺菌に用いられた活性酸素種の存在量に比例して増加または減少する。これらの層の質量が増加すると振動子の周波数は減少し、これらの層の質量が減少すると振動子の周波数は増加するため、処理前の周波数と殺菌後の周波数とを比較することにより、殺菌に用いられた活性酸素種の存在量を高感度で推定することができる。
【0032】
なお、インジケータ150を取り外す際に側面をつまむと、振動子310に横方向(振動子310の厚みと直交する方向)の応力が付加され、振動子310が撓んでしまい、それによって振動子310上に設置された上記活性酸素種との反応で質量が減少または増加する材料の層330等の厚さも変化するおそれがある。これらの層の厚さが変わると振動子の周波数も変化してしまい、測定値に狂いが生じてしまうおそれがある。
【0033】
これに対し、本発明の一実施形態では、図4に示すように、振動子310の、活性酸素種の存在量に比例して質量が増加または減少する部分(層320または層330)の周囲に空孔410を少なくとも1つ設けている。この空孔410は、振動子310の内側への応力を緩和させ、外部から層330への応力伝播を低減させるように機能する。よって、空孔410により、例えば、インジケータ150を取り外す際の応力により層320または層330が撓むことを防止、ないしは低減することができ、測定値の変化を防ぐ、ないしは低減することができる。例えば、図4のように、活性酸素種との反応で質量が減少または増加する材料の層を通りインジケータ150の側面を結ぶ直線上を空孔が占めるように、円弧状、円状、または多角形状等の形状の空孔410を設けるとよい。
【0034】
インジケータ150は、活性酸素種の存在量をデジタルデータに変換する変換部と、後述するリーダー510に測定した活性酸素種の存在量のデータを送信する送信部を有してもよい。送信部は、例えば、リーダーとの間で振動子の周波数を送受信する通信機能を備えていてもよい。このような構成とすることで、インジケータ150が活性酸素種の存在量を測定する際に、インジケータ150とリーダー510とを分離可能に構成して、リーダー510から離れた場所で活性酸素種の存在量を測定できるようになるため、より柔軟なシステムの構成が容易となる。
【0035】
なお、インジケータ150を測定した活性酸素種の存在量に応じて変色するような構成とすることで、より容易に活性酸素種の存在量および殺菌の効果を測定することもできる。
【0036】
本発明の一実施形態において、殺菌パウチ110は例えば図5に例示するような殺菌システムに用いることができる。図5に示す殺菌システムにおいて、殺菌パウチ110を処理室10内に設置した後、真空ポンプ70により、チャンバー10内の圧力を減じる。その後、酸素供給装置20から酸素を含むガスをチャンバー10内に供給すると共に、紫外線発生ランプ40および50を点灯し、チャンバー10内に活性酸素種を発生させる。その際、マスフローコントローラ30で供給する酸素を含むガスの量を調節してもよい。また、送風ファン60を回転させて活性酸素種をチャンバー内に充満させてもよい。また、チャンバー10内のガスを排気するときに残留オゾンが外部に排出されるのを防止するため、真空ポンプ70とチャンバー10との間にマンガン系の金属触媒等のオゾン分解触媒80を設けてもよい。ただし、以下に記載するような処理が可能であれば、殺菌装置の構成はこれに限定されるものではない。
【0037】
本発明の殺菌パウチ110を活性酸素種と接触する環境に置くことで、殺菌部120内に活性酸素種が透過し、殺菌部内の被処理物160を殺菌する。その際、インジケータ150は活性酸素種と接触する環境の活性酸素種の存在量を測定する。一定時間経過後または一定の回数の殺菌処理後、鋏などを用い区画部140に沿ってインジケータ部130を殺菌パウチ110から切り取り、分離したインジケータ部130を殺菌装置とは別個に設けられたリーダー510まで移動させる。次いで、インジケータ部130からインジケータ150を取り出し、取り出されたインジケータ150をリーダー510の読み取り部にセットするかまたはリーダーとの間で赤外線等による通信を行い、リーダー510で測定された活性酸素種の量を読み取る。読み取られた活性酸素種量は処理装置520に転送される。処理装置520は活性酸素種量を予め求めていた関数にあてはめて、どの程度の殺菌効果があったかを推定する。推定された殺菌の程度が十分であると判定されれば、殺菌は完了となる。推定された殺菌の程度が不十分であると判定された場合、殺菌部120は活性酸素種と接触する環境に再び置かれ、再度の殺菌が行われる。このとき、新しいインジケータ150を用いて追加の殺菌中の活性酸素種の量を測定してもよい。前回までの殺菌中の活性酸素種の量と新たに行った殺菌中の活性酸素種の量を合算することで、累積した殺菌効果を推測することができる。
【0038】
本発明の一実施形態において、処理装置520は図6に例示される構成を有し、図7に例示されるようなフローチャートに従って処理を行う。
【0039】
ステップS1で、取得部610はインジケータ150の送信部から送られた活性酸素種の存在量のデータを受信する。ステップS2で、処理者は、入力部620を介して殺菌処理を行った時間を処理装置520に入力する。なお、ステップS1とS2との順番はいずれが先でもかまわない。
【0040】
ステップS3で、殺菌判定部630は、活性酸素種の存在量および処理時間と殺菌処理の程度との対応を表すテーブルをメモリ640から読み出し、取得部610が受信した活性酸素種の存在量のデータおよび入力部620から入力された処理時間のデータをこのテーブルに代入する。テーブルとしては、たとえば、活性酸素種の存在量と殺菌処理に必要な処理時間との関数を示したものや、活性酸素種の存在量と処理時間との積がどの程度であれば殺菌が完了したといえるかを示すものを用いることができる。テーブルは、事前の計算や予備実験等によって求めておくことができる。
【0041】
ステップS4で、殺菌判定部630は、代入した結果を参照し、所望の殺菌効果があったと見込まれるかを判断する。たとえば、テーブルが活性酸素種の存在量と殺菌処理に必要な処理時間との関数を示したものである場合には、殺菌判定部630は、取得部610で取得した活性酸素種の存在量に対して必要な処理時間が入力部620から入力されたかを判定し、十分な処理時間が入力されていれば殺菌効果があったと見込まれ、処理時間が不足していれば殺菌効果がなかったと見込まれると判断する。あるいは、殺菌判定部630は、入力部620から入力された処理時間に対して取得部610で取得した活性酸素種の存在量は必要な量だったかを判定し、活性酸素種の存在量が十分であれば殺菌効果があったと見込まれ、活性酸素種の存在量が不十分であれば殺菌効果がなかったと見込まれると判断する。また、テーブルが活性酸素種の存在量と処理時間との積に対して殺菌が完了したかどうかを示すものであるときは、殺菌判定部630は活性酸素種の存在量と処理時間との積を計算し、計算結果をテーブルにあてはめて、殺菌効果があったかどうかを判断する。
【0042】
さらに、殺菌判定部630は、所望の殺菌効果があったと見込まれるときは、殺菌判定部は殺菌が完了したと判定し(ステップS5)、所望の殺菌効果がなかったと見込まれるときは、殺菌判定部は殺菌が完了していないと判定する(ステップS6)。
【0043】
ステップS7で、表示部650は判定の結果を表示する。
【0044】
なお、本発明の実施形態は上記した内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を変更することがない限り、種々の改変が許容されることはいうまでもない。たとえば、本発明の殺菌部120にアンモニア検出インジケータ等の別の素子を搭載すれば、保管中にアンモニア等の有害な物質が混入したかを使用前に確認することが可能となる。
【0045】
また、本発明に係る殺菌パウチは図5に示すような殺菌システムでの使用に限定されるものでもない。たとえば、殺菌部120の一部を開閉可能とするか、あるいはノズル差込口を設けて、殺菌部120の内部にノズルを差し込んで活性酸素種を内部に直接注入することによって殺菌をしてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7