【実施例】
【0058】
<クロロエテン類の分解実験1>
〔分解促進剤の製造1〕
<柑橘類抽出物の製造>
〔製造例1〕
温州みかんをよく水洗した後、剥皮し、果皮(乾燥重量100g)をディスクミルにて粉砕後、60℃の温水2000mlで1時間攪拌抽出した。これを濾過し、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮後、真空乾燥機によって乾燥して、温州みかんの果皮温水抽出物(約10g)を得た。得られた果皮温水抽出物をそのまま本発明の分解促進剤Aとした。
【0059】
〔製造例2〕
製造例1で得られた果皮温水抽出物100質量部に対し、粉末酵母エキス50質量部及び果糖50質量部を添加し均質に混合し、これを本発明の分解促進剤Bとした。
【0060】
〔製造例3〕
抽出に用いる60℃の温水に代えて、98℃の熱水を用いた以外は製造例1と同様にして、本発明の分解促進剤Cを得た。
【0061】
〔製造例4〕
温州みかんに代えてバレンシアオレンジを用いた以外は製造例1と同様にして、本発明の分解促進剤Dを得た。
【0062】
〔製造例5〕
温州みかんに代えてグレープフルーツを用いた以外は製造例1と同様にして、本発明の分解促進剤Eを得た。
【0063】
〔製造例6〕
温州みかんに代えてレモンを用いた以外は製造例1と同様にして、本発明の分解促進剤Fを得た。
【0064】
〔分解促進剤の評価方法1〕
<細菌液の作成>
(分解促進剤A〜Fについて)
以下に示すミネラル基礎培地に酵母エキスを0.1g/Lとなるように加えた培地50mLを100mL容ガラス製バイアル瓶に採り、窒素置換後、オートクレーブで滅菌処理した後、クロロエテン類により汚染された土壌から採取した地下水25mLを加え、窒素置換後、水素2.5mLおよびシス−1,2−ジクロロエチレン0.58μL(10mg/Lに相当)を封入し、20℃で暗所静置培養した。定期的にヘッドスペース中のクロロエテン類を測定し、クロロエテン類が検出されなくなった時点で1mLを採取し、酵母エキス0.1g/L添加オートクレーブ済みミネラル基礎培地75mLに植え継いだ。この継代培養を6回行ったものを「細菌液」とし、下記のクロロエテン類の分解実験に使用した。
【0065】
<ミネラル基礎培地(pH 7.0〜7.5)の製造>
下記Salt stock solutionを10ml、下記Trace element solution Aを1ml、下記Trace element solution Bを1ml、レザズリンナトリウム溶液(0.5 %w/v)を50μl、酢酸ナトリウムを0.1g、L−システイン塩酸塩一水和物を0.3g、炭酸水素ナトリウムを2.52g、硫化ナトリウム九水和物を0.048gを1000mlにフィルアップし、これをミネラル基礎培地とした。
【0066】
<Salt stock solutionの製造>
下記の成分を水で溶解し1000mlにフィルアップし、Salt stock solutionとした。
100gNaCl, 50 g MgCl
2・6H
2O, 20 g KH
2PO
4,30g NH
4Cl, 30 g KCl, 1.5 g CaCl
2・2H
2O
【0067】
<Trace element solution Aの製造>
下記の成分を水で溶解し1000mlにフィルアップし、Trace element solution Aとした。
10mLHCl(25 % solution, w/w), 1.5 g Fe Cl
2・4H
2O, 0.19g CoCl
2・6H
2O, 0.1 g MnCl
2・4H
2O, 70 mg Zn Cl
2, 6 mg H
3BO
3,36mg Na
2MoO
4・2H
2O, 24mgNiCl
2・6H
2O, 2 mg CuCl
2・2H
2O
【0068】
<Trace element solution Bの製造>
下記の成分を水で溶解し1000mlにフィルアップし、Trace element solution Bとした。
6mgNa
2SeO
3・5H
2O, 8 mg Na
2WO
4・2H
2O, 0.5 g NaOH
【0069】
<クロロエテン類の分解実験1>
〔実施例1〕
クロロエテン類により汚染された地下水を想定し、下記の方法により、分解試験を行なった。
上記ミネラル基礎培地75mlをガラス製100ml容のバイアル瓶に採り、上記分解促進剤Aを0.1g/Lとなるように添加し、窒素置換後オートクレーブで滅菌処理した。冷却後、上記細菌液を1.5ml加え、窒素置換後、シス−1,2−ジクロロエチレン(c−DCE)を10μg/mlとなるように封入した。
このバイアル瓶を20℃にて静置培養を行った。0、3、10、18、24、36、45、49、59、66、75、84、87日後にバイアル瓶のヘッドスペース中のシス−1,2−ジクロロエチレン(c−DCE)含量、ビニルクロライド(VC)含量、エチレン含量をガスクロマトグラフィーで測定した。
【0070】
実験結果について、まず、0〜87日目までのシス−1,2−ジクロロエチレン(c−DCE)含量、ビニルクロライド(VC)含量、エチレン含量の消長を
図1に示す。
また、微生物の活性化は、初期に起こると考えられることから、18日目までの、c−DCE含有量の1日あたりの減少量を初期分解速度として表1に示した。
【0071】
〔実施例2〕
分解促進剤A0.1g/Lに代えて分解促進剤Bを0.2g/Lとなるように添加した以外は実施例1と同様にしてクロロエテン類の分解実験を行い、結果を
図2、及び、表1に記載した。
【0072】
〔比較例1〕
分解促進剤A0.1g/Lを無添加とした以外は実施例1と同様にしてクロロエテン類の分解実験を行い、結果を
図3、及び、表1に記載した。
【0073】
〔比較例2〕
分解促進剤B0.2g/Lを無添加とし、酵母エキス0.05g/L及び果糖0.05g/Lを添加した以外は実施例2と同様にしてクロロエテン類の分解実験を行い、結果を
図4、及び、表1に記載した。
【0074】
〔実施例3〕
分解促進剤A0.1g/Lに代えて分解促進剤Cを0.1g/Lとなるように添加した以外は実施例1と同様にしてクロロエテン類の分解実験を行なった。ただしサンプリングは0、3、10、18日目までとし、18日目までの、c−DCEの含有量の1日あたりの減少量を実施例1と同様に算出して初期分解速度として表1に示した。
【0075】
〔実施例4〕
分解促進剤A0.1g/Lに代えて分解促進剤Dを0.1g/Lとなるように添加した以外は実施例1と同様にしてクロロエテン類の分解実験を行なった。尚サンプリングは実施例3同様の期間として初期分解速度のみを算出し、結果を表1に記載した。
【0076】
〔実施例5〕
分解促進剤A0.1g/Lに代えて分解促進剤Eを0.1g/Lとなるように添加した以外は実施例1と同様にしてクロロエテン類の分解実験を行なった。尚サンプリングは実施例3同様の期間として初期分解速度のみを算出し、結果を表1に記載した。
【0077】
〔実施例6〕
分解促進剤A0.1g/Lに代えて分解促進剤Fを0.1g/Lとなるように添加した以外は実施例1と同様にしてクロロエテン類の分解実験を行なった。尚サンプリングは実施例3同様の期間として初期分解速度のみを算出し、結果を表1に記載した。
【0078】
【表1】
※単位=(μg/l/day)
【0079】
比較例1の結果(
図3)から明らかなように、基本培地のみの場合は87日目になってもc−DCEが残存し、VCも上昇傾向にあり、エチレンの発生が見られないという具合に、クロロエテン類の分解はほとんど進行しなかった。
【0080】
それに対し、実施例1(
図1)、実施例2の結果(
図2)から明らかなように、本発明の分解促進剤を添加したサンプルでは、50日目においてc−DCEがほとんど分解され、87日目でc−DCE、VC共、ほぼ完全に分解された。
【0081】
なお、実施例2(
図2)と比較例2(
図4)との比較から明らかなように、従来の栄養剤である酵母エキスと果糖を使用したサンプルに対し、該栄養成分に本発明の分解促進剤を追加添加することにより、c−DCEがより速やかに分解され、とくに18〜50日目での分解速度が大きく上昇した。同様にVCも最大の濃度を示す日が59日目(比較例2、
図4)から24日目(実施例2、
図2)になることから、従来の栄養剤に本発明の分解促進剤を追加添加することで、初期の分解速度を大きく高めることができることが確認できた。
【0082】
また、表1から明らかなように、本発明の分解促進剤を添加することにより、初期の分解速度が大きく上昇することがわかる。
なお、従来の栄養剤である酵母エキスと果糖を使用したサンプルでも一定の分解速度向上効果はあるが、実施例1、3〜6と比較例2との比較から明らかなように、本発明の分解促進剤を用いた場合の方が、分解促進効果が高かった。さらに、実施例2の結果から、本発明の分解促進剤を追加添加することにより、初期の分解速度が大きく上昇することがわかる。
【0083】
〔実施例7及び比較例3〕
クロロエテン類により汚染された土地を想定し、下記の方法により、分解試験を行なった。
1L容ねじ口瓶に、トリクロロエチレンにより汚染された土地から採取した土壌を700g、同じ場所から採取した地下水を300g入れ、上記細菌液5mLを加えた後、分解促進剤A 0.2gと酵母エキス0.2gを50mLの蒸留水に溶解させたのち加え、窒素置換してから、暗所室温で静置培養した。定期的にヘッドスペース中のクロロエテン類(トリクロロエチレン、c−DCE、VC)の濃度及びエチレンの濃度をガスクロマトグラフィーにより測定した。汚染土および地下水に含まれていたトリクロロエチレンを始めとするクロロエテン類は、全て120日後には環境基準値(トリクロロエチレン=0.03mg/l、ジクロロエチレン=0.04mg/l、VC=0.002mg/l)以下となった。結果を
図5に示した。ここで、分解促進剤Aの代わりにフルクトース0.2gを添加した場合(比較例3)は、150日間経過してもまだVCが地下水環境基準値以上残っており、土地の浄化が不可能であった。結果を
図6に示した。
【0084】
<クロロエテン類の分解実験2>
〔分解促進剤の製造2〕
〔製造例7〜16〕
(1)成分としてグリセリン、(2)成分として脱脂粉乳及び/又は酵母エキス粉末、(3)成分としてビタミンB12製剤を、表2の記載にしたがって混合し、分解促進剤G〜Pを得た。なお、得られた分解促進剤のうちG〜N及びPはペースト状、Oは粉末状であった。
なお、(1):(2)の含有量比、及び、(1):(3)の含有量比についても表2に記載した。
得られた分解促進剤G〜Pについては、下記の分解促進剤の評価方法に従って評価を行い、結果について表2に記載した。
【0085】
〔分解促進剤の評価方法2〕
<細菌液の作成>
上記ミネラル基礎培地に酵母エキスを0.1g/Lとなるように加えた培地50mLを100mL容ガラス製バイアル瓶に採り、窒素置換後、オートクレーブで滅菌処理した後、クロロエテン類により汚染された土壌から採取した地下水25mLを加え、窒素置換後、水素2.5mLおよびシス−1,2−ジクロロエチレン0.58μL(10mg/Lに相当)を封入し、20℃で暗所静置培養した。定期的にヘッドスペース中のクロロエテン類を測定し、クロロエテン類が検出されなくなった時点で1mLを採取し、酵母エキス0.1g/L添加オートクレーブ済みミネラル基礎培地75mLに植え継いだ。この継代培養を6回(ただし6回目のみ酵母エキス無添加とした)行ったものを「細菌液」とし、下記のクロロエテン類の分解実験に使用した。
【0086】
<クロロエテン類の分解実験2>
〔実施例8〜14、比較例4〜6〕
クロロエテン類により汚染された地下水を想定し、下記の方法により、分解試験を行なった。
上記ミネラル基礎培地75mlをガラス製100ml容のバイアル瓶に採り、上記分解促進剤G〜Pを各0.3g/Lとなるように添加し、窒素置換後オートクレーブで滅菌処理した。冷却後、上記細菌液を1.5ml加え、窒素置換後、シス−1,2−ジクロロエチレン(c−DCE)を10μg/mlとなるように封入した。
このバイアル瓶を20℃にて静置培養を行った。定期的にバイアル瓶のヘッドスペース中のc−DCE含量、VC含量、エチレン含量をガスクロマトグラフィーで測定した。実験結果については、c−DCE含量、及び、VC含量が地下水環境基準値以下、すなわちc−DCEが0.04mg/L以下、かつ、VCが0.002mg/L以下になった時点までの日数を「分解までに要した日数」として表2に記載した。
なお、分解促進剤無添加の場合についても比較例7として同様に実験を行い、結果を表2に記載した。
【0087】
【表2】
【0088】
表2の結果からわかるように、(1)〜(3)成分を含有する実施例8〜14の分解促進剤を使用した場合は、クロロエテン類を完全に分解するまでの日数が31日以下であるのに対し、(1)成分を含有しない比較例4は48日、(2)成分を含有しない比較例5は45日であり、(3)成分を含有しない比較例6は40日であり、分解速度が極めて低いことがわかる。
【0089】
なお、分解促進剤を使用しない場合(比較例7)は100日目でもクロロエテン類の分解は完了していなかった。
【0090】
また、(2)成分として脱脂粉乳及び/又は酵母エキスを使用した実施例9、11、12を比較するとわかるように、酵母エキスのみを使用した実施例11よりも、脱脂粉乳を使用した実施例9の方が分解速度が高く、脱脂粉乳と酵母エキスを併用した実施例12が最も分解速度が高いことがわかる。
【0091】
なお、ビタミンB12の含有量を種々可変させた実施例9、13、14を比較するとわかるように、グリセリン1質量部に対するビタミンB12の配合量が0.00001〜0.001質量部の範囲内であれば分解速度に差異は生じないことがわかる。
【0092】
〔実施例15〕
クロロエテン類により汚染された土地を想定し、下記の方法により、分解試験を行なった。
1L容ねじ口瓶に、トリクロロエチレンにより汚染された土地から採取した土壌を700g、同じ場所から採取した地下水を300g入れ、上記細菌液5mLを加えた後、分解促進剤E 0.5gを50mLの蒸留水に溶解させたのち加え、窒素置換してから、暗所室温で静置培養した。定期的にヘッドスペース中のクロロエテン類(トリクロロエチレン、c−DCE、VC)の濃度及びエチレンの濃度をガスクロマトグラフィーにより測定した。汚染土および地下水に含まれていたトリクロロエチレンを始めとするクロロエテン類は、全て150日後には環境基準値(トリクロロエチレン=0.03mg/l、ジクロロエチレン=0.04mg/l、VC=0.002mg/l)以下となった。結果を
図7に示した。
【0093】
<クロロエテン類の分解実験3>
〔分解促進剤の評価方法3〕
<細菌液の作成>
上記ミネラル基礎培地に酵母エキスを0.1g/Lとなるように加えた培地50mLを100mL容ガラス製バイアル瓶に採り、窒素置換後、オートクレーブで滅菌処理した後、テトラクロロエチレン(PCE)により汚染された土壌から採取した地下水25mLを加え、窒素置換後、水素2.5mLおよびPCE 0.46μL(10mg/Lに相当)を封入し、20℃で暗所静置培養した。定期的にヘッドスペース中のクロロエテン類を測定し、クロロエテン類が検出されなくなった時点で1mLを採取し、酵母エキス0.1g/L添加オートクレーブ済みミネラル基礎培地75mLに植え継いだ。この継代培養を3回行ったものを「細菌液」とし、下記のクロロエテン類の分解実験に使用した。
【0094】
〔実施例16〜18〕
クロロエテン類により汚染された地下水を想定し、下記の方法により、分解試験を行なった。
上記ミネラル基礎培地75mlをガラス製100mlのバイアル瓶に採り、上記分解促進剤A(実施例16)、上記分解促進剤G(実施例17)、上記分解促進剤Aと上記分解促進剤Gの等量混合物(実施例18)をそれぞれ0.2g/Lとなるように添加し、窒素置換後オートクレーブで滅菌処理した。冷却後、上記細菌液を1.5ml加え、窒素置換後、テトラクロロエチレン(PCE)を10μg/mlとなるように封入した。
このバイアル瓶を20℃にて静置培養を行った。0、3、10、18、24、36、45、49、59、66、75、84、87日後にバイアル瓶のヘッドスペース中の各種クロロエテン類、すなわちPCE、TCE、c-DCE、t-DCE、1,1-DCE、VC含量およびエチレン含量をガスクロマトグラフィーで測定した。
【0095】
実験結果について、クロロエテン類の含量が地下水環境基準値以下、すなわちPCEが0.01mg/L以下、TCEが0.03mg/L以下、cDCEおよびt-DCEが0.04mg/L以下、1,1-DCEが0.02mg/L以下、VCが0.002mg/L以下になった時点までの日数を「分解までに要した日数」として表3に示した。
また、微生物の活性化は、初期に起こると考えられることから、18日目までの、PCE含量の1日あたりの減少量を初期分解速度として表3に示した。
【0096】
【表3】