特許第6126588号(P6126588)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6126588
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤
(51)【国際特許分類】
   A62D 3/02 20070101AFI20170424BHJP
   B09C 1/10 20060101ALI20170424BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20170424BHJP
   C02F 3/00 20060101ALI20170424BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20170424BHJP
   A62D 101/22 20070101ALN20170424BHJP
【FI】
   A62D3/02ZAB
   B09B3/00 E
   C02F3/34 Z
   C02F3/00 D
   C12N1/20 D
   C12N1/20 F
   A62D101:22
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-511224(P2014-511224)
(86)(22)【出願日】2013年4月16日
(86)【国際出願番号】JP2013061334
(87)【国際公開番号】WO2013157556
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2016年2月10日
(31)【優先権主張番号】特願2012-95108(P2012-95108)
(32)【優先日】2012年4月18日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-95109(P2012-95109)
(32)【優先日】2012年4月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(72)【発明者】
【氏名】小池 誠治
(72)【発明者】
【氏名】柴▲崎▼ 淳二
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 恵美
【審査官】 松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−153257(JP,A)
【文献】 特開2005−087980(JP,A)
【文献】 特開2008−290026(JP,A)
【文献】 特開2011−025137(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/148509(WO,A1)
【文献】 特開2005−288276(JP,A)
【文献】 特開2009−241004(JP,A)
【文献】 特開2005−185870(JP,A)
【文献】 特開2010−104962(JP,A)
【文献】 米国特許第05968360(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0318303(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62D 3/02
A62D 101/22
B09C 1/10
C02F 3/00
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(および(C)のうち、1種又は2種を含有してなることを特徴とする揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解の分解促進剤。
(B) 柑橘類の果皮から得られる30〜100℃の温水抽出物
(C) 下記(1)〜(3)のすべてを含有する配合物
(1) グリセリン
(2) 前記(1)のグリセリン1質量部に対し固形分として0.1〜3質量部である乳蛋白質及び/又は酵母エキス
(3) 前記(1)のグリセリン1質量部に対し0.00001〜0.001質量部であるビタミンB12
【請求項2】
請求項1記載の分解促進剤を有効成分として含有することを特徴とする揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤組成物。
【請求項3】
揮発性有機ハロゲン化合物を含む土壌及び/又は地下水に、請求項1記載の分解促進剤、または、請求項記載の分解促進剤組成物を接触させることを特徴とする微生物による揮発性有機ハロゲン化合物の分解を促進する方法。
【請求項4】
揮発性有機ハロゲン化合物が、有機塩素系化合物である請求項記載の方法。
【請求項5】
有機塩素系化合物が四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、モノクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、トランス−1,2−ジクロロエチレン、1,3−ジクロロプロペン、テトラクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ビニルクロライドからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項記載の方法。
【請求項6】
微生物がClostridium属細菌、Dehalobacter属細菌、Dehalococcoides属細菌、Dehalospirilum属細菌、Desulfobacterium属細菌、Desulfomonas属細菌、Desulfomonile属細菌からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤及び分解促進方法に関し、詳しくは、微生物による揮発性有機ハロゲン化合物の分解を促進することが可能な分解促進剤、および、それを用いた分解促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土地の土壌や地下水は、天然あるいは人工のさまざまな化学物質により汚染されている場合がある。このような土地の汚染は、その土地を食糧生産のための農地として使用する場合はもちろん、居住や商業利用を企図する場合にも大きな問題となる。
【0003】
しかし、直接口にする飲食物や、肌に接触する衣類・化粧品・装身具などと異なり、土地の汚染、とくに土壌汚染はあまり関心が払われることなく、過去には化学物質が穴を掘って埋め立て処理されたりする例もあった。
このような土地の汚染の浄化は最近になって大きな問題となっており、それに対して様々な浄化処理方法が提案され実行されてきた。
【0004】
この土地の浄化方法を大きく分類すると、高温加熱により化学物質を分解したり活性炭に吸着させるなどの物理的処理、化学反応により化学物質を無害化する化学的処理、化学物質を分解する能力を有する微生物を利用する微生物浄化法、そして、化学物質を吸収あるいは吸着する能力を有する植物を利用する植物浄化法の4種に分類することができる。
【0005】
なかでも、微生物や植物を用いる方法は環境への配慮やコストを抑えることが可能である点で最近注目を集めるところであり、微生物を利用する浄化方法は「バイオレメディエーション」、植物を利用する浄化方法は「ファイトレメディエーション」とも言われ、さまざまな研究開発が行われており、処理可能な土壌体積が大きいことから、バイオレメディエーションの研究開発が活発化している。
【0006】
バイオレメディエーションには2つの技術がある。ひとつは、対象汚染物質の分解に効果を発揮することが予め確認されている微生物を汚染場所に適用する技術であり、バイオオーグメンテーションといわれる。もうひとつは、汚染場所の土着微生物に酸素や栄養源を与えることで、微生物の働きを活性化させ、浄化作用を促す技術であり、バイオスティミュレーションといわれる。
【0007】
また、バイオレメディエーションには2つの工法がある。ひとつは、汚染された土壌や地下水を除去し、別の場所で処理する工法であり、「施設型処理」と言われる。もうひとつは、その場所において汚染された土壌や地下水を浄化する工法であり、「原位置浄化」と呼ばれる。
【0008】
近年大きな問題となっている汚染物質としてテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン、ダイオキシン類、ポリ塩素化ビフェニル類などの有機塩素化合物に代表される有機ハロゲン化合物がある。なかでもテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレンなどの揮発性有機ハロゲン化合物は、呼吸を通して人体への影響が懸念されることから早急な対応が必要とされる場面が多く見られるようになってきている。
【0009】
この揮発性有機ハロゲン化合物は、土壌に浸透しやすく、地下水脈にまで到達してしまい、広範囲に汚染が拡大しやすい。このような揮発性有機ハロゲン化合物を分解する土壌微生物も存在するが、一般に土壌は表面に近いほど有機物が多く土壌微生物も多く存在しているが、表層から深部に向かうにつれ有機物も土壌微生物も減少し、1m以上深くなると微生物の活性は表層の1/100以下にまで減少してしまう。これらの事情により、一度揮発性有機ハロゲン化合物に汚染された土地は長期間にわたり比較的低濃度で広範囲に汚染されたままになってしまうという問題がある。
【0010】
このような比較的低濃度で広範囲に汚染された土地の浄化はバイオレメディエーションが有効な手段であることから、揮発性有機ハロゲン化合物による汚染の浄化を目的とした提案が各種行われている。
【0011】
例えば、ポリ乳酸とグリセリン、キシリトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール等の多官能アルコールとのエステルを含む組成物を利用したバイオスティミュレーション(例えば特許文献1参照)、酵母、脂肪酸、炭水化物等を含む組成物を利用したバイオスティミュレーション(例えば特許文献2参照)、アミノ酸とオキシカルボン酸の縮合反応生成物を利用したバイオスティミュレーション(例えば特許文献3参照)が提案されている。なお、非特許文献1には、種々の分解促進剤を微生物が存在する土壌及び/又は地下水と接触させる方法が記載されている。
【0012】
一方、揮発性有機ハロゲン化合物に汚染された土地の浄化に使用する微生物としては嫌気性細菌、とくにデハロコッコイデス属細菌が知られている。この微生物が存在しない状態であると、揮発性有機ハロゲン化合物は最終的なエチレンまでの分解がなされず中間物質であるジクロロエチレンで分解が止まってしまう可能性があることから、完全な浄化が行われないことが起こりうる。しかし、たとえデハロコッコイデス属細菌であっても通常はその種類により分解可能な化合物が決まっており、テトラクロロエチレンからエチレンまでの分解には数種のデハロコッコイデス属細菌が関与し、必要となることも知られている。(非特許文献2参照)そのため、デハロコッコイデス属細菌の各種揮発性有機ハロゲン化合物分解速度は必ずしも速いものではなく、また、デハロコッコイデス属細菌が存在していても揮発性有機ハロゲン化合物の分解に関与しているとは限らない。
【0013】
そのため、複数のデハロコッコイデス属細菌の混合菌株を使用するバイオオーグメンテーション(例えば非特許文献3参照)や、デハロコッコイデス属細菌と連鎖菌とを主菌体とするコンソーシアを使用するバイオオーグメンテーション(例えば特許文献4参照)が提案されている。しかし、この混合菌株を用いる方法も、土壌の汚染状況やpH、さらには有機質含量によっては浄化速度が遅くなってしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2000−511969号公報
【特許文献2】特開2005−185870号公報
【特許文献3】特開2010−104962号公報
【特許文献4】特開2011−244769号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】株式会社工業調査会「化学装置」2007年7月号、山崎裕「土壌・地下水浄化技術−VOCの分解浄化技術−」
【非特許文献2】崎原盛他「クロロエテン類を対象とした原位置バイオエメディエーションにおけるDehalococcoides属細菌の挙動解析」地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会講演集(2008)
【非特許文献3】矢木修身「土地修復技術の現状と今後の展望」「食と環境の安全を求めて−農林水産生態系における有害化学物質― 要旨集 10ページ」(2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献1や特許文献3に記載の方法は、投与初期段階での微生物の活性が低く、そのため、とくに揮発性有機ハロゲン化合物を多く含む汚染土壌や、とくに地下水では浄化処理速度が低く、無害化に要する時間が長くなってしまう問題があった。また、特許文献2に記載の方法は、揮発性有機ハロゲン化合物の分解反応の促進効果はあるが、微生物の活性化は未だ不十分であり、やはり、無害化に要する時間が長いという問題があった。一方、非特許文献3や特許文献4に開示されているような混合菌株を用いる方法も、土壌の汚染状況やpH、さらには有機質含量によっては浄化速度が遅くなってしまうことがあるという問題があった。
【0017】
したがって本発明の目的は、揮発性有機ハロゲン化合物に汚染された土地の微生物による浄化(バイオレメディエーション)に用いる分解促進剤であって、特に、投与初期段階の微生物の活性を高めることにより、揮発性有機ハロゲン化合物を速やかに無害化することができる分解促進剤を提供することにある。
【0018】
また本発明の目的は、揮発性有機ハロゲン化合物に汚染された土地の微生物による浄化(バイオレメディエーション)を行なう場合に、特に、投与初期段階の微生物の活性を高めることにより、揮発性有機ハロゲン化合物を速やかに無害化することができる、微生物による揮発性有機ハロゲン化合物の分解を促進する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、下記(A)〜(C)のうち、1種又は2種以上を揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤として使用した場合、揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解が効果的に促進されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明の分解促進剤は、下記(B)および(C)のうち、1種又は2種を含有してなることを特徴とする揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解の分解促進剤である。
(B) 柑橘類の果皮から得られる30〜100℃の温水抽出物
(C) 下記(1)〜(3)のすべてを含有する配合物
(1) グリセリン
(2) 前記(1)のグリセリン1質量部に対し固形分として0.1〜3質量部である乳蛋白質及び/又は酵母エキス
(3) 前記(1)のグリセリン1質量部に対し0.00001〜0.001質量部であるビタミンB12
【0023】
本発明の分解促進剤組成物は、上記の分解促進剤を有効成分として含有することを特徴とするものである。
【0024】
本発明の微生物による揮発性有機ハロゲン化合物の分解を促進する方法は、揮発性有機ハロゲン化合物を含む土壌及び/又は地下水に、上記いずれかの分解促進剤、または、上記分解促進剤組成物を接触させることを特徴とするものである。
【0025】
本発明の方法においては、前記揮発性有機ハロゲン化合物が、有機塩素系化合物であることが好ましい。
【0026】
また、本発明の方法においては、前記有機塩素系化合物が四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、モノクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、トランス−1,2−ジクロロエチレン、1,3−ジクロロプロペン、テトラクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、およびビニルクロライドからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
また、本発明の方法においては、前記微生物がClostridium属細菌、Dehalobacter属細菌、Dehalococcoides属細菌、Dehalospirilum属細菌、Desulfobacterium属細菌、Desulfomonas属細菌、およびDesulfomonile属細菌からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の分解促進剤は、取り扱いが容易であり、揮発性有機ハロゲン化合物に汚染された土地の微生物による浄化(バイオレメディエーション)に使用することで、汚染土壌や地下水を速やかに無害化することができ、且つ、安価で環境に対する負荷がかからない。
また本発明の方法は、低コストで環境に対する負荷をかけることなく、揮発性有機ハロゲン化合物に汚染された土壌や地下水の微生物による浄化を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例1におけるc−DCE、VC、エチレン量の推移を表すグラフ図である。
図2】実施例2におけるc−DCE、VC、エチレン量の推移を表すグラフ図である。
図3】比較例1におけるc−DCE、VC、エチレン量の推移を表すグラフ図である。
図4】比較例2におけるc−DCE、VC、エチレン量の推移を表すグラフ図である。
図5】実施例7におけるトリクロロエチレン、c−DCE、VC、エチレン量の推移を表すグラフ図である。
図6】比較例3におけるトリクロロエチレン、c−DCE、VC、エチレン量の推移を表すグラフ図である。
図7】実施例15における、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン、ビニルクロライド、エチレンの量の推移を表すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤について詳述する。なお、本明細書において、揮発性有機ハロゲン化合物の分解とは、揮発性有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化のことを意味する。
本発明の揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤は、下記(A)〜(C)のうち、1種又は2種以上を含有してなることを特徴とするものである。
(A) 柑橘類の果実または該果実から得られる抽出物
(B) 柑橘類の果皮または該果皮から得られる抽出物
(C) 下記(1)〜(3)のすべてを含有する配合物
(1) グリセリン
(2) 乳蛋白質及び/又は酵母エキス
(3) ビタミンB12
【0031】
まず、上記(A)成分及び(B)成分について説明する。
上記(A)成分及び(B)成分の柑橘類の種類は、特に制限されるものではなく、ミカン科ミカン亜科に属する植物であればいずれでもよく、特にミカン科ミカン亜科ミカン属またはキンカン属に含まれるもの、該ミカン属やキンカン属を用いた掛け合わせ等により生み出された植物が好ましい。柑橘類の具体例としては、例えば、バレンシアオレンジ、ネーブル、ブラッドオレンジ、グレープフルーツ、レモン、ゆず、ライム、温州みかん、八朔、甘夏、文旦、金柑、橘、さらにはこれらの掛け合わせ等で生みだされたいよかん、清見、不知火などのタンゴールや、セミノールやミネオラなどのタンゼロ等が挙げられる。中でも、入手が容易であり安価に大量に入手可能であることから、バレンシアオレンジ、グレープフルーツ、レモン、温州みかんのうちの一種以上を用いることが好ましい。
【0032】
上記(A)成分及び(B)成分では、上記の柑橘類の果実全体であってもよく、果実の一部であってもよいが、分解促進効果が高いことから、果皮が好ましい。
【0033】
上記(A)成分及び(B)成分の形態は、特に制限されず、例えば、果実、果皮や果肉そのままのもの、果実、果皮や果肉を乾燥させたもの、果実、果皮や果肉を粉砕して水に分散したもの、果実、果皮や果肉を粉末化したもの、果汁等が挙げられる。また、果実、とくに果皮から、温水乃至熱水等の水で抽出した抽出物や、エタノール、アセトン、酢酸エチル等の極性溶媒や、へキサン等の非極性溶媒で抽出した抽出物でもよい。
【0034】
中でも、果皮から温水乃至熱水等の水で抽出した抽出物であることが土壌に適用した際に即効性があり、また高い効果が得られる点で好ましい。なお、抽出する際の水の温度は好ましくは30〜100℃、より好ましくは60〜95℃、さらに好ましくは60〜80℃である。
【0035】
上記抽出に用いる抽出分離装置としては、本発明の揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤を構成する抽出物を効率よく取得できる装置であればよく、例えば、連続遠心装置、膜分離装置、超臨界抽出装置等を挙げることができる。
【0036】
なお、柑橘類の果皮は、柑橘類の果実の一次加工品(ジュース、かんづめ等)を製造する際、多量に副生し、従来有望な用途もなく大部分廃棄されていたものであり、本発明の揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤がこれを原料とすることは、従来知られている揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤より安価に製品を提供し得るだけでなく、資源の有効利用の面からも有意義である。
【0037】
また更に、上記(A)成分及び(B)成分の一形態である上記抽出物は、果実からペクチン、香気成分、色素類、ヘスペリジン等の成分を抽出した残渣から抽出したものでもよく、またこれらの他の成分を含有したものでもよい。
【0038】
なお、柑橘類の果実は古くから食用とされてきたものであり、これを原料とする本発明の揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤は安全性が高く、また熱にも比較的安定であることから取り扱いも容易である。
【0039】
上記(A)成分及び(B)成分としては、柑橘類の果実の中でも、特にその果皮が高い分解促進効果を奏し、また、温水、熱水等の水抽出により得られる抽出物の効果が高い。従って、詳細は必ずしも明らかではないが、一つの可能性として、本発明の分解促進剤の効果をもたらす柑橘類の果実中に含まれる成分は、水溶性糖類や塩類、有機酸類の混合物であることが考えられる。
【0040】
次に、上記(C)成分について説明する。
上記(C)成分は、下記(1)〜(3)のすべてを含有する配合物である。
(1) グリセリン
(2) 乳蛋白質及び/又は酵母エキス
(3) ビタミンB12
【0041】
上記(C)成分である配合物で使用するグリセリンは微生物の炭素源であると共に有機塩素系化合物の塩素原子を置換するための水素の供給源、すなわち水素供与体となるものであり、グリセリンそのものであっても、脂肪酸が1〜3個結合したグリセリドの形態であってもよいが、好ましくはグリセリンそのものを用いる。市販のグリセリンを用いる場合、純度が100%、99%以上のもの(例えば、試薬特級)に限定されず、日本薬局方のグリセリン(純度80〜90%)や、精製グリセリンD、食品添加物グリセリン、化粧品用濃グリセリン(いずれも、ライオン株式会社製)なども用いることができる。
【0042】
上記(C)成分である配合物では、微生物の窒素源として乳蛋白質及び/又は酵母エキスを使用する。
上記の乳蛋白質としては、ホエー蛋白質のみ、カゼイン蛋白質のみ、カゼイン蛋白質とホエー蛋白質との併用のいずれでもよいが、ホエー蛋白質とカゼイン蛋白質を併用するのがより好ましい。
また、上記乳蛋白質は水溶性であることが好ましい。市販のものを使用する場合は、乳タンパク質を高濃度に含有する製品で、食品用、化粧品用等の人体に無害のもの(または、微生物の生育を著しく阻害しないもの)であればいずれでもよく、例えば、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、ホエイパウダー、WPC(ホエイプロテインコンセントレート)、WPI(ホエイプロテイン単離物)、トータルミルクプロテイン(TMP)、蛋白質濃縮ホエイパウダー、全粉乳、脱脂粉乳、脱乳糖ホエー、脱乳糖ホエーパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)等を挙げることができる。本発明では、脂質含量が低く、また、保存安定性が高い点で、トータルミルクプロテイン(TMP)及び/又は脱脂粉乳が好ましく、脱脂粉乳がより好ましい。
【0043】
上記酵母エキスとは、酵母の培養物を自己消化や酵素、熱水、物理的破砕、酸分解、アルカリ分解、凍結融解法などの処理を行うことにより抽出されたエキスのことである。酵母エキスの製造に使用する酵母の種類はとくに限定されず、パン酵母やビール酵母、ワイン酵母、トルラ酵母などを特に制限なく用いることができる。中でも、Saccharomyces属に属する酵母が好ましく用いられる。酵母エキスはペースト状、粉末状、顆粒状のいずれであってもよい。
【0044】
本発明では、上記乳蛋白質及び酵母エキスのうち、上記乳蛋白質のみを用いてもよく、また、酵母エキスのみを用いてもよいが、好ましくは乳蛋白質のみを使用するか、さらに好ましくは乳蛋白質と酵母エキスを併用する。
ここで、併用する場合の混合比は、乳蛋白質1質量部に対し、酵母エキスを固形分として好ましくは0.1〜2質量部、より好ましくは0.3〜1質量部である。
【0045】
上記(C)成分である配合物では、上記(1)のグリセリン、(2)の乳蛋白質及び/又は酵母エキスの含有比は、上記(1)のグリセリン1質量部に対し上記(2)の乳蛋白質及び/又は酵母エキスを、固形分として、好ましくは0.1〜3質量部、より好ましくは0.1〜1質量部である。
【0046】
上記(C)成分である配合物では、ビタミンB12を使用する。
ビタミンB12はコバルトを含有するビタミンの総称であり、水溶性ビタミンの一種である、ヒドロキソコバラミン、アデノシルコバラミン、メチルコバラミン、シアノコバラミン、スルフィトコバラミンなどがあり、本発明ではそのいずれをも用いることができる。
本発明ではその精製品を用いてもよく、また、ビタミンB12を多く含有する食品を用いてもよい。例えば、ビタミンB12は海苔、貝、動物性食品の肝に多く含有される。
【0047】
上記(C)成分である配合物では、上記(1)のグリセリン、(3)のビタミンB12の含有比は、上記(1)のグリセリン1質量部に対し上記(3)のビタミンB12を、好ましくは0.00001〜0.001質量部、より好ましくは0.00002〜0.0001質量部である。
【0048】
本発明の揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤は、上記(A)成分、(B)成分、(C)成分以外のその他の成分を含有することができる。
上記その他の成分としては、例えば、微生物の栄養源となるブドウ糖、果糖、硫安、尿素、アンモニウム塩、硫黄化合物、リン化合物、塩化カリウム等のカリウム化合物、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等のマグネシウム化合物、酵母エキス、あるいはペプトン等とともに用いてもよい。また、本発明の分解促進剤に対して、上記添加剤を適正量添加した、分解促進剤組成物としてもよい。分解促進剤組成物とする場合、各添加剤の配合量は特に制限されるものではないが、例えば、粉末酵母エキスや果糖を使用する場合、果実の抽出物の固形分100質量部に対して、それぞれ固形分として1〜200質量部であることが好ましく、より好ましくは10〜100質量部である。
ただし、本発明として(C)成分を用いる場合は、上記その他の成分として、微生物の栄養成分となりうる成分、例えば、ブドウ糖、果糖、硫安、尿素、アンモニウム塩、硫黄化合物、リン化合物、塩化カリウム等のカリウム化合物、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等のマグネシウム化合物、あるいはペプトン等は含まないことが好ましい。特に、土壌や地下水に硫酸還元菌が存在する場合は、硫酸イオン共存下ではその硫酸還元菌と競合するため、揮発性有機ハロゲン化合物の分解が行われなくなるため、硫安、硫酸マグネシウムなどの硫酸塩は含まないことが好ましい。
【0049】
本発明の揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤の形態はとくに制限されず、固体(粉末状、顆粒状を含む)や、液体(ペースト状を含む)、など各種の形態を採ることができる。また、水などの溶媒により希釈した状態で使用することもできる。
【0050】
本発明の分解促進剤は、揮発性有機ハロゲン化合物により汚染された土壌、地下水、その他の試料と接触させることにより、該揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解を促進する。本発明の対象となる揮発性有機ハロゲン化合物は、好ましくは、有機塩素系化合物であり、例えば、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、モノクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、トランス−1,2−ジクロロエチレン、1,3−ジクロロプロペン、テトラクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ビニルクロライド、等が挙げられる。
【0051】
なかでも、本発明の分解促進剤は、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン類、ビニルクロライド、等のクロロエテン類の分解を好適に促進することができる。
例えば、テトラクロロエチレンは微生物により、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン、モノクロロエチレン(ビニルクロライド)、エチレンに順次分解される。
【0052】
本発明の分解促進剤は、揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解を促進するものであり、浄化対象となる土壌や地下水にもともと存在する微生物を利用してもよく、揮発性有機ハロゲン化合物の分解に有用な微生物とともに使用してもよい。また、そのような微生物を含む組成物とともに使用してもよい。即ち、浄化対象となる土壌や地下水に、揮発性有機ハロゲン化合物を分解する微生物が十分含まれる場合は本発明の分解促進剤や分解促進剤組成物をそのまま対象土壌に適用すればよい。一方、土壌中の微生物量が少ない場合や、分解を早めたい場合などには、予め用意した微生物ないし微生物を含む組成物とともに本発明の分解促進剤や分解促進剤組成物を適用してもよい。
【0053】
揮発性有機ハロゲン化合物の分解に有用な微生物としては、嫌気性微生物が好ましく、例えば、Clostridium属、Dehalobacter属、Dehalococcoides属、Dehalospirilum属、Desulfobacterium属、Desulfomonas属、Desulfomonile属等の微生物が挙げられる。
【0054】
本発明の分解促進剤を使用する場合、揮発性有機ハロゲン化合物を含む試料中の嫌気性微生物、例えば、Dehalococcoides属細菌の存在量を予め測定することが好ましい。Dehalococcoides属細菌の定量にはリアルタイムPCR法等の公知の方法が利用できる(例えば、非特許文献1参照)。
【0055】
本発明の分解促進剤を土壌及び/又は地下水と接触させる方法は、特に制限はなく、汚染された土壌や地下水を除去し、別の場所で処理する「施設型処理」であってもよく、その場所において汚染された土壌や地下水を浄化する「原位置浄化」であってもよいが、揮発性有機ハロゲン化合物を分解する微生物は嫌気的条件下でその効果を最大限に発揮することから原位置浄化であることが好ましい。
【0056】
施設型浄化の場合の、本発明の分解促進剤の微生物が存在する土壌及び/又は地下水と接触させる方法についてはとくに制限はなく、たとえば掘削した汚染土壌を積み上げこの中に直接注入する方法、汚染土壌と混合攪拌する方法、汚染土壌に加水して流動状〜液状として添加する方法などが挙げられる。
【0057】
原位置浄化の場合の、本発明の分解促進剤の微生物が存在する土壌及び/又は地下水と接触させる方法についてもとくに制限はなく、たとえば直接土壌に埋設する方法、地下水あるいは土壌中に注入井戸を用いて注入する直接注入法や、地下水の流れを利用した透過性反応浄化壁を用いる方法でもよいが、直接注入法であることが好ましい。
なお、本発明の分解促進剤の供給量は、十分な浄化効果が得られる程度であれば良く、予め事前調査により汚染領域の範囲、汚染の程度、汚染物質の種類等を確認して決定すれば良い。
【実施例】
【0058】
<クロロエテン類の分解実験1>
〔分解促進剤の製造1〕
<柑橘類抽出物の製造>
〔製造例1〕
温州みかんをよく水洗した後、剥皮し、果皮(乾燥重量100g)をディスクミルにて粉砕後、60℃の温水2000mlで1時間攪拌抽出した。これを濾過し、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮後、真空乾燥機によって乾燥して、温州みかんの果皮温水抽出物(約10g)を得た。得られた果皮温水抽出物をそのまま本発明の分解促進剤Aとした。
【0059】
〔製造例2〕
製造例1で得られた果皮温水抽出物100質量部に対し、粉末酵母エキス50質量部及び果糖50質量部を添加し均質に混合し、これを本発明の分解促進剤Bとした。
【0060】
〔製造例3〕
抽出に用いる60℃の温水に代えて、98℃の熱水を用いた以外は製造例1と同様にして、本発明の分解促進剤Cを得た。
【0061】
〔製造例4〕
温州みかんに代えてバレンシアオレンジを用いた以外は製造例1と同様にして、本発明の分解促進剤Dを得た。
【0062】
〔製造例5〕
温州みかんに代えてグレープフルーツを用いた以外は製造例1と同様にして、本発明の分解促進剤Eを得た。
【0063】
〔製造例6〕
温州みかんに代えてレモンを用いた以外は製造例1と同様にして、本発明の分解促進剤Fを得た。
【0064】
〔分解促進剤の評価方法1〕
<細菌液の作成>
(分解促進剤A〜Fについて)
以下に示すミネラル基礎培地に酵母エキスを0.1g/Lとなるように加えた培地50mLを100mL容ガラス製バイアル瓶に採り、窒素置換後、オートクレーブで滅菌処理した後、クロロエテン類により汚染された土壌から採取した地下水25mLを加え、窒素置換後、水素2.5mLおよびシス−1,2−ジクロロエチレン0.58μL(10mg/Lに相当)を封入し、20℃で暗所静置培養した。定期的にヘッドスペース中のクロロエテン類を測定し、クロロエテン類が検出されなくなった時点で1mLを採取し、酵母エキス0.1g/L添加オートクレーブ済みミネラル基礎培地75mLに植え継いだ。この継代培養を6回行ったものを「細菌液」とし、下記のクロロエテン類の分解実験に使用した。
【0065】
<ミネラル基礎培地(pH 7.0〜7.5)の製造>
下記Salt stock solutionを10ml、下記Trace element solution Aを1ml、下記Trace element solution Bを1ml、レザズリンナトリウム溶液(0.5 %w/v)を50μl、酢酸ナトリウムを0.1g、L−システイン塩酸塩一水和物を0.3g、炭酸水素ナトリウムを2.52g、硫化ナトリウム九水和物を0.048gを1000mlにフィルアップし、これをミネラル基礎培地とした。
【0066】
<Salt stock solutionの製造>
下記の成分を水で溶解し1000mlにフィルアップし、Salt stock solutionとした。
100gNaCl, 50 g MgCl2・6H2O, 20 g KH2PO4,30g NH4Cl, 30 g KCl, 1.5 g CaCl2・2H2O
【0067】
<Trace element solution Aの製造>
下記の成分を水で溶解し1000mlにフィルアップし、Trace element solution Aとした。
10mLHCl(25 % solution, w/w), 1.5 g Fe Cl2・4H2O, 0.19g CoCl2・6H2O, 0.1 g MnCl2・4H2O, 70 mg Zn Cl2, 6 mg H3BO3,36mg Na2MoO4・2H2O, 24mgNiCl2・6H2O, 2 mg CuCl2・2H2O
【0068】
<Trace element solution Bの製造>
下記の成分を水で溶解し1000mlにフィルアップし、Trace element solution Bとした。
6mgNa2SeO3・5H2O, 8 mg Na2WO4・2H2O, 0.5 g NaOH
【0069】
<クロロエテン類の分解実験1>
〔実施例1〕
クロロエテン類により汚染された地下水を想定し、下記の方法により、分解試験を行なった。
上記ミネラル基礎培地75mlをガラス製100ml容のバイアル瓶に採り、上記分解促進剤Aを0.1g/Lとなるように添加し、窒素置換後オートクレーブで滅菌処理した。冷却後、上記細菌液を1.5ml加え、窒素置換後、シス−1,2−ジクロロエチレン(c−DCE)を10μg/mlとなるように封入した。
このバイアル瓶を20℃にて静置培養を行った。0、3、10、18、24、36、45、49、59、66、75、84、87日後にバイアル瓶のヘッドスペース中のシス−1,2−ジクロロエチレン(c−DCE)含量、ビニルクロライド(VC)含量、エチレン含量をガスクロマトグラフィーで測定した。
【0070】
実験結果について、まず、0〜87日目までのシス−1,2−ジクロロエチレン(c−DCE)含量、ビニルクロライド(VC)含量、エチレン含量の消長を図1に示す。
また、微生物の活性化は、初期に起こると考えられることから、18日目までの、c−DCE含有量の1日あたりの減少量を初期分解速度として表1に示した。
【0071】
〔実施例2〕
分解促進剤A0.1g/Lに代えて分解促進剤Bを0.2g/Lとなるように添加した以外は実施例1と同様にしてクロロエテン類の分解実験を行い、結果を図2、及び、表1に記載した。
【0072】
〔比較例1〕
分解促進剤A0.1g/Lを無添加とした以外は実施例1と同様にしてクロロエテン類の分解実験を行い、結果を図3、及び、表1に記載した。
【0073】
〔比較例2〕
分解促進剤B0.2g/Lを無添加とし、酵母エキス0.05g/L及び果糖0.05g/Lを添加した以外は実施例2と同様にしてクロロエテン類の分解実験を行い、結果を図4、及び、表1に記載した。
【0074】
〔実施例3〕
分解促進剤A0.1g/Lに代えて分解促進剤Cを0.1g/Lとなるように添加した以外は実施例1と同様にしてクロロエテン類の分解実験を行なった。ただしサンプリングは0、3、10、18日目までとし、18日目までの、c−DCEの含有量の1日あたりの減少量を実施例1と同様に算出して初期分解速度として表1に示した。
【0075】
〔実施例4〕
分解促進剤A0.1g/Lに代えて分解促進剤Dを0.1g/Lとなるように添加した以外は実施例1と同様にしてクロロエテン類の分解実験を行なった。尚サンプリングは実施例3同様の期間として初期分解速度のみを算出し、結果を表1に記載した。
【0076】
〔実施例5〕
分解促進剤A0.1g/Lに代えて分解促進剤Eを0.1g/Lとなるように添加した以外は実施例1と同様にしてクロロエテン類の分解実験を行なった。尚サンプリングは実施例3同様の期間として初期分解速度のみを算出し、結果を表1に記載した。
【0077】
〔実施例6〕
分解促進剤A0.1g/Lに代えて分解促進剤Fを0.1g/Lとなるように添加した以外は実施例1と同様にしてクロロエテン類の分解実験を行なった。尚サンプリングは実施例3同様の期間として初期分解速度のみを算出し、結果を表1に記載した。
【0078】
【表1】
※単位=(μg/l/day)
【0079】
比較例1の結果(図3)から明らかなように、基本培地のみの場合は87日目になってもc−DCEが残存し、VCも上昇傾向にあり、エチレンの発生が見られないという具合に、クロロエテン類の分解はほとんど進行しなかった。
【0080】
それに対し、実施例1(図1)、実施例2の結果(図2)から明らかなように、本発明の分解促進剤を添加したサンプルでは、50日目においてc−DCEがほとんど分解され、87日目でc−DCE、VC共、ほぼ完全に分解された。
【0081】
なお、実施例2(図2)と比較例2(図4)との比較から明らかなように、従来の栄養剤である酵母エキスと果糖を使用したサンプルに対し、該栄養成分に本発明の分解促進剤を追加添加することにより、c−DCEがより速やかに分解され、とくに18〜50日目での分解速度が大きく上昇した。同様にVCも最大の濃度を示す日が59日目(比較例2、図4)から24日目(実施例2、図2)になることから、従来の栄養剤に本発明の分解促進剤を追加添加することで、初期の分解速度を大きく高めることができることが確認できた。
【0082】
また、表1から明らかなように、本発明の分解促進剤を添加することにより、初期の分解速度が大きく上昇することがわかる。
なお、従来の栄養剤である酵母エキスと果糖を使用したサンプルでも一定の分解速度向上効果はあるが、実施例1、3〜6と比較例2との比較から明らかなように、本発明の分解促進剤を用いた場合の方が、分解促進効果が高かった。さらに、実施例2の結果から、本発明の分解促進剤を追加添加することにより、初期の分解速度が大きく上昇することがわかる。
【0083】
〔実施例7及び比較例3〕
クロロエテン類により汚染された土地を想定し、下記の方法により、分解試験を行なった。
1L容ねじ口瓶に、トリクロロエチレンにより汚染された土地から採取した土壌を700g、同じ場所から採取した地下水を300g入れ、上記細菌液5mLを加えた後、分解促進剤A 0.2gと酵母エキス0.2gを50mLの蒸留水に溶解させたのち加え、窒素置換してから、暗所室温で静置培養した。定期的にヘッドスペース中のクロロエテン類(トリクロロエチレン、c−DCE、VC)の濃度及びエチレンの濃度をガスクロマトグラフィーにより測定した。汚染土および地下水に含まれていたトリクロロエチレンを始めとするクロロエテン類は、全て120日後には環境基準値(トリクロロエチレン=0.03mg/l、ジクロロエチレン=0.04mg/l、VC=0.002mg/l)以下となった。結果を図5に示した。ここで、分解促進剤Aの代わりにフルクトース0.2gを添加した場合(比較例3)は、150日間経過してもまだVCが地下水環境基準値以上残っており、土地の浄化が不可能であった。結果を図6に示した。
【0084】
<クロロエテン類の分解実験2>
〔分解促進剤の製造2〕
〔製造例7〜16〕
(1)成分としてグリセリン、(2)成分として脱脂粉乳及び/又は酵母エキス粉末、(3)成分としてビタミンB12製剤を、表2の記載にしたがって混合し、分解促進剤G〜Pを得た。なお、得られた分解促進剤のうちG〜N及びPはペースト状、Oは粉末状であった。
なお、(1):(2)の含有量比、及び、(1):(3)の含有量比についても表2に記載した。
得られた分解促進剤G〜Pについては、下記の分解促進剤の評価方法に従って評価を行い、結果について表2に記載した。
【0085】
〔分解促進剤の評価方法2〕
<細菌液の作成>
上記ミネラル基礎培地に酵母エキスを0.1g/Lとなるように加えた培地50mLを100mL容ガラス製バイアル瓶に採り、窒素置換後、オートクレーブで滅菌処理した後、クロロエテン類により汚染された土壌から採取した地下水25mLを加え、窒素置換後、水素2.5mLおよびシス−1,2−ジクロロエチレン0.58μL(10mg/Lに相当)を封入し、20℃で暗所静置培養した。定期的にヘッドスペース中のクロロエテン類を測定し、クロロエテン類が検出されなくなった時点で1mLを採取し、酵母エキス0.1g/L添加オートクレーブ済みミネラル基礎培地75mLに植え継いだ。この継代培養を6回(ただし6回目のみ酵母エキス無添加とした)行ったものを「細菌液」とし、下記のクロロエテン類の分解実験に使用した。
【0086】
<クロロエテン類の分解実験2>
〔実施例8〜14、比較例4〜6〕
クロロエテン類により汚染された地下水を想定し、下記の方法により、分解試験を行なった。
上記ミネラル基礎培地75mlをガラス製100ml容のバイアル瓶に採り、上記分解促進剤G〜Pを各0.3g/Lとなるように添加し、窒素置換後オートクレーブで滅菌処理した。冷却後、上記細菌液を1.5ml加え、窒素置換後、シス−1,2−ジクロロエチレン(c−DCE)を10μg/mlとなるように封入した。
このバイアル瓶を20℃にて静置培養を行った。定期的にバイアル瓶のヘッドスペース中のc−DCE含量、VC含量、エチレン含量をガスクロマトグラフィーで測定した。実験結果については、c−DCE含量、及び、VC含量が地下水環境基準値以下、すなわちc−DCEが0.04mg/L以下、かつ、VCが0.002mg/L以下になった時点までの日数を「分解までに要した日数」として表2に記載した。
なお、分解促進剤無添加の場合についても比較例7として同様に実験を行い、結果を表2に記載した。
【0087】
【表2】
【0088】
表2の結果からわかるように、(1)〜(3)成分を含有する実施例8〜14の分解促進剤を使用した場合は、クロロエテン類を完全に分解するまでの日数が31日以下であるのに対し、(1)成分を含有しない比較例4は48日、(2)成分を含有しない比較例5は45日であり、(3)成分を含有しない比較例6は40日であり、分解速度が極めて低いことがわかる。
【0089】
なお、分解促進剤を使用しない場合(比較例7)は100日目でもクロロエテン類の分解は完了していなかった。
【0090】
また、(2)成分として脱脂粉乳及び/又は酵母エキスを使用した実施例9、11、12を比較するとわかるように、酵母エキスのみを使用した実施例11よりも、脱脂粉乳を使用した実施例9の方が分解速度が高く、脱脂粉乳と酵母エキスを併用した実施例12が最も分解速度が高いことがわかる。
【0091】
なお、ビタミンB12の含有量を種々可変させた実施例9、13、14を比較するとわかるように、グリセリン1質量部に対するビタミンB12の配合量が0.00001〜0.001質量部の範囲内であれば分解速度に差異は生じないことがわかる。
【0092】
〔実施例15〕
クロロエテン類により汚染された土地を想定し、下記の方法により、分解試験を行なった。
1L容ねじ口瓶に、トリクロロエチレンにより汚染された土地から採取した土壌を700g、同じ場所から採取した地下水を300g入れ、上記細菌液5mLを加えた後、分解促進剤E 0.5gを50mLの蒸留水に溶解させたのち加え、窒素置換してから、暗所室温で静置培養した。定期的にヘッドスペース中のクロロエテン類(トリクロロエチレン、c−DCE、VC)の濃度及びエチレンの濃度をガスクロマトグラフィーにより測定した。汚染土および地下水に含まれていたトリクロロエチレンを始めとするクロロエテン類は、全て150日後には環境基準値(トリクロロエチレン=0.03mg/l、ジクロロエチレン=0.04mg/l、VC=0.002mg/l)以下となった。結果を図7に示した。
【0093】
<クロロエテン類の分解実験3>
〔分解促進剤の評価方法3〕
<細菌液の作成>
上記ミネラル基礎培地に酵母エキスを0.1g/Lとなるように加えた培地50mLを100mL容ガラス製バイアル瓶に採り、窒素置換後、オートクレーブで滅菌処理した後、テトラクロロエチレン(PCE)により汚染された土壌から採取した地下水25mLを加え、窒素置換後、水素2.5mLおよびPCE 0.46μL(10mg/Lに相当)を封入し、20℃で暗所静置培養した。定期的にヘッドスペース中のクロロエテン類を測定し、クロロエテン類が検出されなくなった時点で1mLを採取し、酵母エキス0.1g/L添加オートクレーブ済みミネラル基礎培地75mLに植え継いだ。この継代培養を3回行ったものを「細菌液」とし、下記のクロロエテン類の分解実験に使用した。
【0094】
〔実施例16〜18〕
クロロエテン類により汚染された地下水を想定し、下記の方法により、分解試験を行なった。
上記ミネラル基礎培地75mlをガラス製100mlのバイアル瓶に採り、上記分解促進剤A(実施例16)、上記分解促進剤G(実施例17)、上記分解促進剤Aと上記分解促進剤Gの等量混合物(実施例18)をそれぞれ0.2g/Lとなるように添加し、窒素置換後オートクレーブで滅菌処理した。冷却後、上記細菌液を1.5ml加え、窒素置換後、テトラクロロエチレン(PCE)を10μg/mlとなるように封入した。
このバイアル瓶を20℃にて静置培養を行った。0、3、10、18、24、36、45、49、59、66、75、84、87日後にバイアル瓶のヘッドスペース中の各種クロロエテン類、すなわちPCE、TCE、c-DCE、t-DCE、1,1-DCE、VC含量およびエチレン含量をガスクロマトグラフィーで測定した。
【0095】
実験結果について、クロロエテン類の含量が地下水環境基準値以下、すなわちPCEが0.01mg/L以下、TCEが0.03mg/L以下、cDCEおよびt-DCEが0.04mg/L以下、1,1-DCEが0.02mg/L以下、VCが0.002mg/L以下になった時点までの日数を「分解までに要した日数」として表3に示した。
また、微生物の活性化は、初期に起こると考えられることから、18日目までの、PCE含量の1日あたりの減少量を初期分解速度として表3に示した。
【0096】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7