特許第6126952号(P6126952)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6126952エネルギー供給システム及びエネルギー供給方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6126952
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】エネルギー供給システム及びエネルギー供給方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/24 20060101AFI20170424BHJP
   C10L 3/06 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   C01B3/24
   C10L3/06
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-185894(P2013-185894)
(22)【出願日】2013年9月9日
(65)【公開番号】特開2015-51901(P2015-51901A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 修
(72)【発明者】
【氏名】白崎 智彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 佳巳
(72)【発明者】
【氏名】今川 健一
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−225969(JP,A)
【文献】 特開2007−056159(JP,A)
【文献】 特開平06−248275(JP,A)
【文献】 特開平07−166179(JP,A)
【文献】 特開平05−051587(JP,A)
【文献】 特開2001−226295(JP,A)
【文献】 特開2013−049601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00 − 6/34
C10L 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化石燃料を燃焼させたエネルギーを電力に変換する発電機と、
脱水素反応によって水素化芳香族化合物から水素を生成する脱水素反応装置と、
メタネーション反応によって、前記発電機における燃焼によって生じる排出ガス中の二酸化炭素と、前記脱水素反応装置から生じる水素とからメタンを生成するメタネーション反応装置とを有し、
前記発電機は、前記メタネーション反応装置から生じるメタンを前記化石燃料と共に燃焼することを特徴とするエネルギー供給システム。
【請求項2】
前記発電機から前記脱水素反応装置を通過して延び、前記発電機で生じた前記排出ガスを供給する通路に接続され、前記排出ガスから窒素を分離し、二酸化炭素を回収する二酸化炭素分離装置とを更に有し、
前記二酸化炭素分離装置によって窒素から分離された二酸化炭素が、前記メタネーション反応装置に供給されることを特徴とする請求項1に記載のエネルギー供給システム。
【請求項3】
前記脱水素反応装置と前記メタネーション反応装置とを接続し、前記脱水素反応装置において生成された水素を前記メタネーション反応装置に供給する通路と、
前記脱水素反応装置と前記メタネーション反応装置とを接続する通路から分岐し、前記脱水素反応装置において生成された水素を外部の設備に供給する水素供給ラインとを有することを特徴とする請求項2に記載のエネルギー供給システム。
【請求項4】
前記メタネーション反応装置から前記発電機にガスを供給する通路上に、ガスから水素を分離する水素分離装置を有し、水素が分離されたガスが前記発電機に供給されることを特徴とする請求項3に記載のエネルギー供給システム。
【請求項5】
前記水素分離装置において分離された水素は、前記メタネーション反応装置又は前記水素供給ラインに供給されることを特徴とする請求項4に記載のエネルギー供給システム。
【請求項6】
前記発電機は、前記脱水素反応装置から生じる水素と前記化石燃料とを混焼することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つの項に記載のエネルギー供給システム。
【請求項7】
前記メタネーション反応装置は、逆シフト反応によって、前記排出ガスに含まれる二酸化炭素と前記脱水素反応装置から生じる水素とから一酸化炭素を生成すると共に、前記排出ガスに含まれる二酸化炭素及び前記逆シフト反応によって生成された一酸化炭素の少なくとも一方と、前記脱水素反応装置からの水素とに基づくメタネーション反応によってメタンを生成することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1つの項に記載のエネルギー供給システム。
【請求項8】
前記メタネーション反応により生じる熱は、前記脱水素反応装置に輸送され、脱水素反応に使用されることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1つの項に記載のエネルギー供給システム。
【請求項9】
前記化石燃料は、天然ガスであることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1つの項に記載のエネルギー供給システム。
【請求項10】
化石燃料を燃焼させたエネルギーを電力に変換する発電工程と、
脱水素反応によって水素化芳香族化合物から水素を生成する脱水素工程と、
メタネーション反応によって、前記発電工程における燃焼によって生じる排出ガス中の二酸化炭素と、前記脱水素工程によって生じる水素とからメタンを生成するメタネーション工程とを有し、
前記発電工程では、前記メタネーション工程によって生じるメタンを前記化石燃料と共に燃焼することを特徴とするエネルギー供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と電力とを供給するエネルギー供給システム及びエネルギー供給方法に係り、詳細には発電に起因する二酸化炭素排出量を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族化合物の水素化反応(水添反応)によって、気体である水素を芳香族化合物に化学的に付加し、水素化芳香族化合物(有機ハイドライド)を生成する有機ケミカルハイドライド法が公知となっている。水素化芳香族化合物は、常温常圧において液体であるため、水素の貯蔵及び輸送を容易かつ安全に行うことができる。この手法によれば、水素は、生産地において水素化芳香族化合物に転換され、水素化芳香族化合物の形態で輸送される。そして、水素化芳香族化合物は、都市等の水素使用地に隣接したプラントや水素ステーション等において、脱水素反応より水素と芳香族化合物とを生成する。脱水素反応によって生じた芳香族化合物は、再び水素生産地に輸送され、水添反応に利用される。
【0003】
水素化芳香族化合物の脱水素反応は、吸熱反応であるため、外部から熱量を加える必要がある。この熱量を供給する熱源として、脱水素反応を行う脱水素反応装置に発電設備やエンジンを併設し、発電設備等が排出する排出ガスと脱水素反応装置とを熱交換可能にしたものがある(例えば、特許文献1、2)。このように構成すると、発電設備等が発生する廃熱を有効利用することができ、水素供給設備及び発電設備等を含むシステム全体のエネルギー効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−49601号公報
【特許文献2】特開2010−77817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献に係る発明では、発電設備等の排出ガスの熱量を脱水素反応装置に利用することによって、脱水素反応装置の昇温のために必要な燃料使用量を抑制し、削減した燃料使用量に応じた二酸化炭素排出量を抑制している。しかしながら、発電設備等から排出される二酸化炭素量は抑制されておらず、システム全体の二酸化炭素排出量の抑制が十分であるとは言い難い。
【0006】
本発明は、以上の問題を鑑み、水素と電力とを供給するエネルギー供給システムにおいて、発電に起因する二酸化炭素排出量を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、エネルギー供給システム(1)であって、化石燃料を燃焼させたエネルギーを電力に変換する発電機(7)と、脱水素反応によって水素化芳香族化合物から水素を生成する脱水素反応装置(4)と、メタネーション反応によって、前記発電機における燃焼によって生じる排出ガス中の二酸化炭素と、前記脱水素反応装置から生じる水素とからメタンを生成するメタネーション反応装置(6)とを有し、前記発電機は、前記メタネーション反応装置から生じるメタンを前記化石燃料と共に燃焼することを特徴とする。エネルギー供給システムは、水素と電力とを供給することができる。
【0008】
この構成によれば、脱水素反応装置によって生成される水素と、発電機から排出される排出ガス中の二酸化炭素とを利用してメタネーション反応を行い、メタンを生成するため、エネルギー供給システムの二酸化炭素排出量を抑制することができる。特に、発電機から排出される二酸化炭素を全量使用してメタネーション反応を行うことによって、二酸化炭素排出量をゼロにすることができる。
【0009】
また、メタネーション反応装置から生成されるメタンを燃料の一部として使用するため、発電機において使用される化石燃料の使用量を低減することができる。
【0010】
上記の発明において、前記発電機は、前記脱水素反応装置から生じる水素と前記化石燃料とを混焼するとよい。
【0011】
この構成によれば、発電機で使用する燃料の一部に水素を使用することによって、化石燃料の使用量を抑制することができる。
【0012】
上記の発明において、前記メタネーション反応装置は、逆シフト反応によって、前記排出ガスに含まれる二酸化炭素と前記脱水素反応装置から生じる水素とから一酸化炭素を生成すると共に、前記排出ガスに含まれる二酸化炭素及び前記逆シフト反応によって生成された一酸化炭素の少なくとも一方と、前記脱水素反応装置からの水素とに基づくメタネーション反応によってメタンを生成するとよい。
【0013】
この構成によれば、メタネーション反応を行う前に逆シフト反応を行い、二酸化炭素から一酸化炭素を生成するため、続くメタネーション反応でのメタンの収率が増大する。
【0014】
上記の発明において、前記メタネーション反応により生じる熱量は、前記脱水素反応装置に輸送され、脱水素反応に使用されるとよい。
【0015】
この構成によれば、メタネーション反応は発熱反応であるため、メタネーション反応により生じる熱量を吸熱反応である脱水素反応に使用することで、脱水素反応装置に付加的な熱量を与える必要が低減される。すなわち、メタネーション反応により生じる熱量を有効利用し、エネルギー供給システム全体のエネルギー消費量を抑制することができる。
【0016】
上記の発明において、前記排出ガスから、窒素を分離し、二酸化炭素を回収する二酸化炭素分離装置(8)を更に有し、前記二酸化炭素分離装置によって窒素から分離された二酸化炭素が、前記メタネーション反応装置に供給されるとよい。
【0017】
この構成によれば、窒素等の排出ガス成分が分離された二酸化炭素がメタネーション反応装置に供給されるため、メタネーション反応装置の収率が増大する。
【0018】
上記の発明において、前記化石燃料は、天然ガスであるとよい。
【0019】
この構成によれば、天然ガスはメタンを主成分とするため、メタネーション反応装置から供給されるメタンが発電機に供給されても、発電機における燃料成分の変化が小さく、発電機での安定した燃焼が達成される。
【0020】
また、本発明の他の側面は、エネルギー供給方法であって、化石燃料を燃焼させたエネルギーを電力に変換する発電工程と、脱水素反応によって水素化芳香族化合物から水素を生成する脱水素工程と、メタネーション反応によって、前記発電工程における燃焼によって生じる排出ガス中の二酸化炭素と、前記脱水素工程によって生じる水素とからメタンを生成するメタネーション工程とを有し、前記発電工程では、前記メタネーション工程によって生じるメタンを前記化石燃料と共に燃焼することを特徴とする。エネルギー供給方法は、水素と電力とを供給する方法である。
【0021】
この方法によれば、二酸化炭素の排出量及び化石燃料の使用量を低減しつつ、水素と電力とを供給することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上の構成によれば、水素と電力とを供給するエネルギー供給システムにおいて、発電に起因する二酸化炭素排出量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態に係るエネルギー供給システムの構成を示すブロック図
図2】第2実施形態に係るエネルギー供給システムの構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明に係るエネルギー供給システムの実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係るエネルギー供給システムの構成を示すブロック図である。
【0025】
エネルギー供給システム1は、水素化芳香族化合物(有機ハイドライド)と燃料の供給を受け、水素と電力とを供給するシステムである。詳細には、エネルギー供給システム1は、化石燃料を燃焼させたエネルギーを電力に変換する発電工程と、脱水素反応によって水素化芳香族化合物から水素を生成する脱水素工程と、メタネーション反応によって、発電工程における燃焼によって生じる排出ガス中の二酸化炭素と、脱水素工程によって生じる水素とからメタンを生成するメタネーション工程とを有し、発電工程では、メタネーション工程によって生じるメタンを前記化石燃料と共に燃焼することを特徴とするエネルギー供給方法を実行することによって水素と電力とを供給する。図1に示すように、エネルギー供給システム1は、水素化芳香族化合物タンク2と、燃料タンク3と、脱水素反応装置4と、メタネーション反応装置6と、発電機7と、CO分離装置8と、芳香族化合物タンク10とを有している。エネルギー供給システム1は、プラントとして構成される。
【0026】
水素化芳香族化合物は、芳香族化合物の水添反応(水素化反応)の生成物であり、それ自体が安定であると共に脱水素されて安定な芳香族化合物となるものであればよい。芳香族化合物は、特に限定されるものではないが、ベンゼン、トルエン、キシレン等の単環式芳香族化合物や、ナフタレン、テトラリン、メチルナフタレン等の2環式芳香族化合物や、アントラセン等の3環式芳香族化合物であり、これらを単独、或いは2種以上の混合物として用いることができる。水素化芳香族化合物は、上記の芳香族化合物を水素化したものであり、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、等の単環式水素化芳香族化合物や、テトラリン、デカリン、メチルデカリン等の2環式水素化芳香族化合物や、テトラデカヒドロアントラセン等の3環式水素化芳香族化合物等であり、これらを単独、或いは2種以上の混合物として用いることができる。水素化芳香族化合物は、常温、常圧で安定な液体である。上記の水素化芳香族化合物及び芳香族化合物のうち、水素化芳香族化合物にメチルシクロヘキサンを使用し、芳香族化合物にメチルシクロヘキサンを脱水素化したトルエンを使用することが好ましい。
【0027】
発電機7は、水素と化石燃料である燃料とを燃焼し、その熱量を電力に変換する水素混焼型の発電機7である。発電機7は、燃焼により生じた熱で水を温め、発生した蒸気を用いて羽根車(蒸気タービン)を回して電力を得る蒸気タービン発電機や、燃焼によって発生した燃焼ガスを用いて羽根車(タービン)を回し電力を得るガスタービン発電機であってよい。化石燃料は、重油や灯油等の液体である炭化水素や、都市ガスやプロパンガスを含む天然ガス(炭化水素ガス)であってよい。本実施形態では、発電機7は、天然ガスである燃料と水素を燃料とする水素混焼型のガスタービン発電機である。発電機は、水素及び天然ガスを燃焼し、電力と排出ガス(燃焼ガス)とを発生する。排出ガスは、二酸化炭素、窒素、水と、その他の微量成分とを含む。
【0028】
水素化芳香族化合物タンク2は、水素化芳香族化合物を貯蔵するための容器である。水素化芳香族化合物タンク2は、通路11を介して脱水素反応装置4に接続されており、脱水素反応装置4に水素化芳香族化合物を供給する。水素化芳香族化合物タンク2には、船舶や車両による輸送や、パイプラインによって、水素化芳香族化合物が外部から供給される。
【0029】
脱水素反応装置4は、触媒存在下における脱水素反応によって水素化芳香族化合物から水素と芳香族化合物とを生成する。本実施形態では、脱水素反応装置4は、脱水素反応によって水素化芳香族化合物から水素と芳香族化合物とを生成する脱水素工程を行う。水素化芳香族化合物がメチルシクロヘキサンである場合には、脱水素反応によって水素とトルエンが生成される。水素化芳香族化合物の脱水素反応は、吸熱反応である。
【0030】
脱水素反応装置4の構成は、限定されるものではないが、シェルアンドチューブ型の反応器を適用することができる。脱水素反応装置4は、筒状のシェルと、シェル内を延在する複数のチューブとを有する。各チューブの内部空間は、シェルの内部空間に対して隔離されている。各チューブの内側には、脱水素反応を促進する脱水素触媒が充填されている。脱水素触媒は、例えば、多孔性γ−アルミナ担体に、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びルテニウムから選ばれた少なくとも1つの触媒金属を担持させたものであってよい。
【0031】
脱水素反応装置4の各チューブには液体である水素化芳香族化合物が供給され、触媒に接触しながら流れる。シェルには、高温流体が供給され、チューブとの間で熱交換が行われ、触媒及びメチルシクロヘキサンが加熱される。高温流体は、発電機7から生じる排出ガスである。発電機7と脱水素反応装置4のシェルとは通路13によって接続されており、排気通路を介して発電機7の排出ガスがシェルに供給される。
【0032】
また、脱水素反応装置4には、チューブと熱交換可能に熱交換器12が設けられている。熱交換器12は、メタネーション反応装置6とも熱交換可能に設けられており、メタネーション反応装置6の熱量を脱水素反応装置4に供給する。熱交換器12は、媒体に水蒸気を利用したものであってよく、メタネーション反応装置6及び脱水素反応装置4を通過する水蒸気の循環通路を有している。熱交換器12内の水蒸気は、メタネーション反応装置6で加熱され、その熱量を脱水素反応装置4のチューブに伝達する。水素化芳香族化合物は、シェル内を流れる排出ガス及び熱交換器12から熱量を受け取り、触媒の存在下で、水素と芳香族化合物とを生成する。
【0033】
脱水素反応装置4において生成された水素は気体であり、芳香族化合物は液体であるため、水素と芳香族化合物とは互いに分離され、脱水素反応装置4から独立して排出される。芳香族化合物は、通路16を介して芳香族化合物タンク10に輸送され、貯蔵される。水素は、一部が通路22を介してメタネーション反応装置6に供給され、他の一部が通路23を介して発電機7に供給され、残りが水素供給ライン24を介して外部の設備に供給される。
【0034】
CO分離装置8は、化学吸収法、物理吸収法、膜分離法等の公知の二酸化炭素分離回収技術をした装置である。本実施形態のCO分離装置8は、二酸化炭素を選択的に溶解するアルカリ性溶液を吸収剤として使用する化学吸収法を用いた装置として構成されている。CO分離装置8は、吸収部31と再生部32とを有している。吸収部31と再生部32とは、それぞれ容器によって構成され、配管を介して互いに循環可能に接続されている。吸収剤として使用されるアルカリ性溶液は、アミンや炭酸カリ水溶液が使用される。本実施形態では、硫化水素や二酸化炭素のような酸性ガスと選択的に吸収するモノエタノール水溶液を吸収材として使用する。
【0035】
吸収部31では、供給されるガスとモノエタノールアミン水溶液とが接触することによって、供給されるガスから二酸化炭素がモノエタノールアミン水溶液に溶解し、供給されるガスから二酸化炭素が分離される。二酸化炭素が分離されたガスは、吸収部31から外部に供給される。二酸化炭素を吸収したモノエタノールアミン水溶液は再生部32に送られ、再生処理を受ける。再生処理では、二酸化炭素を吸収したモノエタノールアミン水溶液が加熱され、二酸化炭素がモノエタノールアミン水溶液から分離される。再生処理において必要となる熱量は、発電機7やメタネーション反応装置6から供給されるとよい。再生部32においてモノエタノールアミン水溶液から分離された二酸化炭素は再生部32から外部に供給され、二酸化炭素が取り除かれたモノエタノールアミンは吸収部31に循環される。
【0036】
CO分離装置8の吸収部31は通路34によって脱水素反応装置4のシェルと接続されている。脱水素反応装置4のシェルを通過した排出ガスは、通路34を介して吸収部31に供給される。吸収部31に供給された排出ガスは、その成分である二酸化炭素がモノエタノールアミン水溶液に吸収される。一方、二酸化炭素が分離された排出ガスは、その主成分が窒素となり、吸収部31から通路35に排出される。通路35は、公知の清浄化工程等に接続され、最終的に大気中に放出される。吸収部31において二酸化炭素を吸収したモノエタノールアミン水溶液は、再生部32に送られ、再生処理を受ける。これにより、二酸化炭素を吸収したモノエタノールアミン水溶液は、気体の二酸化炭素と液体のモノエタノールアミン水溶液とに分離される。再生部32においてモノエタノールアミン水溶液から分離された二酸化炭素は、圧縮機で加圧されてメタネーション反応装置6に供給され、二酸化炭素が取り除かれたモノエタノールアミンは吸収部31に循環される。
【0037】
メタネーション反応装置6は、脱水素反応装置4から通路22を介して供給される水素と、CO分離装置8の再生部32から通路41を介して供給される二酸化炭素とを用いて逆シフト反応を行い、一酸化炭素と水を生成する。この反応は、触媒の存在下において行われ、以下の反応式(1)に基づく。
【数1】
この反応は、高温であるほど一酸化炭素が生成する側(右側)に平衡が偏るため、高温下で反応を行うと有利である。
【0038】
また、メタネーション反応装置6は、供給された水素及び二酸化炭素と、逆シフト反応によって生成された一酸化炭素とを原料とし、触媒の存在下においてメタネーション反応によってメタンを生成する。メタネーション反応は、以下の反応式に基づく。
【数2】
【数3】
【0039】
反応式(2)及び(3)は、平衡反応であり、左側から右側に進む方向が、発熱反応であると共に、モル数が減少するため、化学平衡の観点からは低温、高圧であるほど右側に進み易くなる。この反応は、平衡反応であるため、生成物にはメタン、水素及び二酸化炭素が含まれる。以上のように、メタネーション反応装置6は、逆シフト反応によって二酸化炭素と水素とから一酸化炭素を生成する逆シフト工程と、メタネーション反応によって二酸化炭素及び一酸化炭素の少なくとも一方と水素とからメタンを生成するメタネーション工程と行う。
【0040】
メタネーション反応装置6から供給されるガスは、メタンと、未反応の水素及び二酸化炭素とを含み、通路43を介して発電機7に輸送される。メタネーション反応装置6から発電機7に供給されるガスから二酸化炭素を除去したい場合には、通路43上にCO分離装置を設けるとよい。このCO分離装置はCO分離装置8と同様の構成であってよい。メタネーション反応装置6における逆シフト反応及びメタネーション反応によって生成した水は、メタン、水素、及び二酸化炭素から分離され、メタネーション反応装置6の外部に排出される。
【0041】
発電機7には、通路23を介して脱水素反応装置4から水素が供給され、通路43を介してメタネーション反応装置6からメタン、水素及び二酸化炭素が供給され、燃料通路47を介して燃料タンク3から燃料が供給される。通路23、通路43、及び燃料通路47の経路上には、それぞれ流量制御弁51、52、53が設けられている。各流量制御弁51、52、53の開度を制御することで、通路23、通路43、及び燃料通路47を介して発電機7に供給されるガス量の比率を変更することができる。すなわち、各流量制御弁51、52、53の開度を制御することによって、発電機7に供給される水素、メタン、天然ガスの比率を変更することができる。発電機7は、各通路23、45、47から供給される燃料、水素及びメタンを燃焼し、発生した熱量を電力に変換し、電力を外部に供給する。すなわち、発電機7は、化石燃料やメタン、水素を燃焼させたエネルギーを電力に変換する発電工程を行う。また、発電機7では、燃料、水素及びメタンの燃焼によって、二酸化炭素及び窒素を含む排出ガスが発生する。
【0042】
発電機7で発生した排出ガスは、上述したように脱水素反応装置4のシェルに送られ、チューブを加熱するための熱源として使用され、その後、CO分離装置8に送られ、二酸化炭素が分離された後、清浄化工程等を経て大気中に放出される。
【0043】
メタネーション反応装置6と脱水素反応装置4とに設けられた熱交換器12は、メタネーション反応装置6から熱を受け取り、脱水素反応装置4に熱を与える構成となっている。熱交換器12は、メタネーション反応装置6におけるメタネーション反応によって生じる熱量を利用して水蒸気を加熱し、加熱された水蒸気を脱水素反応装置4に輸送し、水蒸気でチューブ内の水素化芳香族化合物及び触媒を加熱する。
【0044】
このように、脱水素反応装置4における脱水素反応に必要な熱量は、メタネーション反応装置6におけるメタネーション反応によって生じた熱量と、発電機7において生じた排出ガスの熱量とが使用される。
【0045】
また、メタネーション反応装置6におけるメタネーション反応によって生じた熱量は、CO分離装置8の再生部32に供給され、モノエタノールアミンの再生に使用されてもよい。
【0046】
以上のように構成したエネルギー供給システム1では、水素を外部に供給するための水素製造設備と、電力を外部に供給する発電機7とを有する。すなわち、エネルギー供給システム1は、発電機を備えた水素ステーション、或いは水素製造設備を備えた発電所ということもできる。そして、水素製造設備によって生成された水素の一部を使用して、発電機7から生じる排出ガス中に含まれる二酸化炭素をメタンに変換するため、エネルギー供給装置から外部に排出される二酸化炭素量を抑制することができる。メタネーション反応によって二酸化炭素と水素とから生成されたメタンが燃料として発電機7に供給されるため、燃料供給ラインから供給される燃料の使用量を抑制することができる。
【0047】
また、メタネーション反応装置6におけるメタネーション反応によって生じる熱量、及び発電機7から生じる排出ガスの熱量を利用して、脱水素反応装置4における脱水素反応、及びCO分離装置8の再生部32におけるモノエタノールアミンの再生処理を行うため、脱水素反応及び再生処理のために熱量を追加する必要がない。すなわち、付加的なエネルギー使用量が抑制され、対応した二酸化炭素排出量が抑制される。
【0048】
本実施形態に係るエネルギー供給システム1は、電力及び水素の需要量や、水素化芳香族化合物や燃料の供給量(水素化芳香族化合物タンク2及び燃料タンク3の貯蔵量)に基づいて供給する水素量及び電力量を調整することができる。例えば、水素化芳香族化合物や化石燃料の供給量が十分であり、電力の需要よりも水素の需要が大きい場合、水素の供給量を増加させることを最も優先させ、メタネーション反応に使用する水素を低減するとよい。メタネーション反応に必要な水素が不足する場合には、メタネーション反応を停止し、発電機7は燃料タンク3から燃料通路47を介して供給される燃料のみを使用して発電を行う。メタネーション反応を停止すると、メタネーション反応装置6への二酸化炭素の供給は不要になるため、CO分離装置8を停止させるとよい。この場合、発電機7からの排出ガスは、CO分離装置8の吸収部31を通過して通路35から外部に放出される。
【0049】
なお、他の実施形態では、通路41の経路上に貯蔵タンクを設けてもよい。この場合には、メタネーション反応装置6への二酸化炭素の供給が不要になったときに、CO分離装置8において二酸化炭素を分離し、その二酸化炭素を貯蔵タンクに貯蔵することができ、二酸化炭素の大気中への放出を避けることができる。他の実施形態では、不要となった二酸化炭素を地中や海底中に注入し、固定してもよい。
【0050】
また、エネルギー供給システム1は、水素化芳香族化合物の供給量が十分であり、化石燃料の供給量が不足している場合、或いは燃料が高騰している場合等には、メタネーション反応によるメタンの生成量を増加させ、生成したメタンを化石燃料に代替して燃焼させることによって、化石燃料の使用量を抑制することができる。
【0051】
また、エネルギー供給装置から排出される二酸化炭素量を抑制したい場合には、メタネーション反応によるメタンの生成量の増加を優先させ、大気中に放出する二酸化炭素量を低減するとよい。
【0052】
以上のように、本実施形態に係るエネルギー供給装置は、電力及び水素の需要量や、水素化芳香族化合物や化石燃料の供給量(貯蔵量)、二酸化炭素排出量の低減要求に応じて運転状態を変更することができる。
【0053】
(第2実施形態)
次に、図2を参照して第2実施形態に係るエネルギー供給システム70を説明する。図2は、第2実施形態に係るエネルギー供給システム70の構成を示すブロック図である。第2実施形態に係るエネルギー供給システム70は、第1実施形態に係るエネルギー供給システム1と比較して、メタネーション反応装置6と発電機7との間に水素分離装置71を有する点と、通路23が省略された点と、発電機73の形態とが相違する。第2実施形態に係るエネルギー供給システム70において、第1実施形態に係るエネルギー供給システム1と同様の構成については、同様の符号を付して説明を省略する。
【0054】
第2実施形態に係るエネルギー供給システム70では、メタネーション反応装置6から供給されるガスは、発電機7に供給される前に水素分離装置71に供給される。水素分離装置71は、圧力スイング吸着法や水素分離膜を使用した公知の装置であってよく、メタン及び一酸化炭素と、水素とを分離する。水素分離装置71は、通路43の経路上に設けられている。水素分離装置71によって分離された水素は、通路75を介してメタネーション反応装置6に供給される。他の実施形態では、水素分離装置71によって分離された水素は、水素供給ライン24に供給されてもよい。水素分離装置71によって水素が分離されたメタンは、発電機73に供給される。
【0055】
発電機73は、化石燃料専焼型の発電機である。第2実施形態に係るエネルギー供給システム70では、水素分離装置71を設け、発電機7に供給されるメタンから水素を除去する。そのため、発電機73は、水素混焼型の発電機でなくてもよく、従来型の化石燃料専焼の発電機を使用することができる。好ましくは、エネルギー供給装置の発電機7は、天然ガスのみを燃料とする発電機7であってよい。天然ガスのみを燃料とする発電機7は、広く普及しているため、適用が容易である。
【0056】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。上記実施形態におけるエネルギー供給システム1、70のCO分離装置8は、選択的な構成であり、他の実施形態では省略し、脱水素反応装置4を通過した排出ガスを直接にメタネーション反応装置6に供給してもよい。上記のエネルギー供給システム1、70は、プラントに限らず、例えば自動車等に搭載可能な小型装置として構成されてもよい。また、エネルギー供給システム1、70は、水素供給ライン24の経路上に水素貯蔵タンクを有してもよい。また、発電機7には、レシプロ型エンジン等の内燃機関を適用してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1、70…エネルギー供給システム、2…水素化芳香族化合物タンク、3…燃料タンク、4…脱水素反応装置、6…メタネーション反応装置、7、73…発電機、8…CO分離装置、10…芳香族化合物タンク、12…熱交換器、24…水素供給ライン、31…吸収部、32…再生部、71…水素分離装置
図1
図2