(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2および3の回転円筒体(マグネットローラ)では、永久磁石を覆う外側の表面は、ステンレスなどの非磁性金属により形成されているため、特許文献1に記載のように処理対象水にアルカリ水や塩化アンモニウムなどの強い腐食性の物質が含有されている場合には、ステンレスなどの非磁性金属が腐食される場合があるという問題点がある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、耐食性をより向上させることが可能なマグネットローラおよびマグネットローラの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の第1の局面によるマグネットローラは、磁気分離を行うためのマグネットローラであって、回転軸を含むローラ本体と、ローラ本体の外表面に配置された永久磁石と、ローラ本体および永久磁石を覆うように複数の層を積層して形成された耐食性樹脂層と
、ローラ本体および永久磁石と、耐食性樹脂層との間に配置される下地層とを備え、下地層は、繊維を含有する繊維強化樹脂層を含み、耐食性樹脂層は、繊維を含まない樹脂を複数積層して形成されている。
【0009】
この発明の第1の局面によるマグネットローラでは、上記のように、ローラ本体および永久磁石を覆うように複数の層を積層して形成した耐食性樹脂層を設けることによって、ステンレスなどの金属を用いる場合よりも耐食性樹脂層によりマグネットローラの耐食性をより向上させることができる。これにより、アルカリ水や塩化アンモニウムなどの強い腐食性の物質が含有されている液体中に浸かった状態でもマグネットローラを使用することができる。また、複数の層を積層して耐食性樹脂層を形成することにより、単一の層により形成した場合に比べて、耐食性樹脂層の強度を高めることができる。また、永久磁石の表面を覆うように金属製の円筒を嵌め込む場合には、金属製の円筒を永久磁石の外表面に嵌め込み易いように金属製の円筒の内径寸法を永久磁石の表面の外径よりも大きくする必要があるのに対して、本発明では、永久磁石の表面を覆うように複数の層を直接的に積層することができるので、その分、永久磁石表面からマグネットローラの外表面までの厚みを小さくすることができる。これにより、マグネットローラの磁気特性を優れたものにすることができる。
【0010】
また、ローラ本体および永久磁石に直接耐食性樹脂層を積層する場合と異なり、下地層を介して耐食性樹脂層を積層することができるので、ローラ本体および永久磁石に対して耐食性樹脂層を容易に積層することができる。
【0011】
また、繊維強化樹脂層により、下地層の強度を高めることができる。また、マグネットローラの表面に付着させた金属異物(スラッジ)などを掻き取ることによりマグネットローラの表面が摩耗する場合でも、繊維を含まない耐食性樹脂層により、繊維による毛羽立ちを防止することができる。これにより、マグネットローラの表面に付着させた金属異物などを適切かつ確実に掻き取ることができる。
【0012】
上記第1の局面によるマグネットローラにおいて、好ましくは、繊維強化樹脂層に含まれる樹脂は、耐食性樹脂層と同じ樹脂により形成されている。このように構成すれば、同じ樹脂を用いることにより下地層に対して耐食性樹脂層をより容易に積層することができる。また、耐食性樹脂層と同じ樹脂を繊維強化樹脂層の樹脂として用いることにより、繊維強化樹脂層からなる下地層の腐食も抑制することができるので、マグネットローラの耐食性をより向上させることができる。
【0013】
上記第1の局面によるマグネットローラにおいて、好ましくは、耐食性樹脂層の積層された各々の層は、下地層よりも小さい厚みを有する。このように構成すれば、耐食性樹脂層の各々の層を厚く形成する場合に比べて、ひび割れや欠けなどを効果的に抑制することができるので、耐食性樹脂層の強度をより高めることができる。
【0014】
この場合、好ましくは、耐食性樹脂層の積層された各々の層は、
0.1mm以上0.2mm以下の厚みを有する。このように構成すれば、0.2mm以下の層を複数積層することにより、耐食性樹脂層の強度を高めることができる。
【0015】
上記第1の局面によるマグネットローラにおいて、好ましくは、耐食性樹脂層は、ビニルエステル樹脂により形成されている。このように構成すれば、ビニルエステル樹脂により、酸、アルカリおよび塩化アンモニウムなどに対する耐食性樹脂層の耐食性を効果的に向上させることができる。
【0016】
この発明の第2の局面によるマグネットローラの製造方法は、磁気分離を行うためのマグネットローラの製造方法であって、回転軸を含むローラ本体を製造する工程と、ローラ本体の外表面に永久磁石を配置する工程と、ローラ本体および永久磁石を覆うように、樹脂材料層を形成した後硬化させる工程を繰り返すことにより、複数の層を積層して耐食性樹脂層を形成する工程とを備える。
【0017】
この発明の第2の局面によるマグネットローラの製造方法では、上記のように、ローラ本体および永久磁石を覆うように、樹脂材料層を形成した後硬化させる工程を繰り返すことにより、複数の層を積層して耐食性樹脂層を形成することによって、単一の層により形成した場合に比べて、耐食性樹脂層の強度を高めながら、耐食性樹脂層によりマグネットローラの耐食性をより向上させることができる。これにより、アルカリ水や塩化アンモニウムなどの強い腐食性の物質が含有されている液体中に浸かった状態でも使用可能なマグネットローラを容易に製造することができる。
【0018】
上記第2の局面によるマグネットローラの製造方法において、好ましくは、耐食性樹脂層を形成する工程に先立って、ローラ本体および永久磁石の表面に下地層を形成する工程をさらに備える。このように構成すれば、下地層によりマグネットローラの強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上記のように、マグネットローラの耐食性をより向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
まず、
図1、
図2および
図9を参照して、本発明の一実施形態によるマグネットローラ10の構造について説明する。
【0023】
本発明の一実施形態によるマグネットローラ10は、
図1に示すように、磁気分離システム100に用いられる。磁気分離システム100は、塗装ラインや、メッキラインなどに用いられ、装置200による塗装またはメッキを行う前のワークの洗浄処理に使われる洗浄液(処理対象水)を処理するように構成されている。また、磁気分離システム100は、磁気分離部1と、サブタンク2と、洗浄槽3と、ポンプ4とを備える。なお、処理対象水には、洗浄液として、アルカリ水や塩化アンモニウムなどの腐食性の強い物質が含まれている。磁気分離システム100は、洗浄処理に使用された洗浄液の廃液(処理対象水)を再利用するために、洗浄されたワークから落とされた金属異物(スラッジ)6を磁気により分離して取り除くように構成されている。
【0024】
磁気分離システム100は、処理対象水を洗浄槽3からポンプ4により磁気分離部1に送って、磁気分離部1により処理対象水から金属異物(スラッジ)6を分離し、サブタンク2を介して処理した洗浄液を洗浄槽3に戻すように構成されている。
【0025】
マグネットローラ10は、
図1に示すように、下側が処理対象水中に浸かるように配置されている。また、マグネットローラ10は、回転軸11a(
図2参照)を中心にして駆動部(図示せず)により回転されるように構成されている。また、マグネットローラ10は、水中で金属異物(スラッジ)6を吸着するとともに、大気中で金属異物6が掻き取られるように構成されている。これにより、水中から大気中に回転するまでに金属異物6の水分が下に落ちるので、金属異物6の含水量を軽減することが可能である。また、マグネットローラ10は、掻き取り位置において当接されたスクレーパー5により金属異物6が掻き取られるように構成されている。なお、スクレーパー5は、POM(ポリアセタール)などの樹脂により形成されている。これにより、金属製のスクレーパーを用いる場合に比べて、マグネットローラ10の摩耗を抑制することが可能である。
【0026】
ここで、本実施形態では、マグネットローラ10は、
図2に示すように、回転軸11aを含むローラ本体11と、ローラ本体11の外表面に配置された複数の永久磁石12と、ローラ本体11および永久磁石12を覆うように複数の層14a(
図9参照)を積層して形成された耐食性樹脂層14とを備える。また、マグネットローラ10は、ローラ本体11および複数の永久磁石12と、耐食性樹脂層14との間に配置される下地層13を備える。
【0027】
回転軸11aは、マグネットローラ10を回転可能に支持するように構成されている。ローラ本体11は、回転軸11aに沿って延びる円柱形に形成されている。また、ローラ本体11は、ステンレス(SUS)により形成されている。また、ローラ本体11の外表面には、断面が略長方形で回転軸11aの方向に沿って延びる棒形状の複数の永久磁石12が配置されている。
【0028】
複数の永久磁石12は、ローラ本体11の全周囲を覆うように14個取り付けられている。また、複数の永久磁石12は、マグネットローラ10の半径方向外側にN極とS極とが交互に配列されるように配置されている。また、複数の永久磁石12は、ネオジム磁石(Nd−Fe−B系磁石)により構成されている。また、
図2および
図9に示すように、マグネットローラ10は、永久磁石12の表面から、マグネットローラ10の表面まで最厚の位置(永久磁石12の幅中央位置)で厚みt1を有する。
【0029】
下地層13は、ローラ本体11および永久磁石12の表面に配置されている。つまり、下地層13は、ローラ本体11および永久磁石12に、耐食性樹脂層14を積層しやすくするために設けられている。ここで、下地層13は、接着層13a(
図5参照)と、繊維部材13b(
図5参照)を含む繊維強化樹脂層13c(
図6参照)とを含むのが好ましい。また、下地層13は、
図9に示すように、永久磁石12の表面(永久磁石12の幅中央位置)から厚みt2(たとえば、1mm)を有するように形成されている。接着層13aは、ローラ本体11および永久磁石12の表面に配置されている。つまり、接着層13aは、下地層13のローラ本体11および永久磁石12に対する接着性を上げるために設けられている。
【0030】
繊維強化樹脂層13cは、FRP(繊維強化プラスチック)により形成されている。具体的には、繊維強化樹脂層13cは、ガラスマットなどの繊維部材13bに樹脂を塗布して硬化させて形成されている。なお、繊維強化樹脂層13cの樹脂として、ビニルエステル樹脂(たとえば、R−804(昭和高分子株式会社製)など)が用いられる。
【0031】
耐食性樹脂層14は、
図2に示すように、下地層13の外側に積層されている。また、耐食性樹脂層14は、繊維強化樹脂層13cに含まれる樹脂と同じビニルエステル樹脂により形成されている。また、耐食性樹脂層14は、
図9に示すように、繊維を含まないビニルエステル樹脂のみが複数積層されて形成されている。また、耐食性樹脂層14の積層された各々の層14aは、下地層13の厚みt2(たとえば、1mm)よりも小さい厚みt3a(たとえば、0.1mm)を有する。また、複数の層14aが積層された耐食性樹脂層14は、下地層13の表面から厚みt3(たとえば、3mm)を有するように形成されている。
【0032】
本実施形態では、上記のように、ローラ本体11および永久磁石12を覆うように複数の層14aを積層して形成した耐食性樹脂層14を設けることによって、ステンレスなどの金属を用いる場合よりも耐食性樹脂層14によりマグネットローラ10の耐食性をより向上させることができる。これにより、アルカリ水や塩化アンモニウムなどの強い腐食性の物質が含有されている液体中に浸かった状態でもマグネットローラ10を使用することができる。また、複数の層14aを積層して耐食性樹脂層14を形成することにより、単一の層により形成した場合に比べて、耐食性樹脂層14の強度を高めることができる。また、永久磁石12の表面を覆うように金属製の円筒を嵌め込む場合には、金属製の円筒を永久磁石の外表面に嵌め込み易いように金属製の円筒の内径寸法を永久磁石の表面の外径よりも大きくする必要があるのに対して、本実施形態では、永久磁石12の表面を覆うように複数の層14aを直接的に積層することができる。その分、空間が発生しないので、永久磁石12表面からマグネットローラ10の外表面までの厚みt1を小さくすることができる。これにより、マグネットローラ10の磁気特性を優れたものにすることができる。
【0033】
また、本実施形態では、上記のように、ローラ本体11および永久磁石12と、耐食性樹脂層14との間に配置される下地層13を設けることによって、ローラ本体11および永久磁石12に直接耐食性樹脂層14を積層する場合と異なり、下地層13を介して耐食性樹脂層14を積層することができるので、ローラ本体11および永久磁石12に対して耐食性樹脂層14を容易に積層することができる。
【0034】
また、本実施形態では、上記のように、下地層13は、繊維を含有する繊維強化樹脂層13cを含み、耐食性樹脂層14は、繊維を含まない樹脂を複数積層して形成する。これにより、繊維強化樹脂層13cにより、下地層13の強度を高めることができる。また、マグネットローラ10の表面に付着させた金属異物(スラッジ)6を掻き取ることによりマグネットローラ10の表面が摩耗する場合でも、繊維を含まない耐食性樹脂層14により、繊維による毛羽立ちを防止することができる。その結果、マグネットローラ10の表面に付着させた金属異物6を適切かつ確実に掻き取ることができる。
【0035】
また、本実施形態では、上記のように、繊維強化樹脂層13cに含まれる樹脂を、耐食性樹脂層14と同じ樹脂により形成する。これにより、同じ樹脂を用いることにより下地層13に対して耐食性樹脂層14をより容易に積層することができる。また、耐食性樹脂層14と同じ樹脂を繊維強化樹脂層13cの樹脂として用いることにより、繊維強化樹脂層13cからなる下地層13の腐食も抑制することができるので、マグネットローラ10の耐食性をより向上させることができる。
【0036】
また、本実施形態では、上記のように、下地層13は、ローラ本体11および永久磁石12の表面に配置された接着層13aを含む。これにより、ローラ本体11および永久磁石12に対して下地層13を強固に接合することができる。
【0037】
また、本実施形態では、上記のように、耐食性樹脂層14の積層された各々の層14aは、下地層13よりも小さい厚みt3aを有する。これにより、耐食性樹脂層14の各々の層14aを厚く形成する場合に比べて、ひび割れや欠けなどを効果的に抑制することができるので、耐食性樹脂層14の強度をより高めることができる。
【0038】
また、本実施形態では、上記のように、耐食性樹脂層14は、ビニルエステル樹脂により形成されている。これにより、ビニルエステル樹脂により、酸、アルカリおよび塩化アンモニウムなどに対する耐食性樹脂層14の耐食性を効果的に向上させることができる。
【0039】
次に、
図3〜
図9を参照して、本発明の一実施形態によるマグネットローラ10の製造方法について説明する。
【0040】
マグネットローラ10の製造方法は、ローラ本体を製造する工程と、永久磁石を配置する工程と、下地層を形成する工程と、耐食性樹脂層を形成する工程とを備える。ここで、下地層を形成する工程は、さらに、接着層形成工程と、繊維部材取付工程と、繊維強化樹脂層を形成する工程とを含む。また、耐食性樹脂層を形成する工程は、さらに、耐食性樹脂層の積層工程と、耐食性樹脂層の切削工程とを含む。
【0041】
ローラ本体製造工程では、回転軸11aを含むローラ本体11が製造される。ローラ本体11は、ステンレス(SUS)により形成される。永久磁石を配置する工程では、
図3に示すように、ローラ本体11の外表面に複数の永久磁石12が取り付けられる。また、永久磁石を配置する工程では、複数の永久磁石12が、ローラ本体11の外周に沿って外側に向いてN極とS極とが交互になるように配置される。
【0042】
下地層を形成する工程のうち、接着層形成工程では、
図4に示すように、ローラ本体11および永久磁石12の表面に接着層13aが形成される。具体的には、ローラ本体11および永久磁石12の表面に接着剤が塗布される。下地層を形成する工程のうち、繊維部材取付工程では、
図5に示すように、ローラ本体11および永久磁石12の表面に接着層13aを介して、繊維部材13b(ガラスマット)が取り付けられる。この際、繊維部材13bは、隣接する永久磁石12の間にも詰められるように取り付けられる。また、繊維部材13bは、外周面の断面がローラ本体11と同心上にあり、かつ略円形状になるように取り付けられる。
【0043】
下地層を形成する工程のうち、繊維強化樹脂層を形成する工程では、
図6に示すように、繊維部材13bにビニルエステル樹脂(たとえば、R−804)を塗布して浸透させる。その後、ビニルエステル樹脂を硬化させて、繊維強化樹脂層13cが形成される。また、下地層を形成する工程のうち、繊維強化樹脂層を形成する工程では、繊維強化樹脂層13cが永久磁石12の表面からt2の厚み(
図9参照)を有するように形成される。これにより、下地層13がローラ本体11および永久磁石12の表面に形成される。
【0044】
ここで、本実施形態の耐食性樹脂層を形成する工程では、そのうちで耐食性樹脂層の積層工程にて、
図7に示すように、下地層13、ローラ本体11および永久磁石12を覆うように、樹脂材料層を形成した後硬化させる工程を繰り返すことにより、複数の層14aが積層されて耐食性樹脂層14が形成される。具体的には、下地層13の表面に、繊維部材を含まないビニルエステル樹脂の層14aが積層される。また、耐食性樹脂層の積層工程では、塗装用ローラまたは塗装用はけなどを用いて表面にビニルエステル樹脂を塗布し、乾燥させて硬化させる工程を60〜70回程繰り返して複数の層14aが積層される。また、積層される各々の層14aは、0.1mm程度になるように積層される。なお、
図7では、層14aを厚めに描いているため、層の数が実際より少なく描かれている。また、耐食性樹脂層の積層工程では、ビニルエステル樹脂の塗りムラや、重力による垂れなどにより、耐食性樹脂層14の表面に波状部14bが形成される。
【0045】
耐食性樹脂層の形成工程のうち、耐食性樹脂層の切削工程では、
図8に示すように、耐食性樹脂層の表面に形成された波状部14bが切削される。具体的には、耐食性樹脂層14の表面の波状部14bが旋盤により切削される。これにより、耐食性樹脂層14の外表面14cの断面がローラ本体11と同心上にあり、かつ略円形状に形成される。なお、
図8では、
図7と同様に、層14aを厚めに描いているため、層の数が実際より少なく描かれている。以上により、マグネットローラ10が完成する。
【0046】
本実施形態によるマグネットローラ10の製造方法では、上記のように、ローラ本体11および永久磁石12を覆うように、樹脂材料層を形成した後硬化させる工程を繰り返すことにより、複数の層14aを積層して耐食性樹脂層14を形成することによって、単一の層により形成した場合に比べて、耐食性樹脂層14の強度を高めながら、耐食性樹脂層14によりマグネットローラ10の耐食性をより向上させることができる。これにより、アルカリ水や塩化アンモニウムなどの強い腐食性の物質が含有されている液体中に浸かった状態でも使用可能なマグネットローラ10を容易に製造することができる。
【0047】
次に、
図2に示した実施形態によるマグネットローラ10の特性および
図10に示した比較例によるマグネットローラ20の特性について説明する。
【0048】
図10に示すように、比較例によるマグネットローラ20では、回転軸21aを含むローラ本体21と、ローラ本体21の外表面に配置された複数の永久磁石22と、ローラ本体21および永久磁石22を覆うステンレス(SUS)製の円筒部(パイプ)23とを備える。
【0049】
回転軸21aは、マグネットローラ20を回転可能に支持するように構成されている。ローラ本体21は、回転軸21aに沿って延びる円柱形に形成されている。また、ローラ本体21は、ステンレス(SUS)により形成されている。また、ローラ本体21の外表面には、断面が略長方形で回転軸21aの方向に沿って延びる棒形状の複数の永久磁石22が配置されている。円筒部23は、円筒形に形成されている。また、円筒部23は、t1(
図2参照)とほぼ等しいtaの厚みを有する。また、複数の永久磁石22が取り付けられたローラ本体21を、円筒部23に装填する(嵌め込む)ことにより、マグネットローラ20が組み立てられる。
【0050】
また、
図10に示すように、永久磁石22の表面から、マグネットローラ20の表面(円筒部23の外表面)までt1(
図2参照)より大きいtbの距離を有する。つまり、永久磁石22の表面を覆うように金属製の円筒部23を嵌め込むので、金属製の円筒部23を永久磁石22の外表面に嵌め込み易いように金属製の円筒部23の内側と永久磁石22の表面との間に空間が設けられている。なお、その他の構成は、上記実施形態と同様である。
【0051】
図11に示すように、実施形態によるマグネットローラ10と、
図10に示した比較例によるマグネットローラ20との強度、耐久性(摩耗、耐食)、組み付け易さ、および、磁気特性について比較した。強度について、外表面が金属製のマグネットローラ20は、外表面が樹脂製のマグネットローラ10に比べてやや優れる。摩耗に対する耐久性について、外表面が金属製のマグネットローラ20は、外表面が樹脂製のマグネットローラ10に比べてやや優れる。耐食に対する耐久性について、外表面が耐食性樹脂製のマグネットローラ10は、外表面が金属製(ステンレス)のマグネットローラ20に比べて特に優れている。
【0052】
組み付け易さについて、マグネットローラ10では、下地層13および耐食性樹脂層14を積層させるため、ローラ本体21を円筒部23に装填する作業がない。一方、マグネットローラ20では、ローラ本体21を円筒部23に装填するため、下地層13および耐食性樹脂層14を積層する作業がない。よって、組み付け易さについては、マグネットローラ10および20は、同等である。
【0053】
磁気特性については、t1がtaと同じ厚さである場合、比較例によるマグネットローラ20のように円筒部23を永久磁石22の表面を覆うように嵌め込む構造では、円筒部23を永久磁石22の外表面に嵌め込み易いように円筒部23の内径寸法を永久磁石22の表面の外径よりも大きくする必要があるため、空間が空いてしまい、永久磁石22の表面からマグネットローラ20(円筒部23)の外表面までの厚み(距離)tbが大きくなりやすい。このため、ギャップが大きくなり、マグネットローラ20はマグネットローラ10に比べて磁気特性が劣る(表面の磁束密度が小さい)。これに対して、本実施形態によるマグネットローラ10では、永久磁石12の表面に下地層13を介して耐食性樹脂層14を直接形成することにより、空間ができないため、永久磁石12の表面からマグネットローラ10(耐食性樹脂層14)の外表面までの厚み(距離)t1を小さくすることができる。これにより、ギャップを最小限にすることができるので、マグネットローラ10はマグネットローラ20に比べて磁気特性に優れる(表面の磁束密度が大きい)。つまり、マグネットローラ10(耐食性樹脂層14)の外表面までの厚み(距離)t1と金属製の円筒部23の厚みtaが同じ場合、空間が発生しない分、マグネットローラ10の磁気特性の方が優れたものになる。
【0054】
つまり、実施形態によるマグネットローラ10は、耐食性および磁気特性に特に優れていると言える。したがって、マグネットローラ10は、磁力を低下させることなく腐食環境化で使用する場合に、特に有用である。
【0055】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0056】
たとえば、上記実施形態では、ローラ本体および永久磁石と、耐食性樹脂層との間に下地層を設ける構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、下地層を設けずに、ローラ本体および永久磁石に直接耐食性樹脂層を形成してもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、マグネットローラの円周方向に沿って複数の永久磁石が配置されている構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、マグネットローラは、1つの永久磁石を備える構成であってもよいし、円周方向の一部に偏るように永久磁石を配置する構成であってもよい。
【0058】
また、本発明では、永久磁石と永久磁石との間に非磁性金属、または樹脂を配置してもよい。これにより、下地層の形成が簡便にでき、効率よく耐食性樹脂層を設けることが可能である。
【0059】
また、上記実施形態では、耐食性樹脂層および繊維強化樹脂層を形成する樹脂として、同じビニルエステル樹脂を用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、耐食性樹脂層および繊維強化樹脂層を形成する樹脂として、互いに異なる樹脂を用いてもよい。また、耐食性樹脂層を形成する樹脂として、ビニルエステル樹脂以外の樹脂を用いてもよい。たとえば、イソフタル酸を主成分とするポリエステル樹脂や、オルソ系の樹脂などを用いてもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、繊維強化樹脂層の繊維部材としてガラスマットを用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、繊維強化樹脂層の繊維部材として、たとえば、ガラスクロス、ロービングクロス、ガラスパウダー、カーボンクロスなどを用いてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、耐食性樹脂層を複数の層を積層して形成する際に、樹脂を塗装用ローラまたは塗装用はけなどを用いて塗布する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、耐食性樹脂層を複数の層を積層して形成する際に、樹脂を吹き付けるガンにより吹き付けて塗装して積層してもよい。また、マグネットローラを回転させながら、マグネットローラの表面に樹脂を付着させつつ、乾燥させて硬化させるようにして複数の層を形成してもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、耐食性樹脂層の積層された各々の層が0.1mmの厚みを有するように形成する例を示したが、本発明は、これに限られない。本発明では、積層された各々の層が0.1mm以外の0.2mm以下の厚みを有するように形成してもよい。