(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
矩形板状のスパッタリングターゲットの外周部に対応して設けられた矩形環状の外周磁極と、該外周磁極の内側に外周磁極の長辺方向に延在するように配置された中心磁極とからなる磁界発生機構を備えたマグネトロンスパッタリングカソードであって、前記中心磁極が前記外周磁極の短辺方向に往復動すると共に、前記外周磁極がその長辺方向に往復動し、前記中心磁極が取り付けられている中心磁極往復動手段と前記外周磁極が取り付けられている外周磁極往復動手段とが互いに独立していることを特徴とするマグネトロンスパッタリングカソード。
前記外周磁極はその長辺方向に沿って敷設された第1リニアガイドにガイドされながら第1クランクの駆動により往復動されるものであり、前記中心磁極は前記外周磁極の短辺方向に沿って敷設された第2リニアガイドにガイドされながら第2クランクの駆動により往復動されるものであることを特徴とする、請求項1に記載のマグネトロンスパッタリングカソード。
前記外周磁極の長辺の長さがスパッタリングターゲットの長辺の長さの85〜98%であり、前記外周磁極が往復動する移動幅が前記スパッタリングターゲットの長辺の長さの5%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のマグネトロンスパッタリングカソード。
ロールツーロールで搬送される長尺基板の搬送経路の上方に、該長尺基板の少なくとも一方の面に対向するように設けられたスパッタリングカソードを備えたスパッタリング成膜装置であって、このスパッタリングカソードが請求項1〜3のいずれかに記載のマグネトロンスパッタリングカソードであり、且つ前記スパッタリングカソードの長辺方向が長尺基板の搬送方向に直交する方向に配されていることを特徴とするスパッタリング成膜装置。
減圧雰囲気下で矩形板状のスパッタリングターゲットを備えたマグネトロンスパッタリングカソードを用いるスパッタリング成膜方法において、前記マグネトロンスパッタリングカソードが請求項1〜3のいずれかに記載のスパッタリングカソードであることを特徴とするスパッタリング成膜方法。
【背景技術】
【0002】
従来のマグネトロンスパッタリングカソードは、
図1に示すように、スパッタ粒子を放出するスパッタリングターゲット31がバッキングプレート32に固定され、バッキグプレート32はターゲット押さえ33により冷却板34の外周に固定されている。冷却板34とスパッタリングカソード本体35で画定される空間に磁気発生機構が格納されている。
【0003】
この磁気発生機構は、棒状の中心磁極39とこれを囲む外周磁極38とからなる磁極対から構成されている。そして、外周磁極38と中心磁極39の低面はヨーク材40に接し磁気回路を構成している。また、スパッタリングカソード本体35は、絶縁層36の表面に配されており、スパッタリングカソード本体35の周囲にはアノード37が配されている。
【0004】
上記構成において、被成膜用基材面にスパッタリングターゲットを対向させ、これらの配設空間を真空下としてアルゴンガスを導入した状態で、スパッタリングターゲットに電圧を印加すると、スパッタリングターゲットから放出された電子によりアルゴンガスがイオン化し、このイオン化されたアルゴンガスがスパッタリングターゲットの表面に衝突してスパッタリングターゲットを構成するターゲット物質がたたき出さる。
【0005】
たたき出されたターゲット物質は被成膜用基材面に堆積し、これにより薄膜が形成される。スパッタリングターゲットからターゲット物質がたたき出されると、ターゲット表面にはエロージョンと呼ばれる局所的な侵食が生じる。この時、電子は、カソードの表面側に漏洩する磁界が電界と直交する領域に集中し、高密度プラズマが生成され、これによって被成膜用基材面に対する成膜が高速で行われる。
【0006】
ところが、このようなマグネトロンスパッタリングカソードの構成では、高速での成膜が可能であるという利点があるものの、スパッタリングターゲットの表面の一部のみから集中してスパッタ粒子がたたき出されるので、
図2のターゲットの模式的断面図に示すように、エロージョンが進むとターゲット表面に最深部において傾斜のきつい断面略V字形状の侵食部が形成される傾向にあった。すなわち、スパッタリングターゲットの使用効率が極めて低いことが問題になっていた。
【0007】
スパッタリングターゲットの使用効率を向上させる方法として、様々な提案がなされている。例えば、特許文献1には中心磁極と外周磁極の間に永久磁極を配する方法が開示されている。また、特許文献2及び特許文献3には、磁気回路全体を回転するか、あるいは往復運動させる技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に示すように磁極の配置を工夫しても、エロージョンの改善には限界があった。一方、特許文献2及び特許文献3の技術では磁気回路全体を回転あるいは往復動させるため、磁気回路はターゲットの有効面積に比べて、偏芯距離あるいは移動距離分だけ小さくする必要があり、瞬時エロージョン面積は小さくなり、実質的な電力密度は大きくなる。しかし、基板を搬送しながら処理処理を行うような連続スパッタリングスパッタ装置(例えば、ロールツーロール方式で長尺基板を搬送しながら成膜を行うスパッタリングウエブコータ)にこのようなカソードを利用すると、例えば長尺基板の幅方向の膜厚にばらつきが生じることがあった。
【0010】
本発明は上記した従来の課題に鑑みてなされたものであり、長尺基板をロールツーロールで搬送するスパッタリング成膜装置においてスパッタリング成膜の膜厚のばらつきを抑えつつスパッタリングターゲットの利用効率を向上させることが可能なマグネトロンスパッタリングカソードを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、矩形板状のスパッタリングターゲットに対応させるべく、該スパッタリングターゲットと略同サイズの長辺と短辺とで形成される矩形環状の外周磁極と、その内側に設けた中心磁極とで構成される磁界発生機構が格納されたスパッタリングカソードを用い、これら外周磁極と中心磁極との相対的な位置関係を変化させることで、膜厚分布の均一性を確保しつつ、ターゲット材の使用効率が向上すること見出し本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明のマグネトロンスパッタリングカソードは、矩形板状のスパッタリングターゲットの外周部に対応して設けられた矩形環状の外周磁極と、該外周磁極の内側に外周磁極の長辺方向に延在するように配置された中心磁極とからなる磁界発生機構を備えたマグネトロンスパッタリングカソードであって、中心磁極が前記外周磁極の短辺方向に往復動
すると共に、外周磁極がその長辺方向に往復動
し、前記中心磁極が取り付けられている中心磁極往復動手段と前記外周磁極が取り付けられている外周磁極往復動手段とが互いに独立していることを特徴としている。
【0013】
上記した本発明のマグネトロンスパッタリングカソードにおいては、外周磁極はその長辺方向に沿って敷設された第1リニアガイドにガイドされながら第1クランクの駆動により往復動されるものであり、中心磁極は前記外周磁極の短辺方向に沿って敷設された第2リニアガイドにガイドされながら第2クランクの駆動により往復動されるものであることが好ましい。
【0014】
また、外周磁極の長辺の長さがスパッタリングターゲットの長辺の長さの85〜98%であり、外周磁極が往復動する移動幅が前記スパッタリングターゲットの長辺の長さの5%以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明のスパッタリング成膜装置は、ロールツーロールで搬送される長尺基板の搬送経路の上方に、該長尺基板の少なくとも一方の面に対向するように設けられたスパッタリングカソードを備えたスパッタリング成膜装置であって、このスパッタリングカソードは上記したマグネトロンスパッタリングカソードであり、且つ前記スパッタリングカソードの長辺方向が長尺基板の搬送方向に直交する方向に配されていることを特徴としている。
【0016】
また、本発明のスパッタリング成膜方法は、減圧雰囲気下で矩形板状のスパッタリングターゲットを備えたマグネトロンスパッタリングカソードを用いるスパッタリング成膜方法であって、マグネトロンスパッタリングカソードが上記したスパッタリングカソードであることを特徴としている。このスパッタリング成膜方法においては、中心磁極の往復動と外周磁極の往復動の周期が異なることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、膜厚分布の均一性を確保しつつ、スパッタリングターゲットの使用効率を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明のマグネトロンスパッタリングカソードが好適に使用されるスパッタリング成膜装置の一具体例として、
図3に示すようなロールツーロール方式で搬送される長尺状の基材に対して連続的に成膜を行うスパッタリング成膜装置(スパッタリングウェブコータ)50を採り上げて説明する。このスパッタリング成膜装置50は、真空チャンバー51内において巻出ロール52から巻取ロール64に搬送される被成膜基材としての長尺基板Fをキャンロール56に巻き付けて冷却しながらスパッタリング成膜処理を施すものであり、例えば金属膜付耐熱性樹脂フィルムを連続的に作製することができる。
【0020】
具体的に説明すると、真空チャンバー51には、図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が具備されており、真空チャンバー51内を到達圧力10
−4Pa程度まで減圧した後、アルゴンガスや目的に応じて添加される酸素ガスなどのスパッタリングガスを導入して0.1〜10Pa程度に圧力調整できるようになっている。真空チャンバー51の形状や材質については、上記減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。
【0021】
この真空チャンバー51内に、長尺基板Fの搬送経路を画定する各種のロールが設けられている。巻出ロール52からキャンロール56までの搬送経路には、巻出ロール52から巻き出された長尺基板Fを案内するフリーロール53、長尺基板Fの張力の測定を行う張力センサロール54、及び張力センサロール54から送り出される長尺基板Fをキャンロール56に導入するモータ駆動のフィードロール55がこの順に配置されている。
【0022】
キャンロール56から巻取ロール64までの搬送経路にも、上記と同様に、キャンロール56の周速度に対する調整を行うモータ駆動のフィードロール61、長尺基板Fの張力測定を行う張力センサロール62、及び長尺基板Fを案内するフリーロール63がこの順に配置されている。
【0023】
上記巻出ロール52及び巻取ロール64では、パウダークラッチ等によりトルク制御が行われており、これにより長尺基板Fの張力バランスが保たれている。モータで回転駆動されるキャンロール56は、熱負荷の掛かるスパッタリング処理により熱せられる長尺基板Fを冷却するため、内部に冷媒が循環している。このキャンロール56の周速度に対して、フィードロール55、61の回転数が調整されており、これによりキャンロール56の外周面に長尺基板Fを密着させて搬送することができる。
【0024】
キャンロール56の外周面に対向する位置には、長尺基板Fの搬送経路に沿って4個のマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60がこの順に設けられている。これらマグネトロンスパッタリングカソード57〜60の各々には、キャンロール56の外周面に対向する面に矩形板状のスパッタリングターゲット(図示せず)が取り付けられており、これらスパッタリングターゲットから叩き出されたターゲット物質が長尺基板Fの表面上に堆積して金属膜の成膜が行われる。
【0025】
矩形板状のスパッタリングターゲットは、その長辺方向が長尺基板の搬送方向と略直交する向き(すなわち、長尺基板の幅方向)となるように配されている。このように、スパッタリングターゲットが矩形板状の場合は、これを使用するマグネトロンスパッタリングカソードも一般にそのターゲット保持側は、スパッタリングターゲットに対応して略相似形の矩形となっている。そして、マグネトロンスパッタリングカソードの長手方向は長尺基板の搬送方向と略直交するように配されることが望ましい。
【0026】
次に、本発明に係るマグネトロンスパッタリングカソードの一具体例を説明する。
図4はこの一具体例のマグネトロンスパッタリングカソード10を短辺方向に切断した断面図(
図7におけるY−Y線の断面図)であり、
図5は長辺方向に切断した断面図(
図7におけるX−X線の断面図)である。スパッタリングターゲット11は、バッキングプレート12に固着されている。バッキングプレート12は、ターゲット押さえ13によりOリング21を介して冷却板14の外周に固定されている。ターゲット押さえ13は、スパッタリングターゲット11においてスパッタ粒子が叩き出されるスパッタ表面を露出させるように、枠状に冷却板14の外周に配されている。
【0027】
そしてバッキングプレート12と冷却板14の間の冷却水が流れる間隙部22が形成されている。冷却水は、マグネトロンスパッタリングカソード外部から冷却水を供給する冷却水供給管P1と外部に冷却水を放出する冷却水放出管P2に導かれて間隙部22を通過する。また、冷却水供給管P1と冷却水放出管P2は、冷却板14に接続している。なお、外周磁極クランク23や中心磁極クランク24より冷却水漏れが発生しないならば、冷却板を用いずに、バッキングプレート12とスパッタリングカソード本体15により画定される空間に冷却水を導いても良い。
【0028】
この一具体例のマグネトロンスパッタリングカソード10は、矩形板状のスパッタリングターゲット11を用いるので、このスパッタリングターゲット11の形状に対応するように、スパッタリングターゲット11の保持側はスパッタリングターゲット11の面と略相似形になっている。具体的には、スパッタリングカソード本体15の内周側の長辺と短辺は、スパッタリングターゲット11の長辺と短辺に略一致する。そして、スパッタリングカソード本体15の外周は、スパッタリングターゲット11の外周より広くなる。
【0029】
この一具体例のマグネトロンスパッタリングカソード10は、スパッタリング成膜装置50に搭載されるとき、長尺基板Fの搬送方法と略直交する向き(長尺基板Fの幅方向)に配される。スパッタリングターゲット11の長辺の長さは、長尺基板Fの幅の1.2倍以上が望ましい。スパッタ粒子を飛散させたくない箇所には、長尺基板Fとスパッタリングターゲット11の間に公知のマスクを配すればよい。なお、使用する矩形状のスパッタリングターゲット11は、長辺が短辺の3倍以上の長さを有しているのが望ましく、この場合は本発明の効果がより顕著にあらわれる。
【0030】
冷却板14とスパッタリングカソード本体15とで画定される空間には磁界発生機構が格納されている。磁気発生機構は、棒状の中心磁極19とこれを囲む外周磁極18とからなる磁極対から構成されている。外周磁極18及び中心磁極19ともY−Y線及びX−X線での断面が略矩形状である。外周磁極18の底面には外周ヨーク材20aが、中心磁極19の底面には中心ヨーク材20bが配置されている。中心磁極19のスパッタリングターゲット側をN極、外周磁極18のスパッタリングターゲット側をS極とすることで、スパッタリングターゲット11の表面にはN極からS極に向けて円弧状の磁力線が形成される。なお、中心磁極19と外周磁極18は逆の極でもよく適宜選択できる。
【0031】
この一具体例のマグネトロンスパッタリングカソード10では、外周磁極18をスパッタリングターゲット11の長辺方向に往復動させると共に、中心磁極19をスパッタリングターゲット11の短辺方向に往復動させることでスパッタリングターゲット11が局所的にほられることを防ぐことができる。外周磁極18の底面に取り付けられた外周ヨーク材20aが外周磁極往復動手段に、中心磁極19の底面に取り付けられた中心ヨーク材20bが中心磁極往復動手段に取り付けられ、外周磁極18は長辺方向に、中心磁極19は短辺方向に往復動できるようになっている。
【0032】
より詳しく説明すると、外周磁極18は、スパッタリングカソード本体15の短辺方向の両端に長辺に略平行に配された外周磁極リニアガイド(第1リニアガイド)25と外周磁極クランク(第1クランク)23を介してスパッタリングカソード本体15の外部から動力を供給するモータ28に接続している。外周磁極クランク23は、モータ28の回転運動を往復運動に変換することができる。外周磁極18は、外周磁極リニアガイド25により短辺方向の位置を変えずに、短辺方向への略平行を維持しつつ長辺方向の往復運動を行う。
【0033】
中心磁極19は、スパッタリングカソード本体15の長辺方向の両端に短辺に略平行に配された中心磁極リニアガイド(第2リニアガイド)26と、中心磁極クランク(第2クランク)24を介してスパッタリングカソード本体15の外部から動力を供給するモータ29に接続している。中心磁極19は、中心磁極リニアガイド26により長辺方向の位置を変えずに、長辺方向と略平行を維持して短辺方向の往復運動を行う。外周磁極クランク23及び中心磁極クランク24ともベアリング27を介してスパッタリングカソード本体15に取り付けられている。
【0034】
図6は中心磁極19及び外周磁極18が略中央に位置している状況を示しており、
図7は中心磁極19が短辺方向に移動すると共に外周磁極18が長辺方向に移動した状況を示している。なお、中心磁極往復動手段と外周磁極往復動手段はクランクに限定されるものではなく、クランクに代えてリニアアクチュエータを用いても良い。
【0035】
中心磁極往復手段と外周磁極往復手段の制御は独立しているのが好ましい。例えば
図4及び
図5であれば、中心磁極往復移動手段のモータ29の制御回路と外周磁極往復移動手段のモータ29の制御回路を別々に設ければよい。このように両者の制御回路が独立していれば、中心磁極19と外周磁極18はそれぞれ異なる周期で往復動することが可能になる。それぞれの周期を異にすることでスパッタリングターゲットの局所的な浸食をより確実に防ぐことができる。なお、周期は一定でなく、途中で変化させてもよい。
【0036】
本発明の一具体例のマグネトロンスパッタリングカソード10は、外周磁極18の長辺の長さがスパッタリングターゲット11の長辺の85〜98%の長さであり、且つ外周磁極18の往復動の移動距離がスパッタリングターゲット11の長辺の5%以下であることが望ましい。なお、外周磁極18はスパッタリングカソードの外周より外には移動しない。移動距離が大きいほど、スパッタリングターゲット11の長辺方向での被成膜用基材の膜厚のばらつきは大きくなる。
【0037】
スパッタリングターゲット11の長辺の5%より大きくなると中心磁極19との干渉を避けるため、中心磁極19の長さを短くする必要がある。中心磁極19の長さが短くなると、膜厚がスパッタリングカソードの長辺方向で中央と端部に大きな差が生じるのである。例えば、スパッタリングターゲット11の長辺が40cmであれば、外周磁極18の往復範囲は2cm以下である。外周磁極18の往復動範囲を規定することで、
図3に示すようなスパッタリングウエブコータで、スパッタリングターゲット(マグネトロンスパッタリングカソード)の長辺方向を搬送方向と略直交する方向(長尺基板の幅方向)に取り付けた場合、長尺基板(被成膜基材)の幅方向の成膜のバラツキを低減できる。外周磁極18の往復範囲を限定するには、外周磁極クランク23の寸法を適宜整合させればよい。
【0038】
この一具体例のマグネトロンスパッタリングカソード10の中心磁極19の寸法は、外周磁極18の往復運動に干渉、すなわち両磁極が接触しない範囲であれば、スパッタリングターゲット11の長辺−短辺の長さより大きく、長辺の80%より小さい長さの範囲で適宜選択できる。また、中心磁極19の往復運動範囲は1cmより大きく、外周磁極との間隙が0.5cm未満とならない範囲が望ましい。
【0039】
中心磁極19が外周磁極18との間隙が0.5cm未満になる範囲で往復運動をすると、スパッタリングターゲット11表面の磁場が適切に形成されず放電が不安定になる。一方、中心磁極19の往復運動範囲が1cm未満ではスパッタリングターゲット11が局所的に彫られるため、使用効率が低くなる。
【0040】
ところで、外周磁極18と中心磁極19により形成される磁力線はスパッタリングターゲット11の表面にトンネル状に形成され、この領域を電子がトロイダル運動し、真空チャンバー51に導入したアルゴンガスをイオン化することで高密度なプラズマが発生させることができる。
【0041】
アルゴンイオンがマイナス数百ボルト印加されたスパッタリングターゲット11の表面に衝突し、スパッタリングを行う。
図1に示すような外周磁極38と中心磁極39が固定して配置された従来のマグネトロンスパッタリングカソードでは、スパッタリングターゲット31の一部が局所的に彫られるため、スパッタリングターゲット31の使用効率は25%以下程度である。
図2は、かかる従来のマグネトロンスパッタリングカソードでスパッタリング成膜した後のスパッタリングターゲットを長辺方向中央部で短辺方向に切断した模式的断面図である。
【0042】
本発明に係るマグネトロンスパッタリングカソードでは、外周磁極及び中心磁極を往復運動させるとことで磁力線の形成が変化し電子がトロイダル運動する範囲が変化する。外周磁極と中心磁極は直交する方向に異なる周期で往復運動するので、電子がトロイダル運動する範囲は、従来のマグネトロンスパッタリングカソードよりも広い。電子がトロイダル運動する範囲が広くなるとスパッタリングターゲットが局所的に彫られることを防ぎ、広い範囲で彫られる。その結果、本発明に係るマグネトロンスパッタリングカソードでは、使用後のスパッタリングターゲットは
図8に示す通り、
図2のように局所的に彫られていない。なお、
図8の断面位置は
図2と略同じである。
【0043】
スパッタリングウエブコータでは外周磁極と中心磁極の往復運動の周期は、スパッタリングターゲットの使用効率や長尺基板の幅方向の成膜の膜厚分布から最良の周期を選択すればよい。外周磁極の往復運動の周期は長尺基板の幅方向の成膜の膜厚分布に影響する。スパッタリング成膜装置により外周磁極と中心磁極の往復運動の周期は異なる。スパッタリング成膜装置ごとに最良の往復運動の周期を選択すればよい。
【0044】
以上、長尺基板を被成膜基材としたスパッタリングウエブコータに使用する場合を例に挙げて本発明のマグネトロンスパッタリングカソードを説明してきたが、本発明のマグネトロンスパッタリングカソードはこれに限定されるものではなく、例えば枚葉式の被成膜基材をトレイ式に搬送する場合でも同様に効果を発揮する。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
被成膜基材である長尺基板Fに厚さ38μm幅300mmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、製品名「カプトン150EN」)をロールツーロール方式のスパッタリング成膜装置50に設置し、フィルム中の水分を除去した後、1×10
−4Paまで真空排気した。続いて、アルゴンガスを導入し装置内の圧力を0.3Paに保持した。
【0046】
マグネトロンスパッタリングカソード58、59、60には、長さ40cm幅13cm厚さ1cmの銅スパッタリングターゲットを取り付け、外周磁極18の往復運動の範囲を2cm、周期を0.8秒とし、中心磁極19の往復運動の範囲を4cm、周期を1秒とした。なお、銅スパッタリングターゲットの長辺方向が、ポリイミドフィルムの幅方向と略平行となるにマグネトロンスパッタリングカソードを配した。
【0047】
ポリイミドフィルムを搬送しながらスパッタリング成膜を行った。ターゲットの最深部の厚さが1mmとなったところでのターゲットの使用効率は52%であった。また、ポリイミドフィルムを速度1m/minで搬送し、電力6kW(電力密度12W/cm
2)でスパッタリングを行い、長尺基板の幅方向の膜厚分布を測定したところ、最大値と最小値の差は6%であった。
【0048】
[実施例2]
外周磁極の往復運動の範囲1cmを、中心磁極の往復運動の範囲を6cmにしたこと以外は実施例1と同様の方法でスパッタリングを実施したところ、ターゲットの最深部の厚さが1mmとなったところでのターゲットの使用効率は51%であった。また、ポリイミドフィルムを速度1m/minで搬送し、電力6kW(電力密度12W/cm
2)でスパッタリングを行い、長尺基板の幅方向の膜厚分布を測定したところ、最大値と最小値の差は7%であった。
【0049】
[比較例1]
マグネトロンスパッタリングカソード58、59、60に中心磁極を往復動させない従来のマグネトロンスパッタリングカソード1を使用した以外は実施例1と同様にスパッタリングを実施した。ターゲットの最深部の厚さが1mmとなったところでのターゲットの使用効率は21%であった。また、ポリイミドフィルムを速度1m/minで搬送し、電力6kW(電力密度12W/cm
2)でスパッタリングを行い、長尺基板の幅方向の膜厚分布を測定したところ、最大値と最小値の差は7%であった。
【0050】
[比較例2]
外周磁極の往復運動の範囲を3cmにし、中心磁極の長さを2cm短くしたこと以外は実施例1と同様にスパッタリングを実施した。ターゲットの最深部の厚さが1mmとなったところでのターゲットの使用効率は48%であった。また、ポリイミドフィルムを速度1m/minで搬送し、電力6kW(電力密度12W/cm
2)でスパッタリングを行い、長尺基板の幅方向の膜厚分布を測定したところ、最大値と最小値の差は14%であった。