(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
長尺基板を外周面に巻回させる円筒形状のコアの両側に取り付けられる1対のコアアダプタであって、各コアアダプタは該コアに向けて付勢された切頭円錐形状の支持部材の傾斜面に全周に亘って当接するように円筒部の内周側縁部に傾斜面が形成されてなる第1係合部と、該コアの内側に端部から嵌め込むべく該第1係合部に対して外周面のみが縮径された形状の挿入部と、該第1係合部と該挿入部との外周面側の段差によって形成され、該コアの一端面に可撓性部材を介して係合する第2係合部とからなり、該第2係合部の段差及び該第1係合部の傾斜面を除いて全体として外周面側及び内周面側に段差がなく、該挿入部の外周面に斜め巻きコイルスプリングが巻き付けられていることを特徴とするコアアダプタ。
前記斜め巻きコイルスプリングは、前記挿入部の外周面に周方向に沿って設けられた溝内に嵌め込まれており、前記コアに前記挿入部が嵌め込まれた時、前記挿入部の外周面と前記コアの内周面との間のクリアランスが0.1mm以上1.0mm以下であり、前記コアの半径方向における前記斜め巻きコイルスプリングの変形率が5%以上35%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のコアアダプタ。
請求項1〜4のいずれかに記載のコアアダプタを円筒形状のコアの両端に取り付け、該コアに向けて付勢された前記支持部材を該コアアダプタの第1係合部に当接させながら該支持部材を回転させることにより、該コアの外周面に長尺基板を巻き取ることを特徴とする長尺基板の巻取り方法。
ロールツーロールで搬送される長尺基板を円筒形状のコアに巻き取る巻取装置であって、請求項1〜4のいずれかに記載のコアアダプタと、該コアアダプタの第1係合部に全周に亘って当接し且つ該コアに向けて付勢された切頭円錐形状の支持部材を有する支持機構と、該支持機構を回転させる回転駆動部とを備えたことを特徴とする巻取装置。
前記真空チャンバーと、該真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺基板の少なくとも一方の面に熱負荷のかかる処理を行う処理手段と、該長尺基板の搬送経路の終端に設けられた請求項7に記載の巻取装置とを備えることを特徴とするロールツーロール表面処理装置。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、耐熱性樹脂フィルム上に配線パターンが形成されたフレキシブル配線基板が用いられている。このフレキシブル配線基板は、耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムにパターニング処理を施すことによって作製されるが、近年は配線パターンがますます繊細化、高密度化する傾向にあり、これに伴って金属膜付耐熱性樹脂フィルムにはシワ等のない平滑なものが求められている。
【0003】
この種の金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法として、従来、金属箔を接着剤により耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法)、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法)、耐熱性樹脂フィルムに真空成膜法単独で、又は真空成膜法と湿式めっき法との併用で金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法)等が知られている。また、メタライジング法に用いる真空成膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等がある。
【0004】
メタライジング法について、特許文献1には、ポリイミド絶縁層上にクロム層をスパッタリングした後、銅をスパッタリングして導体層を形成する方法が記載されている。また、特許文献2には、銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングによる第一の金属薄膜と、銅をターゲットとするスパッタリングによる第二の金属薄膜とがポリイミドフィルム上に成膜されたフレキシブル回路基板用材料が開示されている。これらスパッタリング法による成膜は、一般に密着力に優れる反面、真空蒸着法に比べて基材としての耐熱性樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいといわれている。そして、成膜の際に耐熱性樹脂フィルムに大きな熱負荷が掛かると、フィルムにシワが発生し易くなることも知られている。
【0005】
そこで、上記ポリイミドフィルムなどの耐熱性樹脂フィルムに対して真空成膜法により成膜を行って金属膜付耐熱性樹脂フィルムを作製する工程では、内部に冷媒を循環させたキャンロールを備えたスパッタリングウェブコータが一般的に使用されている。この装置は、巻出ロールから巻き出して巻取ロールで巻き取るように構成されたいわゆるロールツーロール方式で搬送される長尺の耐熱性樹脂フィルムを、搬送経路の途中に設けたキャンロールの外周面に巻き付けて冷却しながらスパッタリングを行うものである。
【0006】
このようなキャンロールで金属膜付耐熱性樹脂フィルムを良好に冷却するためには、キャンロールの外周面に金属膜付耐熱性樹脂フィルムを安定的に密着させることが重要であり、そのため、ロールツーロール方式では、キャンロールの上流側及び下流側にそれぞれ設けた張力センサーロールによって精密に張力制御を行っている。さらに、巻取ロールにおいても、安定した張力で巻き取ってシワが発生しないようにするため、キャンロールと同様に上流側の張力センサーロールによって張力制御を行っている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
先ず、本発明のコアアダプタを有する巻取装置が好適に使用される長尺基板の真空成膜装置について
図1を参照しながら説明する。この
図1に示す真空成膜装置は、巻出室111、成膜室112、及び巻取室113からなる真空チャンバーと、該真空チャンバー内に収められ、ロールツーロールで搬送される長尺耐熱性樹脂フィルム基板(以下、単に長尺フィルム又は長尺基板とも称する)Fの搬送経路を画定するロール群と、メタライジング法により長尺フィルムFの上に金属膜を成膜する手段とで主に構成され、スパッタリングウェブコーターとも称される装置である。この真空成膜装置は、真空中においてロールツーロール方式で搬送される長尺フィルムFの表面に連続的に効率よく成膜処理を施す場合に好適に用いられる。
【0015】
具体的に説明すると、巻出ロール114から巻き出された長尺フィルムFは、キャンロール123の外周面に巻きつけられて冷却されながら熱負荷のかかる表面処理が施された後、巻取ロール129で巻き取られるようになっている。この巻出ロール114から巻取ロール129までの搬送経路のうち、巻出ロール114からキャンロール123までの間に、長尺フィルムFを案内するフリーロール115、120と、長尺フィルムFの張力の測定を行う張力センサーロール119、121と、キャンロール123のすぐ上流側に設けられたモータ駆動の前フィードロール122とがこれらの符号の順に配置されている。
【0016】
前フィードロール122は、キャンロール123に向かう長尺フィルムFの速度を、キャンロール123の周速度に対して調整する役割を担っており、これにより、内部に水などの冷媒が循環しているキャンロール123の外周面に、連続的に搬送されている長尺フィルムFを確実に密着させて良好に冷却することが可能になる。
【0017】
巻出ロール114からキャンロール123までの搬送経路には、スパッタリング成膜前に長尺フィルムFを乾燥させるヒーターボックス116が設けられている。このヒーターボックス116内には、長尺フィルムFを挟んで対向する1対のヒーター117、118が内蔵されている。これらヒーター117、118は、長尺フィルムFの水分を除去できるのであればその種類には特に限定はなく、例えばシースヒーター、カーボンヒーター、ランプヒーター等を使用することができる。
【0018】
キャンロール123から巻取ロール129までの搬送経路も、上記した巻出ロール114からキャンロール123までの搬送経路と同様に、キャンロール123の周速度に対する調整を行うモータ駆動の後フィードロール124、長尺フィルムFの張力の測定を行う張力センサーロール125、127、及び長尺フィルムFを案内するフリーロール126、128がこれらの符号の順に配置されている。なお、この真空成膜装置には、更に長尺フィルムFの搬送方向を変えるためのフリーロール(図示せず)が設けられることがある。
【0019】
上記巻出ロール114及び巻取ロール129では、各々パウダークラッチ等によるトルク制御によって長尺フィルムFの張力バランスが保たれている。また、キャンロール123の回転とこれに連動して回転するモータ駆動の前フィードロール122及び後フィードロール124により、巻出ロール114から長尺フィルムFが巻き出されて巻取ロール129で巻き取られるようになっている。
【0020】
キャンロール123の周りには、キャンロール123の外周面上に画定される搬送経路に沿って成膜手段としての板状の4つのマグネトロンスパッタリングカソード130、131、132及び133が、当該外周面に巻き付けられる長尺フィルムFに対向するように設けられている。なお、金属膜のスパッタリング成膜の場合は、板状のターゲットを使用することができるが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。これが問題になる場合は、ノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用することが好ましい。
【0021】
上記した真空成膜装置には、更に真空チャンバー内を減圧してその状態を維持するためのドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の真空排気設備(図示せず)が設けられている。この真空排気設備により、成膜装置の成膜室112は、到達圧力10
−4Pa程度までの減圧と、その後のスパッタリングガスの導入による0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われ、この圧力条件の下でスパッタリング成膜が行われる。スパッタリングガスにはアルゴンなど公知のガスが使用され、目的に応じてさらに酸素などのガスが添加される。なお、真空チャンバーの形状や材質は、上記の減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。
【0022】
上記したような真空成膜装置を用いることにより、例えば長尺フィルムFの表面にNi系合金等の膜とCu膜とをスパッタリング成膜する際、スパッタリングに大電力を投入することができるので高速成膜が可能になる。従って、シワのない高品質の金属膜付耐熱性樹脂フィルムを高い生産性で製造することができる。このようにして作製された金属膜付耐熱性樹脂フィルムは、サブトラクティブ法によりフレキシブル配線基板に加工することができる。ここで、サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない部分の金属膜(例えば、上記Cu膜)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法である。
【0023】
なお、上記Ni合金等から成る膜はシード層と呼ばれ、金属膜付耐熱性樹脂フィルムの電気絶縁性や耐マイグレーション性等の所望の特性によりその組成が選択される。そして、このシード層には、Ni−Cr合金、インコネル、コンスタンタン、モネル等の各種公知の合金を用いることができる。また、金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムの金属膜(Cu膜)を更に厚くしたい場合は、上記の真空成膜処理の後処理として、湿式めっき処理を行ってもよい。この後処理としての湿式めっき処理は、電気めっき処理だけで金属膜を厚くする場合と、一次めっきとして無電解めっき処理を行い、二次めっきとして電解めっき処理を行う等の湿式めっき法の組み合わせで厚くする場合がある。なお、湿式めっき処理には、一般的な湿式めっき法の諸条件を採用することができる。
【0024】
また、上記金属膜付耐熱性樹脂フィルムに用いる耐熱性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム又は液晶ポリマー系フィルムから選ばれる樹脂フィルムを挙げることができる。これら材料は、金属膜付耐熱性樹脂フィルムに要求されるフレキシブル基板としての柔軟性、実用上必要な強度、配線材料としての好適な電気絶縁性等の観点から好ましい。
【0025】
次に、上記した真空成膜装置の巻取ロール129に使用される本発明のコアアダプタの一具体例について詳細に説明する。巻取ロール129は、
図2(a)に示すように両端が開放された円筒(パイプ)形状のコア10からなり、その外周面に所定の長さ及び幅を有する長尺フィルムが巻回される。このコア10の両側に、
図2(b)に示すように、略円筒形状の1対のコアアダプタ20が取り付られる。
【0026】
コアアダプタ20が取り付けられたコア10は、
図2(c)に示すように、両側から切頭円錐部材で形成されるテーパーコーン31で挟み込まれて支持される。このテーパーコーン31は、図示しないエアーシリンダーのピストンロッド30の先端部に設けられており、
図2(d)に示すように、コア10を支持している状態においても、エアーシリンダーによって常にコア10を挟み込む向き(矢印の向き)に付勢されている。これらピストンロッド30、テーパーコーン31及びエアーシリンダーからなる支持機構は、図示しない回転駆動部に搭載されており、この回転駆動部の回転により支持機構を介して巻取ロール129が回転し、これにより外周面に長尺フィルムが巻き取られる。なお、本発明においては、これらコアアダプタ、支持機構及び回転駆動部をまとめて巻取装置と定義する。
【0027】
コアアダプタ20について、
図3及び4を参照しながらより詳細に説明する。コアアダプタ20は両端が開放された略円筒形状の部材からなり、その一端部がテーパーコーン31の傾斜面32に全周に亘って当接する第1係合部21となっている。この第1係合部21は、コア10よりも肉厚に形成されており、また、テーパーコーン31の傾斜面32と面同士で当接できるように、内周側縁部22がテーパーコーン31の傾斜面と同じ角度でテーパー加工されている。
【0028】
コアアダプタ20において第1係合部21とは反対側の端部は、コア10の内側に端部から嵌め込まれる挿入部23となっている。この挿入部23は第1係合部21に比べて縮径しており、この縮径によってコアアダプタ20の軸方向の略中央には、全周に亘って環状の段差面からなる第2係合部24が形成されている。この第2係合部24の外径はコア10の内径よりも大きく形成されており、また挿入部23の外周面23a側には、上記環状の段差面に当接させてOリングなどの可撓性部材25が嵌められている。これにより、コアアダプタ20の挿入部23がコア10の内側に挿入された時、第2係合部24は可撓性部材25を介してコア10の一端面11に係合することになる。なお、可撓性部材25の材質には、例えば真空チャンバー内での使用に耐え得るウレタン系ゴムなどを使用することができる。
【0029】
前述したように、コアアダプタ20の第1係合部21の内周側縁部22に全周に亘って当接するテーパーコーン31は、コア10を挟み込む向きに付勢されているので、テーパーコーン31の切頭円錐形状により、コアアダプタ20の中心軸とテーパーコーン31の中心軸とを一致させるような調芯作用が働く。この時、第1係合部21は前述したようにコア10よりも分厚く形成されているため、コア10が例えば肉厚を厚くできない導電性樹脂材質で形成されていても、テーパーコーン31からの押圧力でコア10が割れたり変形したりするような問題が生じにくくなる。また、コア10の環状の端面11とコアアダプタ20の第2係合部24とで可撓性部材25がコア10の軸方向に圧縮されるので、巻取ロール129の回転の際にコア10とコアアダプタ20との間ですべりが生じることがなくなる。なお、後述する斜め巻きコイルスプリングは、この支持機構によるコア10を挟み込む方向の支持には関与していない。
【0030】
ところで、コア10に対してコアアダプタ20は容易に取り付けたり取り外したりすることが望まれるため、
図4に示すように、コアアダプタ20において上記した挿入部23の外径はコア10の内径よりも少し小さめに形成されている。これにより生ずる挿入部23の外周面23aとコア10の内周面10aとの間のクリアランス(C)のため、コア10の中心軸を水平にしてコアアダプタ20を介してテーパーコーン31で支持する時、コア10の自重の影響によりコア10の中心軸がコアアダプタ20の中心軸よりもクリアランスC分だけ下方にずれ、これが巻取ロール129の偏芯の原因となることがあった。
【0031】
そこで、本発明の一具体例のコアアダプタ20では、挿入部23の外周面23aに周方向に沿って少なくとも1本(
図3及び
図4では2本が例示されている)の斜め巻きコイルスプリング26が巻き付けられている。斜め巻きコイルスプリング26は、
図5(a)に示す一般的なコイルスプリングとは異なり、
図5(b)に示すようにスプリングを構成する各コイルがばねの巻き方向(図中の白矢印の方向)に対して傾斜するように巻かれたスプリングである。このスプリングの両端同士を接合して略O型の環状に形成することにより、当該環状体の半径方向からの荷重に対してコイルの傾斜角度を変化させることで弾性変形させることができる。このような斜め巻きコイルスプリングは、例えば米国Bal Seal社などから入手可能である。
【0032】
図6(a)に示すように、環状にした斜め巻きコイルスプリング26をコアアダプタ20の挿入部23の外周面23aに巻きつけることにより、
図6(b)に示すように、コアアダプタ20の挿入部23がコア10の内側に挿入された時、コアアダプタ20の半径方向の荷重に対して斜め巻きコイルスプリング26がコアアダプタ20の半径方向に弾性変形することにより、コア10を水平にしたときでも調芯作用が働いてコアアダプタ20の中心軸とコア10の中心軸とが一致する。
【0033】
その結果、コア10の内周面10aとコアアダプタ20の挿入部23の外周面23aとの間のクリアランスCが全周に亘って略均一になり、巻取ロール129の偏芯がほとんど生じなくなる。この時、環状の斜め巻きコイルスプリング26はその環の全周に亘って略均一な力でコア10の内周面10aに接触するため、コア10の内周面10aが削れて粉塵発生の原因となるような問題も生じにくい。なお、
図6(a)に示すように、斜め巻きコイルスプリング26にコアアダプタ20の半径方向から荷重が掛かっていない時のコイル高さ(H)に対する、コアアダプタ20の半径方向の斜め巻きコイルスプリング26の変形量(X)の割合を変形率と称する。
【0034】
斜め巻きコイルスプリング26は、コアアダプタ20の挿入部23をコア10に挿入した時に軸方向にずれることがないように、固定しておくのが好ましい。この固定方法には、例えばコアアダプタ20の挿入部23の外周面23aに全周に亘って溝を設け、この溝内に嵌め込む方法を挙げることができる。あるいは、コアアダプタ20の挿入部23に軸方向に傾斜するテーパー部や段差を設けたりして斜め巻きコイルスプリングを動きにくくしてもよいし、斜め巻きコイルスプリング26をピン止めなどの機械的結合手段を用いて固定してもよい。
【0035】
上記したコアアダプタ20は、コア10の重量が重いときに優れた効果を発揮し、具体的にはコア10の重さが3kg以上の時に偏芯を抑えられるという顕著な効果が得られる。また、長尺フィルムFの膜厚が薄い場合はシワが発生しやすく、偏芯の影響も大きいため、長尺フィルムFの膜厚が5〜25μm程度の場合に顕著な効果が得られる。なお、巻取ロール129が偏芯すると、張力センサーロールが張力変化を検知し、これにより巻取ロール129の駆動力を変化させて巻取張力を一定にしようとする制御系が働くが、この制御系はフィルム搬送速度が1m/分以上になると追従が困難になる。
【0036】
本発明のコアアダプタ20では、
図4に示すコア10の内周面10aとコアアダプタ20の挿入部23の外周面23aとの間のクリアランスCが、どの位置で測定しても0.1mm以上1.0mm以下の範囲内にあるのが好ましい。このクリアランスCが0.1mm未満ではコア10の内周面10aと挿入部23の外周面23aとが回転時に接触しやすくなり、コア10から発塵が生じるおそれがある。一方、クリアランスCが1.0mmを超えると、コア10にコアアダプタ20を取り付ける時に、コア10の中心軸に対してコアアダプタ20の中心軸が偏芯しやすくなり、これが原因でシワや発塵が生じるおそれがある。
【0037】
また、このクリアランスCの範囲内では、斜め巻きコイルスプリング26の変形率が5%以上35%以下であるのが好ましい。変形率が35%を超えるとバネが弱すぎて例えば、重量5kg以上の重いコア10の場合に支えきれずに、クリアランスC分だけコア10が下がってコア10の内周面10aの一部とコアアダプタ20の挿入部23の外周面23aの一部とが当接した状態で固定されてしまうおそれがある。一方、変形率が5%未満ではバネが強すぎてコア10にコアアダプタ20の挿入部を挿入する際、コア10の内周面10aが削れて粉塵発生の原因となるおそれがある。
【0038】
以上説明したように、ロールツーロールで搬送される長尺基板の真空成膜装置の巻取装置に本発明のコアアダプタを用いることにより、巻取張力を安定させると共に、高速で長尺基板を搬送した時に巻取ロールで発生しやすいシワの発生を抑制することが可能になる。よって、シワのない高品質の金属膜付耐熱性樹脂フィルム基板を高い生産性で製造することが可能になる。
【0039】
なお、上記の説明では、本発明のコアアダプタを真空成膜装置の巻取ロールに使用する場合を例に挙げて説明したが、本発明はかかる一具体例に限定されるものではなく、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で様々な態様で実施することができる。例えば、本発明のコアアダプタを巻出ロールに応用してもよく、この場合は巻出張力を安定させることが可能になる。また、帯電したフィルムを巻き取る場合においては、導電性コア(金属製)コアを用いると共に、コアアダプタ及び斜め巻きコイルスプリングにも導電性材料を用いて導電性コアと導電性のコアアダプタとを良好に導通させることでコアを接地することが帯電防止のためには効果的である。
【0040】
また、
図1の真空成膜装置において、長尺フィルムFに積層させる金属膜にはNi−Cr合金やCu等のほか、目的に応じて酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等を成膜することもある。更に
図1の真空成膜装置は、熱負荷の掛かる処理としてスパッタリング処理を想定したものであるため、マグネトロンスパッタリングカソードが図示されているが、熱負荷の掛かる処理が蒸着処理などの他のものである場合は、板状ターゲットに代えて他の真空成膜手段が設けられる。他の真空成膜手段としては、CVD(化学蒸着)又は真空蒸着などを挙げることができる。
【0041】
また、減圧雰囲気下での長尺耐熱性樹脂フィルムの成膜処理を例にあげて説明してきたが、減圧雰囲気下に限定されるものではなく、例えば、大気圧中の加熱ヒーターによる乾燥装置においても本発明に係るコアアダプタを取り付けた巻取ロールや巻取装置を好適に用いることができる。この場合に使用される長尺基板には、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような樹脂フィルムやポリイミドフィルムのような耐熱性樹脂フィルムのほか、金属箔や金属ストリップを使用することができる。
【実施例】
【0042】
[実施例]
図1に示すような真空成膜装置(スパッタリングウェブコータ)において、長尺フィルムFとして幅500mm、長さ1000m、厚さ25μmの東レ・デュポン株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「カプトン(登録商標)」をロールツーロールで搬送させながら、その表面にスパッタリングにより金属膜を成膜して金属膜付耐熱性樹脂フィルムを作製した。
【0043】
具体的には、キャンロール123には、直径800mm、幅800mmの金属製筒状体を用い、その外周面にハードクロムめっきを施した。巻取ロール129のコア10には、外径164mm、幅(軸方向の長さ)800mm、肉厚5mmのアルミ製の筒状部材を用い、その外周面にハードクロムめっきを施した。このコア10の両端に
図3に示すようなコアアダプタ20を取り付けた。
【0044】
コアアダプタ20の挿入部23には、全周に亘って深さ3.0mmの溝を2本形成し、各溝に
図5(b)に示すようなワイヤー径(d)0.5mm、コイル幅(W)5.0mm、コイル高さ(H)4.5mmの斜め巻きコイルスプリング26を環状にしたものを装着した。このコアアダプタ20の挿入部23をコア10に挿入した。コアアダプタ20が両端に取り付けられたコア10を真空成膜装置に取り付ける前に、コアアダプタ20の挿入部23の外周面23aとコア10の内周面10aとの間のクリアランスCを上下を含む数箇所で測定したところ、全て0.5mmであった。
【0045】
上記のコアアダプタ20が両端に取り付けられたコア10を真空成膜装置に取り付けた。具体的には、軸方向に往復動自在なピストンロッド30の先端部に設けられたテーパーコーン31の傾斜面32を、コア10の両端部に取り付けたコアアダプタ20の第1係合部21の内周側縁部22に当接させた。この時、エアーシリンダーの空気圧力を4kgf/cm
2にセットして、コア10を挟み込む方向にピストンロッド30を付勢した。このようにして取り付けた巻取ロール129のコア10に対して、巻取室113の内壁に取り付けたマイクロメータ(図示せず)で、コア10の右側、中央部、及び左側の偏芯度を測定したところ、すべて±30μm以下であった。
【0046】
巻出ロール114に上記耐熱性ポリイミドフィルム(長尺フィルムF)をセットし、この耐熱性ポリイミドフィルムの先端部をキャンロール123を含むロール群を経由して巻取ロール129に取り付けた。巻出ロール114と巻取ロール129の張力は100Nとした。なお、長尺フィルムFの表面にシード層としてのNi−Cr膜の上に金属膜としてのCu膜を成膜させるべく、マグネトロンスパッタリングカソード130にはNi−Crターゲットを用い、マグネトロンスパッタリングカソード131、132、133にはCuターゲットを用いた。
【0047】
巻出室111、成膜室112及び巻取室113を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10
−3Paまで排気した。この状態で、耐熱性ポリイミドフィルム(長尺フィルムF)の搬送速度を9m/分に設定して搬送を開始した。前フィードロール122の周速度は、キャンロール123へ長尺フィルムFを強く密着させるために速度基準でキャンロール123の周速度より0.1%遅い速度で回転させた。キャンロール123は60℃に温度制御し、ヒーター117、118は100℃に温度制御した。
【0048】
各マグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133にアルゴンガスを導入して電力を印加し、ロールツーロールで搬送される長尺フィルムFに膜厚10nmのNi−Cr膜のシード層と、その上に積層される膜厚100nmのCu膜とを成膜した。なお、スパッタリングカソードへの印加総電力は70kWであった。
【0049】
成膜の際、巻取ロール129上の耐熱性ポリイミドフィルムにシワは観測されなかった。また、巻取張力を張力センサーロール127によりモニターしたところ、
図7に示すように、約4秒周期で巻取り張力が変動していた。この張力変動率を観察したところ、±0.6%であった(
図7の符号1)。なお、別の長尺フィルムFを巻出ロール114にセットして上記と同様の方法で3回に亘って成膜試験を行ったが、いずれも
図7に示すように巻取り張力変動率は±1%未満であった(
図7の符号2〜4)。
【0050】
耐熱性ポリイミドフィルムの1000mの成膜が完了後、各マグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133への電力供給を停止すると共に、アルゴンガスの供給を停止し、更に耐熱性ポリイミドフィルム(長尺フィルムF)の搬送を停止した。その後、複数台のドライポンプ、複数台のターボ分子ポンプ、及びクライオコイルを停止し、巻出室111、成膜室112、及び巻取室113に大気を導入した。そして、成膜された長尺フィルムFが巻き取られている巻取ロール129を大気中に取り出し、そのままの状態で常温まで温度を下げた後、長尺フィルムFを調べたが、シワは観測されなかった。
【0051】
[比較例]
コアアダプタ20に環状の斜め巻きコイルスプリング26を装着しなかった以外は上記実施例と同様にして巻取ロール129を真空成膜装置に取り付けた。実施例と同様にして巻取室113の内壁に取り付けたマイクロメータ(図示せず)で、コア10の右側、中央部、及び左側の偏芯度を測定したところ、右側は±50μm、中央部は±100μm、左側は±200μmとなった。
【0052】
以降、実施例と同様にして金属膜付耐熱性樹脂フィルムを作製した。成膜の際、巻取ロール129上の耐熱性ポリイミドフィルムに中央部に斜めシワが観測された。また、実施例と同様にして巻取張力を張力センサーロール127によりモニターしたところ、
図7に示すように、約4秒周期で巻取り張力が変動しており、その張力変動率を観察したところ、±4%であった(
図7の符号5)。
【0053】
なお、別の長尺フィルムFを巻出ロール114にセットして上記と同様の方法で4回に亘って成膜試験を行ったが、いずれも
図7に示すように巻取り張力変動率は±1〜5%であった(
図7の符号6〜9)。成膜が完了した巻取ロール129を大気中に取り出して常温まで温度を下げてからシワの有無を調べたところ、改めて中央部に斜めシワが確認された。
【0054】
このように実施例と比較例で差が生じた理由は、比較例では斜め巻きコイルスプリングを装着しなかったため、コアの内周面とコアアダプタの外周面との間のクリアランス分だけコアが下がって固定されてしまい、その結果、コアの中心軸がコアアダプタの中心軸に対して偏芯したと考えられる。そして、このコアの偏芯が、巻取ロール129とフリーロール128間の距離を周期的に変え、これに伴いこの間の張力も周期的に変動し、張力センサーロール127で測定される巻取張力が不安定となり巻取シワ発生の原因になったと考えられる。