(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6127902
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】混合硫化物からのニッケル及びコバルトの浸出方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20170508BHJP
C22B 3/10 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/10
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-219981(P2013-219981)
(22)【出願日】2013年10月23日
(65)【公開番号】特開2015-81371(P2015-81371A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2015年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒
(72)【発明者】
【氏名】小林 宙
【審査官】
池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−197533(JP,A)
【文献】
特開2008−240009(JP,A)
【文献】
特開昭63−038538(JP,A)
【文献】
特開2010−100938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬工程で湿式硫化反応によって製造されたニッケル及びコバルトを含む混合硫化物からニッケル及びコバルトを浸出する方法であって、該混合硫化物を酸化還元電位が0mV以上400mV以下(Ag/AgCl電極基準)の塩化物水溶液により、70℃以上100℃以下の温度で浸出する第1の浸出工程と、第1の浸出工程で得られたスラリーを固液分離した残渣を塩化物水溶液でスラリーとした後、このスラリーに塩素ガスを吹込んで浸出する第2の浸出工程とを有し、前記第1の浸出工程において、酸化剤として塩化第二銅の塩化物水溶液を用いることを特徴とする混合硫化物からのニッケル及びコバルトの浸出方法。
【請求項2】
前記第2の浸出工程で浸出する前のスラリーに、pHが0.4以上0.6以下になるように塩酸を添加することを特徴とする、請求項1に記載の混合硫化物からのニッケル及びコバルトの浸出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル及びコバルトの湿式製錬に関するものであり、詳しくは湿式硫化反応によって製造された混合硫化物からニッケル及びコバルトを浸出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル及びコバルトの製錬方法としては、例えば特許文献1に記載されているように、ニッケルマット等のニッケル硫化物と微量のコバルト硫化物を含む原料に塩素ガスを吹き込んで塩素浸出し、浸出されたニッケル及びコバルトを電解採取することにより、電気ニッケル及び電気コバルトとして製品化する方法が実用化されている。この方法は工程がシンプルであり、電解採取で発生した塩素ガスを浸出に再利用することができるなど、経済的な生産を実現している。
【0003】
上記製錬方法において原料とされるニッケルマット等のニッケル硫化物とは、例えば、ニッケル硫化鉱石を溶鉱炉で溶解して得られるニッケル硫化物や、ニッケル酸化鉱石に硫黄を添加して電気炉で溶解して得られるニッケル硫化物等、いわゆる乾式製錬法で得られたニッケル硫化物を指している。
【0004】
一方、近年では、埋蔵量が豊富で且つ地表近くに存在するため比較的容易に採掘することができる低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石を原料とし、湿式製錬法によりニッケル硫化物を生産することが行なわれている。具体的には、ニッケル酸化鉱石を加圧酸浸出(High Pressure Acid Leaching、通称HPAL)し、その加圧酸浸出液から鉄をはじめとする不純物を除去した後、湿式硫化反応によって、例えば硫化水素ガスを浸出液中に吹込むことによって、ニッケル硫化物が生産されている。
【0005】
このニッケル酸化鉱石の湿式製錬工程で湿式硫化反応によって製造されたニッケル硫化物も、ニッケルマット等の乾式製錬法で得られたニッケル硫化物と同様にニッケル及びコバルトを含む硫化物である。この湿式硫化反応によって製造されたニッケル及びコバルトを含む硫化物(以下、単に混合硫化物と称する場合がある)を原料として、ニッケル及びコバルトを湿式製錬する方法としては、特許文献2に記載されているような上記特許文献1を応用した技術が存在する。
【0006】
即ち、混合硫化物を塩化物水溶液にレパルプした後、そのスラリーに塩素ガスを吹込むことによりニッケル及びコバルトを塩化物水溶液中に塩素浸出し、酸化剤として2価の銅クロロ錯イオンを含んだ塩素浸出液に粉砕したニッケルマットを接触させて銅とニッケルの置換反応を行なうことにより、ニッケルマット中のニッケルを浸出する。その後、置換浸出液を浄液して鉄や鉛等の不純物を除去すると共に、置換浸出液中のコバルトを溶媒抽出等の方法を用いて分離する。次いで、ニッケルを電解採取して電気ニッケルを製造する。尚、コバルトについては、ニッケルとは別の処理ルートにより、更なる浄液が行われ、電解採取により電気コバルトとして製品化される。
【0007】
しかし、上記特許文献2に記載の方法により、湿式硫化反応によって製造された混合硫化物を原料として湿式製錬すると、ニッケルマットを原料とした場合と比較して、ニッケル及びコバルトの浸出率が大幅に低下する。そのため、浸出されなかったニッケル及びコバルトは塩素浸出残渣から硫黄回収工程を経て系外へ払い出されることになり、ニッケル及びコバルトの実収率が下がってしまうという問題があった。
【0008】
更に、湿式硫化反応によって製造された混合硫化物を原料とした場合には、ニッケルマットを原料とした場合と比較して、硫黄の浸出率(以下、硫黄に限り酸化率と称する)が高いため、塩素浸出液中の硫酸根(SO
42−イオン)濃度が上昇する。この塩素浸出液中のSO
42−イオンは、置換浸出と浄液を経て、電解採取工程へ電解液として供給されるため、電解採取工程での電解槽電圧上昇による電力コストの増加や、陽極からの酸素ガスの発生による塩素回収率低下等の問題を引き起こしていた。そのため、工業的には硫黄酸化率を2〜3%以下に抑えることが望まれている。
【0009】
これらの問題は、主にニッケルマットと混合硫化物の析出組成の違いと、それに伴う浸出反応の機構の違いによるものであると推定されている。例えば特許文献3には、「一般的に、混合硫化物はニッケルマットと比較してニッケル品位が低く、イオウ品位が高いので、塩素浸出における挙動がニッケルマットのそれと異なる。特に、反応により生成するイオウが多くなるため、反応系の温度が高かったり、発生する反応熱が多かったりするとイオウが軟化し、融合しあって凝集体を作りやすく、これにより浸出阻害が起きやすい。これに対して、ニッケルマットは、前記したように、主成分であるNi
3S
2相と金属ニッケル相とが緻密に析出した組織を有しているため、反応の進行と共に発生するイオウ量は相対的に少なく、イオウの反応界面への融着による浸出阻害は起きがたい。」と記載されている。
【0010】
上記特許文献3の記載からも分かるように、ニッケルマットの主成分はNi
3S
2とNi(金属ニッケル)であり、Ni
3S
2相と金属ニッケル相が緻密に、即ち小さな結晶が均質に分散析出した組織を有していることから、ニッケルマットの塩素浸出では金属ニッケルが浸出された跡は空隙となり、固体と液体又は固体とガスの間の反応である浸出反応が粒子内部に進行し易くなるため、Ni
3S
2の浸出反応が促進されると考えられている。
【0011】
一方で、湿式硫化反応によって製造された混合硫化物は、ニッケル及びコバルトを含む硫酸酸性溶液中で硫化水素ガスと反応させて沈澱物として回収されているため、主成分はNiSであり、約8%のCoSを含んでいる。また、一部微量のNi
3S
4と単体硫黄も含有している。従って、混合硫化物の塩素浸出では、金属ニッケル相が存在しないため、硫化ニッケル相のニッケルが浸出されても単体硫黄が残り、その単体硫黄が融着を起こすことで浸出跡の空隙を塞いでしまうため、浸出反応が粒子内部に進行し難くなると考えられる。
【0012】
上記した混合硫化物の塩素浸出における問題点に対し、上記特許文献3には、混合硫化物を予め粉砕する等の手段を用いて細粒化し、浸出反応に関与する粒子の表面積を増加させることによって、ニッケル及びコバルトの浸出率の向上を図る方法が提案されている。また、同じく特許文献3には、予め混合硫化物を所定量の銅を含む塩化物水溶液にレパルプした後、塩素浸出することによって、生成される余剰な単体硫黄を硫化銅として固定し、硫黄の融着に起因するニッケル及びコバルトの浸出率の低下を防止すると同時に硫黄酸化率の上昇を防止する方法も提案されている。
【0013】
しかしながら、上記特許文献3に記載の方法によれば、ニッケルの浸出率は95%以上に改善されるが、コバルトの浸出率は90%以下に留まることが記載されている。即ち、当業者に周知されているように、CoSはNiSよりも熱力学的に安定度が高く、コバルトと硫黄が分離され難いことから、コバルトの浸出率に関してはニッケルの浸出率よりも低いという課題が依然として残っている。
【0014】
また、コバルトの浸出率を上昇させるための手段として、例えば、塩素ガスの吹込み量を増加させる方法も考えられるが、塩素ガスの酸化力が強いために硫黄酸化率を上昇させてしまうという別の問題が発生する。更には、十分に塩素浸出されなかった浸出残渣を粉砕した後、再び浸出する方法も考えられるが、この場合は設備、工程、エネルギー等が増加することになるため、コストアップにつながるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特公平07−091599号公報
【特許文献2】特開2008−240009号公報
【特許文献3】特開2010−100938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬工程で湿式硫化反応によって製造されたニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を塩素浸出する際に、混合硫化物を予め粉砕する等の手段を用いて細粒化せず、また塩素浸出の残渣を粉砕して再浸出する方法を採ることなく、混合硫化物からニッケルとコバルトを共に高い浸出率で浸出することができ、しかも硫黄酸化率を低く抑えることが可能な、効率的且つ経済的な浸出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明者は、特にコバルトの浸出率に着目して、混合硫化物の析出組成とそれに伴う浸出反応の機構の違いを検討した結果、塩素浸出を行なう前に、混合硫化物を塩素浸出に比べて比較的弱い酸化条件下で浸出することによって、ニッケルの浸出率が改善されると同時にコバルトの浸出率が増加することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0018】
即ち、本発明による混合硫化物からのニッケル及びコバルトの浸出方法は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬工程で湿式硫化反応によって製造されたニッケル及びコバルトを含む混合硫化物からニッケル及びコバルトを浸出する方法であって、該混合硫化物を酸化還元電位が0mV以上400mV以下(Ag/AgCl電極基準)の塩化物水溶液により、70℃以上100℃以下の温度で浸出する第1の浸出工程と、第1の浸出工程で得られたスラリーを固液分離した残渣を塩化物水溶液でスラリーとした後、このスラリーに塩素ガスを吹込んで浸出する第2の浸出工程とを有し、前記第1の浸出工程において、
酸化剤として塩化第二銅の塩化物水溶液を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、混合硫化物を予め粉砕する等の手段を用いて細粒化する必要がなく、また塩素浸出の浸出残渣を粉砕して再浸出する方法を採ることなく、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬工程で湿式硫化反応によって製造された混合硫化物からニッケル及びコバルトを高い浸出率で浸出することができ、同時に硫黄酸化率を低く抑えることができる。
【0020】
従って、本発明によるニッケル及びコバルトの浸出方法は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬工程において、湿式硫化反応によって製造された混合硫化物を原料としてニッケル及びコバルトを湿式製錬する場合に、効率的且つ経済的にニッケル及びコバルトを浸出することが可能となるため、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明による混合硫化物からのニッケル及びコバルトの浸出方法は、湿式硫化反応によって製造されたニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を原料とし、この混合硫化物を酸化還元電位が0mV〜400mV以下(Ag/AgCl電極基準)の塩化物水溶液により70℃〜100℃以下の温度で浸出(いわゆる酸化浸出)する第1の浸出工程と、第1の浸出工程で得られたスラリーを固液分離し、その残渣を塩化物水溶液でスラリーとした後、このスラリーに塩素ガスを吹込んで浸出(いわゆる塩素浸出)する第2の浸出工程とを有している。
【0022】
原料とするニッケル及びコバルトを含む混合硫化物は、低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石を加圧酸浸出(HPAL)し、その加圧酸浸出液から鉄をはじめとする不純物を除去した後、湿式硫化反応によって製造されたものである。このニッケル及びコバルトを含む混合硫化物は、NiSを主成分とし、約8%のCoSを含むと共に、微量のNi
3S
4及び単体硫黄も含有している。
【0023】
また、第1の浸出工程第及び2の浸出工程で用いる塩化物水溶液とは、アニオンとして塩化物イオンを含む水溶液の総称であるが、本発明では特に主成分が塩化ニッケルであって微量の不純物を含んだ水溶液が好ましい。具体的には、上記特許文献1及び2に記載されたようなニッケル及びコバルトの製錬方法において、ニッケル電解工程から産出される電解廃液を用いることができる。
【0024】
次に、本発明による混合硫化物からのニッケル及びコバルトの浸出方法について、浸出工程ごとに詳しく説明する。
【0025】
[第1の浸出工程]
まず、第1の浸出工程では、原料である混合硫化物を、酸化還元電位が0mV以上400mV以下(Ag/AgCl電極基準)の塩化物水溶液で酸化浸出する。この第1の浸出工程での酸化浸出は、第2の浸出工程である塩素浸出の前処理として行なうものであり、混合硫化物の塩素浸出に比べて比較的弱い酸化条件下、即ち0〜400mVの酸化還元電位にて浸出することを特徴としている。
【0026】
即ち、上記したように酸化還元電位が0mV以上400mV以下の比較的弱い酸化条件下で混合硫化物を酸化浸出することによって、下記化学式1に示すように、NiSを主成分とする混合硫化物からNiの一部が塩化物水溶液中に浸出されると同時に、混合硫化物中のNiSはNi
3S
4の形態に変化して残渣中に残る。
【0027】
[化1]
4NiS+2CuCl
42−→Ni
2++Ni
3S
4+2Cl
−+2CuCl
32−
【0028】
また、第1の浸出工程での酸化浸出によって、混合硫化物の主成分であるNiSがNi
3S
4に形態変化することで、混合硫化物に空隙が形成されることが分かった。しかも、上記第1の浸出工程での酸化浸出では、実質的に単体硫黄が生成されることはない。
【0029】
上記特許文献3に関連して上述したように、混合硫化物に空隙が形成されると粒子内部にまで反応が進行し易くなるためニッケル及びコバルトの浸出反応が促進される。一方、浸出時に生成されて混合硫化物中に残留した単体硫黄は融着を起こし、ニッケル及びコバルトの浸出を阻害すると考えられる。従って、本発明において塩素浸出の前に酸化浸出することにより、硫黄を生成させない条件で主成分のNiSをNi
3S
4に形態変化させることは、高い浸出率でニッケル及びコバルトを効率的に浸出するうえで極めて重要である。
【0030】
第1の浸出工程において、塩化物水溶液で酸化浸出する際の酸化還元電位を0mV以上400mV以下とする理由は、酸化還元電位が0mV未満であると、混合硫化物中のニッケルを塩素浸出液中に酸化浸出する反応自体が進行しないからである。また、酸化還元電位が400mVを超えると、ニッケルの浸出反応が促進され、単体硫黄が生成する可能性があるため好ましくない。
【0031】
第1の浸出工程に用いる塩化物水溶液の酸化還元電位を0mV以上400mV以下に保持するためには、混合硫化物中のニッケルを浸出できる酸化力を有する酸化剤、即ち酸化還元電位を0mV以上に保持できる酸化剤を用いることが好ましい。このような酸化剤としては、混合硫化物中のニッケルに対する酸化浸出作用を有する酸化剤があればよく、例えば塩化第二鉄や塩素酸系酸化剤等であってもよい。しかし、混合硫化物中に存在する微量の単体硫黄を硫化銅として固定する作用を考えると、2価の銅クロロ錯イオン、例えば塩化第二銅の塩化物水溶液が好ましい。
【0032】
尚、上記酸化剤としてオゾン、酸素、酸素富化空気、空気を用いることもできるが、好ましい方法とは言えない。これらを酸化剤として用いた場合、酸化浸出反応によってSO
42−イオンが生成する可能性がある。前述したように、浸出液中のSO
42−イオンは、例えば電解採取工程での電圧上昇による電力コストの増加や、陽極からの酸素ガスの発生による塩素回収率低下等の問題を引き起こすことになるからである。
【0033】
また、第1の浸出工程においては、酸化浸出反応時の塩化物水溶液の温度を70℃以上100℃以下とする。塩化物水溶液の温度が70℃未満になると、2価の銅クロロ錯イオンのような酸化剤の酸化力を十分に活かすことができないため、混合硫化物の主成分であるNiSがNi
3S
4に形態変化するのに要する時間が長くなるため好ましくない。逆に塩化物水溶液の温度が100℃を超えると、混合硫化物中に存在する微量の単体硫黄が融着して、浸出を阻害する恐れがある。
【0034】
上記第1の浸出工程で得られたスラリーは、固液分離して固形分(残渣)と浸出液とに分ける。具体的な固液分離の手段としては、遠心分離、吸引ろ過、フィルタープレス等を使用した加圧ろ過等を用いることができる。分離された残渣は塩化物水溶液でスラリーとした後、第2の浸出工程に供給される。一方、固形分が分離された浸出後液(塩化物水溶液)は、浸出されたニッケルやコバルトの回収工程に供給される。
【0035】
上記固液分離した残渣のスラリーは、次の第2の浸出工程に供給する前に、pHが0.4以上0.6以下になるように塩酸を添加することが好ましい。残渣を構成する混合硫化物は粒子径が10μmオーダーの微粉状であるため、空気酸化によって粒子表面に酸化物が形成されやすい。この粒子表面の酸化物はニッケル及びコバルトの浸出を阻害するため、予め塩酸を添加して表面の酸化物を溶解することにより、第2の浸出工程での塩素浸出を促進させることができる。
【0036】
[第2の浸出工程]
第2の浸出工程では、上記第1の浸出工程から供給されたスラリー、即ち第1の浸出工程で得られたスラリーを固形分離した残渣と塩化物水溶液とのスラリーに、塩素ガスを吹込むことにより塩素浸出する。
【0037】
この第2の浸出工程での塩素浸出は、ニッケル等の目的金属を塩化物水溶液に溶解するものであり、下記化学式2及び化学式3に示すような間接的に銅クロロ錯イオン等を酸化して、その銅クロロ錯イオン等がニッケル等の目的金属をイオン化する反応と、下記化学式4に示すような塩素ガスの酸化力によってニッケル等の目的金属をイオン化する反応とがある。第1の浸出工程での酸化浸出によって混合硫化物の主成分であるNiSが形態変化したNi
3S
4については、化学式5及び化学式6に従って浸出される。
【0038】
[化2]
2CuCl
32−+Cl
2→2CuCl
42−
[化3]
NiS+2CuCl
42−→Ni
2++S
0+2Cl
−+2CuCl
32−
[化4]
NiS+Cl
2→Ni
2++S
0+2Cl
−
【0039】
[化5]
Ni
3S
4+6CuCl
42−→3Ni
2++4S
0+6Cl
−+6CuCl
32−
[化6]
Ni
3S
4+3Cl
2→3Ni
2++4S
0+6Cl
−
【0040】
本発明による第2の浸出工程での塩素浸出においては、従来から一般的に行われている塩素浸出条件を採用することができる。例えば、第2の浸出工程での塩素浸出反応では、塩化物水溶液の酸化還元電位を480〜550mV、及び温度を105〜115℃とすることが好ましい。
【0041】
一般に、CoSはNiSよりも熱力学的に安定度が高くコバルトと硫黄が分離され難いことから、コバルトの浸出率に関してはニッケルの浸出率よりも低くなる。しかし、本発明によれば、上記第1の浸出工程において混合硫化物の主成分であるNiSがNi
3S
4に形態変化して空隙が形成され、且つ融着して浸出を阻害する単体硫黄の生成が抑制されるので、ニッケル及びコバルトの浸出反応が促進される。その結果、ニッケル浸出率の向上のみならず、ニッケルと比較して溶解性の劣るコバルトの浸出率を向上させることができる。
【実施例】
【0042】
[実施例1]
原料として、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬工程で湿式硫化反応によって製造され、下記表1に示す組成を有する混合硫化物を使用した。
【0043】
【表1】
【0044】
まず、上記表1の組成を有する混合硫化物を350g/lのスラリー濃度になるように、酸化剤として2価の銅クロロ錯イオンを銅イオン濃度として40g/l含有する塩化物水溶液に投入し、全有効容量480m
3の耐酸レンガライニングが施された反応槽を用いて、酸化還元電位300mV及び温度90℃にて8時間の酸化浸出を実施した(第1の浸出工程)。酸化浸出後のスラリーを固液分離し、残渣として得られた酸化浸出後の混合硫化物の組成をIPC発光分光分析法により測定した。
【0045】
また、上記表1の組成を有する混合硫化物を原料とし、浸出反応時の酸化還元電位を試料毎に0〜400mVの範囲内で変更した以外は上記と同様にして、合計4個の試料について酸化浸出を行った。それぞれの試料について、酸化浸出後のスラリーを固液分離し、残渣として得られた酸化浸出後の混合硫化物の組成を上記と同様に測定した。
【0046】
上記酸化浸出後の混合硫化物の組成を測定した結果を下記表2に示した。尚、下記表2における組成及びモル比の数値は上記表1の組成を有する混合硫化物を原料として酸化浸出した合計4個の試料の最小値と最大値の範囲を示したものであり、組成はドライ重量パーセント及びモル比はSを1モルとした時のモル比(無次元数)を表す。
【0047】
【表2】
【0048】
上記表1に示す混合硫化物のニッケルのモル比とコバルトのモル比の和が1.0であることから、原料とした混合硫化物に含有されているニッケルとコバルトはNiSとCoSの形態であると推定できる。また、上記表2に示したニッケルのモル比から、酸化浸出によって混合硫化物中のニッケルの12〜15%が浸出されていると推定できる。
【0049】
次に、上記固液分離により残渣として得られた酸化浸出後の各試料の混合硫化物を、それぞれ塩化物水溶液でレパルプしてスラリーとした。その際、次の塩素浸出反応で得られる塩素浸出液の銅イオン濃度が40g/lとなるように、酸化浸出後の混合硫化物のスラリー濃度を調整した。
【0050】
得られた各スラリーを、全有効容量350m
3の耐酸レンガライニングが施された反応槽を用いて、酸化還元電位550mV(Ag/AgCl電極基準)、温度111℃及び滞留時間12.5時間の条件で塩素浸出した(第2の浸出工程)。
【0051】
上記の塩素浸出が終了した後、得られた各試料のスラリーを固液分離し、ニッケル浸出率とコバルト浸出率、及び硫黄酸化率を、合計4個の試料の平均値として求めた。得られた結果を下記表3に示した。
【0052】
[従来例]
上記表1に示す組成を有する混合硫化物を、上記酸化浸出を行なうことなく、そのまま上記実施例1での塩素浸出と同じ方法で、即ち、塩素浸出反応で得られた塩素浸出液の銅イオン濃度が40g/lとなるように混合硫化物のスラリー濃度を調整して、酸化還元電位550mV(Ag/AgCl電極基準)、温度111℃及び滞留時間12.5時間の条件で塩素浸出した。
【0053】
[比較例1]
上記表1に示す組成を有する混合硫化物を、酸化浸出条件として反応時の酸化還元電位を−50mVとした以外は上記実施例1と同様にして酸化浸出した。得られた酸化浸出残渣を、上記実施例1と同様にして塩素浸出した。
【0054】
[比較例2]
上記表1に示す組成を有する混合硫化物を、酸化浸出条件として反応時の酸化還元電位を450mVとした以外は上記実施例1と同様にして酸化浸出した。得られた酸化浸出残渣を、上記実施例1と同様にして塩素浸出した。
【0055】
[比較例3]
上記表1に示す組成を有する混合硫化物を、酸化浸出条件として反応時の温度を60℃とした以外は上記実施例1と同様にして酸化浸出した。得られた酸化浸出残渣を、上記実施例1と同様にして塩素浸出した。
【0056】
[比較例4]
上記表1に示す組成を有する混合硫化物を、酸化浸出条件として反応時の温度を110℃とした以外は上記実施例1と同様にして酸化浸出した。得られた酸化浸出残渣を、上記実施例1と同様にして塩素浸出した。
【0057】
上記した従来例及び比較例1〜4についても、塩素浸出が終了した後、得られたスラリーを固液分離し、ニッケル浸出率とコバルト浸出率、及び硫黄酸化率を求め、得られた結果をそれぞれ下記表3に示した。
【0058】
【表3】
【0059】
上記表3に示した通り、本発明の実施例によれば、優れたニッケル浸出率と共に、従来例と比較して特に高いコバルト浸出率が得られ、硫黄の酸化率も低く抑えられることが分かる。一方、比較例1と3はコバルト浸出率が低く、比較例2と4では硫黄酸化率が高くなった。