【実施例】
【0047】
本発明におけるはんだ接合材料のCu系金属材(Cu板)及びCu系金属材上の表面処理層に相当する部分のみを試料として作製し、評価を行なった。但し、本評価のCu板の厚さはCu/Al/Zn/Al/Cuの5層構造で好ましいCu厚より厚いものを使用した。実施例1〜5及び比較例1〜5の試料の構成を表1に示す。また、後述する評価項目についての評価結果も表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例1〜5及び比較例1〜5の詳細については、後述するが、表1における実施例1〜5の試料は、概略として、タフピッチ銅からなる平板上に、亜鉛めっきからなる被覆層を電解めっきにより厚さを変えて形成し(0.002〜0.08μm)、その後、大気中で焼鈍をして作製したものである。
【0050】
また、比較例1の試料は、Cu系金属材(Cu板)の特性に及ぼす亜鉛層の厚さの影響を評価すべく、厚さを変化させた亜鉛層を形成し、その後、実施例1と同様の加熱処理をしたものである。比較例2及び3の試料は、Cu系金属材(Cu板)の特性に及ぼす加熱処理条件の影響を評価すべく、加熱処理条件を変化させ(比較例2)、又は加熱処理をせずに(比較例3)、作製したものである。
【0051】
さらに、比較例4及び5の試料として、タフピッチ銅(比較例4)、及びCu−30質量%Zn合金(比較例5)を用意した。
【0052】
表1において、アモルファス層の存在の確認は、RHEED分析(Reflection High Energy Electron Diffraction)により行った。アモルファス層の存在を示すハローパターンが確認できたものを「有」、結晶質の構造を示す電子線の回折斑点が確認できたものを「無」とした。
【0053】
なお、表1において、作製した試料の外観評価、耐食性の評価、及び総合評価は、以下のようにして行った。
【0054】
「外観」は、100℃に設定した恒温槽において、大気中で1000時間まで保持する恒温保持試験、及び温度85℃×湿度85%の試験槽中で100時間保持する試験を実施し、評価した。試験前後の色、光沢の変化で判断し、最も変化の少ないものを◎(合格)、最も変化が大きく外観上劣化したものを×(不合格)、その中間を○(合格)、△(不合格)とした。
【0055】
「耐酸化性」は、100℃に設定した恒温槽において、大気中で1000時間まで保持し、試験後に計測された酸化膜の増加量により評価した。初期(試験前)と比較して最も変化が少ないものを◎(合格)、最も変化が大きく、劣化していたものを×(不合格)とし、その中間をその変化の程度に応じてそれぞれ○(合格)、△(不合格)とした。定量的な基準としては、初期(試験前)の酸化膜の厚さと比較し、1000時間後の酸化膜の厚さが3倍以上となったものは、外観の変化によらず全て×とした。
【0056】
「総合評価」は、これらの項目を総合的に評価して、◎、○を合格、△、×を不合格と判断した。
【0057】
以下に、実施例1〜5及び比較例1〜5の詳細を示す。
【0058】
[実施例1]
純Cu(タフピッチ銅;以下TPCと記載する)からなる厚さ0.5mmの平板を用意し、その表面に、電解めっきにより厚さ0.002μmの亜鉛からなる被覆層を形成し、その後、50℃の温度で10分間、大気中で加熱処理して、表面処理層を備えた試料を作製した。作製した試料に対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)から構成される表面処理層が、0.003μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0059】
[実施例2]
実施例2では、TPCからなる厚さ0.5mmの平板を用意し、その表面に、電解めっきにより厚さ0.005μmのZn層を形成し、その後、50℃の温度で1時間、大気中で加熱処理した試料を作製した。作製した試料に対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)から構成される表面処理層が、0.006μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0060】
[実施例3]
実施例3では、TPCからなる厚さ0.5mmの平板を用意し、その表面に、電解めっきにより厚さ0.008μmのZn層を形成し、その後、100℃の温度で5分間、大気中で加熱処理した試料を作製した。作製した試料に対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)から構成される表面処理層が、0.01μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0061】
[実施例4]
実施例4では、TPCからなる厚さ0.5mmの平板を用意し、その表面に、電解めっきにより厚さ0.04μmのZn層を形成し、その後、120℃の温度で10分間、大気中で加熱処理した試料を作製した。作製した試料に対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)から構成される表面処理層が、0.05μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0062】
[実施例5]
実施例5では、TPCからなる厚さ0.5mmの平板を用意し、その表面に、電解めっきにより厚さ0.08μmのZn層を形成し、その後、300℃の温度で5秒間、大気中で加熱処理した試料を作製した。作製した試料に対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)から構成される表面処理層が、0.1μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0063】
[比較例1]
比較例1では、TPCからなる厚さ0.5mmの平板を用意し、その表面に、電解めっきにより厚さ0.95μmのZn層を形成し、その後、100℃の温度で5分間、大気中で加熱処理した試料を作製した。作製した試料に対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)から構成される表面処理層が、1μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0064】
[比較例2]
比較例2では、TPCからなる厚さ0.5mmの平板を用意し、その表面に、電解めっきにより厚さ0.01μmのZn層を形成し、その後、400℃の温度で60秒間、大気中で加熱処理した試料を作製した。作製した試料に対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)から構成される表面処理層が、0.02μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0065】
[比較例3]
比較例3では、TPCからなる厚さ0.5mmの平板を用意し、その表面に、電解めっきにより厚さ0.02μmのZn層を形成し、試料を作製した。
【0066】
[比較例4]
比較例4では、TPCからなる厚さ0.5mmの平板を評価試料とした。
【0067】
[比較例5]
比較例5では、Cu−30質量%Zn合金(黄銅)の厚さ0.5mmの平板を評価試料とした。
【0068】
図5は、実施例3に係る試料の恒温(100℃)保持試験における1000時間試験品の、表層からスパッタを繰り返しながら深さ方向のオージェ元素分析を行った結果を示すグラフである。横軸は表面からの深さ(nm)、縦軸は原子濃度(at%)を表し、実線は酸素の含有比率としての原子濃度(at%)、長い破線は亜鉛の原子濃度、破線は銅の原子濃度を示している。酸素進入深さは、表面から8nm程度であり、特に深さ0〜3nmの表層部位における平均元素含有比率を(深さ0〜3nmでの各元素の最大原子濃度+最小原子濃度)/2と定義すると、実施例3では、亜鉛(Zn)が60at%、酸素(O)が33at%、銅(Cu)が7at%であった。
【0069】
また、他の実施例を含めると、上記平均元素含有比率は、亜鉛(Zn)が35〜68at%、酸素(O)が30〜60at%、銅(Cu)が0〜15at%の範囲にあることがわかった。
【0070】
一方、比較例1の試料は、亜鉛(Zn)が33at%、酸素(O)が41at%、銅(Cu)が26at%であり、比較例5の試料は、亜鉛(Zn)が5at%、酸素(O)が46at%、銅(Cu)が49at%であった。
【0071】
図6は、実施例3及び比較例1,4,5に係る試料の恒温(100℃)保持試験における、表層からの酸素進入深さ(酸化膜厚さ)の時間変化を示すグラフ図である。酸素進入深さは、各時間保持したサンプル表面から、スパッタを繰り返しながら、深さ方向にオージェ分析を行うことで求めた。
図6において、横軸は100℃等温保持時間(h)、縦軸は酸素進入深さ(nm)を表し、実線は実施例3、破線は比較例4及び5の酸素進入深さを示している。なお、比較例1は点で示されている。
【0072】
実施例3では、
図5に示すように、3600時間保持経過後の状態で、表面近傍での酸素濃度が増加しているものの、その進入深さは試験前と殆ど変化せず約0.01μm以下であり、実施例3の試料は高い耐酸化性を示した。
【0073】
一方、
図6に示すように、恒温保持試験前の比較例4(タフピッチ銅)及び比較例5では酸素を含む層の厚さが表面から約0.006μm程度と、恒温保持試験前の実施例3と同程度の深さであったが、3600時間保持試験後の比較例4では、表面近傍での酸素濃度が恒温保持試験前に比較して顕著に増加し、さらに、比較例4の酸素進入深さは約0.036μmと試験前の5倍以上となり、比較例5の酸素進入深さは約0.078μmと試験前の13倍となった。また試験後の比較例4及び比較例5では外観上も赤茶系に変色しており、明らかに酸素を含む層が厚く形成されていると判断することができた。また、TPCに0.95μmのZn層を形成した比較例1は1000時間保持試験後に既に酸素進入深さが約0.080μmに達していた。
【0074】
耐酸化性に優れた実施例3の表面をRHEED分析した結果を
図7に示す。電子線の回折像は、ハローパターンを示しており、表1にも示すとおり、表面にアモルファス層が形成されていることがわかった。一方、耐酸化性に劣る比較例4は、銅及び酸素で構成される結晶質であることが確認された。
【0075】
また、表1によれば、厚さを0.003〜0.1μmに変化させた表面処理層をもち、かつ、その表面処理層がアモルファス構造を有している実施例1〜5の外観及び耐酸化性の評価は良好であった。特に、表面処理層の厚さが0.006〜0.05μmの場合、優れた特性を示した。
【0076】
以上の結果から、実施例1〜5に示す構造は、表面酸化の進行がなく、100℃×1000時間にも及ぶ恒温保持試験、及び、85℃×85%の環境でも安定した表面状態を保っていることが確認された。
【0077】
一方、同じくZn系の表面処理層を持つ比較例1〜3であっても、良好な特性が得られない場合が認められた。比較例1のように、亜鉛の厚さが厚い場合、比較例2のようにめっき後に過剰な加熱処理を行った場合、比較例3のようにめっき後の加熱処理を実施していない場合等、表層にアモルファスが形成されないものはいずれも、耐酸化性の評価結果は不合格となった。
【0078】
コスト(経済性)に関して、実施例1〜5は、材料そのものの耐酸化性に優れているが材料コストが高い貴金属コーティング等を必要とせず、安価なZnを使用し、しかもその厚さが極めて薄いため、生産性と経済性に極めて優れている。
【0079】
次に、板状はんだ接合材料を作製し、評価を行なった。
【0080】
Cu/Al/Zn/Al/Cuの各層厚が2/16/164/16/2μmであり、総厚が200μmである5層構造を作製した。この5層構造の両Cu表面上に、実施例1〜5及び比較例1〜3の表面処理をすることにより、実施例6〜10及び比較例6〜8の板状はんだ接合材料を作製した。また、比較例9は表面処理を施さないことで、比較例10は最表層にCu−Zn合金を使用して、板状はんだ接合材料を作製した。
【0081】
接合性評価用部材は、5mm角のSiチップとCuフレームを5.5mm角の実施例6〜10及び比較例6〜10の板状はんだ接合材料を用いて接合させて作製した。SiチップとCuフレームは、NiあるいはNi/AgあるいはNi/Auでメタライズしたものを使用した。接合条件は、接合温度385℃以上、接合時間2分以上、荷重1g以上とした。接合雰囲気は、比較の為に、大気、N
2+4%H
2+100ppmO
2雰囲気にて実施した。
【0082】
接合性の評価は超音波探傷にて実施し、ボイド率が10%を下回った場合を〇(合格)、10%以上の場合を×(不合格)と判定した。ボイドを信頼性の評価基準とした理由は、ボイドが存在すると、応力がかかった際にボイド周辺から優先的にクラックが進展し、信頼性に大きな影響を与える為である。
【0083】
【表2】
【0084】
実施例6〜10について接合性を評価した所、大気、N
2+4%H
2+100ppmO
2雰囲気のいずれにおいてもボイド率10%を下回る良好な結果が得られた。表面処理層(アモルファス層)が酸化を抑制した為と考えられる。
【0085】
比較例6〜8では、いずれの雰囲気においてもボイド率10%以上であった。最表層のZn層が厚い為、最表面はZnであり、このZnが酸化することによって、表面に膜を形成して濡れを阻害した為である。
【0086】
比較例9では、N
2+4%H
2+100ppmO
2雰囲気にてボイド率10%を下回る良好な接合が得られたが、大気ではボイド率10%以上の接合であった。N
2+4%H
2+100ppmO
2雰囲気では酸化したCuが還元される為、良好な濡れが得られたが、大気ではCuの酸化により表面に膜を形成されて濡れを阻害した為である。
【0087】
比較例10では、いずれの雰囲気においても比較例6〜8に比べて良好ではあったが、ボイド率10%以上であった。Cu−Zn合金中のZnの成分が酸化し、このZnに膜を形成して濡れを阻害した為である。
【0088】
なお、本発明は、上記実施の形態、上記実施例に限定されず種々に変形実施が可能である。