(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
塗膜面に対して45度となるように照射した光を正反射光に対して25度で受光して得られた分光反射率に基づくL*a*b*表色系における明度L*25が25〜120の範囲内であり、前記塗膜面に対して45度となるように照射した光を正反射光に対して75度で受光して得られた分光反射率に基づくL*a*b*表色系における明度L*75が10〜40の範囲内であり、下記(1)式によって計算されるFF値が2.5〜6.0の範囲内であり、前記塗膜面に対して45度となるように照射した光を正反射光に対して45度で受光して得られたL*C*h°表色系における色相h°45が0〜120または330〜360の範囲内であることを特徴とする、請求項4に記載の塗膜。
[数1]
FF=L*25/L*75
【背景技術】
【0002】
自動車、自転車、携帯電話などの電子機器、OA機器、加熱調理器具や冷暖房機器などの家電製品などの様々な製品やそれらの部品等の塗膜には光輝性の高級メタリック感を与える工業用塗料として、従来からアルミフレーク顔料を含んだ組成物が汎用的に使用されている。しかし、アルミフレーク顔料を配合した塗料組成物ではキラキラと輝く強い光輝感を発現する塗膜が得難いことから、アルミフレーク顔料とは異なる鱗片状無機粉末を含む塗料及びその塗装方法の開発が盛んに行われている。これにより、従来の着色塗装金属板では得られない強いメタリック感で醸し出される識別性の高い商品が市場に多く出回るようになってきた。
【0003】
例えば特許文献1には、アルミニウム、亜鉛、銅、ブロンズ、ニッケル、チタン、ステンレスなどの金属フレーク及びそれらの合金フレーク、パールマイカ、透明パールマイカ、着色マイカ、干渉マイカなどの非金属フレーク等のフレーク顔料の基体粒子として知られる公知のフレーク粒子と、該フレーク粒子の表面を被覆する被膜と、フレーク顔料に摩擦帯電特性を付与する特性を備えた微粒子とからなるフレーク顔料が示されている。
【0004】
そして、上記被膜は、最外層がフッ素を有するフッ素系重合性モノマー由来の1種以上の第1結合ユニットと、リン酸基を有する重合性モノマー由来の1種以上の第2結合ユニットとを備える共重合体であり、該最外層を介して微粒子が固定されており、これによりフレーク顔料からなる粉体塗料を摩擦帯電式静電塗装機で塗装した後、焼付けすることで塗膜が得られることが記載されている。また、これにより得られる塗膜は優れたメタリック感及び高輝度感を有し、色ムラがないことが示されている。
【0005】
また、特許文献2には、アルミニウム99〜80重量%と、ニッケル、マグネシウム、スズ、銅、マンガン、チタン及び銀から選ばれる1種又は2種の金属1〜20重量%とからなるアルミニウム合金の粉末をメタリック顔料として含んだメタリック塗料組成物が示されている。このアルミニウム合金は通常メタリック顔料として使用されていたアルミニウム含有率99.7重量%以上のアルミニウムフレークに比べて硬質であるため、ボールミルに潤滑材と延展媒液と共に入れて延展する際に従来のアルミニウムフレークとは異なり偏平に平たく伸ばされることは少なく反りや凹凸を生じ、この反りや凹凸によってハイライト部分の輝度を低下させることなくシェード部分の光輝感にも優れ、更に平滑性にも優れることが記載されている。
【0006】
一方、上記塗膜を保護するためのクリア塗装には、ウレタン系、ポリオレフィン系、フッ素系等の種々の有機樹脂塗料が使用されている。比較的透明度の高いものとしてアクリル系、エポキシ系等の有機樹脂塗料を使用する場合もあり、硫化物、塩化物などの腐食性ガスや日光等からメタリック感の劣化や変色を長期的に防ぐ技術も進んでいる。
【0007】
例えば特許文献3には、半透明の鱗片状無機粉末(アルミニウムフレーク、ステンレス鋼フレーク、ガラスフレーク、アルミナフレーク、マイカ粉、タルク粉、板状カオリン、硫酸バリウムフレーク等の難水溶性金属粉又は酸化物であり、必要に応じてTiO
2、SiO
2、ZrO
2、Fe
2O
3、Fe
3O
4、SnO
2、Cr
2O
3、ZnO、Al
2O
3等の透明酸化物で被覆されたもの)を分散させたアルキルシリコーン樹脂(メチルシリコーン樹脂、フェニルシリコーン樹脂、メチルフェニルシリコーン樹脂から選ばれた1種又は2種以上の混合物又は重合物)のクリア塗膜を、金属光沢のある基材・金属板上に形成した、耐熱クリアプレコート金属板が記載されている。
【0008】
また、特許文献4には、一次粒子径が5nm以上100nm以下のBlack25:Co−Ni、Black26:Cu−Mn−Fe、Black27:Co−Cr−Fe、Black28:Cu−Crなどの複合金属酸化物顔料や鱗片状アルミニウム顔料を含む塗料組成物が示されている。そして、この塗料組成物を塗装して得られる塗膜に対して45度となるように照射した光を正反射光に対して15度で受光して得られた分光反射率に基づくL*a*b*表色系における明度L*15°が80〜160の範囲となるように上記顔料の種類や量を定めることが示されている。
【0009】
また、正反射光に対して110度で受光して得られた分光反射率に基づくL*a*b*表色系における明度L*110°が5〜30の範囲内、FF=L*15°/L*110°によって計算されるFF値が4.0〜12.0の範囲内、且つ正反射光に対して45度で受光して得られた色相h*45°が235〜280の範囲内とするのが好ましいことも示されている。さらにクリア塗料を塗装することで、特にシルバーやグレーのメタリック塗色の人気が高い自動車の外板に適用した時に耐候性に優れ、ハイライト(正反射光近傍)において高明度であって、シェード(斜め方向)では明度が低く、ハイライトからシェードにおいて黄味を感じない塗膜を形成可能なことが記載されている。
【0010】
ところで、上記した塗装の高級感が要求される自動車、家電製品、携帯電話などには、近年いずれも各種のセンサが内蔵されるようになってきており、塗膜に上記した強い光輝感を発現させることに加えて電磁波を透過する性質を有していることが求められるようになってきている。しかしながら、上記したフレーク状金属粉末や鱗片状無機粉末は電磁波を反射する性質をもつため、これらの粉末を顔料として含む塗料を塗布対象となる基材の表面に対して該粉末の各粒子が略平行となるように配列させて塗装する場合は、センサ近辺に電磁波透過用の微細な穴あけ等の煩雑な加工が必要であった。従って、このような穴あけ加工が不要となるような電磁波を透過しつつ高級メタリック感を与える工業用塗料が求められていた。
【0011】
例えば特許文献5には、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金等、あるいは、銅、ニッケル、ビスマス、インジウム、コバルト、亜鉛、タングステン、クロム、鉄、モリブデン、タンタル、マンガン、スズ、チタン等の1種又は2種以上の金属を含有する粒子径が約1〜100nmである金属ナノ粒子と、樹脂成分とからなる塗膜及びその形成方法並びにその塗料組成物が示されている。
【0012】
そして、この塗膜は電磁波透過性を有すると共に、密着性及び高輝度外観を有し、且つこれらのバランスに優れていることが記載されている。また、この樹脂成分はオキサゾリン基を含有する樹脂(重合体)(a)とカルボキシル基を含有する樹脂(b)とからなることが記載されている。更に樹脂(b)はナノ粒子に対する親和性の高い官能基とともに溶媒親和部分も含む両親媒性の高分子量の共重合体であり、数平均分子量が1000〜100万であることが好ましいことが記載されている。
【0013】
また、特許文献6には、分散媒を除く組成物中に銀ナノ粒子を72〜99質量%含む金属ナノ粒子が分散し、更にこの分散媒にポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンの共重合体、ポリビニルアルコール及びセルロースエーテルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の有機高分子の添加物を金属ナノ粒子の0.1〜20質量%添加混合することにより調製された電極形成用組成物が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(水性銀コロイド液)
以下、本発明の水性銀コロイド液の実施形態について詳述するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本発明の実施形態の水性銀コロイド液は、形状が球状であって平均粒径(D50)が45〜100nmの銀粒子と、製造上不可避的に混入する不純物を含んだ溶媒としての水とからなる。この銀粒子は、表面がポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールの少なくとも2種類の有機物で被覆されており、それらの付着量は銀粒子に対して1〜10質量%である。一方、不可避不純物の総量は水性銀コロイド液に対して1質量%以下である。なお、有機物で被覆されているとは、有機物由来の変性物で被覆されている場合も含んでいる。
【0025】
ポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールは、ともに銀粒子表面に吸着しやすい性質を有している。特にポリビニルピロリドンはポリビニルアルコールと比較して銀粒子表面に吸着しやすい性質を有しているが、反面、残留しづらい特性も有している。そのため、ポリビニルピロリドン単独では純水等を用いた洗浄により有機物付着量が銀粒子に対し0.03質量%以下になることがある。0.03質量%程度であればポリビニルピロリドンの初期の付着量としては問題ないが、ポリビニルピロリドンは時間経過とともに徐々に乖離するため、保存するにつれて凝集が徐々に進んでしまい、保存安定性に問題が生じるおそれがある。
【0026】
一方、ポリビニルアルコール単独では、ポリビニルピロリドンほどではないものの銀粒子の表面に吸着し、この場合は残留しやすい特性を有している。しかしポリビニルアルコールは水で膨潤する性質があるため、多量に吸着させると膨潤部分内部の洗浄が困難になるおそれがある。
【0027】
しかるに、塩化銀をアンモニア水に溶解した銀錯塩水溶液に対して、ポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールの少なくとも2種類を含む分散剤並びにヒドラジンを混合して塩化銀を還元すると、銀粒子が生成する際に吸着性のより高いポリビニルピロリドンが優先的に銀粒子に吸着し、ポリビニルアルコールはその外側の位置に吸着する。ポリビニルアルコールは前述したように水で膨潤する性質があるため、この性質を利用することによりポリビニルピロリドンが銀粒子表面から乖離しても、その周囲のポリビニルアルコールが遊離を阻害し、乖離したポリビニルピロリドンをまたすぐに銀粒子表面に吸着させるため、分散性及び保存安定性に優れた水性銀コロイド液が得られる。
【0028】
また、ポリビニルアルコールは水で膨潤する性質があるため、このポリビニルアルコールがポリビニルピロリドンの外側に位置することで乾燥がある程度進んでも分散性が維持される。この水性銀コロイド液を塗料に適用した場合には、その乾燥時に乾燥速度の局所的なばらつきに由来する銀粒子の配列ムラを防止できる。すなわち、ポリビニルピロリドンが乾燥した状態では良好な分散性が得られにくいが、周囲を占めるポリビニルアルコールが膨潤している間は分散性が維持され、銀粒子が配列できる時間が延長されることで配列ムラが減少する。
【0029】
尚、これらの特性を得るには、水性銀コロイド液中の銀粒子にポリビニルピロリドンを優先的に吸着させ、ポリビニルアルコールをその外側に位置するように吸着させるのが望ましいが、還元による銀粒子形成時にポリビニルアルコールを添加せず、銀コロイドを形成した後でポリビニルアルコールを添加した場合は、均一な吸着が難しく、上記した良好な分散性及び保存安定性はあまり得られない。また、完全に乾燥した後、あるいはクリアコートなどにより固定された後では、これらの特性は現れない。
【0030】
本発明の実施形態の水性銀コロイド液に含まれる銀粒子は、形状が略球状であることから、この水性銀コロイド液を塗料として用いた塗布した時に得られる塗膜は乱反射が少なく、鱗片状(平板状)粒子と比較してシェードでの反射が低く抑えられることから金属質感にも優れており、電磁波透過性も高い。更に、本発明の実施形態の水性銀コロイド液に含まれる銀粒子は粒子径がナノ粉としては大きく、且つ粒度の均一性が高いことから微細すぎる粒子が少なく、よって非焼結性、すなわち焼結しにくい点においても優れている。
【0031】
但し、本発明の実施形態の水性銀コロイド液に含まれる銀粒子は焼結すると導電性が現れ、フレーク粉や鱗片状無機粉末を用いた場合と同様に電磁波透過性がなくなるため、導電性ペーストの原料として用いることも可能である。なお、本発明において水性銀コロイド液中の銀粒子とは、単結晶粒子、多結晶粒子、あるいはそれらの集合体のいずれをも指している。
【0032】
水性銀コロイド液に含まれる不可避不純物(すなわち、有機物が付着した銀粒子、及び溶媒としての水以外の成分)は、水性銀コロイド液を塗料に適用した場合に金属質感を乏しくさせたり、塗膜の平滑性を低下させたりする原因になる。従って不純物の総量は上記した悪影響を実質的に及ぼさない程度にまで低減するのが必要であり、具体的には、不可避不純物の総量を水性銀コロイド液に対して1質量%以下とすることが必要である。
【0033】
(球状)
本発明の実施形態の水性銀コロイド液中の銀粒子は、FE−SEM(Field Emission Scanning Electron Microscope、日立製作所製、型式S−4700)を用いたSEM像(例えば20,000倍)で観察した際の形状が実質的に球状であることを特徴とする。球状ではない形状の具体例としては、デンドライト状(樹葉状、針枝状を含む)や針状など、アスペクト比(長径/短径)が1.5以上の楕円、片状の微粒子、あるいは測定困難なものなどを挙げることができる。
【0034】
なお、球状の銀粒子の作用効果を妨げない範囲であれば、上記したような非球状の銀粒子が水性銀コロイド液に含まれていても構わない。その意味で、球状の銀粒子が、全銀粒子の80質量%以上を占めることが重要であり、90質量%以上が好ましく、ほぼ100質量%を占めるのが最も好ましい。なお、還元液と分散液の投入時間を調整することでより球状の銀粒子をより多く含んだ水性銀コロイド液を作製することができる。
【0035】
(平均粒径(D50))
本発明の実施形態の水性銀コロイド液に含まれる銀粒子は、平均粒径(D50)が45〜100nmであることが必要であり、45〜80nmであるのが好ましい。なお、ここでいう平均粒径(D50)は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50である。このD50が45nmより小さいと、非焼結特性が十分に得られない。一方、このD50が100nmより大きいと、電磁波透過性が低下するだけでなく、塗膜の膜厚が厚くなってコストの増大につながる。
【0036】
なお、上記した銀粒子の平均粒径は還元時の銀に対するポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールそれぞれの濃度により調整することができる。具体的には、ポリビニルピロリドンの濃度を高くすることで銀粒子の平均粒径を小さくすることができ、逆にポリビニルアルコールの濃度を高くすることで銀粒子の平均粒径を大きくすることができる。これらのうち、銀粒子の平均粒径に対する寄与度はポリビニルピロリドンの方が高い。もちろんポリビニルピロリドンやポリビニルアルコールの濃度は後述するように有機物付着量にも密接に影響するので、所望の有機物付着量と平均粒径とを勘案しながらポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールの濃度をそれぞれ調整する。
【0037】
(最小粒径(Dmin))
本発明の実施形態の水性銀コロイド液に含まれる銀粒子の最小粒径(Dmin)は、15nm以上であるのが好ましく、30nm以上であるのがより好ましい。このDminが15nmより小さくなると、例えば水性銀コロイド液を塗料として塗布して乾燥させた後の塗膜の非焼結性が悪くなり、太陽光(紫外線)や使用環境の温度などの影響で焼結が進み、電磁波透過性の悪化や色合いの変化を招く可能性があるため好ましくない。
【0038】
(非沈降性)
本発明の実施形態の水性銀コロイド液は、前述した通り高い分散性と保存安定性に優れている。これらの特性を測る指標として非沈降性がある。例えば水性銀コロイド液を適量の常温の純水で希釈して攪拌した後、1週間以上、望ましくは3週間以上静置させても銀粒子がコロイド粒子のまま沈まないような非沈降性を有していることが好ましい。
【0039】
本発明の実施形態の水性銀コロイド液に含まれる銀粒子は微細且つ略球状であるため、粒子の見掛けの大きさ(粒径とも言える)に対する密度(かさ密度)が大きくなるが、周囲にポリビニルアルコールを十分に存在させることができるので、ポリビニルピロリドンの分散効果を十分に発揮させることができる。これにより、コロイドを分散させた際の沈降速度が遅くなり、長時間浮遊可能な特性が得られる。
【0040】
(有機物付着量)
上記した銀粒子を含む水性銀コロイド液は、ポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールの少なくとも2種類の分散剤とヒドラジンとを銀錯塩水溶液に混合し、銀錯塩を還元することで作製することができる。その際、生成した銀粒子には上記した有機物であるポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールが特に付着し易いので、これら有機物が多量に付着した銀粒子が得られる。これら有機物の銀粒子に対する付着量は銀粒子に対して1〜10質量%であることが必要である。
【0041】
その理由は、有機物付着量が1〜10質量%の範囲内では、塗膜の金属質感を著しく損なうことなく非焼結性及び非沈降性を高めることができるからである。すなわち、有機物付着量が1質量%未満では非焼結性が悪化して塗膜の電磁波透過性が低下することがあり、一方、10質量%を超えると塗膜の平滑性が低下して金属質感に乏しくなり、意匠性が低下することがある。
【0042】
(用途)
本発明の実施形態の水性銀コロイド液は、前述したように非沈降性すなわち分散性及び保存安定性に優れ、且つ非焼結性にも優れている。更に、それを塗料として用いて形成した塗膜は意匠性すなわち金属質感に優れ、且つ電磁波透過性にも優れている。よって、電磁波透過型で優れた外観の意匠性を必要とする物品の塗料の原料として用いるのが好ましい。具体的には自動車、自転車、電子機器、OA機器、加熱調理器具や冷暖房機器などの家電製品及びその部品等を対象とする塗装に好適に用いることができる。
【0043】
(製造方法)
本発明の実施形態の水性銀コロイド液は、限定するものではないが、例えば下記の方法で作製することができる。すなわち、銀化合物をアンモニア水に溶解して銀アンミン錯塩の水溶液(銀アンミン錯塩水溶液または銀錯塩水溶液とも称する)を用意し、これにポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールの少なくとも2種類の分散剤、並びにヒドラジン溶液を混合し、銀化合物を還元して銀粒子を析出させる。得られた銀粒子を含む水溶液を濾過及び洗浄することにより水性銀コロイド液を得ることができる。
【0044】
還元される銀化合物は塩化銀、酸化銀、硝酸銀、炭酸銀等が使用可能であるが、これらの中では塩化銀が好ましい。その理由は、塩化銀を原料として使用した場合、他の銀化合物と比較して還元反応が遅くなるため、最小粒径が15nm未満の微粒子の発生が抑えられ、粒度分布がより安定するからである。
【0045】
銀化合物に塩化銀を使用する場合は、塩化銀をアンモニア水に溶解して得られる銀錯塩水溶液の銀濃度を0.1〜30g/Lに調整するのが好ましく、1〜15g/Lに調整するのがより好ましい。この銀濃度が0.1g/L未満になると、生産性が悪化して効率的に銀粉を得るのが困難になる。一方、この銀濃度が30g/Lより高くなると、生成する銀粒子の形状が不安定になり、特に粒度分布が安定しなくなるため好ましくない。
【0046】
塩化銀をアンモニア水に溶解して得られる銀錯塩水溶液のpHは10〜13に調整するのが好ましく、pH12程度に調整するのがより好ましい。このpHが10よりも低いと塩化銀が析出してしまい、製品の粒度分布等の特性が安定しない。一方、pHが13を超えても生成する銀粒子の特性が特に向上しないばかりか、多量のアンモニアガスが揮発して悪臭を引き起こすおそれがある。特に銀錯塩水溶液のpHを12程度に調整することにより、粒子形状及び粒度分布の均一性の点で一層安定した水性銀コロイド液を作製することができる。
【0047】
本発明の実施形態で使用する分散剤は、ポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールの2種類が必須であるが、必要に応じてこれらとは別の分散剤を更に添加してもよい。その際、添加した上記別の分散剤も若干銀粒子の表面に残留することが予想されるので、長期保存した場合に紫外線等によって変色を起こしたり、透明度を低下させたり等の塗膜の意匠性を損なうものでなく、また焼結を促すものでもないことが望ましい。
【0048】
このような分散剤としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸、ポリオキシエチレン(7)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、コハク酸、乳酸、蟻酸などのカルボン酸、イミダゾール、ベンゾトリアゾール等のアゾ化合物、ジエタノールアミン、ポリエチレンイミン等のアミノ化合物、又は界面活性剤の類を挙げることができる。これらの内の1又は複数を添加することにより更に分散性を向上させることができる。
【0049】
分散剤に使用するポリビニルピロリドンの分子量は3,000〜25,000であることが好ましい。この分子量が3,000未満では立体障害としての機能が乏しくなり、結果として分散性が悪化するおそれがあるからであり、一方、分子量が25,000を超えると塗膜の平滑性が低下するおそれがあるからである。上記分散剤に使用するポリビニルアルコールについては、前述したように膨潤する特性を有することが望ましく、そのためには親水性が高いこと、すなわち分子量が比較的小さいことが好ましく、また、銀粒子表面に吸着しつつポリビニルピロリドンの周囲を占めるため、必然的にポリビニルピロリドンと同程度の分子量であることが好ましい。
【0050】
ポリビニルピロリドンは、銀に対して1〜10質量%となるように添加する。この量が1質量%未満であると、銀粒子の表面に吸着される量が不十分になり、分散性が悪化して塗膜を形成した時に意匠性に問題が生じたり、電磁波の散乱により電磁波透過性の低下を招いたりするおそれがある。一方、この量が10質量%より多くなると、ポリビニルアルコールの吸着を妨げ、塗膜を形成した時に意匠性に問題が生じたり、十分な電磁波透過性を得るための銀粒子配列の時間延長の効果が不足したりするおそれがある。
【0051】
ポリビニルアルコールは、銀に対して1〜40質量%となるように添加する。この量が1質量%未満であると銀粒子表面のポリビニルピロリドンの周囲に十分に存在できなくなって乾燥時にムラができやすく、結果的に膜厚が不均一になり、意匠性が低下したり電磁波の散乱により電磁波透過性が低下したりする問題を招くおそれがある。一方、この量が40質量%より多くなると、銀粒子の洗浄に時間がかかりすぎて生産性が低下するため好ましくない。
【0052】
上記還元剤として使用するヒドラジンは、銀化合物に対しモル比で0.6以上に調整するのが好ましく、1〜3の範囲内に調整するのがより好ましい。このモル比が0.6未満であると還元が不十分となり、還元後の水性銀コロイド液中に未還元の銀が析出することがある。一方、このモル比で3より大きくなると不経済になる上、ヒドラジンガスの発生により作業環境が悪化するおそれがある。
【0053】
上記説明した方法ではポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールを少なくとも含む分散剤を還元液に添加した後、塩化銀などの銀化合物をアンモニア水に溶解した銀錯塩水溶液に対して、該分散剤を含む還元液を添加したが、この方法に限定されるものではなく、ポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールを少なくとも含む分散剤を還元剤と共にあるいは別々に銀錯塩水溶液に添加してもよいし、還元剤及び銀錯塩のいずれも含まない第3液にポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールを少なくとも含む分散剤を溶解し、この第3液を還元液と共にあるいは別々に銀錯塩水溶液に添加して混合することで銀粒子を生成させてもよい。
【0054】
いずれの場合においても、還元条件として、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンを少なくとも含む分散剤並びに還元液を銀錯塩水溶液に混合して得られる混合液の温度は15〜50℃が好ましく、20〜45℃がより好ましく、25〜40℃がさらに好ましい。この温度が15℃未満ではヒドラジンの還元性能が低下して銀粒子の生成が遅くなることで還元時間が長くなり、生産性が低下する。一方、この温度が50℃より高くなると、アンモニアの揮発量が増加するだけでなく、銀粉の粒径にばらつきが生じるおそれがある。
【0055】
上記還元反応が終了したことを還元反応による発泡が終了したこと、あるいは酸化還元電位の低下等により確認した後、析出した銀粒子を含む水溶液の濾過及び洗浄を行うことで水性銀コロイド液が得られる。これら濾過及び洗浄の方法としては、銀粒子が溶解したり、表面に吸着しているポリビニルピロリドンやポリビニルアルコールが除去されたりすることがなければ特に制約はなく、一般的な方法を採用することができる。
【0056】
例えば、銀粒子は平均粒径が100nm以下であることから、分画分子量25,000〜100,000程度の限外濾過装置を用いた濃縮と、これにより得られる濃縮液の純水による希釈とを繰り返すことで濾過及び洗浄処理を行うことができる。これにより銀粒子表面に吸着せずに液中に溶解しているポリビニルピロリドンやポリビニルアルコール、アンモニア、ヒドラジン、界面活性剤等の不純物を十分に除去することができる。その後、銀濃度を例えば1g/mLとなるまで濃縮することで水性銀コロイド液を得ることができる。なお、銀粒子に吸着していないポリビニルピロリドンやポリビニルアルコールの除去を促進するため、上記洗浄に使用する純水にエタノールなどのアルコールを添加するのが効果的である。
【0057】
銀粒子表面に吸着されているポリビニルピロリドンやポリビニルアルコールは、銀の触媒効果によってそれぞれ単体での燃焼温度や分解温度以下で容易に分解され、容易に銀特有の金属光沢を得られる。一方、液中に残留しているポリビニルピロリドンやポリビニルアルコール、及び界面活性剤等は銀粒子の表面とほとんど接することがないので銀の触媒効果は得られず、各々の単体での燃焼や分解が行われない限り、それらに起因する黄色やオレンジ色を呈し、意匠性を損なう原因となる。従って水性銀コロイド液では、銀粒子表面に吸着せずに液中に残留しているポリビニルピロリドンやポリビニルアルコールなどの不純物を上記洗浄処理にて十分に除去し、水に含まれる不純物の総量が水性コロイド液に対して1質量%以下となるようにする。
【0058】
(塗料)
本発明の実施形態の水性銀コロイドは、塗料として塗布された後、乾燥により得られる塗膜に金属質感があり、且つ電磁波透過性に優れているため、優れた意匠性のみならず電磁波透過性要する物品のメタリック塗装用の塗料に適用するのが好ましい。このような塗料には、塗装に必要な粘度等を調整するために、樹脂成分、溶媒、その他添加剤を適宜配合することもできる。また後述するクリア塗装の構成成分をあらかじめ添加しておいてもよい。
【0059】
また上記のようにして得られた水性銀コロイド液に対してさらに有機表面処理を施してもよい。水性銀コロイド液中の銀粒子に有機表面処理を施すことにより、凝集性を更に抑制したり、非焼結性を向上させたりすることができる。また、有機表面処理剤を適宜選択することにより、他材料との親和性をコントロールすることも可能になる。
【0060】
この有機表面処理剤には、例えば界面活性剤、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物、シランカップリング剤等の有機化合物が利用できる。前述したように銀粒子の表面には親水性の高いポリビニルアルコールが占めていることから、水中でこれら有機表面処理剤の皮膜を形成するのは困難である。そのため、たとえば上記有機化合物としてオレイン酸、カプリン酸又はステアリン酸を用いる場合は、この有機化合物を水性銀コロイド液と共に塗料に混合し、基材に塗布した後、乾燥時に粒子表面に形成させて親和性を発揮させる方法がある。
【0061】
(塗膜の色調)
上記した水性銀コロイド液を用いた塗料で形成した塗膜は、高い鏡面反射率と優れた輝度感とを有し、視覚の方向によって明度差があることを示すフリップフロップ性(以下、FF性)にも優れ、更にぎらぎらした粒子感を感じさせない緻密感を有するので、意匠性に優れた金属質感を発現する。
【0062】
具体的には、本発明の実施形態の水性銀コロイド液を用いた塗料で形成した塗膜は、鏡面反射率が97%以上であり、塗膜面に対して45度となるように照射した光を正反射光に対して25度で受光して得られた分光反射率に基づくL*a*b*表色系における明度L*25が25〜120の範囲内であり、塗膜面に対して45度となるように照射した光を正反射光に対して75度で受光して得られた分光反射率に基づくL*a*b*表色系における明度L*75が10〜40の範囲内であり、FF=L*25/L*75によって計算されるFF値が2.5〜6.0の範囲内であり、塗膜面に対して45度となるように照射した光を正反射光に対して45度で受光して得られたL*C*h°表色系における色相h°45が0〜120または330〜360の範囲内となる。
【0063】
上記指標に対して示された範囲内において更に所望の値とするためには、銀インクに含まれる水性銀コロイド中の銀粒子の平均粒径、有機物付着量、水性銀コロイドの量、樹脂成分の種類や量が適宜調整される。具体的には、銀粒子の平均粒径を変えることにより、プラズモンの影響を調整できる。粒径を小さくすれば、プラズモンの影響が大きくなり、色相h°45が(−30〜120の範囲で)増加する。また、塗膜も増加するため、下地色の影響も減少する。有機物付着量を変えることにより、反射率を調整することができる。有機物付着量を減少させれば、明度L*75は増加するが、焼結性が高まるため同時にFF値が減少する可能性があり、焼結しない範囲での調整が必要である。また、紫外線などを照射することで、光反射特性を調整しても良い。
【0064】
(電磁波透過性)
本発明の実施形態の水性銀コロイド液に含まれる銀粒子の平均粒径は45〜100nmと細かく球状である上、表面に有機物が付着していて非焼結性が高いため、それを用いた塗料によって形成される塗膜は優れた電磁波透過性を有し、具体的には76GHzの電磁波透過性損失が1dB以下である。
【0065】
(塗膜の構成)
本発明の実施形態の水性銀コロイド液を用いた塗料が塗布される基材には、鉄、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等の金属やこれらを含む合金、若しくはこれらの金属によるメッキまたは蒸着が施された成型物、プラスチックや発泡体などからなる成型物、又はガラス等を挙げることができる。これらの素材には必要に応じて脱脂処理や表面処理が施されていてもよい。さらに、上記基材に下塗り塗膜や中塗り塗膜を形成させた上に上記塗料を塗布して塗膜を形成し、その上にクリア塗装を施すのが好ましい。
【0066】
ここで下塗り塗膜とは、素材表面を隠蔽したり、素材に防食性や防錆性などを付与したりするために形成するものであり、これは下塗り塗料を塗装し、乾燥及び硬化させることによって得られる。下塗り塗料の種類には特に限定はなく、例えば、電着塗料、溶剤型プライマー等を挙げることができる。一方、中塗り塗膜とは、素材表面や下塗り塗膜を隠蔽したり、付着性や耐チッピング性などを付与したり、複層塗膜における明度を調整したりするために形成されるものであり、これは素材表面や下塗り塗膜上に中塗り塗料を塗装し、乾燥及び硬化させることによって得られる。中塗り塗料の種類には特に限定はなく、公知のものを使用できる。例えば、熱硬化性樹脂組成物や着色顔料を必須成分とする有機溶剤系又は水系の塗料を好適に使用できる。
【0067】
上記した下塗り塗膜や中塗り塗膜を基材の上に形成する場合は、下塗り塗膜及び中塗り塗膜を加熱して架橋硬化させた後に本発明の実施形態の水性銀コロイド液を用いた塗料を塗装してもよいし、あるいは下塗り塗膜を加熱して架橋硬化させた後に中塗り塗膜を形成し、中塗り塗膜は未硬化のまま本発明の実施形態の水性銀コロイド液を用いた塗料を塗装してもよいし、あるいは下塗り塗膜及び中塗り塗膜が共に未硬化のまま本発明の実施形態の水性銀コロイド液を用いた塗料を塗装してもよい。
【0068】
クリア塗料は、本発明の実施形態の水性銀コロイド液を用いた塗料からなる塗膜における未硬化状態もしくは硬化状態の塗面に塗装する塗料であり、樹脂成分及び溶剤を主成分とし、さらに必要に応じてその他の塗料用添加剤などを配合してなる無色もしくは有色の透明塗膜を形成する液状塗料である。クリア塗料としては特に制約はなく、公知のものを使用できる。例えば、基体樹脂及び架橋剤を含有する液状もしくは粉体状の塗料組成物が適用できる。
【0069】
基体樹脂の例としては、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、エポキシ基などの架橋性官能基を含有する樹脂、すなわち、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコン含有樹脂などを挙げることができる。架橋剤としては、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネ−ト化合物、ブロックポリイソシアネ−ト化合物、エポキシ化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水物、アルコキシシラン基含有化合物又は樹脂等の上記基体樹脂の官能基と反応しうるものを挙げることができる。また、必要に応じて、水や有機溶剤等の溶媒、硬化触媒、消泡剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤、酸化防止剤、表面調整剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0070】
クリア塗料には、透明性を損なわない範囲内において着色顔料を配合することができる。この着色顔料には、インク用や塗料用として公知のものの1種あるいは2種以上を使用することができる。その添加量はクリア塗膜中の樹脂固形分に対して固形分として30質量%以下となるように配合するのが好ましく、0.01〜15質量%の範囲内がより好ましく、0.1〜10質量%の範囲内が特に好ましい。
【0071】
クリア塗料は、静電塗装、エアスプレー、エアレススプレーなどの方法で塗装することができ、硬化した後の塗膜が膜厚15〜70μmの範囲内となるように形成するのが好ましい。クリア塗料の塗膜自体は、焼き付け乾燥型の場合、通常、約50〜約180℃の温度で架橋硬化させることができ、常温乾燥型又は強制乾燥型の場合には、通常、常温乾燥〜約80℃の温度で架橋硬化させることができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、なお、以下の実施例における粒度測定、有機物付着量の測定、沈降性の評価、電磁波透過性の評価、金属質感の評価、及び反射率の評価は、それぞれ下記に示す要領で行った。
【0073】
<粒度測定>
水性銀コロイド液に含まれる銀粒子の粒度測定は、少量の水性銀コロイド液をビーカーに取り、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液50mLを添加した。その後、超音波分散器US−300T(日本精機製作所製、OUTPUT:6、TUNING:5)を用いて10秒間分散処理して測定用サンプルを調製した。この測定用サンプルを、動的光散乱式粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装製)に導入して体積累積平均粒径D50及びDminを測定した。
【0074】
<有機物付着量の測定>
銀粒子の表面に付着している有機物の付着量の測定は、熱重量・熱示差分析装置(BrukerAXS社製、TG−DTA2000SR)を用いて、乾燥空気100mL/min、昇温速度10℃/minで室温から1,000℃まで昇温させることにより測定した。本発明の水性銀コロイド液は、この測定方法においては、室温〜200℃の大きな質量減少領域と、及び220℃〜400℃の小さな質量減少領域とがあった。室温〜200℃の質量減少量はコロイド中の水分の蒸発によるものであり、220℃〜1,000℃の質量減少量が付着有機物の分解や揮発によるものであり、1,000℃での残質量は銀粒子単体であるとみなすことができる。よって、220℃〜1,000℃の質量減少量を1,000℃での残質量で割ったものを銀に対する有機物の付着量の割合とした。
【0075】
<沈降性の評価>
室温において水性銀コロイド液25gを純水30mLで希釈して1分間撹拌後、ガラスビーカーに分取し、その後、銀粒子の沈降の様子を肉眼で観察し、次の基準で評価した。
○:3週間以上沈まなかった。
△:1週間〜3週間後に沈降が観察された。
×:1週間のうちに沈降が観察された。
【0076】
<電磁波透過性の評価>
基材として無色透明のガラス平板(縦150mm×150mm)をフォトレジストスピンナー(共和理研社製、K359SD−2)にセットし、ガラス表面をエタノールで脱脂した後、水性銀コロイド液から作製した塗料の約0.5gをスポイトで基材上に垂らした。その後、250rpmで30秒間回転させてスピンコート塗布した。
【0077】
次に、マイクロ波ネットワークアナライザ(Agilent Technologies製、8510C)を用い、KEC法(関西電子工業振興センター法)に準じて、試料をシールド効果測定用冶具で固定し、車載用ミリ波レーダの適用周波数である76GHzでの電磁波透過損失を測定した。
【0078】
<金属質感の評価>
X−Rite社製のマルチアングル分光測色計MA−68IIを使用して測定した分光反射率にもとづいて各々の試料に対して、塗膜面に対して45度となるように照射した光を正反射光に対して25度で受光して得られたL*a*b*表色系における明度L*25、塗膜面に対して45度となるように照射した光を正反射光に対して75度で受光して得られた分光反射率に基づくL*a*b*表色系における明度L*75、塗膜面に対して45度となるように照射した光を正反射光に対して45度で受光して得られたL*C*h°表示系における色相h
°45を測定し、さらにFF=L*25/L*75によって得られるFF値を計算した。
【0079】
<反射率の評価>
同様に、入射角及び受光角が25゜で波長400〜800nmの光の鏡面反射率(グロス、%)を測定した。
【0080】
[実施例]
下記の方法で試料1〜5の水性銀コロイド液を作製した。先ず、6.65Lの純水に塩化銀35gと25%アンモニア水0.35Lとを添加して溶解し、銀アンミン錯塩水溶液を調製した(銀濃度3.8g/L、35℃、pH12.23)。一方、ヒドラジン一水和物(関東化学製、鹿1級)7mLを純水1.8Lで希釈し、この液にポリビニルアルコールとしてポバール203(クラレ製)10g、及びポリビニルピロリドンK15(東京化成製)2gを溶解し、還元液とした。なおポバール203の分子量は13,000、ポリビニルピロリドンK15の分子量は10,000であった。
【0081】
攪拌機を用いて銀アンミン錯塩水溶液を300rpmで攪拌しつつ、還元液を添加した。1時間攪拌保持して還元を終了させた後、限外濾過キットのビバフロー200 VF20P3(ザルトリウス・メカトロニクス製、分画分子量50,000)を用いて純水による洗浄と濃縮とを繰り返すことで不純物を取り除いた。これにより銀濃度が1g/mL、不純物の総量が0.15質量%の試料1の水性銀コロイドを得た。得られた試料1の水性銀コロイド液中の銀粒子の走査型電子顕微鏡(FE−SEM)観察像を
図1に示す。
【0082】
次に、1.65Lの純水に塩化銀35gと25%アンモニア水0.35Lとを添加して溶解し、銀アンミン錯塩水溶液を調製した(銀濃度13.2g/L、35℃、pH12.93)。一方、ヒドラジン一水和物(関東化学製、鹿1級)7mLを純水1.8Lで希釈して還元液とした。更にポリビニルアルコールとしてポバール203(クラレ製)7g、ポリビニルピロリドンK15(東京化成製)1g、及びポリオキシエチレン(7)ステアリルエーテル(和光純薬製)9gを5Lの純水に溶解して分散液とした。
【0083】
攪拌機を用いて銀アンミン錯塩水溶液を300rpmで攪拌しつつ、分散液及び還元液を添加した。1時間攪拌保持して還元を終了させた後、限外濾過キットのビバフロー200 VF20P3(ザルトリウス・メカトロニクス製、分画分子量50,000)を用いて、純水による洗浄と濃縮とを繰り返すことで不純物を取り除いた。これにより銀濃度が1g/mL、不純物の総量が0.16質量%の試料2の水性銀コロイドを得た。得られた試料2の水性銀コロイド液中の銀粒子の走査型電子顕微鏡(FE−SEM)観察像を
図2に示す。
【0084】
次に、ポバール203(クラレ製)の添加量を10gに代えて0.3gとし、ポリビニルピロリドンK15(東京化成製)の添加量を2gに代えて2.4gとした以外は上記した試料1の場合と同様にして試料3の水性銀コロイド液を作製した。この試料3の水性銀コロイド液は、銀濃度が1g/mL、不純物総量が0.13質量%であった。
【0085】
次に、ポリビニルピロリドンK15(東京化成製)の添加を行わず、限外濾過キットに分画分子量100,000のVF20P4を用いた以外は上記した試料1の場合と同様にして試料4の水性銀コロイド液を作製した。この試料4の水性銀コロイド液は銀濃度が1g/mL、不純物総量が0.19質量%であった。
【0086】
次に、ポリビニルピロリドンK15(東京化成製)の添加量を2gに代えて5gとし、更に還元液にポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(和光純薬製)9gを加えた以外は上記した試料1の場合と同様にして試料5の水性銀コロイド液を作製した。この試料5の水性銀コロイド液は銀濃度が1g/mL、不純物総量が0.20質量%であった。
【0087】
上記した試料1〜5の水性銀コロイド液の作製条件をまとめたものを下記表1に示す。また、これにより得られた試料1〜5の水性銀コロイド液中の銀粒子に対して行った有機物付着量の測定結果、動的光散乱式粒度分布測定装置を用いた平均粒径D50及びDmin、並びに沈降性の評価結果を下記表2に示す。さらに、上記試料1〜5の水性銀コロイド液に各々エチレングリコールモノブチルエーテル(和光純薬製)を銀に対して5%添加して塗料とし、各塗料を塗布して得られた塗膜の金属質感及び電磁波透過損失を評価した。その評価結果も併せて表2に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
上記表2の結果より、試料1〜3の水性銀コロイド液では電子顕微鏡観察による形状が球形であり、平均粒径(D50)が45〜100nmで均一性が高く、且つ有機物付着量が銀に対して1〜10質量%である銀粒子が得られることが分かった。また、試料1〜3の水性銀コロイド液に含まれる銀粒子は、沈降性試験において3週間以上沈まない優れた非沈降性を備えていることが分った。また、試料1〜3の水性銀コロイド液は、金属質感及び電磁波透過性にも優れていた。
【0091】
これに対して試料4の水性銀コロイド液では、銀に対するポリビニルピロリドン添加量の不足から銀粒子のD50が100nmを超えたため電磁波透過性が悪化し、付着有機物量も多く金属質感も悪化した。また、試料5の水性銀コロイド液では、反対に銀に対するポリビニルピロリドン添加量が過剰であったため、この過剰なポリビニルピロリドンの吸着がポリビニルアルコールの付着を阻害し、有機物付着量が1%未満、Dminが15nm以下となり、非沈降性が悪化した。また、金属質感及び電磁波透過性も悪化した。