(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記シュウ酸スカンジウムは、スカンジウムを含有する硫酸酸性溶液にシュウ酸を添加することで得られた沈殿物である、請求項1に記載の酸化スカンジウムの製造方法。
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化スカンジウムの製造方法に関し、より詳しくは、不純物として硫黄成分を含有するシュウ酸スカンジウムから、硫黄の含有を抑制した酸化スカンジウムを製造することができる酸化スカンジウムの製造方法に関する。
【0002】
スカンジウムは、高強度合金の添加剤や燃料電池の電極材料として極めて有用である。しかしながら、生産量が少なく、高価であるため、広く用いられるには至っていない。
【0003】
ところで、ラテライト鉱やリモナイト鉱等のニッケル酸化鉱には、微量のスカンジウムが含まれている。しかしながら、ニッケル酸化鉱はニッケル含有品位が低いため、長らくニッケル酸化鉱をニッケル原料として工業的に利用されてこなかった。そのため、ニッケル酸化鉱からスカンジウムを工業的に回収することもほとんど研究されていなかった。
【0004】
しかしながら、近年、ニッケル酸化鉱を硫酸と共に加圧容器に装入し、240℃〜260℃程度の高温に加熱してニッケルを含有する浸出液と浸出残渣とに固液分離するHPALプロセスが実用化されている。このHPALプロセスでは、得られた浸出液に対して中和剤を添加することで不純物が分離され、次いで硫化剤を添加することでニッケルをニッケル硫化物として回収することができる。そして、得られたニッケル硫化物を既存のニッケル製錬工程で処理することで電気ニッケルやニッケル塩化合物を得ることができる。
【0005】
上述したようなHPALプロセスを用いる場合、ニッケル酸化鉱に含まれるスカンジウムは、ニッケルと共に浸出液に含まれることになる(特許文献1参照)。そして、HPALプロセスで得られた浸出液に対して中和剤を添加して不純物を分離し、次いで硫化剤を添加すると、ニッケルはニッケル硫化物として回収される一方で、スカンジウムは硫化剤添加後の酸性溶液(硫化後液)に含まれるようになるため、HPALプロセスを使用することによってニッケルとスカンジウムとを効果的に分離することができる。
【0006】
上述した酸性溶液からスカンジウムを回収する方法としては、キレート樹脂にスカンジウムを吸着させて不純物と分離し、濃縮することによって回収する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
一方で、ニッケル酸化鉱の湿式製錬処理により得られた酸性溶液から溶媒抽出処理によってスカンジウムを回収する方法も提案されている(特許文献3参照)。この特許文献3に記載の方法では、先ず、スカンジウムの他に、少なくとも鉄、アルミニウム、カルシウム、イットリウム、マンガン、クロム、マグネシウムの1種以上を含有する水相の含スカンジウム溶液に、2−エチルヘキシルスルホン酸−モノ−2−エチルヘキシルをケロシンで希釈した有機溶媒を加えて、スカンジウム成分を有機溶媒中に抽出する。次いで、有機溶媒中にスカンジウムと共に抽出されたイットリウム、鉄、マンガン、クロム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウムを分離するために、塩酸水溶液を加えてスクラビングを行うことによってそれらを除去した後、有機溶媒中にNaOH水溶液を加えて、有機溶媒中に残存するスカンジウムをSc(OH)
3を含むスラリーとし、これを濾過して得られたSc(OH)
3を塩酸で溶解して、塩化スカンジウム水溶液を得る。そして、得られた塩化スカンジウム水溶液にシュウ酸を加えてシュウ酸スカンジウム沈殿とし、その沈殿を濾過して、鉄、マンガン、クロム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウムを濾液中に分離した後、大気雰囲気中で仮焼し、シュウ酸スカンジウムを加熱酸化することにより酸化スカンジウムを得るというものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0021】
≪1.酸化スカンジウムの製造方法≫
図1は、本実施の形態に係る酸化スカンジウムの製造方法の流れを示す工程図である。
図1の工程図に示すように、本実施の形態に係る酸化スカンジウムの製造方法は、含硫黄化合物を不純物として含有するシュウ酸スカンジウムを酸素が存在しない雰囲気下で加熱する第1の加熱工程と、第1の加熱工程で得られた加熱物を、酸素が存在する雰囲気下でさらに加熱する第2の加熱工程とを含む。
【0022】
第1及び第2の加熱工程では、それぞれ、以下(1)〜(3)式に表される反応が生じていると考えられる。なお、ここでは、シュウ酸スカンジウムに含まれる不純物としての含硫黄化合物が硫酸カルシウムである場合を一例として示す。
[第1加熱工程]
Sc
2(C
2O
4)
3・2H
2O→Sc
2O
3+3CO
2+3CO+2H
2O…(1)
CaSO
4・2H
2O+2CO→CaO+SO
2+2CO
2+2H
2O…(2)
[第2加熱工程]
Sc
2(C
2O
4)
3・2H
2O+3/2O
2
→Sc
2O
3+6CO
2+2H
2O…(3)
【0023】
先ず、第1の加熱工程では、加熱により、シュウ酸スカンジウムが、酸化スカンジウムと一酸化炭素と二酸化炭素とに分解される((1)式)。次いで、この反応によって生成した一酸化炭素が、シュウ酸スカンジウムに不純物として含有する硫酸カルシウムと反応し、酸化カルシウムと二酸化硫黄とが生成する((2)式)。この反応により、除去すべき硫黄元素が、加熱条件下で気体である二酸化硫黄となって除去される。
【0024】
次に、第2の加熱工程では、第1の加熱工程において未反応であったシュウ酸スカンジウムが加熱酸化され、酸化スカンジウムが生成する((3)式)。
【0025】
従来、酸化スカンジウムは、シュウ酸スカンジウムに対して酸素が存在する雰囲気下で焙焼処理を施すことによって生成されてきた。すなわち、上述した(3)式の反応のみによって生じていたため、系中に石膏由来の硫酸カルシウム等の含硫黄化合物が不純物として存在していても、この硫酸カルシウムが反応に関与することはなく、生成した酸化スカンジウム中に不純物として硫黄が残留することになっていた。
【0026】
これに対して、本実施の形態に係る方法では、第1及び第2の加熱工程を経る二段階加熱法によって酸化スカンジウムを生成させるようにしているため、上述した(1)式の反応によって生じた一酸化炭素が硫酸カルシウムと反応してSO
2を生成させ、硫黄成分を除去することが可能であるという技術的な意義を有する。このことにより、上述した(3)式を経て生じる酸化スカンジウムに硫黄が残留することを抑制し、硫黄の含有を抑制した酸化スカンジウムを製造することができる。
【0027】
以下、より具体的に、第1の加熱工程及び第2の加熱工程について説明する。
【0028】
<1−1.第1の加熱工程>
第1の加熱工程は、含硫黄化合物を不純物として含有するシュウ酸スカンジウムを、酸素が存在しない雰囲気下で加熱する工程である。本工程により、従来の酸素が存在する雰囲気下でのみ加熱する工程では除去できない、不純物としての含硫黄化合物に含まれる硫黄成分を除去することができる。
【0029】
第1の加熱工程における加熱処理は、特に限定されないが、例えば管状炉等の各種加熱炉を用いて行うことができる。工業的には、原料であるシュウ酸スカンジウムの乾燥、第1の加熱工程における処理、及び第2の加熱工程における処理を同一の装置内で行うことが可能である観点から、ロータリーキルン等の連続炉を用いて行うことが好ましい。
【0030】
第1の加熱工程における処理雰囲気としては、酸素が存在しない雰囲気であれば、特に限定されるものではない。具体的には、例えば窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気、あるいは真空雰囲気とすることができ、その中でも、設備構成の容易性の観点から窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0031】
例えば、不活性ガス雰囲気下で加熱処理を行う場合、不活性ガスを、加熱炉内で流動させても、流動させなくてもよい。例えば、不活性ガスを加熱炉内で流動させる場合、不活性ガスの流量としては、特に限定されないが、0.5L/min以上であることが好ましく、0.8L/min以上であることがより好ましく、1L/min以上であることがさらに好ましい。このような流量で不活性ガスを流すことにより、炉内を完全に不活性ガス雰囲気にすることができる。一方、不活性ガスの流量は、2L/min以下であることが好ましく、1.5L/min以下であることがより好ましい。不活性ガスの流量が多すぎると、それに見合った効果が得られないだけでなく、流した不活性ガスの消費量の増加に伴ってコストが増加する。
【0032】
また、必須の態様ではないが、過剰にCOガスやコークスを供給してもよい。これにより、硫酸カルシウム等の不純物である含硫黄化合物に含まれる硫黄成分を、より効率的に除去することができる。
【0033】
第1の加熱工程における加熱温度としては、特に限定されないが、上記(1)式に表されるシュウ酸スカンジウムの分解反応を促進し、上記(2)式に表される反応に必要な一酸化炭素を短時間で生成させるために、900℃以上が好ましく、1000℃以上がより好ましく、1100℃以上がさらに好ましい。一方で、加熱温度の上限値としては、1300℃以下が好ましく、1200℃以下がより好ましい。加熱温度が高すぎると、昇温のためのコストが増加し、効率的な処理を行うことができなくなる。なお、本明細書において、「加熱温度」とは最終的な保持温度をいう。
【0034】
第1の加熱工程における加熱時間(保持時間)としては、特に限定されず処理量等に応じて適宜調整すればよいが、上記(2)式に表される反応を十分に進行させて硫黄成分を除去するために、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。一方で、加熱時間の上限値としては、加熱時間の増加に伴うコストの増加を防ぐために、6時間以下が好ましく、3時間以下がより好ましい。なお、本明細書において、「加熱時間」とは、上述の加熱温度の保持時間をいう。
【0035】
なお、第1の加熱工程における加熱処理での昇温時間、昇温速度については、特に限定されるものではなく、装置や設備等に応じて適宜設定することができる。
【0036】
<1−2.第2の加熱工程>
第2の加熱工程は、第1の加熱工程で得られた加熱物を、酸素が存在する雰囲気下でさらに加熱する工程である。本工程により、第1加熱工程によって酸化されずに残ったシュウ酸スカンジウムを酸化させることができ、シュウ酸スカンジウムを酸化スカンジウムとすることができる。
【0037】
第1の加熱工程は、上記(1)式に示されるとおり、シュウ酸スカンジウムを酸素の存在しない雰囲気で加熱することによって酸化スカンジウムを生成させる反応であり、(1)式に示される反応のみによって酸化スカンジウムを生成することも可能である。しかしながら、酸素の存在しない雰囲気で加熱する(1)式の反応は、酸素が存在する雰囲気で加熱してシュウ酸スカンジウムから酸化スカンジウムを生成させる(3)式の反応に比べて、酸化スカンジウムの生成速度が非常に遅い。そのため、工業的な効率性の観点から、短時間で反応を終了させるため、空気などの酸素が供給される酸化性雰囲気下で加熱することを要する。
【0038】
第2の加熱工程における加熱処理は、特に限定されないが、第1の加熱工程における加熱処理で使用した同一の装置内で、ガス雰囲気を酸素が存在する雰囲気に変えて行うことができる。なお、工程毎に異なる装置を用いてもよいが、経済性、設備構成の容易性等の観点から、同一の装置内でガス雰囲気を変化させて処理することが好ましい。例えば、第1の加熱工程における処理と同様に、管状炉等の各種加熱炉を用いることができ、ロータリーキルン等の連続炉を用いることが好ましい。
【0039】
具体的に、第2の加熱工程における処理雰囲気としては、酸素が存在する雰囲気であれば、特に限定されないが、酸素を含むガスの気体全体に対する酸素の体積分率が18%以上であることが好ましく、21%以上であることがより好ましい。また、経済性等の観点から、エアー(空気)雰囲気であることが好ましい。
【0040】
例えば、エアー雰囲気下で加熱処理を行う場合、エアーを、加熱炉内で流動させても、流動させなくてもよい。例えば、エアーを加熱炉内で流動させる場合、エアーの流量としては、特に限定されないが、0.5L/min以上であることが好ましく、0.8L/min以上であることがより好ましく、1L/min以上であることがさらに好ましい。このような流量でエアーを流すことにより、効率的にシュウ酸スカンジウムを酸化スカンジウムに加熱酸化することができる。一方、エアーのガスの流量は、2L/min以下であることが好ましく、1.5L/min以下であることがより好ましい。エアーの流量が多すぎると、それに見合った効果が得られないだけでなく、流したエアーの消費量の増加に伴ってコストが増加する。
【0041】
第2の加熱工程における加熱温度としては、特に限定されないが、上記(3)式に表されるシュウ酸スカンジウムの酸化反応を促進し、酸化スカンジウムをより短時間で生成させるために、900℃以上が好ましく、1000℃以上がより好ましく、1100℃以上がさらに好ましい。一方で、加熱温度の上限値としては、1300℃以下が好ましく、1200℃以下がより好ましい。
【0042】
第2の加熱工程における加熱時間(保持時間)としては、特に限定されず処理量等に応じて適宜調整すればよいが、上記(3)式に表されるシュウ酸スカンジウムの酸化反応を十分に進行させるため、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。一方で、加熱時間の上限値としては、加熱時間の増加に伴うコストの増加を防ぐために、6時間以下が好ましく、3時間以下がより好ましい。
【0043】
なお、第2の加熱工程における加熱処理での昇温時間、昇温速度については、特に限定されるものではなく、装置や設備等に応じて適宜設定することができる。
【0044】
≪2.シュウ酸スカンジウムの製造方法≫
次に、本実施の形態の酸化スカンジウムの製造方法の原料となるシュウ酸スカンジウムの製造方法の一例について説明する。
図2は、原料となるシュウ酸スカンジウム、すなわち、含硫黄化合物を不純物として含むシュウ酸スカンジウムの製造方法の一例を説明するためのフロー図である。
【0045】
図2に一例を示すように、シュウ酸スカンジウムは、例えば、ニッケル、スカンジウム等の有価金属のほかに、アルミニウム、クロム等の成分を含有するニッケル酸化鉱の湿式製錬により得られた硫酸酸性溶液を用い、不純物を除去してスカンジウムを濃縮した溶液に対してシュウ酸を添加することによって得ることができる。
【0046】
なお、原料となるシュウ酸スカンジウムに含まれる含硫黄化合物は、例えば、硫酸カルシウム、又はこれらを主成分とする混合物を挙げることができる。
図2に示すシュウ酸スカンジウムの製造においては、例えば石膏は、ニッケル酸化鉱に含まれ得る。また、硫酸カルシウムとしては、例えば、ニッケル酸化鉱の湿式製錬プロセスにおける中和工程S2や濃縮工程S5で添加される炭酸カルシウムや消石灰等から供給されるカルシウムイオンが、湿式製錬プロセスで得られた硫酸酸性溶液中の硫酸イオンと反応することで生成される。このように、含硫黄化合物が、シュウ酸スカンジウムの製造過程で生成し、得られたシュウ酸スカンジウムに所定の割合で含まれるようになる。
【0047】
具体的に、原料となるシュウ酸スカンジウムの製造方法としては、スカンジウムを含有するニッケル酸化鉱を高温高圧下で硫酸により浸出して浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程S1と、浸出液に中和剤を添加して中和澱物と中和後液とを得る中和工程S2と、中和後液に硫化剤を添加してニッケル硫化物と硫化後液とを得る硫化工程S3と、硫化後液をキレート樹脂に接触させることでスカンジウムをキレート樹脂に吸着させ、スカンジウム溶離液を得るイオン交換工程S4と、溶離液からスカンジウムを濃縮させるスカンジウム濃縮工程S5と、濃縮液から不純物元素を抽出分離し抽出分離液を得る溶媒抽出工程S6と、抽出分離液にシュウ酸を加えてシュウ酸スカンジウム沈殿を生成させるスカンジウム沈殿工程S7とを有するものとすることができる。
【0048】
なお、イオン交換工程S4、濃縮工程S5、溶媒抽出工程S6は、後述するとおり、スカンジウムを濃縮し、より一層に高純度の濃縮液を得ることを目的とするものであり、これらの工程を含まない態様で実施することもできる。例えば、硫化工程S3で得られた硫化後液を、直接、スカンジウム沈殿工程S7に供することもできる。
【0049】
以下、
図2に示すフロー図を参考にして、シュウ酸スカンジウムの製造方法各工程についてより詳細に説明する。
【0050】
<浸出工程>
浸出工程S1では、スカンジウムを含有するニッケル酸化鉱を硫酸と共に高温加圧容器(オートクレーブ)等に装入し、240℃〜260℃の高温で且つ高圧の環境下において、撹拌しながら硫酸によってニッケル酸化鉱に対する浸出処理を施し、浸出液と浸出残渣とを含む浸出スラリーを生成する。なお、浸出工程S1における処理は、従来知られているHPALプロセスに従って行えばよく、例えば特許文献1に記載されている。
【0051】
ここで、ニッケル酸化鉱としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。これらのニッケル酸化鉱には、ニッケルやコバルト、スカンジウム等の有価金属のほかに、アルミニウム、クロム、鉄等の成分が多く含まれている。
【0052】
なお、ニッケル酸化鉱には、石膏やカルシウムイオンを含む他の鉱物も微量含有されており、浸出処理によってそれら石膏やカルシウムイオンが浸出液に含まれることがある。
【0053】
この浸出工程S1では、得られた浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを洗浄しながら、ニッケルやコバルト、スカンジウム等を含む浸出液と、ヘマタイトである浸出残渣とに固液分離する。この固液分離処理では、例えば、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、凝集剤供給設備等から供給される凝集剤を用いて、シックナー等の固液分離設備により固液分離処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。なお、この固液分離処理では、シックナー等の固液分離槽を多段に連結させて用い、浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離することが好ましい。
【0054】
<中和工程>
中和工程S2では、上述した浸出工程S1により得られた浸出液に中和剤を添加してpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物と中和後液とを得る。この中和工程S2における中和処理により、スカンジウムやニッケル等の有価金属は中和後液に含まれるようになり、鉄、アルミニウムをはじめとした不純物の大部分が中和澱物となる。
【0055】
中和剤としては、従来公知のもの使用することができ、例えば、炭酸カルシウム、消石灰等が挙げられる。
【0056】
ここで、炭酸カルシウムや消石灰等のアルカリにより供給されたカルシウムイオンは、硫酸酸性溶液中の硫酸イオンと反応することにより、硫酸カルシウムとなり、後工程を経て得られるシュウ酸スカンジウムに不純物として混入することがある。
【0057】
中和工程S2における中和処理では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、pHを1〜4の範囲に調整することが好ましく、1.5〜2.5の範囲に調整することがより好ましい。pHが1未満であると、中和が不十分となり、中和澱物と中和後液とに分離できない可能性がある。一方で、pHが4を超えると、アルミニウムをはじめとした不純物のみならず、スカンジウムやニッケル等の有価金属も中和澱物に含まれる可能性がある。
【0058】
<硫化工程>
硫化工程S3では、中和工程S2により得られた中和後液に硫化剤を添加してニッケル硫化物と硫化後液とを得る。この硫化工程S3における硫化処理により、ニッケル、コバルト、亜鉛等は硫化物となり、スカンジウム等は硫化後液に含まれることになる。
【0059】
具体的に、この硫化工程S3では、得られた中和後液に対して、硫化水素ガス、硫化ナトリウム、水素化硫化ナトリウム等の硫化剤を添加し、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトを含む硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)と、ニッケル濃度を低い水準で安定させ、スカンジウム等を含有させた硫化後液とを生成させる。
【0060】
硫化工程S3における硫化処理では、ニッケル・コバルト混合硫化物のスラリーをシックナー等の沈降分離装置を用いて沈降分離処理し、ニッケル・コバルト混合硫化物をシックナーの底部より分離回収する一方で、水溶液成分である硫化後液をオーバーフローさせて回収する。
【0061】
<イオン交換工程>
イオン交換工程S4では、上述したニッケル酸化鉱の湿式製錬処理により得られた硫化後液をキレート樹脂に接触させることによって、その硫化後液中に含まれるスカンジウムをキレート樹脂に吸着させ、不純物成分を除去したスカンジウム溶離液を得る。
【0062】
イオン交換工程S4の態様としては、特に限定されないが、例えば
図2に一例を示すように、硫化後液をキレート樹脂に接触させてスカンジウムをキレート樹脂に吸着させる吸着工程S41と、スカンジウムを吸着したキレート樹脂に0.1N以下の硫酸溶液を接触させ、吸着工程S41でキレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去するアルミニウム除去工程S42と、アルミニウム除去工程S42を経たキレート樹脂に0.3N以上3N以下の硫酸溶液を接触させてスカンジウム溶離液を得るスカンジウム溶離工程S43と、スカンジウム溶離工程S43を経たキレート樹脂に3N以上の硫酸溶液を接触させて、吸着工程S41でキレート樹脂に吸着したクロムを除去するクロム除去工程S44とを含むものであることが好ましい。
【0063】
[吸着工程]
吸着工程S41では、硫化後液をキレート樹脂に接触させてスカンジウムをキレート樹脂に吸着させる。キレート樹脂としては、特に限定されないが、例えばイミノジ酢酸を官能基とする樹脂を用いることが好ましい。
【0064】
[アルミニウム除去工程]
アルミニウム除去工程S42では、吸着工程S41でスカンジウムを吸着したキレート樹脂に0.1N以下の硫酸溶液を接触させ、吸着工程S41でキレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去する。アルミニウムを除去するに際しては、硫酸溶液のpHを1以上2.5以下の範囲に維持することが好ましく、1.5以上2.0以下の範囲に維持することがより好ましい。
【0065】
[スカンジウム溶離工程]
スカンジウム溶離工程S43では、アルミニウム除去工程S42を経たキレート樹脂に0.3N以上3N未満の硫酸溶液を接触させ、スカンジウム溶離液を得る。スカンジウム溶離液を得るに際しては、溶離液として用いる硫酸溶液の規定度を0.3N以上3N未満の範囲に維持することが好ましく、0.5N以上2N未満の範囲の規定度に維持することがより好ましい。
【0066】
[クロム除去工程]
クロム除去工程S44では、スカンジウム溶離工程S43を経たキレート樹脂に3N以上の硫酸溶液を接触させ、吸着工程S41でキレート樹脂に吸着したクロムを除去する。
【0067】
[鉄除去工程]
また、図示していないが、ニッケル酸化鉱から得られた浸出液中には不純物として鉄が含まれている場合がある。この場合、アルミニウム除去工程S42に先立ち、吸着工程S41でスカンジウムを吸着したキレート樹脂に、アルミニウム除去工程S42で使用する硫酸溶液の規定度よりも小さい規定度の硫酸溶液を接触させ、吸着工程S41でキレート樹脂に吸着した鉄を除去することが好ましい。キレート樹脂に吸着した鉄を除去するに際しては、硫酸溶液のpHを1以上3以下の範囲に維持することが好ましい。
【0068】
このようなイオン交換処理により、アルミニウムやクロム等の種々の不純物元素が除去されてスカンジウムが濃縮されたスカンジウム溶離液を得ることができる。なお、得られたスカンジウム溶離液に対して、再びスカンジウム溶離工程S43における処理、すなわち、アルミニウム除去工程S42を経たキレート樹脂に対して、得られたスカンジウム溶離液を接触させる処理を繰り返し行うことで、スカンジウム溶離液の濃度を高めることができる。また、クロム等を除去した後のキレート樹脂は、再び吸着工程S41にて再利用することができる。
【0069】
<濃縮工程>
次に、上述したイオン交換工程S4に続いて、濃縮工程S5を設けて、スカンジウム溶離液に含まれるスカンジウムを濃縮させることができる。濃縮処理としては、例えば、スカンジウム溶離液に含まれるスカンジウムの沈殿物を生じさせて不純物と分離し、さらにこの沈殿物を硫酸溶液等で溶解し、次工程の溶媒抽出に供する濃縮液を生成させる処理を行うことができる。より具体的に、この濃縮工程S5におけるスカンジウムの濃縮方法、つまりスカンジウムの沈殿物を生成させて不純物と分離させる方法としては、例えば、水酸化中和の方法を用いることができる。
【0070】
[水酸化中和]
スカンジウム溶離液に対する水酸化中和処理では、上述したイオン交換工程S4で得られたスカンジウム溶離液に対して、炭酸カルシウム、消石灰等のアルカリの中和剤を添加することによりpHを8以上9以下程度に調整して中和処理を施し、スカンジウムの水酸化物沈殿と不純物成分を含む中和後液とを生成させる。
【0071】
ここで、炭酸カルシウムや消石灰等のアルカリにより供給されたカルシウムイオンは、硫酸酸性溶液中の硫酸イオンと反応することにより、硫酸カルシウムとなり、後工程を経て得られるシュウ酸スカンジウムに不純物として混入することがある。
【0072】
[硫酸による溶解]
次に、水酸化中和処理により得られた水酸化スカンジウムの沈殿物に対して硫酸溶液を添加することによってその沈殿物を溶解し、スカンジウムの硫酸溶解液を生成する。このようにして得られたスカンジウム硫酸溶解液が、次工程の溶媒抽出工程S6における溶媒抽出処理の処理対象(抽出始液)となる。
【0073】
このように、イオン交換工程S4に続いて、濃縮工程S5を設けることにより、スカンジウム溶離液に含まれる不純物を大幅に除去することができ、イオン交換工程S4や次工程の溶媒抽出工程S6に係る工数を軽減できる。
【0074】
<溶媒抽出工程>
溶媒抽出工程S6は、上述した濃縮工程S5にて得られた濃縮液を抽出始液とし、その抽出始液を抽出剤に接触させ、得られた抽出液に逆抽出剤を加えることでスカンジウムを含む逆抽出物を得る。
【0075】
溶媒抽出工程S6の態様としては、特に限定されないが、例えば
図2に一例を示すように、抽出始液と抽出剤を含有する有機溶媒とを混合して抽出後有機溶媒と抽残液とを得る抽出工程S61と、この抽出後有機溶媒に洗浄溶液を混合して抽出剤に抽出されたスカンジウムを分離して回収するスクラビング工程S62と、洗浄後の有機溶媒に逆抽出剤を添加し、その洗浄後有機溶媒から不純物元素を逆抽出し、逆抽出物を得る逆抽出工程S63とを有するものとすることができる。
【0076】
[抽出工程]
抽出工程S61では、抽出始液である濃縮液と抽出剤とを含む有機溶媒とを混合して、有機溶媒中にスカンジウムを選択的に抽出する。抽出剤としては、特に限定されずスカンジウムとの選択性の観点から決定すればよく、例えばリンを含む溶媒和抽出剤、具体的にはトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)を官能基とするものを用いることができる。なお、抽出時は、炭化水素系の有機溶媒等で希釈して使用することが好ましい。
【0077】
なお、抽出工程61において使用する抽出剤の種類等によっては、抽出剤を含む有機溶媒中に不純物を抽出することで、抽残液にスカンジウムを選択的に残留させることもできる。この場合、後述の逆抽出溶液の代わりに、抽残液をスカンジウム沈殿工程S7に供することができる。
【0078】
[スクラビング(洗浄)工程]
必須の態様ではないが、抽出液を逆抽出する前に、有機溶媒(有機相)にスクラビング(洗浄)処理を施し、不純物元素を水相に分離して抽出剤から除去することが好ましい(スクラビング工程S62)。
【0079】
スクラビングに用いる溶液(洗浄溶液)には、塩酸溶液や硫酸溶液を使用することができる。塩酸溶液を用いる場合は2.0mol/L以上9.0mol/L以下の濃度範囲が好ましく、硫酸溶液を用いる場合は3.5mol/L以上9.0mol/L以下の濃度範囲が好ましい。
【0080】
[逆抽出工程]
逆抽出工程S63では、スカンジウムを抽出した有機溶媒からスカンジウムを逆抽出する。この逆抽出工程S63では、有機溶媒に、水又は低濃度の酸溶液を逆抽出溶液(逆抽出始液)として用いて混合することで抽出時における反応とは逆の反応を進行させ、スカンジウムを含む抽出分離液(逆抽出物)を得る。
【0081】
逆抽出始液としては、水であってもよいが、有機相との相分離が不良となる可能性がある。そのため、逆抽出始液として低濃度の酸溶液を用いることが好ましい。酸溶液としては、3.5mol/L未満程度の濃度の硫酸溶液を用いることができる。
【0082】
なお、図示しないが、溶媒抽出工程S6の代わりに、硫酸複塩沈殿工程に供することもできる。硫酸複塩沈殿工程は、スカンジウム含有酸性溶液に硫酸ナトリウムの結晶を添加し、硫酸複塩の沈殿物を生成させる沈殿工程と、硫酸複塩沈殿を溶解して得られた溶解液を水酸化ナトリウム等によって中和する中和工程と、中和により得られた水酸化スカンジウムを再溶解し、溶解液を得る再溶解工程とを有する。このような硫酸複塩沈殿の生成処理によって、不純物を除去してもよい。
【0083】
<スカンジウム沈殿工程>
次に、スカンジウム沈殿工程S7において、溶媒抽出工程S6により得られたスカンジウムを含有する抽出分離液からシュウ酸スカンジウムの沈殿物を生成させる。
【0084】
スカンジウム沈殿工程S7における処理の態様としては、シュウ酸スカンジウムの沈殿物を生じさせることができれば特に限定されないが、例えば
図2に一例を示すように、溶媒抽出工程S6で得られた抽出分離液をシュウ酸化始液として、そのシュウ酸化始液中にシュウ酸を加えることによって、シュウ酸スカンジウムの白色結晶の固体を析出、沈殿させる処理とすることができる。
【0085】
シュウ酸の添加量としては、特に限定されないが、シュウ酸化始液中のスカンジウムをシュウ酸塩として析出させるのに必要な当量の1.05倍以上2.0倍以下の量とすることが好ましい。その添加量が析出に必要な当量の1.05倍未満であると、スカンジウムを全量回収できなくなる可能性がある。一方で、添加量が析出に必要な当量の2.0倍を超えると、シュウ酸スカンジウムの溶解度が増加することでスカンジウムが再溶解して回収率が低下したり、過剰なシュウ酸を分解するために次亜塩素ソーダのような酸化剤を使用する量が増加してしまう。
【0086】
シュウ酸化の反応時におけるシュウ酸化始液のpHとしては、特に限定されないが、0以上2以下程度であることが好ましく、1前後であればさらに好ましい。pHが0未満のように低すぎると、シュウ酸スカンジウムの溶解度が増加し、スカンジウム回収率が低下する可能性がある。一方で、pHが2を超えると、抽出分離液中に含まれる不純物も沈殿を形成してしまい、スカンジウム純度が低下する原因となる。
【0087】
以上のような各工程を経ることによって、酸化スカンジウムの製造原料となるシュウ酸スカンジウムを製造することができる。
【0088】
ここで、このようにして得られた酸化スカンジウムには、その製造過程において硫酸カルシウム等の含硫黄化合物が、不純物として含まれるようになる。この点において、本実施の形態に係る酸化スカンジウムの製造方法(
図1参照)によれば、原料とするシュウ酸スカンジウムに対して二段階の加熱処理を施して酸化スカンジウムを製造するようにしているため、シュウ酸スカンジウムに含まれるようになった硫黄成分を効果的に除去することができる。これにより、硫黄の含有を抑制した、高純度な酸化スカンジウムを効率的に製造することができる。
【実施例】
【0089】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【0090】
[実施例]
(原料シュウ酸スカンジウムの調製)
先ず、酸化スカンジウムの製造原料となるシュウ酸スカンジウムを調製した。
【0091】
具体的には、ニッケル酸化鉱を原料として公知のHPALプロセスに供し、ニッケルやスカンジウムを浸出させた浸出液を得た後、得られた浸出液に消石灰を添加して中和処理を施し不純物を分離した。次いで、不純物を分離した浸出液に硫化剤として硫化水素ガスを吹き込んで硫化処理を施し、ニッケルを硫化物として分離した。
【0092】
次に、硫化処理後の溶液(硫化後液)中のスカンジウムイオンを、キレート樹脂に吸着させる公知のイオン交換処理を施した。スカンジウムを吸着させたキレート樹脂に0.1N程度の希薄硫酸溶液を流してアルミニウムを溶離除去した後、2N程度の硫酸溶液を流して得られた溶液回収し、スカンジウム溶離液とした。
【0093】
次に、得られたスカンジウム溶離液を用いて、公知の溶媒抽出処理を施した。このようなイオン交換処理と溶媒抽出処理とを組み合わせた方法により、溶液中のスカンジウムを濃縮させ、抽出分離液を得た。なお、その後、得られた抽出分離液に硫酸を添加してpHを0に調整し、この溶液を25〜30℃の室温範囲に維持した。
【0094】
次いで、抽出分離液をシュウ酸化始液として、シュウ酸濃度が100g/Lのシュウ酸溶液を満たした反応槽の中に3.5〜4時間かけて添加し、攪拌しながら1時間にわたり反応させた(シュウ酸化処理)。ここで、シュウ酸化処理においては、スカンジウムをシュウ酸スカンジウムとするのに必要なシュウ酸の量を1当量として、反応槽に満たしたシュウ酸溶液の量を、添加するシュウ酸化始液に含まれるスカンジウムに対し、2.7当量となるように調整した。
【0095】
シュウ酸化処理の後、得られたシュウ酸スカンジウム結晶の沈殿物を濾過して濾液と分離した。分離した沈澱物に対して純水で3回のレパルプ洗浄を行い、真空乾燥器を用いて105℃で乾燥させた。
【0096】
(酸化スカンジウムの製造)
次に、シュウ酸スカンジウムの沈殿物を原料として酸化スカンジウムを製造した。
【0097】
具体的には、得られたシュウ酸スカンジウムの沈殿物60gを石英ボートに入れ、石英管をセットした管状炉内に設置した。その後、石英管内に流量1L/minで窒素ガスを流して窒素ガス雰囲気とし、3時間かけて内部温度を1100℃まで昇温させた。内部温度が1100℃に到達した後、窒素ガスを流し続けながら1時間保持することによって加熱処理を施した(第1の加熱工程)。
【0098】
次に、石英管内に流量1L/minでエアー(空気)を流して空気雰囲気に切り替え、空気を流し続けながら1100℃で1時間保持することによって加熱処理を施した(第2の加熱工程)。
【0099】
その後、再度、石英管内に窒素ガスを流量1L/minで流して窒素ガス雰囲気に切り替え、室温まで冷却した。冷却後に石英ボートに残った約20gの酸化スカンジウム結晶を回収し、不純物としての硫黄成分の含有量を分析した。
【0100】
[比較例]
酸化スカンジウムの製造時において、管状炉内にセットした石英管内に流量1L/minでエアーを流して空気雰囲気とし、3時間かけて内部温度が1100℃まで昇温させた後、空気を流し続けながら2時間保持することによって加熱処理を行った。その後、空気を流しながら室温まで冷却した。すなわち、この比較例では、空気雰囲気での加熱処理のみを行った。
【0101】
冷却後、実施例1と同様にして、石英ボートに残った約20gの酸化スカンジウム結晶を回収し、不純物としての硫黄成分の含有量を分析した。
【0102】
なお、実施例、比較例において、酸化スカンジウムの製造における加熱処理前のシュウ酸スカンジウムには、不純物としての硫黄の含有量にばらつきがあったため、異なるロットの原料(シュウ酸スカンジウム)サンプルを用いて処理を行った。具体的には、実施例では11サンプル、比較例では13サンプルを用いて処理を行った。
【0103】
[評価]
表1に、実施例、比較例のそれぞれにおける代表的な5種類のサンプル(実施例1〜5、比較例1〜5)の加熱処理前の硫黄成分の含有量と、その原料サンプルに対して加熱処理を施して得られた酸化スカンジウムの硫黄成分の含有量を示す。
【0104】
【表1】
【0105】
また、
図3に、実施例における11サンプル及び比較例における13サンプルに対する加熱処理前後の硫黄含有量の関係を示す。なお、この
図3において、横軸は加熱処理前のシュウ酸スカンジウムに含まれる硫黄の含有量を示し、縦軸は加熱処理後に得られた酸化スカンジウムに含まれる硫黄の含有量を示す。
【0106】
表1及び
図3の結果からわかるように、実施例では、加熱処理前のシュウ酸スカンジウムの硫黄含有量に関わらず、加熱処理後に得られた酸化スカンジウムの硫黄含有量を、分析装置の検出限界以下まで除去することができた。
【0107】
一方で、比較例では、加熱処理により得られた酸化スカンジウムの硫黄含有量が、原料であるシュウ酸スカンジウムの硫黄含有量よりも多くなった。比較例において、加熱により得られた酸化スカンジウムの硫黄含有量が増加した理由としては、シュウ酸スカンジウムから酸化スカンジウムへの変化に伴い、分子量が減少してサンプルの総量が減少したにも関わらず、硫黄成分自体は除去されなかったためであると考えられる。
【0108】
以上のとおり、酸素が存在しない雰囲気下で加熱した後、酸素が存在する雰囲気下で加熱する二段階の加熱により処理することで、酸素が存在する雰囲気下での加熱のみでは除去できない硫黄成分を効果的に除去することができ、高純度な酸化スカンジウムを得ることができることがわかった。