【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、鉄及びニッケルを固溶させたリチウムマンガン系複合酸化物において、特定の組成範囲の原料を用い、水溶液からの共沈法を採用した上で、特定の製造条件を採用する場合に、鉄、ニッケル及びマンガンの平均酸化数が特定の範囲内にある、従来知られていない新規な複合酸化物が得られることを見出した。そして、このようにして得られる新規な複合酸化物は、従来知られている同様の組成のリチウムマンガン系複合酸化物と比較して、高い充放電容量を有するものであり、これをリチウムイオン二次電池の正極材料として用いることによって、安価な原料を使用して、優れた性能を有するリチウムイオン二次電池を作製できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は、下記のリチウムマンガン系複合酸化物、その製造方法、リチウムマンガン系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池正極材料及びリチウムイオン二次電池を提供するものである。
項1.組成式:Li
1+x(Mn
1-m-n Fe
mNi
n)
1-xO
2 (式中、x、m及びnの範囲は、0≦x≦1/3,
0≦m≦0.6, 0≦n≦0.3である)で表される単斜晶層状岩塩型構造を有する複合酸化物であって、
(1)Mn、Fe及びNiの三成分のモル比が、Mn、Fe及びNiを各頂点とするモル比三角組成図において、点A(Mn : Fe : Ni=60:40:0)、点B(Mn : Fe : Ni=40:60:0)、点C(Mn : Fe
: Ni=70:0:30)、及び点D(Mn : Fe : Ni=80:0:20)の4点を頂点とする四角形の範囲内にあり、
(2)Mn、Fe及びNiの平均酸化数が3.4〜3.6である
ことを特徴とするリチウムマンガン系複合酸化物。
項2.比表面積が10〜50m
2/gであり、自発磁化が0.005emu/g以下である、項1に記載のリチウムマンガン系複合酸化物。
項3.マンガン化合物、鉄化合物、及びニッケル化合物を含む混合水溶液をアルカリ性として沈殿を形成し、形成された沈殿物にリチウム化合物を添加して湿式酸化処理した後、酸化性雰囲気下で焼成し、次いで、不活性ガス雰囲気下で焼成することとを特徴とする項1又は2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
項4.沈殿形成時の混合水溶液の液温が30〜80℃である項3に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
項5.沈殿物を湿式酸化する方法が、沈殿物を含む水溶液を撹拌しつつ、酸化性気体を吹き込む方法、又は沈殿物を含む水溶液を撹拌しつつ、酸化性化合物を添加する方法である項3又は4に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
項6.酸化性雰囲気中での焼成を400〜600℃で行い、不活性ガス雰囲気中での焼成を600〜850℃で行うことを特徴とする項3〜5のいずれかに記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
項7.項1又は2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極材料。
項8.項1又は2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極材料を構成要素とするリチウムイオン二次電池。
【0017】
以下、本発明のリチウムマンガン系複合酸化物及びその製造方法について具体的に説明する。
【0018】
リチウムマンガン系複合酸化物
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、組成式:Li
1+x(Mn
1-m-n Fe
mNi
n)
1-x O
2 (式中、x、m及びnの範囲は、0≦x≦1/3, 0≦m≦0.6, 0≦n≦0.3である)で表される単斜晶層状岩塩型構造を有する複合酸化物であって、
(1)Mn、Fe及びNiの三成分のモル比が、Mn、Fe及びNiを各頂点とするモル比三角組成図において、点A(Mn : Fe : Ni=60:40:0)、点B(Mn : Fe : Ni=40:60:0)、点C(Mn : Fe
: Ni=70:0:30)、及び点D(Mn : Fe : Ni=80:0:20)の4点を頂点とする四角形の範囲内にあり、
(2)Mn、Fe及びNiの平均酸化数が3.4〜3.6である
ことを特徴とするものである。
【0019】
上記したリチウムマンガン系複合酸化物は、酸化物の一般的な結晶構造である岩塩型構造を基本とするものであり、公知物質であるLi
2MnO
3に類似する空間群
【0020】
【数1】
【0021】
を有する単斜晶層状岩塩型構造の結晶相を基本として、これに、Ni及びFeが所定量固溶したものであって、Mn、Ni及びFeからなる遷移金属元素の平均酸化数が3.4〜3.6の範囲に制御されたものである。この様な特徴を有する本発明の複合酸化物は、遷移金属元素の平均酸化物が上記した範囲外にある公知の複合酸化物と比較して、高い充放電容量を有
するものであり、リチウムイオン二次電池用正極活物質として優れた特性を有するものである。
【0022】
該複合酸化物に固溶させるFeの量は、Mn、Fe及びNiからなる遷移金属元素の合計量を基準として、0〜60モル%の範囲内、即ち、0≦Fe/(Mn+Ni+Fe)≦0.6の範囲内にあることが必要であり、10〜30%の範囲内にあることが好ましい。Niの量は、Mn、Fe及びNiからなる遷移金属元素の合計量を基準として、0〜30モル%の範囲内、即ち、0≦Ni/(Mn+Ni+Fe)≦0.3の範囲内にあることが必要であり、5〜25%の範囲内にあることが好ましい。
【0023】
更に、Mn、Ni及びFeからなる遷移金属元素のモル比は、
図1に示すMn、Fe及びNiを各頂点とするモル比三角組成図において、点A(Mn : Fe : Ni=60:40:0)、点B(Mn : Fe : Ni=40:60:0)、点C(Mn : Fe : Ni=70:0:30)、及び点D(Mn : Fe : Ni=80:0:20)4点を頂点とする四角形の範囲内にあることが必要である。上記した組成式:Li
1+x(Mn
1-m-n Fe
mNi
n)
1-xO
2 で表される組成を有し、且つ、Mn、Fe及びNiの三成分のモル比が
図1に示す三角組成図において、点A、点B、点C、及び点Dを頂点とする四角形の範囲内にある場合には、後述する方法で複合酸化物を製造することによって、Mn、Ni及びFeからなる遷移元素の平均酸化数が3.4〜3.6の範囲内にある複合酸化物を得ることができる。
【0024】
リチウムマンガン系複合酸化物の製造方法
以下、本発明のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法について説明する。
【0025】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、Mnイオン、Feイオン及びNiイオンを含む水溶液から共沈法によってMn、Fe及びNiを含む沈殿を形成し、形成された沈殿にリチウム化合物を添加して湿式酸化した後、沈殿物の湿式酸化物を必要に応じてリチウム化合物と混合して、酸化性雰囲気下で焼成し、次いで、不活性ガス雰囲気下で焼成する方法によって得ることができる。以下、各工程について説明する。
【0026】
(i)
沈殿の形成
共沈法によって沈殿を形成する工程では、Mn、FeおよびNiの原料となる金属化合物を水、水/アルコール混合物などに溶解させた混合水溶液をアルカリ性として、Mn、Fe及びNiを含む沈殿物を形成する。
【0027】
構成金属源となるマンガン化合物、鉄化合物、及びニッケル化合物としては、これらの化合物を含む混合水溶液を形成できる成分であれば特に限定なく使用できる。通常、水溶性の化合物を用いればよい。この様な水溶性化合物の具体例としては、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩などの水溶性塩などを挙げることができる。マンガンの場合は、過マンガン酸塩も用いることができる。これらの水溶性化合物は、無水物および水和物のいずれであってもよい。また、金属そのもの、酸化物あるいは水酸化物などの非水溶性化合物であっても、例えば、塩酸や硝酸などの酸を用いて溶解させて水溶液として用いることが可能である。これらの各原料化合物は、各金属源について、それぞれ単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
該混合水溶液における上記各金属化合物の混合割合は、目的とする複合酸化物における各元素比と同様の元素比となるようにすればよい。即ち、組成式:Li
1+x(Mn
1-m-n Fe
mNi
n)
1-xO
2 において、m及びnが 0≦m≦0.6, 0≦n≦0.3の範囲内であって、各遷移金属元素のモル比が
図1に示す三角組成図において、点A、点B、点C及び点Dを頂点とする四角形で囲まれる範囲内となるように、各原料を混合すればよい。
【0029】
混合水溶液中の各化合物の濃度については、特に限定的ではなく、均一な混合水溶液を
形成でき、且つ円滑に共沈物を形成できるように適宜決めればよい。通常、構成金属化合物の合計濃度を、0.01〜5mol/l程度、好ましくは0.1〜2mol/l程度とすればよい。
【0030】
該混合水溶液の溶媒としては、水を単独で用いる他、メタノール、エタノールなどの水溶性アルコールを含む水−アルコール混合溶媒を用いても良い。
【0031】
該混合水溶液から沈殿物(共沈物)を生成させるには、該混合水溶液をアルカリ性とすればよい。良好な沈殿物を形成する条件は、混合水溶液に含まれる各化合物の種類、濃度などによって異なるので一概に規定出来ないが、通常、pH8程度以上とすることが好ましく、pH11程度以上とすることがより好ましい。
【0032】
該混合水溶液をアルカリ性にする方法については、特に限定はなく、通常は、該混合水溶液をアルカリ又はアルカリを含む水溶液に添加すればよい。また、アルカリを含む水溶液を該混合水溶液に添加する方法によっても共沈物を形成することができる。 該混合水溶液をアルカリ性にするために用いるアルカリとしては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、アンモニアなどを用いることができる。これらのアルカリを水溶液として用いる場合には、例えば、0.1〜20mol/l程度、好ましくは0.3〜10mol/l程度の濃度の水溶液として用いることができる。また、アルカリは、上記した金属化合物の混合水溶液と同様に、水溶性アルコールを含む水−アルコール混合溶媒に溶解しても良い。
【0033】
沈殿形成時の混合水溶液の液温は、30〜80℃程度とすることが好ましく、40〜75℃程度とすることがより好ましい。このような加熱下で沈殿を形成することによって、水酸化物としての沈殿形成時の反応速度を向上させ、微細な一次粒子が凝集した塊状の二次粒子とすることができる。この様な塊状の二次粒子は、比表面積が大きく酸化反応性に富み、また後述する塗布電極をとした際に極板密度を向上させやすい利点がある。
【0034】
この様な条件で沈殿を形成した後、後述する方法で湿式酸化、焼成等を行うことによって、目的とする遷移金属元素の平均酸化数が3.4〜3.6の範囲内にある複合酸化物を得ることができる。
【0035】
次いで、上記した方法で得られた沈殿物を水に分散させたスラリーにリチウム化合物を加えて、湿式酸化を行う。
【0036】
尚、湿式酸化に先だって、加熱下で形成された沈殿物から水洗等の方法で過剰のアルカリ成分、残留原料等を除去して精製することが好ましい。精製された沈殿は、デカンテーション法、濾過などの方法で分離した後、再度、水に分散させてスラリー状とし、リチウム化合物を加えて、湿式酸化を行えばよい。
【0037】
湿式酸化を行う際に、スラリーに含まれる沈殿物の量は、50〜300g/L程度とすることが好ましく、100〜250g/L程度とすることがより好ましい。スラリーに添加するリチウム化合物としては、水酸化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等を用いることができる。リチウム化合物の添加量は、沈殿物中に含まれる遷移金属1モルに対して、1〜3モル程度とすることが好ましく、1.5〜2モル程度とすることがより好ましい。
【0038】
湿式酸化の方法については、特に限定はないが、例えば、沈殿物を含むスラリーを反応容器内で均一に分散させながら、酸素、空気などの酸化性気体を吹き込めばよい。撹拌の程度については特に限定はなく、均一なスラリー状態となるように撹拌すればよい。例えば、200〜800rpm程度、好ましくは300〜500rpm程度の回転数で撹拌す
ればよい。
【0039】
酸化性気体の吹き込み量について、特に限定的ではないが、沈殿物を含むスラリー1リットルあたり、0.3〜5L/min程度とすることが好ましく、0.5〜2L/min程度とすることがより好ましい。この際に酸化反応を効率よく行うためにディフューザー等の泡を細かくする装置を使用し、微細な酸化性気体を吹き込むことが好ましい。
【0040】
また、沈殿物を含むスラリーを均一な状態となるように撹拌しつつ、H
2O
2などの酸化性化合物を添加する方法によっても湿式酸化を行うことができる。酸化性化合物の添加方法や添加量については、特に限定的ではないが、例えば、5〜10重量%のH
2O
2水溶液を用い、1〜5ml/min程度の流速で100〜150mL程度滴下する方法によっても湿式酸化を行うことができる。
【0041】
湿式酸化時の液温については、特に限定的ではないが、例えば、10〜60℃程度、好ましくは、20〜50℃程度とすればよい。湿式酸化の時間は、通常、8時間〜3日程度、好ましくは12〜36時間程度とすればよい。
【0042】
上記した方法で、特定の配合比率の原料を含む混合水溶液から沈殿を形成した後、形成された沈殿物にリチウム化合物を添加して湿式酸化することによって、共沈物中に含まれるマンガン、鉄などの酸化を進行させることができ、後述する二段階の焼成方法と組み合わせることによって、Mn、Ni及びFeからなる遷移金属元素の平均酸化数が3.4〜3.6の範囲にあるリチウムマンガン系複合酸化物を得ることができる。更に、湿式酸化を行うことによって、後述する焼成処理後に得られる複合酸化物の比表面積を大きくすることができる。
【0043】
次いで、湿式酸化後の沈殿物を含むスラリーを乾燥させて、乾燥粉末とする。乾燥方法については特に限定はないが、棚式乾燥機による蒸発乾固やスラリードライヤー、スプレードライヤー等を使用することができる。乾燥時の粉末温度は、60〜200℃程度とすることが好ましく、70〜120℃程度とすることがより好ましい。
【0044】
(ii)
焼成処理
次いで、水熱処理前に得られた沈殿物の湿式酸化物を、後述する条件で二段階の焼成処理に供することによって、遷移金属元素の平均酸化数を3.4〜3.6の範囲に制御することができる。
【0045】
焼成処理の際には、沈殿物の湿式酸化物に含まれるリチウム元素量は、遷移金属元素1モルに対して、1.3〜2.2モル程度であることが好ましい。このため、焼成処理を行う前に組成分析を行い、この結果に基づいて、必要に応じて、湿式酸化物中に含まれるリチウム元素量が、上記した好ましい範囲となるようにリチウム化合物を添加すればよい。ただし、この段階で添加するリチウム化合物の添加量は、湿式酸化物に含まれる遷移金属元素1モルに対して、0.01〜2モル程度の範囲内とすることが好ましい。
【0046】
焼成処理前に添加できるリチウム化合物としては、リチウム元素を含む化合物であれば特に限定なく使用でき、具体例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等のリチウム塩、水酸化リチウム、これらの水和物等を挙げることができる。これらのリチウム化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。リチウム化合物は、粉末形態、水溶液形態等として用いることができるが、反応の均一性を確保するために、水溶液の形態で使用することが好ましい。この場合、水溶液の濃度については、通常、0.1〜10mol/l程度とすればよい。
【0047】
通常、反応性を向上させるために、焼成用原料にリチウム化合物を加えて粉砕混合した後、焼成することが好ましい。粉砕の程度については、粗大粒子が含まれず、混合物が均一な色調となっていればよい。
【0048】
焼成処理としては、まず、第一段階として、酸化性雰囲気下において焼成を行う。酸化性雰囲気下で焼成を行う方法としては、例えば、空気、酸素等の酸素含有気体の雰囲気中において、好ましくは400〜600℃程度、より好ましくは450〜550℃程度に加熱すればよい。この工程では、酸化性雰囲気下で焼成することによって、主にマンガンの酸化が進行して、4価のマンガンが形成されるものと思われる。
【0049】
酸化性雰囲気下での焼成時間は、焼成温度まで達する時間を含めて1〜10時間程度とすることが好ましく、2〜7時間程度とすることがより好ましい。 次いで、第二段階目の焼成として、不活性ガス雰囲気下で焼成を行う。不活性ガス雰囲気下で焼成する方法については、特に限定はないが、例えば、窒素、アルゴンガスなどの不活性ガス気流下等の不活性雰囲気中において、600〜850℃程度、好ましくは700〜800℃程度に加熱すればよい。
【0050】
この場合、焼成温度は、上記した範囲内において、酸化性雰囲気下での焼成温度より、
200〜300℃程度高い温度とすることが好ましい。
【0051】
不活性ガス雰囲気下での焼成時間は、焼成温度まで達する時間を含めて 1〜48時間程度とすることが好ましく、10〜30時間程度とすることがより好ましい。
【0052】
この様な条件で不活性ガス雰囲気下で焼成を行うことによって、酸化性雰囲気下での焼成で形成された遷移金属元素の酸化数を変化させることなく、単斜晶層状岩塩型結晶構造を成長させて、目的とする複合酸化物を得ることができる。その結果、形成される複合酸化物に含まれるMn、Ni及びFeからなる遷移金属元素の平均酸化数を3.4〜3.6の範囲内に制御することができる。この場合、各元素の酸化数については必ずしも明確ではないが、上記した製造工程を経ることによって、Mnがほぼ4価、Feがほぼ3価、Niがほぼ2価となるものと思われる。
【0053】
また、上記した二段階の焼成方法によれば、形成される複合酸化物の比表面積を増大させることができる。これは、不活性雰囲気下で焼成を行うことによって、焼成時に二酸化炭素ガスが発生し、これにより焼成物に細孔が発達して、比表面積が増大することによるものと思われる。本発明方法によれば、比表面積が10m
2/g程度以上という高い比表面積の複合酸化物を得ることができる。比表面積の上限については、特に限定的ではないが、上記した方法では、通常、50m
2/g程度までの比表面積の複合酸化物を得ることができる。本発明の複合酸化物は、この様な高い比表面積を有することによって、Li挿入脱離断面積が大きくなり、これにより、充放電反応が円滑に進行するものと思われる。尚、本願明細書では、比表面積は、N
2ガス吸着法によって求めたBET比表面積である。
【0054】
更に、上記した二段階の焼成方法によれば、該複合酸化物に含まれる鉄の酸化が進行し難く、充放電反応に寄与しないLiFe
5O
8, MnFe
2O
4等のスピネルフェライト成分の生成が抑制され、これにより高い充放電容量を有するものとなる。スピネルフェライト成分の含有量については、自発磁化を測定することによって間接的に評価することができる。本発明によれば、スピネルフェライト成分の生成が抑制されているために、0.005emu/g以下という非常に低い自発磁化を有する複合酸化物を得ることができる。
【0055】
更に、上記した焼成工程では、形成されるリチウムマンガン系複合酸化物のLi含有量、粉体特性等も制御することができる。例えば、焼成の際に添加するリチウム化合物の量を
適宜設定することによって、リチウムマンガン系複合酸化物中のリチウム含有量を調整することができる。また、焼成温度を高くすることによって、リチウムマンガン系複合酸化物の粒径を大きくすることができる。
【0056】
上記した焼成工程でリチウムマンガン系複合酸化物を得た後、通常、過剰のリチウム化合物や不純物等を除去するために、焼成物を水洗処理あるいは溶媒洗浄処理等に供する。その後、濾過を行い、例えば、80℃以上の温度、好ましくは100℃程度の温度で加熱乾燥してもよい。
【0057】
リチウムイオン二次電池
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物を正極材料とするリチウムイオン二次電池は、公知の手法により製造することができる。例えば、正極材料として、本発明による新規な複合酸化物を使用し、負極材料として、公知の金属リチウム、炭素系材料(活性炭、黒鉛)、珪素、酸化珪素などを使用し、電解液として、公知のエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどからなる混合溶媒に過塩素酸リチウム、LiPF
6などのリチウム塩を溶解させた溶液(有機電解液)を使用し、さらにその他の公知の電池構成要素を使用して、常法に従って、リチウムイオン二次電池を組立てればよい。