特許第6128303号(P6128303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6128303リチウムマンガン系複合酸化物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6128303
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】リチウムマンガン系複合酸化物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20170508BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20170508BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20170508BHJP
【FI】
   C01G53/00 A
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-84456(P2012-84456)
(22)【出願日】2012年4月3日
(65)【公開番号】特開2013-212959(P2013-212959A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2015年3月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.発行者名 社団法人電気化学会電池技術委員会 刊行物名 第52回電池討論会 講演要旨集 発行年月日 平成23年10月17日 2.主催者 社団法人電気化学会電池技術委員会 集会名 第52回電池討論会 開催日 平成23年10月19日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発/要素技術開発/高容量・低コスト新規酸化物正極材料の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田渕 光春
(72)【発明者】
【氏名】竹内 友成
(72)【発明者】
【氏名】秋本 順二
(72)【発明者】
【氏名】今泉 純一
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 英香
【審査官】 大城 公孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−179501(JP,A)
【文献】 特開2012−041257(JP,A)
【文献】 特開2010−135187(JP,A)
【文献】 特開2003−048718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
C01G 49/00
H01M 4/505
H01M 4/525
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:Li1+x(Mn1-m-nFeNi)1-xO2(式中、x、m及びnの範囲は、0≦x≦1/3, 0<m≦0.6, 0n≦0.3である)で表される単斜晶層状岩塩型構造を有する複合酸化物であって、
(1)Mn、Fe及びNiの三成分のモル比が、Mn、Fe及びNiを各頂点とするモル比三角組成図において、点A(Mn : Fe : Ni=60:40:0)、点B(Mn : Fe : Ni=40:60:0)、点C(Mn : Fe: Ni=70:0:30)、及び点D(Mn : Fe : Ni=80:0:20)の4点を頂点とする四角形の範囲内にあり、
(2)Mn、Fe及びNiの平均酸化数が3.40以上3.60以下であり、
前記平均酸化数は酸化還元滴定により算出された値である
ことを特徴とするリチウムマンガン系複合酸化物。
【請求項2】
比表面積が10〜50m/gであり、自発磁化が0.005A・m/kg以下である、請求項1に記載のリチウムマンガン系複合酸化物。
【請求項3】
マンガン化合物、鉄化合物、及びニッケル化合物を含む混合水溶液をアルカリ性として沈殿を形成し、形成された沈殿物にリチウム化合物を添加して湿式酸化処理した後、酸化性雰囲気下、400〜600℃で焼成し、次いで、不活性ガス雰囲気下、600〜850℃で焼成することとを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
沈殿形成時の混合水溶液の液温が30〜80℃である請求項3に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
沈殿物を湿式酸化する方法が、沈殿物を含む水溶液を撹拌しつつ、酸化性気体を吹き込む方法、又は沈殿物を含む水溶液を撹拌しつつ、酸化性化合物を添加する方法である請求項3又は4に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極材料を構成要素とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次世代低コストリチウムイオン二次電池の正極材料として有用なリチウムマンガン系複合酸化物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、我が国において、携帯電話、ノートパソコンなどのポータブル機器に搭載されている二次電池のほとんどは、リチウムイオン二次電池である。また、リチウムイオン二次電池は、今後、電気自動車、電力負荷平準化システムなどの大型電池としても実用化されるものと予想されており、その重要性はますます高まっている。
【0003】
現在、リチウムイオン二次電池においては、正極材料としては主にリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)材料が使用され、負極材料としては黒鉛などの炭素材料が使用されている。これらの電極材料を用いる場合には、充電によりリチウムコバルト酸化物内のコバルトが3価から4価に酸化されつつLi脱離をして負極にLiが供給され、放電時には負極の炭素材料からLiが脱離し、4価のコバルトが3価に還元されて正極側にLi挿入されることにより、電池として作動する。
【0004】
この様なリチウムイオン二次電池では、正極材料において可逆的に脱離(充電に相当)、挿入(放電に相当)するリチウムイオン量が電池の容量を決定づけ、脱離・挿入時の電圧が電池の作動電圧を決定づけるために、正極材料であるLiCoO2は、電池性能に関連する重要な電池構成材料である。このため、今後のリチウムイオン二次電池の用途拡大・大型化に伴い、リチウムコバルト酸化物は、一層の需要増加が予想されている。
【0005】
しかしながら、リチウムコバルト酸化物は、希少金属であるコバルトを多量に含むために、リチウムイオン二次電池の素材コストを上昇させる要因の一つとなっている。さらに、現在コバルト資源の約20%が電池産業に用いられていることを考慮すれば、LiCoO2からなる正極材料のみでは今後の需要拡大に対応することは困難と考えられる。
【0006】
現在、より安価で資源的に制約の少ない正極材料として、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)、リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)等が報告されており、一部代替材料として実用化されている。しかしながらリチウムニッケル酸化物には充電時に電池の安全性を低下させるという問題があり、リチウムマンガン酸化物には高温(約60℃)充放電時に3価のマンガンが電解液中に溶出し、それが電池性能を著しく劣化させるという問題があるため、これらの材料への代替はあまり進んでいない。またリチウムマンガン酸化物のなかでLiMnO2という正極材料も提案されているが、この材料は、充放電に伴ってもとの構造から徐々に上記LiMn2O4に代表されるスピネル型の結晶構造に変化し、充放電曲線の形状が充放電サイクルの進行に伴い大きく変化することから実用化には至っていない。
【0007】
また、マンガンおよびニッケルに比べて、資源的により一層豊富であり、毒性が低く、安価な鉄を含むリチウムフェライト(LiFeO2)について、電極材料としての可能性が検討されている。しかしながら、通常の製造法、すなわち鉄源とリチウム源とを混合し高温焼成することによって得られるリチウムフェライトは、ほとんど充放電しないので、リチウムイオン二次電池正極材料として用いることはできない。
【0008】
一方、イオン交換法により得られるLiFeO2が充放電可能であることが報告されているが(下記特許文献1および2参照)、これらの材料の平均放電電圧は2.5V以下でありLiCoO2の値(約3.7V)に比べて著しく低いため、LiCoO2の代替とすることは困難である。
【0009】
本発明者らは、すでに、鉄に次いで安価かつ資源的に豊富なリチウムマンガン酸化物(Li2MnO3)とリチウムフェライトとからなる層状岩塩型構造の固溶体(Li1+x(FeyMn1-y)1-xO2、(0<x<1/3, 0<y<1)、以下「鉄含有Li2MnO3」という)が、室温での充放電試験においてはリチウムコバルト酸化物並の4V近い平均放電電圧を有することを見出している(下記特許文献3および4参照)。
【0010】
また、本発明者らは、特定の条件を満足するリチウム−鉄−マンガン複合酸化物が、高温サイクル試験時にLiMn2O4より高容量(150mAh/g)かつ安定した充放電サイクル特性を示すことを見出している(下記特許文献5参照)。
【0011】
更に、本発明者らは、鉄を含有するLi2MnO3に更にNiを固溶させた正極材料がサイクル劣化の少ない材料であることも報告している(下記特許文献6及び7参照)。
【0012】
以上の通り、リチウムコバルト系正極材料に代わり得るリチウムマンガン系正極材料について種々の報告がなされている。しかしながら、より一層の充放電特性に優れた正極材料が望まれており、その特性の改善のためには、正極材料の化学組成や製造条件についての最適化が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10-120421号公報
【特許文献2】特開平8-295518号公報
【特許文献3】特開2002-068748号公報
【特許文献4】特開2002-121026号公報
【特許文献5】特開2005-154256号公報
【特許文献6】特開2003-48718号公報
【特許文献7】特開2006-36621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、リチウムコバルト系正極材料に代わり得る正極材料として期待されるリチウムマンガン系複合酸化物において、より優れた充放電特性を発揮できる新規な材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、鉄及びニッケルを固溶させたリチウムマンガン系複合酸化物において、特定の組成範囲の原料を用い、水溶液からの共沈法を採用した上で、特定の製造条件を採用する場合に、鉄、ニッケル及びマンガンの平均酸化数が特定の範囲内にある、従来知られていない新規な複合酸化物が得られることを見出した。そして、このようにして得られる新規な複合酸化物は、従来知られている同様の組成のリチウムマンガン系複合酸化物と比較して、高い充放電容量を有するものであり、これをリチウムイオン二次電池の正極材料として用いることによって、安価な原料を使用して、優れた性能を有するリチウムイオン二次電池を作製できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は、下記のリチウムマンガン系複合酸化物、その製造方法、リチウムマンガン系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池正極材料及びリチウムイオン二次電池を提供するものである。
項1.組成式:Li1+x(Mn1-m-n FeNi)1-xO2 (式中、x、m及びnの範囲は、0≦x≦1/3,
0≦m≦0.6, 0≦n≦0.3である)で表される単斜晶層状岩塩型構造を有する複合酸化物であって、
(1)Mn、Fe及びNiの三成分のモル比が、Mn、Fe及びNiを各頂点とするモル比三角組成図において、点A(Mn : Fe : Ni=60:40:0)、点B(Mn : Fe : Ni=40:60:0)、点C(Mn : Fe
: Ni=70:0:30)、及び点D(Mn : Fe : Ni=80:0:20)の4点を頂点とする四角形の範囲内にあり、
(2)Mn、Fe及びNiの平均酸化数が3.4〜3.6である
ことを特徴とするリチウムマンガン系複合酸化物。
項2.比表面積が10〜50m/gであり、自発磁化が0.005emu/g以下である、項1に記載のリチウムマンガン系複合酸化物。
項3.マンガン化合物、鉄化合物、及びニッケル化合物を含む混合水溶液をアルカリ性として沈殿を形成し、形成された沈殿物にリチウム化合物を添加して湿式酸化処理した後、酸化性雰囲気下で焼成し、次いで、不活性ガス雰囲気下で焼成することとを特徴とする項1又は2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
項4.沈殿形成時の混合水溶液の液温が30〜80℃である項3に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
項5.沈殿物を湿式酸化する方法が、沈殿物を含む水溶液を撹拌しつつ、酸化性気体を吹き込む方法、又は沈殿物を含む水溶液を撹拌しつつ、酸化性化合物を添加する方法である項3又は4に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
項6.酸化性雰囲気中での焼成を400〜600℃で行い、不活性ガス雰囲気中での焼成を600〜850℃で行うことを特徴とする項3〜5のいずれかに記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
項7.項1又は2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極材料。
項8.項1又は2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極材料を構成要素とするリチウムイオン二次電池。
【0017】
以下、本発明のリチウムマンガン系複合酸化物及びその製造方法について具体的に説明する。
【0018】
リチウムマンガン系複合酸化物
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、組成式:Li1+x(Mn1-m-n FeNi)1-x O2 (式中、x、m及びnの範囲は、0≦x≦1/3, 0≦m≦0.6, 0≦n≦0.3である)で表される単斜晶層状岩塩型構造を有する複合酸化物であって、
(1)Mn、Fe及びNiの三成分のモル比が、Mn、Fe及びNiを各頂点とするモル比三角組成図において、点A(Mn : Fe : Ni=60:40:0)、点B(Mn : Fe : Ni=40:60:0)、点C(Mn : Fe
: Ni=70:0:30)、及び点D(Mn : Fe : Ni=80:0:20)の4点を頂点とする四角形の範囲内にあり、
(2)Mn、Fe及びNiの平均酸化数が3.4〜3.6である
ことを特徴とするものである。
【0019】
上記したリチウムマンガン系複合酸化物は、酸化物の一般的な結晶構造である岩塩型構造を基本とするものであり、公知物質であるLi2MnO3に類似する空間群
【0020】
【数1】
【0021】
を有する単斜晶層状岩塩型構造の結晶相を基本として、これに、Ni及びFeが所定量固溶したものであって、Mn、Ni及びFeからなる遷移金属元素の平均酸化数が3.4〜3.6の範囲に制御されたものである。この様な特徴を有する本発明の複合酸化物は、遷移金属元素の平均酸化物が上記した範囲外にある公知の複合酸化物と比較して、高い充放電容量を有
するものであり、リチウムイオン二次電池用正極活物質として優れた特性を有するものである。
【0022】
該複合酸化物に固溶させるFeの量は、Mn、Fe及びNiからなる遷移金属元素の合計量を基準として、0〜60モル%の範囲内、即ち、0≦Fe/(Mn+Ni+Fe)≦0.6の範囲内にあることが必要であり、10〜30%の範囲内にあることが好ましい。Niの量は、Mn、Fe及びNiからなる遷移金属元素の合計量を基準として、0〜30モル%の範囲内、即ち、0≦Ni/(Mn+Ni+Fe)≦0.3の範囲内にあることが必要であり、5〜25%の範囲内にあることが好ましい。
【0023】
更に、Mn、Ni及びFeからなる遷移金属元素のモル比は、図1に示すMn、Fe及びNiを各頂点とするモル比三角組成図において、点A(Mn : Fe : Ni=60:40:0)、点B(Mn : Fe : Ni=40:60:0)、点C(Mn : Fe : Ni=70:0:30)、及び点D(Mn : Fe : Ni=80:0:20)4点を頂点とする四角形の範囲内にあることが必要である。上記した組成式:Li1+x(Mn1-m-n FeNi)1-xO2 で表される組成を有し、且つ、Mn、Fe及びNiの三成分のモル比が図1に示す三角組成図において、点A、点B、点C、及び点Dを頂点とする四角形の範囲内にある場合には、後述する方法で複合酸化物を製造することによって、Mn、Ni及びFeからなる遷移元素の平均酸化数が3.4〜3.6の範囲内にある複合酸化物を得ることができる。
【0024】
リチウムマンガン系複合酸化物の製造方法
以下、本発明のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法について説明する。
【0025】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、Mnイオン、Feイオン及びNiイオンを含む水溶液から共沈法によってMn、Fe及びNiを含む沈殿を形成し、形成された沈殿にリチウム化合物を添加して湿式酸化した後、沈殿物の湿式酸化物を必要に応じてリチウム化合物と混合して、酸化性雰囲気下で焼成し、次いで、不活性ガス雰囲気下で焼成する方法によって得ることができる。以下、各工程について説明する。
【0026】
(i)沈殿の形成
共沈法によって沈殿を形成する工程では、Mn、FeおよびNiの原料となる金属化合物を水、水/アルコール混合物などに溶解させた混合水溶液をアルカリ性として、Mn、Fe及びNiを含む沈殿物を形成する。
【0027】
構成金属源となるマンガン化合物、鉄化合物、及びニッケル化合物としては、これらの化合物を含む混合水溶液を形成できる成分であれば特に限定なく使用できる。通常、水溶性の化合物を用いればよい。この様な水溶性化合物の具体例としては、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩などの水溶性塩などを挙げることができる。マンガンの場合は、過マンガン酸塩も用いることができる。これらの水溶性化合物は、無水物および水和物のいずれであってもよい。また、金属そのもの、酸化物あるいは水酸化物などの非水溶性化合物であっても、例えば、塩酸や硝酸などの酸を用いて溶解させて水溶液として用いることが可能である。これらの各原料化合物は、各金属源について、それぞれ単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
該混合水溶液における上記各金属化合物の混合割合は、目的とする複合酸化物における各元素比と同様の元素比となるようにすればよい。即ち、組成式:Li1+x(Mn1-m-n FeNi)1-xO2 において、m及びnが 0≦m≦0.6, 0≦n≦0.3の範囲内であって、各遷移金属元素のモル比が図1に示す三角組成図において、点A、点B、点C及び点Dを頂点とする四角形で囲まれる範囲内となるように、各原料を混合すればよい。
【0029】
混合水溶液中の各化合物の濃度については、特に限定的ではなく、均一な混合水溶液を
形成でき、且つ円滑に共沈物を形成できるように適宜決めればよい。通常、構成金属化合物の合計濃度を、0.01〜5mol/l程度、好ましくは0.1〜2mol/l程度とすればよい。
【0030】
該混合水溶液の溶媒としては、水を単独で用いる他、メタノール、エタノールなどの水溶性アルコールを含む水−アルコール混合溶媒を用いても良い。
【0031】
該混合水溶液から沈殿物(共沈物)を生成させるには、該混合水溶液をアルカリ性とすればよい。良好な沈殿物を形成する条件は、混合水溶液に含まれる各化合物の種類、濃度などによって異なるので一概に規定出来ないが、通常、pH8程度以上とすることが好ましく、pH11程度以上とすることがより好ましい。
【0032】
該混合水溶液をアルカリ性にする方法については、特に限定はなく、通常は、該混合水溶液をアルカリ又はアルカリを含む水溶液に添加すればよい。また、アルカリを含む水溶液を該混合水溶液に添加する方法によっても共沈物を形成することができる。 該混合水溶液をアルカリ性にするために用いるアルカリとしては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、アンモニアなどを用いることができる。これらのアルカリを水溶液として用いる場合には、例えば、0.1〜20mol/l程度、好ましくは0.3〜10mol/l程度の濃度の水溶液として用いることができる。また、アルカリは、上記した金属化合物の混合水溶液と同様に、水溶性アルコールを含む水−アルコール混合溶媒に溶解しても良い。
【0033】
沈殿形成時の混合水溶液の液温は、30〜80℃程度とすることが好ましく、40〜75℃程度とすることがより好ましい。このような加熱下で沈殿を形成することによって、水酸化物としての沈殿形成時の反応速度を向上させ、微細な一次粒子が凝集した塊状の二次粒子とすることができる。この様な塊状の二次粒子は、比表面積が大きく酸化反応性に富み、また後述する塗布電極をとした際に極板密度を向上させやすい利点がある。
【0034】
この様な条件で沈殿を形成した後、後述する方法で湿式酸化、焼成等を行うことによって、目的とする遷移金属元素の平均酸化数が3.4〜3.6の範囲内にある複合酸化物を得ることができる。
【0035】
次いで、上記した方法で得られた沈殿物を水に分散させたスラリーにリチウム化合物を加えて、湿式酸化を行う。
【0036】
尚、湿式酸化に先だって、加熱下で形成された沈殿物から水洗等の方法で過剰のアルカリ成分、残留原料等を除去して精製することが好ましい。精製された沈殿は、デカンテーション法、濾過などの方法で分離した後、再度、水に分散させてスラリー状とし、リチウム化合物を加えて、湿式酸化を行えばよい。
【0037】
湿式酸化を行う際に、スラリーに含まれる沈殿物の量は、50〜300g/L程度とすることが好ましく、100〜250g/L程度とすることがより好ましい。スラリーに添加するリチウム化合物としては、水酸化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等を用いることができる。リチウム化合物の添加量は、沈殿物中に含まれる遷移金属1モルに対して、1〜3モル程度とすることが好ましく、1.5〜2モル程度とすることがより好ましい。
【0038】
湿式酸化の方法については、特に限定はないが、例えば、沈殿物を含むスラリーを反応容器内で均一に分散させながら、酸素、空気などの酸化性気体を吹き込めばよい。撹拌の程度については特に限定はなく、均一なスラリー状態となるように撹拌すればよい。例えば、200〜800rpm程度、好ましくは300〜500rpm程度の回転数で撹拌す
ればよい。
【0039】
酸化性気体の吹き込み量について、特に限定的ではないが、沈殿物を含むスラリー1リットルあたり、0.3〜5L/min程度とすることが好ましく、0.5〜2L/min程度とすることがより好ましい。この際に酸化反応を効率よく行うためにディフューザー等の泡を細かくする装置を使用し、微細な酸化性気体を吹き込むことが好ましい。
【0040】
また、沈殿物を含むスラリーを均一な状態となるように撹拌しつつ、H2O2などの酸化性化合物を添加する方法によっても湿式酸化を行うことができる。酸化性化合物の添加方法や添加量については、特に限定的ではないが、例えば、5〜10重量%のH2O2水溶液を用い、1〜5ml/min程度の流速で100〜150mL程度滴下する方法によっても湿式酸化を行うことができる。
【0041】
湿式酸化時の液温については、特に限定的ではないが、例えば、10〜60℃程度、好ましくは、20〜50℃程度とすればよい。湿式酸化の時間は、通常、8時間〜3日程度、好ましくは12〜36時間程度とすればよい。
【0042】
上記した方法で、特定の配合比率の原料を含む混合水溶液から沈殿を形成した後、形成された沈殿物にリチウム化合物を添加して湿式酸化することによって、共沈物中に含まれるマンガン、鉄などの酸化を進行させることができ、後述する二段階の焼成方法と組み合わせることによって、Mn、Ni及びFeからなる遷移金属元素の平均酸化数が3.4〜3.6の範囲にあるリチウムマンガン系複合酸化物を得ることができる。更に、湿式酸化を行うことによって、後述する焼成処理後に得られる複合酸化物の比表面積を大きくすることができる。
【0043】
次いで、湿式酸化後の沈殿物を含むスラリーを乾燥させて、乾燥粉末とする。乾燥方法については特に限定はないが、棚式乾燥機による蒸発乾固やスラリードライヤー、スプレードライヤー等を使用することができる。乾燥時の粉末温度は、60〜200℃程度とすることが好ましく、70〜120℃程度とすることがより好ましい。
【0044】
(ii)焼成処理
次いで、水熱処理前に得られた沈殿物の湿式酸化物を、後述する条件で二段階の焼成処理に供することによって、遷移金属元素の平均酸化数を3.4〜3.6の範囲に制御することができる。
【0045】
焼成処理の際には、沈殿物の湿式酸化物に含まれるリチウム元素量は、遷移金属元素1モルに対して、1.3〜2.2モル程度であることが好ましい。このため、焼成処理を行う前に組成分析を行い、この結果に基づいて、必要に応じて、湿式酸化物中に含まれるリチウム元素量が、上記した好ましい範囲となるようにリチウム化合物を添加すればよい。ただし、この段階で添加するリチウム化合物の添加量は、湿式酸化物に含まれる遷移金属元素1モルに対して、0.01〜2モル程度の範囲内とすることが好ましい。
【0046】
焼成処理前に添加できるリチウム化合物としては、リチウム元素を含む化合物であれば特に限定なく使用でき、具体例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等のリチウム塩、水酸化リチウム、これらの水和物等を挙げることができる。これらのリチウム化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。リチウム化合物は、粉末形態、水溶液形態等として用いることができるが、反応の均一性を確保するために、水溶液の形態で使用することが好ましい。この場合、水溶液の濃度については、通常、0.1〜10mol/l程度とすればよい。
【0047】
通常、反応性を向上させるために、焼成用原料にリチウム化合物を加えて粉砕混合した後、焼成することが好ましい。粉砕の程度については、粗大粒子が含まれず、混合物が均一な色調となっていればよい。
【0048】
焼成処理としては、まず、第一段階として、酸化性雰囲気下において焼成を行う。酸化性雰囲気下で焼成を行う方法としては、例えば、空気、酸素等の酸素含有気体の雰囲気中において、好ましくは400〜600℃程度、より好ましくは450〜550℃程度に加熱すればよい。この工程では、酸化性雰囲気下で焼成することによって、主にマンガンの酸化が進行して、4価のマンガンが形成されるものと思われる。
【0049】
酸化性雰囲気下での焼成時間は、焼成温度まで達する時間を含めて1〜10時間程度とすることが好ましく、2〜7時間程度とすることがより好ましい。 次いで、第二段階目の焼成として、不活性ガス雰囲気下で焼成を行う。不活性ガス雰囲気下で焼成する方法については、特に限定はないが、例えば、窒素、アルゴンガスなどの不活性ガス気流下等の不活性雰囲気中において、600〜850℃程度、好ましくは700〜800℃程度に加熱すればよい。
【0050】
この場合、焼成温度は、上記した範囲内において、酸化性雰囲気下での焼成温度より、
200〜300℃程度高い温度とすることが好ましい。
【0051】
不活性ガス雰囲気下での焼成時間は、焼成温度まで達する時間を含めて 1〜48時間程度とすることが好ましく、10〜30時間程度とすることがより好ましい。
【0052】
この様な条件で不活性ガス雰囲気下で焼成を行うことによって、酸化性雰囲気下での焼成で形成された遷移金属元素の酸化数を変化させることなく、単斜晶層状岩塩型結晶構造を成長させて、目的とする複合酸化物を得ることができる。その結果、形成される複合酸化物に含まれるMn、Ni及びFeからなる遷移金属元素の平均酸化数を3.4〜3.6の範囲内に制御することができる。この場合、各元素の酸化数については必ずしも明確ではないが、上記した製造工程を経ることによって、Mnがほぼ4価、Feがほぼ3価、Niがほぼ2価となるものと思われる。
【0053】
また、上記した二段階の焼成方法によれば、形成される複合酸化物の比表面積を増大させることができる。これは、不活性雰囲気下で焼成を行うことによって、焼成時に二酸化炭素ガスが発生し、これにより焼成物に細孔が発達して、比表面積が増大することによるものと思われる。本発明方法によれば、比表面積が10m/g程度以上という高い比表面積の複合酸化物を得ることができる。比表面積の上限については、特に限定的ではないが、上記した方法では、通常、50m/g程度までの比表面積の複合酸化物を得ることができる。本発明の複合酸化物は、この様な高い比表面積を有することによって、Li挿入脱離断面積が大きくなり、これにより、充放電反応が円滑に進行するものと思われる。尚、本願明細書では、比表面積は、N2ガス吸着法によって求めたBET比表面積である。
【0054】
更に、上記した二段階の焼成方法によれば、該複合酸化物に含まれる鉄の酸化が進行し難く、充放電反応に寄与しないLiFe5O8, MnFe2O4等のスピネルフェライト成分の生成が抑制され、これにより高い充放電容量を有するものとなる。スピネルフェライト成分の含有量については、自発磁化を測定することによって間接的に評価することができる。本発明によれば、スピネルフェライト成分の生成が抑制されているために、0.005emu/g以下という非常に低い自発磁化を有する複合酸化物を得ることができる。
【0055】
更に、上記した焼成工程では、形成されるリチウムマンガン系複合酸化物のLi含有量、粉体特性等も制御することができる。例えば、焼成の際に添加するリチウム化合物の量を
適宜設定することによって、リチウムマンガン系複合酸化物中のリチウム含有量を調整することができる。また、焼成温度を高くすることによって、リチウムマンガン系複合酸化物の粒径を大きくすることができる。
【0056】
上記した焼成工程でリチウムマンガン系複合酸化物を得た後、通常、過剰のリチウム化合物や不純物等を除去するために、焼成物を水洗処理あるいは溶媒洗浄処理等に供する。その後、濾過を行い、例えば、80℃以上の温度、好ましくは100℃程度の温度で加熱乾燥してもよい。
【0057】
リチウムイオン二次電池
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物を正極材料とするリチウムイオン二次電池は、公知の手法により製造することができる。例えば、正極材料として、本発明による新規な複合酸化物を使用し、負極材料として、公知の金属リチウム、炭素系材料(活性炭、黒鉛)、珪素、酸化珪素などを使用し、電解液として、公知のエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどからなる混合溶媒に過塩素酸リチウム、LiPF6などのリチウム塩を溶解させた溶液(有機電解液)を使用し、さらにその他の公知の電池構成要素を使用して、常法に従って、リチウムイオン二次電池を組立てればよい。
【発明の効果】
【0058】
本発明によれば、鉄及びニッケルを含むリチウムマンガン系複合酸化物において、マンガン、鉄及びニッケルからなる遷移金属元素の平均酸化数が3.4〜3.6に制御された新規な複合酸化物を得ることができる。
【0059】
得られた複合酸化物は、比表面積が大きく、充放電反応に寄与しないフェライト成分の生成が抑制されたものであり、高い充放電容量を有する正極材料として、有用性が高い酸化物である。
【0060】
このため本発明の複合酸化物を正極材料として用いることによって、比較的安価な原料を使用して、優れた性能を有するリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】本発明のリチウムマンガン系複合酸化物に含まれる遷移金属元素のモル比を示す三角組成図。
図2】実施例及び比較例で用いた反応装置の概略構成図。
図3】実施例及び比較例において、充放電試験に用いた評価セルの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下、実施例および比較例を示し、本発明の特徴とするところを一層明確にするが、本発明は以下の実施例、比較例のみに限定されるものではない。
【0063】
実施例1
図2に示す反応装置を用いて、以下の方法でリチウムマンガン系複合酸化物を作製した。
【0064】
まず、攪拌機1を備えた容積5LのSUS製円筒型反応槽2に、3Lの水を入れ、次いで、硫酸アンモニウムを150g投入し、更にpHが11.0になるまで37%水酸化ナトリウム水溶液を加え、電熱ヒーター(図示を省略)を用いて温度を45℃に保持した。
【0065】
その後、硫酸鉄(II)7水和物、硫酸マンガン(II)5水和物および硫酸ニッケル(II)6水
和物(鉄:マンガン:ニッケルメタル(モル比)=2:6:2)を蒸留水に加え、完全に溶解させた。その際の各金属イオン濃度はマンガンが26.0g/L、ニッケルが9.25g/L、鉄が8.76g/Lであった。これを、金属イオン含有溶液調製槽4から管3を通じて4時間かけて一定速度で前記反応槽2に連続供給した。また、37%水酸化ナトリウム水溶液を、水酸化物イオン等含有溶液槽5から管6を通じて断続的に加えることで、前記反応槽2内の溶液のpHを11.0に保持した。なお、溶液のpHを制御するために、pHセンサー7を使用した。上記の反応操作により、Fe-Mn-Ni複合水酸化物からなる共沈物が得られた。
【0066】
次いで、得られた複合水酸化物をデカンテーション法により水洗し、過剰に存在する硫酸塩などの塩類を除去し、ろ過した後、Fe-Mn-Ni複合水酸化物を得た。これを2Lの反応容器に投入し、水酸化リチウム1水和物141.9gと蒸留水を加え全量を1.5リットルのスラリーとした。400rpmの攪拌下でFe-Mn-Ni複合水酸化物を含むスラリーに対して室温で1日間空気を5リットル/minで吹き込んで酸化処理して、沈殿を熟成させた。それらを粉末温度が80℃となるようにスラリーごとスプレードライヤーで乾燥させた。
【0067】
得られた粉末を空気流中500℃ で3時間焼成し、次いで、焼成物を窒素気流中750℃で20時間焼成した。次いで、過剰のリチウム塩を除去するために、焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して、粉末状生成物を得た。
【0068】
得られた粉末状生成物について、X線回折(XRD)を実施した。その結果、以前に報告されている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3の単位胞:空間群
【0069】
【数2】
【0070】
と同様の測定パターンを得た。この結果から、実施例1で得られた粉末状生成物は、単斜晶層状岩塩型結晶相のみであることが確認できた。
【0071】
更に、実施例1で得られた粉末状生成物について、以下の方法で組成分析、比表面積測定、自発磁化測定、遷移金属元素の平均酸化数測定、及び充放電特性評価を行った。結果を下記表1に示す。
(i)組成分析
各正極活物質粉末の金属原子含有量(質量%)は、塩酸で溶解しICP−AES(パーキンエルマー社製optima7300DV )により測定した。
(ii)比表面積測定
マウンテック社製マックソーブを使用し、N2ガス吸着量測定によるB.E.T.法により比表面積を求めた。
(iii)自発磁化測定
理研電子(株)製の振動型磁束計を用い、(NH4)2Mn(SO4)2.6H2Oを磁化標準試料として校正後、-1から+1Tの範囲で重量既知の試料の磁化の磁場依存性を測定し、+0.5〜+1Tの範囲と-0.5〜-1Tの範囲それぞれについて磁化の磁場依存性を直線回帰分析し、それぞれの零磁場における切片の絶対値を平均することにより自発磁化を求めた。
(iv)遷移金属元素の平均酸化数測定
遷移金属平均価数は、鉄、マンガン及びニッケルが塩酸溶液中で2価の陽イオンとなることを利用した酸化還元滴定法により求めた。
【0072】
まず、50ml三角フラスコにヨウ化カリウム1gを入れ、次いで正極活物質粉末0.2
gを投入し10mlの6M塩酸と蒸留水10mlを加え溶解した。これにより、2価以上の鉄、マンガン及びニッケルはヨウ素イオンから電子を奪う酸化還元反応によりヨウ素を生成し2価の陽イオンとなる。
【0073】
この反応で生成したヨウ素量を、チオ硫酸塩を用いる酸化還元滴定法で測定することにより、鉄、マンガン及びニッケルがヨウ素イオンから奪った電子数を測定した。溶液状態では鉄、マンガン、及びニッケルは2価となることから、各正極活物質粉末に含まれる鉄、マンガン及びニッケル量から、モル数計算により、鉄、マンガン及びニッケルの平均酸化数を求めた。
(v)充放電特性評価
実施例1で得られた粉末状生成物を正極活物質として、リチウムイオン二次電池(TOMセル)を作製し、以下の電池構成及び充放電条件で充放電試験を行った。
<電池構成及び充放電試験条件>
正極:実施例1で得られた粉末状生成物を正極活物質とし、導電材(アセチレンブラック(AB)と結着材(ポリフッ化ビニリデン(PVDF))を、活物質:AB:PVDF(重量比)=85:10:5で混合したものをN−メチル-−2−ピロリドン(NMP)中に分散してスラリーとした。次に、このスラリーを厚さ20μmのアルミ板に塗布後、スラリーを乾燥させて、アルミ板表面に正極活物質層を形成させた。次に、正極活物質層を形成させたアルミ板を100MPaの圧力で加圧成形して、合計の厚さ80μmのシート状の成形物とした。このシート状成形物をφ18mmに打ち抜いて正極板を得た。
負極:金属リチウム
電解液:LiPF6を1.0mol/Lでエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒中に溶解させたもの
試験温度:25 ℃
電流密度(極板あたり):0.21mA、
電位範囲:2.0-4.8 V (vs. Li)
評価セル:図3に示すTOMセル(日本トムセル製)。
【0074】
実施例2〜6
硫酸鉄(II)7水和物、硫酸マンガン(II)5水和物および硫酸ニッケル(II)6水和物の割合を変更した以外は、実施例1と同様にして粉末状生成物を得た。
【0075】
得られた粉末状生成物の結晶構造について実施例1と同様にして確認した結果、いずれも単斜晶層状岩塩型結晶相のみであることが確認できた。
【0076】
更に、該生成物について、実施例1と同様にして、組成分析、比表面積測定、自発磁化測定、遷移金属元素の平均酸化数測定、及び充放電特性評価を行った。結果を下記表1及び表2に示す。
【0077】
実施例7
原料として、硝酸鉄(III)・九水和物、塩化マンガン(II)・四水和物、及び塩化ニッケル(II)・六水和物 (鉄:マンガン:ニッケル(金属成分モル比)=2:6:2)を用いる以外は、実施例1と同様にして粉末状生成物を得た。
【0078】
得られた粉末状生成物の結晶構造について実施例1と同様にして確認した結果、単斜晶層状岩塩型結晶相のみであることが確認できた。
【0079】
更に、該生成物について、実施例1と同様にして、組成分析、比表面積測定、自発磁化測定、遷移金属元素の平均酸化数測定、及び充放電特性評価を行った。結果を下記表2に示す。
【0080】
実施例8
Fe-Mn-Ni複合水酸化物を含むスラリー溶液に空気を吹き込む操作に変えて、酸素を吹き込み、これ以外は、実施例1と同様にして粉末状生成物を得た。
【0081】
得られた粉末状生成物の結晶構造について実施例1と同様にして確認した結果、単斜晶層状岩塩型結晶相のみであることが確認できた。
【0082】
更に、該生成物について、実施例1と同様にして、組成分析、比表面積測定、自発磁化測定、遷移金属元素の平均酸化数測定、及び充放電特性評価を行った。結果を下記表2に示す。
【0083】
実施例9
Fe-Mn-Ni複合水酸化物を含むスラリー溶液に空気を吹き込む操作に変えて、該スラリー溶液に9wt%H2O2溶液を2ml/minの流速で120ml滴下した。
添加し、これ以外は、実施例1と同様にして粉末状生成物を得た。
【0084】
得られた粉末状生成物の結晶構造について実施例1と同様にして確認した結果、単斜晶層状岩塩型結晶相のみであることが確認できた。
【0085】
更に、該生成物について、実施例1と同様にして、組成分析、比表面積測定、自発磁化測定、遷移金属元素の平均酸化数測定、及び充放電特性評価を行った。結果を下記表2に示す。
【0086】
比較例1〜3
硫酸鉄(II)7水和物、硫酸マンガン(II)5水和物および硫酸ニッケル(II)6水和物の割合を変更した以外は、実施例1と同様にして粉末状生成物を得た。
【0087】
得られた粉末状生成物の結晶構造について実施例1と同様にして確認した結果、いずれも単斜晶層状岩塩型結晶相のみであることが確認できた。
【0088】
更に、該生成物について、実施例1と同様にして、組成分析、比表面積測定、自発磁化測定、遷移金属元素の平均酸化数測定、及び充放電特性評価を行った。結果を下記表3に示す。
【0089】
比較例4
Fe-Mn-Ni複合水酸化物を含むスラリー溶液に空気を吹き込むことなく、これ以外は実施例1と同様にして粉末状生成物を得た。
【0090】
得られた粉末状生成物の結晶構造について実施例1と同様にして確認した結果、単斜晶層状岩塩型結晶相のみであることが確認できた。
【0091】
更に、該生成物について、実施例1と同様にして、組成分析、比表面積測定、自発磁化測定、遷移金属元素の平均酸化数測定、及び充放電特性評価を行った。結果を下記表3に示す。
【0092】
比較例5
湿式酸化処理後の粉末を空気流中で焼成する工程を省略する以外は、実施例1と同様にして粉末状生成物を得た。
【0093】
得られた粉末状生成物について、粉末X線回折測定を行った。その結果、Li2MO3以外に、LiFeO2ピークが確認され、相分離していると考えられた。
【0094】
更に、該生成物について、実施例1と同様にして、組成分析、比表面積測定、自発磁化測定、遷移金属元素の平均酸化数測定、及び充放電特性評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0095】
比較例6
窒素気流中750℃で20時間焼成することに変えて、空気気流中で750℃で20時間焼し、これ以外は、実施例1と同様にして粉末状生成物を得た。
【0096】
得られた粉末状生成物に結晶構造について実施例1と同様にして確認した結果、単斜晶層状岩塩型結晶相のみであることが確認できた。
【0097】
更に、該生成物について、実施例1と同様にして、組成分析、比表面積測定、自発磁化測定、遷移金属元素の平均酸化数測定、及び充放電特性評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
以上の結果から明らかなように、実施例1〜9の方法で得られた粉末状生成物は、いずれも、遷移金属元素の平均価数が、3.4〜3.6の範囲内にあり、この範囲外にある比較例1〜6の粉末状生成物と比較して、初期放電容量が高い値であり、優れた充放電特性を有するものであった。
【0102】
更に、実施例1〜9の方法によれば、比表面積が大きく、単斜晶層状岩塩型結晶相単相からなる自発磁化が低い複合酸化物が得られることが確認できた。
図1
図2
図3