(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6128315
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】ナノ微多孔膜、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/12 20060101AFI20170508BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20170508BHJP
B32B 5/32 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
B01D69/12
B01D71/34
B32B5/32
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-107401(P2013-107401)
(22)【出願日】2013年5月21日
(65)【公開番号】特開2014-226602(P2014-226602A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100097320
【弁理士】
【氏名又は名称】宮川 貞二
(74)【代理人】
【識別番号】100155192
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 美代子
(74)【代理人】
【識別番号】100100398
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 茂夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131820
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】山口 修
(72)【発明者】
【氏名】一ノ瀬 泉
【審査官】
中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/173031(WO,A1)
【文献】
特開昭61−111102(JP,A)
【文献】
特開平10−298201(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/016274(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/016478(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00−41/04
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
B32B 1/00−43/00
D01F 1/00− 6/96
D01F 9/00− 9/04
D21B 1/00− 1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00− 9/00
D21H 1/00−27/42
D21J 1/00− 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径1ナノメートル〜100ナノメートルの、高分子のナノ粒子と;
粒径0.2〜2マイクロメートルの、前記高分子の微小フレークとを備え;
前記高分子が、ポリフッ化ビニリデンであり、
前記ナノ粒子が連結したナノ粒子状ファイバーと前記微小フレークとが混合して連結した高分子析出物を形成し、厚さ50ナノメートル〜1000ナノメートルに積層されている、
ナノ微多孔膜。
【請求項2】
前記ナノ粒子が、粒径10ナノメートル〜50ナノメートルである、
請求項1に記載のナノ微多孔膜。
【請求項3】
孔径50〜1000ナノメートルの多孔基材をさらに備え;
前記ナノ微多孔膜が、前記多孔基材上に積層されている、
請求項1または請求項2に記載のナノ微多孔膜。
【請求項4】
高分子を良溶媒に溶解して、高分子溶液を調製する工程と;
ナノ粒子状ファイバーを得るための貧溶媒と微小フレークを得るための貧溶媒の少なくとも2種の貧溶媒を準備する工程と;
準備した前記貧溶媒を混合して、混合貧溶媒を調製する工程と;
前記高分子溶液を前記混合貧溶媒中に添加し、これを攪拌し、高分子析出物分散液を調製する工程と;
前記高分子析出物分散液を用いてナノ微多孔膜を形成する工程とを備え;
前記混合貧溶媒を調製する工程は、所望のナノ微多孔膜の粒子阻止率が得られるように、前記貧溶媒の混合比率を調整する工程を有し;
前記高分子が、ポリフッ化ビニリデンである、
ナノ微多孔膜の製造方法。
【請求項5】
前記少なくとも2種の貧溶媒が、水、エタノール、プロパノール、ブタノール、メタノールから選ばれた、
請求項4に記載のナノ微多孔膜の製造方法。
【請求項6】
前記高分子溶液中の高分子の濃度を、0.05mg/mL〜5mg/mLの範囲にする、
請求項4または請求項5に記載のナノ微多孔膜の製造方法。
【請求項7】
前記高分子析出物分散液中の高分子の濃度を、0.002mg/mL〜0.2mg/mLの範囲にする、
請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載のナノ微多孔膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1種類の高分子、または高分子と少量の添加物を用いて形成された、ナノ粒子と微小フレークとが連結され、積層されている、ナノ微多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
濾過膜は、材料組成の面から大きく有機膜と無機膜とに分けることができる。有機膜は一般に高分子で作られるため、耐薬品性に優れ、加工しやすく、曲げた場合に破壊しにくいなどの特性を有している。有機膜に使われることが多い高分子材料としては、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレンなどがある。中でも、ポリフッ化ビニリデンは適度な強度と耐薬品性を併せ持ち、とりわけ殺菌成分として多用される次亜塩素酸ナトリウムに対して劣化しにくいという利点を持っている。
【0003】
一方、濾過膜の一つである限外濾過膜は、細孔径が2〜100ナノメートルの範囲となる濾過膜である。一般に限外濾過膜は、繊維や粒子を固めたり、材料を発泡させたり、あるいは相分離を利用したりすることで開孔する。材料となる繊維の径や粒子の径などを小さくするのに限界があるため、その細孔径は50ナノメートルよりも大きなものとなる場合がほとんどであった。以前にはこの程度の孔径でも十分に微細とされていたが、半導体の線幅が小さくなったためにその洗浄用水から数ナノメートル未満の小さな粒子を捕集する要望や、飲料水からナノサイズの微粒子を除去する要望など、従来の限外濾過膜では目的の異物を除去するのが難しい場合が増えている。限外濾過膜よりも高精度の膜である、逆浸透膜やナノ濾過膜といった濾過膜は、限外濾過膜では阻止できない粒子をほぼ完全に阻止することができるが、これらの膜の流束は、限外濾過膜と比較して著しく小さいために、限外濾過膜の用途に代用することは容易でない。
これらの用途に適した濾過膜は、粒径が数ナノメートル(例えば5ナノメートル)の粒子をある程度は阻止するが、完全には阻止しない性能を有する濾過膜である。また、この孔径の濾過膜に要求されるのは、単なる粒子阻止性能だけではなく、耐薬品性を持ち、濾液への溶出物が無く、且つ濾過速度に優れた濾過膜である。しかし、これらの性能を合わせ持つような性能を持つ膜は従来ほとんどなかった。特に、ポリフッ化ビニリデンのように適度な強度と耐薬品性を併せ持つ高分子を1種類だけ使い、粒径が5ナノメートル程度の粒子を適切な阻止率で阻止し、透過性能に優れた限外濾過膜は、見あたらなかった。
【0004】
一般に、飲料のようなものを濾過する場合、含まれている粒子全てを捕集してしまうと舌触りや風味が変わってしまうことがある。工業用原料液の場合も、粒子を適切な阻止率を持って捕集することで、不要な成分の通過を阻止し、必要な成分を極力通過させるという、いわゆる分級性が必要となる場合が多い。そして、濾過の目的に応じた適切な分級性能を持つ濾過膜を提供するためには、粒子阻止率を自由に調整できるような膜を製造する方法が必要となる。また、粒子阻止率が必要以上に高いと、流束が低下するため、この点でも、濾過の目的に応じた適切な粒子阻止率を持つ濾過膜が要望されている。とりわけ、産業上の用途から、粒径5ナノメートルの粒子の阻止率が0〜95%の間の適切な値に設定された濾過膜が要望されている。
【0005】
上記のような理由から、5ナノメートル程度の粒子を分離できるナノ微多孔膜は、現在も活発に研究されている。例えば米国特許出願公開第2012/0318741号明細書には、原料にある種のブロックコポリマーを用いることで、ポリマー自体が特殊な相分離構造を取り、ナノメートル級の多孔膜とする方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、このような性質を持つブロックコポリマーを合成すること自体が一般には困難であり、また、このような性質を持つブロックコポリマーでは濾過膜に要求される耐薬品性が不十分となる場合がある。これを防ぐために、耐薬品性に優れた高分子を使うことが考えられるが、特許文献1の方法では多孔膜の孔構造とポリマーの分子構造とが密接に結び付いているため、耐薬品性と、ポリマー自体が特殊な立体構造を取るという両方を併せ持つポリマーを得ることが難しく、このため耐薬品性が高いナノ微多孔膜を作ることが難しい。
【0006】
別の例として、国際公開第2012/173031号において一ノ瀬らは、ポリフッ化ビニリデンを使い、細孔サイズが10ナノメートル以下の濾過膜を作る方法を提案している。この方法は、材料にポリフッ化ビニリデンを用いているため、耐薬品性には問題が無い。原料のポリマーにポリフッ化ビニリデンだけを用いた場合、直径5ナノメートルの金ナノ粒子を90〜91%阻止し、10ナノメートル金ナノ粒子を99〜100%阻止するという非常に安定した性能となる。同文献の中には、原料のポリフッ化ビニリデンにポリビニルフェノールを混合しておき、製膜後にエタノールでポリビニルフェノールだけを除去することで、直径40ナノメートルの金ナノ粒子を98.2%捕集し、直径20ナノメートルの金ナノ粒子の阻止率が9.8%であるような孔の大きな濾過膜の製造方法も提案されている。しかしながらこの製法は、濾過膜の製造後にポリビニルフェノールを完全に抽出しなければならないという、煩雑なものであった。このように、現時点では、5nm程度の粒子の阻止率が適切な値に設定され、かつ透過性能に優れた限外濾過膜が見あたらず、その簡便な製造方法を新たに開発する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/0318741号明細書
【特許文献2】国際公開第2012/173031号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、1種類の高分子、または高分子と少量の添加物を用い、粒径(直径)5ナノメートルの金ナノ粒子の阻止率を5〜95%の間の任意の値に設定したナノ微多孔膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、試行錯誤しながら実験を繰り返した結果、高分子溶液を貧溶媒と急速に混合して高分子を析出させる際、貧溶媒として少なくとも2種類の溶媒から成る混合貧溶媒を用いると、高分子のナノ粒子の繊維状物(ナノ粒子状ファイバー)と、高分子の微小フレークとが連結された高分子析出物を混合貧溶媒中で生成できることを見出し、さらに混合貧溶媒の混合比率を変更すると、同一の大きさの粒子に対するナノ微多孔膜の粒子阻止率を段階的に変更できること、すなわち、ナノ微多孔膜において阻止率を制御している細孔のサイズを調整できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、以下の構成を有する。
本発明の第1の態様に係るナノ微多孔膜は、粒径1ナノメートル〜100ナノメートルの高分子のナノ粒子と;粒径0.2〜2マイクロメートルの高分子の微小フレークとを備え;前記ナノ粒子が連結したナノ粒子状ファイバーと前記微小フレークとが混合して連結した高分子析出物を形成し、厚さ50ナノメートル〜1000ナノメートルで積層した、ナノ微多孔膜である。「ナノ粒子状ファイバー」とは、複数の高分子のナノ粒子が連結したものである。また、混合貧溶媒中に生成した「高分子析出物」は、固体状の高分子析出物が混合貧溶媒から分離している状態ではなく、高分子析出物が混合貧溶媒中に分散している状態を指す。高分子析出物を構成するナノ粒子状ファイバーと微小フレークは、どちらも微小であるため、高分子析出物を含む混合貧溶媒は、透明または僅かに散乱を生じる液体となる。ナノ粒子およびフレークの「粒径」とは、電子顕微鏡等で観察できる高分子析出物の粒子状部分の直径を指す。ただし、粒子が球形で無い場合には、粒子の長径と短径の平均を指す。このように構成すると、粒径5ナノメートルの金ナノ粒子の阻止率を0〜95%の間の任意の値に設定したナノ微多孔膜を提供できる。
【0011】
本発明の第2の態様に係るナノ微多孔膜は、上記第1の態様に係るナノ微多孔膜を構成する高分子のナノ粒子が、粒径10ナノメートル〜50ナノメートルであるナノ微多孔膜である。
このように構成すると、粒径5ナノメートルの金ナノ粒子の阻止率が微細に調整されたナノ微多孔膜を提供できる。
【0012】
本発明の第3の態様に係るナノ微多孔膜は、上記第1の態様または第2の態様に係るナノ微多孔膜において、孔径50〜1000ナノメートルの多孔基材をさらに備え;前記ナノ微多孔膜が、前記多孔基材上に積層された、ナノ微多孔膜である。
このように構成すると、ナノ微多孔膜は、強度が向上し、また加工性も向上する。
【0013】
本発明の第4の態様に係るナノ微多孔膜は、上記第1の態様〜第3の態様のいずれかの様態に係るナノ微多孔膜を構成する高分子が、フルオロ基を有する高分子であるナノ微多孔膜である。
このように構成すると、ナノ微多孔膜は、耐薬品性が向上する。
【0014】
本発明の第5の態様に係るナノ微多孔膜は、上記第4の態様に係るナノ微多孔膜を構成する高分子が、ポリフッ化ビニリデンまたはフッ化ビニリデンを含む共重合体である、ナノ微多孔膜である。
このように構成すると、次亜塩素酸ナトリウムなどのラジカル性の薬品に対する耐薬品性を維持したまま、ナノ微多孔膜の耐熱性や接着性を幅広く制御することが可能になる。
【0015】
本発明の第6の態様に係るナノ微多孔膜の製造方法は、高分子を良溶媒に溶解して、高分子溶液を調製する工程と;ナノ粒子状ファイバーを得るための貧溶媒と微小フレークを得るための貧溶媒の少なくとも2種の貧溶媒を準備する工程と;準備した前記貧溶媒を混合して、混合貧溶媒を調製する工程と;前記高分子溶液を前記混合貧溶媒中に添加し、これを攪拌し、高分子析出物分散液を調製する工程と;前記高分子析出物分散液を用いてナノ微多孔膜を形成する工程とを備え;前記混合貧溶媒を調製する工程は、所望のナノ微多孔膜の粒子阻止率が得られるように、前記貧溶媒の混合比率を調整する工程を有する;ナノ微多孔膜の製造方法である。
このように構成すると、混合貧溶媒の組成を変更するだけで、ナノ微多孔膜の粒径5ナノメートルの金ナノ粒子に対する阻止率を、0〜95%の間の任意の値に設定することができる。
【0016】
本発明の第7の態様に係るナノ微多孔膜の製造方法は、上記第6の態様に係る前記高分子がフルオロ基を有する高分子である、ナノ微多孔膜の製造方法である。
このように構成すると、前記混合貧溶媒の組成の変化の影響を上げることができ、ナノ微多孔膜の粒径5ナノメートルの金ナノ粒子に対する阻止率を、0〜95%の間の任意の値に設定することがより容易となる。
【0017】
本発明の第8の態様に係るナノ微多孔膜の製造方法は、上記第7の態様に係る前記高分子がポリフッ化ビニリデンまたはフッ化ビニリデンを含む共重合体である、ナノ微多孔膜の製造方法である。
このように構成すると、前記混合貧溶媒の組成の変化の影響をさらに上げることができる。
【0018】
本発明の第9の態様に係るナノ微多孔膜の製造方法は、上記第6の態様〜第8の態様のいずれかの様態に係る前記少なくとも2種の貧溶媒が、水、エタノール、プロパノール、ブタノール、メタノールから選ばれた、ナノ微多孔膜の製造方法である。
このように構成すると、前記混合貧溶媒の組成の変化の影響をさらに上げることができる。
【0019】
本発明の第10の態様に係るナノ微多孔膜の製造方法は、上記第6の態様〜第9の態様のいずれかの様態に係る前記高分子溶液中の高分子の濃度を、0.05mg/mL〜5mg/mLの範囲にする、ナノ微多孔膜の製造方法である。
このように構成すると、ナノ微多孔膜の粒径5ナノメートルの金ナノ粒子に対する阻止率を、0〜95%の間の任意の値に設定することがより容易となる。
【0020】
本発明の第11の態様に係るナノ微多孔膜の製造方法は、上記第6の態様〜第10の態様のいずれかの様態に係る前記高分子析出物分散液中の高分子の濃度を、0.002mg/mL〜0.2mg/mLの範囲にする、ナノ微多孔膜の製造方法である。
このように構成すると、ナノ微多孔膜の粒径5ナノメートルの金ナノ粒子に対する阻止率を、0〜95%の間の任意の値に設定することがより容易となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のナノ微多孔膜は、1種類の高分子、または高分子と少量の添加物から形成され、粒径5ナノメートルの金ナノ粒子の阻止率が0〜95%である性質を有している。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】ナノ粒子状ファイバー2が貧溶媒3中で分散している様子の模式図である。
【
図2】ナノ粒子状ファイバー2を積層したナノ粒子状ファイバー層5の模式図である。
【
図3】微小フレーク6が貧溶媒3中で分散している様子の模式図である。
【
図4】微小フレーク6を積層した微小フレーク層7の模式図である。
【
図5】ナノ粒子状ファイバー2と微小フレーク6の中間的形状の高分子析出物8が混合貧溶媒3’中で分散している様子の模式図である。
【
図6】ナノ粒子状ファイバー2と微小フレーク6の中間的形状の高分子析出物8を積層したナノ微多孔膜9の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一または相当する部分には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。また、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
明細書中、1種類の高分子、あるいはこれと類する記載があるが、ここでいう1種類とは、特定の高分子で構成されることのみならず、組成の多くが本発明の効果を発現する特定の高分子で構成されている場合も含む。
【0024】
本発明の実施の形態である、1種類の高分子、または高分子と少量の添加物を用いた、粒径5ナノメートルの金ナノ粒子の阻止率を0〜95%の間の任意の値に設定したナノ微多孔膜について説明する。まず、本発明で用いる高分子、良溶媒、混合貧溶媒について説明する。
【0025】
本発明で用いる高分子は、水酸基、アミノ基またはフルオロ基の少なくとも一種の置換基を有するものが好ましい。例えば、ポリビニルフェノール(PVPh)、ポリアニリン(PANI)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びセルロースの群から選択される1種以上の高分子を用いることができる。該高分子は、水酸基、アミノ基またはフルオロ基の少なくとも一種の置換基を含むモノマーを含む共重合体であってもよい。この中でも、特に、ポリフッ化ビニリデンを使うことで、耐薬品性に優れたナノ微多孔膜とすることができる。
【0026】
該高分子について、2種類以上の高分子を混合したものでもよい。ただし、本発明のナノ微多孔膜の特徴は、1種類の高分子、または高分子と少量の添加物を用いて形成されるところにあるので、2種類以上の高分子を選ぶ際には、耐薬品性や加工性などに配慮して、本発明の効果を妨げないよう配慮が必要である。例えば、分子構造が異なる同種の高分子、あるいは平均分子量が異なる同種の高分子、あるいは分岐構造が異なる同種の高分子を用いて、ナノ微多孔膜の強度と微細構造のバランスを調整することができる。
【0027】
水酸基、アミノ基またはフルオロ基の代わりに、ピリジル基、カルボキシル基の官能基を用いてもよい。これらの官能基を用いる場合には、ナノ粒子状ファイバーの前駆体であるナノ粒子の粒子間静電反発を、pHを制御する方法等により抑制することにより、ナノ粒子同士を連結してナノ粒子状ファイバーを生成することが必要である。
【0028】
本発明で用いる良溶媒は、高分子を溶解させることができるとともに、後述の貧溶媒よりも高分子に対して溶解度の高い溶媒であって、貧溶媒への分散性が高いものに限られる。適切な良溶媒は、使用する高分子によって異なる。例えば、高分子にポリフッ化ビニリデンを使用する場合には、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の有機溶媒を挙げることができる。良溶媒の種類によっても、ナノ微多孔膜の構造を微調整することが可能であるが、その影響の程度は小さい場合が多い。
【0029】
本発明で用いる貧溶媒は、2種類以上の貧溶媒を含む混合物、つまり混合貧溶媒である。該混合貧溶媒の少なくとも一成分は、高分子溶液と混合したときに、高分子を分散性が高いナノ粒子状ファイバーにする性質を持つ貧溶媒である必要がある。また、混合貧溶媒の少なくとも一成分は、高分子溶液と混合したときに、高分子を微小フレークにする性質を持つ貧溶媒である必要がある。このような性質を持つ貧溶媒は必ずしも多くはなく、本発明においてはその選定が非常に重要である。該貧溶媒の選定に特に工夫しなければ、高分子溶液を貧溶媒に混ぜた場合、多くの場合、高分子は単にナノ粒子の状態で安定してしまうか、あるいは凝集して巨大粒子にまで成長してしまう。ナノ粒子の状態で安定してしまうと、後の工程で多孔基材上に積層しようとしても、多孔基材をすり抜けてしまって積層ができないか、あるいは多孔基材自体を目詰まりさせてしまい、通液性に優れた濾過膜とすることができない。また、巨大な粒子にまで成長してしまうと、後の工程で多孔基材上に積層した場合、巨大な粒子同士の接着が不十分で濾過膜としての強度が低下するか、あるいは空隙率が極端に低くなって濾過膜としては圧力損失が高くなりすぎてしまい、いずれにしても濾過膜としては不適切なものとなる。
【0030】
前述したように、該混合貧溶媒の少なくとも一種類は、高分子溶液と混合することで、ナノ粒子状ファイバーを析出させ、ナノ粒子状ファイバー分散液とする性質を持つ貧溶媒である。高分子溶液と、このような性質を持つ貧溶媒とを混合して作ったナノ粒子状ファイバー分散液の模式図を、
図1に示す。ナノ粒子状ファイバー2は、複数のナノ粒子1が連結されたものであり、貧溶媒中でゲル化や沈殿、バルクにおける相分離を生じず、透明な分散液を与える。ナノ粒子1の粒径は、1ナノメートル〜100ナノメートルであり、典型的には10ナノメートル〜30ナノメートルである。このナノ粒子状ファイバー2は、複数の分岐部で分岐されていてもよい。分岐部を有することにより、ナノ粒子状ファイバー2は、網目状の形態を有し、平面視10マイクロメートル程度の広がりをもつものが含まれる。しかしながら、本発明のナノ粒子状ファイバーは、必ずしも分岐構造が含まれる必要はない。このため、
図1では、分岐がないナノ粒子状ファイバーを模式的に描いている。
【0031】
ナノ粒子状ファイバー2は、貧溶媒3中での分散性が高く、貧溶媒3中で均質に分散する。このようなナノ粒子状ファイバー2が生じるかどうかは、高分子溶液と貧溶媒の組合せによる。高分子溶液と貧溶媒の組合せによっては、高分子溶液を貧溶媒中に急速に混合すると、貧溶媒中で高分子の高分子鎖の間に貧溶媒の分子が侵入し、各高分子を互いに絡み合わせるとともに、貧溶媒が疎水性相互作用により取り込まれた状態で、強固に凝集されたナノ粒子1を形成する。さらに、各ナノ粒子1の表面の高分子の間に取り込まれた貧溶媒3の分子は隣接する高分子の高分子鎖の間に空間を形成するとともに、隣接するナノ粒子1の表面の高分子をその空間内に引き込み、隣接するナノ粒子1の高分子同士を互いに絡み合わせることができ、ナノ粒子1を強固に連結して、力学的強度の高い1ナノメートルから100ナノメートルの太さのナノ粒子状ファイバー2が形成される。このとき、高分子溶液と貧溶媒の組合せによっては、ナノ粒子1が生成せず、あるいは生成してもナノ粒子の連結が起こらず、ナノ粒子状ファイバー2とならない場合がある。ナノ粒子状ファイバー2を生じさせるような貧溶媒は、高分子にポリフッ化ビニリデンを用い、良溶媒にN−メチル−2−ピロリドンを用いた場合には、水、エタノール等を用いることができる。また、貧溶媒には、アセトニトリルやアセトンなど、アルコールと同等の極性溶媒を用いることもできる。このナノ粒子状ファイバー2を、後の工程で多孔基材上に濾別して層を形成させた場合、粒径5ナノメートルの金ナノ粒子を73〜91%阻止するという、非常に微細な多孔膜となる。この粒子阻止率は、貧溶媒の種類でも変化し、特にエタノールを使った場合に高い阻止率となり、95%程度の阻止率を与える場合もある。このような非常に微細な多孔膜の模式図を
図2に示す。この場合、多孔基材4の上にナノ粒子状ファイバー2が積層し、ナノ粒子状ファイバー層5を形成している。
【0032】
本発明で用いる2種類以上の混合貧溶媒の内の少なくとも一種類は、高分子溶液と混合したときに、高分子を微小フレークにする性質のものが好ましい。微小フレーク分散液の模式図を
図3に示す。この模式図は、微小フレーク6が貧溶媒3中に分散した様子を示している。この微小フレークは、粒径が0.2〜2マイクロメートルの高分子の薄片であり、それも単なる平板状ではなく、適度な凹凸を持ったものが好ましく、これを多孔基材上に濾別してフレークの層を形成させた場合に、嵩高となるようなものが好ましい。このような性質を持つ貧溶媒は多くはないが、高分子にポリフッ化ビニリデンを用い、良溶媒にN−メチル−2−ピロリドンを用いた場合には、メタノール等を挙げることができる。
【0033】
本発明で用いる2種類以上の混合貧溶媒の組合せに、特にメタノールとエタノールの組合せを選ぶと、形成されるナノ粒子と微小フレークの粒径や形状が顕著に異なり、また多くの液体との相溶性に優れているため、組成を変えるだけで様々な粒子阻止率を持つナノ微多孔膜を作ることができ、好ましい組合せである。
この微小フレークを多孔基材上に濾別して層を形成させた場合、粒径5ナノメートルの金ナノ粒子を0〜5%阻止するという、比較的粗い多孔膜となる。この比較的粗い多孔膜の模式図を
図4に示す。微小フレークは多孔基材4の上で微小フレーク層7となっている。
【0034】
本発明では、高分子をナノ粒子状ファイバーとする性質の貧溶媒と、高分子を微小フレークとする性質の貧溶媒との少なくとも2種の貧溶媒を混合した、混合貧溶媒を用いる。高分子溶液を、このような混合貧溶媒3’と混合した後の状態の模式図を
図5に示す。少なくとも2種の貧溶媒を混合することで、高分子析出物8の形状を、ナノ粒子状ファイバー2と微小フレーク6とを含む、両者の中間的形状とすることができ、また、この混合比率を調整することで、その形状を連続的に調整することが可能となる。これを多孔基材上に濾別してナノ微多孔膜9を形成させた場合の模式図を
図6に示す。ナノ粒子1のナノ粒子状ファイバーは、微小フレーク6と相互に連結することで、膜としての強度を保っている。粒径5ナノメートルの金ナノ粒子の阻止率は、ナノ粒子状ファイバーだけを層にした場合と、微小フレークだけを層にした場合との中間的な値となる。すなわち、混合比率を調整することで、粒径5ナノメートルの金ナノ粒子の阻止率を5〜95%の間で自由に調整することができる。この混合貧溶媒に、本発明の効果を損なわない範囲で少量の添加物を混合してもよい。例えば、界面活性剤、高分子オリゴマーなどを混合すれば、本発明のナノ微多孔膜の親水性の制御や生体分子等の吸着性能の制御が可能となる。
【0035】
次に、これらの高分子、良溶媒、混合貧溶媒を用いて、ナノ微多孔膜を作る方法について説明する。
(1)高分子溶液を調製する工程
高分子を良溶媒に溶解し、高分子溶液を調製する工程である。高分子溶液中の高分子の濃度は、0.05mg/mL〜5mg/mLが好適に用いられる。この濃度が0.05mg/mL以上の場合、生成する析出物の量が不足せず好ましい。また、この濃度が5mg/mL以下の場合、後の工程で高分子を析出させた場合に、高分子がナノ粒子状ファイバーや微小フレーク、あるいはその中間的な形状とはならず、凝集して巨大な粒子となってしまうことがなく好ましい。
【0036】
(2)高分子溶液と混合貧溶媒とを混合して高分子を析出させる工程
該高分子溶液を混合貧溶媒と混合して、高分子を析出させる工程である。この工程で、高分子析出物の分散液が得られる。該混合貧溶媒の混合比率は、混合後の高分子の濃度が0.002mg/mLから0.2mg/mLの範囲となるように調整することが望ましい。この濃度が0.002mg/mL以上の場合、生成した高分子のナノ粒子が、ナノ粒子状ファイバーや微小フレークにまで成長せず、ナノ粒子のまま安定してしまうことがない。また、この濃度が0.2mg/mL以下の場合、高分子が凝集して巨大な粒子となってしまうことがない。
【0037】
該高分子溶液と混合貧溶媒とは、混合後、速やかに攪拌して混合物を均質化する必要がある。この均質化を速やかに行わないと、高分子溶液と混合貧溶媒との混合比率が局所的に前記の濃度範囲(混合後の高分子の濃度が0.002mg/mLから0.2mg/mLとなる範囲)を外れてしまう場合がある。混合比率が局所的に前記の濃度範囲を外れると、高分子析出物が、ナノ粒子状ファイバーや微小フレークにまで成長しないナノ粒子となったり、巨大な粒子として生成したりすることがある。この混合方法は特に限定されるものではないが、例えば激しく攪拌した状態の混合貧溶媒の中に、金属管などを使って高分子溶液を一気に噴出させ、そのまま攪拌を続ける方法などを挙げることができる。
【0038】
得られた高分子析出物の分散液に、本発明の効果を損なわない範囲で少量の添加物、例えば無機フィラーなどを混合してもよい。そのような成分としては、アルミナ粉体、ベーマイト粉体、カーボンナノチューブなどを挙げることができる。このような物質を混合することにより、ナノ微多孔膜の強度や耐熱性を向上させることができる場合がある。ただし、本発明の特徴は、単一または少ない種類の高分子のみでナノ微多孔膜を作ることができる点にあり、混合する物質の種類が多くなることで、耐薬品性を落としたり、濾液への抽出物が発生したりすることが無いように配慮する必要がある。
【0039】
(3)ナノ微多孔膜を形成する工程
工程(2)で得た分散液中の高分子析出物を、多孔基材上に濾別して、ナノ微多孔膜の層を形成させる工程である。ここで用いる多孔基材は特に限定されるものではないが、孔径50〜1000ナノメートルの微多孔膜を用いることができる。多孔基材の孔径が50ナノメートル以上であると、多孔基材自体の圧力損失が高くなり、最終的に得られるナノ微多孔膜の圧力損失が高くなることがない。また、孔径が1000ナノメートル以下であると、高分子析出物が多孔基材の孔を通過してしまったり、あるいは多孔基材の孔を目詰まりさせたりすることがない。また、この多孔基材は、表面が平滑であることが望ましい。多孔基材の表面の平滑性が低いと、ナノ微多孔膜の厚さが不均一になったり、あるいはナノ微多孔膜にピンホールなどが生じたりする場合がある。また、この多孔基材の材質は、本発明のナノ微多孔膜の用途を勘案して選定する必要がある。例えば次亜塩素酸ナトリウムを含む液を濾過する場合に次亜塩素酸ナトリウムに耐性がある材料を選ぶ、高温で使用する場合に耐熱性が高い材料を選ぶ、などである。一般には、ナノ微多孔膜と同じ材質の多孔基材が好ましい。例えばナノ微多孔膜にポリフッ化ビニリデンを用いる場合、ポリフッ化ビニリデン製エレクトロスピニング不織布、ポリフッ化ビニリデン製非溶媒相分離法多孔膜などを用いることが好ましい。もちろん、ナノ微多孔膜と別の材質の多孔基材を用いても差し支えなく、例えばナノ微多孔膜にポリフッ化ビニリデンを用いる場合、ポリテトラフルオロエチレン製延伸膜、ポリプロピレン製メルトブロー不織布などを用いることもできる。
【0040】
また、ナノ微多孔膜の厚さは、50ナノメートル〜1000ナノメートル、好ましくは100ナノメートル〜500ナノメートルにする。この層の厚さが50ナノメートル以上であると、欠陥の無いナノ微多孔膜を作るのが容易となる。また、この厚さが1000ナノメートル以下であると、圧力損失が高くなり通液性が低くなることがない。
【0041】
高分子析出物の分散液を多孔基材で濾過する場合の濾過方法としては、加圧濾過、吸引濾過などの方法を使うことができる。いずれの場合も、濾過圧力は0.05〜0.5メガパスカルの範囲が好ましい。この濾過圧力が0.05以上であると、ナノ微多孔膜の圧縮が不十分となることがない。また、濾過圧力が0.5メガパスカル以下であると、ナノ微多孔膜の圧縮が強すぎてナノ微多孔膜を濾過膜として使った場合の圧力損失が高くなることがない。形成された高分子析出物の層は、多孔基材から剥離して単独でナノ微多孔膜として用いてもよく、多孔基材ともに積層型のナノ微多孔膜として用いてもよい。
【0042】
本発明の実施の形態は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施の形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
実施例を用いて、本願発明のナノ微多孔膜の製造方法で製造したナノ微多孔膜の特性について説明する。
〔使用した部材等〕
エタノール(EtOH)、メタノール(MeOH)、1−プロパノール(1PrOH)、2−プロパノール(2PrOH)、1−ブタノール(1BuOH)、ターシャリーブタノール(tBuOH)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)は和光純薬工業(株)製の試薬特級をそのまま用いた。
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)にはアルドリッチ製ポリフッ化ビニリデン(GPCによる重量平均分子量18万)を用いた。
多孔基材としての多孔膜には、細孔径0.2マイクロメートルのポリフッ化ビニリデン製多孔膜を用いた。
水は、ミリポア製「DirectQ UV」(商品名)で製造した比抵抗値18MΩ・cm以上の超純水を用いた。
金ナノコロイド液は、BBInternational社製の金コロイドCRL EMGC5(直径5nm)を用いた。
【0044】
〔評価方法〕
実施例で得られたナノ微多孔膜の物性値は下記の方法にて測定した。
1.高分子の平均分子量
重量平均分子量は、高分子をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、カラムとしてShodex Asahipak KF−805Lを用いて、DMFを展開剤としてゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)法により測定し、ポリスチレン換算することにより求めた。
2.流束と粒子阻止率
得られたナノ微多孔膜を有効濾過面積2.1cm
2の減圧濾過装置にセットし、真空ポンプで吸引して(減圧0.08MPa)、5mLの金ナノコロイド液が通過する時間を測定した。流束を下記式(1)により求めた。
流束(L/m
2/h)=
通水量(L)÷有効濾過面積(m
2)÷時間(h) ・・・(1)
また、濾過前後の金ナノコロイド液の吸光度(波長520nm)を測定し、粒子阻止率を下記式(2)により求めた。
粒子阻止率(%)=
{1−(濾過後の液の吸光度)÷(濾過前の液の吸光度)}×100% ・・・(2)
【0045】
〔実施例、参考例1〜6〕
(PVDF溶液の調製工程)
PVDFを精秤し、そこにNMPを加え、攪拌し、高分子溶液として0.1wt%のPVDF溶液(原料液)を作製した。
(高分子溶液と混合貧溶媒とを混合して高分子を析出させる工程)
参考例においては、表1に示した量の貧溶媒1をビーカーに入れる。実施例においては、表2に示した量の貧溶媒1と貧溶媒2をビーカーに入れ、混合貧溶媒とする。そして、ビーカー中の貧溶媒を激しく攪拌し、攪拌した状態でその中にPVDF溶液2.5gを一気に加える。30秒攪拌して、高分子析出物の分散液を得る。得られた分散液は、肉眼でわずかに懸濁が認められるものであった。
(製膜工程)
有効濾過面積9.6cm
2の吸引濾過装置に、多孔基材をセットする。その上に、高分子析出物分散液を全量入れ、真空ポンプで吸引して(減圧0.08MPa)、多孔基材の上に高分子析出物を積層して、ナノ微多孔膜を得た。
【0046】
図7は、貧溶媒2にメタノールを使い、貧溶媒1:貧溶媒2の比を0:100として作った分散液中の高分子析出物を、孔径0.2ミクロンのポリカーボネート多孔膜上に濾別し、走査電子顕微鏡で観察した写真である。この例では、高分子析出物中に、粒径500ナノメートル程度のフレークが含まれている様子が観察できる。
一方、表1を見てわかるように、貧溶媒の種類を変更すると、流束を900から3870L/m
2/hまで、5ナノメートルの金ナノコロイド粒子阻止率を80%から4%にまで変化させることができる。このように、流束と、同一の大きさの粒子(5ナノメートルの金ナノコロイド)の粒子阻止率が段階的に変化しているのは、ナノ微多孔膜中の液体の流路が左から右に段階的に大きくなっているためである。
さらに、表2の実施例が示すように、混合貧溶媒の混合比を変えることで、流束を900から3870L/m
2/hまで、5ナノメートルの金ナノコロイド粒子阻止率を80%から4%にまで変化させることができる。これは、
図8のナノ微多孔膜の表面写真、
図9のナノ微多孔膜の断面写真を見て分かるように、微小フレークが混入することで、膜の微細構造が変化しているためである。混合貧溶媒の混合比は自由に変えられるものなので、本発明の方法を使えば、混合貧溶媒の混合比を変えるだけで、膜の性能を自由に調整することが可能である。
【表1】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のナノ微多孔膜は、容易に製造でき、工業用あるいはバイオ・環境分野の幅広い用途、例えば、限外濾過膜、精密濾過膜、高性能フィルター、リチウム電池用のセパレーター等として利用することができる。特に、PVDFは水処理膜としての幅広い用途があり、他の高分子にはない化学的安定性、耐溶媒性、低タンパク質吸着性等を有し、メンブレンバイオリアクター等の膜として広く応用が期待できる。また、本発明の製造方法は、2種類以上の貧溶媒を調整して製造された混合貧溶媒を用い、その混合比率を変更することにより、膜の粒子阻止率を段階的に変更することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 ナノ粒子
2 ナノ粒子状ファイバー
3 貧溶媒
3’ 混合貧溶媒
4 多孔基材
5 ナノ粒子状ファイバー層
6 微小フレーク
7 微小フレーク層
8 高分子析出物
9 ナノ微多孔膜