特許第6128422号(P6128422)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6128422セメント用硬化促進剤およびセメント組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6128422
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】セメント用硬化促進剤およびセメント組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/10 20060101AFI20170508BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20170508BHJP
   C04B 7/345 20060101ALI20170508BHJP
   C04B 103/10 20060101ALN20170508BHJP
【FI】
   C04B22/10
   C04B28/02
   C04B7/345
   C04B103:10
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-22280(P2013-22280)
(22)【出願日】2013年2月7日
(65)【公開番号】特開2014-152063(P2014-152063A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】大野 晃
(72)【発明者】
【氏名】松田 隆
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−075712(JP,A)
【文献】 特開2013−001990(JP,A)
【文献】 特開2005−022925(JP,A)
【文献】 特開2011−011961(JP,A)
【文献】 特開2010−229534(JP,A)
【文献】 特開2012−092004(JP,A)
【文献】 特開2013−023394(JP,A)
【文献】 Javed I. BHATTY,Role of Minor Elements in Cement Manufacture and Use,PCA Research and Development Bulletin RD109T,Portland Cement Association,1995年,ISBN: 0-89312-131-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを200ppm以上15000ppm以下含む炭酸リチウム粉末であって、使用済みリチウムイオン電池由来の高濃度リチウム溶液を原材料とした炭酸リチウム粉末が備えられているセメント用硬化促進剤。
【請求項2】
前記炭酸リチウム粉末の平均粒子径が5μm以上100μm以下である請求項1に記載のセメント用硬化促進剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセメント用硬化促進剤が含まれているセメント組成物。
【請求項4】
速硬性セメントが含まれている請求項3に記載のセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント用硬化促進剤およびこれを含むセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント組成物はセメント中の成分と水との水和反応によって硬化してコンクリートやモルタル等の硬化体となる。緊急工事や補修のために硬化体を施工する場合には、硬化する速度が速く、短時間で所望の強度が得られるセメント組成物が好ましい。硬化体の硬化速度を速くするためには、例えば、11CaO・7Al23・CaF2を主成分とするいわゆるジェットセメント、ポルトランドセメントとアルミナセメントと石膏の3成分から構成されるもの、アルミナセメント単体等の速硬性セメントを用いることが知られている。あるいは、硬化を促進するためにセメント組成物に硬化促進剤を添加することも行なわれている。
【0003】
セメント用の硬化促進剤として、従来から炭酸リチウムを用いることが検討されている。
例えば、特許文献1には、比表面積が1000から4000g/cm2に調整した炭酸リチウムを、カルシウムアルミネートを含むセメントに混合することが記載されている。
特許文献2には、平均粒子径10μm以下の炭酸リチウムをカルシウムアルミネートを含むセメントに混合することが記載されている。
前記特許文献1および2には、炭酸リチウムをセメント組成物に配合することで、セメント組成物の硬化を促進させることが記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1または2に記載の炭酸リチウムは、硬化促進効果が充分ではなく、少量では効果が得られないおそれがある。従って、充分な効果を得るためには比較的多くの炭酸リチウムをセメント組成物に配合する必要があり、コストが高くなるという問題がある。
また、炭酸リチウムの効果を高めるために、反応性が高めるべく炭酸リチウムを微細粒子になるまで粉砕することが考えられるが、微細粒子になるまで粉砕する作業は手間や時間がかかり、さらにコストが高くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−97051号公報
【特許文献2】特開2005−75712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題を鑑みて、コストを抑制しつつ硬化促進効果が得られるセメント用硬化促進剤およびセメント組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセメント用硬化促進剤は、ニッケルを200ppm以上15000ppm以下含む炭酸リチウム粉末であって、使用済みリチウムイオン電池由来の高濃度リチウム溶液を原材料とした炭酸リチウム粉末が備えられている。
【0008】
本発明によれば、ニッケルを200ppm以上15000ppm以下含む炭酸リチウム粉末が備えられていることにより、高い硬化促進効果が得られる。従って、使用量を減らしても硬化促進効果が得られ、それにより、コストを抑制することができる。
【0009】
本発明において、前記炭酸リチウム粉末の平均粒子径が5μm以上100μm以下であってもよい。
【0010】
前記炭酸リチウム粉末の平均粒子径が5μm以上100μm以下である場合には、より高い硬化促進効果が得られると同時に、炭酸リチウムを粉砕する場合にも適度な粉砕時間で足りるため、コストを低減することができる。
【0011】
尚、本発明における平均粒子径とは、レーザー回析・光散乱法で測定される平均粒子径をいう。具体的には、後述する方法で測定される平均粒子径である。
【0012】
本発明に係るセメント組成物は、セメント用硬化促進剤が含まれている。
【0013】
本発明において、速硬性セメントが含まれていてもよい。
【0014】
セメント用硬化促進剤が含まれているセメント組成物に、速硬性セメントが含まれていることによって、セメント組成物の硬化をより促進することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コストを抑制しつつ硬化促進効果が得られるセメント用硬化促進剤およびセメント組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明にかかるセメント用硬化促進剤およびセメント組成物について説明する。
まず、本実施形態のセメント用硬化促進剤について説明する。
【0017】
本実施形態のセメント用硬化促進剤には、ニッケルを200ppm以上15000ppm以下含む炭酸リチウム粉末が備えられている。
【0018】
本実施形態の炭酸リチウム粉末は、ニッケルを200ppm以上15000ppm以下、好ましくは1000ppm以上3000ppm以下程度含むものである。
前記範囲の量のニッケルを含むことにより、セメント組成物に混合した場合に、高い硬化促進作用が得られる。
【0019】
本実施形態の炭酸リチウム粉末は、使用済みリチウムイオン電池由来の高濃度リチウム溶液を原材料とした炭酸リチウム粉末である。
廃液等を利用することで高価なリチウムを含有する炭酸リチウムを低コストで得ることができる。
【0020】
本実施形態においてニッケルの含有量は、例えば、炭酸リチウム粉末を酸に溶解した試料を用いて、ICP発光分光分析装置等で測定することが挙げられる。
【0021】
本実施形態の炭酸リチウム粉末は、平均粒子径が5μm以上100μm以下、好ましくは8μm以上90μm以下であることが好ましい。
前記平均粒子径の範囲である炭酸リチウム粉末を得るには、例えば、炭酸リチウムの結晶をボールミル等の公知の粉砕装置などで粉砕することなどで得ることができる。
炭酸リチウム粉末の平均粒子径が前記範囲である場合には、高い硬化促進作用が得られると同時に、炭酸リチウムの結晶を粉砕する場合に、極めて長時間粉砕する必要がなく、硬化促進剤の製造コストを抑制することができる。
【0022】
本実施形態における平均粒子径とは、レーザー回析・光散乱法で測定される平均粒子径(メジアン径)をいい、例えば、レーザー回析式粒度分布測定装置(マイクロトラックSRA 799 5−10−30、Leeds&Northrup社製)で測定した平均値などが挙げられる。
【0023】
本実施形態のセメント用硬化促進剤には、前記炭酸リチウム粉末の他に、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が含まれていてもよい。
セメント用硬化促進剤に炭酸リチウム粉末以外のものを含む場合には、炭酸リチウム粉末は10質量以上90質量%以下程度含まれていることが好ましい。
【0024】
次に、前述のようなセメント硬化促進剤を含むセメント組成物について説明する。
本実施形態のセメント組成物は、セメントと前記セメント用硬化促進剤とを含む。
【0025】
本実施形態のセメント組成物に含まれるセメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント等のポルトランドセメント;白色ポルトランド等のポルトランドセメントの成分等を調整したもの;高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等の混合セメント;アルミナセメント、アーウィン系セメント等;低熱セメント、超速硬セメント等が挙げられる。また、これらのセメントは単独で、または任意の2種以上を混合したものであってもよい。
【0026】
本実施形態のセメント組成物に含まれるセメントとしては、前記各種セメントの中から選択される速硬性のあるセメント(速硬性セメント)が、硬化速度が速いため好ましい。また、速硬性セメントを含むセメント組成物において、本実施形態のセメント用硬化促進剤を用いた場合には、硬化促進効果をより高めることができる。
前記速硬性セメントとしては、例えば、ポルトランドセメントと急硬材とを含有するセメント、アルミナセメント、超速硬セメントからなる群から選ばれる少なくとも1種のセメントであることが好ましい。
【0027】
尚、本実施形態において「速硬性セメント」とは、例えば、水/粉体質量比が22%である水との混練物の「セメントの物理試験方法(JIS R 5201)」に従って測定される凝結の終結時間が1〜60分であるセメントが挙げられる。
【0028】
超速硬セメントとしては、カルシウムアルミネートを含有するものが特に好ましい。
前記カルシウムアルミネートとは、C117・CaX2、C3A、CA、C2AS、C33・CaSO4、C127、C6AF2、C4AF(式中CはCaO、AはAl23、SはSi0、FはFe23、Xはハロゲン元素を表す。但し、CaSO4のSは硫黄を表す。)および非晶質カルシウムアルミネートからなる群より選ばれた1種を主成分とするものを言う。この、超速硬セメントとしては、例えば、「ジェットセメント(住友大阪セメント社製)」などが挙げられる。
【0029】
本実施形態のセメント組成物において、前記セメント用硬化促進剤は、前記セメント100質量部に対して、例えば、0.01質量%以上15質量%以下、好ましくは、0.1質量%以上10質量%以下含まれている。
前記セメント用硬化促進剤のセメントに対する配合量が前記範囲である場合には、硬化促進効果が得られるため好ましい。
【0030】
本実施形態のセメント組成物は、さらに、必要に応じて、骨材、各種混和材、各種混和剤等の他の成分がさらに含まれていてもよい。
【0031】
前記骨材としては、粗骨材、細骨材が挙げられる。
前記粗骨材としては、特に限定されるものではなく、砕石、川砂利、天然軽量粗骨材(パーライト、ヒル石等)、副産軽量粗骨材、人工軽量粗骨材、再生骨材等が挙げられる。
前記粗骨材の粒子径は、例えば、5〜40mm程度が好ましい。
前記細骨材としては、特に限定されるものではなく、例えば、川砂、山砂、海砂、天然軽量細骨材(パーライト、ヒル石等)等の天然細骨材や、砕砂、人工軽量細骨材、高炉スラグ細骨材等の人工細骨材、副産軽量細骨材等が挙げられる。
前記細骨材の粒子径は、0.15〜5mm程度が好ましい。
【0032】
前記混和材としては、例えば、フライアッシュ、シリカフューム、セメントキルンダスト、高炉フューム、高炉水砕スラグ微粉末、高炉除冷スラグ微粉末、転炉スラグ微粉末、ニ水石膏、半水石膏、無水石膏、膨張材、石灰石微粉末、生石灰微粉末、ドロマイト微粉末、ナトリウム型ベントナイト、カルシウム型ベントナイト、アタパルジャイト、セピオライト、活性白土、酸性白土、アロフェン、イモゴライト、シラス(火山灰)、シラスバルーン、カオリナイト、メタカオリン(焼成粘土)、合成ゼオライト、人造ゼオライト、人工ゼオライト、モルデナイト、クリノプチロライト等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0033】
前記混和剤としては、例えば、AE剤、減水剤、AE減水剤、流動化剤、分離低減剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、急結剤、収縮低減剤、起泡剤、発泡剤、防水剤等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上を使用することができる。
【0034】
本実施形態のセメント組成物は、水が配合されていてもよい。水の配合量としては、グラウト材として用いる場合には、例えば、水セメント比が20質量%以上100質量%以下程度であることが好ましく、モルタルとして用いる場合には、水セメント比が25質量%以上70質量%以下程度であることが好ましく、コンクリートとして用いる場合には、水セメント比が30質量%以上65質量%以下程度であることが好しい。
【0035】
本実施形態のセメント用硬化促進剤は、高い硬化促進効果を発揮するため、セメント組成物に必要以上に多く配合しなくても硬化促進効果を得ることができる。よって、コストを抑制しつつ、セメント組成物の硬化を促進することができる。
【0036】
本実施形態のセメント組成物は、短時間で硬化させることができるため、例えば、緊急工事や補修工事などのように、短時間で硬化させることが必要なセメント硬化体用のセメント組成物として適している。特に、止水工事などのように極めて短時間で硬化させることが必要な場合に適している。
【0037】
尚、本実施形態にかかるセメント用硬化促進剤およびセメント組成物は以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を示して、本発明にかかるセメント用硬化促進剤およびセメント組成物についてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(セメント用硬化促進剤)
セメント用硬化促進剤として、以下の方法で調整したものを用いた。
まず、使用済みリチウムイオン電池を廃棄処理する際に発生する高濃度リチウム溶液から得られた炭酸リチウム粉末を回収し、回収バッチごとにニッケル含有量を測定した。
ニッケル含有量の測定は、炭酸リチウム粉末を10%硝酸水溶液に溶解したものを試料として、ICP発光分光分析装置(装置名:730−E、バリアンテクノロジーズジャパンリミテッド社製)を用いて、測定波長670.784nmで測定した。測定後、異なるニッケル含有量の回収バッチの炭酸リチウム粉末を表1に示す各濃度になるように混合して調整して、実施例1乃至11、比較例1及び2のセメント用硬化促進剤とした。各実施例及び比較例の平均粒子径を、レーザー回析式粒度分布測定装置(マイクロトラックSRA 799 5−10−30、Leeds&Northrup社製)で測定した。
結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
(グラウト材の調整)
各実施例または比較例の硬化促進剤を用いてグラウト材を調整した。
グラウト材は、超速硬グラウト材(製品名:フィルコンSスーパー、住友大阪セメント社製)2000g、水380g、硬化促進剤24g(硬化促進剤は超速硬グラウト材に対して1.2質量%)をハンドミキサーで2分間練り混ぜることで調整した。
【0042】
(グラウト材の硬化時間の測定)
各実施例、比較例の硬化促進剤を用いたグラウト材を、JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に記載の方法に準じて始発、終結時間を測定した結果を表1に示す。
【0043】
(グラウト材の圧縮強度(1hr)の測定)
各実施例、比較例の硬化促進剤を用いたグラウト材を、JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に記載の方法に準じて材齢1時間における圧縮強度を測定した結果を表1に示す。
【0044】
(モルタルの調整)
各実施例または比較例の硬化促進剤を用いてモルタルを調整した。
モルタルの配合は、超速硬セメント(製品名:マイルドジェットスーパー、住友大阪セメント社製)1000g、細骨材(硅砂6号)1200g、水360g、硬化促進剤2g、コンクリート用減水剤(製品名マイティ150、花王社製)20g、凝結遅延剤(製品名ジェットセッター、住友大阪セメント社製)2g(水セメント比は1.2、凝結遅延剤はセメントに対して0.2質量%)である。
【0045】
前記モルタル材料のうち、コンクリート用減水剤および凝結遅延剤を水に溶解させた液体混合材料を準備した。この液体混合材料にセメント及び硬化促進剤を投入してホバートミキサー(装置名KC−8ホバートミキサー、関西機器製作所社製)を用いて30秒混合し、その後細骨材を投入して60秒混練し、20秒で掻き落として、さらに120秒混練した。
【0046】
(モルタルの硬化時間の測定)
各実施例、比較例の硬化促進剤を用いたグラウト材を、JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に記載の方法に準じて始発、終結時間を測定した結果を表1に示す。
【0047】
(モルタルの圧縮強度(3hr)の測定)
各実施例、比較例の硬化促進剤を用いたモルタルを、JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)に記載の方法に準じて、直径5cm高さ10cmの円柱の型枠にモルタルを打設して、材齢3時間における圧縮強度を測定した結果を表1に示す。
【0048】
表1に示すように、各実施例は、各比較例よりも、硬化時間(特に、始発時間)が早く、圧縮強度も高いことが明らかである。