(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6128655
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】広帯域波長可変レーザ
(51)【国際特許分類】
H01S 5/14 20060101AFI20170508BHJP
【FI】
H01S5/14
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-143322(P2014-143322)
(22)【出願日】2014年7月11日
(65)【公開番号】特開2016-18983(P2016-18983A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2016年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 光映
(72)【発明者】
【氏名】石井 啓之
(72)【発明者】
【氏名】中沢 正隆
(72)【発明者】
【氏名】葛西 恵介
【審査官】
佐藤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−204895(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0069722(US,A1)
【文献】
特開2004−071694(JP,A)
【文献】
特開2011−044581(JP,A)
【文献】
特開2014−092725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
H01S 3/00−3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々異なる波長で単一周波数発振可能な複数のDFBレーザ共振器と、
前記複数のDFBレーザ共振器の各々にそれぞれ結合された複数の接続光導波路と、
前記複数の接続光導波路が結合され、前記DFBレーザ共振器から発振されて接続光導波路を伝搬したレーザ光を合波する光合波回路と、
前記光合波回路により合波されたレーザ光の一部を前記複数のDFBレーザ共振器に帰還させる光帰還回路と、
を備えたことを特徴とする波長可変半導体レーザ。
【請求項2】
前記光合波回路により合波されたレーザ光を増幅する半導体光増幅器を、前記光合波回路と前記光帰還回路との間に設けたことを特徴とする請求項1に記載の波長可変半導体レーザ。
【請求項3】
前記光帰還回路は、光サーキュレータと光分岐カプラとからなるリング型光帰還器を含み、前記光サーキュレータは、第1のポートに入射された前記合波されたレーザ光を第2のポートから前記光分岐カプラに出射し、第3のポートに入射された前記光分岐カプラで分岐され前記合波されたレーザ光の一部を前記第1のポートから出射することを特徴とする請求項1又は2に記載の波長可変半導体レーザ。
【請求項4】
前記光帰還回路は、帰還させる前記合波されたレーザ光の一部の強度を、前記複数のDFBレーザ共振器の各々の出力強度に対して−3dBmとすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の波長可変半導体レーザ。
【請求項5】
前記合波されたレーザ光を平行光線にする第1のレンズと、
平行光線とした前記合波されたレーザ光を集光して前記光帰還回路に結合させる第2のレンズと、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の波長可変半導体レーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレント光伝送システムにおいて用いられ、狭線幅特性を有する広帯域波長可変レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットの急速なブロードバンド化に伴う情報量の急増に対応するため、近年の光通信では、多値変調されたデータ信号を高密度に波長多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)して伝送する周波数利用効率の高い多値コヒーレント伝送方式に高い関心が寄せられている。このような伝送システムにおいては狭線幅特性を有し、発振波長を所望の波長に容易に可変できる波長可変光源が非常に有用である。これまでこのような伝送に用いる光源として、DFB(Distributed Feedback)半導体レーザアレイによる波長可変レーザが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
図1に、従来のDFB半導体レーザアレイを用いた波長可変レーザの構造例を示す。12個のDFB半導体レーザ1a〜1l、S字型接続導波路2a〜2l、光合波器3、出力導波路4、半導体光増幅器5がInP基板上に集積された構造をしている。12個のDFB半導体レーザ1a〜1lは個別に電極を有しており、それぞれ独立に動作する。
【0004】
各DFB半導体レーザはそれぞれ活性層上に回折格子を有し、この回折格子の周期をDFB半導体レーザごとに少しずつ変化させて形成しており、3nmずつ異なる波長で発振するように設計されている。また、DFB半導体レーザの発振波長は素子温度の変化1℃あたり約0.1nm変化するため、素子温度を30℃変化させることにより各DFB半導体レーザの発振波長は約3nm変化する。
【0005】
したがって、12個のDFB半導体レーザ1a〜1lを集積した本波長可変レーザは、12個のレーザから1つを選択して動作させ、素子温度を個別に制御することにより、36nm以上の広帯域な波長可変特性を実現することができる。
【0006】
12個DFB半導体レーザ1a〜1lうちいずれか1つから出力された信号は、S字型接続導波路2a〜2lを通して光合波器3に入射する。光合波器3では入力光ポート数12に対して出力ポート数は1つであるため、出力導波路4に出力される光信号の強度は1/12に減少する。この減少した光強度を半導体光増幅器5により補償している。
【0007】
DFB半導体レーザをアレイ構造とした本波長可変レーザは、原理的にモードの不連続な変化(モードホップ)がなく波長可変の原理もレーザの選択と温度調整のみであるため、安定性、信頼性、制御性に優れているという利点がある。また、半導体チップ上に集積化されたデバイスであるため、量産性にも優れているという利点も併せ持っている。
【0008】
高密度WDM光伝送システムにおいて周波数利用効率のさらなる拡大を図るためには、信号の多値度をより大きくし、多値度の大きなデータ信号を正確に復調するため、光源をさらに狭線幅化することが不可欠である。
【0009】
DFB半導体レーザは、長共振器化することで通常数MHzある発振線幅を100kHz〜1MHz程度まで狭線幅化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011−44581号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】H. Ishii, K. Kasaya, and H. Oohashi, “Spectral linewidth reduction in widely wavelength tunable DFB laser array,” IEEE J. Select. Topic. Quant. Elec., vol. 15, no. 3, pp. 514-520, June 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、一般的なDFB構造の半導体レーザのレーザ共振器では、長共振器化だけでは発振線幅を100kHzからさらに狭くすることが原理的に困難であるという課題がある。
【0013】
空間光変調器と半導体光増幅器とを空間的に結合した外部共振器型レーザでは、共振器長を長くすることで容易に波長選択性を高めることが可能であり、100kHz以下の発振線幅も容易に得ることができる。しかし、空間光変調器は構成が複雑で組み立てが難しく、高価になるという課題がある。
【0014】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、DFB半導体レーザアレイを用いた狭線幅特性を有する広帯域波長可変レーザを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明は、波長可変半導体レーザであって、各々異なる波長で単一周波数発振可能な複数のDFBレーザ共振器と、前記複数のDFBレーザ共振器の各々にそれぞれ結合された複数の接続光導波路と、前記複数の接続光導波路が結合され、前記DFBレーザ共振器から発振されて接続光導波路を伝搬したレーザ光を合波する光合波回路と、前記光合波回路により合波されたレーザ光の一部を前記複数のDFBレーザ共振器に帰還させる光帰還回路と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の波長可変半導体レーザにおいて、前記光合波回路により合波されたレーザ光を増幅する半導体光増幅器を、前記光合波回路と前記光帰還回路との間に設けたことを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の波長可変半導体レーザにおいて、前記光帰還回路は、光サーキュレータと光分岐カプラとからなるリング型光帰還器を含み、前記光サーキュレータは、第1のポートに入射された前記合波されたレーザ光を第2のポートから前記光分岐カプラに出射し、第3のポートに入射された前記光分岐カプラで分岐され前記合波されたレーザ光の一部を前記第1のポートから出射することを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の波長可変半導体レーザにおいて、前記光帰還回路は、帰還させる前記合波されたレーザ光の一部の強度を、前記複数のDFBレーザ共振器の各々の出力強度に対して−3dBmとすることを特徴とする。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の波長可変半導体レーザにおいて、前記合波されたレーザ光を平行光線にする第1のレンズと、
平行光線とした前記合波されたレーザ光を集光して前記光帰還回路に結合させる第2のレンズと、をさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、従来のDFB半導体レーザアレイに光帰還回路を付加するだけで、従来よりも発振線幅の狭い、DFB半導体レーザアレイを用いた広帯域波長可変レーザを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】従来の波長可変レーザの構造を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る波長可変レーザの構成例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る光ファイバ型サーキュレータと光ファイバ型分岐カプラを含む光帰還回路を用いた波長可変レーザの構成例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る波長可変レーザの出力光の光スペクトルを示す図である。
【
図5】(a)は、DFB半導体レーザ12aの波長可変レーザ出力信号の自己遅延ヘテロダインスペクトルを対数表示した図であり、(b)は、DFB半導体レーザ12aの波長可変レーザ出力信号の自己遅延ヘテロダインスペクトルをリニアスケール表示した図である。
【
図6】(a)は、DFB半導体レーザ12bの波長可変レーザ出力信号の自己遅延ヘテロダインスペクトルを対数表示した図であり、(b)は、DFB半導体レーザ12bの波長可変レーザ出力信号の自己遅延ヘテロダインスペクトルをリニアスケール表示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図2に、本発明の一実施形態に係る波長可変レーザの構成例を示す。本波長可変レーザは、単一周波数発振可能な12台のDFB半導体レーザ6a〜6l、S字型接続導波路7a〜7l、光合波器8、出力導波路9、半導体光増幅器10、光帰還回路11から構成される。
【0023】
12個のDFB半導体レーザ6a〜6lは個別に電極を有しており、それぞれ独立に動作する。各DFB半導体レーザはそれぞれ活性層上に回折格子を有し、この回折格子の周期をDFB半導体レーザごとに少しずつ変化させて形成しており、3nmずつ異なる波長で発振するように設計されている。また、DFB半導体レーザの発振波長は素子温度の変化1℃あたり約0.1nm変化するため、素子温度を30℃変化させることにより各DFB半導体レーザの発振波長は約3nm変化する。
【0024】
DFB半導体レーザ6a〜6lのいずれかからのレーザ出力光は、S字型接続導波路7a〜7lを介し光合波器8に入射される。光合波器8で合波したレーザ出力光は出力導波路9から出力される。光合波器8では入力ポート数が12に対し、出力ポート数が1つであるため、出力導波路9には光合波器8への入力光強度の1/12の強度の光が出力されている。
【0025】
出導波路9を伝搬したレーザ出力光は半導体光増幅器10へ入射され、所望の光強度に増幅されたのち、その一部が光帰還回路11を介してDFB半導体レーザ6a〜6lへ帰還される。
【0026】
レーザの発振線幅は、光共振器のQ値が大きいほどインコヒーレント光の除去効果が高まり狭窄化される。Q値は共振器長に比例して大きくなるため光帰還回路を外部に設けることで長共振器化し、DFBの位相と一致させて帰還させることで発振線幅が狭くなる。
【0027】
このように本発明は、増幅されたレーザ出力光の一部をDFB半導体レーザ6a〜6lへ帰還するという、従来の外部共振器型半導体レーザよりも簡易な構造により、共振器のQ値を増大し発振線幅を狭窄化することができる。
【0028】
また本発明では、1種類の光帰還回路を設けることにより、12台集積化されたDFB半導体レーザ6a〜6lのいずれを動作させても、又は、複数を同時に動作させても同様の線幅狭窄化が実現できる。つまり、発振線幅の一括した狭窄化が可能である。
【0029】
図3に、光ファイバ型サーキュレータと光ファイバ型分岐カプラを含む光帰還回路を用いた波長可変レーザの構成例を示す。
【0030】
本波長可変レーザは、単一周波数発振可能な12台のDFB半導体レーザ12a〜12l、S字型接続導波路13a〜13l、光合波器14、出力導波路15、半導体光増幅器16、第1レンズ17、第2レンズ18、光ファイバ19、光ファイバ型サーキュレータ20、1入力2出力の光ファイバ型分岐カプラ21、光ファイバ型可変アッテネータ22から構成される。
【0031】
DFB半導体レーザ12a〜12lのいずれかからのレーザ出力光はS字型接続導波路13a〜13lを介し光合波器14に入射される。光合波器14で合波したレーザ出力光は出力導波路15から出力される。
【0032】
光合波器14では入力ポート数が12に対し、出力ポート数が1つであるため、出力導波路15には光合波器14への入力光強度の1/12の強度の光が出力される。出力導波路15を伝搬したレーザ出力光は半導体光増幅器16へ入射され、所望の光強度に増幅されたのち第1レンズ17、第2レンズ18を介して光ファイバ19へ結合される。
【0033】
光ファイバ型サーキュレータ20のポート2、ポート3はそれぞれ光ファイバ19の出力端、光ファイバ型分岐カプラ21の入力端に接続されている。光ファイバ19を伝搬してきたレーザ出力光は、光ファイバ型サーキュレータ20を介して光ファイバ型分岐カプラ21へ入射される。
【0034】
光ファイバ型サーキュレータ20のポート1は、光ファイバ型可変アッテネータ22を介して光ファイバ型分岐カプラ21の一方の出力端に接続されている。光ファイバ型分岐カプラ21に入射されたレーザ出力光の一部は、光ファイバ型サーキュレータ20を介してDFB半導体レーザ12a〜121へ帰還される。その際、光ファイバ型可変アッテネータ22により帰還光の強度を、レーザ出力光の強度に対して適切な強度、例えば、レーザ出力光の強度に対して−3dBm程度に調整する。尚、ここでは光ファイバ型可変アッテネータ22で帰還光の強度を調整しているが、光ファイバ型分岐カプラ21の分岐比を調整することで帰還光の強度を調整してもよい。
【0035】
尚、光ファイバ型分岐カプラ21のもう一方の出力端から出力されるレーザ出力光を出力信号として用いる。
【0036】
また、本実施形態においては、光帰還回路として光ファイバ型サーキュレータと光ファイバ型分岐カプラを含む回路を用いたが、ファイバブラッググレーティング、反射鏡、もしくは、光分波器の2つの出力間を接続して光を帰還させるループミラーを用いてもよい。
【0037】
また、本実施形態では、半導体光増幅器10、16を備えた構成を示したが、これらは発振線幅を狭窄化するために必須な構成ではない。本発明は、増幅無しで光を帰還させた場合でも線幅狭窄化効果を奏することができる。
【0038】
ここで、
図3に示す波長可変レーザを用いて、以下のような条件で行った線幅狭窄化実験について説明する。
【0039】
12台集積化されたDFB半導体レーザ12a〜12lのうち、2台(例えばここではDFB半導体レーザ12aと12bとする)を同時に発振させ、半導体光増幅器16によってそれぞれのレーザ出力光を10dBmまで増幅したのち光ファイバ型サーキュレータ20へ入射した。
【0040】
増幅されたレーザ出力光は光ファイバ型分岐カプラ21で分岐され、その一部は光ファイバ型可変アッテネータ22によって0dBm(各レーザ出力光の強度は、1波長での実験と同一の−3dBm)に減衰したのち、光ファイバ型サーキュレータ20を介してDFB半導体レーザ12aと12bへ同時に光帰還した。
【0041】
図4に、本発明の一実施形態に係る波長可変レーザの出力光の光スペクトルを示す。動作させた2台のDFB半導体レーザ12aと12bはそれぞれ、波長1538.6、1542.2nmで発振している。
【0042】
図5(a)、(b)に、DFB半導体レーザ12aの自己遅延ヘテロダインスペクトルの対数表示、リニア表示のスペクトル波形を示す。また、
図6(a)、(b)に、DFB半導体レーザ12aの自己遅延ヘテロダインスペクトルの対数表示、リニア表示のスペクトル波形を示す。図中の破線と実線は、それぞれ光帰還前後の同スペクトルを示している。光帰還を行うことにより、DFB半導体レーザ12aと12bの発振スペクトルはいずれも10kHz以下に狭窄化されている。
【符号の説明】
【0043】
1a〜1l DFB半導体レーザ
2a〜2l S字型接続導波路
3 光合波器
4 出力導波路
5 半導体光増幅器
6a〜6l DFB半導体レーザ
7a〜7l S字型接続導波路
8 光合波器
9 出力導波路
10 半導体光増幅器
11 光帰還回路
12a〜12l DFB半導体レーザ
13a〜13l S字型接続導波路
14 光合波器
15 出力導波路
16 半導体光増幅器
17 第1レンズ
18 第2レンズ
19 光ファイバ
20 光ファイバ型サーキュレータ
21 光ファイバ型分岐カプラ
22 光ファイバ型可変アッテネータ