(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔接着剤組成物〕
本発明に係る接着剤組成物は、エラストマーを主成分としており、上記接着剤組成物を用いて形成した接着層の220℃における貯蔵弾性率(G’)が20,000Pa以上、および220℃における損失弾性率(G”)が20,000Pa以上の少なくとも一方を満たす。
【0015】
従来の接着剤組成物においては、高温領域で接着剤の熱流動が起こるため、熱工程時の保持方法、ウエハと支持体とを接着して形成される積層体の線膨張係数の差による応力によって積層体(ウエハ)の反りが発生していた。
【0016】
一方、本発明に係る接着剤組成物においては、上記接着剤組成物を用いて形成した接着層の、220℃における貯蔵弾性率(G’)が20,000Pa以上、および、220℃における損失弾性率(G”)が20,000Pa以上の少なくとも一方を満たすため、加熱処理時における積層体の反りを抑制することができる。つまり、本発明に係る接着剤組成物を用いて形成した接着層は、加熱時に高い貯蔵弾性率(G’)または損失弾性率(G”)を有するため、接着層は熱流動が生じにくく、変形しにくい。よって、積層体の線膨張係数の差による応力の影響を低減し、積層体に生じる反りを抑制することができる。
【0017】
また、本発明に係る接着剤組成物を用いて形成した接着層においては、220℃における貯蔵弾性率(G’)が50,000Pa以上、および220℃における損失弾性率(G”)が50,000Pa以上の少なくとも一方を満たすことがより好ましい。
【0018】
なお、貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)の上限は特に限定されないが、220℃における貯蔵弾性率(G’)は1,000,000以下であり、ウエハと支持体との貼り付け性を考慮すると、500,000以下が好ましく、200,000以下が特に好ましい。また、220℃における損失弾性率(G”)は1,000,000以下であり、ウエハと支持体との貼り付け性を考慮すると、500,000以下が好ましく、200,000以下が特に好ましい。
【0019】
ここで、貯蔵弾性率および損失弾性率は、公知の動的粘弾性測定装置を用いて測定した、サンプル形状が厚さ1mmおよび直径φ25mm、並びに周波数10Hzのせん断条件において、温度範囲50〜250℃および速度5℃/分で昇温したときの貯蔵弾性率および損失弾性率を意味している。
【0020】
(エラストマー)
本発明に係る接着剤組成物に含まれるエラストマーは、接着剤組成物の主成分であり、当該接着剤組成物を用いて形成した接着層において、220℃における貯蔵弾性率(G’)が20,000Pa以上、および220℃における損失弾性率(G”)が20,000Pa以上の少なくとも一方を満たすものであればよい。
【0021】
エラストマーは、主鎖の構成単位としてスチレン基を含んでいることが好ましい。また、エラストマーは、主鎖の両末端がスチレン基であることがより好ましい。
【0022】
本明細書において「構成単位」とは、重合体であるエラストマーを構成する構造において、一分子の単量体に起因する構造を指す。
【0023】
本明細書において「スチレン単位」とは、スチレンまたはスチレン誘導体を重合した際に重合体に含まれる当該スチレン由来の構成単位であり、当該「スチレン単位」は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜5のアルコキシアルキル基、アセトキシ基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0024】
エラストマーのスチレン基含有量は、10重量%以上、65重量%以下であることが好ましく、20重量%以上、50重量%以下であることがより好ましい。これにより、本発明に係る接着剤組成物は、加熱処理時における積層体の反りをより好適に抑制することができる。
【0025】
また、エラストマーの質量平均分子量は、20,000以上、200,000以下であることが好ましく、50,000以上、150,000以下であることがより好ましい。これにより、本発明に係る接着剤組成物は、加熱処理時における積層体の反りをより好適に抑制することができる。
【0026】
また、エラストマーはブロック共重合体であることが好ましい。ブロック共重合体としては、例えば、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロックコポリマー(SEP)、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(SBS)、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SBBS)、エチレン−プロピレンターポリマー(EPT)、および、これらの水添物、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー)(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(SEEPS)、スチレンブロックが反応架橋型のスチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(SeptonV9461(株式会社クラレ製)、SeptonV9475(株式会社クラレ製))、スチレンブロックが反応架橋型のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(反応性のポリスチレン系ハードブロックを有する、SeptonV9827(株式会社クラレ製))、ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレンブロックコポリマー(SEEPS−OH:末端水酸基変性)等が挙げられる。エラストマーのスチレン基含有量および質量平均分子量は、上記の範囲であることが好ましい。
【0027】
また、ブロック共重合体は、ジブロック共重合体またはトリブロック共重合体であることが好ましく、トリブロック共重合体であることがより好ましい。さらに、ジブロック共重合体とトリブロック共重合体とを組み合わせて用いてもよい。本発明においては、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、またはこれらの組み合わせを含有する接着剤組成物を用いて形成した接着層の220℃における損失係数(tanσ)を、1.1以下の値にすることができる。
【0028】
ここで、損失係数は、公知の動的粘弾性測定装置を用いて測定した、サンプル形状が厚さ1mmおよび直径φ25mm、並びに周波数10Hzのせん断条件において、温度範囲50〜250℃および速度5℃/分で昇温したときの損失係数を意味している。
【0029】
本発明に係るブロック共重合体には、少なくとも1個の官能基含有原子団が結合してもよい。このようなブロック共重合体は、例えば、公知のブロック共重合体に対し、変性剤を用いて当該官能基含有原子団を少なくとも1個結合させることによって得ることができる。
【0030】
官能基含有原子団とは、1個以上の官能基を含む原子団である。本発明における官能基含有原子団が含む官能基としては、例えば、アミノ基、酸無水物基(好ましくは無水マレイン酸基)、イミド基、ウレタン基、エポキシ基、イミノ基、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、およびアルコキシシラン基(当該アルコキシ基は炭素数1〜6であることが好ましい)が挙げられる。本発明において、エラストマーは、ブロック共重合体であり、かつ、極性をもたらす官能基を有していることが好ましい。本発明において、少なくとも1個の官能基含有原子団を有するブロック共重合体を含有させることにより、接着剤組成物の柔軟性および接着性が向上する。
【0031】
上記エラストマーは、水添物であることがより好ましい。エラストマーが水添物であれば、熱に対する安定性が向上して分解や重合等の変質が起こり難く、さらに、炭化水素系溶剤への溶解性およびレジスト溶剤への耐性により優れる。
【0032】
また、上記エラストマーのうち、分子の両末端がスチレン部位であるエラストマーがより好ましい。熱安定性の高いスチレン部位を両末端にブロック構造として有することで、エラストマーはより高い耐熱性を示す。
【0033】
さらに、エラストマーは、分子の両末端がスチレン部位である、スチレンおよび共役ジエンのブロックコポリマーの水添物であることがより好ましい。これにより、熱に対する安定性が向上して分解や重合等の変質が起こり難く、さらに、炭化水素系溶剤への溶解性およびレジスト溶剤への耐性により優れるとともに、熱安定性の高いスチレン部位を両末端にブロック構造として有することで、より高い耐熱性を示す。
【0034】
本発明に係る接着剤組成物の主成分である上記エラストマーとして用いることができる市販品としては、例えば、株式会社クラレ製「セプトン(商品名)」、同社製「ハイブラー(商品名)」、旭化成株式会社製「タフテック(商品名)」、JSR株式会社製「ダイナロン(商品名)」等が挙げられる。
【0035】
本発明に係る接着剤組成物に含まれるエラストマーの含有量としては、例えば、接着剤組成物全量を100重量部として、10重量部以上、80重量部以下が好ましく、20重量部以上、60重量部以下がより好ましい。
【0036】
また、エラストマーは複数の種類を混合してもよい。つまり、本発明に係る接着剤組成物は複数の種類のエラストマーを含んでもよい。接着剤組成物は、複数の種類のエラストマーが含まれている場合であっても、上記接着剤組成物を用いて形成した接着層の220℃における貯蔵弾性率が20,000Pa以上、および220℃における損失弾性率が20,000Pa以上の少なくとも一方を満たせば、本発明の範囲に含まれる。
【0037】
また、本発明に係る接着剤組成物において、複数の種類のエラストマーを含む場合、混合した結果、スチレン基含有量が上記の範囲となるように調製してもよい。例えば、スチレン基含有量が10重量%のものと60重量%のものとを1対1で混合すると35重量%となる。また、本発明に係る接着剤組成物に含まれる複数の種類のエラストマーは、全て上記の範囲のスチレン基含有量であり、かつ、上記の範囲の重量平均分子量であることが最も好ましい。
【0038】
(炭化水素樹脂)
また、本発明に係る接着剤組成物は、炭化水素樹脂を含んでいてもよい。炭化水素樹脂は、炭化水素骨格を有し、単量体組成物を重合してなる樹脂である。炭化水素樹脂として、シクロオレフィン系ポリマーが挙げられる。
【0039】
シクロオレフィン系ポリマーとしては、具体的には、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分の開環(共)重合体、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分を付加(共)重合させた樹脂などが挙げられる。
【0040】
前記シクロオレフィン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセンなどの四環体、シクロペンタジエン三量体などの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの七環体、またはこれら多環体のアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)置換体、アルケニル(ビニルなど)置換体、アルキリデン(エチリデンなど)置換体、アリール(フェニル、トリル、ナフチルなど)置換体等が挙げられる。これらの中でも特に、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、またはこれらのアルキル置換体からなる群より選ばれるノルボルネン系モノマーがより好ましい。
【0041】
炭化水素樹脂を構成する単量体成分は、上述したシクロオレフィン系モノマーと共重合可能な他のモノマーを含有していてもよく、例えば、アルケンモノマーを含有することが好ましい。アルケンモノマーとしては、炭素数2〜10のアルケンモノマーが挙げられ、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィンが挙げられる。アルケンモノマーは、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
【0042】
また、炭化水素樹脂を構成する単量体成分として、シクロオレフィンモノマーを含有することが、高耐熱性(低い熱分解、熱重量減少性)の観点から好ましい。炭化水素樹脂を構成する単量体成分全体に対するシクロオレフィンモノマーの割合は、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることがさらに好ましい。また、炭化水素樹脂を構成する単量体成分全体に対するシクロオレフィンモノマーの割合は、特に限定されないが、溶解性および溶液での経時安定性の観点からは80モル%以下であることが好ましく、70モル%以下であることがより好ましい。
【0043】
また、炭化水素樹脂を構成する単量体成分として、直鎖状または分岐鎖状のアルケンモノマーを含有していてもよい。炭化水素樹脂を構成する単量体成分全体に対するアルケンモノマーの割合は、溶解性および柔軟性の観点からは10〜90モル%であることが好ましく、20〜85モル%であることがより好ましく、30〜80モル%であることがさらに好ましい。
【0044】
なお、炭化水素樹脂は、例えば、シクロオレフィン系モノマーとアルケンモノマーとからなる単量体成分を重合させてなる樹脂のように、極性基を有していない樹脂であることが、高温下でのガスの発生を抑制する上で好ましい。
【0045】
単量体成分を重合する際の重合方法や重合条件等については、特に制限はなく、常法に従い適宜設定すればよい。
【0046】
炭化水素樹脂として用いることのできる市販品としては、例えば、ポリプラスチックス株式会社製の「TOPAS」、三井化学株式会社製の「APEL」、日本ゼオン株式会社製の「ZEONOR」および「ZEONEX」、JSR株式会社製の「ARTON」などが挙げられる。
【0047】
炭化水素樹脂のガラス転移点(Tg)は、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることが特に好ましい。炭化水素樹脂のガラス転移点が60℃以上であると、積層体が高温環境に曝されたときに接着層の軟化を抑制することができる。
【0048】
本発明に係る接着剤組成物に含まれる炭化水素樹脂の含有量としては、当該接着剤組成物を用いて形成した接着層の、220℃における貯蔵弾性率(G’)が20,000Pa以上、および、220℃における損失弾性率(G”)が20,000Pa以上の少なくとも一方を満たす範囲であればよく、例えば、エラストマーを100重量部として、1重量部以上、50重量部以下が好ましい。
【0049】
(溶剤)
本発明に係る接着剤組成物に含まれる溶剤(主溶剤)は、エラストマーを溶解する機能を有していればよく、例えば、非極性の炭化水素系溶剤、並びに、極性および無極性の石油系溶剤等を用いることができる。
【0050】
また、上記溶剤は、縮合多環式炭化水素を含んでいることがより好ましい。溶剤が縮合多環式炭化水素を含むことにより、接着剤組成物を液体状態で(特に低温にて)保存したときに生じ得る白濁化を防止することができ、製品安定性を向上させることができる。
【0051】
炭化水素系溶剤としては、直鎖状、分岐状または環状の炭化水素が挙げられる。当該炭化水素系溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の炭素数3から15の直鎖状の炭化水素;メチルオクタン等の炭素数4から15の分岐状の炭化水素;p−メンタン、o−メンタン、m−メンタン、ジフェニルメンタン、1,4−テルピン、1,8−テルピン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン、ツジャン、カラン、ロンギホレン、α−テルピネン、β−テルピネン、γ−テルピネン、α−ピネン、β−ピネン、α−ツジョン、β−ツジョン等の環状の炭化水素が挙げられる。
【0052】
石油系溶剤としては、例えば、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ナフタレン、デカヒドロナフタレン(デカリン)、テトラヒドロナフタレン(テトラリン)等が挙げられる。
【0053】
また、縮合多環式炭化水素とは、二つ以上の単環がそれぞれの環の辺を互いに一つだけ供給してできる縮合環の炭化水素であり、二つの単環が縮合されてなる炭化水素を用いることが好ましい。
【0054】
そのような縮合多環式炭化水素としては、5員環および6員環の組み合わせ、または二つの6員環の組み合わせが挙げられる。5員環および6員環を組み合わせた縮合多環式炭化水素としては、例えば、インデン、ペンタレン、インダン、テトラヒドロインデン等が挙げられ、二つの6員環を組み合わせた縮合多環式炭化水素としては、例えば、ナフタレン、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレン等が挙げられる。
【0055】
これら溶剤は、一種類のみを用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。また、溶剤が上記縮合多環式炭化水素を含む場合、溶剤に含まれる成分は上記縮合多環式炭化水素のみであってもよいし、例えば、飽和脂肪族炭化水素等の他の成分を含有していてもよい。この場合、縮合多環式炭化水素の含有量が炭化水素系溶剤全体の40重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましい。縮合多環式炭化水素の含有量が炭化水素系溶剤全体の40重量%以上である場合には、上記樹脂に対する高い溶解性が発揮することができる。縮合多環式炭化水素と飽和脂肪族炭化水素との混合比が上記範囲内であれば、縮合多環式炭化水素の臭気を緩和させることができる。
【0056】
上記飽和脂肪族炭化水素としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の炭素数3から15の直鎖状の炭化水素;メチルオクタン等の炭素数4から15の分岐状の炭化水素;p−メンタン、o−メンタン、m−メンタン、ジフェニルメンタン、1,4−テルピン、1,8−テルピン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン、ツジャン、カラン、ロンギホレン等が挙げられる。
【0057】
なお、本発明の接着剤組成物における溶剤の含有量としては、当該接着剤組成物を用いて成膜する接着層の厚さに応じて適宜調整すればよいが、例えば、接着剤組成物の全量を100重量部としたとき、20重量部以上、90重量部以下の範囲であることが好ましい。溶剤の含有量が上記範囲内であれば、粘度調整が容易となる。
【0058】
(熱重合禁止剤)
本発明に係る接着剤組成物は、必要に応じて熱重合禁止剤を含有していてもよい。熱重合禁止剤は、熱によるラジカル重合反応を防止する機能を有する。具体的には、熱重合禁止剤は、ラジカルに対して高い反応性を示すため、モノマーよりも優先的に反応してモノマーの重合を禁止する。接着剤組成物は、熱重合禁止剤を含むことにより、高温環境下(特に、250℃〜350℃)において重合反応が抑制される。
【0059】
例えば、半導体製造工程においては、サポートプレート(支持体)が貼り付けられたウエハを250℃で1時間加熱する高温プロセスがある。このとき、高温により接着剤組成物の重合が起こると、高温プロセス後にウエハからサポートプレートを剥離する剥離液への接着剤組成物の溶解性が低下し、ウエハからサポートプレートを良好に剥離することができなくなる。ところが、接着剤組成物が熱重合禁止剤を含むことにより、熱による酸化およびそれに伴う重合反応が抑制されるため、高温プロセスを経たとしてもウエハからサポートプレートを容易に剥離することができ、残渣の発生を抑えることができる。
【0060】
熱重合禁止剤は、熱によるラジカル重合反応を防止する機能を有していればよく、特に限定されるものではないが、フェノール構造を有する熱重合禁止剤が好ましい。これにより、接着剤組成物は大気下での高温処理後にも良好な溶解性を確保することができる。フェノール構造を有する熱重合禁止剤としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤を用いることが可能であり、例えば、ピロガロール、ベンゾキノン、ヒドロキノン、メチレンブルー、tert−ブチルカテコール、モノベンジルエーテル、メチルヒドロキノン、アミルキノン、アミロキシヒドロキノン、n−ブチルフェノール、フェノール、ヒドロキノンモノプロピルエーテル、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2−メチルフェノール)、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−[1−〔4−(1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル)フェニル〕エチリデン]ビスフェノール、4,4’,4”−エチリデントリス(2−メチルフェノール)、4,4’,4”−エチリデントリスフェノール、1,1,3−トリス(2,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルプロパン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、3,9−ビス[2−(3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、n−オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリルテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX1010、BASF社製)、トリス(3,5−ジ−tert−ブチルヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が挙げられる。熱重合禁止剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
熱重合禁止剤の含有量は、エラストマーの種類、並びに接着剤組成物の用途および使用環境に応じて適宜決定すればよいが、例えば、エラストマーの量を100重量部としたとき、0.1重量部以上、10重量部以下であることが好ましい。熱重合禁止剤の含有量が上記範囲内であれば、熱によるラジカル重合反応を防止する効果が良好に発揮され、高温プロセス後における接着剤組成物の剥離液に対する溶解性の低下をさらに抑えることができる。
【0062】
また、本発明に係る接着剤組成物は、必要に応じて、エラストマーを溶解するための溶剤(主溶剤)とは異なる組成からなり、熱重合禁止剤を溶解する添加溶剤をさらに含有していてもよい。添加溶剤としては、特に限定されないが、接着剤組成物に含まれる各成分を溶解する有機溶剤を用いることができる。
【0063】
上記有機溶剤としては、接着剤組成物に含まれる各成分を溶解して均一な溶液にすることができる溶剤であればよく、任意の1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
有機溶剤の具体例としては、例えば、極性基として酸素原子、カルボニル基またはアセトキシ基等を有するテルペン溶剤が挙げられ、例えば、ゲラニオール、ネロール、リナロール、シトラール、シトロネロール、メントール、イソメントール、ネオメントール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、テルピネン−1−オール、テルピネン−4−オール、ジヒドロターピニルアセテート、1,4−シネオール、1,8−シネオール、ボルネオール、カルボン、ヨノン、ツヨン、カンファーが挙げられる。また、γ−ブチロラクトン等のラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン(CH)、メチル−n−ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2−ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、またはジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、上記多価アルコール類または上記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテルまたはモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体(これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい);ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル等の芳香族系有機溶剤等を挙げることができる。
【0065】
添加溶剤の含有量は、熱重合禁止剤の種類等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、熱重合禁止剤を1重量部としたとき、1重量部以上、50重量部以下であることが好ましく、1〜30重量部がさらに好ましく、1〜15重量部が最も好ましい。添加溶剤の含有量が上記範囲内であれば、熱重合禁止剤を十分に溶解することができる。
【0066】
(その他の成分)
本発明に係る接着剤組成物は、本発明における接着剤組成物の本質的な特性を損なわない範囲において、混和性を有する他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、接着剤組成物の性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、接着補助剤、安定剤、着色剤および界面活性剤等の、慣用されている各種添加剤が挙げられる。
【0067】
(接着剤組成物の調製方法)
本発明に係る接着剤組成物の調製方法は特に限定されず、公知の方法を用いればよいが、例えば、エラストマーを溶剤に溶解させ、既存の攪拌装置を用いて、各組成を攪拌することにより、本発明に係る接着剤組成物を得ることができる。
【0068】
また、本発明に係る接着剤組成物が熱重合禁止剤を含有する場合には、熱重合禁止剤を添加溶剤に予め溶解させた後、エラストマーを主溶剤に溶解させた溶液に添加することが好ましい。
【0069】
〔本発明に係る接着剤組成物の用途〕
本発明に係る接着剤組成物はウエハと当該ウエハの支持体とを貼り付け、積層体を形成するために用いられる。
【0070】
支持体は、例えば、ウエハを薄化する工程で支持する役割を果たす部材であり、本発明に係る接着剤組成物によってウエハに接着される。一実施形態において、支持体は、例えば、その膜厚が500〜1000μmであるガラスまたはシリコンで形成されている。
【0071】
なお、一実施形態において、支持体には、支持体を厚さ方向に貫通する穴が設けられている。この穴を介して接着剤組成物を溶解する溶剤を支持体とウエハとの間に流し込むことによって、支持体と基板とを容易に分離することができる。
【0072】
また、他の実施形態において、支持体とウエハとの間には、接着層の他に反応層が介在していてもよい。反応層は、支持体を介して照射される光を吸収することによって変質するようになっており、反応層に光等を照射して反応層を変質させることによって、支持体とウエハとを容易に分離することができる。この場合、支持体は厚さ方向に貫通する穴が設けられていない支持体を用いることが好ましい。
【0073】
反応層に照射する光としては、反応層が吸収可能な波長に応じて、例えば、YAGレーザ、リビーレーザ、ガラスレーザ、YVO
4レーザ、LDレーザー、ファイバーレーザー等の固体レーザ、色素レーザ等の液体レーザ、CO
2レーザ、エキシマレーザ、Arレーザ、He−Neレーザ等の気体レーザ、半導体レーザ、自由電子レーザ等のレーザ光、または、非レーザ光を適宜用いればよい。反応層に吸収されるべき光の波長としては、これに限定されるものではないが、例えば、600nm以下の波長の光であればよい。
【0074】
反応層は、例えば光等によって分解される光吸収剤を含んでいてもよい。光吸収剤としては、例えば、グラファイト粉、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、亜鉛、テルルなどの微粒子金属粉末、黒色酸化チタンなどの金属酸化物粉末、カーボンブラック、または芳香族ジアミノ系金属錯体、脂肪族ジアミン系金属錯体、芳香族ジチオール系金属錯体、メルカプトフェノール系金属錯体、スクアリリウム系化合物、シアニン系色素、メチン系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素などの染料もしくは顔料を用いることができる。このような反応層は、例えば、バインダー樹脂と混合して、支持体上に塗布することによって形成することができる。また、光吸収基を有する樹脂を用いることもできる。
【0075】
また、反応層として、プラズマCVD法により形成した無機膜または有機膜を用いてもよい。無機膜としては、例えば、金属膜を用いることができる。また、有機膜としては、例えば、フルオロカーボン膜を用いることができる。このような反応膜は、例えば、支持体上にプラズマCVD法により形成することができる。
【0076】
また、本発明に係る接着剤組成物は、支持体と接着した後に薄化工程に供されるウエハと当該支持体との接着に好適に用いられる。上述のように、この支持体はウエハを薄化する際に当該ウエハの強度を保持する。本発明に係る接着剤組成物はこのようなウエハと支持体との接着に好適に用いられる。
【0077】
また、本発明に係る接着剤組成物は、優れた耐熱性を有しているので、ウエハと支持体とを接着するために用いられる。当該ウエハは、好ましくは、当該支持体と接着した後に150℃以上の環境下に曝されるウエハである。より好ましくは、ウエハは、支持体と接着した後に180℃以上、さらには220℃以上の環境下に曝されるウエハである。
【0078】
例えば、ウエハに貫通電極等を形成する場合、当該ウエハと当該支持体とを接着した積層体は、150℃以上の環境下に曝される。このような環境下に曝された接着層であっても、本発明に係る接着剤組成物によって形成されている接着層であれば、溶剤に容易に溶解するので、ウエハと支持体との分離が容易である。なお、本発明に係る接着剤組成物では上述した範囲のスチレン含有量および重量平均分子量のエラストマーを含んでいるので、接着層を加熱しても膜応力が発生することを抑制することができ、その結果、反りの発現を抑制することができる。
【0079】
なお、当該積層体のウエハを薄化するウエハの薄化方法、当該積層体を150℃以上の温度で加熱する方法も本発明の範囲に含まれる。
【0080】
〔接着剤組成物により形成された接着層の除去〕
本発明に係る接着剤組成物によって接着されたウエハと支持体とを、上記の反応層を変質すること等によって分離した後に、接着層を除去する場合、上述の溶剤を用いれば容易に溶解して除去することができる。また、上記の反応層等を用いずに、ウエハと支持体とを接着した状態で接着層に直接、溶剤を供給することによって、容易に接着層が溶解して当該接着層が除去され、ウエハと支持体とを分離することができる。この場合、接着層への溶剤の供給効率を上げるため、支持体には貫通した穴が設けられていることがより好ましい。
【0081】
〔接着フィルム〕
本発明に係る接着剤組成物は、用途に応じて様々な利用形態を採用することができる。例えば、接着剤組成物を液体状態のまま、所望する接着層の膜厚に応じて適宜、公知の方法を用いて、被加工体であるウエハ上や支持体上に塗布し、乾燥させて接着層を形成する方法を採用してもよく、或いは、可撓性フィルム等のフィルム上に接着剤組成物を塗布し、乾燥させて接着層を形成することにより接着フィルムとした後、当該接着フィルムを、被加工体であるウエハや支持体に貼り付ける方法を採用してもよい。
【0082】
このように、本発明に係る接着フィルムは、フィルム上に、本発明に係る接着剤組成物を含有する接着層が形成されている。
【0083】
接着フィルムは、接着層にさらに保護フィルムを被覆して用いてもよい。この場合には、接着層上の保護フィルムを剥離し、被加工体の上に露出した接着層を重ねた後、接着層から上記フィルムを剥離することによって被加工体上に接着層を容易に設けることができる。
【0084】
したがって、この接着フィルムを用いれば、被加工体の上に直接、接着剤組成物を塗布して接着層を形成する場合と比較して、膜厚がより均一でかつ表面平滑性の良好な接着層を形成することができる。
【0085】
接着フィルムを構成する上記フィルムは、当該フィルム上に形成された接着層を剥離してウエハや支持体に貼り付ける(転写する)ことができるように離型性を備えていればよく、特に限定されるものではないが、可撓性フィルムであることがより好ましい。可撓性フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル等の、膜厚15〜125μmの合成樹脂フィルムが挙げられる。上記フィルムには、必要に応じて、接着層の転写が容易となるように離型処理が施されていることが好ましい。
【0086】
上記接着フィルムを形成する方法としては、接着層の乾燥後の膜厚が例えば10〜1000μmとなるように、所望する接着層の膜厚に応じて適宜、公知の方法を用いて、フィルム上に、本発明に係る接着剤組成物を塗布し、乾燥させる方法が挙げられる。
【0087】
また、保護フィルムを用いる場合、保護フィルムとしては、接着層から剥離することができる限り限定されるものではないが、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、およびポリエチレンフィルムが好ましい。また、各保護フィルムは、シリコンをコーティングまたは焼き付けしてあることが好ましい。これにより、接着層からの剥離が容易となる。保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、15〜125μmであることが好ましい。これにより、保護フィルムを備えた接着フィルムの柔軟性を確保することができる。
【0088】
接着フィルムの使用方法は、特に限定されるものではないが、例えば、保護フィルムを用いた場合には、これを剥離した上で、被加工体の上に露出した接着層を重ねて、フィルム上(接着層の形成された面の裏面)から加熱ローラを移動させることにより、接着層を被加工体の表面に熱圧着させる方法が挙げられる。このとき、接着フィルムから剥離した保護フィルムは、順次巻き取りローラなどのローラでロール状に巻き取れば、保存して再利用することが可能である。
【0089】
〔貼付方法〕
本発明に係る貼付方法は、本発明に係る接着剤組成物を用いて、ウエハに支持体を貼り付ける貼付工程を包含することを特徴としている。本発明に係る接着剤組成物を用いて、ウエハと支持体とを貼り付けて形成される積層体は、加熱処理時における反りが抑制される。
【0090】
貼付工程においては、本発明に係る接着剤組成物を用いて予め形成した接着層を介してウエハに支持体を貼り付けてもよい。接着層は、例えば、ウエハ上に接着剤組成物を塗布して焼成することによって、形成することができる。接着剤組成物の焼成温度、焼成時間等は、使用する接着剤組成物等に応じて適宜選択することができる。
【0091】
また、貼付工程においては、減圧環境下で加熱および加圧することによって、ウエハに支持体を貼り付けることができる。ウエハに支持体を貼り付けるときの温度、時間および圧力は、使用する接着剤組成物等に応じて適宜選択することができるが、例えば、貼り付け温度は50〜250℃であり、好ましくは100℃〜250℃である。貼り付け時間は10秒〜15分であり、好ましくは30秒〜10分である。貼り付け圧力は100kg〜10,000kgであり、好ましくは1,000kg〜10,000kgである。また、貼付工程において、減圧状態(例えば、1Pa以下)でウエハと支持体を貼り付けてもよい。
【0092】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0093】
〔接着剤組成物の調製〕
実施例1〜14および比較例1〜3において使用したエラストマー(炭化水素樹脂)、熱重合禁止剤、主溶剤、添加溶剤を、以下の表4〜7に示す。なお、表4〜7に記載の「部」は、全て重量部である。
【0094】
実施例1〜14におけるエラストマーとして、株式会社クラレ製のセプトン(商品名)のSepton8004(SEP:ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック)、Septon4055(SEEPS:ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン)、Septon4033(SEPS:ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン)、SeptonV9827(SEBS:スチレンブロックが反応架橋型のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー)、Septon2002(SEPS:スチレン−イソプレン−スチレンブロック)、SeptonHG252(SEEPS−OH:ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン 末端水酸基変性)、旭化成株式会社製のタフテック(商品名)H1051(SEBS、水添スチレン系熱可塑性エラストマー)、およびA1(スチレン/1−アダマンチルメタクリレート/ステアリルメタクリレート=20/60/20(重量比)の共重合体)を用いた。また、実施例4〜7においては、エラストマーとともに、炭化水素樹脂である三井化学株式会社製のAPEL(商品名)のAPEL8008T(シクロオレフィンコポリマー;エチレン−テトラシクロドデセンのコポリマー、Mw=100,000、Mw/Mn=2.1、エチレン:シクロドデセン=80:20(モル比))、APEL5015(シクロオレフィンコポリマー;エチレン−テトラシクロドデセンのコポリマー、Mw=70,000、Mw/Mn=2.0、エチレン:シクロドデセン=55:45(モル比))、APEL6013T(シクロオレフィンコポリマー;エチレン−テトラシクロドデセンのコポリマー、Mw=90,000、Mw/Mn=2.0、エチレン:シクロドデセン=65:35(モル比))、ポリプラスチック株式会社製のTOPAS(商品名)TM(シクロオレフィンコポリマー;エチレン−ノルボルネンのコポリマー、Mw=10,000、Mw/Mn=2.08、ノルボルネン:エチレン=50:50(重量比))を、表4および5に示す混合比でエラストマーに混合して用いた。なお、本実施例における「水添」とは、スチレンとブタジエンのブロックコポリマーの二重結合を水素添加したポリマーである。説明の便宜上、以下の説明において、エラストマーは、エラストマー単独、またはエラストマーと炭化水素樹脂との混合物を指すこととする。
【0095】
比較例1〜3におけるエラストマー(炭化水素樹脂)としては、ポリプラスチック株式会社製のTOPAS(商品名)8007(シクロオレフィンコポリマー;エチレン−ノルボルネンのコポリマー、Mw=100,000、Mw/Mn=1.9、ノルボルネン:エチレン=65:35(重量比))、三井化学株式会社製のAPEL(商品名)8008T、旭化成株式会社製のSepton(商品名)2063(SEPS、水添スチレン系熱可塑性エラストマー)を、それぞれ用いた。
【0096】
なお、各エラストマーのスチレン含有量および重量平均分子量を表1および2に示し、各炭化水素樹脂の重量平均分子量を表3に示す。重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)にて測定した。スチレン含有量は各商品に添付の説明に記載されていた数値である。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
また、熱重合禁止剤としては、BASF社製の「IRGANOX(商品名)1010」を用いた。また、主溶剤としては、下記化学式(I)に示すデカヒドロナフタレンを用いた。また、添加溶剤として、酢酸ブチルを用いた。
【0101】
【化1】
【0102】
実施例1の接着剤組成物の調製方法は次の通りである。まず、水添スチレン系エラストマーであるSepton8004を、主溶剤に25重量%の濃度になるように溶解させた。次に、エラストマー100重量部に対して、熱重合禁止剤が1重量部、かつ主溶剤100重量部に対して、添加溶剤が15重量部になるように熱重合禁止剤および添加溶剤をそれぞれ加えた。これにより、接着剤組成物を得た。また、実施例2〜14、比較例1〜3についても、同様の手法により、接着剤組成物を得た。
【0103】
〔粘弾性測定〕
また、調製した実施例1〜14、比較例1〜3の接着剤組成物について、220℃における貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)を、動的粘弾性測定装置を用いて測定した。まず、調製した接着剤組成物を、離型剤付のポリエチレンフィルムに塗布し、大気圧下のオーブンで100℃、180℃で各60分間焼成して接着層を形成した(厚さ0.5mm)。ポリエチレンフィルムから剥がした接着層の貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)を、動的粘弾性測定装置(VAR100、Fischer社製)を用いて測定した。測定条件を、サンプル形状が厚さ1mmおよび直径φ25mm、並びにパラレルプレートφ25mmを用い、周波数10Hzのせん断条件において、室温から220℃まで、速度5℃/分で昇温する条件とし、220℃における貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)を測定した。表4〜6に示すように、実施例1〜14については、220℃における貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)が20,000Pa以上であった。また、表7に示すように、比較例1〜3については、220℃における貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)が20,000Pa未満であった。
【0104】
〔接着層の形成〕
半導体ウエハ基板(12インチ、シリコン)に接着剤組成物を膜厚50μmでスピン塗布し、100℃、160℃、220℃の温度で各5分間ベークし、接着層を形成した。
【0105】
〔貼付〕
真空下、215℃、4000kgの条件で5分間、532nmのレーザ吸収を示す反応層を兼ね備えたベアのガラス支持体(12インチ)とウエハとの貼り合わせを行い積層体とした。その際、その後の薄化工程および熱工程でウエハの破損またはウエハの面内均一性の低下につながる貼付不良(未接着部分)が無いことを確認した。
【0106】
次に、ウエハ裏面をDISCO社製バックグラインド装置にて薄化(50μm)処理し、220℃で3時間、窒素環境下において加熱処理し、積層体の耐熱性に問題が無いことを確認した。また、そのときの積層体の反り量をKEYENCE社製のレーザ変位計(型式:LK−G30)により測定した。その結果、実施例1における積層体の反り量は200μmであった。
【0107】
次に、積層体の反り量を測定する方法について説明する。上記レーザ変位計を用いてウエハ上面の各位置における厚さ方向の高さを測定した。そして、積層体の厚さ方向において、ウエハの端部の高さからウエハの中心部の高さを引いた値として、反り量を算出した。
【0108】
〔剥離〕
ウエハに対し、ガラス面から532nmのレーザ照射を行い、ガラス支持体と接着層との間で分離した。ガラス支持体を取り除いたウエハは、p−メンタンでスピン洗浄することで接着層を残渣なく除去することができた。実施例1〜14の結果を表4〜6に示し、比較例1〜3の結果を表7に示す。
【0109】
【表4】
【0110】
【表5】
【0111】
【表6】
【0112】
【表7】
【0113】
表4〜6に示すように、比較例1〜3と比較して実施例1〜14に係る接着剤組成物では、積層体の反り量が低減していた。より具体的には、実施例1〜14に係る接着剤組成物では、積層体の反り量がそれぞれ200μm以下であり、実施例1〜14における積層体の反り量は何れも比較例1〜3における積層体の反り量の半分以下であった。
【0114】
以上の結果より、220℃における貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)が20,000Pa以上の接着層を形成する接着剤組成物は、220℃における貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)が20,000Pa未満の接着層を形成する接着剤組成物と比較して、積層体の反り量を抑制することができることが分かった。