(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
最近の衣料へのニーズの動向として白色で透けない素材が求められ、レジャー用のスポーツ等に用いられるテニスウェアー、水着、そして医療分野に用いられる白衣等への該素材の需要が増加している。また、近年発生した東日本震災による電力不足の影響や地球温暖化防止の観点からクールビズ対策が実施されており、エコ繊維として薄くても透けない素材が求められている。
従来、衣料用として使用されているポリエステルやポリアミド等の合成繊維は、透明であるポリマーの特性により、布帛となした場合下に着用して衣服や下着が透けて見えるという欠点を有している。
【0003】
そこで上記のような合成繊維の欠点を改良するために、特許文献1には高屈折率を有する無機微粒子をポリマー中に添加することにより防透性を得ている。また、特許文献2には無機微粒子を芯部のみに含有させた芯鞘複合繊維にしたり、合成繊維の断面を異形化したり、繊維を中空化することなどが広く行われている。
しかしながら、高い防透性を得るために繊維に大量の無機微粒子を添加すると、繊維表面に現れてくる無機微粒子の量が多くなり、製糸工程、製織工程などでの糸道ガイドの磨耗の発生や高次加工において毛羽などの欠点が発生しやすいという問題がある。また、芯鞘型複合繊維の芯部に高屈折率を有する無機微粒子を高濃度に含有させると、該複合繊維の色調は黄味が強くなり、白生地や淡色系生地への用途は制限されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような従来技術における問題点を解決するものであり、防透性に優れるポリエステル系芯鞘型複合繊維及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、芯成分に特定の平均粒子径の光遮蔽性を有する無機微粒子を特定量含有する熱可塑性重合体、鞘成分に芯成分に含有する無機微粒子よりも平均粒子径が小さい無機微粒子を特定量含有するポリエステル系重合体からなる芯鞘型複合繊維にすることによって、従来のポリエステル繊維と同等の製糸性及び発色性を維持したまま、芯成分に高濃度含有させた光遮蔽物質が効率的に可視光線(400〜800nm)を反射・遮断することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、芯成分が平均粒子径0.5μm以下の光遮蔽性を有する無機微粒子を30重量%以上70重量%以下含有する熱可塑性重合体であり、鞘成分が平均粒子径0.1μm以下で芯成分に含有する無機微粒子よりも平均粒子径が小さく光遮蔽性を有する無機微粒子を0.5重量%以上4重量%以下含有するポリエステル系重合体であり、かつ芯成分と鞘成分との質量比率が10:90〜30:70である芯鞘型複合繊維であり、好ましくは光遮蔽性を有する無機微粒子が酸化チタンである上記の芯鞘型複合繊維であり、より好ましくは波長400〜800nmの範囲における平均透過率が10%未満である上記の芯鞘型複合繊維である。
【0008】
さらに本発明は、好ましくは上記繊維を30重量%以上含有し、ΔEが1.5未満である繊維構造物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は光遮蔽性を有する無機微粒子を高濃度に含有させた熱可塑性重合体をポリエステル系重合体で覆った芯鞘構造とした複合繊維とすることにより、従来のポリエステル繊維と同等の製糸性及び発色性を維持できる。
【0010】
さらに本発明で得られる前記芯鞘型複合繊維を30重量%以上含む繊維構造物は、人間の目で色覚として感知できる波長である可視光線(400〜800nm)を効率的に反射・遮断し、該繊維構造物の内側に着用した衣服や下着が透けることを防ぐことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の芯鞘型複合繊維の芯成分を構成する熱可塑性重合体について説明する。芯成分を構成する熱可塑性重合体には、ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレンなどを用いることができる。中でも、光遮蔽性を有する無機微粒子を高充填でき、かつ価格及び汎用性が高い点から、ポリアミドあるいはポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルが好ましい。
【0012】
また、本発明でいう光遮蔽性を有する無機微粒子としては、人間の目で色覚として感知できる波長である可視光線(400〜800nm)を反射もしくは透過させない、かつ熱可塑性重合体に高充填できる無機微粒子を用いる必要がある。そのような無機微粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム等の単体及びこれらの混合物が挙げられ、中でも、つや消し剤として用いられ、汎用性の高い酸化チタンであることが好ましい。なお、ここで、「可視光線(400〜800nm)を反射もしくは透過させない」とは、該複合繊維を筒編地にして、後述する測定方法によって測定する平均透過率が10%未満となることを示す。
【0013】
さらに本発明は、芯成分の熱可塑性重合体に平均粒子径が0.5μm以下の光遮蔽性を有する無機微粒子を30重量%以上70重量%以下含有することによって、人間の目で色覚として感知できる波長である可視光線(400〜800nm)を効率的に反射・遮断することができ、高い防透性を発揮する。前記無機微粒子の含有量が30重量%未満では、可視光線の波長を効率的に反射・遮断することができず、十分な防透性を得ることができない。逆に前記無機微粒子の含有量が70重量%を超えると、紡糸時の曳糸性が極端に悪化するとともに、染色時の発色性が低下する。好ましくは30重量%以上60重量%以下、より好ましくは30重量%以上50重量%以下である。また、前記無機微粒子の平均粒子径が0.5μmより大きいと、製糸性が低下するとともに、可視光線の波長を効率的に反射・遮断することができず、十分な防透性を得ることができない。前記無機微粒子の平均粒子径は好ましくは0.4μm以下、より好ましくは0.05μm以上0.3μm以下である。
【0014】
また、繊維表面から入射した可視光線波長が屈折率の違いにより繊維中心を通過しようとするため、繊維中に酸化チタンなどの光遮蔽物質を均一に分散させるよりも芯成分に選択的に高充填させることにより、効果的に可視光線を反射・遮断することができ、高い防透性が得られる。
【0015】
次に本発明の芯鞘型複合繊維の鞘成分を構成するポリエステル重合体について説明する。鞘成分を構成するポリエステル重合体には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル類またはこれらのポリエステルを主体骨格とし、イソフタル酸、金属スルホネート基を有するイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバチン酸等の脂肪族ジカルボン酸、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ポリアルキレングリコール、ペンタエリスリトール等の多価アルコール等の第3成分で変性した共重合ポリエステル類が好ましく用いられる。
【0016】
また、本発明でいう鞘成分に含有する無機微粒子の平均粒子径は0.1μm以下で、かつ芯成分に含有する無機微粒子よりも平均粒子径が小さく光遮蔽性を有する無機微粒子であることが、製糸性の点から必要である。平均粒子径の好ましい範囲は0.08μm以下0.03μm以上である。
また無機微粒子の種類としては酸化チタン、酸化亜鉛などが挙げられるが、汎用性及び加工の点から酸化チタンを用いることが好ましい。
【0017】
さらに本発明は、鞘成分に含有される無機微粒子を0.5重量%以上4重量%以下含有することによって、ポリエステル従来の良好な染色性を維持しつつ、防透性を発揮することができる。無機微粒子が0.5重量%未満では、製糸性が低下するため、該複合繊維を得ることができない。逆に無機微粒子の含有量が4重量%を超えると、紡糸時の曳糸性が極端に悪化する、あるいは、紡糸できても延伸工程での糸切れ発生の問題が生じ、さらには延伸後の品質も満足なものを得ることができない場合がある。より好ましくは0.5重量%以上3重量%以下であり、さらに好ましくは0.5重量%以上2.5重量%以下である。
【0018】
さらに本発明の芯鞘複合繊維において、芯成分と鞘成分との質量比率が10:90〜30:70であることが必要であり、10:90〜20:80であることが好ましい。芯成分ポリマーの質量比率が10%未満の場合は、芯成分の防透性が低くなるため、好ましくない。また、芯成分ポリマーの質量比率が30%以上では、良好な防透性は得られるが、該複合繊維の製糸性及び発色性が劣り好ましくない。
【0019】
上記した複合繊維においては、繊維の太さは特に限定されず、任意の太さにすることができるが、発色性及び防透性の良好な繊維を得るためには複合繊維の単繊維繊度を0.3〜11dtex程度にしておくのが好ましい。また、長繊維のみならず短繊維でも本発明の効果が期待される。
【0020】
次に本発明の複合繊維の製造方法について以下説明する。
まず芯成分ポリマーと鞘成分ポリマーをそれぞれ別の押出機で溶融押出し、各々紡糸ヘッドへ導入し、目的とする個々の複合形状を形成させる紡糸口金を経由して溶融紡糸させることにより製造することができる。また、最終製品に求められる品質や良好な工程通過性を確保するために、最適な紡糸・延伸方法を選択することができる。より具体的には、スピンドロー方式や、紡糸原糸を採取した後に別工程で延伸を行う2−Step方式、また延伸を行わず非延伸糸のまま引き取り速度が2000m/分以上の速度で捲取る方式においても、任意の糸加工工程を通過させた後に製品化することで、良好な防透性及び発色性を有する該複合繊維製品を得ることができる。
【0021】
本発明の製造方法の紡糸工程において、通常の溶融紡糸装置を用いて口金より紡出する。また、口金の形状や大きさによって、得られる繊維の断面形状や径を任意に設定することが可能である。
【0022】
本発明で得られる複合繊維は、各種繊維集合体(繊維構造物)として用いることができる。ここで繊維集合体とは、本発明の繊維単独よりなる織編物、不織布はもちろんのこと本発明の繊維を一部に使用してなる織編物や不織布、例えば、天然繊維、化学繊維、合成繊維など他の繊維との交編織布、あるいは混紡糸、混繊糸として用いた織編物、混綿不織布などであってもよいが、これらのような繊維構造物に占める本発明の繊維の割合は30重量%以上、好ましくは40重量%以上であることが好ましい。繊維構造物に占める本発明の繊維の割合を30重量%以上とすることにより、防透性評価の指標であるΔEを1.5未満とすることができる。
なお、ここでの防透性評価(ΔE)は筒編地下に存在する白板(L*値=100)と黒板(L*値=12)の透け度合いの差を示しており、数値が小さいほど防透性に優れる繊維と評価できる。ΔE=1.5以上となると筒編地下の色が目視できるため、好ましくない。
【0023】
本発明の複合繊維および該複合繊維を含有する繊維構造物は、変退色、添付汚染、液汚染の洗濯堅牢度が4級以上であることが好ましい。そのいずれかが3級以下であった場合、取扱い性の点から一般衣料用途としては好ましくない。
【0024】
また、本発明の複合繊維および該複合繊維を含有する繊維構造物は、耐光堅牢度が4級以上であることが好ましい。耐光堅牢度が3級以下であった場合、取扱い性の点から一般衣料用途としては好ましくない。
【0025】
本発明の繊維の主な用途は、長繊維では単独で又は一部に使用して織編物等を作成し、良好な風合を発現させた衣料用素材とすることができる。一方、短繊維では衣料用ステープル、乾式不織布および湿式不織布等があり、衣料用のみならず各種リビング資材、産業資材等の非衣料用途にも好適に使用することができる。
【0026】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。なお、実施例中の測定値は以下の方法により測定されたものである。
【0027】
<紡糸性>
以下の基準に従って紡糸性評価を行った。
◎:24時間の連続紡糸を行ったところ、紡糸時の断糸が何ら発生せず、しかも得られた該複合繊維には毛羽・ループが全く発生していないなど、紡糸性が極めて良好である
○:24時間の連続紡糸を行ったところ、紡糸時の断糸が1回以下の頻度で発生し、得られた該複合繊維に毛羽・ループが全く発生していないか、あるいは僅かに発生したものの、紡糸性がほぼ良好である
△:24時間の連続紡糸を行ったところ、紡糸時の断糸が3回まで発生し、紡糸性が不良である
×:24時間の連続紡糸を行ったところ、紡糸時の断糸が3回よりも多く発生し、紡糸性が極めて不良である
【0028】
<防透性評価>
ΔE測定
単繊度2.2dtexの該ポリエステル系複合繊維を経糸および緯糸に用い、経糸38本/cm、緯糸28本/cmの筒編地を作製し、日立分光光度計(U−3400型)を用いて、この編地のL
* を測定し、下記式により算出した。
防透性ΔE=L
* W−L
* B
L
* B :黒素地に布帛(繊維集合体)を重ねた時のL
* 値
L
* W :白素地に布帛(繊維集合体)を重ねた時のL
* 値
黒素地は黒色プラスチック板(L
*値=12)、白素地は標準白板(L
*値=100)を示す。
【0029】
<染色方法>
1)染色
染 料:DiacrylBlack BSL-F 7%omf
分散助剤:Disper TL(明成化学工業社製) 1g/l
PH調整剤:ウルトラMTレベル 1g/l
浴 比: 1:50 温 度:130℃×40分
2)還元洗浄
ハイドロサルファイド 1g/l
アミラジン(第一工業製薬) 1g/l
NaOH 1g/l
浴 比: 1:30 温 度:80℃×120分
【0030】
<透過率>
透過率は、繊維径を均一に調整し、得られた該複合繊維を用いて目付け200g/m
2の筒編地を精錬した後、以下に示す測定装置を使用して波長400〜800nmの範囲における透過率を測定し、平均値を求めた。
分光反射率測定器:分光光度計 HITACHI
C−2000S Color Analyzer
【0031】
<洗濯堅牢度>
JIS L−0844の測定方法に準拠して測定した。
【0032】
<耐光堅牢度>
JIS L−0842の測定方法に準拠して測定した。
【0033】
(実施例1)
芯成分に平均粒子径0.5μmの酸化チタン60重量%を含有するポリエチレンテレフタレートと鞘成分に平均粒子径0.08μmの酸化チタン2.5重量%を含有するポリエチレンテレフタレートの複合比率(質量比率)20:80の条件で、孔数24個(孔径0.25mmφ)の口金を用いて紡糸温度260℃、単孔吐出量=1.42g/分で紡出し、温度25℃、湿度60%の冷却風を0.4m/秒の速度で紡出糸条に吹付け糸条を60℃以下にした後、紡糸口金下方1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口ガイド系8mm、出口ガイド系10mm、内径30mmφチューブヒーター(内温185℃)に導入してチューブヒーター内で延伸した後、チューブヒーターから出てきた糸条にオイリングノズルで給油し2個の引き取りローラーを介して3500m/分の速度で捲取り、84T/24fの該複合繊維フィラメントを得た。得られた該複合繊維を用いて目付け200g/m
2の筒編地を精錬した後、種々の測定を実施した。透過率、防透性評価(ΔE)及び紡糸性を表1に示した。本発明の製造方法で得られた該複合繊維のΔEは0.74であり、高い防透性を示した。また、得られた該複合繊維の洗濯堅牢度及び耐光堅牢度は4級以上であり、何ら問題のないものであった。
【0034】
(実施例2〜5)
次に、芯成分及び鞘成分のポリマー、芯成分及び鞘成分の添加粒子の平均粒子径と含有量を変更し、実施例1と同様の手法で紡糸して84T/24fの該複合繊維フィラメントを得た。得られた繊維の物性を表1に示した。いずれも良好な透過率、ΔE、実施例1と同性能の洗濯堅牢度、耐光堅牢度であり、何ら問題のない品質であった。
【0035】
(比較例1〜2)
芯成分及び鞘成分のポリマー、芯成分及び鞘成分の添加粒子と含有量を変更し、実施例1と同様の手法で紡糸して84T/24fの該複合繊維フィラメントを得た。得られた繊維の物性を表1に示した。
【0036】
比較例1では芯成分に含有する光遮蔽性を有する無機微粒子が10重量%であるため、防透性を得ることができなかった。
【0037】
比較例2では芯成分に含有する光遮蔽性を有する無機微粒子の粒径が0.5μm以上であるため、紡糸時の曳糸性が極端に悪化したうえに、防透性を得ることができなかった。
【0038】
(比較例3〜5)
芯成分及び鞘成分のポリマー、芯成分及び鞘成分の添加粒子と含有量を変更し、実施例1と同様の手法で紡糸した。
【0039】
比較例3は芯成分の酸化チタンの含有量が80重量%と多すぎるため、紡糸時の曳糸性が極端に悪化し、紡糸が不可能であった。
【0040】
比較例4は芯比率が40%と多すぎるため、紡糸時の曳糸性が極端に悪化し、紡糸が不可能であった。
【0041】
比較例5は鞘成分の酸化チタンの含有量が7.0重量%と多すぎるため、紡糸時の曳糸性の悪化や糸道ガイド磨耗が発生し、紡糸が不可能であった。