(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6129706
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】化合物半導体素子の製造方法およびエッチング液
(51)【国際特許分類】
H01L 21/308 20060101AFI20170508BHJP
G01T 1/24 20060101ALI20170508BHJP
H01L 21/306 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
H01L21/308 C
G01T1/24
H01L21/306 B
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-202130(P2013-202130)
(22)【出願日】2013年9月27日
(65)【公開番号】特開2015-70072(P2015-70072A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】三上 充
(72)【発明者】
【氏名】村上 幸司
(72)【発明者】
【氏名】野田 朗
(72)【発明者】
【氏名】川平 啓太
【審査官】
正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−157494(JP,A)
【文献】
特開平10−242131(JP,A)
【文献】
特開昭64−007526(JP,A)
【文献】
特表2012−526394(JP,A)
【文献】
特表2012−502475(JP,A)
【文献】
特開2005−317572(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0260601(US,A1)
【文献】
米国特許第5674779(US,A)
【文献】
米国特許第4376663(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/308
G01T 1/24
H01L 21/306
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テルル化カドミウム結晶またはテルル化亜鉛カドミウム結晶を基板とする化合物半導体素子の製造方法において、
前記基板を鏡面研磨した後、この基板の表面に直接フォトレジストを塗布し、
前記フォトレジストに所定パターンの開口を形成することにより、前記開口から基板表面の一部を露出させ、
前記開口から露出する基板表面を、臭化水素、臭素、および水からなり、臭化水素、臭素、水のモル濃度の比率が0.5〜1:0.005〜0.01:5〜6となっているエッチング液を用いてエッチングし、
その後、前記開口から露出する基板表面に電極を形成することを特徴とする化合物半導体素子の製造方法。
【請求項2】
テルル化カドミウム結晶またはテルル化亜鉛カドミウム結晶からなる基板をエッチングするためのエッチング液であって、
臭化水素、臭素、および水からなり、
それらのモル濃度の比率が0.5〜1:0.005〜0.01:5〜6となっていることを特徴とするエッチング液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体素子を製造する方法、およびこの化合物半導体素子を製造するのに用いるエッチング液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線検出素子の基板をなす各種の化合物半導体の開発が行われてきたが、その中でもII−VI族化合物半導体であるテルル化カドミウム(CdTe)やテルル化亜鉛カドミウム(CdZnTe)が、近年の結晶開発における技術革新により有力な材料として注目されている。
CdTeやCdZnTeは、原子番号が比較的大きい元素からなるので、放射線(硬X線やγ線)の検出効率が高い。このため、CdTeやCdZnTeを用いた放射線検出器(以下CdTe系検出器)は、他の化合物半導体を用いたものよりも小型かつ高性能なものとすることができる。
また、CdTe系検出器は、放射線を直接電流に変換する仕組みなので、ヨウ化ナトリウム(NaI)に代表されるルミネッセンスを介した間接的な動作機構のシンチレータ検出器に比べ、検出効率およびエネルギー分解能において優れている。
また、CdTeやCdZnTeは、バンドギャップが大きいので、熱の影響を受けにくく、動作時の漏れ電流が小さい。このため、CdTe系検出器は、室温で動作可能となり、動作させるために冷却装置が必要なシリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)を用いた検出器に比べ、装置を小型化でき、更に、高いバイアス電流を印加することで高いエネルギー分解能を発揮することができる(非特許文献1参照)。
【0003】
CdTe系検出器に使用する放射線検出素子は、一般に、基板の一方の主面に、複数のピクセル電極が、互いに所定間隔を空けて行列状に配列された構造となっている。
この行列状のピクセル電極を形成するには、まず、電極を形成しない箇所に電極材が析出しないようにするため、基板表面を絶縁膜で被覆し、電極を形成する箇所のみ絶縁膜を除去する。ここで、パターンマスクの形成は、基板表面にSiO
2膜をCVD法やスパッタ法等のPVD法で形成することで行われている。そして、基板と電極材との界面に欠陥が生じにくくするために、パターンマスクの除去された基板表面の露出面をエッチング処理し、基板の電極を形成する箇所の加工変質層や基板表面に付着した不純物を除去する必要がある。このとき、基板の電極を形成しない箇所は絶縁膜で被覆されたままとなっているので、電極を形成する箇所のみエッチングが行われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】W.Akutagawa,et.al.:Nucl.Instrum.Meth.A.55(1967)383.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、CVD法やPVD法で形成されたSiO
2膜は、CdTeウエハとの密着性が悪く、ウエハの表面をエッチングする際に、剥がれてしまうことがあった。また、CVD法やPVD法は、コストがかかるという問題もあった。
また、電極形成の前に行われる基板表面のエッチングには、主にブロメタや臭素の水溶液等が用いられるが、これらはフォトレジストを侵食してしまうため、フォトレジストをSiO
2膜の代わりとして用いることは出来なかった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、CdTe結晶またはCdZnTe結晶を基板とする半導体素子を製造する際に、基板表面にSiO
2膜を形成することなく電極を形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、
テルル化カドミウム結晶またはテルル化亜鉛カドミウム結晶を基板とする化合物半導体素子の製造方法において、
前記基板を鏡面研磨した後、この基板の表面に直接フォトレジストを塗布し、
前記フォトレジストに所定パターンの開口を形成することにより、前記開口から基板表面の一部を露出させ、
前記開口から露出する基板表面を、臭化水素、臭素、および水からな
り、臭化水素、臭素、水のモル濃度の比率が0.5〜1:0.005〜0.01:5〜6となっているエッチング液を用いてエッチングし、
その後、前記開口から露出する基板表面に電極を形成することを特徴とする。
【0008】
臭素単独、或いは臭素とメタノールからなるエッチング液でエッチングした場合には、フォトレジストを浸食してしまうために電極を形成することができない。また、臭素と水による溶液の作製を試みた場合、臭素と水が混ざり合わずに二層に分離した状態となり、基板表面のエッチングには使用することができない。これに対し、本発明の臭化水素、臭素、および水からなるエッチング液は、上述したものとは異なり、フォトレジストを侵食することが無い上に、テルル化カドミウム結晶またはテルル化亜鉛カドミウム結晶からなる基板を効率よく洗浄することができる。従って、上記発明のようにすれば、基板表面をSiO
2などの絶縁膜で被覆する工程を省くことができ、半導体素子の製造コストを下げることができる。
【0009】
また、臭化水素、臭素をこれより高くするとエッチングが強くなりフォトレジストを侵食してしまう。一方、臭化水素、臭素をこれより低くするとフォトレジストは保たれても十分なエッチングが行われずオーミック特性が悪くなってしまう。しかし、上述の濃度範囲にすることで、フォトレジストを傷つけず良好なオーミック特性を得ることができる。
【0010】
また、上記課題を解決するため、本発明は、テルル化カドミウム結晶またはテルル化亜鉛カドミウム結晶からなる基板をエッチングするためのエッチング液であって、臭化水素、臭素、および水からなり、それらのモル濃度の比率が0.5〜1:0.005〜0.01:5〜6となっていることを特徴とする。
【0011】
臭素単独、或いは臭素とメタノールからなるエッチング液は、フォトレジストを浸食してしまうために電極を形成することができない。また、臭素と水による溶液の作製を試みた場合、臭素と水が混ざり合わずに二層に分離した状態となり、基板表面のエッチングには使用することができない。これに対し、本発明の臭化水素、臭素、および水を所定の比率となるように混合したエッチング液は、上述したものとは異なり、フォトレジストを侵食することが無い上に、テルル化カドミウム結晶またはテルル化亜鉛カドミウム結晶からなる基板を効率よく洗浄することができる。このエッチング液を用いて半導体素子を製造すれば、エッチングを行う際に、基板表面をSiO
2などの絶縁膜で被覆する工程を省くことができ、半導体素子の製造コストを下げることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、CdTe結晶またはCdZnTe結晶を基板とする半導体素子を製造する際に、基板表面にSiO
2膜を形成することなく電極を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る放射線検出素子の斜視図である。
【
図2】
図1の放射線検出素子の製造方法を説明する図であり、(e)は
図1のII−II断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
〔放射線検出素子の構成〕
まず、半導体素子の一例として放射線検出素子10の概略構成について説明する。
図1は、放射線検出素子10の斜視図である。
放射線検出素子10は、
図1に示すように、基板1、基板1の一方の主面(以下A面1a)に形成されたピクセル電極3、基板1の他方の主面(以下B面1b)形成され共通電極4からなる。
【0016】
基板1は、主としてII−VI族化合物半導体単結晶であるテルル化カドミウム(CdTe)単結晶またはテルル化亜鉛カドミウム(CdZnTe)単結晶からなり、主面が矩形(例えば正方形)の薄い板状に形成されている。また、基板1の主面1a,1bは、所定の結晶面(例えば(111)面)と平行になっている。以下、CdTeとCdZnTeを区別しない場合は、Cd(Zn)Teと表記する。
ピクセル電極3は、金属(例えば白金(Pt))の薄膜で矩形状に形成されるとともに、互いに所定間隔を空けて行列状に複数配列されている。
共通電極4は、金属(例えばPt)の薄膜で全体を覆うように形成されている。以下、ピクセル電極3と共通電極4を区別しない場合は、両電極を合わせて電極3,4と表記する。
【0017】
〔放射線検出素子の製造方法〕
次に、上記放射線検出素子10を製造する方法の概要について説明する。
図2は、放射線検出素子10の製造工程を示す図である。
放射線検出素子10は、開口形成工程、エッチング工程、電極形成工程、ダイシング工程を経て製造される。
【0018】
初めの開口形成工程では、円盤状に切断され、両面が鏡面研磨されたウエハ1(
図2(a)参照)のA面1aに、
図2(b)に示すようにフォトレジスト2を塗布する。そして、ピクセル電極の形成パターンが描かれた図示しないフォトマスクを用いてフォトレジスト膜2を露光し、フォトレジスト膜2の感光した部分を除去する。すると、
図2(c)に示すように、フォトレジスト膜2に、電極パターンと同形状かつ同配列の開口2aが複数形成され、その開口2aからA面1aの一部が露出する。
【0019】
フォトレジスト膜2に開口2aを形成した後は、エッチング工程に移る。エッチング工程では、ウエハ1をエッチング液に浸漬し、開口2aから露出するA面1aの一部およびB面1b全体から不純物や加工変質層等を除去する。このとき、エッチング液として、臭化水素酸(47.6%、8.68モル/L)、臭素(100%、19.4モル/L)および水を調合することにより、組成を各成分のモル濃度の比率で表したときに、臭化水素:臭素:水=0.5〜1:0.005〜0.01:5〜6(臭化水素酸を臭化水素と水に分けて示している)となるようにした混合液を用いる。
【0020】
基板表面をエッチングした後は、電極形成工程に移る。電極形成工程では、ウエハ1の両面1a,1bに電極3,4を形成する。本実施形態では、無電解めっきにより形成する。ウエハ1をめっき液に浸漬すると、
図2(d)に示すように、A面1a側では、フォトレジスト膜2の開口2aから露出する部分にPtが析出し、Pt薄膜が形成されていく。一方、B面1b側では、主面全体にPt薄膜が形成されていく。これらのPt薄膜が所定の膜厚まで成長したものが電極3,4となる。電極3,4が形成された後は、
図2(e)に示すように、フォトレジスト膜2を除去する。
【0021】
フォトレジスト膜2を除去した後はダイシング工程に移る。ダイシング工程では、主面1a,1bに電極3,4が形成されたウエハ1を切断して複数の基板1,1・・に分割することにより、個々の放射線検出素子10を切り出す。
以上の各工程を経ることにより、放射線検出素子10が製造される。
【0022】
〔本発明と従来技術との比較〕
次に、本実施形態の製造方法で用いたエッチング液と、従来用いられてきたエッチング液とでは、製造過程でどのような違いが出てくるのかについて、実際に製造した素子(実施例、比較例)を例にして説明する。
【0023】
(実施例)
まず、本実施形態の製造方法で用いたエッチング液の場合について説明する。
CdTe基板上にピクセル電極を形成するに当たり、CdTe基板のA面にフォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィー法により電極パターン状の開口が形成された状態で固着形成した。そして、フォトレジスト膜で被覆されたCdTe基板を、臭化水素:臭素:水をモル濃度にして1:0.006:6の比率となるように混合したエッチング液を用いて基板をエッチングし、A面の露出部分に存在する不純物や、基板の切出し工程で発生する加工変質層などを除去した。その結果、A面の電極形成用に露出させた部分のみが1〜2μm程度除去された。また、フォトレジスト自体は侵食されることなく、安定的に電極パターン状の開口を維持していた。また、フォトレジスト膜とA面の露出部分との境界領域では、フォトレジスト膜の開口の内周面がエッチング処理によって侵食されることなく、急峻な境界面となっていた。次に、レジストパターン付きのCdTe基板上に、無電解めっき法によって、A面の露出部分に、白金の金属薄膜層を形成した。その後、フォトレジスト膜を剥離液によって除去し、CdTe基板上に白金のピクセル電極が形成された。形成された白金電極は、フォトレジスト膜との境界部分において欠落は見られず、整然と配列されていた。また、この素子を回路に組み込み電気的特性を調べたところ、良好なオーミック特性を得ることができた。
【0024】
(比較例)
次に、従来用いられてきたエッチング液の場合について説明する。
まず、CdTe基板上に、実施例1と同様の方法でレジストパターンを形成した基板を用意した。次に、電極形成領域となる基板露出面をエッチングする溶液として、臭素:メタノールを2:100で混合した溶液(2vol%ブロム―メタノール溶液)を用いて基板のエッチングを行った。その結果、フォトレジストそのものが侵食され、レジストパターンが消失してしまい、ピクセル電極の形成を行うことができなかった。
【0025】
このように、本実施形態では、CdTe単結晶またはCdZnTe単結晶を基板とする放射線検出素子10の製造方法において、基板を鏡面研磨した後、この基板の表面に直接フォトレジストを塗布し、フォトレジストに所定パターンの開口を形成することにより、開口から基板表面の一部を露出させ、開口から露出する基板表面を、臭化水素、臭素、および水からなるエッチング液を用いてエッチングし、その後、開口から露出する基板表面に電極を形成するようにした。
【0026】
本実施形態で用いた臭化水素、臭素、および水からなるエッチング液は、臭素とメタノールからなるエッチング液と異なり、フォトレジストを侵食することが無い上に、テルル化カドミウム結晶またはテルル化亜鉛カドミウム結晶からなる基板を効率よく洗浄することができるので、上述のように、基板表面をSiO
2などの絶縁膜で被覆する工程を省くことができ、半導体素子の製造コストを下げることができる。
【0027】
以上、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、上記実施形態では、半導体素子を放射線検出素子としたが、本発明は、CdTe単結晶またはCdZnTe単結晶を基板とし、その表面に電極が形成された素子全般に適用することができる。
また、上記実施形態では、電極の形成工程において、無電解めっき法による白金電極の形成例を示したが、電極の形成方法は、本実施例に限定されることなく、電解めっき法やスパッタリング法、CVD法などによっても金属膜を基板露出面に形成することもできる。
【符号の説明】
【0028】
10 放射線検出素子(化合物半導体素子)
1 ウエハ(基板)
1a A面
1b B面
2 フォトレジスト膜
2a 開口
3 ピクセル電極
4 共通電極