(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記処理対象物を、前記処理チャンバの外部から内部に搬入し、前記放電処理装置における前記対向電極の直下を通過させ、前記処理チャンバの外部に搬出する搬送手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の過熱水蒸気処理装置。
前記搬送手段は、前記処理チャンバの内部における前記放電処理装置よりも上流部分において、前記処理チャンバに導入された過熱水蒸気に前記処理対象物を晒すことにより前処理を行うことを特徴とする請求項2に記載の過熱水蒸気処理装置。
前記隔壁で仕切られた空間に、球状もしくは不定形の磁性粒子が充填され、前記容器の内部の空隙率が30%以下とされることを特徴とする請求項8または9に記載の過熱水蒸気処理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の活性水蒸気発生装置では、誘導加熱装置で得た飽和水蒸気を筒状の放電処理装置の一端に送給し、放電処理により低温プラズマ化した活性水蒸気を放電処理装置の他端に接続された排出管で処理対象物の近傍に導入し、処理に利用する。しかしながら、ヒドロキシラジカルは寿命がマイクロ秒のオーダー(約100μ秒以下)と非常に短いので、特許文献2に記載の活性水蒸気発生装置の構成では、活性水蒸気を排出管で処理対象物の近傍に導入するまでの間にヒドロキシラジカルの大部分が消滅してしまっていた。
【0008】
本発明は上記課題を解決すべくなされたもので、反応性の高いヒドロキシラジカルを高濃度に含んだ過熱水蒸気により効率的に処理対象物を処理することができる過熱水蒸気処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく提供される本発明に係る過熱水蒸気処理装置は、(1)飽和水蒸気を誘導加熱して過熱水蒸気を発生する誘導加熱装置と、誘導加熱装置が発生した過熱水蒸気が導入される処理チャンバと、処理チャンバ内に配置され、導入された過熱水蒸気に放電処理を行う放電処理装置とを備える。そして、放電処理装置は、当該放電処理装置の支持体となるフレームと、フレームの上部に配置され、中心導体の周囲を絶縁体で覆った放電電極と、放電電極の下方に配置されたメッシュ状の対向電極と、放電電極と対向電極との間に高周波高電圧の電源を供給してバリア放電を生じさせる高周波電源とを有し、対向電極の直下に位置する処理対象物を、バリア放電によりヒドロキシラジカルの濃度が高まった過熱水蒸気によって処理する。
【0010】
(2)本発明の過熱水蒸気処理装置では、処理対象物を、処理チャンバの外部から内部に搬入し、放電処理装置における対向電極の直下を通過させ、処理チャンバの外部に搬出する搬送手段をさらに備えるように構成するとよい。
【0011】
(3)本発明の過熱水蒸気処理装置では、搬送手段は、処理チャンバの内部における放電処理装置よりも上流部分において、処理チャンバに導入された過熱水蒸気に処理対象物を晒すことにより前処理を行うように構成するとよい。
【0012】
(4)本発明の過熱水蒸気処理装置では、処理対象物は放電処理装置の対向電極の直下に載置され、高周波電源は、処理チャンバに過熱水蒸気が導入されてから所定時間に渡り、放電処理装置に電源を供給せず、当該所定時間において処理チャンバ内の過熱水蒸気により処理対象物が前処理され、当該所定時間の経過後に、高周波電源が放電処理装置に電源を供給してバリア放電を生じさせるように構成するとよい。
【0013】
(5)本発明の過熱水蒸気処理装置では、放電処理装置は、バリア放電が生じる領域に気体を供給するためのガス供給口を有し、処理チャンバに過熱水蒸気を導入するときに、ガス供給口からアルゴンガス、ヘリウムガス、またはこれらの混合気体を、過熱水蒸気100重量部に対し20〜400重量部の割合で供給するように構成するとよい。
【0014】
(6)本発明の過熱水蒸気処理装置では、放電電極と対向電極との間に配置される絶縁体部材をさらに備えるとよく、(7)絶縁体部材は、放電電極の周囲を覆う被覆として設けられると特によい。
【0015】
(8)本発明の過熱水蒸気処理装置では、誘導加熱装置は、複数の隔壁により内部が複数の空間に仕切られた筒状の容器であり、隔壁のそれぞれは1または複数の開口部を有し、隣接する隔壁における開口部同士が対向しないように設けられるように構成するとよい。(9)また、開口部の最大径が5mm以下となるように構成するとさらによい。
【0016】
(10)本発明の過熱水蒸気処理装置では、隔壁で仕切られた空間に、球状もしくは不定形の磁性粒子が充填され、容器の内部の空隙率が30%以下となるように構成するとよい。
【0017】
(11)本発明の過熱水蒸気処理装置では、誘導加熱装置に供給される飽和水蒸気の圧力が、1.1〜1.5気圧となるように構成するとよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る過熱水蒸気処理装置によれば、反応性の高いヒドロキシラジカルを高濃度に含んだ過熱水蒸気により効率的に処理対象物を処理することができる過熱水蒸気処理装置を提供する
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔第1実施形態〕
以下、図面を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係る過熱水蒸気処理装置1を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る過熱水蒸気処理装置1の構成を示す模式図である。過熱水蒸気処理装置1は、ボイラー2、バルブ3、誘導加熱装置4、処理チャンバ5、放電処理装置6、およびベルトコンベア7を備える。
【0021】
ボイラー2は、図示せぬ水道の蛇口から供給される水を加熱、沸騰させ、飽和水蒸気を発生させる。ボイラー2に供給される水は浄水器により浄化された清浄水とすることが好ましい。ボイラー2が発生する飽和水蒸気の圧力は、1.1〜1.6気圧、好ましくは1.2〜1.4気圧に調節される。飽和水蒸気の圧力が1.1気圧を下回ると、誘導加熱装置4による過熱水蒸気の発生量が低下するので好ましくない。また、飽和水蒸気の圧力が1.6気圧を超えると、水分子のクラスターが分解されにくくなり、過熱水蒸気処理装置1の最終出力におけるヒドロキシラジカルの濃度が十分に高まらない原因となるので好ましくない。ボイラー2と誘導加熱装置4とはパイプにより連結され、パイプの途中にバルブ3が設けられる。バルブ3は、ボイラー2が発生した水蒸気を、後段の誘導加熱装置4に供給するか否かを切り替える流路開閉手段である。
【0022】
図2は、誘導加熱装置4の断面図である。誘導加熱装置4は、入口40aおよび出口40bを有する筒状の容器40と、その外周に断熱材41を介して巻回された銅線または銅管からなる高周波誘導コイル42と、高周波誘導コイル42に高周波電流を供給する高周波電源45と、容器40内に収容され、水蒸気が流通するとともに高周波電流により誘導加熱される誘導加熱部材43と、容器40の出口40b近傍に設けられ、誘導加熱により得られた過熱水蒸気の温度を検出する温度センサ46と、温度センサ46の検出結果に基づいて高周波電源45を制御するコントローラ47とを有する。
【0023】
容器40は、高周波誘導コイル42に流れる高周波電流により実質的に誘導加熱されず、かつ生成した過熱水蒸気により劣化しない材料からなるのが好ましい。このような材料として、非磁性ステンレス鋼(SUS304等)、アルミニウム、銅等の非磁性金属、セラミックス、耐熱ガラス、黒鉛等が挙げられる。非磁性金属を用いる場合、一層優れた耐食性を得るために、容器40の内壁をガラスコーティングしてもよい。メンテナンスを容易にするために、容器40をフランジを有する複数の円筒体により脱着自在に構成してもよい。
【0024】
容器40の内部は、複数個の隔壁48により仕切られており、それぞれの隔壁48には水蒸気を流通させるべく1個または複数個の開口部が設けられる。隣り合う隔壁48の開口部は、向き合うことがないように互いにずれた位置に設けられる。隔壁の表面に同心円状の溝を設け、該溝の底部に、開口部を設けるようにするとよい。この溝により、充填される誘導加熱部材43によって開口部が塞がれるのを防ぐことができる。開口部の位置をずらすことにより流動抵抗が高まるので、導入された水蒸気を容器内部に留めて誘導加熱部材43による加熱作用を効果的に受けることができる。又、粒子は下方にパックされ、上部には一定の空間が生ずるので、隔壁の上部には開口部を設けないようにするとよい。
【0025】
隔壁48の数は任意であるが、容器40の寸法の制約で、5〜30個が現実的である。例えば、板厚5mmの隔壁を0〜20mm間隔で配置するとよい。なお、隔壁48を0mmに近い微小な間隔で配置する場合には、隔壁48の表裏の壁面を中央部が窪んだ形状に形成して、隔壁48の周縁部における間隔を微小にしつつ、中央部では水蒸気が径方向に移動できる十分な空間を確保するようにするとよい。隔壁48に設ける開口部の最大径は5mm以下、好ましくは2mm以下とし、各隔壁48について10〜100個の範囲で設けることが好ましい。隔壁48の材質は、渦電流の発生効率に優れた軟磁性金属が好ましく、実用的には磁性ステンレス鋼(SUS430、SUS403、SUS447J1、SUSXM27等)が好適であるが、これに限定されるものではない。
【0026】
誘導加熱は、高周波磁界中に置かれた導電体に生ずる渦電流損または磁気ヒステリシス損により加熱する方法であるので、誘導加熱部材43は優れた軟磁性を有する材料からなるのが好ましい。さらに、誘導加熱部材43は過熱水蒸気により曝されるので、優れた耐食性を有するのが好ましい。このため、誘導加熱部材43は優れた耐食性を有する軟磁性金属からなるのが好ましい。このような金属として実用的には磁性ステンレス鋼(SUS430、SUS403、SUS447J1、SUSXM27等)が好ましい。その他、例えば炭素とホウ珪酸ガラスとからなるカーボンセラミックス等の導電性セラミックスを用いてもよい。誘導加熱部材43による加熱の作用を受けずに誘導加熱装置4を通過してしまう水蒸気の流束が無いよう、誘導加熱部材43の空隙率を30%以下として流動抵抗を高めることが好ましい。
【0027】
隔壁48により仕切られた空間を満たす誘導加熱部材43によって、導入された飽和水蒸気の最大流速が減少し、方向も変化する。隔壁48を通過して次の空間でも誘導加熱部材43によって、水蒸気の運動方向はバラバラになる。このように、隔壁48により仕切られた空間を通過していく度に、水蒸気の運動方向は完全にランダムになり、速度も均一化され、電磁誘導で発生した渦電流によって均一に加熱され、高周波の作用とあいまって、過熱水蒸気のクラスターは次第に小さく崩れて行く。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、誘導加熱部材43は、球状もしくは不定形の磁性粒子が好ましい。水蒸気との接触面積を増やすべく、不定形の粒子や異なる径の粒子を使用することが好ましい。また、粒子表面や壁面に凹凸を設けることも有効である。粒子径は特に限定されないが直径3〜9mm程度が好適で、隔壁48に設けた開口部を通過しない大きさとする。
【0029】
誘導加熱装置4により加熱して得られた過熱水蒸気は、パイプを通って処理チャンバ5に供給される。処理チャンバ5に導入される過熱水蒸気の温度は110〜250℃の範囲とされることが好ましい。処理チャンバ5は、放電処理装置6およびベルトコンベア7による搬送経路の一部を覆って内部と外部を隔絶し、内部を過熱水蒸気の雰囲気とする。
【0030】
放電処理装置6は、過熱水蒸気の雰囲気中に配置され、過熱水蒸気の雰囲気中でバリア放電を行うことで水分子をラジカル解離させ、過熱水蒸気中のヒドロキシラジカルの濃度を高める。
図3(a)は放電処理装置6を処理対象物100の搬送方向に垂直な方向から見た断面の構造を示す模式図である。また、
図3(b)は放電処理装置6を処理対象物100の搬送方向から見た断面の構造を示す模式図である。放電処理装置6は、フレーム61、放電管63、放電管保持部64、対向電極65、高周波電源66、高耐圧ケーブル67、およびガス供給口68を備える。
【0031】
フレーム61は、アルミニウム合金製の4本の支柱と梁により構成される放電処理装置6の支持枠である。フレーム61の天面は開放されており、四方の側面は上部が耐熱ガラス製の上部側壁62により囲まれている。上部側壁62は、放電処理がなされた過熱水蒸気が四方に散逸するのを防ぎ、放電処理装置6の下部を通る処理対象物100に効率よく。四方の側面の下部には側壁が設けられず支柱62を脚部として、ベルトコンベア7を跨いで配置される。
【0032】
図4は、放電管63の構造を示す外観図である。放電管63は、放電電極となる中心導体631の周囲を絶縁体632の管の中心部で囲んだ構造を有する。絶縁体の管632は、250〜300℃の高温雰囲気での高周波放電およびヒドロキシラジカルによる腐食に耐えなければならない。このような要求を満たすべく、例えば、外径3〜30mmφ、肉厚0.5〜3mmの石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミナなどの、ガラスやセラミックを使用することができる。放電管63の長さに製薬はないが、フレーム61や処理チャンバ5のサイズ、強度等を勘案し、例えば100〜500mm程度とするとよい。なお、耐腐食性を求めずに、絶縁体による被覆を備えない構成とすることも可能である。中心導体631は直径0.1〜10mmφのタングステン、モリブデン、ステンレス合金(SUS304など)、ニッケルクロム合金(インコネルなど)などの耐食性、加工性、コストの要件を満たす材料が使用される。電極の径が小さ過ぎると、たわみが生ずるので、たわみを防ぐべくテンションを掛ける必要があり、また放電で劣化し、耐久性に問題を生ずる。したがって、中心導体631の直径を長さの50分の1程度以上とし、十分な強度を確保してたわみが生じにくくするとよい。中心導体631およびそこから引き出すリード線と対向電極65との間での意図せぬ放電を抑制すべく、対向電極65と中心導体631は、その端部は管632の端部よりも20mm程度内側になるよう配置される。なお、中心導体631(放電電極)の形状は上記に限らず、板状、角棒状、線状等であってもよいし、絶縁体の管632の内面に金属もしくは金属を分散した塗料を、メッキもしくは塗装して形成されてもよい。
【0033】
放電管保持部64は、放電管63を、フレーム61との間の絶縁を確保しつつ略水平に保持する。本実施形態において放電管保持部64が保持する放電管63の数は5本であるが、放電管63の数はこれよりも多くても構わないし、少なくても構わない。放電管保持部64は、高周波高圧放電の絶縁部材としての要求を満たすべくテフロン(登録商標)製が好ましい。無酸素雰囲気中(0.5%以下、好ましくは0.2%以下)の使用に限定すれば、耐熱性のシリコーン樹脂製、またはゴム製のものを使用してもよい。また、処理対象物100を均一に処理すべく、放電管保持部64は、放電管63の長手方向がベルトコンベア7による搬送方向と直交するように、放電管63を保持する。
【0034】
対向電極65は、5〜100メッシュ(1インチ当たりの目数)のステンレス合金(SUS304など)などの金属製エッチング板、プレス板を用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。対向電極65のベルトコンベア7による搬送方向に沿った長さは、放電管63が配置されている領域の長さと同程度以上とされる。また、対向電極65の幅(すなわちベルトコンベア7による搬送方向に直交する方向の長さ)は、リード線等と対向電極65との間での意図せぬ放電を抑制すべく、放電管63の長さよりも短く形成され、幅方向について全領域が放電管63と対向するように配置される。対向電極65の幅方向両端部には、絶縁体のフリンジ65aが設けられる。対向電極65は、フレーム61における上部側壁62の下端よりもやや下側の位置に固定される。放電電極間距離(放電管63と対向電極65との距離)は15mm以下とするのが好ましく、放電沿面距離が40〜60mmとなるように放電管63と対向電極65を配置することが好ましい。放電管63と金属メッシュで形成された対向電極65との間で放電が起こるので、処理対象物100の形状や物性、フィード量による放電状態への影響がなく、負荷が一定となり、安定放電時の電圧を低く抑えることができる。また、処理対象物100に直接放電照射すると、局部的に高エネルギー(高温)になり、処理対象物100がダメージを受けるおそれがあるが、放電管63と金属メッシュで形成された対向電極65との間での放電を利用する本実施形態の手法では処理対象物100が損傷する虞がない。対向電極65がメッシュ状に形成されるため、放電処理により発生するヒドロキシラジカルが、対向電極65を透過して、フレーム61の下部の領域に容易に到達する。
【0035】
高周波電源66は、放電管63と対向電極65との間に印加する高周波高電圧を発生する電源である。印加周波数は5〜50kHzの範囲で任意に選択できるが、適切な放電とヒドロキシラジカル濃度を得るためには、10〜30kHzの範囲内とすることが好ましい。周波数は高い方が小さな電力消費量でパワーが得られる。これより低い場合は、放電の回数が減少しヒドロキシラジカルの濃度が高くならない。周波数が高すぎる場合は、絶縁シールドが困難になり(漏洩磁束が大きくなり)、エネルギー効率が低下し、感電の危険性も増加する。さらに、軟磁性金属の磁化が生じ、時計などの機械の故障の原因にもなる。
【0036】
放電開始時の印加電圧は1〜100kVの範囲内で、安定な放電が得られる最適な条件を選択すればよいが、一般的には5〜20kVが好ましい。電圧がこれより低い場合は、電極とアース間の距離を小さくしないと安定した放電が得られないので、プラズマの発生面積が小さくなり、量産に向かない。反対に、電圧が高い場合は、絶縁シールドが困難になり、エネルギー効率が低下し、感電の危険性も増加する。消費電力は0.1〜10kWで、処理対象物100の処理目標に応じて任意に設定することができる。一例として、高周波電源66は、±10kV、25kHz、600Wの交流(正弦波)電圧を発生する。高周波電源66により発生された電圧は高耐圧ケーブル67を介して放電管63に印加される。高耐圧ケーブル67は、絶縁性を確保すべくテフロン製の被膜が中心導体の周りに施されることが好ましい。なお、無酸素雰囲気中(0.5%以下、好ましくは0.2%以下)の使用に限定すれば、耐熱性のシリコーン樹脂、またはゴムの被膜によるものを使用してもよい。
【0037】
ガス供給口68は、フレーム61における上部側壁62に囲まれた領域内の放電雰囲気にアルゴンガス、ヘリウムガス等の各種ガスを供給するためのガス供給口である。ガス供給口68は、放電管63よりも上部に配置され、処理チャンバ5の外部のガス供給源(図示しない)と配管により接続される。放電雰囲気中にアルゴンガス、ヘリウムガス、またはこれらの混合気体を導入することで、プラズマの寿命を延ばし、活性な空間を倍増できる。導入量は、過熱水蒸気の100重量部に対して20〜400重量部が効果的である。導入量が多すぎると活性が低下する。また、導入する飽和水蒸気にアルゴンガスを50体積%(222重量部)含ませると結露点を81.8℃まで下げることが可能となり、90℃で安定な活性な水蒸気プラズマを発生することができ、適用できる素材の範囲が大幅に広がる。さらに、必要に応じて、酸素、二酸化炭素、などを導入して、滅菌、親水化(水酸基の導入)、水酸基以外の極性基の導入などの付加的な作用効果を得ることが可能である。
【0038】
放電処理装置6を上記のような構成とすることで、放電に要するエネルギーを最小化でき、放電処理のエネルギー効率が改善される。放電方法は、バリア放電以外にも、縁面放電、コロナ放電、アーク放電等が使用可能であり利用目的や照射条件・制約によって最適な方法を選択すればよいが、安定して大きな出力が得られる点でバリア放電が優れる。
【0039】
ベルトコンベア7は、処理対象物100を搬送する搬送手段である。ベルトコンベア7は、処理チャンバ5の外部から内部に処理対象物100を搬入し、処理チャンバ5の内部での搬送中に過熱水蒸気雰囲気による前処理および活性度が高められた過熱水蒸気による処理を受けさせ、処理を終えた処理対象物100を処理チャンバ5の外部に搬出する。処理チャンバ5内の搬送経路では、上流部において処理チャンバ5内部の過熱水蒸気雰囲気に晒して前処理を行う。この前処理では、処理対象物100の予熱、水分乾燥、および脱酸素が行われる。また、搬送経路の下流部では、放電処理装置6における対向電極65の直下を通過させてヒドロキシラジカルが高濃度に含まれた活性な加熱水蒸気による処理を行う。
【0040】
続いて、
図5に示すフローチャートを参照して、第1実施形態に係る過熱水蒸気処理装置1による処理の手順を説明する。
まず、ボイラー2により100℃以上、例えば110〜140℃の飽和水蒸気を発生させる(S1)。この飽和水蒸気の圧力は1.1〜1.6気圧の範囲とする。バルブ3を開放して、飽和水蒸気を誘導加熱装置4に供給する(S2)。続いて、誘導加熱装置4にて、飽和水蒸気を加熱して過熱水蒸気を発生させる(S3)。過熱水蒸気の温度は、200〜350℃の範囲で所望の温度となるように制御される。発生した過熱水蒸気は、パイプを介して処理チャンバ5に供給される。処理チャンバ5の内部は、過熱水蒸気が充満し、供給される過熱水蒸気の温度や流量に応じて例えば、190〜350℃の範囲内の所望の温度とされる。
【0041】
処理チャンバ5内に過熱水蒸気が導入されると、放電処理装置6には、ガス供給口68からアルゴンガスが供給される(S4)。アルゴンガスは飽和水蒸気が誘導加熱装置4に供給されるタイミングで供給されるようにしてもよい。また、このステップを省き、アルゴンガスを供給しない態様としても構わない。放電処理装置6は、供給される過熱水蒸気をバリア放電によって処理し、ヒドロキシラジカルを高濃度に含む過熱水蒸気を生成する(S5)。
【0042】
放電処理装置6による放電処理と並行して、処理チャンバ5にはベルトコンベア7により、処理対象物100が搬入される(S6)。処理対象物100は、処理チャンバ5内に搬入されてから放電処理装置6の下部に搬送されるまでの間、処理チャンバ5内に充満する過熱水蒸気によって予熱、水分乾燥、および脱酸素といった前処理が行われる(S7)。前処理の時間は処理チャンバ5内での放電処理装置までの搬送距離と搬送速度によって定まる。その後、処理対象物100が放電加熱装置6の下部に到達すると、放電処理装置6によるバリア放電により生成したヒドロキシラジカルを高濃度に含む過熱水蒸気によって処理対象物100に対し、水分乾燥、炭化等の処理が行われる(S8)。処理時間は放電処理装置6の長さと搬送速度とによって定まる。放電処理装置6の下部を通過した処理対象物100は、処理チャンバ5から搬出され(S9)、一連の処理が終了する。
【0043】
上述の過熱水蒸気処理装置1によれば、反応性の高いヒドロキシラジカルを高濃度に含んだ過熱水蒸気により効率的に処理対象物100を、連続的に処理することができる。
【0044】
〔第2実施形態〕
図6は、本発明の第2実施形態に係る過熱水蒸気処理装置1の構成を示す。本実施形態の特徴は、第1実施形態におけるベルトコンベア7を備えず、処理対象物100が放電処理装置6における対向電極65の直下に載置される点にある。なお、ベルトコンベア7を備えない構成としたことに伴う変更点以外については、上述した第1実施形態と同様なので、ここでの説明を省略する。
【0045】
以下、
図7に示すフローチャートを参照して、第2実施形態に係る過熱水蒸気処理装置1による処理の手順を説明する。
処理に先立ち、処理対象物100を放電処理装置6における対向電極65の直下に載置しておく。処理を開始すると、ボイラー2により100℃以上、例えば110〜140℃の飽和水蒸気を発生させる(S101)。この飽和水蒸気の圧力は1.1〜1.6気圧の範囲とする。バルブ3を開放して、飽和水蒸気を誘導加熱装置4に供給する(S102)。続いて、誘導加熱装置4にて、飽和水蒸気を加熱して過熱水蒸気を発生させる(S103)。過熱水蒸気の温度は、200〜350℃の範囲で所望の温度となるように制御される。発生した過熱水蒸気は、パイプを介して処理チャンバ5に供給される。処理チャンバ5の内部は、過熱水蒸気が充満し、供給される過熱水蒸気の温度や流量に応じて例えば、190〜350℃の範囲内の所望の温度とされる。
【0046】
処理チャンバ5内に過熱水蒸気が導入されると、放電処理装置6には、ガス供給口68からアルゴンガスが供給される(S104)。アルゴンガスは飽和水蒸気が誘導加熱装置4に供給されるタイミングで供給されるようにしてもよい。処理チャンバ5内に過熱水蒸気が供給されてから所定時間(例えば15分間)に渡って放電処理装置6に電源を供給せず、予熱、水分乾燥、および脱酸素といった前処理が行われる(S105)。
【0047】
所定時間が経過後、放電処理装置6の電源を投入し、過熱水蒸気をバリア放電によって処理して、ヒドロキシラジカルを高濃度に含む過熱水蒸気を生成する。処理対象物100は、ヒドロキシラジカルを高濃度に含む過熱水蒸気によって、水分乾燥、炭化等の処理が行われる。放電処理を所定時間(例えば5分間)行う(S106)。その後、放電処理装置6への電源供給を終了して一連の処理が終了する。そして、処理後に処理対象物100を処理チャンバ5から搬出する。
【0048】
第2実施形態の過熱水蒸気処理装置1によれば、反応性の高いヒドロキシラジカルを高濃度に含んだ過熱水蒸気により効率的に処理対象物100をバッチ処理により処理することができる。
【実施例】
【0049】
[実施例1]
誘導加熱装置に用いる容器として、SUS430製で外径120mmΦ、肉厚5mm、長さ250mmのものを使用した。飽和水蒸気の進行方向に10mmの空間を設け、その先に第1番目の隔壁を設けた。更に飽和水蒸気の進行方向に沿って10mm間隔で隔壁を設けた。各隔壁の板圧は、5mmとし、表面には円の外周に沿って幅2mm、深さ2mm、半径90mm、70mm、50mmの同心円状の溝を設けた。該溝の底部に、2mmΦの貫通口を等間隔に設けた。ペレット(誘導加熱部材43)は、5mmΦのSUS430粒子とし、各空間一杯に充填した。誘導加熱装置に用いる高周波電源は、入力電圧を200VAC、60Hz、20kWの商用電源とし、インバータによって20kHzの高周波高電圧としたうえで、二次側の誘導コイル(10mmΦの純銅線10巻き)に、高周波電圧を印加した。
【0050】
放電処理装置に用いる放電管は、外径10mmΦ、内径6mmΦ、長さ250mmの人工石英ガラスパイプを絶縁体とし、外径5mmΦ、長さ280mm、のSUS304製の電極を中心導体とした。この放電管を放電管保持部により吊り下げ式で5本セットした。隣接する放電管の中心間距離は30mmとし、ベルトコンベアの搬送方向に沿って概ね150mmに渡り放電雰囲気が発生するように構成した。対向電極には、SUS304製の20メッシュのエッチング板を用いた。印加電圧は±10kVAC、20kHz、600Wとした。放電処理装置は、幅50cm、高さ50cmのベルトコンベアをまたぐ形で設置した。処理チャンバ内で前処理のための搬送距離は600mmとし、ベルトコンベアベルトコンベアの搬送速度は30mm/分とすることで20分間の前処理と、5分間の放電雰囲気による処理を実施した。
【0051】
発熱体の温度を、300℃〜400℃、処理チャンバ7内の温度を190℃〜260℃の間で変化させて実験を行なった。断面幅1〜2mm、長さ5〜15mm、含水率10%の竹チップ100gを処理したところ、処理チャンバ内200℃、5分の処理で、均一な竹炭が得られた。この時の発熱体の温度は、315℃だった。
【0052】
[実施例2]
実施例1において、放電開始の1分前から、8L/分の流量でアルゴンガスを混合した。このときの過熱水蒸気100重量部に対するアルゴンガスの供給量は50重量部であった。他の条件は実施例1と同様とした。実施例1と同じ竹チップ500gを処理したところ、処理チャンバ内200℃、5分の処理で、均一な竹炭が得られた。アルゴンガスを50重量部混合したことで、同じ条件での収量が5倍に増加した。
【0053】
[実施例3]
実施例1の誘導加熱装置に代えて、市販の過熱水蒸気発生装置(野村技工製、ジェネシス)を、25kHz、20kW、の条件で使用した。過熱水蒸気発生装置の温度を、350℃〜550℃、処理チャンバ内の温度を220℃〜350℃の間で変化させて実験を行なった。実施例1と同じ竹チップ100gを処理したところ、処理チャンバ内230℃、20分の処理で、均一な竹炭が得られた。この時の過熱水蒸気発生装置の温度は、360℃であった。なお、放電処理をした過熱水蒸気が照射されていない部分は殆ど炭化しなかった。
【0054】
[実施例4]
実施例3におけるベルトコンベアを取り除き、放電処理装置の直下に処理対象物を載置するバッチ処理式の過熱水蒸気処理装置を用いて、15分間過熱水蒸気のみで処理し、しかる後に、放電処理装置の電源を投入し、さらに5分間の放電処理を行なった。この結果、実施例3と同等の結果を得た。
【0055】
[比較例]
誘導加熱装置として実施例1と同じものを用いた。一方、放電処理装置として、実施例1のものとは異なり、
図8に示した構造の放電処理装置8に過熱水蒸気を導入して放電処理を行い、これにより得られた放電処理済みの過熱水蒸気を配管を通して処理対象物の近傍に吐出する形式のものを用いた。具体的には、放電管81としては、外径20mmΦ、肉厚2mm、長さ110mmの石英ガラスの管、直径2mmΦのSUS304を中心導体82とした。放電管81のフランジは、ヒートショックによるガラスの割れを防ぐために、約300℃に耐えるテフロン栓を用い、誘導加熱装置の過熱水蒸気吐出口のフランジに接合される過熱水蒸気導入口のフランジには、耐熱性のシリコーンゴムを使用した。放電管81の中央付近の外周に20メッシュ、幅50mmのステンレス合金(SUS304)製の対向電極83を設け、接地した。両端を30mmずつ空けた。高周波電源84による印加電圧は±10kVAC、25kHz、600Wとした。
【0056】
誘導加熱装置と放電処理装置をシリコーンゴムで接合し、放電管の長手方向が垂直になるように配置した。この装置を用い、誘導加熱装置の温度を、350℃〜550℃、処理チャンバ内の温度を220℃〜350℃の間で変化させて実験を行なった。実施例1と同じ竹チップを放電管の過熱水蒸気吐出口から5mm離れた位置に、吐出口中心から半径50mmの範囲に厚さ5mmに敷き詰めた。処理チャンバ内250℃で30分バリア放電を掛けつつ過熱水蒸気照射したところ、吐出口直下で良質な竹炭が得られた。この時の発熱体の温度は、400℃だった。
【0057】
以上で説明したとおり、改良された誘導加熱装置を用いている比較例においても従来と比べ処理温度の低温化が実現されているが、実施例1〜4では、その比較例と比べ、さらに処理温度を低温度化し、時間も大幅に短縮した。
【0058】
従来技術では、木質の炭化温度は350℃が下限であり、処理後に、発火を防止するために、水を掛けるなどして、強制冷却する必要があった。また、誘導加熱装置は550℃の高温で連続運転する必要があり、装置に使用する部品や、加工コストを押し上げている要因であった。さらに、数か月で発熱体が劣化する問題もあり、過熱水蒸気の普及の妨げになっていた。
【0059】
本発明によって、実験室レベルの量であれば、250℃20分の処理で、良質な竹炭が得られた。この時の発熱体の温度は、400℃だった。また、従来の方法では炭化されなかった、表面積が大きい、100ミクロン以下に分散された木粉も低温炭化できることが分かった。
【0060】
また、過熱水蒸気の処理チャンバ内にビルトインされた放電処理装置を下流側に置き、上流側で過熱水蒸気によって前処理をすることで、これまでは達成されなかった工業生産レベルでの、低温度での木炭の炭化が可能になった。
【0061】
即ち、250℃以下の低温で(木材チップの含水率が20%以下であれば200℃の低温でも)、炭化させることができる。このような低温の処理条件では、処理後未冷却のまま空気に曝しても炭化したチップが発火しないので、水をかける必要がなく、乾燥した木炭が得られる。さらに、タールを多く含んだ排水が生じず、製造された木炭は水を掛けないので、再度乾燥する必要が無くなった。