特許第6130215号(P6130215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6130215
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】春巻皮の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20170508BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20170508BHJP
【FI】
   A23L7/109 D
   A23L35/00
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-106900(P2013-106900)
(22)【出願日】2013年5月21日
(65)【公開番号】特開2014-226067(P2014-226067A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2015年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 敦行
(72)【発明者】
【氏名】長井 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】利光 菜由
(72)【発明者】
【氏名】新納 多恵
【審査官】 松波 由美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−238646(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/080722(WO,A1)
【文献】 特開2002−186437(JP,A)
【文献】 特開2007−189990(JP,A)
【文献】 特開2009−044986(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/072656(WO,A1)
【文献】 特開昭53−062845(JP,A)
【文献】 HOLLUNG K. et al.,"Evaluation of nonstarch polysaccharides and oligosaccharide content of different soybean varieties (Glycine max) by Near-Infrared Spectroscopy and Proteomics",J. Agric. Food Chem., 2005, 53(23), pp.9112-9121
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 23/00−25/10;35/00
A23L 7/109
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉原料を主原料とする生地を調製する工程を含み、該工程において該生地の原料として、大豆多糖類を該穀粉原料100質量部に対して外割りで0.1〜15質量部用いる春巻皮の製造方法。
【請求項2】
前記穀粉原料は、米粉を含む請求項1に記載の春巻皮の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の春巻皮の製造方法によって春巻皮を製造する工程、及び該工程において製造した前記春巻皮を用いて春巻を製造する工程を含む、春巻の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、春巻皮の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
春巻は、子供から大人まで多くの人々に好まれる油ちょう食品であり、近年は、電子レンジ等の家庭用マイクロ波装置を用いて解凍加熱するだけで喫食可能な冷凍春巻も広く普及している。油ちょう後あるいは電子レンジ等による加熱後の春巻には、パリパリとしたクリスピーな食感で、過度の油感(油っぽさ)の無いことが要望されており、斯かる食感を実現し得る春巻皮の開発が行われている。
【0003】
春巻皮等の麺皮食品に関し、特許文献1には、大豆由来の蛋白質を高配合しつつも、作業性や食感の低下が抑制された麺皮類として、水抽出低変性大豆蛋白質組成物を配合した麺皮類が記載されている。特許文献1によれば、この水抽出低変性大豆蛋白質組成物は、大豆原料から水抽出により繊維質を除去して得られるもので、蛋白質の純度が高く変性度が低いとされている。この大豆原料から水抽出により除去される繊維質には、大豆多糖類が含まれると考えられ、特許文献1には、麺皮類の原料として大豆多糖類を用いることは記載されていない。
【0004】
また特許文献2には、油ちょう食品の油ちょう時間短縮剤として、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤を用いることが記載されている。油ちょう時間の短縮は、主として、調理時間の短縮やエネルギーコストの低減に寄与するものであるが、喫食時の油感の減少にも寄与し得る。特許文献2に記載の油ちょう時間短縮剤は、油ちょう食品を油ちょうする際に用いられる油脂に添加して使用されるものであり、特許文献2には、油ちょう食品自体の改良によりその喫食時の油感を減少させる技術は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/072656号
【特許文献2】特開2012−191928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、パリパリとしたクリスピーな食感で過度の油感が低減された春巻皮を提供し得る春巻皮の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、穀粉原料を主原料とする生地を調製する工程を含み、該工程において該生地の原料として、大豆多糖類を該穀粉原料100質量部に対して外割りで0.1〜15質量部用いる春巻皮の製造方法である。
【0008】
また本発明は、前記製造方法により製造された春巻皮である。また本発明は、前記春巻皮を用いた春巻である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の春巻皮の製造方法によれば、パリパリとしたクリスピーな食感で過度の油感が低減された春巻皮が得られる。本発明の製造方法により製造された春巻皮及びそれを用いた春巻は、調理(油ちょう)後の油感が低減されていて、食感が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の春巻皮の製造方法は、穀粉原料を主原料とする生地を調製する工程(生地調製工程)を含み、より具体的には、各種原料及び水を混捏して流動状生地を調製する生地調製工程と、該生地を焼成する生地焼成工程とを含む。
【0011】
本発明において主原料として用いられる穀粉原料としては、この種の麺皮類(春巻皮)の主原料として通常用いられるものを特に制限無く用いることができ、例えば、薄力粉、中力粉、強力粉等の小麦粉の他、そば粉、コーンフラワー、大麦粉、ライ麦粉、はとむぎ粉、ひえ粉、あわ粉等の穀粉類;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉等の澱粉及びこれらのα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理、酸化処理等の処理を施した加工澱粉等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。尚、本明細書において、単に「小麦粉」という場合は、特に断らない限り、熱処理されていない通常の小麦粉を意味する。
【0012】
本発明で用いられる穀粉原料には、米粉が含まれていても良い。本発明で用いられる米粉は、米を粉砕して粉末状にしたものである。米粉の原料となる米の種類は特に制限されず、粳米を原料とした粳米粉でも良く、糯米を原料とした糯米粉でも良く、あるいはこれらの混合物でも良い。また、米粉としては、酒製造時の副産物である糠(例えば中糠、中白糠、白糠)を用いることもできる。また、米粉の粒度分布及び粒径も特に制限されない。
【0013】
穀粉原料に米粉を含有させる場合、その含有量は、穀粉原料中、好ましくは1〜70質量%、更に好ましくは5〜40質量%である。穀粉原料に米粉を斯かる範囲内で含有させることにより、得られる春巻皮の食感及び風味が一層向上し、特に、後述する大豆多糖類による効果と相俟って、パリパリとしたクリスピー感の一層向上及び油感の一層の低減が奏される。
【0014】
本発明の主たる特徴の1つとして、春巻皮用生地の原料として、穀粉原料に加えて更に、大豆多糖類を特定量用いる点が挙げられる。春巻皮用生地に大豆多糖類を特定量含有させることで、パリパリとしたクリスピーな食感で過度の油感が低減された春巻皮の提供が可能となる。従来、麺類の一種である麺線の分野において、麺線の製造に際して麺線どうしが付着するのを抑制する目的で、麺線の表面に大豆多糖類を付着させる技術は知られているが、春巻皮の如き麺皮類の分野において、生地の原料として大豆多糖類を用いることは知られていない。
【0015】
本発明で用いる大豆多糖類は、大豆に由来する水溶性の多糖類であり、大豆食物繊維又は水溶性大豆ヘミセルロース等と称されるものを含み、主要な構成糖として、ラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース、ウロン酸等を含む。本発明では、種々の方法で得られる大豆多糖類を用いることができる。本発明で用いる大豆多糖類は、豆腐、豆乳、分離大豆蛋白質の製造時に副産物として得られるオカラ、あるいは、大豆から蛋白質を抽出した残渣等を原料として、該原料にアルカリ処理、加水分解処理等を施して製造される。本発明で用いる大豆多糖類の製造方法として、例えば、大豆から豆乳を分離した残渣(オカラ)を、親水性有機溶媒を含むアルカリ性水溶液で抽出し、固形物を採取する方法(特公昭60−31841号公報)、大豆皮から温水又はアルカリ水溶液で抽出して製造する方法(特開昭60−146828号公報)、大豆植物繊維を微細化し、繊維中の蛋白質を分解した後、水溶性多糖を分画し製造する方法(特開平3−067595号公報)、蛋白質を含有する水溶性大豆食物繊維を蛋白質の等電点付近の酸性条件下で加水分解して製造する方法(特開平3−236759号公報)等が挙げられる。本発明では市販の大豆多糖類を用いることもでき、例えば、不二製油株式会社製の商品名「ソヤファイブ」が挙げられる。
【0016】
本発明に係る生地調製工程においては、大豆多糖類を穀粉原料100質量部に対し、外割りで0.1〜15質量部、好ましくは1〜10質量部用いる。即ち、春巻皮用生地における大豆多糖類の含有量は、主原料の穀粉原料100質量部に対し、外割りで0.1〜15質量部、好ましくは1〜10質量部である。複数種の大豆多糖類を用いる場合は、各大豆多糖類の使用量の合計が、前記特定範囲内に収まるように調整する。春巻皮用生地に大豆多糖類を含有させても、その含有量が前記特定範囲より少ないと、調理後の食感の向上効果及び油感の減少効果に乏しい結果となるおそれがあり、また、その含有量が前記特定範囲より多いと、大豆多糖類の影響が強まり過ぎて作業性(春巻皮の成形性)が低下するおそれがある。
【0017】
本発明においては、春巻皮用生地の原料として、前述した小麦粉、米粉等の穀粉原料(主原料)及び大豆多糖類の他に、必要に応じ、他の成分を用いることができる。この他の成分としては、この種の麺皮類(春巻皮)の原料として通常用いられるもので、且つ本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されず、例えば、卵白、卵黄、乳類、小麦蛋白、色素、増粘多糖類(ローカストビーンガム、ジェランガム、グアーガム、キサンタンガム、カラギーナン等)、アミノ酸(アラニン、グリシン、リジン等)、油脂、食塩、乳化剤等が挙げられ、これらの1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明の春巻皮の製造方法は、前述した特定の原料を用いる点以外は、この種の麺皮類(春巻皮)の製造方法に準じて実施可能である。前記生地調製工程において、流動状生地の粘度調整は、水の配合量を適宜変更することにより実施可能である。また、前記生地焼成工程において、生地の焼成は、常法に従って行うことができ、例えば、流動状生地を、回転する加熱ドラム上に膜状に落下させて焼成することにより実施可能である。
【0019】
一般に春巻皮は、他の麺皮類(餃子、シューマイ、小籠包等の春巻以外の他の麺皮食品の皮)に比して厚みが薄いこと等に起因して、調理後(油ちょう後)の食感及び油感等に関して、パリパリ感やクリスピー感等の独特の食感が他の麺皮類に比して得られ難いところ、本発明の製造方法によれば、油ちょう後にそのような独特の食感を有する春巻皮を提供し得る。従って、本発明の製造方法により製造された春巻皮を用いた春巻は、油ちょう後に喫食すると、過度の油感が低減されていて、パリパリとしたクリスピーな独特の食感が得られる。また、この春巻は、冷凍保存又は冷蔵保存することができ、その場合、春巻皮で具材を包み込んだ後、調理(油ちょう等)せずに冷凍保存又は冷蔵保存しても良く、調理してから冷凍保存又は冷蔵保存しても良い。調理せずに冷凍保存又は冷蔵保存した春巻は、冷凍保存又は冷蔵保存後、調理して食に供される。また、調理してから冷凍保存又は冷蔵保存した春巻は、冷凍保存又は冷蔵保存後、再調理しても良く、電子レンジ等のマイクロ波加熱処理しても良い。
【実施例】
【0020】
本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0021】
〔実施例1〜4及び比較例1〜4〕
先ず、下記表1に示す各種原料を用い、常法に従ってこれらを混捏して流動状生地を調製した。より具体的には、市販の縦軸ミキサー(愛工舎製、商品名「卓上KENMIX」)に、下記表1に示す各種原料並びに食塩1質量及び水125質量部を投入し、低速で30秒間、続いて中速で1分間混合して、流動状生地を調製した(生地調製工程)。流動状生地の粘度は、全ての実施例及び比較例において略同じ(約13000Pa・s)になるように、加水量を適宜変更して調整した。次いで、流動状生地を、ドラム型焼成機を用いてそのドラム面上で焼成し(生地焼成工程)、厚さ0.5〜0.55mmの帯状の春巻皮を製造した。下記表1中、小麦粉としては、日清製粉株式会社製の商品名「特ナンバーワン」を用い、大豆多糖類としては、不二製油製の商品名「ソヤファイブ」を用いた。
【0022】
こうして得られた各実施例及び比較例の帯状の春巻皮を、190mm×190mmにカットし、該春巻皮の上に予め調理しておいた具材を載せ、該春巻皮を巻き上げて、揚げ用春巻をそれぞれ10個製造した。この揚げ用春巻の各10個を175〜180℃のサラダ油で油ちょうした後、その油ちょう直後(油ちょう後30分以内)に食感官能試験に供した。
【0023】
前記食感官能試験は、10名のパネラーに、春巻を食した際のパリパリ感及び油感(油っぽさ)をそれぞれ下記評価基準に基づき評価してもらうことによって実施した。その評価結果(パネラー10名の平均点)を下記表1に示す。
【0024】
<パリパリ感の評価基準>
5点:パリパリ感があり、非常に良好。
4点:パリパリ感がかなりあり、良好。
3点:パリパリ感が多少ある。
2点:ややパリパリ感が無く、やや不良。
1点:パリパリ感が無く、不良。
【0025】
<油感の評価基準>
5点:油分がほとんどなく、非常に良好。
4点:油分があまりなく、良好。
3点:油分が少し存在した。
2点:油分が存在し、やや不良。
1点:油分がかなり存在し、不良。
【0026】
【表1】