特許第6130522号(P6130522)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6130522ウエハ加工体、ウエハ加工用仮接着材、及び薄型ウエハの製造方法
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  • 特許6130522-ウエハ加工体、ウエハ加工用仮接着材、及び薄型ウエハの製造方法 図000032
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6130522
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】ウエハ加工体、ウエハ加工用仮接着材、及び薄型ウエハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20170508BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20170508BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   H01L21/02 C
   H01L21/304 622J
   C09J183/04
【請求項の数】19
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2015-559809(P2015-559809)
(86)(22)【出願日】2015年1月21日
(86)【国際出願番号】JP2015000253
(87)【国際公開番号】WO2015115060
(87)【国際公開日】20150806
【審査請求日】2016年7月4日
(31)【優先権主張番号】特願2014-14348(P2014-14348)
(32)【優先日】2014年1月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】田上 昭平
(72)【発明者】
【氏名】菅生 道博
【審査官】 堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−243350(JP,A)
【文献】 特開2013−110391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
C09J 183/04
H01L 21/304
B32B 7/06
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に仮接着材層が形成され、かつ仮接着材層上に、表面に回路面を有し、裏面を加工すべきウエハが積層されてなるウエハ加工体であって、
前記仮接着材層が、前記ウエハの表面に剥離可能に接着された熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)からなる第一仮接着層と、該第一仮接着層に剥離可能に積層された熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)からなる第二仮接着層と、該第二仮接着層に剥離可能に積層され、前記支持体に剥離可能に接着された熱硬化性シロキサン重合体層(C)からなる第三仮接着層との3層構造を有する複合仮接着材層を備えたものであることを特徴とするウエハ加工体。
【請求項2】
前記熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)が、R1112SiO2/2で表されるシロキサン単位(D単位)を99.000〜99.999モル%、R131415SiO1/2で表されるシロキサン単位(M単位)を1.000〜0.001モル%、R16SiO3/2で表されるシロキサン単位(T単位)を0.000〜0.500モル%含有し(但し、R11、R12、R13、R14、R15、R16はそれぞれ非置換又は置換の1価炭化水素基を示す。)、かつ重量平均分子量が200,000〜1,000,000で、更には分子量740以下の低分子量成分が0.5質量%以下である非反応性オルガノポリシロキサン層であることを特徴とする請求項1に記載のウエハ加工体。
【請求項3】
前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)が、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有する重量平均分子量が3,000〜500,000のシロキサン結合含有重合体100質量部に対して、架橋剤としてホルマリン又はホルマリン−アルコールにより変性されたアミノ縮合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、1分子中に平均して2個以上のメチロール基又はアルコキシメチロール基を有するフェノール化合物、及び1分子中に平均して2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物から選ばれるいずれか1種以上を0.1〜50質量部含有する組成物の硬化物層であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウエハ加工体。
【化1】
[式中、R〜Rは同一でも異なっていてもよい炭素原子数1〜8の1価炭化水素基を示す。また、mは1〜100の整数であり、Bは正数、Aは0又は正数である。Xは下記一般式(2)で示される2価の有機基である。
【化2】
(式中、Zは
【化3】
のいずれかより選ばれる2価の有機基であり、Nは0又は1である。また、R、Rはそれぞれ炭素原子数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基であり、相互に同一でも異なっていてもよい。kは0、1、2のいずれかである。)]
【請求項4】
前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)が、下記一般式(3)で示される繰り返し単位を有する重量平均分子量が3,000〜500,000のシロキサン結合含有重合体100質量部に対して、架橋剤として1分子中に平均して2個以上のフェノール基を有するフェノール化合物、及び1分子中に平均して2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物から選ばれるいずれか1種以上を0.1〜50質量部含有する組成物の硬化物層であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウエハ加工体。
【化4】
[式中、R〜Rは同一でも異なっていてもよい炭素原子数1〜8の1価炭化水素基を示す。また、mは1〜100の整数であり、Bは正数、Aは0又は正数である。更に、Yは下記一般式(4)で示される2価の有機基である。
【化5】
(式中、Vは
【化6】
のいずれかより選ばれる2価の有機基であり、pは0又は1である。また、R、Rはそれぞれ炭素原子数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基であり、相互に同一でも異なっていてもよい。hは0、1、2のいずれかである。)]
【請求項5】
前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)が、
(C−1)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
(C−2)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子(Si−H基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(C−1)成分中のアルケニル基に対する(C−2)成分中のSi−H基のモル比が0.3から10となる量、
(C−3)白金系触媒、
を含有する組成物の硬化物層であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のウエハ加工体。
【請求項6】
前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)が、更に、(C−4)成分として反応制御剤:前記(C−1)および前記(C−2)成分の合計100質量部に対して0.1から10質量部、
を含有するものであることを特徴とする請求項5に記載のウエハ加工体。
【請求項7】
前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)に積層された前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)の前記重合体層(C)から界面剥離する際の熱硬化後におけるピール剥離力が、25mm幅の試験片の180°ピール剥離力で2gf以上50gf以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のウエハ加工体。
【請求項8】
前記熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)が、前記ウエハの表面に部分的に形成され、剥離可能に接着されたものであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のウエハ加工体。
【請求項9】
(a)表面に回路形成面及び裏面に回路非形成面を有するウエハの前記回路形成面を、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のウエハ加工体に用いられる前記熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)と、前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)と、前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)とからなる複合仮接着材層を介して、支持体に接合する際に、前記支持体上に形成された前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)の上に前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)を形成した後、該重合体層(C)と(B)の形成された支持体と、前記重合体層(A)の形成された回路付きウエハとを真空下で貼り合わせる工程と、
(b)前記重合体層(B)及び(C)を熱硬化させる工程と、
(c)前記支持体と接合した前記ウエハの回路非形成面を研削又は研磨する工程と、
(d)前記ウエハの回路非形成面に加工を施す工程と、
(e)前記加工を施したウエハから前記支持体と前記支持体に積層された前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)を一体で剥離する工程と、
(f)前記工程(e)を行った後のウエハから前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)を剥離する工程と、
を含むことを特徴とする薄型ウエハの製造方法。
【請求項10】
(a)表面に回路形成面及び裏面に回路非形成面を有するウエハの前記回路形成面を、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のウエハ加工体に用いられる前記熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)と、前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)と、前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)とからなる複合仮接着材層を介して、支持体に接合する際に、前記回路付きウエハ上に形成された前記熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)の上に前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)を形成した後、該重合体層(A)と(B)の形成された回路付ウエハと、前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)の形成された支持体とを真空下で貼り合わせる工程と、
(b)前記重合体層(B)及び(C)を熱硬化させる工程と、
(c)前記支持体と接合した前記ウエハの回路非形成面を研削又は研磨する工程と、
(d)前記ウエハの回路非形成面に加工を施す工程と、
(e)前記加工を施したウエハから前記支持体と前記支持体に積層された前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)を一体で剥離する工程と、
(f)前記工程(e)を行った後のウエハから前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)を剥離する工程と、
を含むことを特徴とする薄型ウエハの製造方法。
【請求項11】
前記工程(a)において、前記回路付きウエハ上に前記熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)を形成するとともに、周辺部を除去することを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の薄型ウエハの製造方法。
【請求項12】
表面に回路面を有し、裏面を加工すべきウエハを支持体に仮接着するためのウエハ加工用仮接着材であって、
前記ウエハの表面に剥離可能に接着可能な熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)からなる第一仮接着層と、該第一仮接着層に剥離可能に積層された熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)からなる第二仮接着層と、該第二仮接着層に剥離可能に積層され、前記支持体に剥離可能に接着可能な熱硬化性シロキサン重合体層(C)からなる第三仮接着層の3層構造を有する複合仮接着材層を備えたものであることを特徴とするウエハ加工用仮接着材。
【請求項13】
前記熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)が、R1112SiO2/2で表されるシロキサン単位(D単位)を99.000〜99.999モル%、R131415SiO1/2で表されるシロキサン単位(M単位)を1.000〜0.001モル%、R16SiO3/2で表されるシロキサン単位(T単位)を0.000〜0.500モル%含有し(但し、R11、R12、R13、R14、R15、R16はそれぞれ非置換又は置換の1価炭化水素基を示す。)、かつ重量平均分子量が200,000〜1,000,000で、更には分子量740以下の低分子量成分が0.5質量%以下である非反応性オルガノポリシロキサン層であることを特徴とする請求項12に記載のウエハ加工用仮接着材。
【請求項14】
前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)が、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有する重量平均分子量が3,000〜500,000のシロキサン結合含有重合体100質量部に対して、架橋剤としてホルマリン又はホルマリン−アルコールにより変性されたアミノ縮合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、1分子中に平均して2個以上のメチロール基又はアルコキシメチロール基を有するフェノール化合物、及び1分子中に平均して2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物から選ばれるいずれか1種以上を0.1〜50質量部含有する組成物の硬化物層であることを特徴とする請求項12又は請求項13に記載のウエハ加工用仮接着材。
【化7】
[式中、R〜Rは同一でも異なっていてもよい炭素原子数1〜8の1価炭化水素基を示す。また、mは1〜100の整数であり、Bは正数、Aは0又は正数である。Xは下記一般式(2)で示される2価の有機基である。
【化8】
(式中、Zは
【化9】
のいずれかより選ばれる2価の有機基であり、Nは0又は1である。また、R、Rはそれぞれ炭素原子数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基であり、相互に同一でも異なっていてもよい。kは0、1、2のいずれかである。)]
【請求項15】
前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)が、下記一般式(3)で示される繰り返し単位を有する重量平均分子量が3,000〜500,000のシロキサン結合含有重合体100質量部に対して、架橋剤として1分子中に平均して2個以上のフェノール基を有するフェノール化合物、及び1分子中に平均して2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物から選ばれるいずれか1種以上を0.1〜50質量部含有する組成物の硬化物層であることを特徴とする請求項12又は請求項13に記載のウエハ加工用仮接着材。
【化10】
[式中、R〜Rは同一でも異なっていてもよい炭素原子数1〜8の1価炭化水素基を示す。また、mは1〜100の整数であり、Bは正数、Aは0又は正数である。更に、Yは下記一般式(4)で示される2価の有機基である。
【化11】
(式中、Vは
【化12】
のいずれかより選ばれる2価の有機基であり、pは0又は1である。また、R、Rはそれぞれ炭素原子数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基であり、相互に同一でも異なっていてもよい。hは0、1、2のいずれかである。)]
【請求項16】
前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)が、
(C−1)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
(C−2)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子(Si−H基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(C−1)成分中のアルケニル基に対する(C−2)成分中のSi−H基のモル比が0.3から10となる量、
(C−3)白金系触媒、
を含有する組成物の硬化物層であることを特徴とする請求項12から請求項15のいずれか1項に記載のウエハ加工用仮接着材。
【請求項17】
前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)が、更に、(C−4)成分として反応制御剤:前記(C−1)および前記(C−2)成分の合計100質量部に対して0.1から10質量部、
を含有するものであることを特徴とする請求項16に記載のウエハ加工用仮接着材。
【請求項18】
前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)に積層された前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)の前記重合体層(C)から界面剥離する際の熱硬化後におけるピール剥離力が、25mm幅の試験片の180°ピール剥離力で2gf以上50gf以下であることを特徴とする請求項12から請求項17のいずれか1項に記載のウエハ加工用仮接着材。
【請求項19】
前記熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)は、周辺部が一部除去されているものであることを特徴とする請求項12から請求項18のいずれか1項に記載のウエハ加工用仮接着材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄型ウエハを効果的に得ることを可能にするウエハ加工体、ウエハ加工用仮接着材、及び薄型ウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元の半導体実装は、より一層の高密度、大容量化を実現するために必須となってきている。3次元実装技術とは、1つの半導体チップを薄型化し、更にこれをシリコン貫通電極(TSV;through silicon via)によって結線しながら多層に積層していく半導体作製技術である。これを実現するためには、半導体回路を形成した基板を非回路形成面(「裏面」ともいう)研削によって薄型化し、更に裏面にTSVを含む電極形成を行う工程が必要である。従来、シリコン基板の裏面研削工程では、研削面の反対側に裏面保護テープを貼り、研削時のウエハ破損を防いでいる。しかし、このテープは有機樹脂フィルムを基材に用いており、柔軟性がある反面、強度や耐熱性が不十分であり、TSV形成工程や裏面での配線層形成工程を行うには適しない。
【0003】
そこで、半導体基板をシリコン、ガラス等の支持体に接着層を介して接合することによって、裏面研削、TSVや裏面電極形成の工程に十分耐えうるシステムが提案されている。この際に重要なのが、基板を支持体に接合する際の接着層である。これは基板を支持体に隙間なく接合でき、後の工程に耐えるだけの十分な耐久性が必要で、更に最後に薄型ウエハを支持体から簡便に剥離できることが必要である。このように、最後に剥離することから、本明細書では、この接着層を仮接着層(または仮接着材層)と呼ぶことにする。
【0004】
これまでに公知の仮接着層とその剥離方法としては、光吸収性物質を含む接着材に高強度の光を照射し、接着材層を分解することによって支持体から接着材層を剥離する技術(特許文献1)、及び、熱溶融性の炭化水素系化合物を接着材に用い、加熱溶融状態で接合・剥離を行う技術(特許文献2)が提案されている。前者の技術はレーザ等の高価な装置が必要であり、かつ基板1枚あたりの処理時間が長くなるなどの問題があった。また後者の技術は加熱だけで制御するため簡便である反面、200℃を超える高温での熱安定性が不十分であるため、適用範囲は狭かった。更にこれらの仮接着層では、高段差基板の均一な膜厚形成と、支持体への完全接着にも適さなかった。
【0005】
また、シリコーン粘着剤を仮接着材層に用いる技術が提案されている(特許文献3)。これは基板を支持体に付加硬化型のシリコーン粘着剤を用いて接合し、剥離の際にはシリコーン樹脂を溶解、あるいは分解するような薬剤に浸漬して基板を支持体から分離するものである。そのため剥離に非常に長時間を要し、実際の製造プロセスへの適用は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−64040号公報
【特許文献2】特開2006−328104号公報
【特許文献3】米国特許第7541264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、仮接着が容易であり、かつ、高段差基板の均一な膜厚での形成も可能であり、TSV形成、ウエハ裏面配線工程に対する工程適合性が高く、更には、CVD(化学的気相成長)といったウエハ熱プロセス耐性に優れ、剥離前の薄型ウエハが切断された状態であっても容易に剥離可能で、薄型ウエハの生産性を高めることができるウエハ加工体、ウエハ加工用仮接着材、及びこれを使用する薄型ウエハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、支持体上に仮接着材層が形成され、かつ仮接着材層上に、表面に回路面を有し、裏面を加工すべきウエハが積層されてなるウエハ加工体であって、
前記仮接着材層が、前記ウエハの表面に剥離可能に接着された熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)からなる第一仮接着層と、該第一仮接着層に剥離可能に積層された熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)からなる第二仮接着層と、該第二仮接着層に剥離可能に積層され、前記支持体に剥離可能に接着された熱硬化性シロキサン重合体層(C)からなる第三仮接着層との3層構造を有する複合仮接着材層を備えたものであることを特徴とするウエハ加工体を提供する。
【0009】
このような、ウエハ加工体であれば、高段差基板の均一な膜厚での形成が可能であり、TSV形成、ウエハ裏面配線工程に対する工程適合性が高く、更には、CVDといった熱プロセス耐性も良好で、剥離前の薄型ウエハが切断された状態であっても容易に剥離可能で、薄型ウエハの生産性を高めることができる。
【0010】
この場合、熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)が、前記ウエハの表面に部分的に形成され、剥離可能に接着されたものであることが好ましい。
【0011】
このような重合体層(A)を有するウエハ加工体であれば、熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)と回路付ウエハが部分的に直接積層することになり、回路付ウエハの加工中に剥離が生じるリスクを軽減することができる。
【0012】
また、本発明では、表面に回路面を有し、裏面を加工すべきウエハを支持体に仮接着するためのウエハ加工用仮接着材であって、
前記ウエハの表面に剥離可能に接着可能な熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)からなる第一仮接着層と、該第一仮接着層に剥離可能に積層された熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)からなる第二仮接着層と、該第二仮接着層に剥離可能に積層され、前記支持体に剥離可能に接着可能な熱硬化性シロキサン重合体層(C)からなる第三仮接着層の3層構造を有する複合仮接着材層を備えたものであることを特徴とするウエハ加工用仮接着材を提供する。
【0013】
このような、ウエハ加工用仮接着材であれば、ウエハと支持体との仮接着が容易であり、かつ、高段差基板の均一な膜厚での形成も可能であり、TSV形成、ウエハ裏面配線工程に対する工程適合性が高く、更には、CVDといった熱プロセス耐性も良好で、剥離前の薄型ウエハが切断された状態であっても容易に剥離可能で、薄型ウエハの生産性を高めることができる。
【0014】
この場合、前記熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)は、周辺部が一部除去されているものであることが好ましい。
【0015】
このような重合体層(A)を有するウエハ加工用仮接着材であれば、ウエハ加工体の仮接着材層として用いることで、熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)と回路付ウエハは、周辺部が直接積層することになり、回路付ウエハの加工中に剥離が生じるリスクを軽減することができる。
【0016】
また、これらの場合、前記熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)が、R1112SiO2/2で表されるシロキサン単位(D単位)を99.000〜99.999モル%、R131415SiO1/2で表されるシロキサン単位(M単位)を1.000〜0.001モル%、R16SiO3/2で表されるシロキサン単位(T単位)を0.000〜0.500モル%含有し(但し、R11、R12、R13、R14、R15、R16はそれぞれ非置換又は置換の1価炭化水素基を示す。)、かつ重量平均分子量が200,000〜1,000,000で、更には分子量740以下の低分子量成分が0.5質量%以下である非反応性オルガノポリシロキサン層であることが好ましい。
【0017】
このような熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)であれば、接着性、耐熱性に優れるため好ましい。
【0018】
更に、これらの場合、前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)が、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有する重量平均分子量が3,000〜500,000のシロキサン結合含有重合体100質量部に対して、架橋剤としてホルマリン又はホルマリン−アルコールにより変性されたアミノ縮合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、1分子中に平均して2個以上のメチロール基又はアルコキシメチロール基を有するフェノール化合物、及び1分子中に平均して2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物から選ばれるいずれか1種以上を0.1〜50質量部含有する組成物の硬化物層であることが好ましい。
【化1】
[式中、R〜Rは同一でも異なっていてもよい炭素原子数1〜8の1価炭化水素基を示す。また、mは1〜100の整数であり、Bは正数、Aは0又は正数である。Xは下記一般式(2)で示される2価の有機基である。
【化2】
(式中、Zは
【化3】
のいずれかより選ばれる2価の有機基であり、Nは0又は1である。また、R、Rはそれぞれ炭素原子数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基であり、相互に同一でも異なっていてもよい。kは0、1、2のいずれかである。)]
【0019】
このような熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)であれば、耐熱性により一層優れるため好ましい。
【0020】
更に、これらの場合、前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)が、下記一般式(3)で示される繰り返し単位を有する重量平均分子量が3,000〜500,000のシロキサン結合含有重合体100質量部に対して、架橋剤として1分子中に平均して2個以上のフェノール基を有するフェノール化合物、及び1分子中に平均して2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物から選ばれるいずれか1種以上を0.1〜50質量部含有する組成物の硬化物層であることが好ましい。
【化4】
[式中、R〜Rは同一でも異なっていてもよい炭素原子数1〜8の1価炭化水素基を示す。また、mは1〜100の整数であり、Bは正数、Aは0又は正数である。更に、Yは下記一般式(4)で示される2価の有機基である。
【化5】
(式中、Vは
【化6】
のいずれかより選ばれる2価の有機基であり、pは0又は1である。また、R、Rはそれぞれ炭素原子数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基であり、相互に同一でも異なっていてもよい。hは0、1、2のいずれかである。)]
【0021】
このような熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)であれば、耐熱性により一層優れるため好ましい。
【0022】
更に、これらの場合、前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)が、
(C−1)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
(C−2)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子(Si−H基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(C−1)成分中のアルケニル基に対する(C−2)成分中のSi−H基のモル比が0.3から10となる量、
(C−3)白金系触媒、
を含有する組成物の硬化物層であることが好ましい。
【0023】
このような熱硬化性シロキサン重合体層(C)であれば、CVD耐性により優れるため好ましい。
【0024】
更に、これらの場合、前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)が、更に、(C−4)成分として反応制御剤:前記(C−1)および前記(C−2)成分の合計100質量部に対して0.1から10質量部、
を含有するものであることが好ましい。
【0025】
このような熱硬化性シロキサン重合体層(C)であれば、加熱硬化前に処理液(組成物)が増粘やゲル化を起こさないようにすることができる。
【0026】
更に、これらの場合、前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)に積層された前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)の前記重合体層(C)から界面剥離する際の熱硬化後におけるピール剥離力が、25mm幅の試験片の180°ピール剥離力で2gf以上50gf以下であることが好ましい。
【0027】
このようなピール剥離力を有する熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)であれば、ウエハ研削時にウエハのズレが生じる恐れがなく、剥離が容易なため好ましい。
【0028】
更に本発明では、(a)表面に回路形成面及び裏面に回路非形成面を有するウエハの前記回路形成面を、上記本発明のウエハ加工体に用いられる前記熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)と、前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)と、前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)とからなる複合仮接着材層を介して、支持体に接合する際に、前記支持体上に形成された前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)の上に前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)を形成した後、該重合体層(C)と(B)の形成された支持体と、前記重合体層(A)の形成された回路付きウエハとを真空下で貼り合わせる工程と、
(b)前記重合体層(B)及び(C)を熱硬化させる工程と、
(c)前記支持体と接合した前記ウエハの回路非形成面を研削又は研磨する工程と、
(d)前記ウエハの回路非形成面に加工を施す工程と、
(e)前記加工を施したウエハから前記支持体と前記支持体に積層された前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)を一体で剥離する工程と、
(f)前記工程(e)を行った後のウエハから前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)を剥離する工程と、
を含むことを特徴とする薄型ウエハの製造方法を提供する。
【0029】
このような薄型ウエハの製造方法であれば、本発明における3層系を有する仮接着材層を、ウエハと支持体の接合に使用することで、この仮接着材層を使用して貫通電極構造や、バンプ接続構造を有する薄型ウエハを、容易に製造することができる。また、このような剥離工程によれば、支持体を、加工を施したウエハから容易に剥離することができ、加工を施したウエハを剥離前にダイシングによって切断してしまっても、容易に剥離することができる。更に、重合体層(C)と(B)の形成された支持体と、重合体層(A)の形成された回路付きウエハとを真空下で貼り合わせることによって、回路付きウエハの表面状態に拠らず、例えばスピンコート法で重合体層(B)が形成でき、貼り合わせが実施できる。
【0030】
更に本発明では、(a)表面に回路形成面及び裏面に回路非形成面を有するウエハの前記回路形成面を、上記本発明のウエハ加工体に用いられる前記熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)と、前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)と、前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)とからなる複合仮接着材層を介して、支持体に接合する際に、前記回路付きウエハ上に形成された前記熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)の上に前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)を形成した後、該重合体層(A)と(B)の形成された回路付ウエハと、前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)の形成された支持体とを真空下で貼り合わせる工程と、
(b)前記重合体層(B)及び(C)を熱硬化させる工程と、
(c)前記支持体と接合した前記ウエハの回路非形成面を研削又は研磨する工程と、
(d)前記ウエハの回路非形成面に加工を施す工程と、
(e)前記加工を施したウエハから前記支持体と前記支持体に積層された前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)を一体で剥離する工程と、
(f)前記工程(e)を行った後のウエハから前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)を剥離する工程と、
を含むことを特徴とする薄型ウエハの製造方法を提供する。
【0031】
このような薄型ウエハの製造方法であれば、本発明における3層系を有する仮接着材層を、ウエハと支持体の接合に使用することで、この仮接着材層を使用して貫通電極構造や、バンプ接続構造を有する薄型ウエハを、容易に製造することができる。また、このような剥離工程によれば、支持体を、加工を施したウエハから容易に剥離することができ、加工を施したウエハを剥離前にダイシングによって切断してしまっても、容易に剥離することができる。更に、重合体層(A)と(B)の形成された回路付ウエハと、熱硬化性シロキサン重合体層(C)の形成された支持体とを真空下で貼り合わせることによって、スピンコート法等で重合体層(B)を形成する場合に支持体側面に重合体層(B)の残渣無く処理が出来るため、その後の工程中に残渣が剥落する恐れが無い。
【0032】
また、これらの場合、前記工程(a)において、前記回路付きウエハ上に前記熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)を形成するとともに、周辺部を除去することが好ましい。
【0033】
このような薄型ウエハの製造方法であれば、熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)と回路付ウエハは、周辺部が直接積層することになり、回路付ウエハの加工中に剥離が生じるリスクを軽減することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明における仮接着材層は、3層構造を有し、特に熱硬化性シロキサン変性樹脂(重合体層(B))を基板接合用支持層として使用することで、樹脂の熱分解が生じないことはもとより、高温時での樹脂の流動も生じず、耐熱性が高いために、幅広い半導体成膜プロセスに適用でき、段差を有するウエハに対しても、膜厚均一性の高い接着材層を形成でき、この膜厚均一性のため容易に50μm以下の均一な薄型ウエハを得ることが可能となる。更には、薄型ウエハ作製後、このウエハが剥離前にダイシング等で切断されていても、支持体より室温で容易に剥離することができるため、割れ易い薄型ウエハを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明のウエハ加工体の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明をより詳細に説明する。
上記のように、仮接着が容易であり、かつ、高段差基板の均一な膜厚での形成も可能であり、TSV形成、ウエハ裏面配線工程に対する工程適合性が高く、更には、CVDといったウエハ熱プロセス耐性に優れ、剥離前の薄型ウエハが切断された状態であっても容易に剥離可能で、薄型ウエハの生産性を高めることができるウエハ加工体及びウエハ加工用仮接着材が求められている。
【0037】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、
(A)の熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層からなる熱可塑性仮接着層と
(B)の熱硬化性シロキサン変性重合体層からなる熱硬化性仮接着層と、さらには、
(C)の熱硬化性シロキサン重合体層からなる熱硬化性仮接着層
との3層系を有する仮接着材層を、ウエハと支持体の接合にウエハ側から(A)、(B)、(C)の順で形成した構造として使用することで、貫通電極構造や、バンプ接続構造を有する薄型ウエハを、簡単に製造する方法を見出した。
【0038】
図1は、本発明のウエハ加工体の一例を示す断面図である。図1に示すように、本発明のウエハ加工体は、表面に回路面を有し、裏面を加工すべきウエハ1と、ウエハ1の加工時にウエハ1を支持する支持体3と、これらウエハ1と支持体3との間に介在する仮接着材層2を備え、この仮接着材層2が、熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)(第一仮接着層)と、熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)(第二仮接着層)と、更には熱硬化性シロキサン重合体層(C)(第三仮接着層)の3層構造からなり、第一仮接着層がウエハ1の表面に剥離可能に接着され、第三仮接着層が支持体3に接着されているものである。
【0039】
また、本発明のウエハ加工用仮接着材は、上記(A)、(B)および(C)の積層体からなり、それぞれの層が剥離可能に積層されたものである。
【0040】
以下、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
[仮接着材層]
−第一仮接着層(A)/熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層−
第一仮接着層は、熱可塑性のオルガノポリシロキサン重合体から構成される。熱可塑性のオルガノポリシロキサン重合体としては、例えば、R1112SiO2/2で表されるシロキサン単位(D単位)を99.000〜99.999モル%、好ましくは99.500〜99.999モル%、R131415SiO1/2で表されるシロキサン単位(M単位)を1.000〜0.001モル%、好ましくは0.500〜0.001モル%、R16SiO3/2で表されるシロキサン単位(T単位)を0.000〜0.500モル%、好ましくは0.000〜0.100モル%含有し、かつ重量平均分子量が200,000〜1,000,000で、更には分子量740以下の低分子量成分が0.5質量%以下である非反応性オルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0042】
上記において、有機置換基R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、非置換又は置換の1価炭化水素基、好ましくは非置換又は置換の炭素原子数1〜10の1価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基などの炭化水素基、これら水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換された基が挙げられ、好ましくはメチル基及びフェニル基である。
【0043】
該オルガノポリシロキサンの分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)にて、ポリスチレン標準物質によって作成した検量線に則って得られる重量平均分子量(本明細書では、「重量平均分子量」とはこれを意味する。)の値で、重量平均分子量が200,000以上、より好ましくは350,000以上であり、かつ、1,000,000以下より好ましく800,000以下で、更には分子量740以下の低分子量成分含有量が0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0044】
該オルガノポリシロキサンにおいて、重量平均分子量が200,000以上であれば、ウエハを薄型化するための研削工程に十分耐えられるため好ましい。一方、重量平均分子量が1,000,000以下の場合は、工程終了後の洗浄工程で洗浄できるため好ましい。一方、分子量が740以下の低分子量成分が0.5質量%以下であれば、貫通電極形成中の熱処理やウエハ裏面に形成されるバンプ電極の熱処理に対して、十分な耐熱性が得られるため好ましい。
【0045】
更に、D単位は樹脂中の99.000〜99.999モル%を構成することが好ましく、99.000モル%以上であれば、ウエハ薄型化のための研削工程に耐えることができるため好ましく、99.999モル%以下であれば、工程終了後の仮接着層(B)との剥離が行いやすい。
【0046】
M単位は、D単位を主成分とする樹脂の末端の活性基の封止のために加えられ、その分子量を調整するために使用される。
【0047】
この熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層は、予めフィルムとし、該フィルムをロールラミネータ等を使用してウエハに貼り合わせ使用しても、その溶液をスピンコート、ロールコータなどの方法によってウエハ上に形成して使用してもよい。スピンコートなどの方法によってウエハ上にこの(A)層を形成する場合には、樹脂を溶液としてコートすることが好ましいが、このときには、ペンタン、へキサン、シクロヘキサン、デカン、イソドデカン、リモネンなどの炭化水素系溶剤が好適に使用される。また、この(A)層は、膜厚0.1〜10μm、好ましくは0.5〜5.0μmの間で形成されて使用されることが好ましい。0.1μm以上であれば、塗布しきれない部分を生じることなく全体に塗布することができる。また、デバイスウエハの段差をカバーすることができる。10μm以下であれば、薄型ウエハを形成する場合の研削工程に十分耐えることができるため好ましい。
【0048】
また、ウエハ加工体の第一仮接着層として用いる場合、熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)は、ウエハの表面に部分的に形成(周辺部が一部除去)され、剥離可能に接着されたものであることが好ましい。
【0049】
このような重合体層(A)を有するウエハ加工体であれば、熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)と回路付ウエハが部分的に直接積層することになり、回路付ウエハの加工中に剥離が生じるリスクを軽減することができる。
【0050】
−第二仮接着層(B)/熱硬化性シロキサン変性重合体層−
本発明のウエハ加工体及びウエハ加工用仮接着材の構成要素である熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)は、熱硬化性シロキサン変性重合体層であれば特に限定されないが、下記一般式(1)あるいは(3)で示される熱硬化性シロキサン変性重合体を主成分とする熱硬化性組成物の硬化物の層が好ましい。
一般式(1)の重合体(フェノール性シロキサン重合体):
下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有する重量平均分子量が3,000〜500,000、好ましくは10,000〜100,000のシロキサン結合含有重合体(フェノール基含有オルガノシロキサン結合含有高分子化合物)。
【化7】
[式中、R〜Rは同一でも異なっていてもよい炭素原子数1〜8の1価炭化水素基を示す。また、mは1〜100の整数であり、Bは正数、Aは0又は正数である。Xは下記一般式(2)で示される2価の有機基である。
【化8】
(式中、Zは
【化9】
のいずれかより選ばれる2価の有機基であり、Nは0又は1である。また、R、Rはそれぞれ炭素原子数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基であり、相互に同一でも異なっていてもよい。kは0、1、2のいずれかである。)]
【0051】
この場合、R〜Rの具体例としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、mは、好ましくは3〜60、より好ましくは8〜40の整数である。また、B/Aは0〜20、特に0.5〜5である。
【0052】
一般式(3)の重合体(エポキシ変性シロキサン重合体):
下記一般式(3)で示される繰り返し単位を有する重量平均分子量が3,000〜500,000のシロキサン結合含有重合体(エポキシ基含有シリコーン高分子化合物)。
【化10】
[式中、R〜Rは同一でも異なっていてもよい炭素原子数1〜8の1価炭化水素基を示す。また、mは1〜100の整数であり、Bは正数、Aは0又は正数である。更に、Yは下記一般式(4)で示される2価の有機基である。
【化11】
(式中、Vは
【化12】
のいずれかより選ばれる2価の有機基であり、pは0又は1である。また、R、Rはそれぞれ炭素原子数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基であり、相互に同一でも異なっていてもよい。hは0、1、2のいずれかである。)]
【0053】
この場合、R〜R、mの具体例は上記一般式(1)と同様である。
【0054】
上記一般式(1)又は(3)の熱硬化性シロキサン変性重合体を主成分とする熱硬化性組成物は、その熱硬化のために、一般式(1)のフェノール性シロキサン重合体の場合には、ホルマリン又はホルマリン−アルコールにより変性されたアミノ縮合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、1分子中に平均して2個以上のメチロール基又はアルコキシメチロール基を有するフェノール化合物、及び1分子中に平均して2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物から選ばれるいずれか1種以上の架橋剤を含有する。
【0055】
ここで、ホルマリン又はホルマリン−アルコールにより変性されたアミノ縮合物、メラミン樹脂、尿素樹脂としては、以下のものを挙げることができる。例えば、ホルマリン又はホルマリンーアルコールにより変性されたメラミン樹脂(縮合物)は、変性メラミンモノマー(例えばトリメトキシメチルモノメチロールメラミン)、又はこの多量体(例えば二量体、三量体等のオリゴマー体)を公知の方法に従ってホルムアルデヒドと所望の分子量になるまで付加縮合重合させて得ることができる。なお、これらは1種又は2種以上を、混合して使用することができる。
【0056】
また、ホルマリン又はホルマリンーアルコールにより変性された尿素樹脂(縮合物)の調製は、例えば公知の方法に従って所望の分子量の尿素縮合物をホルマリンでメチロール化して変性し、又はこれを更にアルコールでアルコキシ化して変性して行ってよい。ホルマリン又はホルマリンーアルコールにより変性された尿素樹脂の具体例としては、例えばメトキシメチル化尿素縮合物、エトキシメチル化尿素縮合物、プロポキシメチル化尿素縮合物等が挙げられる。なお、これらは1種又は2種以上を、混合して使用することができる。
【0057】
また、1分子中に平均して2個以上のメチロール基又はアルコキシメチロール基を有するフェノール化合物としては、例えば(2−ヒドロキシ−5−メチル)−1,3−ベンゼンジメタノール、2,2’,6,6’−テトラメトキシメチルビスフェノールA等を挙げることができる。なお、これらフェノール化合物は1種又は2種以上を、混合して使用することができる。
【0058】
一方、一般式(3)のエポキシ変性シロキサン重合体の場合には、1分子中に平均して2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物あるいは、1分子中に平均して2個以上のフェノール基を有するフェノール化合物のいずれか1種以上を架橋剤として含有する。
【0059】
ここで、一般式(1)および(3)に用いられる多官能エポキシ基を有するエポキシ化合物としては、特にその制約はないが、特に、2官能、3官能、4官能以上の多官能エポキシ樹脂、例えば、日本化薬(株)製のEOCN−1020、EOCN−102S、XD−1000、NC−2000−L、EPPN−201、GAN、NC6000や下記式のような架橋剤を含有することができる。
【0060】
【化13】
【0061】
熱硬化性シロキサン変性重合体が、上記一般式(3)のエポキシ変性シロキサン重合体の場合には、その架橋剤として、m、p−系クレゾールノボラック樹脂、例えば、旭有機材工業製EP−6030Gや、3官能フェノール化合物、例えば、本州化学製Tris−P−PAや、4官能性フェノール化合物、例えば、旭有機材工業製TEP−TPAなどが挙げられる。
【0062】
架橋剤の配合量は、前記熱硬化性シロキサン変性重合体100質量部に対して0.1〜50質量部、好ましくは0.1〜30質量部、更に好ましくは1〜20質量部であり、2種類又は3種類以上を混合して配合してもよい。
【0063】
また、熱硬化性シロキサン変性重合体100質量部に対して、酸無水物のような硬化触媒を10質量部以下含有させてもよい。
【0064】
また、この組成物(熱硬化性シロキサン変性重合体)を溶液に溶解し、塗布、具体的にはスピンコート、ロールコータ、ダイコータなどの方法、特にスピンコート法によって(A)層または(C)層上に形成する。その場合には、例えば、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチル−2−n−アミルケトン等のケトン類;3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール等のアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、酢酸tert−ブチル、プロピオン酸tert−ブチル、プロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0065】
なお、耐熱性を更に高めるため、熱硬化性シロキサン変性重合体100質量部に対して、公知の酸化防止剤、シリカ等のフィラーを50質量部以下添加してもよい。さらに、塗布均一性を向上させるため、界面活性剤を添加してもよい。
【0066】
重合体層(B)中に添加することができる酸化防止剤の具体的としては、テトラキス[メチレン−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシハイドロシンナメート)]メタン(商品名:アデカスタブ AO−60)等のヒンダードフェノール系化合物を挙げることができる。
【0067】
上記の熱硬化性シロキサン変性重合体からなる熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)は、ウエハ側の段差に応じて、硬化時の膜厚が15〜150μmであることが好ましく、20〜120μmで成膜することがさらに好ましい。膜厚が15μm以上であれば、ウエハ薄型化の研削工程に十分耐えることができ、150μm以下であれば、TSV形成工程などの熱処理工程で樹脂変形を生じるおそれがなく、実用に耐えることができるため好ましい。
【0068】
−第三仮接着層(C)/熱硬化性シロキサン重合体層(熱硬化性シリコーン重合体層)−
本発明のウエハ加工体及びウエハ加工用仮接着材の構成要素である熱硬化性シロキサン重合体層(C)は、熱硬化性のシロキサン重合体からなるものであれば、特に限定されない。例えば、下記(C−1)〜(C−3)成分、必要に応じて(C−4)成分を含有する組成物の硬化物層であることが好ましい。
(C−1)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
(C−2)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子(Si−H基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(C−1)成分中のアルケニル基に対する(C−2)成分中のSi−H基のモル比が0.3から10となる量、
(C−3)白金系触媒。
【0069】
この場合、熱硬化性シロキサン重合体層(C)が、更に、(C−4)成分として反応制御剤:(C−1)および(C−2)成分の合計100質量部に対して0.1から10質量部、
を含有するものであることが好ましい。
【0070】
以下各成分について説明する。
[(C−1)成分]
(C−1)成分は、1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンである。(C−1)成分は、好ましくは、1分子中に2個以上のアルケニル基を含有する直鎖状又は分岐状のジオルガノポリシロキサンである。特に好ましくは、1分子中に0.6mol%(アルケニル基モル数/Siモル数)〜9mol%のアルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサンである。
【0071】
このようなジオルガノポリシロキサンとして、具体的には下記式(5)及び/又は(6)で示されるものを挙げることができる。
(3−a)SiO−(RXSiO)−(RSiO)−SiR(3−a)…(5)
(HO)SiO−(RXSiO)m+2−(RSiO)−SiR(OH)…(6)
(式中、Rは夫々独立して脂肪族不飽和結合を有さない1価炭化水素基、Xは夫々独立してアルケニル基含有1価有機基、aは0〜3の整数である。また、式(5)において、2a+mは1分子中にアルケニル基含有量が0.6〜9mol%となる数である。式(6)において、m+2は1分子中にアルケニル基含有量が0.6〜9mol%となる数である。)
【0072】
上記式中、Rとしては、炭素原子数1〜10の1価炭化水素基が好ましく、例示すると、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、トリル基などのアリール基などであり、特にメチル基等のアルキル基又はフェニル基が好ましい。
【0073】
Xのアルケニル基含有1価有機基としては、炭素原子数2〜10の有機基が好ましく、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基;アクリロイルプロピル基、アクリロイルメチル基、メタクリロイルプロピル基等の(メタ)アクリロイルアルキル基;アクリロキシプロピル基、アクリロキシメチル基、メタクリロキシプロピル基、メタクリロキシメチル基等の(メタ)アクリロキシアルキル基;シクロヘキセニルエチル基、ビニルオキシプロピル基などのアルケニル基含有1価炭化水素基が挙げられ、特に、工業的にはビニル基が好ましい。
【0074】
上記一般式(5)中、aは0〜3の整数であるが、aが1〜3であれば、分子鎖末端がアルケニル基で封鎖されるため、反応性のよいこの分子鎖末端アルケニル基により、短時間で反応を完結することができ好ましい。さらには、コスト面において、a=1が工業的に好ましい。このアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンの性状はオイル状又は生ゴム状であることが好ましい。このアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンは直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0075】
[(C−2)成分]
(C−2)成分は架橋剤であり、1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子(Si−H基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。(C−2)成分は、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を少なくとも2個、好ましくは3個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、直鎖状、分岐状、又は環状のものを使用できる。
【0076】
(C−2)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの25℃における粘度は、1〜5,000mPa・sであることが好ましく、5〜500mPa・sであるのがさらに好ましい。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは2種以上の混合物でもよい。
【0077】
(C−2)成分は、(C−1)成分中のアルケニル基に対する(C−2)成分中のSi−H基のモル比(SiH基/アルケニル基)が0.3から10、特に1.0〜8.0の範囲となるように配合することが好ましい。このSiH基とアルケニル基とのモル比が0.3以上であれば、架橋密度が低くなることもなく、粘着剤層が硬化しないといった問題も起こらない。10以下であれば、架橋密度が高くなりすぎることもなく、十分な粘着力及びタックが得られる。また、前記モル比が10以下であれば、処理液の使用可能時間を長くすることができる。
【0078】
[(C−3)成分]
(C−3)成分は白金系触媒(即ち、白金族金属触媒)であり、例えば、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物などが挙げられる。
【0079】
(C−3)成分の添加量は有効量であり、通常(C−1)、(C−2)の合計(下記に示す(C−4)成分を含有する場合には、(C−1)、(C−2)及び(C−4)の合計)に対し、白金分(質量換算)として1〜5,000ppmであり、5〜2,000ppmであることが好ましい。1ppm以上であれば組成物の硬化性が低下することもなく、架橋密度が低くなることも、保持力が低下することもない。5,000ppm以下であれば、処理浴の使用可能時間を長くすることができる。
【0080】
[(C−4)成分]
(C−4)成分は反応制御剤であり、組成物を調合ないし基材に塗工する際に、加熱硬化前に処理液が増粘やゲル化を起こさないようにするために必要に応じて任意に添加するものである。
【0081】
具体例としては、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニルシクロヘキサノール、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ブチン、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ペンチン、3,5−ジメチル−3−トリメチルシロキシ−1−ヘキシン、1−エチニル−1−トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2−ジメチル−3−ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサンなどが挙げられ、好ましいのは1−エチニルシクロヘキサノール、及び3−メチル−1−ブチン−3−オールである。
【0082】
組成物中に(C−4)成分を含有する場合、その配合量は、(C−1)および(C−2)成分の合計100質量部に対して0.1から10質量部であることが好ましい。より好ましくは0.1〜8.0質量部、特に好ましくは0.1〜2.0質量部である。10質量部以下であれば、組成物の硬化性が低下することもなく、0.1質量部以上であると反応制御の効果が十分発揮される。
【0083】
熱硬化性シロキサン重合体層(C)は、その溶液をスピンコート、ロールコータなどの方法によって支持体上に形成することができる。スピンコートなどの方法によって支持体上に熱硬化性シロキサン重合体層(C)を形成する場合には、樹脂を溶液としてコートすることが好ましいが、このときには、ペンタン、へキサン、シクロヘキサン、イソオクタン、ノナン、デカン、p−メンタン、ピネン、イソドデカン、リモネンなどの炭化水素系溶剤が好適に使用される。また、この熱硬化性シロキサン重合体溶液には、公知の酸化防止剤を耐熱性向上のために添加することができる。
【0084】
また、熱硬化性シロキサン重合体層(C)は、膜厚が0.1〜30μm、好ましくは1.0〜15μmの間で形成されて使用されるのが好ましい。膜厚が0.1μm以上であれば、塗布しきれない部分を生じることなく全体に塗布することができ、一方、膜厚が30μm以下であれば、薄型ウエハを形成する場合の研削工程に耐えることができるため好ましい。なお、この熱硬化性シロキサン重合体層(C)には、耐熱性を更に高めるため、シリカ等のフィラーを重合体層(C)100質量部に対して、50質量部以下添加してもよい。
【0085】
また、前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)は、重合体(C)上に積層された熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)が界面剥離する際の熱硬化後におけるピール剥離力が、25mm幅試験片の180°ピール剥離力で、通常2gf以上かつ50gf以下であり、好ましくは3gf以上30gf以下であり、さらに好ましくは5gf以上20gf以下である。2gf以上であればウエハ研削時にウエハのズレが生じる恐れがなく、50gf以下であればウエハの剥離が容易となるため好ましい。
【0086】
−任意成分−
本発明のウエハ加工用仮接着材には、上記各成分以外に任意成分を添加することができる。例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルジフェニルシロキサンなどの非反応性のポリオルガノシロキサン;フェノール系、キノン系、アミン系、リン系、ホスファイト系、イオウ系、チオエーテル系などの酸化防止剤;トリアゾール系、ベンゾフェノン系などの光安定剤;リン酸エステル系、ハロゲン系、リン系、アンチモン系などの難燃剤;カチオン活性剤、アニオン活性剤、非イオン系活性剤などの帯電防止剤;塗工の際の粘度を下げるための溶剤として、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、ヘキサン、オクタン、イソパラフィンなどの脂肪族系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸イソブチルなどのエステル系溶剤、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶剤、又はこれらの混合溶剤などが使用される。
【0087】
[薄型ウエハの製造方法]
本発明の薄型ウエハの製造方法は、半導体回路等を有するウエハと支持体との接着層として、熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)、熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)と熱硬化性シロキサン重合体層(C)の3層とからなる複合仮接着材層を用いることを特徴とする。本発明の製造方法により得られる薄型ウエハの厚さは、典型的には5〜300μm、より典型的には10〜100μmである。
【0088】
本発明の薄型ウエハの製造方法は(a)〜(e)の工程を有する。また、必要に応じて、(f)〜(j)の工程を有する。
【0089】
[工程(a)]
工程(a)は、表面に回路形成面及び裏面に回路非形成面を有するウエハの前記回路形成面を、上記本発明のウエハ加工用仮接着材に用いられる熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)と、熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)と、熱硬化性シロキサン重合体層(C)とからなる複合仮接着材層を介して、支持体に接合する際に、前記支持体上に形成された前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)の上に前記重合体層(B)を形成した後、該重合体層(C)と(B)の形成された支持体と、前記重合体層(A)の形成された回路付きウエハとを真空下で貼り合わせる工程、または、前記重合体(A)の形成された回路付きウエハの上に前記重合体層(B)を形成した後、該重合体層(A)と(B)の形成された回路付きウエハと、前記重合体(C)の形成された支持体とを真空下で貼り合わせる工程である。
【0090】
回路形成面及び回路非形成面を有するウエハは、一方の面が回路形成面であり、他方の面が回路非形成面であるウエハである。本発明が適用できるウエハは、通常、半導体ウエハである。該半導体ウエハの例としては、シリコンウエハのみならず、ゲルマニウムウエハ、ガリウム−ヒ素ウエハ、ガリウム−リンウエハ、ガリウム−ヒ素−アルミニウムウエハ等が挙げられる。該ウエハの厚さは、特に制限はないが、典型的には600〜800μm、より典型的には625〜775μmである。
【0091】
支持体としては、シリコンウエハやガラス板、石英ウエハ等の基板が使用可能であるがなんら制約はない。本発明においては、支持体を通して仮接着材層に放射エネルギー線を照射する必要はなく、支持体は、光線透過性を有さないものであってもよい。
【0092】
仮接着層(A)、(B)および(C)はそれぞれフィルムで、ウエハや支持体に形成することもでき、あるいは、それぞれの溶液をスピンコートなどの方法によりウエハや支持体に形成することができる。この場合、スピンコート後、その溶剤の揮発条件に応じ、80〜200℃の温度で、予めプリベークを行ったのち、使用に供される。
【0093】
仮接着層(A)層、(B)層と(C)層が形成されたウエハ及び支持体は、(A)、(B)および(C)層を介して、接合された基板として形成される。このとき、好ましくは40〜200℃、より好ましくは60〜180℃の温度領域で、この温度にて減圧下、この基板を均一に圧着することで、ウエハが支持体と接合したウエハ加工体(積層体基板)が形成される。
【0094】
ウエハ貼り合わせ装置としては、市販のウエハ接合装置、例えばEVG社のEVG520IS、850TB、SUSS社のXBC300等が挙げられる。
【0095】
また必要に応じて、前記工程(a)において、前記回路付きウエハ上に前記熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)を形成するとともに、周辺部を除去してもよい。例えば、回路付ウエハ上に重合体層(A)を形成する際、ウエハの外周から0.1mm以上10mm以下、好ましくは0.5mm以上5mm以下、より好ましくは1mm以上4mm以下の領域について重合体層(A)を形成しない部分を設けることが好ましい。これによって重合体層(A)を形成しなかった部分は前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)と回路付ウエハが直接積層することになり、回路付ウエハの加工中に剥離が生じるリスクを軽減することができる。形成しない領域の幅については、0.1mm以上であれば回路付ウエハと重合体層(B)がしっかりと接着するため剥離防止効果が十分に得られ、10mm以下であれば加工された回路付ウエハから取れるチップの数が増えるため好ましい。
【0096】
重合体層(A)を形成しない部分を設ける方法としては、例えば、熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体の溶液をスピンコート法でウエハ表面に塗布等することで、重合体層(A)を形成した後に、エッジカット処理する方法や、スピンコートと同時にエッジカット処理する方法を挙げることができる。エッジカット処理の方法としては、溶剤(例えばイソドデカン)で接着部を溶解除去する方法や、機械的に強制除去する方法等を挙げることができる。
【0097】
[工程(b)]
工程(b)は、前記重合体層(B)及び(C)を熱硬化させる工程である。上記ウエハ加工体(積層体基板)が形成された後、120〜220℃、好ましくは150〜200℃で10分〜4時間、好ましくは30分〜2時間加熱することによって、前記重合体層(B)及び(C)の硬化を行う。
【0098】
[工程(c)]
工程(c)は、支持体と接合したウエハの回路非形成面を研削又は研磨する工程、即ち、工程(a)にて貼り合わせて得られたウエハ加工体のウエハ裏面側を研削して、該ウエハの厚みを薄くしていく工程である。ウエハ裏面の研削加工の方式には特に制限はなく、公知の研削方式が採用される。研削は、ウエハと砥石(ダイヤモンド等)に水をかけて冷却しながら行うことが好ましい。ウエハ裏面を研削加工する装置としては、例えば(株)ディスコ製DAG−810(商品名)等が挙げられる。また、ウエハ裏面側をCMP研磨してもよい。
【0099】
[工程(d)]
工程(d)は、回路非形成面を研削したウエハ加工体、即ち、裏面研削によって薄型化されたウエハ加工体の回路非形成面に加工を施す工程である。この工程にはウエハレベルで用いられる様々なプロセスが含まれる。例としては、電極形成、金属配線形成、保護膜形成等が挙げられる。より具体的には、電極等の形成のための金属スパッタリング、金属スパッタリング層をエッチングするウェットエッチング、金属配線形成のマスクとするためのレジストの塗布、露光、及び現像によるパターンの形成、レジストの剥離、ドライエッチング、金属めっきの形成、TSV形成のためのシリコンエッチング、シリコン表面の酸化膜形成など、従来公知のプロセスが挙げられる。またこれ以外に、ダイシング等の方法により裏面研削され薄型化したウエハをチップサイズに切断することもできる。
【0100】
[工程(e)]
工程(e)は、工程(d)で加工を施したウエハから支持体及びこの支持体に積層された熱硬化性シロキサン重合体層(C)を一体に剥離する工程、即ち、薄型化したウエハに様々な加工を施した後、ウエハ加工体から、支持体及び重合体層(C)を剥離する工程である。この剥離工程は、一般に室温から60℃程度の比較的低温の条件で実施され、ウエハ加工体のウエハ又は支持体の一方を水平に固定しておき、他方を水平方向から一定の角度を付けて持ち上げる方法、及び、研削されたウエハの研削面に保護フィルムを貼り、ウエハと保護フィルムをピール方式でウエハ加工体から剥離する方法等が挙げられる。
【0101】
本発明には、これらの剥離方法のいずれも適用可能である。もちろん上記の方法には限定されない。これらの剥離方法は、通常、室温で実施される。
【0102】
また、上記(e)加工を施したウエハから支持体及び重合体層(C)を剥離する工程は、
(g)加工を施したウエハの加工面にダイシングテープを接着する工程と、
(h)ダイシングテープ面を吸着面に真空吸着する工程と、
(i)吸着面の温度が10℃から100℃の温度範囲で、前記支持体を、加工を施した前記ウエハからピールオフにて剥離する工程と、を含むことが好ましい。このようにすることで、支持体を、加工を施したウエハから容易に剥離することができ、また、後のダイシング工程を容易に行うことができる。
【0103】
[工程(f)]
工程(f)は、(e)で前記支持体及び前記熱硬化性シロキサン重合体層(C)を剥離した後、加工を施したウエハから前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)をテープピール等により剥離する工程である。
【0104】
この剥離工程は、一般に室温から60℃程度の比較的低温の条件で実施され、ウエハ加工体を水平に固定しておき、露出している熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)に剥離用のテープ材を貼り合わせ、このテープ材をピール方式により引き剥がすことで、重合体層(B)を加工を施したウエハから剥離する方法が挙げられる。
【0105】
テープ材としては剥離可能であればどのようなテープ材でも使用可能であるが、特にシリコーン粘着材を使用したテープが好ましく、例えば(株)寺岡製作所製ポリエステルフィルム粘着テープNo.646S、No.648などが好適に用いられる。
【0106】
なお、前記(a)工程において仮接着層(A)をウエハに形成する際、外周部に形成しない領域を設けた場合は、その部分に仮接着層(B)が残ることがあるが、もともとウエハ外周部は良品チップが取れない領域であるため、問題にはならない。
【0107】
また、前記(f)加工を施したウエハから前記熱硬化性シロキサン変性重合体層(B)を剥離する工程後に、
(j)剥離したウエハの回路形成面に残存する仮接着材層を除去する工程を行うこと好ましい。前記工程(f)により支持体より剥離されたウエハの回路形成面には、仮接着層(A)が一部残存している場合があり、該仮接着層(A)の除去は、例えば、ウエハを洗浄することにより行うことができる。
【0108】
前記工程(j)は、仮接着材層中の(A)層である熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層を溶解するような洗浄液であればすべて使用可能であり、具体的には、ペンタン、へキサン、シクロヘキサン、デカン、イソノナン、p−メンタン、ピネン、イソドデカン、リモネンなどが挙げられる。これらの溶剤は、1種単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。また、除去しにくい場合は、上記溶剤に、塩基類、酸類を添加してもよい。塩基類の例としては、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、アンモニア等のアミン類、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等のアンモニウム塩類が使用可能である。酸類としては、酢酸、シュウ酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸などの有機酸が使用可能である。添加量は、洗浄液中濃度で、0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。また、残存物の除去性を向上させるため、既存の界面活性剤を添加してもよい。洗浄方法としては、上記液を用いてパドルでの洗浄を行う方法、スプレー噴霧での洗浄方法、洗浄液槽に浸漬する方法が可能である。温度は10〜80℃、好ましくは15〜65℃が好適であり、必要があれば、これらの溶解液で(A)層を溶解したのち、最終的に水洗又はアルコールによるリンスを行い、乾燥処理させて、薄型ウエハを得ることも可能である。
【実施例】
【0109】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0110】
[樹脂合成例1]
4つ口フラスコにオクタメチルシクロテトラシロキサン1,000g(3.38モル)及びヘキサメチルジシロキサン0.24g(0.0015モル)を仕込み、温度を110℃に保った。次いで、これに10質量%テトラブチルホスホニウムハイドロオキサイドシリコネート4gを加え、4時間かけて重合した後、160℃で2時間、後処理を行って、ジメチルポリシロキサンを得た。
このジメチルポリシロキサンを29Si−NMR法でD単位とM単位の割合を調べたところ、D単位99.978%、M単位0.022%で、おおよそ重合度9,000の下記構造のジメチルポリシロキサンと同定された。
【化14】
【0111】
このジメチルポリシロキサン500gをヘキサン500gに溶解したのち、これを2Lのアセトン中に投入し、析出した樹脂を回収して、その後、真空下でヘキサン等を除去して、分子量740以下の低分子量成分が0.05質量%である、重量平均分子量が700,000のジメチルポリシロキサン重合体を得た。この重合体10gをイソドデカン90gに溶解し、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、ジメチルポリシロキサン重合体のイソドデカン溶液(A−1)を得た。
なお、重量平均分子量は、GPCにより測定した。
【0112】
[樹脂合成例2]
4つ口フラスコにオクタメチルシクロテトラシロキサン1,000g(3.38モル)及びトリス(トリメチルシロキシ)メチルシラン0.93g(0.003モル)を仕込み、温度を110℃に保った。次いで、これに10質量%テトラブチルホスホニウムハイドロオキサイドシリコネート4gを加え、4時間かけて重合した後、160℃で2時間、後処理を行って、ジメチルポリシロキサンを得た。
このジメチルポリシロキサンを29Si−NMR法でD単位、M単位、T単位のそれぞれの割合を調べたところ、D単位99.911%、M単位0.067%、T単位0.022%であり、下記構造の分岐状ジメチルポリシロキサンと同定された。
【化15】
【0113】
この分岐状ジメチルポリシロキサン500gをヘキサン500gに溶解したのち、これを2Lのアセトン中に投入し、析出した樹脂を回収して、その後、真空下でヘキサン等を除去して、分子量740以下の低分子量成分が0.07質量%である、重量平均分子量が400,000のジメチルポリシロキサン重合体を得た。この重合体20gをイソドデカン80gに溶解し、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、ジメチルポリシロキサン重合体のイソドデカン溶液(A−2)を得た。
【0114】
[樹脂合成例3]
撹拌機、温度計、窒素置換装置及び還流冷却器を具備したフラスコ内に9,9’−ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(M−1)43.1g、平均構造式(M−3)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン29.5g、トルエン135g、塩化白金酸0.04gを仕込み、80℃に昇温した。その後、1,4−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン(M−5)17.5gを1時間掛けてフラスコ内に滴下した。このとき、フラスコ内温度は、85℃まで上昇した。滴下終了後、更に80℃で2時間熟成した後、トルエンを留去すると共に、シクロヘキサノンを100g添加して、樹脂固形分濃度40質量%のシクロヘキサノンを溶剤とする樹脂溶液を得た。この溶液の樹脂分の分子量をGPCにより測定すると、ポリスチレン換算で重量平均分子量45,000であった。更に、この樹脂溶液50gに、架橋剤としてエポキシ架橋剤であるEOCN−1020(日本化薬(株)製)を7.5g、硬化触媒として、和光純薬工業(株)製、BSDM(ビス(tert−ブチルスルホニル)ジアゾメタン)を0.2g、さらに、酸化防止剤として、テトラキス[メチレン−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシハイドロシンナメート)]メタン(商品名:アデカスタブ AO−60)を0.1g添加し、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、樹脂溶液(B−1)を得た。
【0115】
[樹脂合成例4]
撹拌機、温度計、窒素置換装置及び還流冷却器を具備した5Lフラスコ内にエポキシ化合物(M−2)84.1gをトルエン600gに溶解後、化合物(M−3)294.6g、化合物(M−4)25.5gを加え、60℃に加温した。その後、カーボン担持白金触媒(5質量%)1gを投入し、内部反応温度が65〜67℃に昇温するのを確認後、更に、90℃まで加温し、3時間熟成した。次いで室温まで冷却後、メチルイソブチルケトン(MIBK)600gを加え、本反応溶液をフィルターにて加圧濾過することで白金触媒を取り除いた。この樹脂溶液中の溶剤を減圧留去すると共に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)270gを添加して、固形分濃度65質量%のPGMEAを溶剤とする樹脂溶液を得た。この樹脂溶液中の樹脂の分子量をGPCにより測定すると、ポリスチレン換算で重量平均分子量28,000であった。更にこの樹脂溶液100gに4官能フェノール化合物であるTEP−TPA(旭有機材工業製)を9g、テトラヒドロ無水フタル酸(新日本理化(株)製、リカシッドHH−A)0.2gを添加して、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、樹脂溶液(B−2)を得た。
【化16】
【0116】
[樹脂溶液作製例1]
0.5モル%のビニル基を分子側鎖に有し、数平均分子量(Mn)が3万のポリジメチルシロキサン80質量部およびイソドデカン400質量部からなる溶液に下記式(M−6)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを3.0部、エチニルシクロヘキサノール0.7部を添加し混合した。さらに白金触媒CAT−PL−5(信越化学工業株式会社製)を0.5部添加し、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、熱硬化性シロキサン重合体溶液(C−1)を得た。
【化17】
【0117】
[樹脂溶液作製例2]
0.5モル%のビニル基を分子側鎖に有し、数平均分子量(Mn)が3万のポリジメチルシロキサン60質量部、および0.15モル%のビニル基を両末端鎖に有し、数平均分子量(Mn)が6万のポリジメチルシロキサン20質量部およびイソドデカン400質量部からなる溶液に(M−6)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを2.5部、エチニルシクロヘキサノール0.7部を添加し混合した。さらに白金触媒CAT−PL―5(信越化学工業株式会社製)を0.5部添加し、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、熱硬化性シロキサン重合体溶液(C−2)を得た。
【0118】
[樹脂溶液作製例3]
0.5モル%のビニル基を分子側鎖に有し、数平均分子量(Mn)が3万のポリジメチルシロキサン40質量部、および0.15モル%のビニル基を両末端鎖に有し、数平均分子量(Mn)が6万のポリジメチルシロキサン40質量部およびイソドデカン400質量部からなる溶液に(M−6)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを2.0部、エチニルシクロヘキサノール0.7部を添加し混合した。さらに白金触媒CAT−PL―5(信越化学工業株式会社製)を0.5部添加し、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、熱硬化性シロキサン重合体溶液(C−3)を得た。
【0119】
[実施例1〜5及び比較例1〜3]
表面に高さ10μm、直径40μmの銅ポストが全面に形成された直径200mmシリコンウエハ(厚さ:725μm)にスピンコート後、ホットプレートにて、180℃で5分間加熱することにより、(A)層に対応する材料を表1に示す膜厚で、ウエハバンプ形成面に成膜した。なお実施例1〜3、5、比較例3については、スピンコート後に、イソドデカンを用いて、ウエハ外周部の(A)層を表1に示す幅でエッジカット処理した。一方、直径200mm(厚さ:500μm)のガラス板を支持体とし、この支持体にまず(C)層に対応する重合体溶液をスピンコート、およびホットプレートにより、200℃で5分間加熱することで、表1中に記載された膜厚で、ガラス支持体上に形成した。その後、(B)層に相当する重合体溶液を、ガラス支持体上に形成された(C)層上に、やはりスピンコートすることで、表1中の膜厚で形成した。さらにその後、150℃で3分間、ホットプレート上で加熱した。このようにしてこの熱可塑性オルガノポリシロキサン重合体層(A)を有するシリコンウエハ及び、熱硬化性シロキサン重合体からなる(C)層と、その(C)層上に(B)層を有するガラス板とをそれぞれ、樹脂面が合わされるように、真空貼り合わせ装置内で表1に示す条件にて貼り合わせ、積層体を作製した(圧着条件)。
【0120】
なお、ここで、基板接着後の異常を目視で判別するために支持体としてガラス板を使用したが、ウエハなどの光を透過しない基板も使用可能である。
【0121】
その後、この接合された基板に対し、下記試験を行い、実施例および比較例の結果を表1に示した。また、下記の順で評価を実施したが、途中で、異常(判定が「×」)となった時点で、それ以後の評価を中止した。
【0122】
−接着性試験−
200mmのウエハ接合は、EVG社のウエハ接合装置EVG520ISを用いて行った。接合温度は表1に記載の値、接合時のチャンバー内圧力は10−3mbar以下、荷重は5kNで実施した。接合後、一旦、180℃で1時間オーブンを用いて基板を加熱し、(B)層及び(C)層の硬化を実施したのち、室温まで冷却し、その後の界面の接着状況を目視で確認し、界面での気泡などの異常が発生しなかった場合を良好と評価して「○」で示し、異常が発生した場合を不良と評価して「×」で示した。
【0123】
−裏面研削耐性試験−
グラインダー(DISCO製、DAG810)でダイヤモンド砥石を用いてシリコンウエハの裏面研削を行った。最終基板厚50μmまでグラインドした後、光学顕微鏡(100倍)にてクラック、剥離等の異常の有無を調べた。異常が発生しなかった場合を良好と評価して「○」で示し、異常が発生した場合を不良と評価して「×」で示した。
【0124】
なお、実施例2〜4及び比較例3については、裏面研削を行った後、ダイサー(DISCO製)で裏面研削されたウエハのダイシング処理を行った。ダイシングは、チップサイズ10mm×10mm、深さが裏面研削ウエハ及び(A)層と、(B)層の中間までが切断され、(C)層及び支持体は切れないような設定で行った。ダイシング処理を行ったものに関しては、表1中にダイシング有り無しで記載した。
【0125】
−耐熱性試験−
シリコンウエハを裏面研削した後の積層体を窒素雰囲気下の200℃オーブンに2時間入れた後、260℃のホットプレート上で10分加熱した後の外観異常の有無を調べた。外観異常が発生しなかった場合を良好と評価して「○」で示し、わずかなウエハのゆがみが見られるものの、ボイド発生や、ウエハ膨れ、あるいはウエハ破損等の異常がなかった場合を概ね良好と評価して「△」、ボイド、ウエハ膨れ、ウエハ破損等の外観異常が発生した場合を不良と評価して「×」で示した。
【0126】
−支持体剥離性試験−
支持体の剥離性は、以下の方法で評価した。まず、耐熱性試験終了後の50μmまで薄型化したウエハの加工面(回路非形成面)側にダイシングフレームを用いてダイシングテープを貼り、このダイシングテープ面を真空吸着によって、吸着板にセットした。その後、室温にて、ガラスの1点をピンセットにて持ち上げることで、ガラス基板を剥離した。50μmのウエハを割ることなく剥離できた場合を「○」で示し、割れなどの異常が発生した場合を不良と評価して「×」で示した。
【0127】
−テープピール剥離性試験−
テープピール剥離性試験は、以下の方法で行った。まず、支持体剥離性試験まで終えたウエハを、引き続きダイシングテープ面を真空吸着によって、吸着版にセットした。その後、(株)寺岡製作所製ポリエステルフィルム粘着テープNo.648を表面に露出した重合体層(B)に貼り、テープピール剥離を行うことでウエハから重合体層(B)を剥離した。50μmのウエハを割ることなく剥離できた場合を「○」で示し、割れなどの異常が発生した場合を不良と評価して「×」で示した。
【0128】
−洗浄除去性試験−
上記テープピール剥離性試験終了後のダイシングテープを介してダイシングフレームに装着された200mmウエハ(耐熱性試験条件に晒されたもの)を、接着層を上にしてスピンコーターにセットし、洗浄溶剤としてイソノナンを3分間噴霧したのち、ウエハを回転させながらイソプロピルアルコール(IPA)を噴霧にてリンスを行った。その後、外観を観察して残存する接着材樹脂の有無を目視でチェックした。樹脂の残存が認められないものを良好と評価して「○」で示し、樹脂の残存が認められたものを不良と評価して「×」で示した。
【0129】
−ピール剥離力試験−
支持体としてシリコンウエハ上に上記実施例及び比較例で作製したのと同じ条件で重合体層(C)を形成し、その上に重合体層(B)を形成した後、150mm長×25mm幅のポリイミドテープを5本貼り付け、テープが張られていない部分の(B)層を除去した。島津製作所社のAUTOGRAPH(AG−1)を用いてテープの一端から180°剥離で120mm剥がし、そのときにかかる力の平均(120mmストローク×5回)を、その仮接着層のピール剥離力とした。
【0130】
【表1】
【0131】
表1に示されるように、本発明の要件を満たす実施例1〜5では、仮接着及び剥離が容易であり、特に実施例2〜4より、チップ飛び等起こすことなく剥離前のダイシングが可能であり、剥離前の薄型ウエハが切断された状態であっても容易に剥離可能であることがわかる。また、実施例1〜5のピール剥離力は5〜40gfであるので、ウエハ研削時にウエハのズレが生じる恐れがない。
【0132】
一方、比較例1は実施例1で(A)層を塗布しなかった場合だが、研磨されたウエハに残った(B)層をテープピールすることができなかった。また比較例2は実施例2で(B)層を塗布しなかった場合だが、接着させることができなかった。更に、比較例3は実施例3で(C)層を塗布しなかった場合だが、支持体の剥離ができなかった。このように、3層のうちどれか1層がなくても、最後まで処理できないことがわかる。
【0133】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1