【文献】
”Improvement of Web Heat Condition by the Deposition Drum Design”, 2000 Society of Vacuum Coaters, 50th. Annual Technical Conference Proceeding (2007),p.749
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
減圧雰囲気下で搬送される厚さ100μm以下の長尺樹脂フィルムを筒状の胴体部の外周面に巻き付け、内部を循環する温調媒体で温度調整を行うキャンロールを用いた長尺樹脂フィルムの処理方法であって、
前記胴体部には、その中心軸方向に延在する複数のガス導入管が該外周面の周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って穿設されており、各ガス導入管には該外周面で開口する複数のガス放出孔が設けられており、各ガス放出孔の内径は、下限を10μm、上限を長尺樹脂フィルムのうちガス放出孔に対向する箇所とそれ以外の箇所との温度差が所定の値以下となるように400μm及び長尺樹脂フィルムの厚さの20倍のうちのいずれか小さい値にし、隣接するガス導入管同士のピッチは前記それ以外の箇所の温度が所定の値以下となるようガス導入管の内径の2倍以上にし、
前記胴体部の外周面とそこに巻き付いている長尺樹脂フィルムとの離間距離が400μm以下及び該離間部に導入されるガスの平均自由行程の10倍以下のうちのいずれか小さい方となるように該離間部に導入するガスの圧力を制御することを特徴とする、キャンロールを用いた長尺樹脂フィルムの処理方法。
前記複数のガス導入管は、それぞれガス開閉手段を介してガスの供給が行われており、各ガス開閉手段は前記キャンロールの回転に伴って回転するガス導入管が位置する角度範囲に応じて開閉することを特徴とする、請求項1に記載のキャンロールを用いた長尺樹脂フィルムの処理方法。
前記ガス開閉手段が、ガス導入管と共に回転し且つ磁力によって開閉作動するガス導入弁であり、該ガス導入弁が有する磁石に磁気を付与してガス導入弁を閉位置に移動させる磁気付与手段が、前記外周面のうち長尺樹脂フィルムの巻き付けられない角度範囲に対応する位置に設けられていることを特徴とする、請求項2に記載のキャンロールのキャンロールを用いた長尺樹脂フィルムの処理方法。
前記ガス開閉手段が、ガス導入管と共に回転し且つ電気的に開閉作動するガス導入弁であり、キャンロールの回転に伴って回転するガス導入管が、前記外周面のうち長尺樹脂フィルムの巻き付けられない角度範囲に来たことを検出した電気的信号に基づいてガス導入弁を閉位置に移動させることを特徴とする、請求項2に記載のキャンロールのキャンロールを用いた長尺樹脂フィルムの処理方法。
減圧容器内においてロールツーロールで搬送される厚さ100μm以下の長尺樹脂フィルムをキャンロールの外周面上の搬送経路に巻き付けて、該外周面に対向して配置された熱負荷のかかる表面処理手段で長尺樹脂フィルムの表面を処理する長尺樹脂フィルムの処理装置であって、
前記キャンロールの胴体部には、その中心軸方向に延在する複数のガス導入管が該外周面の周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って穿設されており、各ガス導入管には該外周面で開口する複数のガス放出孔が設けられており、各ガス放出孔の内径は、下限が10μm、上限が長尺樹脂フィルムのうちガス放出孔に対向する箇所とそれ以外の箇所との温度差を所定の値以下にするため400μm及び長尺樹脂フィルムの厚さの20倍のうちのいずれか小さい値になっており、隣接するガス導入管同士のピッチは前記それ以外の箇所の温度が所定の値以下となるようにガス導入管の内径の2倍以上になっており、
前記複数のガス導入管の各々は前記キャンロールの回転に伴う回転によって位置する角度範囲に応じて開閉するガス開閉手段を有しており、
前記胴体部の外周面とそこに巻き付いている長尺樹脂フィルムとの離間距離が400μm以下及び該離間部に導入されるガスの平均自由行程の10倍以下のうちのいずれか小さい方になるように前記減圧容器の外部から供給する該ガスの供給量を調整することで該離間部に導入するガスの圧力が制御されていることを特徴とする長尺樹脂フィルムの処理装置。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、耐熱性樹脂フィルムの上に配線パターンが形成されたフレキシブル配線基板が用いられている。このフレキシブル配線基板は、耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムに、フォトリソグラフィーやエッチング等の薄膜技術を適用したパターニング処理を施すことによって得られる。近年、フレキシブル配線基板の配線パターンは、ますます繊細化、高密度化する傾向にあり、これに伴って金属膜付耐熱性樹脂フィルムには平坦でシワのないものが求められている。
【0003】
この種の金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法として、従来から、金属箔を接着剤により耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法)、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法)、耐熱性樹脂フィルムに真空成膜法単独で、又は真空成膜法と湿式めっき法との併用で金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法)等が知られている。
【0004】
メタライジング法においては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等が真空成膜法として用いられている。例えば特許文献1には、ポリイミド支持基体にNi−Cr合金をスパッタリングしてから銅をスパッタリングし、得られた銅スパッタリング膜の表面に電解メッキ法で銅を成膜する技術が開示されている。このようなポリイミドなどの長尺フィルムからなる支持基体に対してスパッタリング成膜などの乾式めっき処理を行う場合は、スパッタリングフィルムコータを用いることが一般的である。
【0005】
ところで、上記スパッタリング法は一般に密着力に優れる反面、真空蒸着法に比べて耐熱性樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいといわれている。そして、成膜の際に耐熱性樹脂フィルムに大きな熱負荷がかかると、フィルムにシワが発生し易くなることも知られている。このシワの発生を防ぐため、金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造装置であるスパッタリングフィルムコータでは、冷却機能を備えた回転駆動されるキャンロールの外周面にロールツーロールで搬送される耐熱性樹脂フィルムを巻き付けることによってスパッタリング処理中の耐熱性樹脂フィルムをその裏面側から冷却することが行われている。
【0006】
例えば特許文献2には、スパッタリングウェブコータの一例である巻出巻取式(ロールツーロール方式)の真空スパッタリング装置が開示されている。この巻出巻取式の真空スパッタリング装置には、上記キャンロールの役割を担うクーリングロールが具備されている。更に、クーリングロールの少なくともフィルム送入れ側若しくは送出し側にサブロールが設けられており、これにより耐熱性の長尺樹脂フィルムをクーリングロールに密着する制御が行われている。
【0007】
しかしながら、キャンロールの外周面はミクロ的に見て平坦ではないため、キャンロールの外周面とそこに巻き付けて搬送される長尺樹脂フィルムとの間には真空空間を介して離間するギャップ部(間隙)が存在している。このギャップ部のため、スパッタリングや蒸着の際に長尺樹脂フィルムに加わった熱は実際には長尺樹脂フィルムからキャンロールに効率よく伝熱されているとはいえず、これが長尺樹脂フィルムのシワ発生の原因になっていた。
【0008】
この問題を解決するため、キャンロールの外周面と長尺樹脂フィルムとの間のギャップ部にキャンロール側からガスを導入して、当該ギャップ部の熱伝導率を真空に比べて高くする技術が提案されている。例えば特許文献3には、フィルムと支持手段であるキャンロールの外周面との間に1箇所のガス導入用ノズルからガスを導入し、熱伝導を改善する技術が開示されている。しかし、一箇所だけに設けたガス導入用のノズルのみで支持手段とそこに巻き付けたフィルムとの隙間にガス供給することは困難であり、制御も難しくなることが懸念される。
【0009】
そこで、特許文献4には、キャンロールの外周面に全周に亘ってガスの供給を行う多数の微細な孔(ガス放出孔)を設けることで上記ギャップ部にキャンロール側からガスを導入する技術が開示されている。しかし、この場合は、キャンロールの外周面のうちフィルムが巻き付けられていない領域はフィルムが巻き付けられている領域に比べてガス放出孔での抵抗が低くなるため、キャンロールに供給されるガスのほとんどがこのフィルムの巻き付けられていない領域のガス放出孔を経て真空チャンバーの空間に放出されてしまう。その結果、キャンロールの外周面とそこに巻き付けられているフィルムとの間のギャップ部に本来導入されるべき量のガスが供給されなくなって、熱伝導率を高める効果が得られなくなることがあった。
【0010】
このフィルムの巻き付けられていない領域からのガス放出の問題に対しては、当該フィルムの巻き付けられない領域にカバーを取り付けて、この領域からチャンバーにガスが放出されるのを防止し、これによりキャンロールの外周面とそこに巻き付けられたフィルムとの間のギャップ部に良好にガスを導入する方法(特許文献5)などが提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
先ず、本発明に係るキャンロールが好適に搭載される長尺基板の処理装置であるロールツーロール方式のスパッタリング装置について説明する。このスパッタリング装置は、長尺基板である長尺樹脂フィルムをロールツーロールで搬送し、搬送経路としてのキャンロールの外周面に巻き付けて冷却しながら当該キャンロールの外周面に対向して設けられたスパッタリングカソードで長尺樹脂フィルムに熱負荷の掛かる表面処理であるスパッタリング成膜処理を施す装置である。
【0018】
図1を参照しながら具体的に説明すると、このロールツーロール方式のスパッタリング装置10は、ロール状に巻かれた長尺樹脂フィルムFが巻き出される巻出しロール13と、長尺樹脂フィルムFを巻き付けて冷却する外周面を有するキャンロール14と、長尺樹脂フィルムFの搬送経路に関してキャンロール14の直前及び直後にそれぞれ設けられた前フィードロール16a及び後フィードロール16bと、キャンロール14の上流側を走行する長尺樹脂フィルムFの張力及びキャンロール14の下流側を走行する成膜処理された長尺樹脂フィルムSの張力をそれぞれ測定する張力センサーを備えたテンションロール17a及び17bと、成膜処理された長尺樹脂フィルムSを巻き取る巻取りロール18とを有している。
【0019】
これら巻出しロール13、キャンロール14、前フィードロール16a及び後フィードロール16b、テンションロール17a及び17b、並びに巻取りロール18が搬送手段を構成し、このうち巻出しロール13、キャンロール14、前フィードロール16a、及び巻取りロール18が、各々サーボモータなどの回転駆動手段によって回転せしめられる。更に、巻出しロール13及び巻取りロール18にはパウダークラッチ等のトルク制御手段が設けられており、これにより搬送中の長尺樹脂フィルムF及びSの張力バランスが保たれる。なお、テンションロール17a及び17b、並びにキャンロール14は、外周面が硬質クロムめっきで仕上げられている。
【0020】
スパッタリング装置10には、更にキャンロール14の外周面に巻き付けられた長尺樹脂フィルムFにスパッタリング成膜処理を施して、成膜された長尺樹脂フィルムSを形成する4つのスパッタリングカソード15a〜15dが設けられている。これらスパッタリングカソード15a〜dは、例えばマグネトロンカソード式であり、キャンロール14の外周面の搬送経路に沿って当該外周面に対向するように配置されている。なお、スパッタリングカソード15a〜dにおいて、長尺樹脂フィルムFの搬送方向に直交する方向の寸法は、当該長尺樹脂フィルムFの巾より広ければよい。
【0021】
上記したスパッタリング装置10の構成要素は、筐体としての略直方体形状の真空チャンバー12に収納されており、これにより長尺樹脂フィルムFを減圧雰囲気下において搬送しながら連続的に表面処理することが可能になる。このようにスパッタリング法で成膜する場合は、真空チャンバー12内は10
−4Pa〜10
−3Paの範囲内の圧力まで減圧される(この減圧により達成する最小の圧力を到達圧力という)。
【0022】
到達圧力まで減圧された後、真空チャンバー12内にはスパッタリングガス(アルゴン)が導入されて10
−1Pa〜約1Paの範囲内の圧力に維持される。この状態でスパッタリングが行われる。なお、
図1では真空チャンバー12は直方体状で示されているが、真空チャンバー12内を10
−4Pa〜10Pa程度の減圧状態に保持できるのであればこの形状に限定されるものではなく、円筒状などの他の形状でも良い。
【0023】
次に、上記キャンロール14について
図2及び
図3を参照しながらより詳しく説明する。キャンロール14は筒状胴体部20で構成されており、その外周面20aにロールツーロールで搬送される長尺樹脂フィルムFが巻き付けられる。筒状胴体部20の内側には、例えば筒状胴体部20に対して同心円状の筒状部材が設けられており、この筒状部材と筒状胴体部20との間が冷媒循環部23になっている。
【0024】
この冷媒循環部23と真空チャンバー12の外部に設けた冷媒供給装置(図示せず)との間で冷却水などの冷媒を循環させることにより、筒状胴体部20の外周面20aの温度を略一定に調節することができる。なお、上記筒状部材に代えて2つの円筒の間を冷媒の通路にした二重管構造体を使用し、その外側円筒部の外周面を筒状胴体部20の内周面に接触するように取り付けてもよい。
【0025】
筒状胴体部20の外周部分には、筒状胴体部20の回転中心軸O方向に延在する複数のガス導入管21が、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って設けられている。各ガス導入管21からは、外周面20aに向かって複数のガス放出孔22が延在しており、これらは筒状胴体部20の外周面20aで法線方向に開口している。これら複数のガス放出孔22は、外周面20aのうち両端を除いた長尺樹脂フィルムFの搬送経路において、ガス導入管21の延在方向に沿って略均等な間隔をあけて穿設されている。
【0026】
なお、各ガス導入管21に連通させる複数のガス放出孔22を、筒状胴体部20の外周面20aで法線方向に開口させることにより、複数のガス放出孔22とこれに連通するガス導入管21との位置関係を筒状胴体部20の周方向において一致させることが可能となる。これにより、後述するガス開閉手段の作動により容易にキャンロール14の角度範囲ごとにガス放出を制御することが可能となる。
【0027】
これら複数のガス放出孔22や複数のガス導入管21は、長尺樹脂フィルムFからキャンロール14の冷媒循環部23までの伝熱を考慮してサイズやピッチが定められている。すなわち、長尺樹脂フィルムFからキャンロール14への伝熱には、下記式1で示すR1の熱抵抗とR2の熱抵抗が関与していると考えることができる。
【0028】
[式1]
R=R1(長尺樹脂フィルムFから筒状胴体部20の外周面20aに至るまでの熱抵抗)+R2(筒状胴体部20の外周面20aから冷媒循環部23に至るまでの熱抵抗)
【0029】
先ず、R1の熱抵抗について説明する。R1の熱抵抗には、長尺樹脂フィルムF内での熱抵抗と、長尺樹脂フィルムFと筒状胴体部20の外周面20aとの間の熱抵抗とがある。このうち、長尺樹脂フィルムFと筒状胴体部20との間は、長尺樹脂フィルムFと筒状胴体部20の外周面20aとの接触による熱伝導や、長尺樹脂フィルムFが当該外周面20aから離間することで形成される隙間に存在するガスを介した輻射により伝熱されるが、長尺樹脂フィルムFにおいてガス放出孔22に対向した箇所では、長尺樹脂フィルムFと筒状胴体部20の外周面20aとの隙間に加えてガス放出孔22の空間とガス導入管21の空間を介して筒状胴体部20を構成する金属などの部材の表面に対向することになる。
【0030】
その結果、長尺樹脂フィルムF内において、上記ガス放出孔22の開口部に対向した箇所では、開口部のない領域に対向する箇所より熱が伝わりにくくなり、上記開口部に対向した箇所とそれ以外の箇所との間に温度差が生じることになる。そして、この温度差のため、長尺樹脂フィルムF内において平面方向の熱拡散が生じる。
【0031】
この長尺樹脂フィルムF内の平面方向の熱拡散は、長尺樹脂フィルムFが十分に厚ければ拡散しやすくなって特に問題が生じることはないと考えられるが、本発明に係るキャンロールの使用に適した長尺樹脂フィルムFの厚みは、フレキシブル性や商業的な入手可能性から1μm〜100μm程度となる。このように比較的薄めのフィルムが使用されるため、長尺樹脂フィルムFの平面方向での温度差が大きくなって、問題が生じることがあった。例えばこの温度差が50℃を超えると、長尺樹脂フィルムFの表面にガス放出孔22の痕が残り、製品外観を著しく損なうことがあった。なお、ガス放出孔22とキャンロール14表面とで対向した箇所の温度差は30℃以内が望ましい。
【0032】
そこで、本発明のキャンロールではガス放出孔22の内径を極力小さくして上記した温度差の問題を回避している。具体的には、ガス放出孔22の内径の上限を、400μm及び長尺樹脂フィルムFの厚さの20倍のうちのいずれか小さい値としている。この内径が400μmを超えると、長尺樹脂フィルムF内での熱拡散に要する面積が広くなりすぎ、長尺樹脂フィルムF内の平面方向での温度差が大きくなって上記した長尺樹脂フィルムFの品質上の問題が生じることがある。
【0033】
また、ガス放出孔22の内径が長尺樹脂フィルムFの厚さの20倍を超えて大きくなると、長尺樹脂フィルムF内での熱拡散に要する面積が広くなりすぎ、長尺樹脂フィルムF内の平面方向での温度差が大きくなって上記した長尺樹脂フィルムFの品質上の問題が生じることとなる。特に、ガス放出孔22の内径が400μmを越えると、ガス放出孔の痕跡が長尺樹脂フィルムFに残る可能性がある。なお、ガス放出孔22の内径の下限は、10μm好ましくは50μmである。この内径が10μm未満の場合は、複数のガス放出孔22を形成することが困難になる場合や、ガスの流量にもよるがガス放出孔22内を流れるガスの流動の抵抗が高くなり、外周面と長尺樹脂フィルムFの間の隙間にガスを導くことが難しくなる場合がある。
【0034】
なお、本発明のキャンロールに適した長尺樹脂フィルムFの材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルム等を挙げることができる。
【0035】
R1の熱抵抗に影響を及ぼす他の要因に、長尺樹脂フィルムFが筒状胴体部20の外周面20aから離間する距離がある。この離間距離は、上記したように20μm〜100μmの厚みを有する長尺樹脂フィルムFの場合は、400μm以下に抑えるのが好ましい。この距離が400μmを超えると、上記長尺樹脂フィルムFと筒状胴体部20の外周面20aとの間の隙間から減圧雰囲気下の真空チャンバー内に漏れ出すガスの量が多くなり、長尺樹脂フィルムの表面処理に悪影響を及ぼすおそれがある。更に、上記距離が400μmを超えると、ロールツーロールで搬送中の長尺樹脂フィルムFがキャンロール14の外周面でばたつき、長尺樹脂フィルムFの表面にキズがつくなどの問題が生じるおそれがある。
【0036】
更に、長尺樹脂フィルムFが外周面20aから離間する距離は、当該離間により形成される隙間に導入されるガスの平均自由工程の10倍以下となることが好ましい。上記離間距離が平均自由工程の10倍以下であれば自由分子熱伝導率が支配的となり、高い熱伝導率が得られるからである。これに対して上記距離が平均自由工程の10倍を超えると、隙間が拡がりすぎて粘性気体の熱伝導率が支配的となり、自由分子熱伝導率に比べて熱伝導率が低くなる。
【0037】
つまり、長尺樹脂フィルムFと筒状胴体部20の外周面20aとの間に形成される隙間ではその離間する距離が400μm以下及びガスの平均自由行程の10倍以下のうちいずれか小さい値となるのが好ましく、かかる距離になるように、当該隙間に導入するガスの圧力を制御するのが好ましい。例えば、上記隙間に温度70℃、圧力100Paのアルゴンガスを導入すれば、そのガスの平均自由行程は80μmとなる。
【0038】
次に、R2の熱抵抗について説明する。R2の熱抵抗は、筒状胴体部20の形状と筒状胴体部20を構成する材料の固有の物性値で定まる。この筒状胴体部20内には、前述したように複数のガス導入管21と複数のガス放出孔22とが形成されており、それらの空間がR2の熱抵抗に大きく影響する。なお、ガス放出孔22内やガス導入管21内は層流で流れる程度のガス流量であるので、乱流による高い熱伝導率は期待できない。
【0039】
従って、R2の熱抵抗の観点から、複数のガス放出孔22は、ガス導入管21の延在方向において隣接するガス放出孔22同士の中心間距離(ピッチ)が、ガス放出孔22の内径の50倍〜120倍となるように配設することが望ましい。この中心間距離が該ガス放出孔22の内径の50倍未満では、ガス導入管21の延在方向における単位長さ当たりのガス放出孔22の数が多くなりすぎて、長尺樹脂フィルムFから筒状胴体部20の内側の冷媒循環部23への伝熱が不十分になる。一方、この中心間距離がガス放出孔22の内径の120倍を超えると、長尺樹脂フィルムFと筒状胴体部20の外周面20aとの間の隙間に十分にガスを導入することができなくなる。
【0040】
また、複数のガス導入管21は、隣接するガス導入管21同士の中心間距離(ピッチ)が、最も狭い箇所であってもガス導入管の内径の2倍以上となるように配設する。これにより筒状胴体部20から冷媒循環部23への伝熱の際、ガス導入管21の位置を迂回して伝熱する箇所を適度な数に抑えることができるので、良好に熱伝導を行わせることが可能となる。
【0041】
このように、筒状胴体部20の外周部に設ける複数のガス導入管21及び複数のガス放出孔22は、R1の熱抵抗及びR2の熱抵抗の両方に影響を及ぼすことがわかる。これら複数のガス導入管21に、真空チャンバー12の外部からH
2、He、Ar等のガスが供給される。その結果、各ガス導入管21に連通する複数のガス放出孔22からガスが放出されてキャンロール14の外周面とそこに巻き付けられる長尺樹脂フィルムFとの間の隙間に導入され、該隙間の熱伝導度が向上して長尺樹脂フィルムFを良好に冷却することが可能となる。
【0042】
なお、上記ガス導入管21は、内径5mm程度であれば公知のガンドリルなどで容易に深穴加工を行うことができる。また、ガス放出孔22は、ドリル、パンチ、放電加工、レーザー加工などを用いて筒状胴体部20の外周面からガス導入管21に向けて穿孔することで形成することができる。
【0043】
上記した本発明に係るキャンロール14を
図1に示すようなロールツーロール方式の真空成膜装置10に搭載して使用すると、キャンロール14の上部側の角度範囲では、キャンロール14の外周面は長尺樹脂フィルムに覆われずに露出する。キャンロール14の回転に伴って回転するガス導入管21がこの露出する角度範囲内に来た時は、当該ガス導入管21にはガスの供給を停止するのが望ましい。なぜなら、長尺樹脂フィルムFに覆われていない領域に位置するガス放出孔22の方が、覆われている領域に位置するガス放出孔22よりガスが放出されやすいため、キャンロール14の外周面に巻き付けられている長尺樹脂フィルムFと当該外周面との間の隙間に良好にガスを導入するのが困難になるからである。
【0044】
このように、キャンロール14の回転に伴って回転する各ガス導入管21が位置する角度範囲に応じて当該ガス導入管21にガスを供給するか否かを可能にするため、各ガス導入管21のガス供給側にガスの供給又は停止の切り替えが可能なガス開閉手段を取り付け、このガス開閉手段を介して真空チャンバー12の外部からガスを供給するのが好ましい。
【0045】
これにより、複数のガス導入管21の各々に対して、それが位置しているキャンロール14の外周面における角度範囲に応じて、ガスを供給するか否かを制御することができ、上記したキャンロール14の外周面のうちの長尺樹脂フィルムFに覆われていない領域に位置するガス放出孔22から真空チャンバー12内にガスが放出されるのを止めることが可能となる。
【0046】
ガス開閉手段の構成は特に限定するものではなく、例えば
図4に示すような磁力により開位置(a)と閉位置(b)との間で往復動自在な磁気作動式のガス導入弁30を各ガス導入管21への供給側ライン31に設けると共に、コイルスプリング32等の弾性部材を用いて開方向に付勢させる。そして、ガス導入管21が上記長尺樹脂フィルムFに覆われていない角度範囲内にきたときに、当該ガス導入管21に対応するガス導入弁30の磁石部33に磁気を付与できるように、磁石部33に対向する位置に磁気付与手段34を取り付ける。
【0047】
これにより、ガス導入弁30の磁石部33と磁気付与手段34とを磁気的に反発させて、上記長尺樹脂フィルムFに覆われていない角度範囲内に位置するガス導入管21にはガスの供給を停止することが可能になる。つまり、長尺樹脂フィルムFが巻き付けられる(覆われる)角度範囲内だけにガスを放出させることが可能となる。なお、上記供給側ライン31には例えばロータリージョイントを介して真空チャンバー12の外部のガス供給源からガスを供給することができる。
【0048】
ガス開閉手段は、上記した磁気作動式のガス導入弁に限定されるものではなく、電気的に開閉作動する電気作動式のガス導入弁(例えば電磁弁)を使用してもよい。この場合は、キャンロール14の回転に伴って回転する各ガス導入管21が上記長尺樹脂フィルムFに覆われていない角度範囲に来たことをエンコーダや機械的スイッチなどの位置検出手段を用いて検出し、この位置検出手段から出力される電気的信号に基づいて当該ガス導入管21に対応するガス導入弁を開位置から閉位置に移動させればよい。
【0049】
なお、ガス導入管21に真空チャンバー12の外部から供給するガスの流量は、ガス放出孔22の内径やピッチ、キャンロール14の外周面において長尺樹脂フィルムFに覆われる面積を考慮して適宜定めればよい。また、ガス放出孔22から放出されるガスは、キャンロール14の外周面と長尺樹脂フィルムFとの間の隙間から真空チャンバー12のチャンバー雰囲気内に漏れて拡散する。そのため、真空チャンバー12には排気装置を設けて所定の流量で排気することが必要となる。
【0050】
ところで、キャンロール14の外周面は前述したように硬質クロムめっき処理されているため、目視では凹凸は確認できないが、サブμmからμmオーダーでの微細な凹凸が無数に存在している。これらの凹凸によりキャンロール14の外周面に長尺樹脂フィルムFが巻き付いている場合であっても当該外周面と長尺樹脂フィルムFとの間には微細な隙間が存在することになる。
【0051】
ガス放出孔22から放出されたH
2等のガスは、このキャンロール14の外周面とそこに巻き付けられる長尺樹脂フィルムFとの間の隙間に流れ込む。そして、隙間を拡張させて長尺樹脂フィルムFをキャンロール14の外周面から浮上させる。このような長尺樹脂フィルムFのキャンロール14の外周面からの浮上は、主にキャンロール14の雰囲気の圧力やキャンロール14の半径、更には長尺樹脂フィルムFの張力と幅の影響を受ける。
【0052】
具体的には、キャンロール14の雰囲気の圧力と、長尺樹脂フィルムFがその張力によりキャンロール14の外周面に密着しようとする力Nとの合計よりも高い圧力で上記隙間にガスが導入されると、長尺樹脂フィルムFはキャンロール14の外周面から浮上する。ここで、長尺樹脂フィルムFがその張力によりキャンロール14の外周面に密着しようとする力Nは、キャンロール14の半径をR、長尺樹脂フィルムFの張力をT、その幅をWとすると下記式2の関係式から求めることができる。
【0054】
キャンロール14の内部には前述したように冷媒循環部23が設けられているので、キャンロール14とその外周面に巻き付けられた長尺樹脂フィルムFとの間に形成される隙間にガスが導入されると、長尺樹脂フィルムFからキャンロール14への伝熱が阻害されるとも思われる。しかし、上述の通りキャンロール外周面と長尺樹脂フィルムFとの間には微細な隙間が存在するので、10Pa以下の減圧雰囲気下では物体間の伝熱は、微細な隙間が生じて接触のない箇所では輻射熱のみになり、接触のある箇所では物体間の接触による伝熱のみになるのに対して、本発明に係るキャンロール14では隙間にガスを導入することにより当該ガスによる対流伝熱が付加されるので、より効率的に長尺樹脂フィルムFからキャンロール14に熱を伝えることが可能となる。
【0055】
更に、上記隙間にガスが導入されて隙間が拡張し、キャンロール14の外周面と長尺樹脂フィルムFの接触面積が減少すると、キャンロール14の外周面と長尺樹脂フィルムFの間の摩擦が低減する。その結果、長尺樹脂フィルムFに熱負荷が掛けられて膨張しても外周面に拘束されることがなくなるので、シワの発生を防ぐことができる。すなわち、キャンロール14の外周面上で発生する長尺樹脂フィルムFのシワは、(1)熱負荷による長尺樹脂フィルムFの温度の上昇、(2)キャンロール14の外周面との摩擦によって長尺樹脂フィルムFの熱膨張が妨げられてその内部に生ずる圧縮応力の増大、の2段階の機構を経ている。従来の長尺樹脂フィルムFのシワ抑制技術は、もっぱら上記(1)のみに着目してなされたものであった。
【0056】
そのため、冷却性を向上させたり長尺樹脂フィルムFをキャンロール14へ密着させたりするための各種ロールの検討や張力の制御については検討されてきたが、キャンロール14と長尺樹脂フィルムFとの間の摩擦についてはほとんど検討されてこなかった。これに対して、本発明のキャンロール14では伝熱性能を高めると共に、摩擦の問題を抑えることも可能となるので、よりシワの少ない高品質の金属膜付耐熱性樹脂フィルムを効率よく作製することが可能となる。
【実施例】
【0057】
[実施例1]
図2に示すようなキャンロール14を
図1に示すようなロールツーロール方式のスパッタリング装置10に搭載し、該キャンロール14の外周面に対向するスパッタリングカソード15a〜dから、当該外周面に巻き付けられているポリイミドフィルムからなる長尺樹脂フィルムFに10kw/m
2の熱量を与えた場合、長尺樹脂フィルムFの表面温度がガス放出孔22の中心から離れていくにつれてどのように変化するかシミュレーションした。
【0058】
なお、キャンロール14内部の冷媒循環部23には温度22℃の冷却水が循環していることを想定した。また、ガス放出孔22からはアルゴンガスが放出されるものとし、キャンロール14の外周面とそこに巻き付けられている長尺樹脂フィルムFとの間の隙間のアルゴンの圧力は500Paと想定した。キャンロール14の筒状胴体部20は厚み15mmのステンレス製とし、ガス導入管21は筒状胴体部20の肉厚部において厚み方向の中央部にキャンロール側面から軸方向にほぼ平行にガンドリルで深穴加工で形成したものと想定した。この筒状胴体部20の内面は冷媒循環部23の冷媒に接触している。
図5には、かかるシミュレーションで想定したガス導入管21とガス放出孔22の概略図を示す。
【0059】
1番目のシミュレーションでは、長尺樹脂フィルムFの厚みを25μm、ガス放出孔22の内径を200μm、ガス導入管21の内径を5mmとし、ガス導入管21のピッチを7mm(シミュレーションS1)、10mm(シミュレーションS2)、20mm(シミュレーションS3)と変えた場合のキャンロール14上の長尺樹脂フィルムFの温度を計算した。その結果を
図6に示す。
【0060】
図6の横軸は、
図5におけるガス放出孔22の中心からの距離Dであり、縦軸は当該中心からの距離D離れた点の長尺樹脂フィルムFの表面温度Tである。この図から、ガス導入管21のピッチが狭くなるにつれて長尺樹脂フィルムFの表面温度が上昇することが分かる。特に、ガス導入管21のピッチがガス導入管21の内径の2倍よりも狭い7mmでは、長尺樹脂フィルムFの温度が80℃を超えている。
【0061】
2番目のシミュレーションでは、長尺樹脂フィルムFの厚みを25μm、ガス放出孔22の直径を200μmとし、ガス導入管21のピッチ(中心間距離)は10mmのままでガス導入管21の内径を2mm(シミュレーションS4)、5mm(シミュレーションS5)、7mm(シミュレーションS6)、9mm(シミュレーションS7)とした場合のキャンロール14上の長尺樹脂フィルムFの温度を計算した。その結果を
図7に示す。
図7の横軸及び縦軸は
図6と同じである。
【0062】
この図から、ピッチを固定してガス導入管21の内径を大きくしていくと隣接するガス導入管21同士の間隔が狭くなっていくので、長尺樹脂フィルムFの表面温度が上昇することが分かる。特に、ガス導入管21のピッチがガス導入管21の内径の2倍よりも狭くなると長尺樹脂フィルムFの表面温度が80℃を超えている。上記1番目と2番目のシミュレーション結果から、ガス導入管21のピッチがガス導入管21の内径の2倍より狭くなると熱伝導が不十分になることが分かる。
【0063】
3番目のシミュレーションでは、長尺樹脂フィルムFの厚みを12.5μmとして、ガス放出孔22の内径を100μm(厚みの8倍、シミュレーションS8)、200μm(厚みの16倍、シミュレーションS9)、400μm(厚みの32倍、シミュレーションS10)とした場合のキャンロール14上の長尺樹脂フィルムFの温度を計算した。その結果を
図8及び
図9に示す。
【0064】
図8の横軸及び縦軸は
図6と同じである。
図9の横軸は長尺樹脂フィルムFの厚さとガス放出孔22の内径との比であり、縦軸はガス放出孔22の中心とその周辺部との長尺樹脂フィルムFの表面温度の差である。
図9に示されるように、ガス放出孔22の内径が400μmでは、ガス放出孔22の中心と周辺部で50℃以上の温度差が生じている。このことから、ガス放出孔22の内径は、長尺樹脂フィルムFの厚みも考慮する必要があることが分かる。
【0065】
[実施例2]
図1に示すようなロールツーロール方式のスパッタリング装置10に
図2に示すようなガス導入管21及びガス放出孔22を備えたキャンロール14を装着してスパッタリング成膜を行った。キャンロール14の筒状胴体部20には直径40cm、幅60cmのアルミニウム合金の部材を使用し、その中心軸部にステンレス製の回転軸を備えた。
【0066】
筒状胴体部20の外周部には、筒状胴体部20の中心軸O方向に略平行に延在する120本のガス導入管21を設けた。これらガス導入管21は、周方向に略均等な間隔をあけて配設した。各ガス導入管21は、中心軸Oに直交する面での断面形状を内径5mmの略円形とした。このとき、隣接するガス導入管21同士の間隔は約5.1mmとなり、よって隣接するガス導入管21間のピッチはガス導入管21の内径の2倍以上であった。
【0067】
筒状胴体部20の外周部には、更に外周面20a側で開口する内径0.2mmのガス放出孔22を、各ガス導入管21ごとに略均等な間隔をあけて配された複数のガス放出孔22が連通するように穿設した。各ガス
放出孔22は、筒状胴体部20の略法線方向に延在するように深さ5mmで孔加工してガス導入管21に連通させた。隣接するガス放出孔22同士の筒状胴体部20の周方向と中心軸O方向のピッチは共に10.5mmとなった。
【0068】
各ガス導入管21には、キャンロール14の外周面のうち、長尺樹脂フィルムFに覆われない領域で開口するガス放出孔22からはガスの放出を止めるため、
図4に示すような磁力で開閉する磁気作動式のガス導入弁30を取り付け、このガス導入弁30を介して真空チャンバー12の外部からガスを供給した。そして、キャンロール14の回転に伴って回転するガス導入管21が上記長尺樹脂フィルムFに覆われない領域に来た時、該ガス導入管21に連通するガス導入弁30の磁石部33に対向するように、キャンロール14の側面近傍に磁気付与手段34としての略扇形の磁石を設置した。
【0069】
これにより、上記略扇形の磁石とガス導入弁30の磁石部33とが対向した時、これら磁石同士が反発してガス導入弁30が移動し、真空チャンバー12の外部から該ガス導入管21に至る供給側ライン31を閉じるようにした。つまり、長尺樹脂フィルムFに巻き付けられない(覆われない)角度範囲内にガス導入管21が位置するときはガス導入弁30が閉じられてガスが供給されない仕組みになっている。なお、ガス導入弁30の磁石部33がキャンロール14の側面近傍に設けた磁石に対向しない時は、コイルスプリング32の付勢力によりガス導入弁30は開位置で保持されるようにした。
【0070】
また、キャンロール14の外周面を覆う長尺樹脂フィルムFの浮上量を測定するためのレーザー式の変位計と、長尺樹脂フィルムFの温度を測定する赤外温度計とを配置した。スパッタリングカソード15aにはクロム20重量%を含むニッケル−クロム合金ターゲットを装着し、スパッタリングカソード15b、15c、15dには銅ターゲットを装着した。そして、長尺樹脂フィルムFには、幅50cm厚み12.5μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製 カプトン 登録商標)を使用し、その表面にニッケル−クロム合金薄膜を成膜し、更にその表面に銅薄膜を積層させた。
【0071】
長尺樹脂フィルムFの搬送時の張力は100Nとした。真空チャンバー12内はスパッタリング時は圧力1.3Paのアルゴン雰囲気とした。キャンロール14の冷媒循環部23には温度22℃の冷媒を循環させた。この状態で、先ずガス放出孔22からガスを放出せずに、各スパッタリングカソードの出力を上昇させながら成膜を行い、キャンロール14の外周面上でシワが発生する条件を割り出し、スパッタリングカソードの出力を固定した。その際の長尺樹脂フィルムFの温度は150℃であった。
【0072】
次に、ガス放出孔22からアルゴンガスを放出し、レーザー変位計で長尺樹脂フィルムFの浮上量とシワの解消を観察した。アルゴンガスの供給量を増したところ、浮上量は10μm〜20μmで長尺樹脂フィルムFの温度は75℃となり、シワは解消した。また、長尺樹脂フィルムFにガス放出孔の痕跡は残らなかった。
【0073】
[実施例3]
ガス放出孔22の内径を0.1mmとしたキャンロールを用意した以外は実施例2と同様に長尺樹脂フィルムFにスパッタリング成膜を行った。長尺樹脂フィルムFにガス放出孔の痕跡は残らなかった。
【0074】
[比較例]
ガス放出孔22の内径を0.5mmとしたキャンロールを用意した以外は実施例2と同様に長尺樹脂フィルムFにスパッタリング成膜を行った。シワが発生しないようにアルゴンガスをキャンロール14から供給しても長尺樹脂フィルムFにガス放出孔の痕跡が一部に残り、不良品となった。