(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記演算手段は、前記動揺半径と前記転覆限界動揺半径とに基づく転覆限界傾斜角度を前記転覆危険度として算出することを特徴とする請求項1記載の転覆危険度算出システム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0012】
本実施の形態の転覆危険度算出システムは、
図1を参照すると、船舶に取り付けて船舶の揺動を検出する振動検出部1と、振動検出部1によって検出された船舶の揺動に基づいて、転覆の危険度を予測するデータ処理装置2とを備えている。
【0013】
振動検出部1は、基準板3と、基準板3の揺動を検出する揺動検出手段として機能する加速度センサ4及び角速度センサ5と、A/D(アナログ/デジタル)変換器6とで構成されている。
【0014】
基準板3は、4隅に取り付け孔31が形成された矩形状の平板であり、Y軸線32と、Y軸線32と直交するX軸線33とが表記されている。加速度センサ4は、Y軸線32及びX軸線33と直交するZ軸方向の加速度、すなわち基準板3の上下方向の縦揺れ(揺動)を検出するように感度軸が調整されている。また、角速度センサ5は、Y軸線32を中心とした回転方向の角速度、すなわちY軸線32を中心とした基準板3のロール方向の横揺れ(揺動)を検出するように感度軸が調整されている。なお、加速度センサ4及び角速度センサ5には、特に限定はなく、加速度センサ4として、例えば、半導体式や、静電容量式等の任意のセンサを採用することができると共に、角速度センサ5として、例えば、ジャイロスコープや光ファイバ・ジャイロ等の任意のセンサを採用することができる。また、加速度センサ4及び角速度センサ5として3軸(3次元)の角速度センサを用いても良い。
【0015】
また、基準板3には、A/D(アナログ/デジタル)変換器6が設けられている。A/D変換器6は、加速度センサ4及び角速度センサ5から出力されるアナログ信号(検出結果)をデジタル信号に変換してデータ処理装置2に出力する。
【0016】
図2を参照すると、振動検出部1の船舶7への取り付けは、船舶7の中心線を基準にして行われる。なお、船舶7の中心線は、船舶7の重心Gが位置する前後方向の仮想軸である。基準板3は、Y軸線32が船舶7の中心軸と平行に、且つY軸線32及びX軸線33と垂直なZ軸が船舶7の中心軸と交わるように、船舶7に取り付ける。これにより、加速度センサ4は、船舶7の上下方向の縦揺れ(揺動)を検出するように感度軸が調整され、船舶7の上下方向の往復運動を検出する上下方向検出手段として機能する。また、角速度センサ5は、船舶7の中心軸を中心としたロール方向の横揺れ(揺動)を検出するように感度軸が調整され、船舶の中心軸を中心としたロール方向の単振子運動を検出するロール方向検出手段として機能する。なお、加速度センサ4を縦揺れ検出手段として正確に機能させるために、理想的には、Y軸線32と船舶7の中心軸とを一致せることが好ましいが、
図2に示すように、Y軸線32が船舶7の中心軸から上下方向にずれた位置(例えば、甲板等)に基準板3を取り付けても、船舶7の上下方向の縦揺れ(揺動)をほぼ正確に検出することができる。また、
図2には、基準板3の船舶7への取り付け方法の一例として、取り付け孔31をボルト8で締結する構成が示されているが、振動検出部1、すなわち基準板3が船舶7と一体となって揺動されるのであれば、基準板3の船舶7への取り付け方法には限定がなく、ボルト以外の他の取り付け方法(磁力や吸盤等)を採用しても良い。また、船舶の揺動によって基準板3が滑らないので有れば甲板に載置するだけでも良いし、船室や操舵室内に適宜に設置しても良い。さらに、基準板3を用いることなく、加速度センサ4及び角速度センサ5を直接船舶7に取り付けるようにしても良い。
【0017】
データ処理装置2は、
図3を参照すると、マイクロプロセッサ等からなる演算部21と、ROM(リードオンリーメモリ)やRAM(ランダムアクセスメモリ)等からなる記憶部22と、キーボード等の操作部23と、液晶ディスプレイやスピーカ等の報知部24と、受信部25とを備え、各部はバス26によって接続されている。
【0018】
記憶部22には、重心位置を導くための演算プログラムや、当該演算に必要な各種の入力用の定数が記憶されている。演算部21は、操作部23からの演算指示に基づいて、一定期間、加速度センサ4及び角速度センサ5から出力を記憶部23に記憶させる。次に、演算部21は、記憶部22に記憶されている演算プログラムに従って、記憶部22に記憶した加速度センサ4及び角速度センサ5から出力に基づいて、船舶7の動揺に基づいて、船舶7の転覆危険度を算出する。そして、演算部21によって算出された転覆危険度は、報知部24によってユーザに報知され、転覆の危険を予測する指標として用いられる。
【0019】
次に、本実施の形態のデータ処理装置2における転覆危険度の算出動作について
図4乃至
図9を参照して詳細に説明する。
転覆危険度の算出動作に先立ち、まず、
図4に示すように、一対のバネ80によって支えられたばね構造体81上の物体82について考察する。ばね構造体81上の物体82は、その移動により外乱を受けるか、停止中であっても外力が直接加えられることにより、縦揺れ(上下方向の単振動)と、横揺れ(ロール方向)とを生じる。なお、横揺れ(ロール方向)の中心軸のことを揺動中心軸83とする。この縦揺れ及び横揺れは、物体82の持つ唯一無二の空間的な重心位置に応じて定まるので、縦揺れの単振動周波数「v’」と、横揺れのロール周波数「v」とを求めれば、物体82の重量や形状の情報を必要することなく、揺動中心軸83からの物体82の三次元空間上の重心位置を求めることができる(以下、この理論を三次元重心検知理論と称す)。例えば、物体82が揺動中心軸83に対して左右対称な形状であれば、揺動中心軸83から物体82の重心Gまでの重心高さ「l」は、次式で表すことができる。
【0021】
ここで、(数1)は、本発明者が先に出願して登録された特許第4517107号に記載されている(数16)において、α=0°としてものであり、「l」の二次係数、一次係数及び定数項を特定すれば、「l」が求まる。なお、「π」は円周率、「g」は重力加速度、「b」はばね構造体81における一対のバネ80の幅である。
【0022】
また、三次元重心検知理論によると、ばね構造体81上に載置された物体82が横転してしまう限界の重心高さ「l」である横転限界高さ「l
max」は、次式で表すことができる。
【0024】
ここで、(数2)は、本発明者が先に出願した特願2011−266708号に(数6)として記載されたものであり、横転限界高さ「l
max」は、縦揺れの単振動周波数「v’」と、一対のバネ80の幅「b」とが解れば求めることができる。
【0025】
また、
図5に示すように、動揺中心軸83を中心として横転限界高さ「l
max」を移動させ、一対のバネ80の幅「b」の両側のそれぞれの垂線との交点を考えると、これより外側の領域は、ばね構造体81自体が存在しなくなるので、横転限界高さ「l
max」とは無関係にあらゆる物体82はばね構造体81上に静止(存在)できなくなる。従って、この限界交差点を定式化すると、次式で表すことができる。
【0027】
ここで、θ
maxは、横転限界角度であり、動揺中心軸83を中心とする横転限界高さ「l
max」の円弧と、一対のバネ80の幅「b」の両側のそれぞれの垂線との交点と、動揺中心軸83とを結んだ直線が、動揺中心軸83上の垂線と成す角である。
【0028】
次に、上述の陸上における三次元重心検知理論の船舶7への適用を考察する。
三次元重心検知理論では、
図4に示すように、ばね構造体81上の物体82の動揺を、揺動中心軸83を中心とした動揺として、重心高さ「l」や横転限界高さ「l
max」を求めている。従って、三次元重心検知理論を船舶7に適用する場合にも、船舶7の動揺の中心となる軸を定める必要がある。
【0029】
図6(a)に示すように、水面上に漂う質点の運動は、波により円運動を生じる。その運動は、水面下に潜るにしたがって小さくなり、ある一定の水深のところで動かなくなる。
図6(b)に示すように、当然のことながら船舶7も、基本的にはこの運動に支配されている。従って、船舶7は、水面下にある特定の軸位置を基点として、重心Gが縦揺れ(上下方向の単振動)と横揺れ(ロール方向)を生じていると考えられる。なお、この縦揺れ及び横揺れの中心となる軸位置は、仮想の下心で物理的に目に見える形で存在するものではないが、この仮想の下心を船舶7の動揺の動揺中心軸Oとすることができる。従って、動揺中心軸Oと船舶7の重心Gとを結ぶ線分の長さは、陸上における三次元重心検知理論の重心高さ「l」に対応する船舶7の動揺半径「l」となる。なお、重心Gの動揺中心軸Oは、通常は水面下にあるが、船舶7の条件により、船底上部の船体内から船底下部の水中あるいは水底下等、理論的には自由にとり得る。
【0030】
また、三次元重心検知理論では、
図4に示すように、ばね構造体81を支える一対のバネ80の幅「b」の値が事前必要になる。例えば、ばね構造体81が列車や自動車であるとすると、幅「b」の値は、左右車軸受部分の幅の長さとなる。しかしながら、三次元重心検知理論を船舶7に適用する場合には、ばね構造体81自体が存在しないため、幅「b」の値を事前に定めることができない。
【0031】
そこで、上述の(数3)に示す幅「b」の値と横転限界高さ「l
max」との関係の船舶7への適用について考察する。
まず、船舶7が微細な横揺れ傾斜角で傾斜した状態を考える。
図7は、船舶7がわずかに右傾した瞬間の状態を三次元重心検知理論に基づいて図説したものである。横揺れ傾斜角は微細であるので、
図7(a)に示すように、メタセンタMと、重心Gと、動揺中心軸Oとは、直線上にあると見なせて、その直線は横揺れ傾斜角分で傾いている。
図7(b)には、
図7(a)に示すメタセンタM、重心G及び浮心Bの位置関係を拡大したものが示されている。
図7(c)には、
図7(b)に示す重心G及び浮心Bの位置関係を拡大したものが示されている。
【0032】
図7を参照すると、ここでメタセンタMと重心Gとは船体の傾斜に連動するが、浮心Bは船体の傾斜とは無縁にメタセンタMから下した垂線上に絶えず位置する。言い換えるならば、浮心Bを通る垂線と、船舶7が傾斜していない時の重心Gを通る垂線との交点がメタセンタMとなる。従って、船舶7が傾斜すると、メタセンタMと重心Gとを通る直線と、浮心Bを通る垂線とには隔たりが生じる。船舶7が傾斜した状態で、重心Gから浮心Bを通る垂線に対して水平線を引いた時、その交点をZとすれば、その隔たりの長さがGZとなって船舶7の復原力の源となる(復原てこの原理)。
【0033】
図7に示した通り、GZは、メタセンタM、重心G、浮心B及び動揺中心軸Oの4つが連動して生起する。
図7では、船舶7が微細な横揺れ傾斜角で傾斜した状態を想定した例であったが、荒天中などより大きな外乱下にさらされた場合は、船舶7の横揺れ傾斜角はより大きく大傾斜になってゆく。そのように大傾斜に至る場合でのメタセンタM、重心G、浮心B、動揺中心軸O及びGZの関係を
図8に示す。
図8において、(a)の船舶7は横揺れ傾斜角がゼロの状態を、(b)の船舶7は横揺れ傾斜角θで傾斜した状態を、(c)の船舶7は横揺れ傾斜角θ
maxでさらに傾斜した状態をそれぞれ示している。
【0034】
水面上での船舶7の動揺は、重心Gより下部に下心の動揺中心軸Oがあり、上部には上心のメタセンタMがあり、メタセンタMの垂直下には浮心Bがあり、この4つが連動することによって横揺れ傾斜角θが変化してゆくと仮定する。水面に浮いている船舶7には、絶えず浮力が働くので、船舶7が傾斜しても重心Gの位置は水面に平行にしか移動できない。これに対して、理論上の存在であるメタセンタMは船体の傾斜が増せば、円弧状をたどりながらその高さを減じてゆく。従って、
図8(b)に示すように、船舶7が傾斜してゆくに従いGZも増加してゆくが、
図8(b)に示すメタセンタMの位置(浮心Bを通る垂線との交点)は、もはや当初の
図8(a)に示すメタセンタMの位置ではなく、メタセンタMが辿る円弧の軌跡と動揺中心軸Oから重心Gを通って伸びる直線との交点である。
図8(b)に示す状態からさらに船体の傾斜が進めば、重心GとメタセンタMが辿る円弧の軌跡との距離が小さくなってゆくことにより、GZはやがて減少に転じてゆく。そして最終的には、
図8(c)に示すように、メタセンタMが辿る円弧の軌跡が重心Gに到達し、メタセンタMと重心Gとを結ぶ線分の長さGM並びにGZも消失する。この
図8(c)に示す船舶7の横揺れ傾斜角「θ
max」が転覆と復原との境界となり、船舶7の横揺れ傾斜角が「θ
max」よりも小さい復原領域と、船舶7の横揺れ傾斜角が「θ
max」よりも大きい転覆領域とが定義される。
【0035】
ここで、
図8に示す横揺れ傾斜角「θ
max」と、
図5に示す横転限界角度「θ
max」とは、共に転覆と復原との境界を示す角度であり、メタセンタMと動揺中心軸Oとを結ぶ線分の長さは、陸上における三次元重心検知理論の横転限界高さ「l
max」に対応することがわかる。以下、メタセンタMと動揺中心軸Oとを結ぶ線分の長さを転覆限界動揺半径「l
max」と称す。また、
図8に示す復原領域の幅、すなわち、
図8(a)に示す傾斜していない船舶7において重心Gを通る垂線と、
図8(c)に示す転覆と復原との境界まで傾斜した船舶7において重心Gを通る垂線との幅は、また、
図5に示す一対のバネ80の幅「b」の1/2とみなすことができる。
【0036】
従って、動揺半径「l」と、転覆限界動揺半径「l
max」と、幅「b」との関係式は、次で表すことができる。
【0038】
ここで、上述の(数1)(数2)及び(数4)を連立方程式化すると、次で表すことができる。
【0040】
(数5)を連立方程式において、縦揺れの単振動周波数「v’」と、横揺れのロール周波数「v」とは、加速度センサ4及び角速度センサ5から出力に基づいて算出される。すなわち、加速度センサ4によって検出される船舶7の上下方向の往復運動を、動揺中心軸Oの上下方向の動揺(単振動周波数「v’」)とする。また、角速度センサ5によって検出される船舶7の中心軸を中心としたロール方向の単振子運動を、動揺中心軸Oを中心とする単振子運動(ロール周波数「v」)とする。
【0041】
従って、(数5)を連立方程式において未知数は、動揺半径「l」と、転覆限界動揺半径「l
max」と、幅「b」との3つである。従って、(数5)の3つの方程式によって、未知数は、動揺半径「l」と、転覆限界動揺半径「l
max」と、幅「b」とを求めることができる。すなわち、三次元重心検知理論を水面に浮かぶ船舶7に適用した場合には、陸上における三次元重心検知理論の
図5に示す一対のバネ80の幅「b」に対応する値を事前に設定することなく、縦揺れの単振動周波数「v’」と、横揺れのロール周波数「v」とから動揺半径「l」と、転覆限界動揺半径「l
max」と求めることができることになる。
【0042】
次に、船舶7の転覆限界条件の導出を行う。
図8に示すように、船舶7が傾斜し、メタセンタMと重心Gとを結ぶ線分の長さGMがゼロになると、復原力を喪失して転覆することになる。また、上述のように、メタセンタMと動揺中心軸Oとを結ぶ線分の長さが転覆限界動揺半径「l
max」となり、重心Gと動揺中心軸Oとを結ぶ線分の長さが動揺半径「l」となるため、転覆限界の条件式は、次式で表すことができる。
【0044】
(数6)の条件式は、船舶7が水平方向に動揺(ロール)を生じずに静止している状態での条件にすぎない。船舶7は水面上では絶えず風波を受けているので、必ず水平方向にロールを生ずるため、転覆限界最大ロール角を示す必要がある。
図8に示すように、船舶7がロール方向に傾斜しても、動揺中心軸Oに対する重心Gの上下方向の位置は不変であるが、動揺中心軸Oから転覆限界動揺半径「l
max」の距離にあるメタセンタMの、動揺中心軸Oに対する上下方向の位置は、船舶7の横揺れ傾斜角θが大きくなれば減少する。従って、横揺れ傾斜角θが次式に示す条件になると、船舶7が転覆すると考えられる。
【0046】
従って、船舶7が風波により動揺中でも転覆しないための限界の横揺れ傾斜角「θ
max」(以下、転覆限界傾斜角度「θ
max」と称す)は、転覆限界動揺半径「l
max」と動揺半径「l」とを使って次式で表すことができる。
【0048】
(数8)であるから、船舶7が風波により動揺中でも転覆しない横揺れ傾斜角θは、次式を満たす必要がある。
【0050】
(数7)の条件は、船舶7が水平方向に動揺(ロール)を生じずに静止している状態(θ=0)で、(数6)と同値となるため、船舶7が転覆しないための必要十分条件となる。
【0051】
従って、データ処理装置2の演算部21は、記憶部22に記憶した加速度センサ4及び角速度センサ5から出力に基づいて、まず、縦揺れの単振動周波数「v’」と、横揺れのロール周波数「v」とを算出し、上述の(数5)を用いて転覆限界動揺半径「l
max」と動揺半径「l」とを算出し、最後に、上述の(数9)を用いて転覆限界傾斜角度「θ
max」を転覆危険度として算出する。演算部21によって算出された転覆限界傾斜角度「θ
max」は、液晶ディスプレイやスピーカ等の報知部24によってユーザに報知され、船舶7の転覆の危険を予測する指標として用いられる。なお、演算部21の過程である転覆限界動揺半径「l
max」と動揺半径「l」とを転覆危険度として報知するように構成しても良い。また、角速度センサ5からの出力に基づいて、現在の船舶7の横揺れ傾斜角θを検出し、検出した横揺れ傾斜角θと、転覆限界傾斜角度「θ
max」との比較結果を転覆危険度として報知するように構成しても良い。この場合には、横揺れ傾斜角θが転覆限界傾斜角度「θ
max」に近づくと警報を報知するように構成しても良い。
【0052】
次に、データ処理装置2の演算部21によって算出される転覆限界傾斜角度「θ
max」と、波高との関係について考察する。
船舶7を傾斜させる要因にはいくつかあるが、すべての船舶7において支配的となるのは航海中に遭遇する波である。特に、海面上では風波が折り重なって波高を生じるため、海波の出現は複雑な現象となる。そこで、最も一般的な、水深が十分にある沖波を例にとれば、有義波高を用いるのが妥当である。
【0053】
有義波高とは、海上において一定時間内に観測される様々な波高を小さい方から大きいものへと順番に並べた時に、最大の波高のものから上位三分の一の順位に入る波高を平均したものをいう。そのため、瞬間的な最大波高は、ごくまれにではあるが、有義波高hの約1.6倍の高さに達することもあることが経験的に知られている。このような関係から、造船・航海の分野においては、有義波高hを船体の安定度や転覆の危険性に及ぼす基準として用いることが、一般的である。
【0054】
有義波高の概念に基づけば、海上の沖波は、波高のみならずさまざまな波長の波が折り重なった現象となる。そのため、単に波高のみならず船体7の傾きに影響を及ぼす波長も考慮に入れなければならない。この技術に合わせて転覆危険度を考えた場合に最も危険となる(船体7を傾斜させやすい)のは、
図9に示すように、波高hの波長が、(数5)を用いて算出される幅「b」と等しくなるような状況である。
図9は、
図8において、転覆限界動揺半径「l
max」−動揺半径「l」が0となる位置での、転覆限界動揺半径「l
max」が描く円の接線の角度に、そのような波長の波面が達した時である。この状況をイメージ化したものである。この時の船舶7の横揺れ傾斜角「θ
h」は、(数5)を用いて算出される幅「b」と、波高hとを用いて次のように定義することができる。
【0056】
従って、船舶7が風波により動揺中でも転覆しない波高hの条件は、転覆限界傾斜角度「θ
max」を用いて、次式で表すことができる。
【0058】
従って、データ処理装置2の演算部21によって転覆限界傾斜角度「θ
max」から船舶7が風波により動揺中でも転覆しない波高hを算出して出力することもでき、また、波高hを入力することで、入力された波高hと、転覆限界傾斜角度「θ
max」との比較結果を転覆危険度として報知するように構成しても良い。
【0059】
なお、上述のとおり有義波高の概念に基づけば、海上では様々の波高・波長が折り重なってゆくことから、
図9に示した条件を、海上の船舶7の転覆限界の有効な基準と考えることは妥当である。加えて、有義波高の特質から、頻度はごく少なくも有義波高の仮定より1.6倍に及ぶ波高が出現することがあり得るので、本基準に有義波高を適用するなら、それは、船舶7の転覆限界の基準としては、必要最低限の位置づけとすべきであり、より安全には、有義波高の1.6倍の波高を基準とすると良い。
【0060】
(転覆危険度算出例1)
本実施の形態の転覆危険度演算システムを船舶A、Bに取り付け、転覆危険度を算出させた例を
図10に示す。船舶A、Bの船体情報は、既知であり、船体情報に基づいて既存造船学に基づいてGM(メタセンタMと重心Gとを結ぶ線分の長さ)が求められている。
【0061】
GMが1.75(m)の船舶Aに本実施の形態の転覆危険度算出システムを取り付け、転覆危険度を算出させた結果、GMに対応する転覆限界動揺半径「l
max」−動揺半径「l」は、1.8mとなった。また、転覆限界傾斜角度「θ
max」は、52.9°となり、十分に安全なものであることがわかった。さらに、転覆限界傾斜角度「θ
max」と横揺れ傾斜角「θ
h」とがほぼ一致する波高hは、9.6mとなり、波高hがほぼ10mで、船舶Aは転覆危険とみなされる結果となった。
【0062】
GMが1.36(m)の船舶Bに本実施の形態の転覆危険度算出システムを取り付け、転覆危険度を算出させた結果、GMに対応する転覆限界動揺半径「l
max」−動揺半径「l」は、1.22mとなった。また、転覆限界傾斜角度「θ
max」は、40.9°となり、十分に安全なものであることがわかった。さらに、転覆限界傾斜角度「θ
max」と横揺れ傾斜角「θ
h」とがほぼ一致する波高hは、5.7mとなり、波高hがほぼ6mで、船舶Bは転覆危険とみなされる結果となった。
【0063】
(転覆危険度算出例2)
図11(a)に示すような船幅が0.22mの方形の模型船90を海水面に浮かべ、模型船90に本実施の形態の転覆危険度算出システムを取り付けて転覆危険度を算出させた。模型船90には、安定的に水面上に浮かべるために、
図11(b)に示すように、重し91を船底左右中央に配置した。そして重さを無視できる軽量な台座(図示せず)を、重し91の下に順次挿入することで、船底から重しの重心位置Gまでの重心高さの位置を変化させ、それぞれについて転覆危険度を算出させ、その算出結果を
図12に示す。また、
図13は、
図12に示す算出結果におけるθ
maxを縦軸にとり、重心高さの位置を横軸に取った散布図である。
【0064】
図13を参照すると、模型船90の転覆限界傾斜角度「θ
max」は、重心高さ位置と共にほぼ2次曲線的に減じてゆき、そのトレンドの延長線は、模型船90が転覆してしまった重心高さ位置にもほぼ一致している。従って、本実施の形態の転覆危険度算出システムによって算出された転覆限界傾斜角度「θ
max」は、重心高さ位置に応じた模型船90の転覆危険度を表していると考えられる。
【0065】
また、
図12を参照すると、波高hを0.6mとした場合には、転覆限界傾斜角度「θ
max」が37.9未満で「θ
max」−「θ
h」がマイナスになって転覆してしまう算出結果となった。これは、模型船90の船底からの重心高さ位置をさらに高めていった場合は、転覆限界傾斜角度「θ
max」が30度以下の場合においてもこの模型船は転覆してしまうことになり、
図13に示す2次曲線のトレンドと合致する。
【0066】
なお、本実施の形態では、振動検出部1とデータ処理装置2とをケーブルと接続して用いるように構成したが、振動検出部1とデータ処理装置2とを無線で接続するようにしても良い。この場合には、振動検出部1とデータ処理装置2と一体で設置する必要がなく、データ処理装置2の一部もしくは全部の機能を振動検出部1から分離させ、例えば陸上の設置することができる。
【0067】
以上説明したように、本実施の形態は、船舶7の上下方向の往復運動を仮想の動揺中心軸Oの上下方向の動揺として検出する加速度センサ4と、船舶7の中心軸を中心としたロール方向の単振子運動を船舶7の重心Gの動揺中心軸Oを中心とする単振子運動として検出する角速度センサ5と、加速度センサ4及び角速度センサ5の検出結果に基づいて得られる、動揺中心軸Oと船舶7の重心Gとを結ぶ動揺半径lと、動揺中心軸Oと船舶7のメタセンタMとを結ぶ転覆限界動揺半径L
maxとを転覆危険度として算出する演算部21を備えている。この構成により、船舶の上下方向の往復運動と、船舶の中心軸を中心としたロール方向の単振子運動とに基づいて、転覆危険の指標となるGMを算出することができる。また、この算出には、船体情報を用いる必要がないため、船舶7の周辺環境や、船舶7の状態に応じて変化するGMをリアルタイムで算出することができる。
【0068】
さらに、本実施の形態によれば、演算部21は、動揺半径lと転覆限界動揺半径l
maxとに基づく転覆限界傾斜角度θ
maxを転覆危険度として算出するように構成されている。この構成により、船体情報を用いることなく、船舶の上下方向の往復運動と、船舶の中心軸を中心としたロール方向の単振子運動とに基づいて、転覆危険の指標となる転覆限界傾斜角度θ
maxを算出することができるという効果を奏する。
【0069】
なお、本発明が上記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、上記構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。なお、各図において、同一構成要素には同一符号を付している。