(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131575
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】環状シロキサン化合物の製造方法およびジシロキサン化合物
(51)【国際特許分類】
C07F 7/21 20060101AFI20170515BHJP
【FI】
C07F7/21
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-252735(P2012-252735)
(22)【出願日】2012年11月16日
(65)【公開番号】特開2014-65699(P2014-65699A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年10月26日
(31)【優先権主張番号】特願2011-281382(P2011-281382)
(32)【優先日】2011年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-198615(P2012-198615)
(32)【優先日】2012年9月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】早川 哲平
(72)【発明者】
【氏名】河野 和久
(72)【発明者】
【氏名】千葉 洋一
【審査官】
小川 由美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−051192(JP,A)
【文献】
特開2008−274365(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/010591(WO,A1)
【文献】
特開2005−097443(JP,A)
【文献】
特開2005−120354(JP,A)
【文献】
特開2005−120355(JP,A)
【文献】
特開昭48−078300(JP,A)
【文献】
特開平08−239476(JP,A)
【文献】
特開平08−113649(JP,A)
【文献】
特開平09−040681(JP,A)
【文献】
米国特許第06037092(US,A)
【文献】
特開昭49−124067(JP,A)
【文献】
特開平07−285974(JP,A)
【文献】
特開昭48−088199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/21
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1、R
2は炭素数1〜3の直鎖または分岐鎖のアルキル基を示す。)で表されるジアルコキシアルキルビニルシラン化合物を、酸または塩基の共存下、水と反応させることにより、下記一般式(2)
【化2】
(式中、R
1は一般式(1)に同じ。R
3、R
4は一般式(1)のR
2に同じかまたは水素原子を示す。)で表されるジシロキサン化合物を製造し、次いで、いったん水層を除去した後、一般式(2)で表されるジシロキサン化合物を酸または塩基の共存下、反応させることを特徴とする、下記一般式(3)
【化3】
(式中、R
1は一般式(1)に同じ。)で表される環状シロキサン化合物の製造方法。
【請求項2】
一般式(1)で表されるジアルコキシアルキルビニルシラン化合物を酸または塩基の共存下、水と反応させる際の反応温度が−50〜25℃であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
一般式(2)で表されるジシロキサン化合物を酸または塩基の共存下、反応させる反応時間が30分(0.5時間)以上、1ヶ月(720時間)以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
酸として硫酸の共存下に反応を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
R1がイソプロピル基、R2がメチル基、R3およびR4がメチル基または水素原子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効率よく製造できる環状シロキサン化合物の製造方法および該製造方法における中間体であるジシロキサン化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体素子の高集積化に伴い、LSI配線として従来のAlから低抵抗でマイグレーション耐性に優れるCuが用いられるようになり、一方で層間絶縁膜としては従来の酸化シリコン膜(SiO
2膜)から、より低誘電率の層関絶縁膜(Low−k膜)が検討されている。
【0003】
現在、層間絶縁膜の形成方法としては、プラズマ化学気相成長法(PECVD法)が主に用いられている。これまでに環状シロキサンを、分子内ポアを有する前駆体(プレカーサー)として用いて、低k値の膜を成膜する検討がなされている。例えば蒸気圧が低い環状シロキサン化合物に、重合基であるビニル基を結合させることで、成膜速度を速くすることに成功している(例えば特許文献1参照)。
【0004】
前述の環状シロキサン化合物において、PECVD法のプレカーサーとして最適な環サイズは、低k値を達成できること、および蒸気圧を考慮すると6員環または8員環である。蒸気圧の面では分子量の小さい6員環が好ましいが、低k値に寄与する分子内ポアの大きさを考慮すると8員環が好ましい。特許文献1においてジアルコキシアルキルビニルシラン化合物を原料とし、6員環の環状シロキサン化合物を得る方法は記載されているが、効率よく製造できる8員環の環状シロキサン化合物の製造方法については見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−51192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はジアルコキシアルキルビニルシラン化合物から8員環環状シロキサン、特に2,4,6,8−テトラアルキル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサンを効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ジアルコキシアルキルビニルシラン化合物を酸または塩基共存下、水と反応させることで一旦ジシロキサン化合物を製造し、次いで水層を除去して非水条件下としたのち、酸または塩基を添加し反応させることで、目的のシクロテトラシロキサン化合物が効率的に得られることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【0008】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1]下記一般式(1)
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、R
1、R
2は炭素数1〜3の直鎖または分岐鎖のアルキル基を示す。)で表されるジアルコキシアルキルビニルシラン化合物を、酸または塩基の共存下、水と反応させることにより、下記一般式(2)
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、R
1は一般式(1)に同じ。R
3、R
4は一般式(1)のR
2に同じかまたは水素原子を示す。)で表されるジシロキサン化合物を製造し、次いで、いったん水層を除去した後、一般式(2)で表されるジシロキサン化合物を酸または塩基の共存下、反応させることを特徴とする、下記一般式(3)
【0013】
【化3】
【0014】
(式中、R
1は一般式(1)に同じ。)で表される環状シロキサン化合物の製造方法。
[2]一般式(1)で表されるジアルコキシアルキルビニルシラン化合物を酸または塩基の共存下、水と反応させる際の反応温度が−50〜25℃であることを特徴とする上述の[1]に記載の製造方法。
[3]一般式(2)で表されるジシロキサン化合物を酸または塩基の共存下、反応させる反応時間が30分(0.5時間)以上、1ヶ月(720時間)以下であることを特徴とする上述の[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]酸として硫酸の共存下に反応を行うことを特徴とする上述の[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]R
1がイソプロピル基、R
2がメチル基、R
3およびR
4がメチル基または水素原子であることを特徴とする上述の[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]上述の[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法により製造された環状シロキサン化合物を材料として用いることを特徴とする絶縁膜。
[7]下記一般式(2)で表されることを特徴とするジシロキサン化合物。
【0015】
【化4】
【0016】
(式中、R
1は一般式(1)に同じ。R
3、R
4は一般式(1)のR
2に同じかまたは水素原子を示す。)
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0017】
本発明において、一般式(1)におけるR
1、R
2は炭素数1〜3の直鎖または分岐鎖のアルキル基を示し、具体的には例えばメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。また、R
3、R
4は上記R
2と同じかまたは水素原子を示す。これらの中でも、最終目的物である一般式(3)で表される環状シロキサン化合物の収率の観点から、好ましくはR
1がイソプロピル基、R
2がメチル基、R
3、R
4はメチル基または水素原子である。
【0018】
具体的な一般式(1)で表されるジアルコキシアルキルビニルシラン化合物としては、例えばジメトキシメチルビニルシラン、ジメトキシエチルビニルシラン、ジメトキシプロピルビニルシラン、ジメトキシイソプロピルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ジエトキシエチルビニルシラン、ジエトキシプロピルビニルシラン、ジエトキシイソプロピルビニルシラン、ジプロポキシメチルビニルシラン、ジプロポキシエチルビニルシラン、ジプロポキシプロピルビニルシラン、ジプロポキシイソプロピルビニルシラン、ジイソプロポキシメチルビニルシラン、ジイソプロポキシエチルビニルシラン、ジイソプロポキシプロピルビニルシラン、ジイソプロポキシイソプロピルビニルシラン等が挙げられる。
【0019】
上記一般式(1)で表されるジアルコキシアルキルビニルシラン化合物を酸または塩基の共存下、水と反応させて、下記一般式(2)で表されるジシロキサン化合物を製造する。
【0020】
【化5】
【0021】
(式中、R
1は一般式(1)に同じ。R
3、R
4は一般式(1)のR
2に同じかまたは水素原子を示す。)
一般式(2)におけるR
1は一般式(1)に同じであり、R
3、R
4は一般式(1)のR
2に同じかまたは水素原子を示し、好ましくはR
1がイソプロピル基、R
3、R
4はメチル基または水素原子である。
【0022】
具体的な一般式(2)で表される化合物としては、例えば1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジメチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−ヒドロキシ−3−メトキシ−1,3−ジメチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−エトキシ−3−ヒドロキシ−1,3−ジメチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−ヒドロキシ−3−プロポキシ−1,3−ジメチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−ヒドロキシ−3−イソプロポキシ−1,3−ジメチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジメトキシ−1,3−ジメチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジエトキシ−1,3−ジメチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジプロポキシ−1,3−ジメチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジイソプロポキシ−1,3−ジメチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジエチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−ヒドロキシ−3−メトキシ−1,3−ジエチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−エトキシ−3−ヒドロキシ−1,3−ジエチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−ヒドロキシ−3−プロポキシ−1,3−ジエチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−ヒドロキシ−3−イソプロポキシ−1,3−ジエチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジメトキシ−1,3−ジエチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジエトキシ−1,3−ジエチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジプロポキシ−1,3−ジエチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジイソプロポキシ−1,3−ジエチル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−ヒドロキシ−3−メトキシ−1,3−ジプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−エトキシ−3−ヒドロキシ−1,3−ジプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−ヒドロキシ−3−プロポキシ−1,3−ジ−n−プロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−ヒドロキシ−3−イソプロポキシ−1,3−ジプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジメトキシ−1,3−ジプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジエトキシ−1,3−ジプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジプロポキシ−1,3−ジプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジイソプロポキシ−1,3−ジプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−ヒドロキシ−3−メトキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−エトキシ−3−ヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−ヒドロキシ−3−プロポキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−ヒドロキシ−3−イソプロポキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジメトキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジエトキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジプロポキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1,3−ジイソプロポキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン等が挙げられる。
【0023】
反応の際、一般式(1)で表されるジアルコキシアルキルビニルシラン化合物の反応溶媒中の濃度は特に限定されるものではなく、水層との分層性および製造効率を考慮すると0.01mol/l以上が好ましく、0.1〜10mol/lが特に好ましい。
【0024】
用いる酸または塩基は特に限定されるものではなく、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸;トルエンスルホン酸等の有機酸;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基;ジエチルアミン等の有機塩基を用いることができる。これらの中でも、最終目的物である一般式(3)で表される環状シロキサン化合物の収率の観点から、無機酸が好ましく特に硫酸が好ましい。
【0025】
酸または塩基の添加量は、特に限定されるものではなく、収率の観点からジアルコキシアルキルビニルシラン化合物1モルに対し0.01〜10mol当量が好ましく、0.1〜1mol当量が特に好ましい。
【0026】
反応温度は、一般式(1)で表されるジアルコキシアルキルビニルシラン化合物の濃度との兼ね合いによるので特に限定されるものではなく、−50〜25℃の範囲が好ましく、−20〜0℃の範囲が特に好ましい。
【0027】
反応時間は上述の酸または塩基の添加量および反応温度との兼ね合いにより、特に限定されるものではなく、0.5〜10時間が好ましく、0.5〜6時間が特に好ましい。
【0028】
反応の際に、反応溶媒を使用してもよく、または使用せずに無溶媒系でもよい。反応溶媒を使用する場合、その種類は特に限定されるものではなく、例えばn−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−デカン等の飽和炭化水素類;トルエン、キシレン、デセン等の不飽和炭化水素類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類;またはこれらの混合溶媒も使用することができる。これらの中でも水層との分層性を考慮すると飽和炭化水素類が望ましい。
【0029】
次に、一般式(2)で表されるジシロキサン化合物を製造した後、いったん水層を除去した後、一般式(2)で表されるジシロキサン化合物を酸または塩基の共存下、反応させ下記一般式(3)で表される環状シロキサン化合物を製造する。
【0030】
【化6】
【0031】
(式中、R
1は一般式(1)に同じ。)
一般式(3)におけるR
1は一般式(1)に同じであり、好ましくはR
1がイソプロピル基である。
【0032】
具体的な一般式(3)で表される化合物としては、例えば2,4,6,8−テトラメチル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8−テトラエチル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8−テトラプロピル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8−テトライソプロピル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。
【0033】
一般式(2)で表される化合物の濃度は、0.01mol/l以上が好ましく、0.1〜10mol/lが特に好ましい。
【0034】
用いられる酸または塩基は、前述の一般式(2)で表されるジシロキサン化合物製造に用いられる酸または塩基と同様のものを例示することができる。
【0035】
酸または塩基の濃度は、特に限定されるものではなく、収率の観点からジアルコキシアルキルビニルシラン化合物に対し0.01〜10mol当量が好ましく、0.1〜0.5mol当量が特に好ましい。
【0036】
また、反応温度は10〜200℃の範囲が好ましく、反応時間は30分(0.5時間)以上、1ヶ月(720時間)以下が好ましく、特に好ましくは1時間以上、24時間以下である。
【0037】
反応溶媒は前述の一般式(2)で表されるジシロキサン化合物製造に用いられる溶媒と同様のものを例示することができる。
【0038】
このようにして得られた環状シロキサン化合物は、絶縁膜等の分子内ポア前駆体プロセスプリカーサーとして好適である。
【0039】
絶縁膜の製造方法としては、例えばCVD法により環状シロキサン化合物を原料として基板上に薄膜を製造することができる。その場合、環状シロキサン化合物の供給方法としては、加熱した環状シロキサン化合物に不活性キャリアガスを導入し、キャリアガスに同伴させて基板の置かれた反応槽に導く方法、環状シロキサン化合物または有機溶媒に環状シロキサン化合物を溶かした溶液を気化器に送って気化器内でガス化して基板の置かれた反応槽に導く方法等がある。
【0040】
有機溶媒に溶かして溶液として用いる場合、有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノ−ル等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類;グライム、ジグライム、トリグライム、テトラヒドロフラン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;等が挙げられ、特に限定されるものではない。
【0041】
また、CVD法としては熱CVD、プラズマCVD、光CVD等一般に使用されるCVD法であれば特に限定されない。塗布熱分解法の原料塗布方法としては例えばスピンコート法、ディップ法、噴霧法等が挙げられ、加熱方法としてはオーブン、ホットプレート等が使用できるが、塗布方法、加熱方法およびその組み合せは特に限定されない。
【0042】
このように得られた絶縁膜は、層間絶縁膜(Low−k膜)として優れたものであり、k値は2〜3が好ましく、特に好ましくは2.5〜2.9である。
【発明の効果】
【0043】
本発明により、特に8員環構造を有する2,4,6,8−テトラアルキル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン化合物を、ジアルコキシアルキルビニルシランを原料に用いて、効率的に製造することができる。この8員環構造を有する環状シロキサン化合物は、分子内ポア前駆体プロセスのプレカーサーとして有用である、
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】実施例2における2,4,6,8−テトライソプロピル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサンへの転換率の経時変化を示す図である。
【
図2】実施例2における2,4,6,8−テトライソプロピル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサンの収率の経時変化を示す図である。
【
図3】実施例3における2,4,6,8−テトライソプロピル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサンへの転換率の経時変化を示す図である。
【
図4】実施例3における2,4,6,8−テトライソプロピル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサンの収率の経時変化を示す図である。
【
図6】実施例5で得られた1,3−ジメトキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサンのマススペクトル測定結果である。
【
図7】実施例5で得られた1−メトキシ−3−ヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサンのマススペクトル測定結果である。
【
図8】実施例5で得られた1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサンのマススペクトル測定結果である。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
[1,3−ジアルコキシジシロキサンの合成]
不活性雰囲気下、攪拌装置、温度計を備えた100mLの3つ口フラスコに、ジメトキシイソプロピルビニルシラン(一般式(1)の化合物)5.0g(31.4mmol)とヘキサン25mlを仕込み、ドライアイス/エタノールにより内温を−15℃に冷却した。硫酸3.1g(31.4mmol)および水1.7g(94.4mmol)を、内温を−10℃以下に保ったまま滴下し、その後30分間撹拌し、目的の1,3−ジメトキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−メトキシ−3−ヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサンおよび1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン(一般式(2)の化合物)が生成していることをGC/MS(EI)で確認した。反応液をGC/MS(EI)で分析した結果は以下の通りであった。
1,3−ジメトキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン(C
12H
26O
3Si
2) m/z:231(イソプロピル基脱離)、
1−メトキシ−3−ヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン(C
11H
24O
3Si
2) m/z:217(イソプロピル基脱離)、
1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン(C
10H
22O
3Si
2) m/z:203(イソプロピル基脱離)
1,3−ジメトキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−メトキシ−3−ヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサンおよび1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサンは単離せず、次工程へ進んだ。
【0047】
[シクロテトラシロキサンの合成]
上記反応液を分層して水層を除去したのち、硫酸1.5g(0.16mol)を加え、還流条件で1時間撹拌した。反応終了後、硫酸層を除去し、得られた有機層を炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し硫酸マグネシウムで乾燥した。ロータリーエバポレーターで溶媒留去したのち、減圧蒸留にて目的の2,4,6,8−テトライソプロピル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン(一般式(3)の化合物)が主成分(GC面積%:54.0%)の液体が2.6g(2,4,6,8−テトライソプロピル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサンの収量:1.4g=2.6g×0.54)得られた。一般式(3)の化合物の収率は39.7%であった。この蒸留精製物をGC/MS(EI)で分析した結果は以下の通りであった。
【0048】
2,4,6,8−テトライソプロピル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン(C
20H
40O
4Si
4) m/z:370(イソプロピル基2個脱離)
(比較例1)
実施例1において、シクロテトラシロキサンの合成工程で分層・水層除去作業を行わないこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。蒸留精製物(液体)は、収量2.6g、目的の2,4,6,8−テトライソプロピル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサンは、GC面積%が2.4%であり、極微量しか(2.6g×0.024=0.062g、収率1.7%)生成しなかった。
【0049】
(実施例2)
[シクロテトラシロキサン選択率の向上]
実施例1において、シクロテトラシロキサンの合成工程での反応を、還流条件で6時間撹拌に変更した以外は、実施例1と同様の実験を行った。目的の2,4,6,8−テトライソプロピル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサンへの転換率の経時変化をGC分析により確認した。反応終了後、実施例1と同様に処理を行った。一般式(3)の化合物の収率は69.2%であった。結果を
図1および
図2に示す。
【0050】
(実施例3)
[シクロテトラシロキサン選択率の向上、室温(25℃)1ヶ月(720時間)]
実施例1において、シクロテトラシロキサンの合成工程での反応を、還流条件で30分撹拌後さらに室温で1ヶ月撹拌に変更した以外は、実施例1と同様の実験を行った。目的の2,4,6,8−テトライソプロピル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサンへの転換率の経時変化をGC分析により確認した。反応終了後、実施例1と同様に処理を行った。一般式(3)の化合物の収率は77.0%であった。結果を
図3および
図4に示す。
【0051】
(実施例4)
[2,4,6,8−テトライソプロピル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサンを用いた絶縁膜の製造]
実施例1で得た2,4,6,8−テトライソプロピル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン(一般式(3)の化合物)が主成分の液体を蒸留精製した2,4,6,8−テトライソプロピル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサンを原料として、
図5の装置を用いて、原料温度120℃、キャリアガス(He)流量100sccm、原料容器内圧力22Torr、基板温度150℃、反応室内圧力100Paで、電源周波数13.56MHzのRF電源の出力を25Wに設定したPECVD法により、Si基板上に2分成膜を行った。成膜した絶縁膜について日本分光株式会社製のエリプソメーター(型式:MEL−30S)を用いて膜厚を測定したところ約150nmであった。この絶縁膜上に、アルミ電極を蒸着法によって成膜した後、Agilent社製の4284AプレシジョンLCRメータにより25℃、周波数1kHzの静電容量と誘電損失を測定し、比誘電率を計算したところ、k 2.69、tanδ=0.0004であった。測定部分の誘電体の面積は1.01×10
−8m
2であった。また、直流電流+40Vの条件でのリーク電流を測定したところ、8.8×10
−10A/cm
2の電流密度であった。
【0052】
(実施例5)
[1,3−ジメトキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−メトキシ−3−ヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサンおよび1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサンの合成]
不活性雰囲気下、攪拌装置、温度計を備えた200mLの3つ口フラスコに、ジメトキシイソプロピルビニルシラン15.0g(93.6mmol)、ヘキサン90mlを仕込み、ドライアイス/エタノールにより内温を−20℃に冷却した。硫酸0.97g(9.9mmol)を添加し、水3.51g(195mmol)を内温−15℃以下に保ち30分かけて滴下した。内温を−10℃に保持したまま5時間撹拌後、トリエチルアミン2.7g(26.7mmol)を添加し、水層を除去し有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後、ロータリーエバポレーターで溶媒留去したのち、減圧蒸留にて目的の1,3−ジメトキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン、1−メトキシ−3−ヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサンおよび1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサンの混合物である液体2.7gが得られた。この混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=9/1)により精製し、目的化合物である1,3−ジメトキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサンを0.51g、収率4.0%、1−メトキシ−3−ヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサンを1.78g、収率14.6%、1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサンを0.31g、収率2.7%で得た。それぞれの化合物をGC/MS(EI)(
図6−8)および
1H−NMRで分析した結果は以下の通りであった。
【0053】
GC/MS(EI)
1,3−ジメトキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン(C
12H
26O
3Si
2) m/z:231(イソプロピル基脱離)
1−メトキシ−3−ヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン(C
11H
24O
3Si
2) m/z:217(イソプロピル基脱離)
1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン(C
10H
22O
3Si
2) m/z:203(イソプロピル基脱離)
1H−NMR(500MHz,CDCl
3,δppm)
1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン
6.13−5.92(m,6H)、3.53(s,6H)、1.01(d,J=6.5Hz,12H)、0.94−0.87(m,2H)
1−メトキシ−3−ヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン
6.13−5.90(m,6H)、3.52(s,3H)、2.31(s,1H)、1.00(dd,J=6Hz,J=2.5Hz,6H)、1.03(d,J=6Hz,6H)、0.96−0.88(m,2H)
1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジイソプロピル−1,3−ジビニルジシロキサン
6.10−5.91(m,6H)、2.40(s,2H)、1.01(d,J=7.5Hz,12H)、0.97−0.89(m,2H)
(参考例1)
[2,4,6−トリイソプロピル−2,4,6−トリビニルシクロトリシロキサンを用いた絶縁膜の製造]
2,4,6−トリイソプロピル−2,4,6−トリビニルシクロトリシロキサンを原料として、
図5の装置を用いて、原料温度83℃、キャリアガス(He)流量100sccm、原料容器内圧力22Torr、基板温度150℃、反応室内圧力100Paで、電源周波数13.56MHzのRF電源の出力を25Wに設定したPECVD法により、Si基板上に3分成膜を行った。成膜した絶縁膜について日本分光株式会社製のエリプソメーター(型式:MEL−30S)を用いて膜厚を測定したところ約210nmであった。この絶縁膜上に、アルミ電極を蒸着法によって成膜した後、Agilent社製の4284AプレシジョンLCRメータにより25℃、周波数1kHzの静電容量と誘電損失を測定し、比誘電率を計算したところ、k 2.74、tanδ=0.01であった。測定部分の誘電体の面積は9.88×10
−7m
2であった。また、直流電流+40Vの条件でのリーク電流を測定したところ、2.0×10
−9A/cm
2の電流密度であった。
【0054】
実施例4の環状8員環である2,4,6,8−テトライソプロピル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサンからなる膜は、参考例1の環状6員環である2,4,6−トリイソプロピル−2,4,6−トリビニルシクロトリシロキサンからなる膜よりも、よりk値が小さく、絶縁膜として好適である。
【符号の説明】
【0055】
1.PECVDチャンバー
2.基板
3.上部電極
4.下部電極
5.恒温槽
6.原料容器
7.真空ポンプ
8.マッチング回路
9.RF電源
10.アース
11.ヒーター
12.マスフローコントローラー
13.ヘリウムガス