特許第6131737号(P6131737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131737
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】発光素子及び発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/06 20100101AFI20170515BHJP
【FI】
   H01L33/06
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-134171(P2013-134171)
(22)【出願日】2013年6月26日
(65)【公開番号】特開2015-12028(P2015-12028A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2015年5月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】川原 実
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 金吾
【審査官】 大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−258039(JP,A)
【文献】 特開2012−253226(JP,A)
【文献】 特開平08−051233(JP,A)
【文献】 特開2000−299494(JP,A)
【文献】 特開平08−213649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 − 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4元発光層と、該4元発光層の片方の主表面側に形成された第1の窓層と、前記4元発光層のもう一方の主表面側に形成された第2の窓層を有する発光素子であって、
前記4元発光層の側面が、前記第1及び第2の窓層の側面よりも前記発光素子の内側に凹んだものであり、
前記4元発光層の側面は、前記第1及び第2の窓層の側面よりも1.0μm以上1.5μm以下の範囲で内側に凹んだものであることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記第1及び第2の窓層の側面が粗面化されたものであることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記4元発光層はAlGaInPよりなり、前記第1及び第2の窓層はGaPよりなるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
4元発光層の片方の主表面側に第1の窓層を形成する工程と、前記4元発光層のもう一方の主表面側に第2の窓層を形成する工程を有する発光素子の製造方法であって、
前記4元発光層の側面を、前記第1及び第2の窓層の側面よりも前記発光素子の内側に凹むように形成する工程を有し、
前記4元発光層の側面を、前記第1及び第2の窓層の側面よりも1.0μm以上1.5μm以下の範囲で内側に凹むように形成することを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1及び第2の窓層の側面を粗面化する工程を有することを特徴とする請求項4に記載の発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記4元発光層にAlGaInPを用い、前記第1及び第2の窓層にGaPを用いることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記4元発光層の側面を、ヨウ素、酢酸、フッ酸、硝酸、及び塩酸を含有したエッチング液を用いてエッチングすることにより、前記第1及び第2の窓層の側面よりも内側に凹むように形成することを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4元発光層とその上下に窓層を有する発光素子及びその発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超高輝度型赤色発光素子を製造する場合、MOVPEのリアクター内にて成長用基板であるGaAs基板の上に4元発光層、光取り出し用の窓層を成長させ、基板を取り出した後、HVPEのリアクター内にて窓層の上に更に厚い窓層を成長させた後にチップ化するタイプの発光素子がある。このタイプの発光素子では、窓層を厚くすることによって発光素子の側面からの光の取り出し効率を向上している。ここで、窓層の材料は4元発光層から放出する光に対し透明なものが選択される。
【0003】
ところで、4元発光層から基板側へ放出された光は、GaAs基板により吸収されてしまう。そこで、基板側へ放出される光を取り出して光の取り出し効率をさらに向上するために、GaAs基板を湿式エッチングにより除去したエピタキシャルウェーハに光に対して透明な窓層を成長させたタイプの発光素子もある。このタイプの発光素子では、発光層から放出した光を上下の窓層から取り出すので、更なる高輝度化を図ることができる。
【0004】
これら窓層に用いられる材料は通常屈折率が空気と異なるため、スネルの法則に従うと、発光層からの光を全て窓層から取り出すことができず、ある割合で発光素子内で失われてしまうことになる。この光の損失により発光素子の輝度が低下し、発光効率が低下する大きな要因となっている。これに対し、窓層の表面をエッチングで粗面化することで、光の取り出し効率を向上できることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1では、窓層をGaPとして、ヨウ素、酢酸、フッ酸、硝酸を含有したエッチング液でウェットエッチングを行うことでGaP窓層の表面を粗面化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−317663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたエッチング液によるエッチングでは、上記のようにGaP窓層はエッチングされるものの、4元発光層はエッチングされないため、4元発光層の側面が窓層の側面より外側に出っ張ってしまい、発光素子の側面が凸状に形成される。この状態で発光素子が樹脂で封止されて発光装置が作製されると、リードフレームを伝って発光装置内に浸入した薬液が外側に出っ張った発光層を侵食しやすくなる。
【0008】
一旦、発光層の浸食が起こると、発光層の浸食により消失した箇所は空洞になり、更に薬液が浸入しやすくなってしまい、反応量が加速的に大きくなる。これにより発光素子が破壊されて不灯となる不具合が発生しやすくなる。不灯とならない場合でも、発光層が外側に出っ張っていると、発光出力やVfの変動が生じるという問題もある。
【0009】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、破壊されて不灯となる不具合を低減でき、発光出力やVfの変動を抑制できる高輝度な発光素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明によれば、4元発光層と、該4元発光層の片方の主表面側に形成された第1の窓層と、前記4元発光層のもう一方の主表面側に形成された第2の窓層を有する発光素子であって、前記4元発光層の側面が、前記第1及び第2の窓層の側面よりも前記発光素子の内側に凹んだものであることを特徴とする発光素子が提供される。
【0011】
このような発光素子であれば、発光出力やVfの変動及び薬液が発光層に接触することを抑制でき、その結果、破壊されて不灯となる不具合を低減できる高輝度な発光素子となる。
【0012】
このとき、前記第1及び第2の窓層の側面が粗面化されたものであることが好ましい。
このような発光素子であれば、より高輝度なものとなるとともに、本発明が特に有効に作用する。
【0013】
また、前記4元発光層の側面は、前記第1及び第2の窓層の側面よりも2μm以下の範囲で内側に凹んだものであることが好ましい。
このような発光素子であれば、発光装置製造時に樹脂により封止される際に、凹部による封止の不具合を低減できるものとなる。
【0014】
また、前記4元発光層はAlGaInPよりなり、前記第1及び第2の窓層はGaPよりなるものとすることができる。
このような発光素子であれば、高品質なものとなる。
【0015】
また、本発明によれば、4元発光層の片方の主表面側に第1の窓層を形成する工程と、前記4元発光層のもう一方の主表面側に第2の窓層を形成する工程を有する発光素子の製造方法であって、前記4元発光層の側面を、前記第1及び第2の窓層の側面よりも前記発光素子の内側に凹むように形成する工程を有することを特徴とする発光素子の製造方法が提供される。
【0016】
このような製造方法であれば、発光出力やVfの変動及び薬液が発光層に接触することを抑制でき、その結果、破壊されて不灯となる不具合を低減できる高輝度な発光素子を製造できる。
【0017】
このとき、前記第1及び第2の窓層の側面を粗面化する工程を有することが好ましい。
このようにすれば、より高輝度な発光素子を製造できるとともに、本発明が特に有効に作用する。
【0018】
また、前記4元発光層の側面を、前記第1及び第2の窓層の側面よりも2μm以下の範囲で内側に凹むように形成することができる。
このようにすれば、発光装置製造時に樹脂により封止される際に、凹部による封止の不具合を低減できる発光素子を製造できる。
【0019】
また、前記4元発光層にAlGaInPを用い、前記第1及び第2の窓層にGaPを用いることができる。
このようにすれば、高品質な発光素子を製造できる。
【0020】
また、前記4元発光層の側面を、ヨウ素、酢酸、フッ酸、硝酸、及び塩酸を含有したエッチング液を用いてエッチングすることにより、前記第1及び第2の窓層の側面よりも内側に凹むように形成することができる。
このようにすれば、4元発光層の側面における凹部を、低コストで簡単に形成できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、4元発光層の側面を第1及び第2の窓層の側面よりも発光素子の内側に凹むように形成するので、発光出力やVfの変動及び薬液が発光層に接触することを抑制でき、その結果、破壊されて不灯となる不具合を低減できる高輝度な発光素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の発光素子の一例を示した概略図である。
図2】本発明の発光素子の製造方法の一例を示した工程フローである。
図3】本発明の発光素子の製造方法の製造過程におけるGaAs基板上にエピタキシャル層を形成したものの概略を示した図である。
図4】本発明の発光素子の製造方法の製造過程において、GaAs基板及びGaAsバッファ層が除去された発光素子基板の概略を示した図である。
図5】本発明の発光素子の製造方法の製造過程において、GaP透明基板層が形成された発光素子基板の概略を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
まず、本発明の発光素子について図1を参照して説明する。
図1に示すように、本発明の発光素子10は、第2の窓層21、n型接続層13、4元発光層17、p型接続層18、第1の窓層19を有している。
第1の窓層19は、4元発光層17の上方の主表面側にp型接続層18を介して形成され、第2の窓層21は、4元発光層17の下方の主表面側にn型接続層13を介して形成されている。
【0025】
4元発光層17は、n型クラッド層14、活性層15、p型クラッド層16で構成される。これら4元発光層17の各層は、例えばAlGaInPよりなるものとすることができ、第1の窓層19、第2の窓層21、n型接続層13、p型接続層18は、例えばGaPよりなるものとすることができる。
【0026】
第1の窓層19の上方の主表面には、接合合金化層24aを覆うように電極24が形成され、電極24にボンディングワイヤ28が接続されている。第2の窓層21の下方の主表面には、接合合金化層25aを覆うように電極25が形成されている。
【0027】
下記のように、本発明の発光素子10は4元発光層17から放出した光を上下の窓層19、21から取り出すので、非常に高輝度な発光素子である。
更に輝度を向上するために、図1に示すように、第1の窓層19及び第2の窓層21の側面と露出した主表面を粗面化することもできる。この粗面化は、例えば後述するようにエッチングにより行うことができる。
【0028】
さらに、本発明の発光素子10は、4元発光層17の側面が、第1の窓層19及び第2の窓層21の両側面よりも発光素子の内側に凹んでいる。すなわち、第1の窓層19及び第2の窓層21の両側面を基準面として定義したとき、4元発光層17の両側面がそれぞれに対応する基準面より内側に凹んでいる。
このように内側に凹んでいる4元発光層17であれば、その発光出力やVfの変動を抑制できるし、本発明の発光素子を用いて発光装置を作製すれば、リードフレームを伝って発光装置の内部に浸入した薬液が4元発光層17に接触することを効果的に抑制できる。その結果、4元発光層17が薬液による浸食によって破壊されて不灯となる不具合を低減できる。
【0029】
4元発光層17が内側に凹む量については、特に限定されないが、例えば、第1及び第2の窓層の側面よりも2μm以下の範囲内とすることができる。この範囲内とすることにより、本発明の発光素子を樹脂により封止して発光装置を製造する際に、凹部に樹脂の未充填部ができるなどの封止の不具合を低減できる。凹み量の下限は、例えば1μmとすることができる。凹み量が少なくとも1μmあれば、上記した4元発光層17の破壊を確実に低減することができる。
【0030】
次に、本発明の発光素子の製造方法について図2図5を参照して説明する。
まず、成長用基板として、n型GaAs単結晶基板11を用意する(図2の工程1)。
その後、図3に示すように、そのn型GaAs単結晶基板11の主表面に、n型GaAsバッファ層12を例えば厚さ0.5μmでエピタキシャル成長させ(図2の工程2)、そのn型GaAsバッファ層12上にn型接続層13をエピタキシャル成長させる。
【0031】
その後、4元発光層17を、各々(AlGa1−xIn1−yP(ただし、0≦x≦1,0≦y≦1)よりなるn型クラッド層14、活性層15、p型クラッド層16から形成する(図2の工程2)。具体的には、まず、例えば厚さ1μmのn型クラッド層14(n型ドーパントはSi)を第一導電型クラッド層としてエピタキシャル成長させる。次に、例えば厚さ0.6μmの活性層15(ノンドープ)をエピタキシャル成長させ、その後、例えば厚さ1μmのp型クラッド層16(p型ドーパントはMg:有機金属分子からのCもp型ドーパントとして寄与しうる)を第二導電型クラッド層としてこの順序にてエピタキシャル成長させる。
ここで、p型クラッド層16とn型クラッド層14との各ドーパント濃度は、例えば1×1017/cm以上、2×1018/cm以下とすることができる。
【0032】
このように、4元発光層17が、AlGaInP活性層をそれよりもバンドギャップの大きいn型AlGaInPクラッド層とp型AlGaInPクラッド層とによりサンドイッチ状に挟んだダブルへテロ構造を有することにより、例えば緑色から赤色までの広い波長域において高輝度の素子を実現できる。
【0033】
その後、p型クラッド層16上にp型接続層18をエピタキシャル成長させる(図2の工程3)。
上記各層のエピタキシャル成長は、公知のMOVPE法により行うことができる。
Al、Ga、In、Pの各成分源となる原料ガスとしては以下のようなものを使用することができる。
Al源ガス:トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリエチルアルミニウム(TEAl)など、
Ga源ガス:トリメチルガリウム(TMGa)、トリエチルガリウム(TEGa)など、
In源ガス:トリメチルインジウム(TMIn)、トリエチルインジウム(TEIn)など、
P源ガス:トリメチルリン(TMP)、トリエチルリン(TEP)、ホスフィン(PH3)などが挙げられる。
【0034】
その後、光取り出し層として、p型GaPよりなる第1の窓層19を、HVPE法により気相成長させる(図2の工程4)。この時、光取り出し効率を高めるために、気相成長させる第1の窓層19の厚さが10μm以上となるようにする。このように第1の窓層19の厚さを増加することでその側面の面積を増加し、さらに側面を粗面化することで、発光素子の光取り出し効率を大幅に高めることができる。
【0035】
上記のHVPE法は、具体的には、容器内にてIII族元素であるGaを所定の温度に加熱して保持しながら、そのGa上に塩化水素を導入することにより、下記(1)式の反応によりGaClを生成させ、キャリアガスであるHガスとともに基板上に供給する。
Ga(液体)+HCl(気体) → GaCl(気体)+1/2H …(1)
このとき容器内の温度を、例えば640℃以上、860℃以下に設定する。
【0036】
V族元素であるPは、PHをキャリアガスであるHとともに基板上に供給する。
さらに、p型ドーパントであるZnを、DMZn(ジメチルZn)の形で供給する。GaClはPHとの反応性に優れ、下記(2)式の反応により、効率よく窓層を成長させることができる。
GaCl(気体)+PH(気体)
→ GaP(固体)+HCl(気体)+H(気体) …(2)
以上の工程を経て、図3に示す発光素子基板20が得られる。
【0037】
第1の窓層19の成長が終了したら、図4に示すように、n型GaAs基板11及びn型GaAsバッファ層12を、例えばアンモニアと過酸化水素の混合液などのエッチング液を用いて化学エッチングすることにより除去する(図2の工程5)。
【0038】
その後、図5に示すように、n型GaAs基板11およびn型GaAsバッファ層12が除去された4元発光層17の下方の主表面側(n型接続層13の下方の主表面)に、別途用意されたn型GaP単結晶基板を貼り合わせて第2の窓層21を形成し、発光素子基板20’とする(図2の工程6)。ここで、この第2の窓層21の形成は、HVPE法によるエピタキシャル成長によって形成することもできる。
【0039】
以上の工程が終了すれば、図1に示すように、スパッタリングや真空蒸着法により、第1の窓層19の上方の主表面(p型接続層18とは反対側の表面)及び第2の窓層21の下方の主表面(n型接続層13とは反対側の表面)に、接合合金化層形成用の金属層をそれぞれ形成し、さらに合金化の熱処理(いわゆるシンター処理)を行うことにより、接合合金化層24a、25aとする。また、これら接合合金化層をそれぞれ覆うように、電極24及び電極25を形成する(図2の工程7)。
【0040】
続いて、第1の窓層19の上方の主表面に、粗面化用エッチング液を用いて異方性エッチングを施し、この主表面を粗面化する(図2の工程8)。この粗面化用エッチング液の組成は、酢酸、弗酸、硝酸、ヨウ素、及び水からなる公知の組成とすることができる。例えばこれらの組成比を酢酸(CH3COOH換算):37.4質量%以上94.8質量%以下、弗酸(HF換算):0.4質量%以上14.8質量%以下、硝酸(HNO3換算):1.3質量%以上14.7質量%以下、ヨウ素(I2換算):0.12質量%以上0.84質量%以下の範囲で含有し、かつ、水の含有量が2.4質量%以上45質量%以下とすることができる。
【0041】
次に、2つの<100>方向に沿って、発光素子用基板20’の上方の主表面側からダイシング刃により溝を形成するようにして個々のチップ領域にダイシングして、発光素子チップとする(図2の工程9)。ここで、ダイシングの向きを<100>方向としているのは、チップ領域のエッジに沿った割れや欠けが生じ難くなるためである。
このダイシング時には、結晶欠陥密度の比較的高い加工ダメージ層がダイシングによって露出した側面部に形成される。この加工ダメージ層に含まれる多数の結晶欠陥は、発光通電時において電流リークや輝度の劣化となるため、加工ダメージ層をダメージ層除去用エッチング液を用いた化学エッチングにより除去することが望ましい(図2の工程10)。
【0042】
このダメージ層除去用エッチング液としては、例えば、硫酸−過酸化水素水溶液を使用することができ、例えば硫酸:過酸化水素:水の質量配合比率を3:1:1とすることができる。この場合、液温は40℃以上、60℃以下に調整され、6分程度のエッチングを必要とするものとすることができる。
【0043】
その後、加工ダメージ層を除去した発光素子チップの側面に、第1及び第2の窓層の粗面化が可能で、かつ4元発光層17を第1及び第2の窓層の側面より内側に凹ませることの両方が可能なエッチング液を接触させることで、第1の窓層19の側面(このとき、主表面も粗面化しても良い)及び第2の窓層21の側面を異方性エッチングして粗面化させると同時に、4元発光層17の側面をエッチングして凹ませる(図2の工程11)。このとき用いるエッチング液の組成としては、前述した酢酸、弗酸、硝酸、ヨウ素及び水の混合液からなる粗面化用エッチング液に10質量%程度の塩酸を加えたものとすることができる。この場合、ヨウ素、酢酸、フッ酸、及び硝酸はGaP窓層19、21の側面・主表面の粗面化に寄与し、塩酸はAlGaInPからなる4元発光層17のエッチングに寄与する。
【0044】
このとき、4元発光層17を内側に凹ませる量については、上記したように特に限定されないが、例えば、第1及び第2の窓層の側面よりも2μm以下の範囲内とすることができる。この凹み量は、エッチング時間と線形関係にあるので、エッチング時間により凹み量を調整することができる。
【0045】
工程11では、上記のように、窓層の粗面化と4元発光層のエッチングを同時に行うことができるが、例えば、窓層の粗面化と4元発光層のエッチングを別々に行うこともできる。この場合、例えば、酢酸34.8質量%、硫酸58.8質量%、塩酸0.7質量%、過酸化水素0.6質量%、及び水5.2質量%からなるエッチング液で4元発光層をエッチングした後、ヨウ素、酢酸、フッ酸、硝酸、及び水からなる公知の粗面化用エッチング液でエッチングすることができる。
【0046】
上記のようにして面粗し処理が終了した各発光素子チップは、下方の主表面側をAgペースト層を介して金属ステージに接着し、光取出側電極24にボンディングワイヤ28を接続し、さらにエポキシ樹脂からなる図示しないモールド部を形成すれば、最終的な発光素子が完成する。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
(実施例)
本発明の発光素子の製造方法に従って、4元発光層が内側に凹んだ発光素子を用意した。上記工程11において、酢酸71.7質量%、フッ酸5質量%、硝酸5質量%、沃素0.3質量%、水8質量%、塩酸10質量%からなるエッチング液を用いて窓層の粗面化と4元発光層のエッチングを行った。
このときエッチング時間を変更してエッチングを行い、凹み量を評価したところ、エッチング時間を調整することにより所望の凹み量が得られることが分かった。そこで、エッチング時間を調整して発光素子を製造し、凹み量が1.0μmの発光素子と1.5μmの発光素子をそれぞれ50個用意した。
【0049】
(比較例1)
本発明の4元発光層の側面を内側に形成する工程を有さない従来の製造方法に従って、窓層の粗面化処理を塩酸を入れないエッチングを行うことにより、4元発光層の側面が窓層の側面よりも1.0μm外側に出っ張った発光素子と1.5μm外側に出っ張った発光素子をそれぞれ50個用意した。
【0050】
(比較例2)
4元発光層の側面と第1及び第2の窓層の側面が同一線上になるようにエッチングした以外、実施例と同様にして発光素子を50個用意した。
【0051】
上記実施例、比較例1、比較例2で用意したそれぞれ50個の発光素子を直径5mmの砲弾型ランプに搭載し、初期測定を行った後、環境暴露試験を行った。フラックスと水分を十分浸透させるため、フラックス中に1時間浸漬し、その後リフロー試験を行った。リフロー試験後に、−50度〜80度の温度サイクル試験を48時間行い、輝度とVfが10%以上変動するランプの割合を評価した。その後、20mAで100時間の通電試験を行った。
【0052】
表1は、通電試験後に不灯になっていたランプ数、及び不灯にはならなかったが輝度とVfの特性が10%以上変動していたものの数をまとめた結果である。ここで、表1の凹量又は凸量において、「+」は出っ張り、「―」は凹みを意味する。
表1に示すように、不灯になった割合は、比較例1の発光素子が一番高く、出っ張り量1.0μmと1.5μmの発光素子共に4個が不灯になった。一方、比較例2の発光素子では2個が不灯になった。
不灯になった原因は、4元発光層が内側に凹んでいない場合、ランプの内部に浸入した薬液が4元発光層に接触してその接触箇所が空洞となるので、さらに薬液がたまりやすくなり、加速度的に反応が進んでしまうためであると考えられる。
【0053】
これに対し、実施例の発光素子では、不灯になったものはなかった。これは、4元発光層の側面における凹状部分に樹脂が入り込んでパッケージングされるため、薬液が接触しづらくなるためだと考えられる。
以上の結果から、実施例の発光素子はランプの不灯という致命的な不具合を回避できることが確認できた。
【0054】
次に、表1の温度サイクル試験による特性変化の結果を見ると、比較例1の発光素子では、出っ張り量がどちらの場合でも、特性変化したランプの割合が40%を超えている。これは、発光層が外側に出っ張っていると樹脂との接触がよくなるので、温度サイクルを与えたときに起こる樹脂の熱収縮による発光層への応力伝達が促進されるためだと考えられる。
これに対し、実施例の発光素子では、凹み量がどちらの場合でも、特性変化したランプの割合が2%以下に抑えられていることが分かった。このように、本発明の発光素子は温度変化による輝度とVfの変化も抑制できる。
【0055】
【表1】
【0056】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0057】
10…発光素子、 11…n型GaAs単結晶基板、 12…n型GaAsバッファ層、 13…n型接続層、 14…n型クラッド層、 15…活性層、 16…p型クラッド層、 17…4元発光層、 18…p型接続層、 19…第1の窓層、 20、20’…発光素子基板、 21…第2の窓層、 24、25…電極、 24a、25a…接合合金化層、 28…ボンディングワイヤ。
図1
図2
図3
図4
図5