(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131773
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】ニッケル粉とその製造方法、及びそれを用いたニッケルペースト
(51)【国際特許分類】
B22F 9/22 20060101AFI20170515BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20170515BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20170515BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20170515BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20170515BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20170515BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20170515BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20170515BHJP
H01B 5/14 20060101ALN20170515BHJP
【FI】
B22F9/22 G
B22F9/00 B
B22F1/00 M
B22F9/04 C
C22C19/03 M
H01B13/00 501Z
H01B5/00 F
H01B1/22 A
!H01B5/14 Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-171943(P2013-171943)
(22)【出願日】2013年8月22日
(65)【公開番号】特開2015-40329(P2015-40329A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2015年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】西村 尚人
(72)【発明者】
【氏名】上田 聡弘
【審査官】
田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−248591(JP,A)
【文献】
特開2001−266652(JP,A)
【文献】
特開2009−024197(JP,A)
【文献】
特開2011−084762(JP,A)
【文献】
特開2010−059493(JP,A)
【文献】
特開2003−089806(JP,A)
【文献】
特開2011−174121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00− 9/30
B22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ニッケル水溶液をアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケルを沈澱させる工程(A)と、水酸化ニッケル粉を酸化性雰囲気下あるいは不活性雰囲気下で加熱処理して酸化ニッケル粉にする工程(B)と、該酸化ニッケルを還元性ガス雰囲気下で還元しニッケル粉を作製する工程(C)と、還元後のニッケル粉を硫酸水溶液にて洗浄し、得られた水スラリーを純水で洗浄し固液分離した後で乾燥する工程(D)と、乾燥後のニッケル粉をジェットミルにて解砕する工程(E)を備えたニッケル粉の製造方法であって、
前記工程(D)において、硫酸水溶液の硫酸濃度がニッケルに対して0.5〜2.0質量%、かつ洗浄温度が10〜50℃であり、固液分離後にニッケル粉を含む組成物の含水率を20質量%以下に低減してから乾燥を行うことを特徴とするニッケル粉の製造方法。
【請求項2】
前記工程(D)において、ニッケル粉を含む組成物が180℃以下で乾燥されることを特徴とする請求項1に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項3】
前記工程(E)において、ジェットミルの気流の導入圧力が0.1〜1MPaであることを特徴とする請求項1に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項4】
前記工程(E)において、乾燥後のニッケル粉がジェットミルにより処理速度0.5〜20kg/hrで連続的に処理されることを特徴とする請求項1に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項5】
前記ニッケル粉の塩素含有量が200質量ppm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のニッケル粉の製造方法により得られたニッケル粉に、バインダー樹脂と有機溶剤を配合することを特徴とするニッケルペーストの製造方法。
【請求項7】
ニッケルペーストは、基板に印刷し乾燥させ膜厚1μmの乾燥膜を作製したとき、算術平均表面粗さRa(JIS B0601−2001に基づいて測定)が0.18μm以下であることを特徴とする請求項6に記載のニッケルペーストの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル粉の製造方法、及びニッケルペースト
の製造方法に関し、より詳しくは、積層セラミックスコンデンサの内部や外部電極、電磁波シールドなどの電子部品用のニッケル粉の効率的な製造方法、及び塩素など不純物が低減したそのニッケル粉を用いた塗布膜の表面粗さが小さいニッケルペースト
の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やデジタル機器の小型化、高性能化に伴い、チップ部品である積層セラミックスコンデンサ(MLCC)の小型化、高容量化も進んでいる。MLCCの小型化、高容量化に伴い、内部電極に使用されているニッケル粉も小径化や粗大粒子の低減が求められており、様々なニッケル粉の製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、塩化ニッケル蒸気を還元性ガスにより還元する気相還元法、金属化合物を含む溶液を微細な液滴にして高温で熱分解させる噴霧熱分解法、水または有機溶媒中でニッケル塩を還元剤により還元する湿式還元法、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、炭酸ニッケルなどのニッケル化合物の粉を水素ガスにより還元する静置式水素還元法などがある。
これら製造方法の中でも、湿式法により水酸化ニッケルを生成し、これを原料として還元処理しニッケル粉を製造する湿式還元法や静置式水素還元法は、生産性も高く低コストでニッケル粉が得られる方法として期待されている。例えば、一定温度に保持された反応槽内のスラリーに、含ニッケル溶液を連続的に添加しつつ、該スラリーを所定のpHに保持するようにアルカリ溶液を添加して水酸化ニッケルを生成し、該スラリーをろ過し、水洗し、乾燥させて水酸化ニッケル粉を得た後、これを水素ガス還元雰囲気下で、還元温度を400〜550℃として加熱還元するニッケル粉の製造方法が提案されている(特許文献1)。この方法は、塩化ニッケルを原料として用いることで、安価で生産性が良いニッケル粉が得られるが、ニッケル粉の残留塩素が多いという問題点がある。ニッケル粉中の残留塩素が多いと、ニッケル粉の耐錆性を阻害するだけではなく、電子部品の材料として使用する場合、焼成等の工程で塩化水素ガスを発生させ、電子部品や装置、環境へ悪影響を与えるといった問題がある。
【0004】
一方、これらの金属ハロゲン化物、特に塩化ニッケルを原料として得られたニッケル粉中の塩素を除去する方法として、種々の洗浄方法が提案されている。例えば、ニッケル粉を純水で洗浄後、真空乾燥する方法(特許文献2)、ニッケル粉を炭酸水溶液にて洗浄する方法(特許文献3)、ニッケル粉をEDTA(エチレンジアミン四酢酸)等のキレート剤水溶液にて洗浄する方法(特許文献4)、ニッケル粉をグルタミン酸水溶液にて洗浄する方法(特許文献5)が提案されている。しかし、上記洗浄工程では、所望の洗浄度が得られなかったり、洗浄に有機物を使用した場合、廃液中の有機物濃度が増加するため、廃液処理にかかるコストが増大するといった問題がある。
【0005】
上記問題を解決するために硫酸水溶液による洗浄方法が検討されており、特定濃度の硫酸水溶液を使用してニッケル粉を洗浄することで、残留塩素が低減したニッケル粉を洗浄度が得られるようになった。この硫酸水溶液を用いた洗浄方法は、安価で高効率な洗浄方法であるが、洗浄後のニッケル粉が固着し凝集して粗粒を生成しやすく、その粗粒によりMLCCの製造時に極板間のショートが発生し容量不足になるといった、MLCCの信頼性に悪影響を与える問題があった。
こうした状況の下、不純物濃度、特に塩素濃度が少なく、凝集がほとんどない安価なニッケル粉が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−213310号公報
【特許文献2】特開平11−140514号公報
【特許文献3】特許第3868421号公報
【特許文献4】特許第3131075号公報
【特許文献5】特許第4578996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記問題点を解決し、塩素などの不純物が低濃度であるとともに、分散性が良く、粗大粒子を低減させたニッケル粉の製造方法、及びニッケルペースト
の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記静置式水素還元法で得られるニッケル粉の残留塩素を低減するために、硫酸水溶液によって洗浄したニッケル粉の分散性向上、粗大粒子の低減方法を鋭意検討した結果、硫酸水溶液による洗浄条件を最適化するとともに、固液分離後の含水率を特定値以下にしてからジェットミル処理することにより、分散性が良く粗大粒子が低減され、かつ、不純物濃度が低いニッケル粉が得られ、生産性が高く低コスト化が可能となることを見出し、本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明の第1の発明によれば、塩化ニッケル水溶液をアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケルを沈澱させる工程(A)と、水酸化ニッケル粉を酸化性雰囲気下あるいは不活性雰囲気下で加熱処理して酸化ニッケル粉にする工程(B)と、該酸化ニッケルを還元性ガス雰囲気下で還元しニッケル粉を作製する工程(C)と、還元後のニッケル粉を硫酸水溶液にて洗浄し、得られた水スラリーを純水で洗浄し固液分離した後で乾燥する工程(D)と、乾燥後のニッケル粉をジェットミルにて解砕する工程(E)を備えたニッケル粉の製造方法であって、前記工程(D)において、硫酸水溶液の硫酸濃度がニッケルに対して0.5〜2.0質量%、かつ洗浄温度が10〜50℃であり、固液分離後にニッケル粉を含む組成物の含水率を20質量%以下に低減してから乾燥を行うことを特徴とするニッケル粉の製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記工程(D)において、ニッケル粉を含む組成物が180℃以下で乾燥されることを特徴とするニッケル粉の製造方法が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記工程(E)において、ジェットミルの気流の導入圧力が0.1〜1MPaであることを特徴とするニッケル粉の製造方法が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、前記工程(E)において、乾燥後のニッケル粉がジェットミルにより処理速度0.5〜20kg/hrで連続的に処理されることを特徴とするニッケル粉の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明の第
5の発明によれば、第
1〜4のいずれかの発明において、
前記ニッケル粉の塩素含有量が200質量ppm以下であることを特徴とするニッケル粉
の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第
6の発明によれば、第
1〜5のいずれかの発明
の製造方法により得られたニッケル粉に、バインダー樹脂と有機溶剤を配合
することを特徴とするニッケルペースト
の製造方法が提供される。
また、本発明の第
7の発明によれば、第
6の発明において、ニッケルペースト
は、基板に印刷し乾燥させ膜厚1μmの乾燥膜を
作製したとき、算術平均表面粗さRa(JIS B0601−2001に基づいて測定)が0.18μm以下であることを特徴とするニッケルペースト
の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ニッケル粉を特定の条件で硫酸洗浄するので、塩素などの残留不純物濃度が低く抑制され、その後、ニッケル粉にジェットミル処理を施すので、凝集がほとんどないニッケル粉を得ることができる。また、得られたニッケル粉を樹脂や溶剤と混練しニッケルペースト化したものは、MLCCや電磁波シールドなどの電子部品に用途展開できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
1.ニッケル粉の製造方法
本発明
において、ニッケル粉は、塩化ニッケル水溶液をアルカリ水溶液で中和して、水酸化ニッケルの沈澱を生成させる工程(A)と、水酸化ニッケル粉を酸化性雰囲気下または不活性雰囲気下で加熱処理して酸化ニッケル粉を生成させる工程(B)と、酸化ニッケル粉を還元性ガス雰囲気下で還元してニッケル粉とする工程(C)と、還元後のニッケル粉を硫酸水溶液で洗浄する工程(D)と、洗浄後のニッケル粉をジェットミルで解砕する工程(E)を順次行うことで製造される。
【0016】
[工程A]
工程Aは、塩化ニッケル水溶液をアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケルを生成する工程である。水溶液の濃度中和条件等は公知の技術が適用できる。このとき、均一な特性の水酸化ニッケルを得るために、十分に攪拌された反応槽内に、水酸化ニッケル水溶液とアルカリ水溶液のpHを一定に保ちながら投入することが好ましい。中和に使用するアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが用いられるが、コスト面から水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0017】
生成された水酸化ニッケルはろ過により固液分離し、ケーキを得る。得られたケーキは直接次工程で使用することも可能であるが、残留塩素濃度を低減させるために、水洗することが好ましい。洗浄方法は、任意の方法を用いることができ、固液分離したケーキに通水する方法や純水中に再度スラリー化する方法などが用いられる。
洗浄にて得られた水酸化ニッケル粉は乾燥させるが、乾燥には、大気乾燥機や真空乾燥気といった一般的な乾燥機を使用することができる。200℃より高温で乾燥すると、水酸化ニッケルの分解が起こり、物性に影響を与える場合があるので、乾燥温度は200℃以下が好ましい。
【0018】
[工程B]
工程(B)は、工程(A)で得られた水酸化ニッケルを酸化性雰囲気下または不活性雰囲気下で加熱処理して酸化ニッケル粉を得る工程である。得ようとする酸化ニッケル粉に応じて、適宜、処理温度および時間などの処理条件を設定することができる。
【0019】
前記加熱処理においては、均一な処理を行うために、ガス交換が行える状態で行うことが好ましい。ガス交換が不十分であると、発生水蒸気の影響により、得られる酸化ニッケル粉の特性が不均一になる可能性がある。加熱処理には、一般的な加熱炉を使用することができる。例えば、静置式電気炉、転動炉、バーナー炉、搬送式連続炉などを用いることができる。非還元性雰囲気であれば、用いるガス種によって制限されないが、コストや取り扱いやすさの点で大気雰囲気が優れている。
【0020】
[工程C]
工程(C)は、工程(B)で得られた酸化ニッケル粉を還元性ガス雰囲気で還元してニッケル粉を得る工程である。前記還元条件に関しては、還元温度を300〜500℃とすることが好ましい。
【0021】
還元温度が300℃未満では、酸化ニッケル粉が十分に還元されない場合や還元に長時間を要する場合がある。一方で、還元温度が500℃を超えると、ニッケル粒子が粗大化する場合がある。還元性雰囲気は、適宜選択することが可能であるが、入手しやすさや環境への影響を考慮すると、含水素ガス雰囲気とすることが好ましい。また、還元中は、工程(B)と同様の理由より、ガス交換雰囲気で行うことが好ましい。還元に関するその他の因子は、必要とする規模に応じて任意に設定することができる。
【0022】
[工程D]
工程(D)は、工程(C)で得られた還元ニッケル粉を、硫酸水溶液とのスラリーとして洗浄する工程である。洗浄に使用する装置は、特に限定されるものではなく、機械式攪拌装置を備えた反応槽などを用いることができる。
【0023】
洗浄に使用する硫酸の濃度は、ニッケルに対して0.5〜2質量%とする。硫酸濃度が0.5質量%未満だと、洗浄効果が十分でなく、不純物が低減できないことがある。一方、硫酸濃度が2質量%よりも大きいと、酸過剰によるニッケル粒子表面の溶解により、比表面積や酸素含有量が増加する恐れがある。また、濃度が2質量%を超えて大きくなっても洗浄効果の向上が見られず、経済的ではない。硫酸のより好ましい濃度は、ニッケルに対して0.5〜1.5質量%である。
【0024】
前記洗浄は、10〜50℃で行うようにする。洗浄温度が10℃より低いと、洗浄効果が低下する場合があり、不純物除去や洗浄に長時間を要するため生産性に問題を生じる。洗浄温度を高くすることで、不純物除去の効果は大きくなるが、50℃を超えるとニッケル粒子表面の溶解速度が上昇し、不均一な表面溶解となり比表面積の増加が抑えられなくなり、また温度上昇のためのエネルギーが必要となるといった問題点がある。好ましい洗浄温度は、20〜40℃である。
【0025】
ニッケル粉と硫酸水溶液の混合比は、特に限定されるものではなく、実施する規模に応じて適宜変化させることができるが、スラリー濃度を50〜500g/Lとすることが好ましい。スラリー濃度が50g/L未満の場合、生産性が低く、多量の廃液が生じてしまう。一方、スラリー濃度が500g/Lを超える場合には、ニッケルの分散性が悪化するため、洗浄が十分に行えなくなる場合がある。
【0026】
硫酸洗浄後、15〜60分静置沈降させた後に、上澄み液をデカンテーションにて除去して次に行う固液分離を容易にしてもよい。この時、静置沈降させる時間は15分未満であると、ニッケル粉の沈降が不十分であり、十分なデカンテーションができないことがあり、また、60分より長く静置沈降させると、硫酸水溶液中へのニッケル粉の溶出が進み、残留塩素含有量は低減されるが、比表面積と酸素値含有量が増加する恐れがある。好ましい静置沈降時間は、30〜60分である。
【0027】
硫酸洗浄後、純水により洗浄し、次いでニッケルスラリーをろ過等により固液分離を行い、得られたニッケル粉を含む組成物の乾燥を行う。
硫酸洗浄後の純水洗浄には、(1)硫酸洗浄したニッケルスラリーに純水を加えて洗浄する、(2)硫酸洗浄後のニッケルスラリーを固液分離してニッケルを含む組成物とした後に純水を加えて水スラリーとして洗浄する、(3)硫酸洗浄したニッケルスラリーに純水を加えて洗浄し、固液分離してニッケルを含む組成物としてさらに純水を加えて水スラリーにし再度洗浄する方法が挙げられ、そのいずれの方法でもよい。また純水洗浄を複数回繰り返してもよく、純水洗浄後に静置沈降してデカンテーションを行い、固液分離を容易にすることもできる。
【0028】
純水による洗浄後は固液分離を行い、ニッケル粉を含む組成物とするが、この組成物の含水率は20質量%以下であるようにする。含水率が20質量%を超えると、ろ過されずに残留した水分中に含まれる不純物がニッケル粉に再付着して、ニッケル粉の不純物濃度が高くなるためである。含水率の下限は特に限定されず、ろ過方法及び用いる装置により適宜設定すればよいが、概ね15質量%程度とすることが好ましい。固液分離に使用する装置は特に限定されるものではないが、吸引ろ過装置を用いることが好ましい。
【0029】
乾燥は、工程(A)と同様、一般的な乾燥機を使用し、大気中で行うことができるが、180℃より高温で乾燥を行うと粒子の連結が生じ、ニッケル粉の分散性に影響を与える場合があるため、乾燥温度は180℃以下とするのが好ましい。乾燥温度の下限は特に限定されないが、100℃未満では所望の乾燥状態に達するまでに時間を要するので、生産性が低下してしまう。乾燥雰囲気は、真空あるいは不活性ガスとしてもよい。
【0030】
[工程E]
工程(E)は、工程(D)で得られた洗浄後のニッケル粉をジェットミルで解砕する工程である。ジェットミルとしては、その種類によって制限されず、例えば気流旋回式ジェットミルを用いることができる。
【0031】
工程(D)で硫酸洗浄を行って乾燥させたニッケル粉は、硫酸洗浄を行わず乾燥させたニッケル粉よりも凝集して粗大粒子が発生しやすいため、解砕により粗大粒子を抑制する。気流旋回式ジェットミルは、解砕圧によってその能力が決まるが、通常0.05〜1.5MPaとする。解砕圧は0.1〜1MPaであることが好ましく、より好ましいのは0.35〜0.65MPaである。解砕圧が0.1MPa未満であると、凝集粉が解れず分散されないことがあり、解砕圧が1MPaを超えると圧力が強すぎてニッケル粉がつぶれて形状が変化することがある。
また、ジェットミルによる処理速度は、特に限定されないが、0.5〜20kg/hrの範囲が好ましい。0.5kg/hr未満だと生産性が低下し、20kg/hrを超えると分散されていないニッケル粉が存在するなど均一性を損なう場合がある。
【0032】
こうして得られたニッケル粉は、塩素含有量が200質量ppm以下に低減しており、その他の不純物濃度も低い。しかも、凝集による粗大粒子の発生も抑制されている。
【0033】
2.ニッケルペースト
本発明で得られたニッケル粉は、上記のような特徴を有するために、MCLLの内部や外部電極、電磁波シールドなどに適用されるニッケルペーストとして使用することができる。
【0034】
ニッケルペーストは、少なくともニッケル粉にバインダー樹脂と有機溶剤を配合して構成される。バインダー樹脂としては、エチルセルロース、疎水性エチルヒドロキシエチルセルロース、疎水性ヒドロキシエチルエチルセルロース、ポリビニルプチラール、アクリル樹脂が好ましい。有機溶剤としては、ターピネオール、イソボルニルアセテート、ジヒドロターピニルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートが好ましい。さらに、必要に応じてセラミック粉末(共材)、分散剤、消泡剤、可塑剤、増粘剤、キレート剤など公知の添加剤を加えることもできる。
【0035】
本発明で得られたニッケル粉を使用したニッケルペーストは、塗布膜の表面粗さが小さく、不純物濃度も低いため、上記分野のさらなる薄層化を実現させることができる。塗布膜の表面粗さは、基板にニッケルペーストを印刷し乾燥させ、膜厚1μmの乾燥膜を作成したときの算術平均表面粗さRa(JIS B0601−2001に基づいて測定)であり、0.18μm以下であることが好ましい。算術平均表面粗さRaが0.18μmを超えるとMLCCの薄層化が達成できないことがある。好ましくは算術平均表面粗さRaが0.12μm以下であり、小型化、高容量化されたMLCCに好適である。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。なお、ニッケル粉中の塩素濃度、ニッケルペーストの塗布乾燥膜の表面粗さは次の方法で測定した。
【0037】
[ニッケル粉中の塩素濃度]
本実施例および比較例では、塩素濃度を蛍光X線定量分析装置(PANalytical社製Magix)にて測定し検量線法で評価した。
【0038】
[乾燥膜表面粗さ]
まず、ターピネオール溶液に対して20質量%のエチルセルロース(バインダー樹脂)を、80質量%のターピネオール(有機溶剤)に添加して攪拌しながら80℃に加熱し、エチルセルロースの溶け込んだターピネオール溶液を作成する。続いて、この溶液を18質量%、本実施例および比較例で得られたニッケル粉を54質量%、ターピネオールを28質量%秤量し、3本ロールミルにて混練して導電ペーストを作成した。
次に、作成した導電ペーストを、1インチ角のガラス基板上にスクリーン印刷し、120℃で1時間乾燥させ、10mm角、膜厚1μmの乾燥膜を作成した。この乾燥膜について算術平均表面粗さRaを測定した。算術表面粗さRaは、JIS B0601−2001の規格に基づいて測定した。
【0039】
(実施例1)
ニッケル濃度60g/Lの塩化ニッケル水溶液と、24質量%の水酸化ナトリウム水溶液をpH8.3で一定となるように調整しながら反応槽に連続的に添加することで、水酸化ニッケルを生成させた。生成した水酸化ニッケル粉をろ過し、スラリー濃度100g/Lとなるように純水に再スラリー化することで水洗した。その後、大気乾燥機を用いて120℃で24時間乾燥し、水酸化ニッケル粉を得た。得られた水酸化ニッケル粉を、空気中460℃で2時間加熱し、酸化ニッケル粉を得た。得られた酸化ニッケル粉を、水素雰囲気中400℃で3時間還元し、ニッケル粉を得た。
得られたニッケル粉から1kgを採取し、0.13質量%の硫酸水溶液4L(ニッケルに対して0.52質量%)に懸濁させ、30℃で30分間攪拌を実施した。洗浄後30分間静置沈降してデカンテーションを行い、次いでニッケルスラリーを吸引ろ過により固液分離した。分離されたニッケル粉を含む組成物を4Lの純水中で30分攪拌して水洗し、吸引ろ過を行った。吸引ろ過後のニッケル粉を含む組成物の含水率は18質量%であった。その後、大気乾燥機を用いて120℃で12時間乾燥し、#100の篩にかけ、ニッケル粉を得た。
得られたニッケル粉を、気流旋回式ジェットミル(日本ニューマチック社製 PJM−200SP)を使用し、解砕圧0.5MPa、処理速度10kg/hrで解砕処理を行い、ニッケル粉を得た。
得られたニッケル粉の残留塩素濃度およびニッケルペーストの乾燥膜の表面粗さを表1に併記した。
【0040】
(実施例2〜4)
表1に記載したように、気流旋回式ジェットミルの条件を変えた以外は実施例1と同様にしてニッケル粉およびニッケルペーストを作製した。ニッケル粉の塩素濃度およびニッケルペーストの乾燥膜の表面粗さを表1に併記した。
【0041】
(実施例5)
表1に記載したように、0.5質量%の硫酸水溶液4L(ニッケルに対して2.0質量%)とした以外は実施例1と同様にしてニッケル粉およびニッケルペーストを作製した。ニッケル粉の塩素濃度およびニッケルペーストの乾燥膜の表面粗さを表1に併記した。
【0042】
(実施例6)
表1に記載したように、純水中で30分攪拌して水洗し、吸引ろ過を行った後のニッケル粉を含む組成物の含水率を15質量%とした以外は実施例1と同様にしてニッケル粉およびニッケルペーストを作製した。ニッケル粉の塩素濃度およびニッケルペーストの乾燥膜の表面粗さを表1に併記した。
【0043】
(実施例7,8)
表1に記載したように、気流旋回式ジェットミルの条件(解砕圧)を変えた以外は実施例1と同様にしてニッケル粉およびニッケルペーストを作製した。ニッケル粉の塩素濃度およびニッケルペーストの乾燥膜の表面粗さを表1に併記した。
【0044】
(比較例1)
表2に記載したように、硫酸洗浄しなかった以外は実施例1と同様にしてニッケル粉およびニッケルペーストを作製した。純水洗浄して固液分離後のニッケル粉を含む組成物の含水率、ニッケル粉の塩素濃度およびニッケルペーストの乾燥膜の表面粗さを表2に併記した。
【0045】
(比較例2)
表2に記載したように、純水洗浄後の吸引ろ過の条件を変更した以外は実施例1と同様にしてニッケル粉およびニッケルペーストを作製した。純水洗浄して固液分離後のニッケル粉を含む組成物の含水率、ニッケル粉の塩素濃度およびニッケルペーストの乾燥膜の表面粗さを表2に併記した。
【0046】
(比較例3)
表2に記載したように、気流旋回式ジェットミル処理をしなかった以外は実施例1と同様にしてニッケル粉およびニッケルペーストを作製した。ニッケル粉の塩素濃度およびニッケルペーストの乾燥膜の表面粗さを表2に併記した。
【0047】
(比較例4)
表2に記載したように、0.75質量%の硫酸水溶液4L(ニッケルに対して3.0質量%)とした以外は実施例1と同様にしてニッケル粉を作製した。なお得られたニッケル粉は比表面積が著しく増加していたため、ニッケルペーストを作製して乾燥膜の表面粗さの測定は行わなかった。ニッケル粉の塩素濃度のみ表2に併記した。
【0048】
(比較例5)
表2に記載したように、硫酸水溶液による撹拌時の温度60℃とした以外は実施例1と同様にしてニッケル粉を作製した。なお、得られたニッケル粉は、比較例4と同じく比表面積が著しく増加していたため、ニッケルペーストを作製して乾燥膜の表面粗さの測定は行わなかった。ニッケル粉の塩素濃度のみ表2に併記した。
【0049】
以下各実施例、比較例の結果を表に示す。表1および表2における総合評価として、ニッケル粉中塩素濃度が200質量ppm以下、かつ表面粗さが0.12μm以下であるものを良(○)、塩素濃度が200質量ppm以下であり表面粗さが0.12〜0.18μmであるものを(△)とし、一方、塩素濃度が200質量ppmを越えるか、表面粗さが0.18μmを超えるものは不可(×)とした。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
「評価」
表1から明らかなように、実施例1〜8は、本発明の条件でニッケル粉を製造したので、塩素濃度が低く、ニッケルペーストの乾燥膜の表面粗さも平坦で優れていることがわかる。なお、実施例4,は、ジェットミルの処理速度を上げるか解砕圧を変えたために、ニッケルペーストの乾燥膜の表面粗さがやや粗いが実用上問題のないレベルである。また、実施例7は、ジェットミルの解砕圧が0.1MPaよりも低いため分散不足でニッケルペーストの乾燥膜の表面粗さがやや粗くなり、実施例8は、ジェットミルの解砕圧が1.0MPaよりも高いため、ニッケル粉同士の衝突でニッケル粉の形状が変化して、ニッケルペーストの乾燥膜の表面粗さがやや粗くなったが、他の条件を最適化すれば実用上問題のないレベルとすることができる。
【0053】
これに対し、比較例1は、硫酸洗浄をしなかったため、ニッケル粉の塩素濃度が高く不可となった。比較例2は、純水洗浄後、吸引ろ過して得られたニッケル粉を含む組成物の含水率が20質量%よりも高いために塩素濃度が高く不可となった。比較例3は、ジェットミルによる処理をしなかったため、ニッケルペーストの乾燥膜の表面粗さが粗く不可となった。また、比較例4は、硫酸洗浄の条件を変え、硫酸濃度を高くしすぎたため、得られたニッケル粉は比表面積が著しく増加していた。比較例5は、硫酸洗浄の洗浄温度を高くしすぎたため、得られたニッケル粉は比表面積が著しく増加していた。このようなケースでは、ニッケル粉の塩素濃度は低下するが、ニッケルペーストを作製するとニッケルペーストの粘度が増大しすぎることがある。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、均一な粒子径のニッケル粉を低コストで製造でき、得られたニッケル粉の塩素や酸素含有量が低減されているので、ニッケルペーストにしたとき乾燥膜の表面粗さが小さく、積層セラミックコンデンサの内部電極など電子部材用の材料として好適である。