特許第6131780号(P6131780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6131780ポリチオフェン及びその水溶液、並びにそのチオフェンモノマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131780
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】ポリチオフェン及びその水溶液、並びにそのチオフェンモノマー
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20170515BHJP
   C09D 181/00 20060101ALI20170515BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20170515BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20170515BHJP
   C07D 495/04 20060101ALI20170515BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C08G61/12
   C09D181/00
   C09D5/24
   C09D5/00 Z
   C07D495/04 101
   H01B1/12 F
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-176920(P2013-176920)
(22)【出願日】2013年8月28日
(65)【公開番号】特開2014-65898(P2014-65898A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2016年7月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-196153(P2012-196153)
(32)【優先日】2012年9月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西山 正一
(72)【発明者】
【氏名】箭野 裕一
【審査官】 大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−261795(JP,A)
【文献】 特開2010−018628(JP,A)
【文献】 特開2004−035555(JP,A)
【文献】 特開2005−226072(JP,A)
【文献】 Macromol. Chem. Phys.,2002年,Vol. 203, No. 13,pp. 1958-1964
【文献】 STEPHAN,O. et al,Journal of Electroanalytical Chemistry,1998年,Vol. 443, No. 2,pp. 217-226
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/12
C07D 495/04
C09D 5/00
C09D 5/24
C09D 181/00
H01B 1/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン。
【化1】
【化2】
[上記式(1)、(2)中、Rは炭素数1〜6の鎖状、分岐状アルキル基、又はフッ素原子を表す。Mは水素原子、Li、Na及びKからなる群より選ばれるアルカリ金属、NH(R又はHNCを表す。Rは各々独立して水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。]
【請求項2】
ポリチオフェンの重量平均分子量が、ポリスチレンスルホン酸換算で1千〜100万の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のポリチオフェン。
【請求項3】
下記式(3)で表されるチオフェンモノマー。
【化3】
[上記式(3)中、Rは炭素数1〜6の鎖状、分岐状アルキル基、又はフッ素原子を表す。Mは水素原子、Li、Na及びKからなる群より選ばれるアルカリ金属、NH(R又はHNCを表す。Rは各々独立して水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。]
【請求項4】
請求項3に記載のチオフェンモノマーを、水又はアルコール溶媒中、酸化剤の存在下に重合させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリチオフェンの製造法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のポリチオフェンの水溶液からなる水溶性導電性ポリマー水溶液。
【請求項6】
請求項5に記載の水溶液を基材に塗布し乾燥することを特徴とする導電性被膜の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の水溶液の導電性被膜への使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリチオフェン及びその水溶液、並びにそのチオフェンモノマーに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール等に代表されるπ共役二重結合を有するポリマーは、アクセプターやドナーによるドーピングにより導電体(導電性ポリマー)となることが知られており、帯電防止剤、コンデンサの固体電解質、導電性塗料、エレクトロクロミック素子、透明電極、透明導電膜、化学センサ、アクチュエータ等等への応用が検討されている。従来、導電性ポリマーは不溶不融のため成型加工性に課題があり、溶解させるには環境負荷の大きい極性有機溶媒(例えば、アミド系溶媒等)の使用が必要だった。そのため、環境負荷の小さい水に溶解する、水溶性で成型加工が容易な導電性ポリマーが求められていた。
【0003】
近年、ポリスチレンスルホン酸(PSS)等の水溶性高分子ドーパントの存在下に、3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を重合させた導電性ポリマーであるPEDOT:PSSが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1によれば、ポリアニオンがドーパント兼水分散剤として取り込まれることで水溶性となり、成型加工性が向上するとされている。しかしながら、特許文献1に記載の導電性ポリマーは、ドーピングに関与していない導電性の低いポリマー部分を多量に含むため、導電性が低くなること、大過剰のスルホ基があることで耐熱性や耐水性が低いこと、強酸性による装置腐食等の課題がある。
【0005】
ところで、特許文献1に記載の導電性ポリマーは、良好な導電性と成型加工性を兼ね備えているため、コンデンサの高分子固体電解質やプリンタブルエレクトロニクスへの応用も指向されている。
【0006】
前者の例として、アルミ固体電解コンデンサの固体電解質があるが、コンデンサ性能として高容量化と低ESR(Equivalent Series Resistance;等価直列抵抗)化に課題がある。
【0007】
また、後者においても、例えば、インクジェット等の技術を応用する際、導電性ポリマーの水溶液中の粒子径が大きいと、ノズルが詰まる等の問題が懸念される。
【0008】
一方、水溶性導電性ポリマーを得る別法として、水溶性の付与とドーピング作用を兼ね備えた置換基(例えば、スルホ基、スルホネート基等)を、直接又はスペーサを介してポリマー分子鎖中に共有結合で導入した化合物を重合することで、成型加工性に優れた水溶性の自己ドープ型導電性ポリマーになることが提案されている(例えば、特許文献2〜4、非特許文献1〜3参照)。これらの中でも、直鎖のアルキレンスルホン酸基が置換したポリ(4−(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イルメトキシ)−1−ブタンスルホン酸)(PEDT−S)は、10−30S/cmと高い導電率を示すことが報告されている(特許文献4、非特許文献2、3参照)。
【0009】
これらの文献に記載の水溶性自己ドープ型導電性ポリマーの応用例として、電子線リソグラフィーによる半導体の回路パターン形成時に使用されるレジストの帯電防止膜形成材料の用途がある。これは導電性ポリマーが水溶性のため、脂溶性のレジストにダメージを与えにくく、露光後に水洗できる等の利点があるためである(例えば、非特許文献4参照)。
【0010】
しかしながら、近年の半導体の高集積化に伴い、より微細なパターン形成の要求があり、そのためにより高い導電性(帯電防止能)を有するポリマーが求められていた。
【0011】
従って、水溶化のために導電性向上に寄与しない他の成分を添加することなく、良好なな成形加工性を付与できる自己ドープ型の水溶性導電性ポリマーであって、良好な水溶性と導電性に加えて、水溶液とした場合にポリマーの粒子径が十分に小さいものが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第2636968号明細書
【特許文献2】特公平8−13873号公報
【特許文献3】特許第3182239号明細書
【特許文献4】特許第4974095号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Journal of American Chemical Society,1858−1859(1987)
【非特許文献2】Chemistry Materials,21,1815−1821(2009)
【非特許文献3】Advanced Materials,23(38),4403−4408(2011)
【非特許文献4】電子材料、1990年2月号、48−55頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、
(1)高導電性を有する新規な水溶性のポリチオフェンを提供すること、及び
(2)その原料である新規なチオフェンモノマーを提供すること、
である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の分岐構造のアルキレンスペーサーを有するポリチオフェンが高導電性と水溶性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は以下に示すとおりのポリチオフェン及びその水溶液、並びにそのチオフェンモノマーに関するものである。
【0017】
[1]下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン。
【0018】
【化1】
【0019】
【化2】
[上記式(1)、(2)中、Rは炭素数1〜6の鎖状、分岐状アルキル基、又はフッ素原子を表す。Mは水素原子、Li、Na及びKからなる群より選ばれるアルカリ金属、NH(R又はHNCを表す。Rは各々独立して水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。]
[2]ポリチオフェンの重量平均分子量が、ポリスチレンスルホン酸換算で1千〜100万の範囲であることを特徴とする上記[1]に記載のポリチオフェン。
【0020】
[3]下記式(3)で表されるチオフェンモノマー。
【0021】
【化3】
[上記式(3)中、Rは炭素数1〜6の鎖状、分岐状アルキル基、又はフッ素原子を表す。Mは水素原子、Li、Na及びKからなる群より選ばれるアルカリ金属、NH(R又はHNCを表す。Rは各々独立して水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。]
[4]上記[3]に記載のチオフェンモノマーを、水又はアルコール溶媒中、酸化剤の存在下に重合させることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のポリチオフェンの製造法。
【0022】
[5]上記[1]又は[2]に記載のポリチオフェンの水溶液からなる水溶性導電性ポリマー水溶液。
【0023】
[6]上記[5]に記載の水溶液を基材に塗布し乾燥することを特徴とする導電性被膜の製造方法。
【0024】
[7]上記[5]に記載の水溶液の導電性被膜への使用。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、良好な導電性と成型加工に十分な水溶性を兼ね備えた新規なポリチオフェンと、その原料であるチオフェンモノマーとを提供できる。
【0026】
本発明のポリチオフェンは、スルホ基のα位に置換基を有する点で、特許文献4に記載されているPEDT−Sとは異なり、その導電率もPEDT−Sに比べ向上するため、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施例2で得られたポリマーのUV−Vis−NIR分析結果である。
図2】実施例3で得られたポリマーの2.0重量%水溶液中での粒度分布測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0029】
本発明のポリチオフェンは、上記式(1)で表される構造単位及び上記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェンである。
【0030】
上記式(2)で表される構造単位は、上記式(1)で表される構造単位のドーピング状態を表す。
【0031】
ドーピングにより絶縁体−金属転移を引き起こすドーパントは、アクセプタとドナーに分けられる。
【0032】
前者は、ドーピングにより導電性ポリマーの高分子鎖の近くに入り主鎖の共役系からπ電子を奪う。結果として、主鎖上に正電荷(正孔、ホール)が注入されるため、p型ドーパントとも呼ばれる。具体的には、ハロゲン類(Br、I、Cl)、ルイス酸(BF、PF、AsF)、プロトン酸(HSO、HCl、CFSOH)、遷移金属ハライド(FeCl)、有機物質(TCNQ)等が例示される。
【0033】
また、後者は、逆に主鎖の共役系に電子を与えることになり、この電子が主鎖の共役系を動くことになるため、n型ドーパントとも呼ばれる。具体的には、アルカリ金属(Li、Na、K、Cs)、アルキルアンモニウムイオン等が例示される。
【0034】
本発明におけるドーパントは、ポリマー分子内に共有結合で結びついたスルホ基又はスルホナート基であり、p型ドーパントである。このように外部からドーパントを添加することなく導電性を発現するポリマーは自己ドープ型ポリマーと呼ばれている。
【0035】
上記式(1)又は(2)中、Rは炭素数1〜6の鎖状、分岐状アルキル基、又はフッ素原子を表す。炭素数1〜6の鎖状、分岐状アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−へキシル基、2−エチルブチル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基等が挙げられる。
【0036】
上記式(1)又は(2)中、Mは、水素原子、Li、Na及びKからなる群より選ばれるアルカリ金属、NH(R又はHNCを表す。その際、Rは各々独立して水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。置換基Rとしては、上記置換基Rと同じものを例示することができ、より好ましくは水素原子、メチル基である。また、Rが置換基を有するアルキル基である場合の当該置換基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基又はアルコキシ基、炭素数1〜20のアリール基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基等が挙げることができ、より好ましくは、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基等のヒドロキシ基を有するアルキル基である。
【0037】
本発明のポリチオフェンは、上記式(3)で表されるチオフェンモノマーを、水又はアルコール溶媒中、酸化剤の存在下に重合させることにより製造できる。
【0038】
チオフェンモノマーとしては、例えば、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−エチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−プロピル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−ブチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−ペンチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−ヘキシル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−イソプロピル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−イソブチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−イソペンチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−フルオロ−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸カリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸アンモニウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸トリエチルアンモニウム等が挙げられる。
【0039】
尚、上記に例示したチオフェンモノマーは、公知の方法(例えば、Journal of Electroanalytical Chemistry,443,217−226(1998))に従い、チエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン−2−メタノールと分岐したスルトン化合物から容易に合成できる。更に、必要に応じて、下記式(4)で表されるチオフェンモノマーは、酸処理によりMが水素原子であるスルホン酸へと誘導できる。更に、このスルホン酸をアミン処理することでアンモニウム塩を得ることができる。
【0040】
【化4】
[上記式(4)中、Rは上記式(1)で表されるRと同義語であり、Mはアルカリ金属を表す。]
本重合反応に用いる溶媒は、水又はアルコール溶媒である。水としては、例えば、純水が挙げられ、蒸留水、イオン交換水でもよい。アルコール溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類が挙げられる。これらのアルコール溶媒は、単独でも使用しても、水と併用してもよい。これらの溶媒のうち、好ましくは水又はメタノールであり、より好ましくは水である。また、溶媒を脱気や窒素等の不活性ガスで置換していてもよい。
【0041】
本重合反応に用いる溶媒量は、例えば、上記式(3)で表されるチオフェンモノマーが溶解する量であり、特に限定するものではないが、本発明のチオフェンモノマーの仕込量に対して0.1〜100重量倍の範囲が好ましく、1〜20重量倍の範囲がより好ましい。
【0042】
本重合反応に用いる酸化剤は、酸化的脱水素化反応による酸化重合を進行させるものであり、特に限定するものではないが、例えば、過硫酸類、鉄塩(III)、過酸化水素、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、硫酸セリウム(IV)、酸素等が挙げられ、これらを単独で又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0043】
ここで、過硫酸類としては、具体的には、過硫酸、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等が例示される。
【0044】
また、鉄塩(III)としては、具体的には、FeCl、Fe(SO、過塩素酸鉄、パラ−トルエンスルホン酸鉄(III)等が例示される。これらは無水物を使用しても、水和物を使用してもよい。
【0045】
また、過マンガン酸塩としては、具体的には、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸マグネシウム等が例示される。
【0046】
また、重クロム酸塩としては、具体的には、重クロム酸アンモニウム、重クロム酸カリウム等が例示される。
【0047】
これらの酸化剤のうち、好ましくは、鉄塩(III)単独系、又は過硫酸塩と鉄塩(III)との併用系であり、鉄塩(III)としては、特に限定するものではないが、例えば、FeCl、Fe(SOが好ましい。
【0048】
本重合反応に用いる酸化剤の量としては、特に限定するものではないが、上記式(3)で表されるチオフェンモノマーの仕込モル数に対して、0.5〜50倍モルである。より好ましくは、1〜20倍モルである。更に好ましくは、1〜10倍モルである。
【0049】
本重合反応に用いる酸化剤が、例えば、鉄塩(III)単独系の場合、原料として用いられるチオフェンモノマーの仕込みモル数に対して、鉄塩(III)が等倍モル以上であり、且つ溶媒に対する鉄濃度が10重量%以上となるように用いて重合させることが好ましい。より良好な導電性を発現させるために必要なドーピングの観点からは、溶媒に対する鉄濃度が20重量%以上であることがさらに好ましい。なお、ここでいう「鉄濃度」とは、鉄塩/(鉄塩+水)×100(重量%)で表される値であり、鉄塩は無水物として計算する。
【0050】
また、本重合反応に用いる酸化剤が、例えば、過硫酸塩と鉄塩(III)との併用系である場合には、原料として用いられるチオフェンモノマーの仕込みのモル数に対して、過硫酸塩が0.5〜20倍モルの範囲であり、且つ鉄塩(III)が0.01〜10倍モルの範囲であることが好ましく、過硫酸塩が1.5〜10倍モルの範囲であり、且つ鉄塩(III)が0.05〜5倍モルの範囲であることがより好ましい。
【0051】
本重合反応の圧力は、常圧、減圧、加圧のいずれであってもよい。
【0052】
本重合反応の反応雰囲気は、大気中であっても、窒素やアルゴン等の不活性ガス中であってもよい。より好ましくは不活性ガス中である。
【0053】
本重合反応の反応温度は、例えば、上記式(3)で表されるチオフェンモノマーを酸化重合できる温度であり、特に限定するものではないが、−10〜150℃の範囲が好ましく、20〜100℃の範囲が更に好ましい。
【0054】
本重合反応の反応時間は、例えば、上記式(3)で表されるチオフェンモノマーの酸化重合が十分進行する時間であり、特に限定するものではないが、0.5〜200時間の範囲が好ましく、0.5〜80時間の範囲が更に好ましい。
【0055】
本重合反応の反応方法は、特に限定するものではないが、例えば、本重合反応に用いる酸化剤が、鉄塩(III)単独系の場合、原料として用いられるチオフェンモノマーを水溶液にして、これに酸化剤を一度に又はゆっくりと滴下してもよく、逆に酸化剤の固体又は水溶液に本発明のチオフェンモノマーの水溶液を一度に又はゆっくりと滴下してもよい。
【0056】
また、過硫酸塩と鉄塩(III)との併用系である場合には、チオフェンモノマーの水溶液中に過硫酸塩と鉄塩(III)とを固体又は水溶液として、同時に又は順次添加してもよく、また逆に過硫酸塩と鉄塩(III)の水溶液中にチオフェンモノマーの水溶液を添加してもよい。
【0057】
本重合反応で得られた本発明のポリチオフェンの精製法としては、特に限定するものではないが、例えば、溶媒洗浄、再沈殿、遠心沈降、限外ろ過、透析、イオン交換樹脂処理等が挙げられる。それぞれ単独で行っても又は組み合わせても良い。
【0058】
本発明のポリチオフェンの典型的な単離精製方法は、例えば、以下のとおりである。
【0059】
まず、重合反応後のポリマー水溶液をアセトン等の貧溶媒に添加し、ポリマーを沈殿させた後、減圧ろ過で得たポリマーを当該貧溶媒でろ液が無色透明になるまで洗浄する。このポリマーに、水に不溶なFe塩が含まれている場合、一度水酸化ナトリウム水溶液中に添加し、水に溶解するNa塩型ポリマーに変換することが好ましい。
【0060】
次に、これをアルコール等の貧溶媒に添加してポリマーを沈殿させるとともに、アルカリ分を除去し、減圧濾過により得た固体をアルコール等の貧溶媒で洗浄する。次いでアセトン等の貧溶媒で洗浄し、Na塩型ポリマーを得る。
【0061】
得られたNa塩型ポリマーを、引き続き、H型ポリマーに変換する場合には、陽イオン交換樹脂で処理する。処理方法としては、例えば、得られたNa塩型ポリマーの水溶液を陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに通液させる方法や、陽イオン交換樹脂を水溶液に添加するボディーフィード法等が挙げられる。この場合、処理後にろ紙で陽イオン交換樹脂を除去することが好ましい。このようにして得られた水溶液を粗濃縮し、アセトン等の貧溶媒に添加して沈殿させ、減圧ろ過して得た固体を当該貧溶媒でよく洗い、減圧乾燥してH型ポリマーが得られる。
【0062】
更に、各種アミンとの塩を形成させる場合には、例えば、H塩型ポリマーの水溶液に、各種アミンの原液若しくはその水溶液又はその他適当な溶媒で希釈したものを加えることで容易にアミン塩型ポリマーに変換することができる。例えば、アンモニア水で処理した場合には、反応液を粗濃縮し、その水溶液をアセトン等の貧溶媒に添加してポリマー沈殿させた後、減圧濾過により得た固体を当該貧溶媒で洗浄し、減圧乾燥することでアンモニウム塩型ポリマーが得られる。
【0063】
重合後処理の各工程では必要に応じて、遠心沈降、ホモジナイズ処理を行ってもよい。これにより、ろ過効率の改善を図ることができる。更に、重合酸化剤として過硫酸塩を使用した場合には、無機塩の除去として限外ろ過や透析、陽・陰イオン交換樹脂混合処理を行う。
【0064】
本発明のポリチオフェンの重量平均分子量は、特に限定するものではないが、ポリスチレンスルホン酸換算で通常1千〜100万の範囲であり、水溶性導電性ポリマー用途として好ましくは1千〜20万の範囲である。ポリマーから未反応のモノマーや低分子不純物及び無機塩を除去する観点から、より好ましくは3.5千〜10万の範囲である。
【0065】
本発明のポリチオフェンを水溶液にすることで、水溶性導電性ポリマー水溶液として、各種用途への成型加工が容易となる。
【0066】
水溶性導電性ポリマー水溶液の調製方法は、特に限定するものではないが、室温や加温下(100℃以下が好ましい)で水と混合溶解させることで達成される。その際、スターラーチップや攪拌羽根による一般的な混合溶解操作を用いることもできるし、その他の方法として、超音波照射、ホモジナイズ処理(例えば、メカニカルホモジナイザー、超音波ホモジナイザ−、高圧ホモジナイザー等の使用)を行ってもよい。ホモジナイズ処理する場合には、ポリマーの熱劣化を防ぐため、冷温しながら行うことが好ましい。
【0067】
水溶性導電性ポリマー水溶液中の、本発明のポリチオフェンの濃度は、特に限定するものではないが、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、粘性の観点からより好ましくは10重量%以下である。
【0068】
本発明のポリチオフェンを用いて導電性被膜を製造することができる。例えば、上記した水溶性導電性ポリマー水溶液を、基材に塗布・乾燥することで導電性被膜が簡単に得られる。基材としては、例えば、ガラス、プラスチック、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、レジスト基板等が挙げられる。塗布方法としては、例えば、キャスティング法、ディッピング法、バーコード法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法、インクジェット印刷法等が挙げられる。膜厚としては特に限定するものではないが、10−2〜10μmの範囲が好ましい。得られる塗膜の表面抵抗値としては特に限定するものではないが、1〜10Ω/□の範囲のものが好ましい。
【0069】
なお、本発明において、各種用途への成型加工に十分な水溶性とは、室温又は加温下で調製した10重量%以下のポリマー水溶液において、粒度分布測定装置で測定した粒子径(D50)が20nm以下であり、且つ0.05μmのフィルターを通液する程度の水溶性をいう。
【0070】
また、本発明において、良好な導電性とは、フィルム状態での導電率(電気伝導度)が10−1S/cm以上の導電性をいう。
【実施例】
【0071】
以下に本発明のポリチオフェン及びチオフェンモノマーに関する実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定して解釈されるものではない。なお、本実施例で用いた分析機器及び測定方法を以下に列記する。
[NMR測定]
装置:VARIAN製、Gemini−200。
【0072】
[UV−Vis−NIR分析]
装置:SHIMADZU製、UV−3100。
[GPC測定]
装置:東ソー社製,
カラム:α−6000+α−3000,
検出器:UV−8020。
[表面抵抗率測定]
装置:三菱化学社製ロレスタGP MCP−T600。
[膜厚測定]
装置:BRUKER社製 DEKTAK XT。
[粒子径測定]
装置:日機装社製 Microtrac Nanotrac UPA−UT151。
【0073】
実施例1 3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウムの合成.
窒素雰囲気下、100mlナス型フラスコに60%水素化ナトリウム 0.437g(10.9mmol)、トルエン 37mlを仕込んだ後、1.52gの(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)メタノール 1.52g(8.84ml)を添加した。その後、反応液を還流温度に昇温させ同温度で1時間攪拌した。その後、2,4−ブタンスルトン 1.21g(8.89mmol)とトルエン 10mlからなる混合液を滴下し、同温度で2時間攪拌した。冷却後、得られた反応液をアセトン 160mlに滴下し再沈を行った。得られた粉末を濾過及び真空乾燥させることで1.82gの淡黄色粉末である3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウムを収率62%で得た。NMRから目的物であることを確認した。
【0074】
H−NMR(DO)δ(ppm);6.67(s,2H),4.54−4.60(m,1H),4.45(dd,1H,J=12.0,2.2Hz),4.26(dd,1H,J=12.0,6.8Hz),3.90−3.81(m,4H),3.10−3.18(m,1H),2.30−2.47(m,1H),1.77−1.92(m,1H),1.45(d,3H)。
【0075】
13C−NMR(DO)δ(ppm);14.91,31.22,53.13,66.18,69.18,73.29,73.36,100.81,100.94,140.88,141.06。
【0076】
実施例2 ポリマー合成、下記式(5)又は下記式(6)で表される構造単位を含む重合体.
窒素雰囲気下、50mlシュレンク管に3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−2−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム 0.505g(1.52mmol)と水 7.5mlを加え、室温下、無水塩化鉄(III)0.153g(0.93mmol)を加えて20分攪拌した。その後、過硫酸ナトリウム0.724g(3.05mmol)と水5mlからなる混合溶液をシリンジで滴下した。室温で3時間攪拌したのち、反応液を100mlのアセトンに滴下させ黒色のポリマーを析出させた。ポリマーを濾過・真空乾燥することで、0.88gの3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウムのポリマーを得た。次に、このポリマーに水を加え1重量%溶液に調製した水溶液に、陽イオン交換樹脂Lewatit MonoPlus S100(H型) 9.2gを加え、室温下、13時間攪拌した。濾過によりイオン交換樹脂を分離することで濃群青色水溶液を得た。得られた濃群青色水溶液は、更に、透析(透析膜:Spectra/Por MWCO=3500)により無機塩を除去した。更に、得られた濃群青色水溶液を6.3gまで濃縮し、アセトン 120mlに再沈させ、353mgの黒色粉末を得た(収率=69%)。
【0077】
このポリマーの100ppm水溶液を調製後、UV−Vis−NIR分析を行ったところ、ドーピングに起因する長波長吸収が観測された(図1参照)。
【0078】
更に、本ポリマーの0.5重量%水溶液を無アルカリガラス板(25mm角)にキャストして得た膜の表面抵抗、膜厚及び導電率は、夫々98Ω/□、1.9μm、54S/cmであった。この値は、従来報告されているPEDT−Sの導電率より2倍程度高かった。また、0.5重量%水溶液におけるポリマーの粒径(D50)は検出限界(0.8nm)以下だった。結果を表1に纏める。
【0079】
【化5】
比較例1 ポリマー合成、下記式(9)又は下記式(10)で表される構造を含む重合体.
Chemisty Materials,21,1815−1821(2009)又は、Advanced Materials,23(38),4403−4408(2011)を参考に下記スキームに従い合成した。
【0080】
【化6】
(1A)化合物(8)の合成.
100mLナスフラスコに、市販の化合物(7)1.83g、トルエン45mL、60%NaHを0.32g(13.2mmol)を仕込み、還流条件下で1時間反応させた。トルエン12mLに溶解した1,4−ブタンスルトン1.46g(10.7mmol)を還流下に滴下した。更に2時間熟成させた後、室温まで冷却し、アセトン200mLに添加して、ゼリー状固体を沈殿させた。ろ紙でろ過後、減圧乾燥して目的の化合物(8)を淡褐色固体として2.0g得た(収率56%)。
【0081】
(1B)ポリマーの合成、上記式(9)又は下記式(10)で表される構造を含む重合体.
50mLシュレンク管に、上記(3A)で得た化合物(8)を0.378g(1.15mmol)、水5.7mLを仕込んでモノマーの水溶液を得た。そこへFeCl 0.113g(0.70mmol)、過硫酸ナトリウム 0.554g(2.33mmol)と水3.8mlからなる混合溶液を順次加えて室温下3時間攪拌した。
【0082】
得られた重合液をアセトン76mlに注ぎポリマーを析出させた。得られたスラリーを遠心沈降(3000rpm)させ、0.74gの黒色固体を得た。引続き、黒色固体に水を加えて1%水溶液を調製後、陽イオン交換樹脂Lewatit MonoPlus S100(H型) 8.0gを加えて3時間攪拌することでH型ポリマー溶液を得た。濾過によりイオン交換樹脂を除去し、得られた母液は更に透析処理(透析膜:Spectra/Por MWCO=3500)により無機塩を除去した。精製したH型ポリマーを含む水溶液を4.3gまで濃縮し、得られた残渣をアセトン80mlに注ぎポリマーを析出させた。得られたスラリーを遠心沈降(3000pm)させ、0.188gのH型ポリマーを得た(収率=49%)。
【0083】
本ポリマーの0.5重量%水溶液を調製し、無アルカリガラス板にキャストして得た膜の導電率は22S/cmだった。0.5重量%水溶液におけるポリマーの粒径(D50)は検出限界(0.8nm)以下だった。
【0084】
比較例2 ポリマーの合成、下記式(14)又は下記式(15)で表される構造単位を含む重合体.
【0085】
特許第3182239号公報を参考に、下記スキームに従って合成した。
【化7】
【0086】
(2A)1、3−ジヒドロイソチアナフテン(12)の合成.
2Lのセパラブルフラスコに、化合物(11)を10.0g(38.0mmol)、テトラ−ノルマル−ブチルアンモニウム硫化水素を25.7g(75.8mmol)、クロロホルム950mLを仕込んだ。窒素バブリング後、別途調製した硫化ナトリウム9水和物13.9g(57.8mmol)、炭酸水素ナトリウム6.4g(75.6mmol)を水700mLに溶解した水溶液を室温で1.5時間かけて滴下し、更に1時間熟成させた。反応後、有機層を分液し、更に水250mLで2回洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥した有機層を濃縮すると白色固体と油状物の混合物が得られた。引き続き、シリカゲルカラムクロマトグラフィ精製(溶離液:ヘキサン/クロロホルム=4/1)により、目的の化合物(12)を2.8gの無色透明油状物として得た(収率55%)。
【0087】
(2B)ポリマー(13)の合成.
30mLの反応管に、30%発煙硫酸3.0gを仕込み、氷浴中で冷却した。更に窒素気流下に、上記(2A)で得た化合物(12)をシリンジで発煙硫酸中へ滴下した。室温で1時間攪拌した後、70℃で1時間反応させた。反応液は滴下直後に褐色から濃群青色に変化した。反応後、0.1N NaOH−メタノール溶液200mLに滴下し、ポリマーを析出沈殿させた。遠心分離(3000rpm)でポリマーを沈降させて、乾燥後1.4gの黒色粉末を得た。引き続き、水100gに溶解させ、透析(透析膜:Spectra/Por MWCO=0.1−0.5K)により無機塩を除去した。精製した水溶液を濃縮乾燥して目的のNa塩型ポリマー(13)を黒色固体として1.1g得た(収率64%)。
【0088】
(2C)ポリマーの合成、上記式(14)又は上記式(15)で表される構造単位を含む重合体。
【0089】
30mLの反応管に、上記(2B)で得られたNa塩型ポリマー(13)を160mg、水を23g仕込み、水溶液を調製した。そこへ予め酸型化した陽イオン交換樹脂(Lewatit S100)2.5gを添加して一晩攪拌した。ろ過でイオン交換樹脂を除き、得られたろ液を濃縮乾燥して目的の酸型ポリマーを黒色固体として140mg得た(収率89%)。本ポリマーの0.5重量%水溶液を調製し、無アルカリガラス板にキャストして得た膜の導電率は0.1S/cmだった。0.5重量%水溶液におけるポリマーの粒径(D50)は6nmだった。
【0090】
【表1】
実施例3
ポリマー水溶液の合成[上記一般式(1)、(2)中のM=H,R=CH].
500mlセパラブルフラスコに、実施例1に準じて合成した3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム 15g(45mmol)と水225gを加えた。溶解後、室温下、無水塩化鉄(III)4.41g(27.2mmol)を加えて20分攪拌した。その後、過硫酸ナトリウム21.7g(91.1mmol)と150gからなる混合溶液を反応液温度が30℃以下を保持しながら滴下した。室温で3時間攪拌したのち、反応液を1.3kgのアセトンに滴下させ黒色のNa型のポリマーを析出させた。ポリマーを濾過・真空乾燥することで、28.0gの3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウムの粗ポリマーを得た。
次に、この粗ポリマーに水を加え2重量%溶液に調製した水溶液1.4kgを、陽イオン交換樹脂Lewatit MonoPlus S100(H型)400mlを充填したカラムに通液(空間速度=1.1)することによりH型のポリマー水溶液を1.48kg得た。更に、本ポリマー水溶液をクロスフロー式限外ろ過(ろ過器=ビバフロー200,分画分子量=10,000、透過倍率=10)により精製することにより下記式(5)又は下記式(6)で表される構造単位を含む重合体の濃群青色水溶液を1.4kg合成した。本ポリマー水溶液に含まれるポリマー量は0.84重量%であり、又、不純物と考えられる鉄イオン、ナトリウムイオンはICP−MS分析により、各々260ppb,100ppbであった。
【0091】
本ポリマー水溶液を無アルカリガラス板(25mm角)にキャストして得た膜の表面抵抗、膜厚及び導電率は、夫々20Ω/□、3.5μm、140S/cmであった。この値は、PEDT−Sの導電率より7倍程度高かった。また、2.0重量%水溶液におけるポリマーの粒径(D50)は1.1nmであった。2重量%水溶液の粒度分布結果を図2に示す。
【0092】
【化8】
実施例4 アンモニウム塩の合成[上記一般式(1)、(2)中のM=NH,R=CH].
実施例3で得られたH型のポリマー水溶液920gを減圧濃縮することにより2重量%のポリマー水溶液386g得た。三角フラスコに2重量%のH型ポリマー水溶液90gを加えた後、29%アンモニア水 9mlを室温下滴下し一晩攪拌した。反応液を濃縮後、アセトン200mlに濃縮液を滴下することによりアンモニウム塩が沈殿として生成した。濾過・乾燥ののち、1.72gのアンモニウム塩を黒色粉体として得た。
【0093】
更に、本ポリマーの0.5重量%水溶液を無アルカリガラス板(25mm角)にキャストして得た膜の表面抵抗、膜厚及び導電率は、夫々98Ω/□、1.2μm、85S/cmであった。また、2.0重量%水溶液におけるポリマーの粒径(D50)は1.1nmであった。結果を表2に纏める。
【0094】
実施例5 エタノールアミン塩の合成[上記一般式(1)、(2)中のM=NH(CHCHOH),R=CH].
実施例4で得られた2重量%のH型ポリマー水溶液10gに50重量%のエタノールアミン水溶液を滴下・中和(pH=7)することによりエタノールアミン塩水溶液を得た。
本ポリマー水溶液を0.5重量%に調整後、無アルカリガラス板に0.5mlをキャストした。120℃で20分アニールして得られた膜の導電率は79S/cmであった。
また、2.0重量%水溶液におけるポリマーの粒径(D50)は1.1nmであった。結果を表2に纏める。
【0095】
実施例6〜8.
実施例5に準じて、N,N’−ジメチルエタノールアミン塩(実施例6)、3−(ジメチルアミノ)−1,2−プロパンジオール塩(実施例7)、ジエタノールアミン塩(実施例8)を合成した。結果を表2に纏める。
【0096】
【表2】
実施例9 ポリマー合成[下記式(16)又は下記式(17)で表される構造単位を含む重合体].
WO2006/085149号公報の記載に従い、1−エチル−1,3−プロパンスルトンを3.0g合成した。次に、2,4−ブタンスルトンを1−エチル−1,3−プロパンスルトンに変え、実施例1に準じて3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−エチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウムを淡黄色粉末として1.9g合成した。
【0097】
引続き、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウムを3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−エチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウムに変え、実施例2に準じて363mgの黒色粉末ポリマーを合成した。
【0098】
本ポリマーの0.5重量%水溶液を無アルカリガラス板(25mm角)にキャストして得た膜の導電率は、44S/cmであった。
【0099】
【化9】
実施例10 導電性ポリマーのアルミナ浸透試験.
実施例5で合成した約2重量%の導電性ポリマー水溶液1.0gに直径3.4mmの球状γ―アルミナ(住友化学社製、NKHO−24、比表面積=170m/g、細孔容積=0.62ml/g、平均細孔径=11nm)を1時間浸漬した。その後、120℃で30分乾燥したのち、球状γ−アルミナの断面を観察し、目視により黒青色の導電性ポリマーの浸透性を観察した。
【0100】
実施例11〜13.
実施例6〜8で合成した導電性ポリマー水溶液を用い、実施例10と同様なアルミナ浸透性試験を行った。導電性ポリマーの球状γ―アルミナへの浸透性テストの結果を表3に併せて示す。
【0101】
【表3】
この表3に示すように、実施例10〜13のどの実施例でも、球状γ−アルミナの表面から0.7〜1mmと十分な深さまで黒青色(表中では黒色で示される。)に呈色しており、11nmの平均細孔径にも十分浸透できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の製造法によれば、本発明の新規な水溶性のチオフェン化合物を簡便に提供することができる。
【0103】
本発明のチオフェンモノマーは、帯電防止材、固体電解コンデンサの固体電解質、太陽電池、有機EL、キャパシタ、化学センサ用途に用いられる導電性高分子ポリチオフェン類のモノマーとして利用できる。特に、本発明のチオフェンモノマーは、水溶性の付与と分子内ドーパントとしての役割をもつスルホ基を有するため、得られるポリマーは水溶性の自己ドープ可能な導電性高分子となることが期待される。
【0104】
また、本発明によれば、良好な導電性と成型加工に十分な水溶性を兼ね備えた新規なポリチオフェンを提供できる。この新規なポリチオフェンは、帯電防止剤、コンデンサの固体電解質、導電性塗料、エレクトロクロミック素子、透明電極、透明導電膜、化学センサ、アクチュエータ等への応用が可能である。特に、水溶性であることから、脂溶性レジストに与えるダメージが小さく、剥離洗浄も容易なため、電子線リソグラフィー時に、レジストの帯電を抑制するための帯電防止膜形成材料としての使用が期待される。また、水溶液とした場合にポリマー粒子径が非常に小さいことから、例えば、アルミ固体電解コンデンサの化成処理されたエッチドアルミ箔への浸透性が良いことが考えられ、それにより導電性ポリマーによる被覆面積が向上し、静電容量のアップと低ESR化等コンデンサの性能改善が期待される。
図1
図2