(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、車輪軸受装置として、車輪の回転速度を検出し、その検出信号をアンチロックブレーキシステム(ABS)に伝送する回転速度センサ(回転検出装置)が内蔵されたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載の車輪軸受装置は、車体側に取り付けられた筒状の外方部材と、車輪が取り付けられるハブ輪及びこのハブ輪に外嵌された内輪を有する内方部材と、外方部材と内方部材との間に収容された複数の転動体とを備えている。内方部材の内輪には、N極及びS極が周方向に沿って交互に着磁された磁気エンコーダが接合されている。
【0004】
外方部材の一端開口部には、鋼板等により成形された有底筒状のカバー部材が例えば軽圧入等により嵌合されている。このカバー部材は、外方部材の端部に嵌合される円筒状の嵌合部と、嵌合部から径方向外方に延びる側壁と、側壁から軸方向に延びる円筒部と、円筒部に連設された底部とを有している。カバー部材の底部には、回転速度センサを装着するための装着孔、及び回転速度センサを取り付ける取付ボルトが締結されるボルト孔が形成されている。回転速度センサは、略長円形をなす取付金具を介して取付ボルトによってカバー部材の底部に固定され、磁気エンコーダに所定の隙間(エアギャップ)を介して対向している。
【0005】
回転速度センサは、車輪の回転に伴って磁気エンコーダが回転することにより、出力が変化する。回転速度センサの出力信号は、アンチロックブレーキシステム(ABS)の制御器に伝送され、制御器はこの出力信号に基づいて車輪がロックしないようにブレーキ装置を制御する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態]
図1(a)は、本発明の実施の形態に係る回転検出装置10、車輪軸受装置1、及びそれら周辺部の構成例を示す断面図である。
図1(b)は、回転検出装置10の磁気エンコーダ2の構成例を示す平面図である。
【0014】
(車輪軸受装置1の構成)
車輪軸受装置1は、筒状の外方部材としての外輪12と、外輪12の内周面12aに対向する外周面111aを有する内方部材としての内輪11と、外輪12の内周面12aに形成された外側軌道面120aと内輪11の外周面111aに形成された内側軌道面111bとの間に配置されて外側軌道面120a及び内側軌道面111bを転動する複数の転動体13と、外輪12と内輪11との相対回転を検出する回転検出装置10とを備えている。
【0015】
内輪11は、外周面111aを有する円柱状の本体部111と、図略の車輪が取り付けられるフランジ部112とを一体に有している。内輪11のフランジ部112には、車輪を取り付けるための図略のボルトが圧入される複数の貫通孔112aが形成されている。
【0016】
内輪11の本体部111には、フランジ部112とは反対側の端部に、取付金具15が設けられている。取付金具15は、後述する磁気エンコーダ2が取り付けられる取付板15aと、本体部111の外周面111aに取り付けられる側壁15bとを有している。取付板15a及び側壁15bよりなる断面は、L字形状である。
【0017】
外輪12における内輪11のフランジ部112側の端部には、内輪11の本体部111と外輪12との間を封止する環状のシール部材14が配置されている。
【0018】
回転検出装置10は、内輪11と一体に回転する磁気エンコーダ2と、外輪12の一端開口部(シール部材14が設けられた端部とは反対側の端部)を閉塞するカバー部材3と、磁気エンコーダ2の回転に伴って変化する磁界の強度を検出して、その検出信号を例えばアンチロックブレーキシステム(ABS)等の外部装置に伝送する磁界センサとしてのABSセンサ4と、ABSセンサ4のカバー部材3からの離脱を規制する規制部材6(
図5に示す)とを備えている。
【0019】
磁気エンコーダ2は、環状の円板からなり、
図1(b)に示すように、周方向に沿って複数のN極21及び複数のS極22が交互に着磁されている。磁気エンコーダ2は、内輪11と共に回転軸線Oを中心に回転し、内輪11の回転に伴ってABSセンサ4に対向する部分の磁極(N極21又はS極22)が変化する。
【0020】
(カバー部材3の構成)
図2は、カバー部材3の構成例を示し、(a)は斜視図、(b)は上面図、(c)は側面図である。
【0021】
カバー部材3は、例えばステンレス等の金属からなり、有底筒状を有している。より具体的には、カバー部材3は、外輪12(
図1(a)参照)に嵌合される円筒状の嵌合部31と、嵌合部31の径方向外方に張り出された鍔部32と、鍔部32から嵌合部31とは反対側に形成された円筒部33と、円筒部33における鍔部32とは反対側の端部を閉塞する円板部34とを一体に有している。円板部34は、カバー部材3の底部に対応している。
【0022】
カバー部材3には、ABSセンサ4の一部を挿通させる円形状の挿通孔340、及びABSセンサ4を係止するための係止片35がそれぞれ設けられている。より具体的には、挿通孔340は、円板部34の外縁側に形成され、係止片35は、円板部34において挿通孔340が形成された位置に対して径方向内側(
図2(b)における回転軸線O側)に例えば溶接等により接合されている。
【0023】
係止片35は、
図2(c)に示すように、円板部34に接合される基部351と、基部351の端部から円板部34に対して交差する方向に延びる延在部352と、延在部352における基部351とは反対側の端部から円板部34に沿って突出する突起部353とを一体に有している。
【0024】
本実施の形態では、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、突起部353の先端部は、円弧状に形成されている。また、本実施の形態では、延在部352は、内輪11の回転軸線Oに平行な方向、換言すればカバー部材3の円板部34に対して垂直な方向に延びて形成されている。
【0025】
(ABSセンサ4の構成)
図3は、ABSセンサ4の構成例を示す斜視図である。
図4は、ABSセンサ4を示し、(a)は上面図、(b)は(a)のA−A線断面図、(c)は(a)のB−B線断面図、(d)は底面図である。なお、
図4(b)では、検出素子441及びリード線442を破線で示している。
【0026】
ABSセンサ4は、カバー部材3に固定される固定部41と、磁気エンコーダ2(
図1(a)及び(b)参照)の回転に伴って変化する磁界の強度を検出する検出素子441を含む円柱状の検出部44と、ケーブル5の一部を保持するケーブル保持部42と、カバー部材3の円板部34に接触するフランジ部43とを有している。ケーブル5は、ケーブル保持部42から外部に導出されている。
【0027】
ケーブル保持部42、フランジ部43、及び検出部44は、ケーブル5の導出方向(延伸方向)に沿って並んでいる。ケーブル保持部42、フランジ部43、及び検出部44のそれぞれの断面は、略円形状を有している。
【0028】
固定部41は、ケーブル保持部42から連続して形成され、ケーブル5の導出方向に対して交差する方向に突出している。本実施の形態では、固定部41、ケーブル保持部42、及びフランジ部43は、樹脂等により成形されている。
【0029】
ABSセンサ4は、検出部44がカバー部材3の円板部34に形成された挿通孔340に挿通された状態で検出部44を中心に回転することにより、固定部41が係止片35に係止され、カバー部材3に固定されている。
【0030】
固定部41には、後述するABSセンサ4の検出部44を中心とした回転を規制する規制部材6を収容する収容孔411と、係止片35が挿入される空間413とが形成されている。収容孔411は、検出部44を中心とした回転方向に対して交差する方向に沿って形成されている。収容孔411と空間413とは、ケーブル5の導出方向に対して平行な方向に連通している。
【0031】
また、固定部41は、一端面から収容孔411に向かって切り欠いてなる切り欠き部412を有している。
図4(c)に示すように、収容孔411の内面411aには、2つの凹部414が切り欠き部412を挟むように形成されている。
【0032】
ケーブル5は、
図3に示すように、複数(本実施の形態では2本)の絶縁電線51と、複数の絶縁電線51を一括して覆う管状のシース52とを有している。絶縁電線51は、中心導体511及び中心導体511を被覆する絶縁体512を有している。絶縁電線51の中心導体511は、リード線442を介して検出素子441に電気的に接続されている。
【0033】
検出素子441は、本実施の形態では、ホール素子からなり、車輪の回転に伴って変化する磁界(磁気エンコーダ2から発生する磁界)の強度を検出する。検出素子441で検出された磁界の強度は、検出部44内にて検出信号に変換されてリード線442及びケーブル5を介してアンチロックブレーキシステム(ABS)に伝送される。
【0034】
(規制部材6の構成)
図5は、規制部材6の構成例を示す斜視図である。
図6(a)〜(e)は、規制部材6を示し、(a)は正面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は背面図、(e)は(a)のC−C線断面図である。
図6(f)は、規制部材6を収容孔411から取り外すための治具7の構成例を示す斜視図である。
【0035】
規制部材6は、本実施の形態では、例えばナイロンやポリブチレンテレフタレート(PBT)等の樹脂からなり、ケーブル5の導出方向に沿って細長く形成された直方体形状を有している。
【0036】
規制部材6は、その外面に、ABSセンサ4の収容孔411の内面411aに形成された2つの凹部414にそれぞれ嵌合される第1の突部61a及び第2の突部61bと、ケーブル5の導出方向に沿って延びる第1〜第4のリブ62a,62b,62c,62dとが形成されている。
【0037】
第1のリブ62a及び第2のリブ62bは、第1の突部61a及び第2の突部61bが形成された外面とは反対側の外面に形成され、第3のリブ62c及び第4のリブ62dは、第1の突部61a及び第2の突部61bが形成された外面の両側面にあたる外面にそれぞれ形成されている。
【0038】
また、第1の突部61a及び第2の突部61bが形成された外面には、第1〜第4のリブ62a,62b,62c,62dに対して平行な方向(ケーブル5の導出方向)に沿って延びる溝部63が形成され、第1の突部61aと第2の突部61bとは、溝部63を挟むようにして配置されている。
【0039】
図6(e)に示すように、規制部材6には、溝部63側から第1のリブ62a及び第2のリブ62bの間に向かって貫通する貫通孔64が形成されている。この貫通孔64は、規制部材6を収容孔411から取り出す際に使用する治具7を挿入するためのものである。
【0040】
治具7は、
図6(f)に示すように、規制部材6の溝部63に対して平行な方向に延びる延伸部71と、延伸部71の端部から延伸部71に交差する方向に突出して貫通孔64に挿入して規制部材6を引っ掛ける引っ掛け部72とを一体に有している。
【0041】
(ABSセンサ4の固定方法)
次に、ABSセンサ4の固定方法について
図7を参照して説明する。
図7は、カバー部材3にABSセンサ4を取り付けた状態を示す断面図である。
【0042】
ABSセンサ4をカバー部材3に取り付ける際には、まず、ABSセンサ4の検出部44をカバー部材3の円板部34に形成された挿通孔340に挿通させる。このとき、係止片35がABSセンサ4の固定部41に形成された空間413に収容される。ABSセンサ4の検出部44が挿通孔340に挿通された状態において、検出部44を中心としてABSセンサ4を回転させる。この回転により、係止片35の突起部353が固定部41に係止する。
【0043】
そして、規制部材6をABSセンサ4の固定部41に形成された収容孔411に挿入する。このとき、規制部材6の溝部63が切り欠き部412側に対向する。これにより、規制部材6を収容孔411から取り外す際、切り欠き部412及び溝部63を介して治具7の引っ掛け部72を貫通孔64に挿し込むことが可能となる。
【0044】
収容孔411に収容された規制部材6は、係止片35の延在部352に対向することにより、ABSセンサ4の検出部44を中心とした回転を規制している。
【0045】
また、収容孔411に収容された規制部材6は、第1の突部61a、第2の突部61b、及び第1〜第4のリブ62a,62b,62c,62dが、それぞれ収容孔411の内面411aに弾性的に接触している。本実施の形態では、第1の突部61a及び第2の突部61bは、収容孔411の内面411aに形成された2つの凹部414にそれぞれ嵌合している。
【0046】
以上により、ABSセンサ4の固定部41は、規制部材6によってカバー部材3の係止片35に係止された状態が保たれる。カバー部材3に固定されたABSセンサ4は、検出部44(検出素子441)が所定の隙間を介して磁気エンコーダ2に対向している。
【0047】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、以下のような作用及び効果が得られる。
【0048】
(1)ABSセンサ4は、固定部41が、カバー部材3の円板部34に接合された係止片35に係止されることによりカバー部材3に固定されているため、ボルトにより固定した場合と比較して、ABSセンサ4が軸方向に対して傾いたり、カバー部材3の円板部34に反りが生じてしまうことが抑制され、ABSセンサ4(検出素子441)と磁気エンコーダ2との間の距離が一定に保たれ、磁気エンコーダ2で発生した磁界の強度を検出素子441にてより正確に検出することが可能となる。
【0049】
(2)規制部材6は、ABSセンサ4の収容孔411に収容されて係止片35の延在部352に対向するため、ABSセンサ4は、検出部44を中心とした回転が規制されてカバー部材3に対してより確実に固定される。
【0050】
(3)規制部材6の外面には、ABSセンサ4の固定部41に形成された収容孔411の内面411aに接触する第1の突部61a、第2の突部61b、及び第1〜第4のリブ62a,62b,62c,62dがそれぞれ形成されているため、規制部材6の収容孔411からの抜け出しを抑制することが可能である。
【0051】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0052】
[1]筒状の外方部材(外輪12)と、外輪(12)の内周面(12a)に対向する外周面(111a)を有する内方部材(内輪11)との相対回転を検出する回転検出装置(10)であって、内輪(11)と一体に回転する磁気エンコーダ(2)と、外輪(12)の一端開口部を閉塞するカバー部材(3)と、カバー部材(3)に固定される固定部(41)及び磁気エンコーダ(2)の回転に伴って変化する磁界の強度を検出する検出素子(441)を含む検出部(44)を有する磁界センサ(ABSセンサ4)と、ABSセンサ(4)のカバー部材(3)からの離脱を規制する規制部材(6)とを備え、カバー部材(3)には、検出部(44)を挿通させる挿通孔(340)と、ABSセンサ(4)の固定部(41)を係止する係止片(35)とが設けられ、ABSセンサ(4)の固定部(41)は、規制部材(6)によって係止片(35)に係止された状態が保たれる回転検出装置(10)。
【0053】
[2]係止片(35)は、挿通孔(340)が形成されたカバー部材(3)の円板部(34)に対して交差する方向に延びる延在部(352)と、延在部(352)から円板部(34)に沿って突出する突起部(353)とを有し、ABSセンサ(4)は、検出部(44)が挿通孔(340)に挿通された状態で検出部(44)を中心に回転することにより、固定部(41)が係止片(35)に係止される、[1]に記載の回転検出装置(10)。
【0054】
[3]規制部材(6)は、検出部(44)を中心とした回転方向に対して交差する方向に沿って固定部(41)に形成された収容孔(411)に収容されて延在部(352)に対向することにより、検出部(44)を中心とした回転を規制する、[1]又は[2]に記載の回転検出装置(10)。
【0055】
[4]規制部材(6)の外面には、収容孔(411)の内面(411a)に接触して収容孔(411)からの規制部材(6)の抜け出しを抑制する突部(第1の突部61a、第2の突部61b、及び第1〜第4のリブ62a,62b,62c,62d)が形成されている、[3]に記載の回転検出装置(10)。
【0056】
[5][1]乃至[4]の何れか1項に記載の回転検出装置(10)と、外輪(12)及び内輪(11)と、外輪(12)の内周面(12a)に形成された外側軌道面(120a)と内輪(11)の外周面(111a)に形成された内側軌道面(111b)との間に配置され、外側軌道面(120a)及び内側軌道面(111b)を転動する複数の転動体(13)とを備え、内輪(11)は車輪が固定される車輪取付フランジ部(112)を有し、外輪(12)は車体に固定される車輪軸受装置(1)。
【0057】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0058】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、ABSセンサ4は、規制部材6によって検出部44を中心とした回転が規制されていたが、これに限らず、例えば係止片35が固定部41の空間413内において接着剤等により固定されることによりABSセンサ4の検出部44を中心とした回転を規制してもよい。
【0059】
また、上記実施の形態では、規制部材6の第1の突部61a及び第2の突部61bは、収容孔411の内面411aに形成された2つの凹部414に嵌合されていたが、これに限らず、少なくとも規制部材6の第1の突部61a及び第2の突部61bが収容孔411の内面411aに接触していればよい。また、突部の数にも制限はない。
【0060】
また、上記実施の形態では、規制部材6の第1〜第4のリブ62a,62b,62c,62dは、ケーブル5の導出方向に沿って延びていたが、これに限らず、例えば第1の突部61a及び第2の突部61bのように収容孔411の内面411aに接触する突部であればよい。また、リブの数にも制限はない。
【0061】
また、上記実施の形態では、車輪軸受装置1に搭載された回転検出装置10について説明したが、回転検出装置10の用途について特に制限はない。