特許第6131842号(P6131842)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6131842エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131842
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20170515BHJP
   C23C 16/24 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   H01L21/205
   C23C16/24
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-244056(P2013-244056)
(22)【出願日】2013年11月26日
(65)【公開番号】特開2015-103703(P2015-103703A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 和尚
(72)【発明者】
【氏名】小野 敏昭
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩三
【審査官】 正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/153724(WO,A1)
【文献】 特開2002−012496(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/038899(WO,A1)
【文献】 特開2013−118388(JP,A)
【文献】 特開2009−231430(JP,A)
【文献】 特開平11−150119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/24
H01L 21/20
C30B 29/06
C30B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハの表面にエピタキシャル膜が設けられたエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法であって、
前記シリコンウェーハの表面に前記エピタキシャル膜を成長させるエピタキシャル膜成長工程と、
前記エピタキシャルシリコンウェーハの温度を、前記エピタキシャル膜を成長させたときの温度から下げる降温工程とを備え、
前記降温工程は、前記エピタキシャル膜の膜厚および前記シリコンウェーハの酸素濃度に基づいて、前記エピタキシャル膜における当該エピタキシャル膜の表面を除く位置の酸素濃度が、2.5×1016atoms/cm(ASTM F−121,1979)以上となるように、前記エピタキシャルシリコンウェーハの降温レートを制御することを特徴とするエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法において、
前記エピタキシャル膜の表面を除く位置は、前記エピタキシャル膜の表面からの深さ寸法が0.5μm〜1.0μmの範囲であることを特徴とするエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【請求項3】
シリコンウェーハの表面にエピタキシャル膜が設けられたエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法であって、
前記シリコンウェーハの表面に前記エピタキシャル膜を成長させるエピタキシャル膜成長工程と、
前記エピタキシャルシリコンウェーハの温度を、前記エピタキシャル膜を成長させたときの温度から下げる降温工程とを備え、
前記降温工程は、前記エピタキシャル膜の膜厚をX(μm)、
前記シリコンウェーハの酸素濃度をY(×1017atoms/cm(ASTM F−121,1979))、
前記エピタキシャルシリコンウェーハの降温レートをZ(℃/min)、
として、以下の式(1)を満たすように行われ、前記エピタキシャル膜における当該エピタキシャル膜の表面を除く位置の酸素濃度が、2.5×1016atoms/cm(ASTM F−121,1979)以上となるように、前記降温レートを制御することを特徴とするエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
Z≦3.55×X−6.47×Y5.15 … (1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン単結晶を切り出して得られるシリコンウェーハの表面に、エピタキシャル膜を気相成長させたエピタキシャルウェーハが知られている。
エピタキシャル膜中の酸素濃度が低い場合、例えば、デバイスプロセスなどの熱処理においてエピタキシャル膜中に転位が発生し、この転位が伸展してしまうことがある。そこで、このような転位の伸展を防止するための検討がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、エピタキシャル膜表面の酸素濃度が転位発生に関係することを見出し、このエピタキシャル膜表面の酸素濃度を、1.0×1017〜12×1017atoms/cm(ASTM F−121,1979)に設定することで、転位の伸展を防止できることが記載されている。そして、このような特性を有するエピタキシャルウェーハの製造方法として、エピタキシャル膜の形成工程後に、非酸化性雰囲気または酸化性雰囲気で処理する酸素濃度設定熱処理工程を行うことが記載されている。
非酸化性雰囲気の酸素濃度設定熱処理工程を行うことにより、シリコンウェーハに固溶している酸素がエピタキシャル膜に拡散し、エピタキシャル膜の酸素濃度が上昇する。
また、酸化性雰囲気の酸素濃度設定熱処理工程を行うことにより、エピタキシャル膜の表面に酸化膜が形成され、この酸化膜の酸素がエピタキシャル膜に内方拡散するとともに、シリコンウェーハの酸素がエピタキシャル膜に拡散し、エピタキシャル膜の酸素濃度が上昇する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−141272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のような製造方法では、酸素濃度設定熱処理工程がエピタキシャル膜の形成工程で用いる製造装置とは別の装置、例えば、縦型炉や枚葉炉で行われるため、製造設備が多くなってしまう。また、エピタキシャル膜の形成工程と酸素濃度設定熱処理工程との間に、エピタキシャルシリコンウェーハを設備間で搬送する必要があり、製造効率が低下してしまう。このため、エピタキシャルシリコンウェーハの製造コストが増加してしまうという問題点がある。
【0006】
本発明の目的は、製造コストの増加を招くことなく、転位の伸展を抑制可能なエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を重ね、エピタキシャルシリコンウェーハの温度をエピタキシャル膜の成長時の温度から下げる降温工程において、降温レートを制御することによって、シリコンウェーハからエピタキシャル膜への拡散量を制御できる、すなわちエピタキシャル膜の酸素濃度を制御できる可能性があることに着目した。そこで、本発明者は、以下の実験を行った。
【0008】
<実験1>
CZ法(チョクラルスキー法)で酸素濃度が異なる複数の単結晶インゴットを製造し、それぞれの単結晶インゴットからシリコンウェーハを切り出した。シリコンウェーハの酸素濃度(以下、「基板酸素濃度」という場合がある)を表1に示す。
シリコンウェーハの(100)面を鏡面研磨面とし、この鏡面研磨面に膜厚(以下、「エピタキシャル膜厚」という場合がある)が3μmのエピタキシャル膜を成長させた。エピタキシャル膜の成長は、トリクロロシランなどのガス雰囲気中で1150℃程度の温度で行った。そして、エピタキシャル膜の成長後の降温工程を表1に示すような降温レート(以下、「エピタキシャル処理の降温レート」という場合がある)で行うことで、エピタキシャルシリコンウェーハを室温まで冷却し、エピタキシャル膜の酸素濃度を測定した。酸素濃度の測定は、SIMS(二次イオン質量分析計)で行った。エピタキシャル膜の表面(シリコンウェーハと反対側の面)からの深さ寸法が0.5μm〜1.0μmの範囲における平均酸素濃度(以下、「表層酸素濃度」という場合がある)を表1に示す。
【0009】
さらに、上記プロセスで作成したエピタキシャルシリコンウェーハに対し、応力負荷試験を行った。
まず、エピタキシャルシリコンウェーハから、長さ3cm、幅1.5cmの測定用サンプルを切り出した。次に、測定用サンプルの表面(エピタキシャル膜の表面)に、マイクロビッカーズ硬度計で2gの荷重を加えて10秒間保持し、圧痕を導入した。そして、測定用サンプルを、支点間距離2cm、試験温度800℃にて3点曲げ試験を実施した。この際、2Nの荷重を加え、測定用サンプルの表面側に引張応力を作用させた。
その後、室温まで冷却した測定用サンプルに対し、2μmのライトエッチングを実施し、エピタキシャル膜に導入した圧痕から発生したエピタキシャル膜表面で観察される転位ピットの有無を光学顕微鏡を用いて測定した。測定結果を表1に示す。
【0010】
【表1】
【0011】
表1に示すように、基板酸素濃度が一定であれば、エピタキシャル処理の降温レートが小さいほど、つまり、ゆっくり冷却するほど、エピタキシャルシリコンウェーハの表層酸素濃度が高くなることがわかった。
また、表1に示すように、エピタキシャルシリコンウェーハの表層酸素濃度が、2.5×1016atoms/cm(ASTM F−121,1979)以上であれば、転位の伸展が無い(転位ピットが無い)ことがわかった。
さらに、転位の伸展が無い条件で作成したエピタキシャルシリコンウェーハに対し、半導体デバイスの製造プロセスを模擬した熱処理を行った。具体的には、1000℃で1時間、900℃で1時間、800℃で2時間、650℃で3時間の4段階熱処理を順次行った。また、各熱処理の雰囲気は、窒素と酸素との混合雰囲気(酸素濃度3%)とした。その後、熱処理を行ったエピタキシャルシリコンウェーハに対し、上記の応力負荷試験を行った。
上記の条件で熱処理を行ったエピタキシャルシリコンウェーハについて、転位の伸展が無いことがわかった。
【0012】
本実験1では、転位の伸展を無くすために、エピタキシャル膜の表面からの深さ寸法が0.5μm〜1.0μmの位置における酸素濃度が、2.5×1016atoms/cm以上であればよいことがわかった。一方、特許文献1では、転位の伸展を無くすために、エピタキシャル膜の表面からの深さ寸法が80nm〜200nm(0.08μm〜0.2μm)の位置における酸素濃度が、1.0×1017atoms/cm〜12×1017atoms/cmに設定することが記載されている。ここで、一般的に、エピタキシャル膜の酸素濃度は、シリコンウェーハ側が高く、エピタキシャル膜の表面側が低くなるため、特許文献1の構成では、本実験1と同じ深さ位置における酸素濃度は、1.0×1017atoms/cm〜12×1017atoms/cm以上であると考えられる。
以上のことから、特許文献1の構成と比べて、エピタキシャル膜の酸素濃度を低くしても、転位の伸展を無くすことができることがわかった。
本発明は、上述のような知見に基づいて完成されたものである。
【0014】
発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法は、シリコンウェーハの表面にエピタキシャル膜が設けられたエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法であって、前記シリコンウェーハの表面に前記エピタキシャル膜を成長させるエピタキシャル膜成長工程と、前記エピタキシャルシリコンウェーハの温度を、前記エピタキシャル膜を成長させたときの温度から下げる降温工程とを備え、前記降温工程は、前記エピタキシャル膜の膜厚および前記シリコンウェーハの酸素濃度に基づいて、前記エピタキシャル膜における当該エピタキシャル膜の表面を除く位置の酸素濃度が、2.5×1016atoms/cm(ASTM F−121,1979)以上となるように、前記エピタキシャルシリコンウェーハの降温レートを制御することを特徴とする。
また、本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法において、前記エピタキシャル膜の表面を除く位置は、前記エピタキシャル膜の表面からの深さ寸法が0.5μm〜1.0μmの範囲であることが好ましい。
【0015】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法によれば、降温工程において降温レートを制御することにより、エピタキシャル膜表層部の酸素濃度が十分に高められ、転位の伸展を抑制可能なエピタキシャルシリコンウェーハを製造することができる。また、エピタキシャル膜の形成工程以外の工程を設ける必要がないため、製造効率の低下および製造設備の増加を招くことがない。したがって、製造コストの増加を招くことがない。
お、本発明における「エピタキシャルシリコンウェーハの温度」とは、エピタキシャルシリコンウェーハの実際の温度と、エピタキシャル膜を成長させる際にシリコンウェーハが収容される部材(例えばエピタキシャル装置の反応容器)内の温度との両方の意味を含むものである。
【0018】
また、本発明者は、上記実験1の結果を踏まえ、以下の実験2,3を行った。
【0019】
<実験2>
エピタキシャル膜厚を2μm、基板酸素濃度およびエピタキシャル処理の降温レートを以下の表2の条件としたこと以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハの作成および応力負荷試験を行い、エピタキシャル膜表面で観察される転位ピットを測定した。測定結果を表2に示す。
【0020】
【表2】
【0021】
<実験3>
エピタキシャル膜厚を4μm、基板酸素濃度およびエピタキシャル処理の降温レートを以下の表3の条件としたこと以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハの作成および応力負荷試験を行い、エピタキシャル膜表面で観察される転位ピットを測定した。測定結果を表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
表1〜表3に示すように、エピタキシャル膜厚によらず、基板酸素濃度が一定であれば、エピタキシャル処理の降温レートが小さいほど、つまり、ゆっくり冷却するほど、転位の伸展が無くなることがわかった。
また、表2,3には示していないが、転位の伸展が無いエピタキシャルシリコンウェーハの表層酸素濃度は、2.5×1016atoms/cm以上であった。一方、転位の伸展が有るエピタキシャルシリコンウェーハの表層酸素濃度は、2.5×1016atoms/cm未満であった。
さらに、実験2,3における転位の伸展が無い条件で作成したエピタキシャルシリコンウェーハに対し、実験1と同様に、半導体デバイスの製造プロセスを模擬した熱処理と、応力負荷試験とを行った。その結果、いずれの条件で熱処理を行ったエピタキシャルシリコンウェーハについて、転位の伸展が無いことがわかった。
【0024】
そこで、この結果を踏まえ、エピタキシャル膜厚ごとに適切な降温レートを算出できるか否かを検討した。エピタキシャル膜厚が3μm、2μm、4μmの場合における基板酸素濃度と降温レートとの関係を、図1図2図3にそれぞれ示す。
【0025】
図1図3に示すように、転位の伸展が無い条件の近似曲線は、破線で示すような曲線となる。図1図3に示す全ての近似曲線は、エピタキシャル膜厚をX(μm)、基板酸素濃度をY(×1017atoms/cm(ASTM F−121,1979))、降温レートをZ(℃/min)、として、以下の式(1)で表すことができる。
Z=3.55×X−6.47×Y5.15 … (1)
【0026】
このことから、降温レートを上記式(1)で得られるZの値以下とすることにより、転位の伸展が無いエピタキシャルシリコンウェーハを製造できることがわかった。
【0027】
すなわち、本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法はシリコンウェーハの表面にエピタキシャル膜が設けられたエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法であって、前記シリコンウェーハの表面に前記エピタキシャル膜を成長させるエピタキシャル膜成長工程と、前記エピタキシャルシリコンウェーハの温度を、前記エピタキシャル膜を成長させたときの温度から下げる降温工程とを備え、前記降温工程は、前記エピタキシャル膜の膜厚をX(μm)、前記シリコンウェーハの酸素濃度をY(×1017atoms/cm(ASTM F−121,1979))、前記エピタキシャルシリコンウェーハの降温レートをZ(℃/min)、として、以下の式(2)を満たすように行われ、前記エピタキシャル膜における当該エピタキシャル膜の表面を除く位置の酸素濃度が、2.5×1016atoms/cm(ASTM F−121,1979)以上となるように、前記降温レートを制御することを特徴とする。
Z≦3.55×X−6.47×Y5.15 … (2)
【0028】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法によれば、上記式(2)に、エピタキシャル膜の膜厚と、シリコンウェーハの酸素濃度とを代入し、降温レートを計算で求めるだけの簡単な方法で、製造コストの増加を招くことなく、転位の伸展を抑制可能なエピタキシャルシリコンウェーハを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明における降温レートを規定する式を導出するために実施した実験1の結果であって、エピタキシャル膜厚が3μmの場合における基板酸素濃度と降温レートとの関係を示すグラフ。
図2】前記降温レートを規定する式を導出するために実施した実験2の結果であって、エピタキシャル膜厚が2μmの場合における基板酸素濃度と降温レートとの関係を示すグラフ。
図3】前記降温レートを規定する式を導出するために実施した実験3の結果であって、エピタキシャル膜厚が4μmの場合における基板酸素濃度と降温レートとの関係を示すグラフ。
図4】本発明の一実施形態に係るエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を表すフローチャート。
図5】前記一実施形態に係るエピタキシャルシリコンウェーハを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[実施形態]
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図4は、エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を表すフローチャートである。図5は、エピタキシャルシリコンウェーハを示す断面図である。
【0031】
図4に示すように、図5に示すエピタキシャルシリコンウェーハ1の製造方法では、シリコンウェーハ準備工程を行う(ステップS1)。
このシリコンウェーハ準備工程では、CZ法や、MCZ(磁場印加チョクラルスキー)法などによって、引き上げられた単結晶インゴットを、スライス、面取り、研削、ラッピング、エッチング、研磨、洗浄などを含む必要な各工程によって、表面21が鏡面研磨されたシリコンウェーハ2を準備する全ての工程を含む。この際、シリコンウェーハ2の酸素濃度は、10×1017atoms/cm以上、18×1017atoms/cm(ASTM F−121,1979)以下であることが好ましい。
【0032】
次に、シリコンウェーハ2にエピタキシャル膜3を形成するエピタキシャル膜形成工程を行う。エピタキシャル膜形成工程は、昇温工程(ステップS2)と、エピタキシャル膜成長工程(ステップS3)と、降温工程(ステップS4)とを備える。
【0033】
昇温工程では、図示しないエピタキシャル装置の反応容器内にシリコンウェーハ2を載置し、反応容器内の温度を室温から目的温度まで昇温させる。目的温度は、1050℃〜1280℃に設定されている。反応容器内の温度が上記目的温度に到達すると、シリコンウェーハ2の表面21にエピタキシャル膜3を成長させるエピタキシャル膜成長工程を行う。
【0034】
このエピタキシャル膜成長工程では、トリクロロシランなどの成長ガスを反応容器内に導入し、この成長ガス雰囲気でエピタキシャル膜3の成膜を行う。なお、この成膜において、ボロン、リンなどの必要なドーパントを添加してもよい。
エピタキシャル膜成長工程は、エピタキシャル膜3の膜厚Tが0.5μm以上8.0μm以下となるまで行われる。そして、エピタキシャル膜3が上記膜厚Tとなるまで成膜されると、エピタキシャルシリコンウェーハ1の温度を、エピタキシャル膜3を成長させたときの温度(上記目的温度(1050℃〜1280℃))から室温まで下げる降温工程を行う。
【0035】
この降温工程では、エピタキシャル膜3における当該エピタキシャル膜3の表面31を除く位置の酸素濃度(表層酸素濃度)が、2.5×1016atoms/cm以上となるように、エピタキシャルシリコンウェーハ1の降温レートを制御する。具体的には、エピタキシャル膜3の膜厚TをX(μm)、シリコンウェーハ2の酸素濃度をY(×1017atoms/cm)、降温レートをZ(℃/min)、として、上記式(2)を満たすように、降温レートを制御する。なお、エピタキシャル膜3の表層酸素濃度とは、エピタキシャル膜3の表面31からの深さ寸法Dの値が0.5μm〜1.0μmの位置における酸素濃度のことを意味する。
このような降温レートの制御により、シリコンウェーハ2からエピタキシャル膜3への拡散量が制御され、エピタキシャル膜3の表層酸素濃度が2.5×1016atoms/cm以上、1.0×1017atoms/cm未満に調整されたエピタキシャルシリコンウェーハ1を製造することができる。
【0036】
そして、上記実験1の半導体デバイスの製造プロセスを模擬した熱処理を行ったエピタキシャルシリコンウェーハ1と、当該熱処理を行っていないエピタキシャルシリコンウェーハ1とについて、上記実験1の応力負荷試験を行ったところ、転位の伸展が無いことが確認できた。
【0037】
[実施形態の作用効果]
上述したように、上記実施形態では、以下のような作用効果を奏することができる。
【0038】
(1)降温工程において降温レートを制御するだけの簡単な方法で、転位の伸展を抑制可能なエピタキシャルシリコンウェーハ1を製造することができる。また、エピタキシャル膜形成工程(昇温工程(ステップS2)、エピタキシャル膜成長工程(ステップS3)、降温工程(ステップS4))以外の工程を設ける必要がないため、製造効率の低下および製造設備の増加を招くことがない。したがって、製造コストの増加を招くことがない。
【0039】
(2)上記式(2)に、エピタキシャル膜3の膜厚Tと、シリコンウェーハ2の酸素濃度とを代入し、降温レートを計算で求めるだけの簡単な方法で、製造コストの増加を招くことなく、転位の伸展が抑制されたエピタキシャルシリコンウェーハ1を製造することができる。
【0040】
[他の実施形態]
なお、本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の改良ならびに設計の変更などが可能である。
【0041】
すなわち、降温工程において、上記式(2)に基づき求めた降温レートを用いずに、複数の条件で行った実験に基づいて、エピタキシャル膜3の表層酸素濃度が2.5×1016atoms/cm以上、1.0×1017atoms/cm未満に調整されたエピタキシャルシリコンウェーハ1を製造できるように、降温レートを設定してもよい。
また、降温工程において、上記式(2)に基づいて、または、上記式(2)に基づかないで、降温レートを制御することにより、エピタキシャル膜3の表層酸素濃度が1.0×1017atoms/cm以上に調整されたエピタキシャルシリコンウェーハを製造してもよい。このように製造されたエピタキシャルシリコンウェーハにおいても、転位の伸展を抑制することができる。
さらに、シリコンウェーハ2の酸素濃度は、10×1017atoms/cm未満であってもよいし、18×1017atoms/cmを超えていてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1…エピタキシャルシリコンウェーハ
2…シリコンウェーハ
3…エピタキシャル膜
21…シリコンウェーハの表面
31…エピタキシャル膜の表面
図1
図2
図3
図4
図5