【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を重ね、エピタキシャルシリコンウェーハの温度をエピタキシャル膜の成長時の温度から下げる降温工程において、降温レートを制御することによって、シリコンウェーハからエピタキシャル膜への拡散量を制御できる、すなわちエピタキシャル膜の酸素濃度を制御できる可能性があることに着目した。そこで、本発明者は、以下の実験を行った。
【0008】
<実験1>
CZ法(チョクラルスキー法)で酸素濃度が異なる複数の単結晶インゴットを製造し、それぞれの単結晶インゴットからシリコンウェーハを切り出した。シリコンウェーハの酸素濃度(以下、「基板酸素濃度」という場合がある)を表1に示す。
シリコンウェーハの(100)面を鏡面研磨面とし、この鏡面研磨面に膜厚(以下、「エピタキシャル膜厚」という場合がある)が3μmのエピタキシャル膜を成長させた。エピタキシャル膜の成長は、トリクロロシランなどのガス雰囲気中で1150℃程度の温度で行った。そして、エピタキシャル膜の成長後の降温工程を表1に示すような降温レート(以下、「エピタキシャル処理の降温レート」という場合がある)で行うことで、エピタキシャルシリコンウェーハを室温まで冷却し、エピタキシャル膜の酸素濃度を測定した。酸素濃度の測定は、SIMS(二次イオン質量分析計)で行った。エピタキシャル膜の表面(シリコンウェーハと反対側の面)からの深さ寸法が0.5μm〜1.0μmの範囲における平均酸素濃度(以下、「表層酸素濃度」という場合がある)を表1に示す。
【0009】
さらに、上記プロセスで作成したエピタキシャルシリコンウェーハに対し、応力負荷試験を行った。
まず、エピタキシャルシリコンウェーハから、長さ3cm、幅1.5cmの測定用サンプルを切り出した。次に、測定用サンプルの表面(エピタキシャル膜の表面)に、マイクロビッカーズ硬度計で2gの荷重を加えて10秒間保持し、圧痕を導入した。そして、測定用サンプルを、支点間距離2cm、試験温度800℃にて3点曲げ試験を実施した。この際、2Nの荷重を加え、測定用サンプルの表面側に引張応力を作用させた。
その後、室温まで冷却した測定用サンプルに対し、2μmのライトエッチングを実施し、エピタキシャル膜に導入した圧痕から発生したエピタキシャル膜表面で観察される転位ピットの有無を光学顕微鏡を用いて測定した。測定結果を表1に示す。
【0010】
【表1】
【0011】
表1に示すように、基板酸素濃度が一定であれば、エピタキシャル処理の降温レートが小さいほど、つまり、ゆっくり冷却するほど、エピタキシャルシリコンウェーハの表層酸素濃度が高くなることがわかった。
また、表1に示すように、エピタキシャルシリコンウェーハの表層酸素濃度が、2.5×10
16atoms/cm
3(ASTM F−121,1979)以上であれば、転位の伸展が無い(転位ピットが無い)ことがわかった。
さらに、転位の伸展が無い条件で作成したエピタキシャルシリコンウェーハに対し、半導体デバイスの製造プロセスを模擬した熱処理を行った。具体的には、1000℃で1時間、900℃で1時間、800℃で2時間、650℃で3時間の4段階熱処理を順次行った。また、各熱処理の雰囲気は、窒素と酸素との混合雰囲気(酸素濃度3%)とした。その後、熱処理を行ったエピタキシャルシリコンウェーハに対し、上記の応力負荷試験を行った。
上記の条件で熱処理を行ったエピタキシャルシリコンウェーハについて、転位の伸展が無いことがわかった。
【0012】
本実験1では、転位の伸展を無くすために、エピタキシャル膜の表面からの深さ寸法が0.5μm〜1.0μmの位置における酸素濃度が、2.5×10
16atoms/cm
3以上であればよいことがわかった。一方、特許文献1では、転位の伸展を無くすために、エピタキシャル膜の表面からの深さ寸法が80nm〜200nm(0.08μm〜0.2μm)の位置における酸素濃度が、1.0×10
17atoms/cm
3〜12×10
17atoms/cm
3に設定することが記載されている。ここで、一般的に、エピタキシャル膜の酸素濃度は、シリコンウェーハ側が高く、エピタキシャル膜の表面側が低くなるため、特許文献1の構成では、本実験1と同じ深さ位置における酸素濃度は、1.0×10
17atoms/cm
3〜12×10
17atoms/cm
3以上であると考えられる。
以上のことから、特許文献1の構成と比べて、エピタキシャル膜の酸素濃度を低くしても、転位の伸展を無くすことができることがわかった。
本発明は、上述のような知見に基づいて完成されたものである。
【0014】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法は、シリコンウェーハの表面にエピタキシャル膜が設けられたエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法であって、前記シリコンウェーハの表面に前記エピタキシャル膜を成長させるエピタキシャル膜成長工程と、前記エピタキシャルシリコンウェーハの温度を、前記エピタキシャル膜を成長させたときの温度から下げる降温工程とを備え、前記降温工程は、
前記エピタキシャル膜の膜厚および前記シリコンウェーハの酸素濃度に基づいて、前記エピタキシャル膜における当該エピタキシャル膜の表面を除く位置の酸素濃度が、2.5×10
16atoms/cm
3(ASTM F−121,1979)以上となるように、前記エピタキシャルシリコンウェーハの降温レートを制御することを特徴とす
る。
また、本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法において、前記エピタキシャル膜の表面を除く位置は、前記エピタキシャル膜の表面からの深さ寸法が0.5μm〜1.0μmの範囲であることが好ましい。
【0015】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法によれば、降温工程において降温レートを制御することにより、エピタキシャル膜表層部の酸素濃度が十分に高められ、転位の伸展を抑制可能なエピタキシャルシリコンウェーハを製造することができる。また、エピタキシャル膜の形成工程以外の工程を設ける必要がないため、製造効率の低下および製造設備の増加を招くことがない。したがって、製造コストの増加を招くことがな
い。
なお、本発明における「エピタキシャルシリコンウェーハの温度」とは、エピタキシャルシリコンウェーハの実際の温度と、エピタキシャル膜を成長させる際にシリコンウェーハが収容される部材(例えばエピタキシャル装置の反応容器)内の温度との両方の意味を含むものである。
【0018】
また、本発明者は、上記実験1の結果を踏まえ、以下の実験2,3を行った。
【0019】
<実験2>
エピタキシャル膜厚を2μm、基板酸素濃度およびエピタキシャル処理の降温レートを以下の表2の条件としたこと以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハの作成および応力負荷試験を行い、エピタキシャル膜表面で観察される転位ピットを測定した。測定結果を表2に示す。
【0020】
【表2】
【0021】
<実験3>
エピタキシャル膜厚を4μm、基板酸素濃度およびエピタキシャル処理の降温レートを以下の表3の条件としたこと以外は、実験1と同様の条件でエピタキシャルシリコンウェーハの作成および応力負荷試験を行い、エピタキシャル膜表面で観察される転位ピットを測定した。測定結果を表3に示す。
【0022】
【表3】
【0023】
表1〜表3に示すように、エピタキシャル膜厚によらず、基板酸素濃度が一定であれば、エピタキシャル処理の降温レートが小さいほど、つまり、ゆっくり冷却するほど、転位の伸展が無くなることがわかった。
また、表2,3には示していないが、転位の伸展が無いエピタキシャルシリコンウェーハの表層酸素濃度は、2.5×10
16atoms/cm
3以上であった。一方、転位の伸展が有るエピタキシャルシリコンウェーハの表層酸素濃度は、2.5×10
16atoms/cm
3未満であった。
さらに、実験2,3における転位の伸展が無い条件で作成したエピタキシャルシリコンウェーハに対し、実験1と同様に、半導体デバイスの製造プロセスを模擬した熱処理と、応力負荷試験とを行った。その結果、いずれの条件で熱処理を行ったエピタキシャルシリコンウェーハについて、転位の伸展が無いことがわかった。
【0024】
そこで、この結果を踏まえ、エピタキシャル膜厚ごとに適切な降温レートを算出できるか否かを検討した。エピタキシャル膜厚が3μm、2μm、4μmの場合における基板酸素濃度と降温レートとの関係を、
図1、
図2、
図3にそれぞれ示す。
【0025】
図1〜
図3に示すように、転位の伸展が無い条件の近似曲線は、破線で示すような曲線となる。
図1〜
図3に示す全ての近似曲線は、エピタキシャル膜厚をX(μm)、基板酸素濃度をY(×10
17atoms/cm
3(ASTM F−121,1979))、降温レートをZ(℃/min)、として、以下の式(1)で表すことができる。
Z=3.55×X
−6.47×Y
5.15 … (1)
【0026】
このことから、降温レートを上記式(1)で得られるZの値以下とすることにより、転位の伸展が無いエピタキシャルシリコンウェーハを製造できることがわかった。
【0027】
すなわち、本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方
法は、
シリコンウェーハの表面にエピタキシャル膜が設けられたエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法であって、前記シリコンウェーハの表面に前記エピタキシャル膜を成長させるエピタキシャル膜成長工程と、前記エピタキシャルシリコンウェーハの温度を、前記エピタキシャル膜を成長させたときの温度から下げる降温工程とを備え、前記降温工程は、前記エピタキシャル膜の膜厚をX(μm)、前記シリコンウェーハの酸素濃度をY(×10
17atoms/cm
3(ASTM F−121,1979)
)、前記エピタキシャルシリコンウェーハの降温レートをZ(℃/min)、として、以下の式(2)を満たすように行われ
、前記エピタキシャル膜における当該エピタキシャル膜の表面を除く位置の酸素濃度が、2.5×1016atoms/cm3(ASTM F−121,1979)以上となるように、前記降温レートを制御することを特徴とする。
Z≦3.55×X
−6.47×Y
5.15 … (2)
【0028】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法によれば、上記式(2)に、エピタキシャル膜の膜厚と、シリコンウェーハの酸素濃度とを代入し、降温レートを計算で求めるだけの簡単な方法で、製造コストの増加を招くことなく、転位の伸展を抑制可能なエピタキシャルシリコンウェーハを製造することができる。