特許第6131957号(P6131957)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6131957SiO2−TiO2系ガラスの製造方法および該ガラスからなるフォトマスク基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131957
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】SiO2−TiO2系ガラスの製造方法および該ガラスからなるフォトマスク基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 8/04 20060101AFI20170515BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20170515BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20170515BHJP
   G03F 1/60 20120101ALI20170515BHJP
【FI】
   C03B8/04 E
   C03B8/04 A
   C03B20/00 F
   H01L21/30 502P
   G03F1/60
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-536794(P2014-536794)
(86)(22)【出願日】2013年9月12日
(86)【国際出願番号】JP2013074643
(87)【国際公開番号】WO2014045990
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2016年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-204377(P2012-204377)
(32)【優先日】2012年9月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100084412
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 冬紀
(74)【代理人】
【識別番号】100078189
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆男
(72)【発明者】
【氏名】吉成 俊雄
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−072053(JP,A)
【文献】 特開2011−151386(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/105513(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 8/04
C03B 20/00
C03C 3/06
G03F 1/60
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接法によりターゲット上に所望のTiO2 濃度を有するSiO2 −TiO2 系ガラスを製造する方法であって、
ケイ素化合物およびチタン化合物を酸水素火炎中に供給して火炎加水分解することにより、前記ターゲット上にSiO2 −TiO2 系ガラスインゴットを成長させるインゴット成長工程を含み、
前記インゴット成長工程は、
前記SiO2 −TiO2 系ガラスにおけるTiO2 濃度が前記所望のTiO2 濃度よりも小さい値となるように前記ケイ素化合物と前記チタン化合物とを供給し、前記SiO2 −TiO2 系ガラスにおける前記TiO2 濃度が前記所望のTiO2 濃度に達するまで、前記ケイ素化合物の供給量に対する前記チタン化合物の供給量の比率を、前記SiO2 −TiO2 系ガラスインゴットの成長に伴って増加させる第1の工程と、
前記第1の工程後、前記比率を所定の範囲内に保持しながら前記SiO2 −TiO2 系ガラスインゴットを成長させる第2の工程と、
を有するSiO2 −TiO2 系ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程において、前記比率を増加させる際の1回当たりの前記比率の増加量を、前記比率を増加させたときの前記SiO2 −TiO2 系ガラスのTiO2 濃度の増加量が1質量%以下となるように調整する請求項1に記載のSiO2 −TiO2 系ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程において、前記SiO2 −TiO2 系ガラスインゴットの長さ1cmあたりのTiO2 濃度の増加量が1質量%以下になるように前記比率を増加させる請求項1または2に記載のSiO2 −TiO2 系ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記ケイ素化合物および前記チタン化合物の供給開始時における前記比率を、前記SiO2 −TiO2 系ガラスのTiO2 濃度が4質量%以下となるように調整する請求項1乃至3のいずれか一項に記載のSiO2 −TiO2 系ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記第1の工程において、前記SiO2 −TiO2 系ガラスインゴットの成長面の温度が1600℃以上に維持されるように、前記比率を増加させる請求項1乃至4のいずれか一項に記載のSiO2 −TiO2 系ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記第1の工程において、前記比率を段階的に増加させる請求項1乃至のいずれか一項に記載のSiO2 −TiO2 系ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記ケイ素化合物は、四塩化ケイ素である請求項1乃至のいずれか一項に記載のSiO2 −TiO2 系ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記チタン化合物は、四塩化チタン、テトライソプロポキシチタンまたはテトラキスジメチルアミノチタンである請求項1乃至のいずれか一項に記載のSiO2 −TiO2 系ガラスの製造方法。
【請求項9】
前記インゴット成長工程の前に前記ターゲットを予め加熱する予熱工程を含む請求項1乃至のいずれか一項に記載のSiO2 −TiO2 系ガラスの製造方法。
【請求項10】
前記インゴット成長工程において、前記酸水素火炎中にケイ素化合物のみを供給してSiO2 ガラス成長面を形成し、その後、前記チタン化合物の供給を開始する請求項1乃至のいずれか一項に記載のSiO2 −TiO2 系ガラスの製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載のSiO2 −TiO2 系ガラスの製造方法によりSiO2 −TiO2 系ガラスを製造するガラス製造工程と、
このガラス製造工程で製造した前記SiO2 −TiO2 系ガラスから、前記第2の工程で成長させたガラス部分を切り出すガラス切出工程と、
このガラス切出工程で切り出した前記ガラス部分を母材とし、加熱加圧成形して板状部材を形成する板状部材形成工程と、
を有するフォトマスク基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光リソグラフィ技術をはじめとする光利用技術において、ミラーやフォトマスクなどの光学部材に適用されるSiO2 −TiO2 系ガラスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィ工程においては、フォトマスクを露光光で照射し、該フォトマスクからの露光光で感光基板を露光する露光処理が行われる。このようなフォトマスクはフォトマスク基板上に所定のマスクパターンを形成することで得られる。
【0003】
近年では、感光基板の大型化が進んでおり、これに伴ってフォトマスクのサイズも大型化が進み、例えば第8世代以降の液晶パネル用露光装置には、一辺が1.2mを超えるような大型のフォトマスクが使用される。このような大型(大面積)のフォトマスクに用いられるフォトマスク基板は、直接法等の気相法で合成された円柱状のSiO2 ガラスインゴットを原材料とし、これをプレス成形して平行平板状の板状部材とすることにより製造することができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特開2002−53330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フォトマスクは露光光の一部のエネルギーを吸収し、吸収されたエネルギーは熱に変換される。その結果、フォトマスクは熱膨張により変形するが、熱膨張係数が一定であれば変形量の絶対値はフォトマスクの大きさに比例するので、大型のフォトマスクほど露光光の吸収による熱膨張の影響が顕著に現れることになる。
【0006】
このようなフォトマスクの熱膨張による変形はパターニング精度に影響を及ぼすため、フォトマスク基板の材料として熱膨張係数の小さいガラスを用いることが検討されており、具体的には低熱膨張ガラスとして知られているSiO2 −TiO2 系ガラスの適用が検討されている。
【0007】
本発明は、大型のフォトマスク基板の製造に適用可能なSiO2 −TiO2 系ガラスの製造方法および該ガラスからなるフォトマスク基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によると、SiO2 −TiO2系ガラスの製造方法は、直接法によりターゲット上に所望のTiO2 濃度を有するSiO2 −TiO2 系ガラスを製造する方法であって、ケイ素化合物およびチタン化合物を酸水素火炎中に供給して火炎加水分解することにより、ターゲット上にSiO2 −TiO2 系ガラスインゴットを成長させるインゴット成長工程を含み、インゴット成長工程は、SiO2 −TiO2 系ガラスにおけるTiO2 濃度が所望のTiO2 濃度よりも小さい値となるようにケイ素化合物とチタン化合物とを供給し、SiO2 −TiO2 系ガラスにおけるTiO2 濃度が所望のTiO2 濃度に達するまで、ケイ素化合物の供給量に対するチタン化合物の供給量の比率を、SiO2 −TiO2 系ガラスインゴットの成長に伴って増加させる第1の工程と、第1の工程の後、比率を所定の範囲内に保持しながらSiO2 −TiO2 系ガラスインゴットを成長させる第2の工程と、を有する。
本発明の第2の態様によると、第1の態様のSiO2 −TiO2系ガラスの製造方法において、第1の工程における、比率を増加させる際の1回当たりの比率の増加量を、比率を増加させたときのSiO2 −TiO2 系ガラスのTiO2 濃度の増加量が1質量%以下となるように調整することが好ましい。
本発明の第3の態様によると、第1または2の態様のSiO2 −TiO2系ガラスの製造方法において、第1の工程における、SiO2 −TiO2 系ガラスインゴットの長さ1cmあたりのTiO2 濃度の増加量が1質量%以下になるように比率を増加させることが好ましい。
本発明の第4の態様によると、第1乃至3のいずれか一つの態様のSiO2 −TiO2系ガラスの製造方法において、ケイ素化合物およびチタン化合物の供給開始時における比率を、SiO2 −TiO2 系ガラスのTiO2 濃度が4質量%以下となるように調整することが好ましい。
本発明の第5の態様によると、第1乃至4のいずれか一つの態様のSiO2 −TiO2系ガラスの製造方法において、第1の工程における、SiO2 −TiO2 系ガラスインゴットの成長面の温度が1600℃以上に維持されるように、比率を増加させることが好ましい。
本発明の第6の態様によると、第1乃至5のいずれか一つの態様のSiO2 −TiO2系ガラスの製造方法において、第1の工程における比率を段階的に増加させることが好ましい。
本発明の第7の態様によると、第1乃至6のいずれか一つの態様のSiO2 −TiO2系ガラスの製造方法において、ケイ素化合物は、四塩化ケイ素であることが好ましい。
本発明の第8の態様によると、第1乃至7のいずれか一つの態様のSiO2 −TiO2系ガラスの製造方法において、チタン化合物は、四塩化チタン、テトライソプロポキシチタンまたはテトラキスジメチルアミノチタンであることが好ましい。
本発明の第9の態様によると、第1乃至8のいずれか一つの態様のSiO2 −TiO2系ガラスの製造方法において、インゴット成長工程の前にターゲットを予め加熱する予熱工程を含むことが好ましい。
本発明の第10の態様によると、第1乃至9のいずれか一つの態様のSiO2 −TiO2系ガラスの製造方法は、インゴット成長工程において、酸水素火炎中にケイ素化合物のみを供給してSiO2ガラス成長面を形成し、その後、チタン化合物の供給を開始することが好ましい。
本発明の第11の態様によると、フォトマスク基板の製造方法は、第1乃至10のいずれか一つの態様のSiO2 −TiO2系ガラスの製造方法によりSiO2 −TiO2系ガラスを製造するガラス製造工程と、このガラス製造工程で製造したSiO2 −TiO2系ガラスから、第2の工程で成長させたガラス部分を切り出すガラス切出工程と、このガラス切出工程で切り出したガラス部分を母材とし、加熱加圧成形して板状部材を形成する板状部材形成工程と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様によれば、大型のSiO2 −TiO2 系ガラスを直接法で製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態1に係るガラス製造装置の構成図である。
図2】本発明の実施の形態1に係るフォトマスク基板の製造方法に用いられるガラス成形装置の構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1に係るガラス製造装置の構成図である。
【0012】
この実施の形態1に係るガラス製造装置100は、図1に示すように、炉枠101と、耐火物からなる炉壁102と、炉枠101および炉壁102が配設される炉床103と、バーナー104と、支持部材105と、ターゲット部材106とから構成されている。
【0013】
炉壁102は炉枠101の内部に配置されている。炉枠101および炉壁102の上部には、バーナー104を挿通するための挿通口101aおよび102aがそれぞれ設けられている。また、炉枠101および炉壁102の側部には、ガラスインゴット110の成長面110aを観察するための観察口101bおよび102bがそれぞれ設けられ、さらに、観察口101bには透明ガラス窓108が備えられている。
【0014】
炉枠101の外部には、観察口101bおよび102bを通してガラスインゴット110の成長面110aの温度を計測できるように放射温度計109が配置されている。
炉壁102の側部には排気口102cが設けられており、ガラス生成反応の副生成物として発生する塩素ガスや、成長面110aに堆積しなかったガラス微粒子などが排気口102cから排出される。排気口102cから排出された塩素ガスやガラス微粒子などは、排気管107に導かれ、スクラバー(図示せず)を通して外部へ放出される。
【0015】
炉壁102の内部には、その上面にガラスインゴット110を成長させるターゲット部材106と、ターゲット部材106の下面を支持する支持部材105とが配置されている。支持部材105は円盤状部105aと棒状部105bとからなり、棒状部105bの一端に接続された駆動装置(図示せず)により、回転、揺動、上下移動が任意に行えるように構成されている。また、ターゲット部材106は支持部材105の円盤状部105aと略同一の直径を有する円盤形状をなしており、バーナー104と対向する位置に配置されている。
【0016】
この実施の形態1におけるSiO2 −TiO2 系ガラスの製造は、以下の手順で行われる。
【0017】
まず、ターゲット回転工程で、上記駆動装置により、支持部材105を介してターゲット部材106を所定の速度で回転させる。
【0018】
次に、予熱工程に移行し、バーナー104に所定流量の酸素ガスおよび水素ガスを導入し、酸水素火炎を形成した後、バーナー104とターゲット部材106の間の距離を一定に保ったまま、この酸水素火炎によりターゲット部材106を加熱する。そして、予熱工程中はターゲット部材106の温度を放射温度計109により監視し、予め設定された温度に到達したら、インゴット成長工程に移行する。
【0019】
通常、インゴット成長工程では、バーナーへのガラス原料ガスや燃焼ガスの供給量等によって成長面の温度やガラスの生成速度等が変化するため、一定組成のガラスを一定速度で安定して堆積させるためには、これらの製造パラメータ全体のバランスを微妙に調整して最適値を見出すことが必要となる。このためSiO2 ガラスにTiO2 をドープしてSiO2 −TiO2 系ガラスを製造しようとする場合、従来のSiO2 ガラスの製造条件を基本とし、バーナーに供給するSiO2 の前駆体(ケイ素化合物)の一部をTiO2 の前駆体(チタン化合物)に置き換え、その他の条件は従前のままで製造することが当業者にとって最も容易である。
【0020】
しかしながら、本発明者らが見出したところによれば、従来のSiO2 ガラスの製造条件を維持したままSiO2 の前駆体の一部をTiO2 の前駆体に置き換えただけでは、インゴットの成長開始後間もなく成長面に局所的な凸部を生じ、この凸部が選択的に成長することによって凹凸の程度が経時的に増大するという現象が認められた。成長面の凹凸が激しくなると、それ以上インゴットを定常的に成長させることができなくなるため、このような製造条件で大型のインゴットを製造することは不可能である。
【0021】
そこで、本発明者らは上記の問題を解決するため種々の検討を行い、インゴット成長工程において、以下のような製造条件を用いることによって当該問題を解決するに至った。
【0022】
この実施の形態1のインゴット成長工程では、まず、所定の時間だけ、酸水素火炎中にSiO2 の前駆体のみを供給してSiO2 ガラス成長面を形成する。すなわち、バーナー104にSiO2 の前駆体を所定の流量で供給し、酸水素火炎中で加水分解してガラス微粒子を生成させる。こうして生成したガラス微粒子は、ターゲット部材106上に堆積すると同時に、火炎により溶融してガラス化し、石英ガラスが形成される。次いで、TiO2 の前駆体の供給を開始する。すなわち、バーナー104にSiO2 の前駆体およびTiO2 の前駆体をそれぞれ所定の流量で同時に供給し、酸水素火炎中で加水分解してガラス微粒子を生成させる。こうして生成したガラス微粒子は、ターゲット部材106上に堆積すると同時に、火炎により溶融してガラス化し、SiO2 −TiO2 系ガラスが形成される。
【0023】
なお、石英ガラスおよびSiO2 −TiO2 系ガラスの形成に際しては、ガラス微粒子の堆積速度と同等の速度でターゲット部材106を引き下げることにより、ガラスインゴット110の成長面110aとバーナー104との距離を一定に保ちながら、所望の長さに達するまでガラスインゴット110を成長させる。
【0024】
このとき、SiO2 の前駆体およびTiO2 の前駆体の供給開始時においては、SiO2 の前駆体の供給量に対するTiO2 の前駆体の供給量の比率を目的とする値よりも小さく調整する。例えば、SiO2 −TiO2 系ガラスのTiO2 濃度が4質量%(4wt%)以下となるように、SiO2 の前駆体の供給量に対するTiO2 の前駆体の供給量の比率を調整する。
【0025】
また、その後は、ガラスインゴット110の成長面110aの温度が1600℃〜1800℃の範囲内に維持されるように、SiO2 の前駆体の供給量に対するTiO2 の前駆体の供給量の比率をガラスインゴット110の成長に伴って段階的に引き上げることによって徐々に増加させる(第1の工程)。これは、この成長面110aの温度が1600℃未満であると、成長面110aの粘性が低下して流動性が失われ、成長面110aに局所的な凸部を生じる恐れがあり、逆に、この成長面110aの温度が1800℃を超えると、ガラスインゴット110の揮発が顕著になり、その堆積効率が低下するため、効率よくガラスインゴット110を成長させることができないからである。
【0026】
具体的には、SiO2 の前駆体の供給量に対するTiO2 の前駆体の供給量の比率を段階的に引き上げて徐々に増加させる際の1回当たりの増加量を、この比率を増加させたときのSiO2 −TiO2 系ガラスのTiO2 濃度の増加量が1質量%以下となるように調整する。また、ガラスインゴット110の長さ1cmあたりのTiO2 濃度の増加量が1質量%以下になるように調整する。
【0027】
そして、SiO2 の前駆体の供給量に対するTiO2 の前駆体の供給量の比率が目的とする値に達したら、それ以降は、この比率を一定に保持したままガラスインゴット110を定常的に成長させる(第2の工程)。
【0028】
なお、SiO2 の前駆体としては、四塩化ケイ素(SiCl4 )、四フッ化ケイ素(SiF4 )、モノシラン(SiH4 )、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)などのケイ素化合物を含むガスを用いることができる。また、TiO2 の前駆体としては、四塩化チタン(TiCl4 )、テトライソプロポキシチタン(Ti(O−i−C3 7 4 )、テトラキスジメチルアミノチタン(TDMAT)などのチタン化合物を含むガスを用いることができる。
【0029】
このようにして、ターゲット部材106にガラスインゴット110が成長し、所定の長さに達したところで、SiO2 −TiO2 系ガラスの製造が終了し、円柱状のSiO2 −TiO2 系ガラスが得られる。
【0030】
このように、この実施の形態1では、インゴット成長工程において、SiO2 の前駆体およびTiO2 の前駆体の供給開始時に、SiO2 の前駆体の供給量に対するTiO2 の前駆体の供給量の比率を、SiO2 −TiO2 系ガラスのTiO2 濃度が4質量%以下となるように調整するとともに、その後は、ガラスインゴット110の成長面110aの温度が1600℃〜1800℃の範囲内に維持されるように、SiO2 の前駆体の供給量に対するTiO2 の前駆体の供給量の比率をガラスインゴット110の成長に伴って徐々に増加させるようにした。その結果、ガラスインゴット110の成長面110aに局所的な凸部を生じることなく、所望の長さのSiO2 −TiO2 系ガラスを製造することが可能となる。
【0031】
この理由としては、次のように推測することができる。すなわち、SiO2 −TiO2 系ガラスの生成反応において、SiO2 の前駆体およびTiO2 の前駆体の加水分解反応はいずれも発熱反応であるが、モルあたりの両者の発熱量を比較すると、TiO2 の前駆体の発熱量の方がSiO2 の前駆体の発熱量よりも小さい。そのため、SiO2 の前駆体の発熱量に対するTiO2 の前駆体の供給量の比率が大きくなるほど、ガラスインゴット110の成長面110aの温度を低下させるように働く。一方、ガラスインゴット110が成長するほど、熱を蓄える体積が増えるので、適切な熱量が供給されている限り、ガラスインゴット110の体積が大きいほど成長面110aの温度の低下を抑制する能力が高くなる。しかしながら、TiO2 の前駆体が大量に供給された場合、ガラスインゴット110の成長面110aの温度が急激に低下し、ガラスインゴット110の体積増大の効果によっても成長面110aの温度の低下を十分に抑制できない。その結果、ガラスインゴット110の成長面110aの温度が所定の下限温度(1600℃)を下回るため、ガラスインゴット110の粘性が増大し、成長面110aに局所的な凸部を生じる。これに対して、この実施の形態1のように、TiO2 の前駆体の供給量を徐々に増加させると、ガラスインゴット110の成長面110aの温度が急激に低下せず、かつ、ガラスインゴット110の体積増大による蓄熱効果を得つつガラスインゴット110を成長させることができる。その結果、ガラスインゴット110の成長面110aの温度を所定の下限温度(1600℃)以上に維持することができるので、ガラスインゴット110の成長面110aに局所的な凸部を生じることなく、所望の長さのSiO2 −TiO2 系ガラスを製造することが可能となると考えられる。
【0032】
また、この実施の形態1では、上述したとおり、予熱工程でターゲット部材106を加熱するため、ガラスインゴット110の合成前にターゲット部材106に十分な熱量が蓄えられる。そのため、インゴット成長工程においてガラスインゴット110の成長面110aの温度低下をさらに抑制することが可能となる。したがって、ガラスインゴット110の成長面110aの形状が長時間安定して維持され、より長いガラスインゴット110の製造が可能になり、直径が同一であれば、より大質量のガラスインゴット110の製造が可能になる。
【0033】
また、この実施の形態1では、上述したとおり、インゴット成長工程の最初の段階で、酸水素火炎中にSiO2 の前駆体のみを供給してSiO2 ガラス成長面を形成する。その結果、ターゲット部材106とその上に形成されたSiO2 ガラス層の双方がターゲットとして機能するので、ターゲット部材106のみを用いる場合と比較して、ターゲットの熱容量が大きくなり、より長時間にわたってガラスインゴット110の成長面110aの温度を維持することが可能になる。
【0034】
さらに、一般に、SiO2 ガラス上に低熱膨張ガラスを合成すると、SiO2 ガラスと低熱膨張ガラスとの熱膨張係数の違いにより、合成後の冷却時に内部応力が生じて低熱膨張ガラスが割れてしまう可能性がある。しかし、この実施の形態1に係るSiO2 −TiO2 系ガラスでは、上述したとおり、ドープ種(チタン化合物)の混合量が徐々に増加し、それに対応して熱膨張係数も徐々に変化するため、このSiO2 −TiO2 系ガラスが割れてしまう可能性は極めて低くなる。
【0035】
次に、本発明の実施の形態1により製造されるSiO2 −TiO2 系ガラスを母材(原材料)とし、フォトマスク基板を製造する方法について説明する。
【0036】
図2は、フォトマスク基板の製造方法に用いられるガラス成形装置の構成例である。図2に示すガラス成形装置200は、金属製の真空チャンバ201と、その内壁に全面に渡って設けられた断熱材202と、断熱材202の側壁部に配設されたカーボンヒーター203と、真空チャンバ201の中央部に配置されたカーボンからなるガラス成形型204と、ガラス成形型204の上面に当接して配置されたシリンダロッド209とを含んで構成される。
【0037】
ガラス成形型204は、台板205と底板206とからなる底部212と、側板207と、天板208とで構成されており、底板206、側板207、天板208で横断面が矩形の中空部210を形成している。天板208はシリンダロッド209で押圧することにより、天板208を下方、つまり底板206側へ移動させることができる。
【0038】
図2の成形装置200を用いてフォトマスク基板を製造する際には、次の手順に従う。
【0039】
まず、ガラス製造工程で、本発明の実施の形態1により、SiO2 −TiO2 系ガラスを製造する。
【0040】
その後、ガラス切出工程に移行し、このSiO2 −TiO2 系ガラスから、第2の工程で成長させたガラス部分(TiO2 濃度のグラデーションが付いていない部分)を切り出す。すなわち、第1の工程で成長させたガラス部分は、TiO2 濃度のグラデーションが付いており、フォトマスク基板の材料として適さないため、SiO2 −TiO2 系ガラスから取り除く。さらに、必要に応じて、第2の工程で成長させたガラス部分の上下面および側外周面を適宜除去加工することにより、このガラス部分を円柱形状とする。
【0041】
最後に、板状部材形成工程に移行し、第2の工程で成長させて円柱形状としたガラス部分を母材とし、以下に述べる手順により、このガラス部分を加熱加圧成形して板状部材を形成する。
【0042】
すなわち、まず、このガラス部分211を成形装置200の中空部210に収容し、真空チャンバ201内を真空排気した後、不活性ガスを充填する。充填する不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガス、ヘリウムガス等を用いることができる。
【0043】
続いて、カーボンヒーター203により、ガラス成形型204およびガラス部分211を所定温度まで加熱する。ここで、加熱温度はガラス部分211を所望形状に変形させられる温度とすればよく、具体的には、ガラス部分211の結晶化温度以上、軟化点以下の温度とすることができる。また、ガラス部分211の温度が所定温度に達した後、内部の温度をより均一にするために所定温度のまま一定時間保持してもよい。
【0044】
ガラス部分211が所定温度に加熱されたら、シリンダロッド209で天板208を押圧して底板206側に下降させ、ガラス部分211が所望の厚さになるまで加圧成形し、冷却した後、板状に成形されたガラス部材を成形型204から取り出す。
【0045】
このようにして製造されたSiO2 −TiO2 系ガラスからなる部材は、所定のサイズにするためのスライス加工や研削加工、端面をR形状にするための面取り加工、表面を平滑にする研磨加工等を適宜施すことにより、フォトマスク基板として使用可能な板状部材となる。
【0046】
本発明の実施の形態1の製造方法によれば、大型のSiO2 −TiO2 系ガラスを母材として板状部材に成形するので、従来にない大面積の板状部材を製造することができ、これを用いて大面積かつ低熱膨張率のフォトマスクを製造することができる。より具体的には、例えば一辺が1.2mを超えるような第8世代以降の液晶パネル用フォトマスクであって、露光光照射による熱膨張が抑制されたフォトマスクを製造することが可能になる。
[発明のその他の実施の形態]
なお、上述した実施の形態1では、インゴット成長工程において、SiO2 の前駆体の供給量に対するTiO2 の前駆体の供給量の比率をガラスインゴット110の成長に伴って段階的に引き上げることによって徐々に増加させる場合について説明した。しかし、この比率を徐々に増加させる際には、この比率を必ずしも段階的に引き上げる必要はない。例えば、この比率を時間に対して1次関数的または2次関数的に増加させるようにしても構わない。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例について説明する。実施例では、実施の形態1の製造方法によりSiO2 −TiO2 系ガラスを製造した。また、SiO2 の前駆体としてSiCl4 を、TiO2 の前駆体としてTiCl4 を用いた。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
表1の「実施例1」の欄に示す条件で実験を行った。
【0048】
ターゲットとして直径350mm、厚さ120mmのSiO2 ガラスを用意した。バーナーから酸素ガスを315slm、水素ガスを775slmの割合で噴出させて酸水素火炎を形成し、該酸水素火炎でターゲットを4時間加熱した。4時間後、SiCl4 を30g/minの割合で供給しながらターゲット上に直径300mmのSiO2 ガラス成長面を113時間かけて作製したところ、成長面の温度は1750℃であった。
【0049】
その後、SiCl4 の供給量を15g/minに変更し、TiCl4 を0.1g/minの割合で、1cmあたりのTiCl4 変動量がTiO2 ドープ濃度で1質量%以下になるように混合させたところ、成長面に局所的な凸部を生じることなく継続的にSiO2 −TiO2 系ガラスを成長させることができ、直径350mm、長さ500mmのインゴットを作製できたところで、SiO2 −TiO2 系ガラスの製造を終了した。
【0050】
この実施例1では、表1から明らかなように、TiCl4 の供給開始時において、TiO2 濃度は0.8質量%(つまり、4質量%以下)となった。また、各工程間のTiO2 濃度の変化量は0.7〜0.8質量%(つまり、1質量%以下)となった。さらに、ガラスインゴットの長さ1cmあたりのTiO2 濃度の増加量は0.12〜0.8質量%(つまり、1質量%以下)となった。そのため、成長面を維持したままガラスインゴットを製造できた。
<比較例1>
表1の「比較例1」の欄に示す条件で実験を行った。
【0051】
ターゲットとして直径350mm、厚さ120mmのSiO2 ガラスを用意した。バーナーから酸素ガスを347slm、水素ガスを930slmの割合で噴出させて酸水素火炎を形成し、該酸水素火炎でターゲットを4時間加熱した。4時間後、SiCl4 を30g/minの割合で供給しながらターゲット上に直径300mmのSiO2 ガラス成長面を40時間かけて作製したところ、成長面の温度は1745℃であった。
【0052】
その後、ガラス中のTiO2 濃度が4.6質量%になるように1.2g/minのTiCl4 と30g/minのSiCl4 を混合させた。TiCl4 混合時には成長面の温度低下により成長面に局所的な凸部を生じることが考えられたため、酸水素ガスをTiCl4 混合時に増量させて熱供給をする施策を実施した。しかし、30時間後に成長面に局所的な凸部を生じ、それ以上継続的にSiO2 −TiO2 系ガラスを成長させることができなかった。
【0053】
この比較例1では、表1から明らかなように、TiCl4 の供給開始時において、TiO2 濃度が4.6質量%(つまり、4質量%より大きい値)となった。そのため、成長面を安定して維持することができなかった。
<比較例2>
表1の「比較例2」の欄に示す条件で実験を行った。
【0054】
ターゲットとして直径350mm、厚さ120mmのSiO2 ガラスを用意した。バーナーから酸素ガスを377slm、水素ガスを930slmの割合で噴出させて酸水素火炎を形成し、該酸水素火炎でターゲットを4時間加熱した。4時間後、SiCl4 を30g/minの割合で供給しながらターゲット上に直径300mmのSiO2 ガラス成長面を1時間かけて作製したところ、成長面の温度は1700℃であった。
【0055】
その後、SiCl4 の量を減らし、ガラス中のTiO2 濃度が4.6質量%になるように10g/minのSiCl4 と0.4g/minのTiCl4 を混合させた。SiCl4 の供給量に対するTiCl4 の供給量の割合を維持しながら、1時間毎にSiCl4 の供給量を10g/minずつ、TiCl4 の供給量を0.4g/minずつ増加させ、30g/minのSiCl4 と1.2g/minのTiCl4 の供給量としたところ、20時間後に成長面に局所的な凸部を生じ、それ以上継続的にSiO2 −TiO2 系ガラスを成長させることができなかった。このとき、酸水素ガスの流量は、上記条件で一定に保っていた。
【0056】
この比較例2では、表1から明らかなように、TiCl4 の供給開始時において、TiO2 濃度が4.6質量%(つまり、4質量%より大きい値)となった。そのため、成長面を安定して維持することができなかった。
<比較例3>
表1の「比較例3」の欄に示す条件で実験を行った。
【0057】
ターゲットとして直径350mm、厚さ120mmのSiO2 ガラスを用意した。バーナーから酸素ガスを335slm、水素ガスを830slmの割合で噴出させて酸水素火炎を形成し、該酸水素火炎でターゲットを4時間加熱した。4時間後、SiCl4 を40g/minの割合で供給しながらターゲット上に直径300mmのSiO2 ガラス成長面を191時間かけて作製したところ、成長面の温度は1550℃であった。
【0058】
その後、SiCl4 の供給量を20g/minにした。酸水素ガスを合計で30slmほど増量し、TiCl4 を0.2g/minで混合させた。71時間後、熱量不足とならないように酸水素ガスを105slm増量した。42時間後、TiCl4 の供給量を0.4g/minにすると同時に、酸水素ガスをさらに34slm増量した。しかし、30時間後に成長面に局所的な凸部を生じ、それ以上継続的にSiO2 −TiO2 系ガラスを成長させることができなかった。
【0059】
この比較例3では、表1から明らかなように、各工程間におけるガラス中のTiO2 濃度の変化量が、最後の工程で、1.1質量%(つまり、1質量%より大きい値)となった。そのため、成長面を安定して維持することができなかった。
<比較例4>
表1の「比較例4」の欄に示す条件で実験を行った。
【0060】
ターゲットとして直径350mm、厚さ120mmのSiO2 ガラスを用意した。バーナーから酸素ガスを306slm、水素ガスを760slmの割合で噴出させて酸水素火炎を形成し、該酸水素火炎でターゲットを4時間加熱した。4時間後、SiCl4 を30g/minの割合で供給しながらターゲット上に直径300mmのSiO2 ガラス成長面を24時間かけて作製したところ、成長面の温度は1750℃であった。
【0061】
その後、SiCl4 の供給量を15g/minにして、0.25g/minのTiCl4 を供給した。その後、SiCl4 の供給量は15g/minに保ったまま、24時間後にTiCl4 を0.4g/minの割合で供給し、さらに73時間後にTiCl4 を0.5g/minの割合で供給した。しかし、それから30時間後に成長面に局所的な凸部を生じ、それ以上継続的にSiO2 −TiO2 系ガラスを成長させることができなかった。
【0062】
この比較例4では、表1から明らかなように、各工程間のTiO2 濃度の変化量が、3番目の工程で(TiCl4 の流量を0.4g/minとしたときに)、1.2質量%(つまり、1質量%より大きい値)となった。そのため、成長面を安定して維持することができなかった。
【0063】
【表1】
【0064】
次の優先権基礎出願の開示内容は引用文としてここに組み込まれる。
日本国特許出願2012年第204377号(2012年9月18日出願)
【符号の説明】
【0065】
100……ガラス製造装置
101……炉枠
102……炉壁
103……炉床
104……バーナー
105……支持部材
106……ターゲット部材
107……排気管
108……透明ガラス窓
109……放射温度計
110……ガラスインゴット
110a……成長面
200……ガラス成形装置
201……真空チャンバ
202……断熱材
203……カーボンヒーター
204……ガラス成形型
205……台板
206……底板
207……側板
208……天板
209……シリンダロッド
210……中空部
211……ガラス部分
212……底部
図1
図2