(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガラス製品の表面に、炭素数が8以上の疎水性基を有する陽イオン界面活性剤又は平均分子量が500〜1000万のカチオンポリマーを含有する溶液を接触、乾燥させて、前記陽イオン界面活性剤又は前記カチオンポリマーからなる第1の膜を形成する工程と、
該第1の膜の表面に、炭素数が8以上の疎水性基を有する陰イオン界面活性剤又は炭素数が8以上の疎水性基を有する非イオン界面活性剤を含有する溶液を接触、乾燥させて、前記陰イオン界面活性剤又は前記非イオン界面活性剤からなる第2の膜を形成する工程と、
を有し、
前記第1の膜及び前記第2の膜を形成する際に使用する溶液が、pH8〜12の水溶液であることを特徴とする保護膜付きガラス製品の製造方法。
炭素数が8以上の疎水性基を有する陽イオン界面活性剤又は平均分子量が500〜1000万のカチオンポリマーと炭素数が8以上の疎水性基を有する陰イオン界面活性剤又は炭素数が8以上の疎水性基を有する非イオン界面活性剤とを含有する混合溶液を調製する工程と、
ガラス製品の表面に、前記混合溶液を接触、乾燥させて、前記ガラス製品の表面側から、前記陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーからなる第1の膜、前記陰イオン界面活性剤又は前記非イオン界面活性剤からなる第2の膜、となる保護膜を形成する工程と、
を有し、
前記第1の膜及び前記第2の膜を形成する際に使用する溶液が、pH8〜12の水溶液であることを特徴とする保護膜付きガラス製品の製造方法。
前記混合溶液中の、陽イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤若しくは非イオン界面活性剤との含有割合がモル比で1:0.1〜1:1又はカチオンポリマーのカチオン性基の含有量(当量)と陰イオン界面活性剤若しくは非イオン界面活性剤の含有量(モル濃度)との比が1:0.1〜1:1である請求項6記載の保護膜付きガラス製品の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ガラス製品は、その表面が汚染されやすく、外部雰囲気に晒されると、雰囲気中に含まれる埃や有機物等が付着し、直ちに汚染されてしまう。特に、フラットパネルディスプレイ(FPD)等の精密機器に使用するガラス製品は、埃や有機物等による汚染が生じないようにして、その表面を清浄な状態で取り扱うようにする必要がある。そのため、その製造はクリーンルーム等により行われている。
【0003】
ところで、例えば、FPD用のガラス基板の場合、このようなガラス基板が製造された後、ディスプレイ用の製品に加工するには、このガラス基板をディスプレイ製造工場へ輸送、保管等がなされることとなる。このとき、ガラス基板製造時においては非常に清浄な表面として製造されていても、その使用時(ディスプレイ製造時)には、何らかの汚染が生じている場合が多い。この原因の一つとしては、ガラス基板同士を接触させないように、基板間に合紙を挟んでおくことがよく行われているが、この合紙由来のTiO
2微粒子やシリコーン玉により汚染される可能性が考えられている。
【0004】
また、このような表面汚染の問題は古く、これまでも、ガラス製品の表面の汚染を防止しようとする手法が種々検討されている。例えば、ガラス製品の製造直後から保護されるように、ガラス製品の製造プロセス中に該手法を組み込んでガラス製品の表面を保護する方法が知られている。この方法は、175℃よりも高温の熱いガラス製品上で、少なくとも一つの界面活性剤により表面に疎水性コーティングを形成し、ガラス製品の切断、粗摺り、研磨を施すガラスの処理方法である(特許文献1参照)。
【0005】
さらに、陰イオン性界面活性剤からなる水溶性保護膜(特許文献2参照)、親水性部材の表面とは反対側に親水性基の一部を配向した水溶性コーティング(特許文献3参照)、水酸基、カルボキシル基等を親水性基として有する長鎖有機材料(特許文献4参照)、等の保護膜も知られている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の保護膜付きガラス製品について、以下、図面を参照しながら説明する。なお、
図1は、本発明の保護膜付きガラス製品の概略構成を示す断面図であり、本発明の保護膜付きガラス製品1は、ガラス製品2と、その表面に形成された保護膜3で構成される。
【0016】
ここで用いられるガラス製品2は、その表面にガラスが露出したガラス製品であれば特に限定されずに挙げられる。なお、特に、ガラス製品の表面が清浄に保たれることが求められる半導体製品の製造に関連して使用されるガラス製品、例えば、フラットパネルディスプレイ(FPD)用ガラス基板、光学多層膜基板等に適用されるのが好ましい。
【0017】
本発明に用いられる保護膜3は、ガラス製品2の表面に設けられた第1の膜3aと、該第1の膜3aの表面に設けられた第2の膜3bと、を有する複層構造の膜である。
【0018】
ここで、第1の膜3aは、炭素数が8以上の疎水性基を有する陽イオン界面活性剤又は平均分子量が500〜1000万のカチオンポリマーから構成される膜である。
【0019】
ここで使用する陽イオン界面活性剤としては、炭素数が8以上の疎水性基を有する陽イオン界面活性剤であれば特に限定されずに使用できる。その疎水性基の炭素数が大きくなるとガラス表面の被覆性が高くなり、防汚性が向上するため、疎水性基の炭素数が12以上であることが好ましい。このような疎水性基としては、典型的には炭素数が8〜18のアルキル基が挙げられ、特に、炭素数が16〜18のアルキル基が好ましい。この陽イオン界面活性剤としては、アミン塩型または第4級アンモニウム塩型のいずれでもよく、例えば、塩化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化デシルトリメチルアンモニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム等のトリメチルアンモニウム塩;塩化オクチルピリジニウム、塩化デシルピリジニウム、塩化ドデシルピリジニウム、塩化テトラデシルピリジニウム、塩化ヘキサデシルピリジニウム、塩化オクタデシルピリジニウム等のピリジニウム塩;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンジルトリアルキルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0020】
なお、アルキルトリメチルアンモニウム塩は、ガラス製品の表面への吸着密度を高めることができる点で好ましく、ピリジニウム塩は、ガラス製品の撥水性を向上させることができ、特に塩化ヘキサデシルピリジニウム(別名:塩化セチルピリジニウム、CPC)は大量生産され安く入手しやすい点で好ましい。
【0021】
また、ここで使用されるカチオンポリマーとしては、平均分子量が500〜1000万であって分子中にカチオン性基を有するポリマーであればよい。なお、本明細書において平均分子量は、重量平均分子量を意味する。カチオン性基は、水等の溶媒に溶解させたときにカチオンとなる基であり、例えば、アミノ基、4級アンモニウム基等が挙げられる。このとき、アミノ基はアンモニア、1級アミン、2級アミンから水素を除去した1価の官能基であり、それぞれ1級アミン、2級アミン、3級アミンを形成する。また、4級アンモニウム基は4級アンモニウムカチオンを形成する。
【0022】
ここで使用するカチオンポリマーとしては、例えばポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDACまたはPDADMAC)、ポリ(ジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロライド4級塩)、ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレートメチルクロライド4級塩)、トリメチルアンモニウムアルキルアクリルアミド重合体塩、ジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合体塩、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0023】
カチオンポリマーとしては、カチオン性基の個数が分子量1000当たり4〜25個を持つことが好ましい。
【0024】
また、第2の膜3bは、炭素数が8以上の疎水性基を有する陰イオン界面活性剤又は炭素数が8以上の疎水性基を有する非イオン界面活性剤から構成される膜である。
【0025】
ここで使用する陰イオン界面活性剤としては、炭素数が8以上の疎水性基を有する陰イオン界面活性剤であれば特に限定されずに使用できる。この陰イオン界面活性剤としては、親水性基としてカルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル、リン酸エステルの各構造を有するものが挙げられ、例えば、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩(DOSS)、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0026】
ここで炭素数が8以上の疎水性基は、直鎖状または分枝鎖状のいずれでもよいが、分枝鎖状の基が好ましく、オクチル基(C8)は2−エチルヘキシル基が用いられることが多く、このようなオクチル基を複数含むとより好ましい。このように疎水性基が分枝鎖状となると、陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーと絡みやすく、より安定した膜が形成できると考えられる。
【0027】
また、ここで使用する非イオン界面活性剤としては、炭素数が8以上の疎水性基を有する非イオン界面活性剤であれば特に限定されずに使用できる。この非イオン界面活性剤としては、エステル型、エーテル型、アルキルグリコシド等の各構造を有するものが挙げられ、例えば、エチレンオキサイドの繰り返し単位を有するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルポリエチレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0028】
ここで炭素数が8以上の疎水性基は、直鎖状または分枝鎖状のいずれでもよいが、分枝鎖状の基が好ましい。このように疎水性基が分枝鎖状となると、陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーと絡みやすく、より安定した膜が形成できると考えられる。
【0029】
以上のように、第1の膜3aと第2の膜3bとを積層した複層構造の保護膜とすることで、単層の場合と比べて膜の安定性を向上でき、汚染の防止効果も向上できる。また、ここで形成される保護膜は、基本的に界面活性剤からなり、カチオンポリマーを含む場合もあるが、いずれにしてもガラス製品の表面とは静電結合により結合されており、純水やアルカリ性洗剤を使用した洗浄で容易に除去できる。
【0030】
次に、保護膜付きガラス製品の製造方法について説明する。
【0031】
本発明における保護膜を形成する1つの方法としては、まず、ガラス製品の表面に、炭素数が8以上の疎水性基を有する陽イオン界面活性剤又は平均分子量が500〜1000万のカチオンポリマーを含有する溶液を接触、乾燥させて、陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーからなる第1の膜を形成する。
【0032】
このとき、陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーは、溶媒として純水又はエタノール等の水溶性有機溶剤の水溶液を用いて、これに溶解して溶液とする。このとき、陽イオン界面活性剤の溶液濃度は0.01mmol/L〜100mmol/Lが好ましく、ガラス製品の表面を適度に覆いながら過剰とならないようにするため0.1〜10mmol/Lがより好ましい。また、カチオンポリマーを使用する場合には、その溶液中におけるカチオン性基の濃度(当量)が0.01meq/L〜100meq/Lの範囲となるようにすることが好ましく、ガラス製品の表面を適度に覆いながら過剰とならないようにするため0.1meq/L〜10meq/Lがより好ましい。ちなみに、溶液1L中にカチオン性基を1mol有する場合に、その濃度を1eq/Lと表す。また、溶液のpHは酸性〜アルカリ性(例えば、pH4〜12程度)で使用が可能であるが、ガラス製品の表面のシラノール基の電離を促進しマイナス帯電させることで静電的な結合力をより強固にしつつ付着量を増加できる点で、溶液のpHは8〜12が好ましく、10〜11がより好ましい。
【0033】
このようにして得られた溶液を、第1の膜を形成するガラス製品の表面に接触させて塗布する。このとき、塗布方法は、ディップコート、スプレーコート、スポンジ等による塗布等の公知の膜形成方法に使用される塗布方法が挙げられる。また、この工程では、溶液中に含まれる陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーが、接触させるだけで陽イオン界面活性剤の親水性基又はカチオンポリマーのカチオン部分がガラス基板の表面側に、陽イオン界面活性剤の疎水性基又はカチオンポリマーのカチオン部分を繋ぐポリマーの主鎖部分がその反対側である雰囲気中に向かって、整列する。これは、ガラス製品の表面に存在するシラノール基(−Si−OH)が−電荷に帯電しやすいため、接触させるだけで+電荷を帯びている陽イオン界面活性剤の親水性基又はカチオンポリマーのカチオン部分がガラス製品の表面側に静電的にひきつけられるためである。
【0034】
このように陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーを整列させた状態で、加熱やエアブロー等により溶媒を除去すると、均質な第1の膜を容易に形成できる。このとき、加熱乾燥では50〜90℃に加熱することが好ましく、エアブローでは15〜30℃のエアーを吹き付ければよい。
【0035】
次に、形成された第1の膜の表面に、炭素数が8以上の疎水性基を有する陰イオン界面活性剤又は炭素数が8以上の疎水性基を有する非イオン界面活性剤を含有する溶液を接触、乾燥させて、陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤からなる第2の膜を形成する。
【0036】
このとき、陰イオン界面活性剤又は非イオン性界面活性剤は、溶媒として純水又はエタノール等の水溶性有機溶剤の水溶液を用いて、これに溶解して溶液とする。このとき、溶液濃度は0.1mmol/L〜100mmol/Lが好ましく、ガラス製品の表面を適度に覆いながら過剰とならないようにするため0.5〜10mmol/Lがより好ましい。また、溶液のpHは極端に強酸性、強アルカリ性でなければ問題なく、pHは5〜10が好ましく、6〜9がより好ましい。
【0037】
このようにして得られた溶液を、第2の膜を形成する第1の膜表面に接触させて塗布する。このとき、塗布方法は、第1の膜形成と同じ塗布方法が挙げられる。また、この工程では、溶液中に含まれる陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤が、第1の膜の表面に存在する疎水性基に対して、接触させるだけで陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤の疎水性基部分が第1の膜側に、陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤の親水性基がその反対側である雰囲気中に向かって、整列する。
【0038】
このように陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤を整列させた状態で、加熱やエアブロー等により溶媒を除去すると、均質な第2の膜を容易に形成できる。このとき、加熱乾燥では、50〜80℃に加熱することが好ましく、エアブローでは15〜30℃のエアーを吹き付けることが好ましい。
【0039】
また、本発明における他の保護膜の形成方法としては、上記の方法のように陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーの溶液と、陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤の溶液と、を別々に調製するのではなく、これらを一つの溶液として調製して、一度の塗布、乾燥操作で保護膜を形成する方法が挙げられる。
【0040】
この方法は、まず、炭素数が8以上の疎水性基を有する陽イオン界面活性剤又は平均分子量が500〜1000万のカチオンポリマー及び炭素数が8以上の疎水性基を有する陰イオン界面活性剤又は炭素数が8以上の疎水性基を有する非イオン界面活性剤を含有する溶液を調製する。このとき、使用する溶媒やpH条件は上記別々に膜形成を行う方法と同じである。
【0041】
ただし、このとき、陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーの含有量と陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤の含有量とは、溶液中で各成分が反応して凝集しないように調整する必要がある。例えば、陽イオン界面活性剤の含有量と陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤の含有量が、モル比で1:0.1〜1:1の範囲で含有させることが好ましく、1:0.3〜1:0.7の割合で含有させることが好ましい。また、カチオンポリマーの場合には、そのカチオン性基の含有量(当量)と陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤の含有量(モル濃度)との比が、1:0.1〜1:1の範囲で含有させることが好ましく、1:0.3〜1:0.7の割合で含有させることが好ましい。この時、エタノールなどの水溶性有機溶媒を数〜数十%添加すると凝集を抑制する効果があり好ましい。
【0042】
このようにして得られた1液タイプの混合溶液を、保護膜を形成するガラス製品の表面に接触させて塗布する。このとき、塗布方法は、第1の膜形成と同じ塗布方法が挙げられる。また、この工程では、溶液中に含まれる陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーが比較的多量に含まれており、これらの親水性基又はカチオン部分がガラス製品の表面側に、陽イオン界面活性剤の疎水性基又はカチオンポリマーのカチオン部分を繋ぐポリマーの主鎖部分がその反対側に、整列して第1の膜が形成される。次いで、第1の膜の表面に陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤の疎水性基部分が第1の膜側に、陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤の親水性基がその反対側である雰囲気中に向かって、整列する。
【0043】
この保護膜の形成方法によれば、一つの溶液を使用して、一度の成膜操作という簡便な操作で保護膜付きガラス製品を製造できる。
【0044】
また、第1の膜と第2の膜をそれぞれ形成する場合でも、混合溶液で一度に形成する場合でも、溶液を室温で塗布する簡便な操作で達成でき、さらに、界面活性剤を使用する場合には排水規制に抵触することもなく、環境負荷を増大させることのないガラス製品の表面保護を達成できる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例に基づいてさらに本発明を詳細に説明する。
[各種溶液の調製]
<第1の膜形成用の溶液1>
陽イオン性界面活性剤である塩化セチルピリジニウム(CPC)が1mmol/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、第1の膜形成用の溶液を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
<第1の膜形成用の溶液2>
カチオンポリマーであるポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDACまたはPDADMAC;和光純薬工業社製コロイド滴定用標準液、分子量6万〜11万)が1meq/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、第1の膜形成用の溶液を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
【0046】
<第2の膜形成用の溶液1>
陰イオン界面活性剤であるジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩(DOSS)が1mmol/Lの濃度となるように、純水に溶解して、第2の膜形成用の溶液を調製した。この溶液のpHは約7である。
<第2の膜形成用の溶液2>
陰イオン界面活性剤であるヘキサデシルスルホン酸ナトリウム塩(HDS)が1mmol/Lの濃度となるように、純水に溶解して、第2の膜形成用の溶液を調製した。この溶液のpHは約7である。
<保護膜形成用の混合溶液>
陽イオン性界面活性剤である塩化セチルピリジニウム(CPC)が1mmol/L、アンモニアが10mmol/L及びジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩(DOSS)が0.5mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、混合溶液を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
【0047】
(実施例1)
表面研磨をした、縦50mm×横50mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板を、上記第1の膜形成用の溶液1中に10秒間浸漬して引き上げた後、表面の溶液をエアブローで乾燥するディップコート法により、ガラス板の表面に第1の膜を形成した。
得られた第1の膜を有するガラス板を、上記第2の膜形成用の溶液1中に10秒間浸漬して引き上げた後、表面の溶液をエアブローで乾燥するディップコート法により、第1の膜の表面に第2の膜を形成し、保護膜付きのガラス製品とした。
【0048】
(実施例2)
表面研磨をした、縦50mm×横50mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板を、上記第1の膜形成用の溶液2中に10秒間浸漬して引き上げた後、表面の溶液をエアブローで乾燥するディップコート法により、ガラス板の表面に第1の膜を形成した。
得られた第1の膜を有するガラス板を、上記第2の膜形成用の溶液1中に10秒間浸漬して引き上げた後、表面の溶液をエアブローで乾燥するディップコート法により、第1の膜の表面に第2の膜を形成し、保護膜付きのガラス製品とした。
【0049】
(実施例3)
表面研磨をした、縦50mm×横50mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板を、上記保護膜形成用の混合溶液中に10秒間浸漬して引き上げた後、表面の溶液をエアブローで乾燥するディップコート法により、ガラス板の表面に第1の膜及び第2の膜からなる保護膜を形成し、保護膜付きのガラス製品とした。
(実施例4)
表面研磨をした、縦50mm×横50mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板を、上記第1の膜形成用の溶液2中に10秒間浸漬して引き上げた後、表面の溶液をエアブローで乾燥するディップコート法により、ガラス板の表面に第1の膜を形成した。
得られた第1の膜を有するガラス板を、上記第2の膜形成用の溶液2中に10秒間浸漬して引き上げた後、表面の溶液をエアブローで乾燥するディップコート法により、第1の膜の表面に第2の膜を形成し、保護膜付きのガラス製品とした。
【0050】
(比較例1)
表面研磨をした、縦50mm×横50mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板を、純水で洗浄した。このガラス板は、表面が研磨後の状態であり、保護膜等は設けられていない。
【0051】
(比較例2)
表面研磨をした、縦50mm×横50mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板を、第2の膜形成用の溶液1中に10秒間浸漬して引き上げた後、表面の溶液をエアブローで乾燥するディップコート法により、ガラス板の表面に陰イオン性界面活性剤の膜を形成した。
【0052】
(試験例1)
実施例及び比較例のガラス製品の表面に、製紙添加用TiO
2微粒子顔料をまぶした合紙を押し付けてTiO
2微粒子を転写させた。このガラス製品を、約25℃の空気を30秒間吹き付けるエアブローを行い、その後、25℃の純水中で100kHzでの超音波洗浄を30秒間行い、さらに、市販のアルカリ性洗剤原液(パーカーコーポレーション社製、商品名:PK−LCG211)を100倍希釈したアルカリ洗浄液中で28kHzでの超音波洗浄を30秒間行った。エアブロー後、純水洗浄後、アルカリ洗剤洗浄後、のそれぞれの処理後のガラス製品の表面を、蛍光X線法でTiO
2微粒子の残留状況をモニターし、その結果を
図2に示した。エアブロー後と比較したアルカリ洗浄後のTiO
2微粒子の除去率は、実施例1が82%、実施例2が61%、実施例3が76%、実施例4が80%、比較例1が35%、比較例2が34%であった。
【0053】
この結果から、実施例1が最も汚染の防止効果が高く、実施例4がその次に高かった。比較例1及び2ではTiO
2微粒子の残留量が多く、汚染の防止効果が低かった。比較例2の陰イオン性界面活性剤を用いた場合には、エアブローによる乾燥工程で、陰イオン性界面活性剤はガラス製品の表面と相互作用がないため水が除去されるのと同時にそのほとんどが除去されてしまい、保護膜を設けなかった比較例1と同等の結果になったものと推測される。
【0054】
(試験例2)
シリコーン油(ポリジメチルシロキサン:分子量約4200)を100μg/mLになるようにアセトンに溶解し、その溶液を合紙に含浸させ乾燥して4μg/cm
2の付着量にする。このシリコーン油含浸合紙を実施例および比較例のガラス製品と交互に挟み、全体をばねクリップで挟んで試料束とした。これを、50℃、湿度80%の雰囲気下で20時間保ち、シリコーン油をガラス製品の表面に転写させる。市販のアルカリ性洗剤原液(パーカーコーポレーション社製、商品名:PK−LCG211)を100倍希釈したアルカリ洗浄液中で28kHzでの超音波洗浄を30秒間行い、さらに同じアルカリ洗浄液でポリビニルアルコール製スポンジを用いて手スクラブで3分間、約200回こすり洗いを行った。転写直後、超音波洗浄後、手スクラブ後に接触角を測定し、その結果を
図3に示した。接触角はシリコーン油の付着量を定量的に表すものではないが、大小関係は定性的に付着量を評価できる。転写直後と比較した手スクラブ後の接触角の変化率は、実施例1が14%、実施例2が85%、実施例3が20%、実施例4が22%、比較例1が91%、比較例2が89%であった。
[接触角]
測定対象のガラス基板の表面に純水を1滴滴下し、その表面の水滴を基板側面から撮像したデータに基づいて、5点の測定結果を平均して各基板における純水との接触角を算出した。
【0055】
この結果から、実施例1が最も汚染の防止効果が高く、実施例3がその次に高かった。比較例1及び2ではシリコーン油の残留量が多く、汚染の防止効果が低かった。比較例2の陰イオン性界面活性剤を用いた場合には、エアブローによる乾燥工程で、陰イオン性界面活性剤はガラス製品の表面と相互作用がないことから、水が除去されるのと同時にそのほとんどが除去されてしまったと考えられる。そのため、保護膜を設けなかった比較例1と同等の結果になったものと推測される。