特許第6132013号(P6132013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6132013保護膜付きガラス製品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132013
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】保護膜付きガラス製品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/32 20060101AFI20170515BHJP
   C09D 201/02 20060101ALI20170515BHJP
   C09D 157/12 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C03C17/32 A
   C09D201/02
   C09D157/12
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-510073(P2015-510073)
(86)(22)【出願日】2014年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2014059411
(87)【国際公開番号】WO2014163034
(87)【国際公開日】20141009
【審査請求日】2016年7月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-76616(P2013-76616)
(32)【優先日】2013年4月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 敦義
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−067542(JP,A)
【文献】 特開2000−319038(JP,A)
【文献】 特表2011−514301(JP,A)
【文献】 特開昭55−047249(JP,A)
【文献】 特開昭54−032521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00−23/00
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス製品の表面に、平均分子量が500〜1000万のカチオンポリマーからなる保護膜を有し、
前記カチオンポリマーが、分子量1000あたり、4〜25個のカチオン性基を有することを特徴とする保護膜付きガラス製品。
【請求項2】
前記カチオン性基が、アミノ基又は4級アンモニウム基である請求項1記載の保護膜付きガラス製品。
【請求項3】
ガラス製品の表面に、炭素数が8以上の疎水性基を有するピリジニウム塩を含む陽イオン界面活性剤又は平均分子量が500〜1000万のカチオンポリマーを含有する溶液を接触、乾燥させて、前記陽イオン界面活性剤又は前記カチオンポリマーからなる保護膜を形成する工程を有し、
前記保護膜を形成する際に使用する溶液が、pH8〜12の水溶液であることを特徴とする保護膜付きガラス製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保護膜付きガラス製品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス製品は、その表面が汚染されやすく、外部雰囲気に晒されると、雰囲気中に含まれる埃や有機物等が付着し、直ちに汚染されてしまう。特に、フラットパネルディスプレイ(FPD)等の精密機器に使用するガラス製品は、埃や有機物等による汚染が生じないようにして、その表面を清浄な状態で取り扱うようにする必要がある。そのため、その製造はクリーンルーム等により行われている。
【0003】
ところで、例えば、FPD用のガラス基板の場合、このようなガラス基板が製造された後、ディスプレイ用の製品に加工するには、このガラス基板をディスプレイ製造工場へ輸送、保管等がなされることとなる。このとき、ガラス基板製造時においては非常に清浄な表面として製造されていても、その使用時(ディスプレイ製造時)には、何らかの汚染が生じている場合が多い。この原因の一つとしては、ガラス基板同士を接触させないように、基板間に合紙を挟んでおくことがよく行われているが、この合紙由来のTiO微粒子やシリコーン玉により汚染される可能性が考えられている。
【0004】
また、このような表面汚染の問題は古く、これまでも、ガラス製品の表面の汚染を防止しようとする手法が種々検討されている。例えば、ガラス製品の製造直後から保護されるように、ガラス製品の製造プロセス中に該手法を組み込んでガラス製品の表面を保護する方法が知られている。この方法は、175℃よりも高温の熱いガラス製品上で、少なくとも一つの界面活性剤により表面に疎水性コーティングを形成し、ガラス製品の切断、粗摺り、研磨を施すガラスの処理方法である(特許文献1参照)。
【0005】
さらに、陰イオン性界面活性剤からなる水溶性保護膜(特許文献2参照)、親水性部材の表面とは反対側に親水基の一部を配向した水溶性コーティング(特許文献3参照)、水酸基、カルボキシル基等を親水性基として有する長鎖有機材料(特許文献4参照)、等の保護膜も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−319038号公報
【特許文献2】特開2000−211947号公報
【特許文献3】特開2002−46225号公報
【特許文献4】特開2012−116748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では保護膜の形成がガラス製品の製造プロセスに組み込まれており、ガラス製品の製造後に研磨工程が入るような場合には適用できなお。また、特許文献2〜4に記載の保護膜は、ガラス製品の表面のシラノール基との相互作用が弱いことから、その形成には工夫が必要で、保護膜が比較的不安定なものと考えられる。
【0008】
そこで、本発明は、保護膜の形成、除去が簡便な操作で容易にでき、保護膜が比較的安定で、かつ、汚染の防止効果を有効に付与できる新規な保護膜の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の保護膜付きガラス製品は、ガラス製品の表面に、炭素数が8以上の疎水性基を有するピリジニウム塩を含む陽イオン界面活性剤又は平均分子量が500〜1000万のカチオンポリマーからなる保護膜を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の保護膜付きガラス製品の製造方法は、ガラス製品の表面に、炭素数が8以上の疎水性基を有するピリジニウム塩を含む陽イオン界面活性剤又は平均分子量が500〜1000万のカチオンポリマーを含有する溶液を接触、乾燥させて、前記陽イオン界面活性剤又は前記カチオンポリマーからなる保護膜を形成する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の保護膜付きガラス製品及びその製造方法によれば、ガラス製品の表面に保護膜が設けられており、ガラス製品の製造から使用までの間に異物が付着する等の汚染を防止できる。また、この保護膜は、ガラス製品の使用前に、水洗浄又はアルカリ洗浄などの簡便な操作で保護膜を容易に除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の保護膜付きガラス製品の概略構成を示す断面図である。
図2】実施例及び比較例のTiO微粒子の残留量を示した図である。
図3】実施例及び比較例の純水との接触角を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の保護膜付きガラス製品について、以下、図面を参照しながら説明する。なお、図1は、本発明の保護膜付きガラス製品の概略構成を示す断面図であり、本発明の保護膜付きガラス製品1は、ガラス製品2と、その表面に形成された保護膜3で構成される。
【0014】
ここで用いられるガラス製品2は、その表面にガラスが露出したガラス製品であれば特に限定されずに挙げられる。なお、特に、ガラス製品の表面が清浄に保たれることが求められる半導体製品の製造に関連して使用されるガラス製品、例えば、フラットパネルディスプレイ(FPD)用ガラス基板、光学多層膜基板等に適用されるのが好ましい。
【0015】
本発明に用いられる保護膜3は、ガラス製品2の表面に設けられた単層構造の膜である。ここで、保護膜3は、炭素数が8以上の疎水性基を有するピリジニウム塩を含む陽イオン界面活性剤又は平均分子量が500〜1000万のカチオンポリマーから構成される膜である。
【0016】
ここで使用する陽イオン界面活性剤としては、炭素数が8以上の疎水性基を有するピリジニウム塩であれば特に限定されずに使用できる。その疎水性基の炭素数が大きくなるとガラス表面の被覆性が高くなり、防汚性が向上するため、疎水性基の炭素数が12以上であることが好ましい。このような疎水性基としては、典型的には炭素数が8〜18のアルキル基が挙げられ、特に、炭素数が16〜18のアルキル基が好ましい。例えば、塩化オクチルピリジニウム、塩化デシルピリジニウム、塩化ドデシルピリジニウム、塩化テトラデシルピリジニウム、塩化ヘキサデシルピリジニウム、塩化オクタデシルピリジニウム等のピリジニウム塩等が挙げられる。このピリジニウム塩は、ガラス製品の撥水性を向上させることができ、特に塩化ヘキサデシルピリジニウム(別名:塩化セチルピリジニウム)は大量生産され安く入手しやすい点で好ましい。
【0017】
また、ここで使用されるカチオンポリマーとしては、平均分子量が500〜1000万であって分子中にカチオン性基を有するポリマーであればよい。なお、本明細書において平均分子量は、重量平均分子量を意味する。カチオン性基は、水等の溶媒に溶解させたときにカチオンとなる基であり、例えば、アミノ基、4級アンモニウム基等が挙げられる。このとき、アミノ基はアンモニア、1級アミン、2級アミンから水素を除去した1価の官能基であり、それぞれ1級アミン、2級アミン、3級アミンを形成する。また、4級アンモニウム基は4級アンモニウムカチオンを形成する。
【0018】
ここで使用するカチオンポリマーとしては、例えば、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDACまたはPDADMAC)、ポリ(ジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロライド4級塩)、ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレートメチルクロライド4級塩)、トリメチルアンモニウムアルキルアクリルアミド重合体塩、ジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合体塩、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0019】
カチオンポリマーとしては、カチオン性基の個数が分子量1000当たり4〜25個を持つことが好ましい。
【0020】
上記の保護膜3は単層構造の保護膜であり、その製造操作が簡便でありながら、汚染の防止効果を向上できる。また、ここで形成される保護膜は界面活性剤からなり、ガラス製品の表面とは静電結合により結合されており、純水や陰イオン性洗剤を使用した洗浄で容易に除去できる。
【0021】
次に、保護膜付きガラス製品の製造方法について説明する。
本発明における保護膜を形成する方法としては、ガラス製品の表面に、炭素数が8以上の疎水性基を有するピリジニウム塩を含む陽イオン界面活性剤又は平均分子量が500〜1000万のカチオンポリマーを含有する溶液を接触、乾燥させて、陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーからなる保護膜を形成すればよい。
【0022】
このとき、陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーは、溶媒として純水又はエタノール等の水溶性有機溶剤の水溶液を用いて、これに溶解して溶液とする。このとき、陽イオン界面活性剤の溶液濃度は0.01mmol/L〜100mmol/Lが好ましく、ガラス製品表面を適度に覆いながら過剰とならないようにするため0.1〜10mmol/Lがより好ましい。また、カチオンポリマーを使用する場合には、その溶液中におけるカチオン性基の濃度(当量)が0.01meq/L〜100meq/Lの範囲となるようにすることが好ましく、ガラス製品の表面を適度に覆いながら過剰とならないようにするため0.1meq/L〜10meq/Lがより好ましい。ちなみに、溶液1L中にカチオン性基を1mol有する場合に、その濃度を1当量とし、1eq/Lと表す。また、溶液のpHは酸性〜アルカリ性(例えば、pH4〜12程度)で使用が可能であるが、ガラス製品表面のシラノール基の電離を促進しマイナス帯電させることで静電的な結合力をより強固にしつつ付着量を増加できる点で、溶液のpHは8〜12が好ましく、10〜11がより好ましい。
【0023】
このようにして得られた溶液を、保護膜を形成するガラス製品の表面に接触させて塗布する。このとき、塗布方法は、ディップコート、スプレーコート、スポンジ等による塗布等の公知の膜形成方法に使用される塗布方法が挙げられる。また、この工程では、溶液中に含まれる陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーが、接触させるだけで陽イオン界面活性剤の親水性基又はカチオンポリマーのカチオン部分がガラス基板の表面側に、陽イオン界面活性剤の疎水性基又はカチオンポリマーのカチオン部分を繋ぐポリマーの主鎖部分がその反対側である雰囲気中に向かって、整列する。これは、ガラス製品の表面に存在するシラノール基(−Si−OH)が−電荷に帯電しやすいため、接触させるだけで+電荷を帯びている陽イオン界面活性剤の親水性基又はカチオンポリマーのカチオン部分がガラス製品の表面側に静電的にひきつけられるためである。
【0024】
このように陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーを整列させた状態で、加熱やエアブロー等により溶媒を除去すると、均質な第1の膜を容易に形成できる。このとき、加熱乾燥では、50〜80℃に加熱することが好ましく、エアブローでは15〜30℃のエアーを吹き付けることが好ましい。
【0025】
また、この保護膜を形成する場合、溶液を室温で塗布する簡便な操作で達成でき、さらに、排水規制に抵触することもなく、環境負荷を増大させることのないガラス製品の表面保護を達成できる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例に基づいてさらに本発明を詳細に説明する。
[各種溶液の調製]
<保護膜形成用の溶液1>
陽イオン性界面活性剤である塩化セチルピリジニウム(CPC)が1mmol/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、保護膜形成用の溶液を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
<保護膜形成用の溶液2>
カチオンポリマーであるポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDACまたはPDADMAC;和光純薬工業社製コロイド滴定用標準液、分子量6万〜11万)が1meq/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、保護膜形成用の溶液を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
<保護膜形成用の溶液3>
カチオンポリマーであるポリエチレンイミン(PEI;日本触媒社製エポミンSP−006(分子量約600))が1meq/Lの濃度になるように純水に溶解して、保護膜形成用の溶液3を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
<保護膜形成用の溶液4>
カチオンポリマーであるポリエチレンイミン(PEI;日本触媒社製エポミンSP−200(分子量約10000))が1meq/Lの濃度になるように純水に溶解して、保護膜形成用の溶液を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
【0027】
(実施例1)
表面研磨をした、縦50mm×横50mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板を、上記保護膜形成用の溶液1中に10秒間浸漬して引き上げた後、表面の溶液をエアブローで乾燥するディップコート法により、ガラス板の表面に保護膜を形成し、保護膜付きのガラス製品とした。
【0028】
(実施例2)
表面研磨をした、縦50mm×横50mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板を、上記保護膜形成用の溶液2中に10秒間浸漬して引き上げた後、表面の溶液をエアブローで乾燥するディップコート法により、ガラス板の表面に保護膜を形成し、保護膜付きのガラス製品とした。
【0029】
(実施例3)
表面研磨をした、縦50mm×横50mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板を、上記保護膜形成用の溶液3中に10秒間浸漬して引き上げた後、表面の溶液をエアブローで乾燥するディップコート法により、ガラス板の表面に保護膜を形成し、保護膜付きのガラス製品とした。
【0030】
(実施例4)
表面研磨をした、縦50mm×横50mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板を、上記保護膜形成用の溶液4中に10秒間浸漬して引き上げた後、表面の溶液をエアブローで乾燥するディップコート法により、ガラス板の表面に保護膜を形成し、保護膜付きのガラス製品とした。
【0031】
(比較例1)
表面研磨をした、縦50mm×横50mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板を、純水で洗浄した。このガラス板は、表面が研磨後の状態であり、保護膜等は設けられていない。
【0032】
(比較例2)
表面研磨をした、縦50mm×横50mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板を、陰イオン性界面活性剤であるジオクチルスルホサクシネートナトリウムが1mmol/Lの濃度となるように、純水に溶解した陰イオン性界面活性剤溶液中に10秒間浸漬して引き上げた後、表面の溶液をエアブローで乾燥するディップコート法により、ガラス板の表面に陰イオン性界面活性剤の膜を形成した。
【0033】
(試験例1)
実施例及び比較例のガラス製品の表面に、製紙添加用TiO微粒子顔料をまぶした合紙に押し付けてTiO微粒子を転写させた。このガラス製品を、約25℃の空気を30秒間吹き付けるエアブローを行い、その後、25℃の純水中で100kHzでの超音波洗浄を30秒間行い、さらに、市販のアルカリ性洗剤原液(パーカーコーポレーション社製、商品名:PK−LCG211)を100倍希釈したアルカリ洗浄液中で28kHzでの超音波洗浄を30秒間行った。エアブロー後、純水洗浄後、アルカリ洗剤洗浄後、のそれぞれの処理後のガラス製品の表面を、蛍光X線法でTiO微粒子の残留状況をモニターし、その結果を図2に示した。エアブロー後と比較したアルカリ洗浄後のTiO微粒子の除去率は、実施例1が59%、実施例2が48%、実施例3が55%、実施例4が50%、比較例1が35%、比較例2が34%であった。
【0034】
この結果から、実施例1が最も汚染の防止効果が高く、実施例3がその次に高かった。比較例1及び2ではTiO微粒子の残留量が多く、汚染の防止効果が低かった。比較例2の陰イオン性界面活性剤を用いた場合には、エアブローによる乾燥工程で、陰イオン性界面活性剤はガラス製品の表面と相互作用がないため水が除去されるのと同時にそのほとんどが除去されてしまい、保護膜を設けなかった比較例1と同等の結果になったものと推測される。
【0035】
(試験例2)
シリコーン油(ポリジメチルシロキサン:分子量約4200)を100μg/mlになるようにアセトンに溶解し、その溶液を合紙に含浸させ乾燥して4μg/cmの付着量に調製する。このシリコーン油含浸合紙を実施例および比較例のガラス製品と交互に挟み、全体をばねクリップで挟んで試料束とした。これを、50℃、湿度80%の雰囲気下で20時間保ち、シリコーン油をガラス製品の表面に転写させる。市販のアルカリ性洗剤原液(パーカーコーポレーション社製、商品名:PK−LCG211)を100倍希釈したアルカリ洗浄液中で28kHzでの超音波洗浄を30秒間行い、さらに同じアルカリ洗浄液でポリビニルアルコール製スポンジを用いて手スクラブで3分間、約200回こすり洗いを行った。転写直後、超音波洗浄後、手スクラブ後に接触角を測定し、その結果を図3に示した。接触角はシリコーン油の付着量を定量的に表すものではないが、大小関係は定性的に付着量を評価できる。転写直後と比較した手スクラブ後の接触角の変化率は、実施例1が39%、実施例2が68%、実施例3が35%、実施例4が31%、比較例1が91%、比較例2が89%であった。
[接触角]
測定対象のガラス基板の表面に純水を1滴滴下し、その表面の水滴を基板側面から撮像したデータに基づいて、5点の測定結果を平均して各基板における純水との接触角を算出した。
【0036】
この結果から、実施例4が最も汚染の防止効果が高く、実施例3がその次に高かった。比較例1及び2ではシリコーン油の残留量が多く、汚染の防止効果が低かった。比較例2の陰イオン性界面活性剤を用いた場合には、エアブローによる乾燥工程で、陰イオン性界面活性剤はガラス製品の表面と相互作用がないことから、水が除去されるのと同時にそのほとんどが除去されてしまったと考えられる。そのため、保護膜を設けなかった比較例1と同等の結果になったものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の保護膜付きガラス製品及びその製造方法は、広くガラス製品に適用でき、ガラス製品の表面の汚染を有効に防止でき、特に、フラットパネルディスプレイ(FPD)等の液晶ディスプレイの製造等に使用されるガラス基板に好適である。
図1
図2
図3