(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
石炭ガス化炉で発生する石炭ガス化ガスを精製して燃料ガスとして適用し、石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated Coal Gasification Combined Cycle)の燃料とすることが知られている。石炭ガス化複合発電では、石炭ガス化ガスを燃料してガスタービンを駆動して電力を得ると共に、ガスタービンの排気熱を回収して蒸気を発生させ、発生した蒸気により蒸気タービンを駆動して電力を得ている。
【0003】
石炭ガス化炉で発生する石炭ガス化ガスには硫黄化合物(硫化物)、ハロゲン化物、微量成分等の不純物が含まれており、後続機器に対して影響を与えたり、そのまま排出されると環境上有害となったりすることが懸念されるので、ガス精製設備により石炭ガス化ガスの不純物を除去してから燃料ガスとして用いている。
【0004】
ガス精製設備では、石炭ガス化ガスを流通させる過程で、不純物を除去する除去剤に様々な反応現象が生じている。除去剤の反応現象を解明することは、除去剤の反応評価や耐久性評価等を行う上で重要である。また、反応現象に基づいて関連する機器への影響を把握する上で除去剤の反応現象を解明することは重要である。
【0005】
除去剤の反応現象を解明する一つの手法として、積分反応器におけるガス組成の変化を、ガス分析装置を用いたガス分析によって測定することが考えられる。ガス分析では、除去剤の充填層に模擬ガスを流通させ、入口ガスの組成と出口ガスの組成を比較分析することで、除去剤での反応現象を推定することができる。しかし、模擬ガスの状態(組成)は除去剤の充填層を流通する過程で反応に伴い変化するため、均一な組成の模擬ガスを流通させたことにはならない。このため、実際の石炭ガス化ガスのガス組成と、当該ガス組成により除去剤にどのような反応現象が生じているかを正確に対応付けた検証を行うことができない。
【0006】
そこで、ガス組成を変化させずに除去剤の反応現象を解明することができる反応検証装置がある(例えば、特許文献1参照)。このような反応検証装置によれば、模擬ガスが除去剤を流通する前後において、そのガス組成を変化させないことができるので、除去剤での反応現象は、特定のガス組成の模擬ガスにより生じたものであることが保証される。
【0007】
しかしながら、ガス組成が変化しないようにするためには、除去剤に対して適切な流量のガスが流通するように調整する必要がある。この流量の調整を、ガス供給源の流量調整やガスが流通する管路の幅を調整するなどの手段で実施すると、非常に手間がかかる。
【0008】
また、除去剤の反応現象を正確に解明するためには、除去剤自体の温度が維持される必要がある。しかし、除去剤に模擬ガスを流通させると、模擬ガスからの伝熱により除去剤の温度が変動してしまい、所望の条件での反応現象を正確に得られない虞がある。
【0009】
このような問題は、石炭ガス化ガス(模擬ガス)や除去剤に限定されず、反応現象が生じうる任意の反応ガス及び試料についても同様に存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたもので、試料に対する反応ガスの流量調整が容易であり、かつ試料の温度変化を抑制することで、検証条件を模擬した状態で反応ガスを試料に流通させて反応現象の検証をより正確に行うことができる反応検証装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、反応ガスが流通する流路を有する流路部材と、前記流路部材の流路内に対向配置された上流壁部及び下流壁部の間に充填された充填層と、試料を保持し、前記充填層上に載置される試料保持部とを備え、前記上流壁部及び前記下流壁部には、前記反応ガスが流通する開口部が設けられ、前記充填層は、複数の
セラミクスの粒子が積層されたものであり、該充填層の高さを可変とすることで、前記上流壁部の開口部を流通する前記反応ガスの前記試料保持部側に流入する流量を調節可能としたことを特徴とする反応検証装置にある。
【0013】
かかる第1の態様では、反応ガスの量の調整は、充填層の高さを調整することにより行うことができる。これにより、試料に対する反応ガスの流量調整を容易に行うことができる。さらに、充填層は試料の保温材としても機能するため、試料の温度変化を抑えることができる。
【0014】
このように、反応検証装置は、反応ガスの量を調整し、試料の温度も調整することが可能である。すなわち、試料を流通する前と流通した後の反応ガスの組成が変化しない状態に試料を保持し、反応ガスを検証条件に類似させて流通させることができる。これにより、ガス組成が変化しない所望状態の反応ガスを流通させて試料の実際の反応現象を検証することができる。
【0015】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する反応検証装置において、前記流路部材の流路の内面には、当該流路部材に流通する前記反応ガスを攪拌する突起が形成されていることを特徴とする反応検証装置にある。
【0016】
かかる第2の態様では、流路部材内の反応ガスの温度分布を均一にすることができる。
【0017】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載する反応検証装置において、前記上流壁部は、前記流路部材の流路に流通する前記反応ガスを前記試料保持部側に導くようテーパ状に形成されていることを特徴とする反応検証装置にある。
【0018】
かかる第3の態様では、試料保持部に反応ガスを円滑に導くことができる。これにより、安定した流量の反応ガスを試料保持部に流入させ、試料に反応させることができる。
【0019】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の何れか一つの態様に記載する反応検証装置において、前記充填層の温度を検出する温度検出手段を備えることを特徴とする反応検証装置にある。
【0020】
かかる第4の態様では、試料の温度を検出し、検証条件が維持されているかを確認することができる。
【0021】
本発明の第5の態様は、第1〜第4の何れか一つの態様に記載する反応検証装置において、前記流路部材には、前記試料保持部が露出する開口である露出部が設けられ、前記流路部材の外周には金属管が配されると共に、前記金属管の外周に前記試料を所定温度に維持する加熱手段が配され、前記金属管の前記試料保持部の前記露出部に対応する部位には、透過窓が形成され、前記透過窓及び前記露出部から前記試料に向けてX線を照射し、前記試料に反射したX線を分析可能なX線回折分析装置を備えることを特徴とする反応検証装置にある。
【0022】
かかる第5の態様では、X線を試料に照射し、反射したX線を検出することができる。これにより、試料の成分がその場観察で測定され、試料の形態変化を解析することができる。
【0023】
本発明の第6の態様は、第1〜第5の何れか一つの態様に記載する反応検証装置において、前記反応ガスは、石炭ガス化炉で生成された石炭ガス化ガスもしくは前記石炭ガス化ガスを模擬した模擬ガスであることを特徴とする反応検証装置にある。
【0024】
かかる第6の態様では、反応ガスとして石炭ガス化ガスそのもの、もしくは石炭ガス化ガスを模擬した模擬ガスを用いて、石炭ガス化ガスが流通する試料の状態を検証条件と同等の状態でその場で検証することができる。
【0025】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載する反応検証装置において、前記試料は、石炭ガス化炉で生成された石炭ガス化ガスの不純物を除去するための除去剤であることを特徴とする反応検証装置にある。
【0026】
かかる第7の態様では、石炭ガス化ガスが流通して不純物を除去する除去剤の状態を、検証条件と同等の石炭ガス化ガス(模擬ガス)を流通させた状況でその場で検証することができる。
【0027】
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載する反応検証装置において、前記除去剤は、石炭ガス化ガスの硫化物を除去する脱硫剤であることを特徴とする反応検証装置にある。
【0028】
かかる第8の態様では、石炭ガス化ガス(模擬ガス)を流通させ炭素の析出の状況をその場で検証することができる。つまり、脱硫剤の組成の形態変化により炭素の析出のきっかけをその場で捉えたり、脱硫剤の外観の変化により炭素の析出の結果をその場で捉えることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の反応検証装置は、試料に対する反応ガスの流量調整が容易であり、かつ試料の温度変化を抑制することで、検証条件を模擬した状態で反応ガスを試料に流通させる。これにより、反応現象の検証をより正確に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
〈実施形態1〉
本発明の反応検証装置は、試料に反応ガスを流通させ、試料での反応を検証する装置である。ここでいう反応ガスとは、例えば、石炭ガス化ガスや石炭ガス化ガスを模擬した模擬ガスである。試料としては、任意の物を用いることができるが、例えば、酸化鉄系の脱硫剤などが挙げられる。
【0032】
石炭ガス化発電設備などでは、石炭ガス化ガスを生成し、脱硫剤などの不純物除去剤を有する乾式ガス精製設備にて硫黄分など不純物を除去して燃料ガスを精製する。乾式ガス精製設備の脱硫剤の炭素析出の現象を解明するために、反応検証装置において、脱硫剤に反応ガスを高温・高圧下で流通させ、高温・高圧下で脱硫剤を反応させながら成分の形態変化等をその場で観察する。
【0033】
例えば、脱硫剤については、反応ガスとの反応により炭素が析出するか否かを観察する。これにより、炭素析出が生じにくい反応ガスの組成を検証したり、特定組成の反応ガスで炭素析出までの脱硫剤の使用時間を検証する等を行うことができる。
【0034】
なお、本発明は、このような脱硫剤の炭素析出の解明に用いるだけでなく、乾式ガス精製設備のハロゲン化物吸収剤やアンモニア分解触媒、水銀吸収剤に対して、ペレットやハニカム剤等の状態で反応ガスを高温・高圧下で流通させながら、その場で成分の形態変化等の観察に適用することができる。また、乾式ガス精製設備の不純物除去剤の観察だけでなく、反応ガスが流通する配管の成分の形態変化(例えば鉄系配管の炭素析出)をその場で観察することに適用することができる。
【0035】
実際の乾式ガス精製設備の反応器に収められる脱硫剤は、それと同じ形状で試料とされ、反応検証装置に配置される。そして、反応検証装置では、試料を流通する前と流通した後の反応ガスの組成が変化しない状態に試料が保持される(微分反応評価)。また、CCDカメラで試料の様子をその場で観察し、炭素析出などの状態を把握して物理的影響等を検証し、実際の乾式ガス精製設備への脱硫剤の配置状況の検討等に反映させる。
【0036】
本発明の反応検証装置は、このような微分反応評価に必要となる、反応ガスの組成が変化しない状態を実現し、さらに、試料の温度変化を抑制する構成を採用したことに特徴を有する。以下、図面に基づいて、まず、解析対象の乾式ガス精製設備について説明し、次いで、同設備で用いられる石炭ガス化ガスを模擬した反応ガスを用いた反応検証装置について説明する。
【0037】
図1は、本実施形態に係る反応検証装置で解析する脱硫剤を備えた乾式ガス精製設備の一例の概略系統を示してある。
【0038】
図に示すように、乾式ガス精製設備1は、石炭ガス化炉2で石炭と酸化剤(酸素、空気)の反応により生成された石炭ガス化ガスgに含まれるハロゲン化物を約400℃を超える高温で除去するハロゲン化物除去装置3と、ハロゲン化物除去装置3によりハロゲン化物が除去された石炭ガス化ガスgが導入され、石炭ガス化ガスgから高温で硫化物を除去する脱硫装置4を備えている。
【0039】
脱硫装置4の下流には水銀除去装置5が備えられ、水銀除去装置5では石炭ガス化ガスgに含まれる水銀が所定の運転温度で除去される。水銀除去装置5の下流にはバグフィルター6が備えられ、水銀除去装置5で水銀が除去された石炭ガス化ガスgに含まれる固体析出物、微粒子、粉体を含む不純物がバグフィルター6で濾過される。石炭ガス化ガスgはバグフィルター6で不純物が濾過されて燃料ガスfとされ、燃料ガスfは、熱交換器7で所定の温度に昇温されてタービン設備8(ガスタービン燃焼器)に送られる。なお、燃料ガスfは、熱交換器7において石炭ガス化ガスg(脱硫装置4から水銀除去装置5に向けて流通する石炭ガス化ガスg)の熱により昇温されている。
【0040】
ハロゲン化物除去装置3では、ナトリウム系のハロゲン化物吸収剤がペレット状に成形されて使用され、塩化水素(HCl)及びフッ化水素(HF)が同時に除去される。脱硫装置4では、酸化亜鉛系の脱硫剤である亜鉛フェライト脱硫剤がハニカム形状化されて使用され、亜鉛フェライト脱硫剤に石炭ガス化ガスgを接触させることで、硫化硫黄(H2S)や硫化カルボニル(COS)等が極低濃度まで除去される。亜鉛フェライト脱硫剤自体がCOS変換触媒の機能を持つため、硫化カルボニル(COS)をはじめとする有機硫黄化合物にも性能を発揮することができる。水銀除去装置5では、銅を主体として水銀を吸収する銅系吸収剤が使用され、銅系吸収剤に石炭ガス化ガスgを接触させることで水銀を吸収させて除去する。
【0041】
本実施形態に係る反応検証装置は、上述した亜鉛フェライト脱硫剤(試料)に石炭ガス化ガスgを模擬した模擬ガス(反応ガス)を流通させ、試料の結晶構造(組成)の解析をその場で行うものである。この時、反応ガスは、実際に乾式ガス精製設備1で運転される条件と同じ条件の高温・高圧下で試料に流通させ、試料の組成の解析をその場で行い、炭素析出の状況、即ち、炭素析出の反応開始のきっかけになる特定の物質(還元された金属や鉄系の炭化物など)の生成や、固体炭素の成長過程を直接観察して検証するものである。
【0042】
図2から
図7に基づいて本実施形態に係る反応検証装置を説明する。
【0043】
図2は、本実施形態に係る反応検証装置の概略構成を説明するためのブロック図である。
図2に示すように、反応検証装置11は、模擬燃料ガス供給系12及び不純物ガス供給系13からなる反応ガス供給手段14を備えている。反応ガス供給手段14は、石炭ガス化ガスgを模擬したガスに対して想定される不純物を含ませた状態の模擬ガス(反応ガス)を調整する。反応ガス供給手段14からの反応ガスは微分反応評価試料保持器15に送られる。反応ガスは、脱硫装置4(
図1参照)での運転条件(検証条件)と略同じ条件の高温・高圧状態で微分反応評価試料保持器15に送られる。
【0044】
反応ガス供給手段14では、模擬ガス(反応ガス)として、例えば、CO、H
2O(水蒸気)、CO
2、H
2、N
2、CH
4、COS、HCl、HF、NH
3、水銀蒸気等が調整される。これにより、石炭ガス化ガスgを模擬したガスに対して想定される不純物を含ませた状態の反応ガスが得られる。
【0045】
微分反応評価試料保持器15(以下、単に保持器15とも称する。)には脱硫装置4(
図1参照)の亜鉛フェライト脱硫剤が試料として保持され、反応ガスが試料に接触して流通するようになっている。試料は、実際の乾式ガス精製設備の反応器に収められる形状と同じハニカム形状(ハニカム形状の一部)の亜鉛フェライト脱硫剤とされ、試料が保持された状態で、試料と接触する前と接触した後の反応ガスの組成が変化しない条件となるように反応ガスが保持器15に流通される。
【0046】
具体的には後述するが、試料を流通する前の反応ガスの各々の成分、例えば、CO濃度と試料を流通した後のCO濃度が同じ状態、即ち、試料を通過する過程で反応ガスが試料と反応することで組成が変化してしまわない状態に試料が保持され、反応ガスの流量が設定される。この状態になっていることは保持器15の前後で反応ガスの一部を抜き出して、それぞれガス分析装置で反応ガスの各々の成分を定量分析することで確認できる。
【0047】
保持器15に保持された試料は、反応ガスを流通させている状態で観察手段としてのX線回折分析装置50により組成の形態変化がその場で解析される。また、保持器15に保持された試料は、反応ガスが流通している過程での実態像が観察カメラとしてのCCDカメラ17で撮影されて観察される。保持器15に保持された試料を流通した後の反応ガスは、排ガス処理系18で処理される。
【0048】
図3〜
図6に基づいて保持器15を具体的に説明する。
図3は保持器の概略構成を示す断面図であり、
図4は
図3のA−A′線断面図であり、
図5は保持器の要部の概略構成を示す斜視図であり、
図6は保持器の要部の概略構成を示す断面図であり、
図7は反応検証装置の断面図である。
【0049】
保持器15は、反応ガスが流通する流路21を形成する流路部材である石英管20を備えている。石英管20は、一端側が反応ガス供給手段14に接続され、流路21に反応ガスが供給される。石英管20の他端側は排ガス処理系18に接続され、反応ガスが流路21から排ガス処理系18に排出される。
【0050】
図3及び
図4に示すように、石英管20には、流路21の内面から突出した突起部22が多数形成されている。突起部22は、石英管20の直径方向に長尺となるよう形成されており、突起部22に衝突した反応ガスの流れを変えるように作用する。このような突起部22が流路21の内面に多数設けられていることにより、流路21の上流側(反応ガス供給手段14側)から下流側(排ガス処理系18側)に向う反応ガスが攪拌される。
【0051】
後述するように、石英管20の外側にはヒータ41が設けられている。このヒータ41による熱により石英管20内の反応ガスが加熱されるとともに、突起部22による攪拌によって、反応ガスの温度分布が均一となる。
【0052】
図3、
図5及び
図6に示すように、石英管20の突起部22が設けられた領域よりも下流側には、上流壁部24と下流壁部25とが設けられている。上流壁部24及び下流壁部25は、板状の部材であり、流路21を遮るように配置されている。上流壁部24及び下流壁部25は、その面同士が対向するように配置されている。
【0053】
上流壁部24と下流壁部25との間には、充填層26が形成されている。この上流壁部24と下流壁部25との間に充填層26が充填される区画を充填部29とする。
【0054】
充填層26は、複数の粒子が積層されたものである。特に材料は限定されないがジルコニアなど耐熱性のあるセラミクスを用いることが好ましい。充填層26は粒子からなり、その量を調整することで、高さが可変となっている。ここでいう充填層26の高さとは、略水平に配設された石英管20において、流路21の内面からの高さH(
図6参照)をいう。
【0055】
充填層26上には、試料保持部の一例である試料皿27が載置されている。試料皿27は、上部が開口した箱状に形成され、その内部に試料90を保持する。特に形状や材料に限定はないが、熱伝導性が高いものを用いることが好ましい。詳細は後述するが、充填層26は、反応ガスが流通することにより加熱され、その熱を保持する。この充填層26に保持された熱が試料皿27を介して試料90の温度を維持することができる。
【0056】
上流壁部24及び下流壁部25には、その厚さ方向に貫通する開口部28が複数設けられている。開口部28は、流路21を流通する反応ガスの流路となる。
【0057】
このような上流壁部24及び下流壁部25が設けられた石英管20においては、反応ガス供給手段14から反応ガスが石英管20の流路21に導入される。そして、反応ガスは、流路21の突起部22により攪拌されて均一な温度分布とされた後、上流壁部24の開口部28に流入する。
【0058】
複数の開口部28のうち一部の開口部28bについては、出口が充填層26によりほぼ封止されている。すなわち、上流壁部24の開口部28は、充填層26により封止されていない開口部28aと、封止されていない開口部28bとからなる。開口部28aは流路抵抗が低く、開口部28bは流路抵抗が大きい。
【0059】
したがって、上流壁部24と下流壁部25とで仕切られた充填部29のうち、充填層26が設けられていない空間を流通部29aとすると、流路21に導入された反応ガスのほとんどは、開口部28aから流通部29aに流入する。そして、僅かな反応ガスが開口部28bから充填層26に流入する。
【0060】
流通部29aに流入した反応ガスは、試料皿27に保持された試料90に接触し、流通部29aから下流壁部25の開口部28を介して排ガス処理系18に排出される。充填層26に流入した反応ガスも同様に排ガス処理系18に排出される。
【0061】
上述したように、充填層26は、粒子の量を調整することでその高さHを可変とすることができる。この充填層26の高さHを変えることにより、充填層26により封止されない開口部28aと封止される開口部28bとの比率を変えることができる。したがって、流通部29aに流入する反応ガスは、充填層26の高さHを調整することで、その流量を容易に調整することができる。
【0062】
そして、このような充填層26による反応ガスの流量を調整することにより、試料皿27に保持された試料90の微分反応評価を行うことができる。
【0063】
微分反応評価とは、反応ガスが試料90に接触する前と接触した後で反応ガスに含まれるガス組成を一定とした状態で、試料90に生じる反応を評価することをいう。
【0064】
このようなガス組成を一定とする検証条件は、所望のガス組成の反応ガスの供給量を試料90の量に対して多量とし、試料90を極少量とすることで作り出すことができる。具体的には、反応ガスと試料90との反応時間(接触時間)を最短にすることができる反応ガスの量及び試料90の量を言う。数値としては、例えば、空塔速度が10000h
-1から60000h
-1に設定される。このような多量の反応ガスを極少量の試料90に流通させることにより、反応ガスと試料90との反応によるガス組成の変化を無視できるほど小さくすることができる。
【0065】
なお、従来の積分反応評価と、本発明の微分反応評価の対比は、別途説明する。
【0066】
従来では、上述の検証条件に適合する流量の反応ガスを試料90に供給するためには、反応ガス供給手段14での供給量を調整したり、石英管20の管路幅を調整するなど、手間が掛かるものであった。仮に石英管20を調整できたとしても、異なるガス組成で検証を行う際に、上述の検証条件を実現するのに適した形状であるとは限らない。
【0067】
しかしながら、本実施形態に係る反応検証装置では、試料90に接触する反応ガスの量を充填層26の高さHを調整することで調整可能とした。これにより、充填層26の高さHを調整するだけで、反応ガスの流量を上述の検証条件の実現に必要な量に容易に設定することができる。このように、本実施形態に係る反応検証装置では、一つの石英管20において充填層26の高さHを調整するだけで、様々なガス組成についても上述の検証条件を実現し、微分反応評価を行うことができる。
【0068】
さらに、充填層26は粒子が積層されたものであるため、反応ガスが若干量流通するようになっている。このため、充填層26は、反応ガスの熱を受けて蓄熱する。充填層26が保持する熱は、試料皿27を介して試料90に伝導される。すなわち、充填層26は試料90の保温材としても機能する。
【0069】
このような充填層26の保温機能により、試料90は、その温度が一定に保たれる傾向となり、反応ガスの温度に影響されにくくなる。すなわち、試料90の温度変化を抑えて、上述した検証条件の下、微分反応評価を行うことができる。
【0070】
なお、石英管20には、充填層26の温度を検出する温度検出手段として熱電対30が設けられている。具体的には、流路21の内部に、熱電対30を収容した円筒状の保護管31が配設されている。保護管31は、その内部に流路21内の反応ガスが進入しないように形成されている。保護管31の一端は、上流壁部24に形成された貫通孔24aに接続され、熱電対30が充填層26に接触している。
【0071】
このような熱電対30により、充填層26の温度を検出可能となっており、該温度に基づいて試料90の温度を把握することが可能となっている。
【0072】
石英管20には、試料皿27が露出する開口である露出部32が形成されている。すなわち、石英管20の一部が切り欠かれて試料皿27が露出する開口として露出部32が形成されている。後述するように、この露出部32を介して試料90を観察することが可能となっている。
【0073】
図3及び
図7に示すように、保持器15は、石英管20の外周には耐圧容器として配されたSUS製の金属管40を備えている。石英管20と金属管40の間には不活性ガス(He、Ar、N
2等)が所定の圧力(例えば、反応ガスよりも若干高い圧力)で供給され、石英管20の内部の反応ガスの状況が所定状態に保持される。
【0074】
石英管20と金属管40の間には不活性ガスが所定の圧力で供給されているので、反応ガスが流通部29aに流入し、試料90に接触して下流に送られる際に不活性ガスの圧力により反応ガスが石英管20の外部に漏れ出ることがない。また、不活性ガスは、試料90から石英管20の内部に入り込むことがない圧力に設定されている。
【0075】
また、金属管40の外周には加熱手段としてのヒータ41が設けられ、ヒータ41により試料90の温度が所定温度(亜鉛フェライト脱硫剤の運転温度)になるように反応ガス雰囲気が調整され、反応ガスの耐圧は金属管40により保たれている。また、石英管20と金属管40の間に不活性ガスを流通させることにより、石英管20に圧力がかからないようにすると共に、検証条件の圧力を保つことができる。さらに、不活性ガスは金属管やX線の透過窓等を腐蝕や熱劣化から保護するためのシールガスとしても機能するため、反応検証装置の検証条件を最適に設定し保持される。
【0076】
試料90が保持されている部位に対応して金属管40の外側にはX線回折分析装置50が備えられている。金属管40の試料90に対応する部位にはX線が透過する透過窓42(例えば、Be製)が設けられ、透過窓42の位置には回転対陰極型のX線発生手段51及び二次元X線検出手段52が備えられている(X線回折分析装置50)。
【0077】
回転対陰極型のX線発生手段51からの高出力のX線は透過窓42を通し、露出部32に現れた試料90に照射され、試料90を反射したX線は透過窓42を介して二次元X線検出手段52で検出され、二次元X線検出手段52による短時間のX線回折により試料90の成分がその場観察で測定され、試料90の形態変化が解析される。
【0078】
つまり、実際の反応ガスの流通状況を模擬した高温・高圧の反応ガスを流通させ、反応ガスが流通している過程での試料90の成分の形態変化をX線回折により解析することができる。また、石英管20と金属管40の大きさを任意に設定し、石英管20と金属管40の間に不活性ガスを流通させることで、X線回折分析装置50の機器、透過窓42が保護され、機器や構成部品を最適な状態に保つことができる。
【0079】
X線回折分析装置50は、X線源に回転対陰極型のX線発生手段51を備え、入射X線の検出器として二次元X線検出手段52を備えているので、高出力のX線と高速な回折線の検出器により試料90の成分の形態変化を短時間で解析することができる。このため、X線を反射させるための面を試料90に形成しなくても、解析を行いたい試料90そのものに対してX線回折が可能になり、亜鉛フェライト脱硫剤を運用中と同じ状態でX線回折し、亜鉛フェライト脱硫剤の成分の形態変化を直接解析することができる。他の不純物除去剤であっても、運用中と同じ状態のペレット状の試料を使用してX線回折させて成分の形態変化を解析することが可能になる。
【0080】
なお、図示は省略したが、試料90の外観状況がCCDカメラ17(
図2参照)で観察される。
【0081】
以上に説明したように、本実施形態に係る反応検証装置11は、試料を流通する前と流通した後の反応ガスの組成が変化しない状態に試料を保持する保持器15を備え、反応ガスを検証条件に類似させて流通させるようにしているので、組成が変化しない所望状態の反応ガスを流通させて試料の実際の反応現象を検証することができる。
【0082】
また、反応検証装置では、反応ガスの量の調整は、充填層26の高さHを調整することにより行うので、試料に対する反応ガスの流量調整が容易である。さらに、充填層26は試料90の保温材としても機能するため、試料90の温度変化を抑えて、上述した検証条件の下、微分反応評価を行うことができる。
【0083】
〈積分反応評価と微分反応評価との対比〉
図8を用いて、積分反応評価と対比して微分反応評価について説明する。
【0084】
図8(a)に示す積分反応評価の場合に見られるように、反応ガスが流通する前と流通した後で反応ガスの組成が変化する状態の試料90Aの場合、例えば、COがX%の組成の反応ガスが流通し、出口側ではCOがZ%の組成の反応ガスになると仮定する。この状態で、試料90Aの中のある部分(例えば、COがY%の組成の反応ガスが流通するクロスハッチ部分:X>Y>Z)の成分の変化を検証したい場合、反応ガスを流通させた後に試料90Aを取り出して当該部分の試料を分析することによって間接的な推定をするか、出口側の反応ガスの組成を分析して変化の状態を予測することになる。
【0085】
これに対し、
図8(b)に示すように、微分反応評価を行う本実施形態の反応検証装置では、試料90は、反応ガスが流通する前と流通した後で反応ガスの組成が変化しないので、例えば、COがY%の組成の反応ガスを流通させることで、COがY%の組成の反応ガスが流通する部分の試料90として、所望の検証条件において、その場で、X線回折分析装置50(
図7参照)による組成の形態変化を分析することができる。また、その場で、CCDカメラ17(
図2参照)により実態像を観察することができる。
【0086】
〈実施形態2〉
充填層26が充填される充填部29を区画する部材である上流壁部24の他の形態について説明する。
【0087】
図9は、本実施形態に係る保持器の要部の概略構成を示す断面図である。実施形態1と同一のものには同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0088】
同図に示すように、上流壁部24A及び下流壁部25Aは、必ずしも流路21全体を塞いでいる必要はなく、上流壁部24A及び下流壁部25Aの上端部から石英管20の内面の間に開口部33aおよび開口部33bが形成されていてもよい。試料皿27は充填層26の高さHを調整することにより上下させることが可能で、
図9では試料90の上部が上流壁部24Aの上端部よりも高く配置されるように調整されている。
【0089】
このような形状の上流壁部24Aによれば、反応ガスの多くは、開口部33aから下流に流出するので試料90の上部が流速の増大した反応ガスと良好な接触をするようにできる。さらに、反応ガスの一部は、上流壁部24Aの開口部28のうち、充填層26により封止されていない開口部28aからも流通部29aに流入するため、試料90の全体が反応ガスと確実な接触をさせることができる。また若干量の反応ガスが封止された開口部28bから充填層26にも流入し、充填層26の熱を試料皿27および試料90に伝える役割をする。
【0090】
このような本実施形態に係る保持器においても、充填層26の高さHを調整することで、開口部28aを介して試料皿27(流通部29a)に流入させる反応ガスの量を微調整することができる。
【0091】
〈実施形態3〉
充填層26が充填される充填部29を区画する部材である上流壁部24の他の形態について説明する。
【0092】
図10は、本実施形態に係る保持器の要部の概略構成を示す断面図である。実施形態1及び実施形態2と同一のものには同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0093】
同図に示すように、上流壁部24Bは、必ずしも板状に形成されている場合に限定されない。すなわち、上流から流入する反応ガスを試料皿27側に導くテーパ状に上流壁部24Bを形成してもよい。具体的には、上流壁部24Bの厚さが下側から試料皿27側に向けて幅が狭くなるようにテーパ状に形成した。また、試料皿27は充填層26の高さHを調整することにより上下させることが可能で、
図10では試料90の上部が上流壁部24Bの上端部よりも高くなるよう配置されるように調整されている。
【0094】
このような形状の上流壁部24Bによれば、流路21に導入された反応ガスは、その全量が上流壁部24Bのテーパ面34に沿って上流側の開口部33aに導かれるので試料90の上部が流速の増大した反応ガスと良好な接触をするようにできる。さらに反応ガスの大半は、流通部29aに流入し、下流側の開口部33bから流出する。
【0095】
充填層26の高さHを調整することで、開口部33aを介して試料皿27(流通部29a)に流入させる反応ガスの量を微調整することができる。
【0096】
このように、本実施形態の反応検証装置11によれば、反応ガスのほとんどを、テーパ面34に沿わせて開口部33から流通部29aに円滑に流入させることができるので、安定した流量の反応ガスを流通部29aに流入させ、試料90に反応させることができる。