(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
【0011】
本実施形態の研磨用組成物は、砥粒と酸化剤と水溶性重合体とを、例えば水に混合して調製される。したがって、研磨用組成物は、砥粒、酸化剤、および水溶性重合体を含有する。かような構成を有する研磨用組成物を用いて、Ge材料部分を有する研磨対象物を研磨すれば、ディッシングやエロージョンなどの段差が研磨対象物の表面に生じることを抑えることができる。
【0012】
この研磨用組成物は、Ge材料部分を有する研磨対象物を研磨する用途、さらに言えば、その研磨対象物を研磨して基板を製造する用途で使用される。研磨対象物は、ケイ素材料部分をさらに有していてもよい。Ge材料の例としては、Ge(ゲルマニウム)、SiGe(シリコンゲルマニウム)等が挙げられる。また、ケイ素材料の例としては、ポリシリコン、酸化シリコン、窒化シリコン等が挙げられる。
【0013】
(砥粒)
研磨用組成物中に含まれる砥粒は、無機粒子および有機粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、シリカ、アルミナ、セリア、チタニアなどの金属酸化物からなる粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。その中でもシリカ粒子が好ましく、特に好ましいのはコロイダルシリカである。これら砥粒は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0014】
研磨用組成物中の砥粒の含有量は0.01重量%以上であることが好ましく、0.05重量%以上であることがより好ましく、0.1重量%以上であることがさらに好ましい。砥粒の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物によるGe材料部分の研磨速度が向上する。
【0015】
研磨用組成物中の砥粒の含有量はまた、20重量%以下であることが好ましく、17重量%以下であることがより好ましく、15重量%以下であることがさらに好ましい。砥粒の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、砥粒の凝集が起こりにくくなる。
【0016】
砥粒の平均一次粒子径は5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物によるGe材料部分の研磨速度が向上する。なお、砥粒の平均一次粒子径の値は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて計算することができる。
【0017】
砥粒の平均一次粒子径はまた、150nm以下であることが好ましく、110nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することによりスクラッチのより少ない研磨面を得ることが容易になる。
【0018】
砥粒の平均二次粒子径は300nm以下であることが好ましく、270nm以下であることがより好ましく、250nm以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均二次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することによりスクラッチのより少ない研磨面を得ることが容易になる。砥粒の平均二次粒子径の値は、例えば、レーザー光散乱法により測定することができる。
【0019】
砥粒は表面修飾されていてもよい。通常のコロイダルシリカは、酸性条件下でゼータ電位の値がゼロに近いために、酸性条件下ではシリカ粒子同士が互いに電気的に反発せず凝集を起こしやすい。これに対し、酸性条件でもゼータ電位が比較的大きな正又は負の値を有するように表面修飾された砥粒は、酸性条件下においても互いに強く反発して良好に分散する結果、研磨用組成物の保存安定性を向上させることになる。このような表面修飾砥粒は、例えば、アルミニウム、チタン又はジルコニウムなどの金属あるいはそれらの酸化物を砥粒と混合して砥粒の表面にドープさせることにより得ることができる。
【0020】
あるいは、研磨用組成物中の表面修飾砥粒は、有機酸を固定化したシリカであってもよい。中でも有機酸を固定化したコロイダルシリカが好ましい。コロイダルシリカへの有機酸の固定化は、コロイダルシリカの表面に有機酸の官能基を化学的に結合させることにより行われる。コロイダルシリカと有機酸を単に共存させただけではコロイダルシリカへの有機酸の固定化は果たされない。有機酸の一種であるスルホン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。あるいは、カルボン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2−ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0021】
(酸化剤)
研磨用組成物中に含まれる酸化剤の種類は特に限定されないが、0.3V以上の標準電極電位を有していることが好ましい。0.3V以上の標準電極電位を有する酸化剤を使用した場合には、0.3V未満の標準電極電位を有する酸化剤を使用した場合に比べて、研磨用組成物によるGe材料部分およびケイ素材料部分の研磨速度が向上する点で有利である。0.3V以上の標準電極電位を有する酸化剤の具体例としては、例えば、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、有機酸化剤、オゾン水、銀(II)塩、鉄(III)塩、ならびに過マンガン酸、クロム酸、重クロム酸、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、硫酸、過硫酸、クエン酸、ジクロロイソシアヌル酸およびそれらの塩等が挙げられる。これら酸化剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0022】
これらの中でも、研磨用組成物によるGe材料部分およびケイ素材料部分の研磨速度が大きく向上することから、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過ヨウ素酸、次亜塩素酸、およびジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが好ましい。
【0023】
なお、標準電極電位とは、酸化反応に関与するすべての化学種が標準状態にあるときに下記数式1で表される。
【0025】
ここで、E0は標準電極電位、△G0は酸化反応の標準ギブスエネルギー変化、Kはその平行定数、Fはファラデー定数、Tは絶対温度、nは酸化反応に関与する電子数である。上記数式1から明らかなように、標準電極電位は温度により変動するので、本明細書中においては25℃における標準電極電位を採用している。なお、水溶液系の標準電極電位は、例えば改訂4版化学便覧(基礎編)II、pp464−468(日本化学会編)等に記載されている。
【0026】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量は0.01mol/L以上であることが好ましく、0.1mol/L以上であることがより好ましい。酸化剤の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物によるGe材料部分の研磨速度が向上する。
【0027】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量はまた、100mol/L以下であることが好ましく、50mol/L以下であることがより好ましい。酸化剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができることに加え、研磨使用後の研磨用組成物の処理、すなわち廃液処理の負荷を軽減することができる。
【0028】
(水溶性重合体)
研磨用組成物中に含まれる水溶性重合体の種類は特に限定されないが、砥粒の表面積1μm
2あたりに5000個以上の分子が吸着するような種類の水溶性重合体、例えばポリオキシアルキレン鎖を有するノニオン性化合物を好ましく使用することができる。ポリオキシアルキレン鎖を有するノニオン性化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン(以下、POEという)アルキレンジグリセリルエーテル、POEアルキルエーテル、POEソルビタン脂肪酸エステル、POEアルキルフェニルエーテル、POEグリコール脂肪酸エステル、POEヘキシタン脂肪酸エステル、POEポリプロピレンアルキルエーテル、およびポリオキシプロピレン/ポリオキシエチレンのブロック/ランダムコポリマーが挙げられる。このような水溶性重合体を使用した場合には、ポリオキシアルキレン鎖を介して、所定の量以上の水溶性重合体が砥粒の表面に吸着することにより砥粒の表面性質に変化が生じる結果、ディッシングやエロージョンが研磨対象物の表面に発生するのを抑えることができる。
【0029】
前述の水溶性重合体について、水に対する溶解性を高める為に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)などのアルカリ性物質、または塩酸、硝酸、硫酸などの酸性物質で中和した塩を使用してもよい。研磨対象物の基体が半導体集積回路用シリコン基板などの場合、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン化物等による汚染を防止するために、特に硝酸や硫酸などのハロゲンを含まない酸、またはアルカリ金属、アルカリ土類金属を含まない水酸化テトラメチルアンモニウム、アンモニアを使用することが望ましい。ただし、基体がガラス基板等である場合はその限りではない。さらに、それらの共重合体であってもよい。このような水溶性重合体を使用した場合には、所定の量以上の水溶性重合体が砥粒の表面に吸着することにより砥粒の表面性質に変化が生じる結果、ディッシングやエロージョンが研磨対象物の表面に発生することを抑えることができる。
【0030】
また、研磨用組成物中に含まれる水溶性重合体は、その水溶性重合体の固体分量1gあたり10mgKOH/g以上のアミン価を有する水溶性重合体であってもよい。研磨用組成物中に含まれる10mgKOH/g以上のアミン価を有する水溶性重合体は、カチオン性を示すため、所定の量以上の水溶性重合体が砥粒の表面に吸着し、砥粒の表面性質に変化が生じる。その結果、ディッシングやエロージョンが研磨対象物の表面に発生することを抑えることができる。
【0031】
アミン価はカチオン性の強度を示す指標であり、値が高いほど砥粒への吸着性が増加する。本実施形態では、研磨用組成物中に含まれる水溶性重合体は、10mgKOH/g以上のアミン価を有する水溶性重合体であることが好ましい。アミン価が10mgKOH/gより小さくなると、ディッシング抑制効果が低下する虞がある。ディッシング抑制効果が向上するという観点から、水溶性重合体のアミン価は、30mgKOH/g以上であることが好ましく、50mgKOH/g以上であることがより好ましく、100mgKOH/g以上であることがさらに好ましく、150mgKOH/g以上であることが最も好ましい。
【0032】
研磨用組成物中に含まれる水溶性重合体のアミン価は、3000mgKOH/g以下であることが好ましく、2000mgKOH/g以下であることがより好ましく、1000mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。アミン価が低いほど、砥粒の分散安定性が向上するので好ましい。
【0033】
水溶性重合体のアミン価とは、単位重量の水溶性重合体中に含まれる第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンを中和するのに必要な塩酸と当量の水酸化カリウム(KOH)のmg数である。水溶性重合体のアミン価は、例えば次のようにして測定することができる。まず、固形分量1.0gの水溶性重合体に水を加えて100gとする。次に、そこに0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを11.0に調整した試料を作製する。そして、その試料を0.5規定の塩酸で滴定し、pHが10になるまでに滴下した塩酸の量およびpHが5になるまでに滴下した塩酸の量を測定する。その後、下記数式2からアミン価を求めることができる。
【0035】
10mgKOH/g以上のアミン価を有する水溶性重合体の例としては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミンなどのポリアルキレンイミン、アリルアミン重合体、アミンメタクリレート重合体、コハク酸・ジエチレントリアミン共重合物、グルタミン酸・ジエチレントリアミン共重合物、アジピン酸・ジエチレントリアミン共重合物などのポリアミドポリアミン共重合物、ポリヒドロキシプロピルジメチルアンモニウム、ポリ{塩化(2−ヒドロキシプロピル)}ジメチルアンモニウム、ポリアミンアルキルオキシドポリマー、例えばジシアンジアミド・ジエチレントリアミン共重合物、1,3−プロパンジアミン・ジシアンジアミン縮合物などのジシアンジアミドポリアルキレン共重合物、ジエチレントリアミン・ホルマリン共重合物などのジシアンジアミドホルマリン重合物、ポリアミドアルキルオキシドポリマー、ビニルホルムアミド・ビニルアミンポリマー、ポリビニルアミジン、ジアリルアミンおよびジアリルアミンと有機酸の共重合物、N−ビニルホルムアミド・ビニルアミン共重合物、ポリビニルイミダゾリン、ポリビニルピリジンなどのカチオン性ポリマー等、カチオン性ポリマーとポリビニルアルコールまたはポリアクリルアミド共重合物との共重合体、カチオン性官能基を有するポリビニルアルコール(カチオン化ポリビニルアルコール)、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ジメチルアミン・エチレンジアミン・エピクロロヒドリン共重合体、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ならびにこれら前述した水溶性重合体の変性ポリマー、例えば、尿素変性ポリマー、カルボキシメチル変性ポリマー、エピハロヒドリン変性ポリマー等が挙げられる。
【0036】
前述の水溶性重合体について、水に対する溶解性を高める為に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)などのアルカリ性物質、または塩酸、硝酸、硫酸などの酸性物質で中和した塩を使用してもよい。研磨対象物の基体が半導体集積回路用シリコン基板などの場合、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン化物等による汚染を防止するために、特に硝酸や硫酸などのハロゲンを含まない酸、またはアルカリ金属、アルカリ土類金属を含まない水酸化テトラメチルアンモニウム、アンモニアを使用することが望ましい。基体がガラス基板等である場合はその限りではない。さらに基板表面への作用を向上させる為に、これらの水溶性重合体に、水溶性重合体を構成するモノマーと異なるモノマーの1種または2種以上を導入してもよい。このような水溶性重合体を使用した場合には、所定の量以上の水溶性重合体が砥粒の表面に吸着し、砥粒の表面性質に変化が生じる。その結果、ディッシングやエロージョンが研磨対象物の表面に発生することを抑えることができる。
【0037】
また、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、およびエーテル基等の親水性基を有する水溶性重合体を使用することもできる。このような水溶性重合体を使用した場合には、疎水性を有するGe材料部分の表面に研磨用組成物中の水溶性重合体が吸着することにより、当該研磨対象物の表面の濡れ性が向上する。その結果、ディッシングやエロージョンなどの段差が研磨対象物の表面に発生することを抑えることができる。このような水溶性重合体の例としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ポリビニルアルコール共重合体等が挙げられる。
【0038】
水溶性重合体が有する親水性基の数は、一分子当たり3個以上であることが好ましく、より好ましくは5個以上、さらに好ましくは10個以上である。水溶性重合体が有する親水性基の数が多いほど、Ge材料部分に対する親水効果が高まり、その結果としてディッシングやエロージョンなどの段差の発生がさらに抑えられる。
【0039】
前記水溶性重合体は、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨した後のGe材料部分の水接触角が、この研磨用組成物から水溶性重合体を除いた組成を有する別の組成物を用いて、同じ研磨対象物を同じ研磨条件で研磨した後のGe材料部分の水接触角と比較して小さくなるような種類の化合物の中から選択して使用されることが好ましい。かような化合物は、研磨対象物の表面の濡れ性をより向上させるため好ましい。さらに、該水接触角は、57度以下であることが好ましく、50度以下であることがより好ましく、45度以下であることがさらに好ましい。ここで、水接触角を測定する際の研磨対象物の研磨条件としては、下記表5に記載の条件が挙げられる。このような水溶性重合体の具体例としては、多糖類であるアルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、デンプン、寒天、カードランおよびプルラン、アルコール化合物であるポリエチレングリコール、ポリグリセリン、ペンタノール、ポリプロピレングリコールおよびポリビニルアルコール(このうちポリエチレングリコール、ポリグリセリンおよびポリプロピレングリコールは、アルコール化合物であってかつポリエーテルである)、ポリオキシアルキレン鎖を有するノニオン性化合物であるPOEアルキレンジグリセリルエーテル、POEアルキルエーテルおよびモノオレイン酸POE(6)ソルビタン、ポリカルボン酸またはその塩であるポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリシン、ポリリンゴ酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸アンモニウム塩、ポリメタクリル酸ナトリウム塩、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリ(p−スチレンカルボン酸)、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、アミノポリアクリルアミド、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸アンモニウム塩、ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリアミド酸、ポリアミド酸アンモニウム塩、ポリアミド酸ナトリウム塩、ポリグリオキシル酸、ポリカルボン酸アミド、ポリカルボン酸エステル、およびポリカルボン酸塩が挙げられる。
【0040】
研磨用組成物中の水溶性重合体の含有量は、10重量ppm以上であることが好ましく、50重量ppm以上であることがより好ましく、100重量ppm以上であることがさらに好ましい。水溶性重合体の含有量が多くなるにつれて、ディッシングやエロージョンの発生をさらに抑制することが期待できる。
【0041】
研磨用組成物中の水溶性重合体の含有量はまた、100000重量ppm以下であることが好ましく、50000重量ppm以下であることがより好ましく、10000重量ppm以下であることがさらに好ましい。水溶性重合体の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物中の砥粒の凝集が起こりにくくなり、その結果として研磨用組成物の保存安定性が向上する。
【0042】
水溶性重合体の重量平均分子量は100以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましい。水溶性重合体の重量平均分子量が大きくなるにつれて、デッィシングやエロージョンの発生をさらに抑制することが期待できる。
【0043】
水溶性重合体の重量平均分子量は500000以下であることが好ましく、300000以下であることがより好ましい。水溶性重合体の重量平均分子量が小さくなるにつれて、研磨用組成物中の砥粒の凝集が起こりにくくなり、その結果として研磨用組成物の保存安定性が向上する。なお、水溶性重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定することができる。
【0044】
本実施形態の研磨用組成物は、化学式:R1−X1−Y1で表されるアニオン界面活性剤を水溶性重合体として含んでもよい。ただし、R1はアルキル基、アルキルフェニル基またはアルケニル基を表し、X1はポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、またはポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)基を表し、Y1はSO
3M1基、SO
4M1基、CO
2M1基、またはPO
3M1
2基を表す。SO
3M1基、SO
4M1基、CO
2M1基、およびPO
3M1
2基のM1はカウンターイオンを表す。カウンターイオンは、例えば、水素イオン、アンモニウムカチオン、アミン類カチオン、およびリチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオンのようなアルカリ金属カチオンなど特に限定されない。このようなアニオン界面活性剤を水溶性重合体として使用した場合には、研磨対象物のGe材料部分にアニオン界面活性剤が電気的に吸着して保護膜を形成することにより、Ge材料部分の表面と砥粒との間の親和性が低下する。その結果、ディッシングが研磨対象物の表面に発生することを抑えることができる。
【0045】
なお、上記水溶性重合体は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0046】
本実施形態によれば以下の作用効果が得られる。
【0047】
本実施形態の研磨用組成物では、ディッシングやエロージョンなどの段差が研磨対象物の表面に発生することを抑えるために、研磨対象物のGe材料部分と相互作用する水溶性重合体が使用されている。そのため、本実施形態の研磨用組成物は、Ge材料部分を有する研磨対象物を研磨する用途で好適に用いられる。
【0048】
前記実施形態は次のように変更されてもよい。
【0049】
・前記実施形態の研磨用組成物は、各成分を分散または溶解するための分散媒または溶媒として水を含んでもよい。他の成分の作用を阻害することを抑制するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水が好ましい。
【0050】
・前記実施形態の研磨用組成物は、防腐剤のような公知の添加剤を必要に応じてさらに含有してもよい。
【0051】
・前記実施形態の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。
【0052】
・前記実施形態の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水で希釈することにより調製されてもよい。
【0053】
[研磨方法および基板の製造方法]
上述のように、本発明の研磨用組成物は、Ge材料を含有する部分を有する研磨対象物の研磨に好適に用いられる。よって、本発明は、Ge材料を含有する部分を有する研磨対象物を本発明の研磨用組成物で研磨する研磨方法を提供する。また、本発明は、Ge材料を含有する部分を有する研磨対象物を前記研磨方法で研磨する工程を含む基板の製造方法を提供する。
【0054】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0055】
前記研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0056】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転速度は、10〜500rpmが好ましく、研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、35〜700g/cm
2(0.5〜10psi)が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0057】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、ゲルマニウム材料を含有する部分を有する基板が得られる。
【実施例】
【0058】
次に、本発明の実施例および比較例を説明する。
【0059】
コロイダルシリカ、酸化剤および水溶性重合体を水と混合することにより、実施例1〜25の研磨用組成物を調製した。また、コロイダルシリカおよび酸化剤を水と混合して比較例1の研磨用組成物を調製した。各研磨用組成物中の成分の詳細を表1〜表3に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
実施例1〜12の各研磨用組成物について、コロイダルシリカの単位表面積あたりに吸着する水溶性重合体の分子数を次のようにして測定した。すなわち、各研磨用組成物を25℃の温度の環境下で一日間静置した後、20000rpmの回転速度で2時間遠心分離して上澄み液を回収した。回収した上澄み液中の全有機炭素量を、燃焼触媒酸化方式の有機炭素測定装置を用いて計測した。また、それとは別に、各研磨用組成物からコロイダルシリカを除いた組成を有する組成物を用意し、25℃の温度の環境下で一日間静置した後、同じく燃焼触媒酸化方式の有機炭素測定装置を用いてこの組成物中の全有機炭素量を計測した。そして、対応する研磨用組成物の上澄み液中の全有機炭素量をこれから減ずることにより、研磨用組成物中のコロイダルシリカに対する水溶性重合体の全吸着量を算出した。コロイダルシリカの単位表面積あたりに吸着する水溶性重合体の分子数は、こうして算出した吸着量からコロイダルシリカの表面積および水溶性重合体の分子量に基づいて算出することができた。その結果を下記表4の“コロイダルシリカ1μm
2あたりの吸着分子数”欄に示す。
【0064】
実施例1〜25および比較例1の各研磨用組成物を用いて、シリコンゲルマニウムパターンウェーハとゲルマニウムパターンウェーハとを表5に記載の条件で研磨し、得られたディッシングの値を、それぞれ表4の“Geのディッシング”および“SiGeのディッシング”欄に示す。ディッシングは段差測定機で求めた。なお、研磨時間は、GeまたはSiGe、およびTEOSのパターンが露出するまでの適切な時間を設定した。
【0065】
実施例1〜25および比較例1の各研磨用組成物を用いて、シリコンゲルマニウムパターンウェーハとゲルマニウムパターンウェーハを表5に記載の条件で研磨し、得られたエロージョン評価の結果を、それぞれ表4の“Ge/TEOSのエロージョン”および“SiGe/TEOSのエロージョン”欄に示す。エロージョンは研磨後の各パターンウェーハについて、GeまたはSiGeとTEOSの境界領域で、原子間力顕微鏡を用いて、エロージョンの進行量を測定した。エロージョンの進行量が25Å以下の場合は“◎”、25Åより大きく100Åより小さい場合は“○”、100Å以上の場合は“×”と評価した。なお、研磨時間は、GeまたはSiGe、およびTEOSのパターンが露出するまでの適切な時間を設定した。
【0066】
実施例1〜12および比較例1の各研磨用組成物を用いて、研磨後のシリコンゲルマニウムパターンウェーハ、およびゲルマニウムパターンウェーハを純水でリンスし、乾燥空気を吹き付けて乾燥した後、接触角評価装置を用いてθ/2法で水接触角を測定した。その結果を表4の“水接触角”欄に示す。水溶性重合体を除いた組成を有する別の組成物としては、比較例1を用いた。
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
上記表4に示すように、水溶性重合体を含有する実施例1〜25の研磨用組成物を用いた場合には、本発明の条件を満たさない、つまり水溶性重合体を含有しない比較例1の研磨用組成物に比べて、シリコンゲルマニウムパターンウェーハ、およびゲルマニウムパターンの段差抑制において顕著に優れた効果を奏することが認められた。
【0070】
なお、本出願は、2012年4月18日に出願された日本特許出願第2012−094584号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。