(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶融金属を前記溶融金属よりも低い温度にある容器に注いで固液共存状態にまで冷却することにより半凝固金属スラリーを作製する半凝固金属スラリーの作製方法において、
前記溶融金属を冷却するに際して、前記容器を機械的に振動させることにより、前記容器に注がれた前記溶融金属に運動を与えて前記容器の中にて前記溶融金属を対流させることと、
前記容器の振動周波数が20Hz以上250Hz以下で、かつ、振動速度振幅が150mm/s以上で、振動変位振幅が0.25mm以上であること
を特徴とする半凝固金属スラリーの作製方法。
【背景技術】
【0002】
従来より、半凝固鋳造では、溶融金属を固液共存状態まで冷却して半凝固状態とした金属スラリーを、ダイカスト機の加圧スリーブに充填して鋳造することが行われている。半凝固鋳造は、固液共存状態にある金属を成形する方法であり、材料が高固相率であるため鋳造製品の収縮巣の発生を抑え、鋳造製品の機械的強度の信頼性を向上させることができる。一方で、半凝固鋳造は、液体状態に比べ粘性が高く流動性が劣るため、材料として用いられる金属スラリーとしては、初晶が液状マトリックスにより互いに分離した状態で維持され、その結晶した粒子が微細で均一な非樹枝状、すなわち球状であることが望まれ、この点に関し多くの研究がなされている。これにより、材料が高固相率で低粘度の半凝固金属となった状態で鋳造を行うことが可能となり、鋳造製品の収縮巣の発生を抑え、鋳造製品の機械的強度の信頼性を向上させることができる。
【0003】
ここで、下記の特許文献1〜3には、この種の金属スラリーの作製方法に関する技術が記載されている。特許文献1に記載の技術は、アルミ合金などの半凝固金属を簡便容易に、かつ、低コストで加圧成形することを課題としている。この技術は、最大固溶限以上の組成を有する亜共晶アルミ合金の溶融金属につき、ビレット用金型への注入時の温度を、液相線以上で、かつ液相線より30℃を超えない温度領域とし、かつ1℃/秒以上の凝固区間冷却速度によりビレット用金型内に注入し、冷却固化してビレットを鋳造する。その後、そのビレットを共晶温度以上に昇温させ、保持時間、保持温度の選択により液相率を20〜80%にして初晶を球状化する。その後、半溶融状態となったビレットを成形用金型に供給して加圧成形するようにしている。また、ビレット用金型を溶融金属の注入方向に対し略直角をなす方向へ微小振動させながら、同金型に溶融金属を注入するようにしている。
【0004】
また、下記の特許文献2に記載の技術は、格別に複雑な工程を必要とせず簡単な装置・設備で、微細でほぼ均一な非樹枝状(球状)の粒子を有する金属スラリーを容易に作製することを課題としている。この技術は、溶融金属に、所定の温度範囲において運動を加え、その後に溶融金属を冷却することによって半凝固状態にするようにしている。詳しくは、液相線温度が約610℃のAC4CH合金を溶融し、直径63mm、高さ100mmの鉄製円筒形スラリー作製容器に660℃で注入する。そして、容器内の溶融金属の温度が610〜620℃に達した時点で、容器外側に超音波振動子を約10秒間接触させ、容器内部の溶融金属に運動を与える。その後、3℃/秒以下、好ましくは0.4℃/秒以下の冷却速度で溶融金属を冷却し、樹枝性組織の存在しない粒状晶スラリーを得るようにしている。また、溶融金属に運動を与える方法として、超音波振動以外に、高周波誘導による撹拌や機械的撹拌などが記載されている。
【0005】
下記の特許文献3に記載の技術は、短時間かつ簡単に、対象金属の種類・組成に限定されることなく半凝固スラリー、半凝固成形品を作製することを課題としている。この技術は、所定の熱容量と初期温度に設定された溶融金属を、単一のカップからなる容器に注ぎ込むことにより所望のある一定の固相率を有する半凝固状態の金属スラリーを作製するものである。溶融金属を容器に注いだときに、溶融金属が初期凝固層を発生することなく過冷却の状態になるとともに、容器内で自己撹拌が生じるように注湯するようにしている。詳しくは、溶融金属を所定の高さから容器に注いで容器に接触させることで、過冷却現象を生じさせ、初期凝固層を発生させないで核を発生させ、撹拌させることで、冷却の温度勾配をなくして半凝固状態の金属スラリーをつくるようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献3に記載の技術では、溶融金属を容器に注いで容器の中で溶融金属に自己撹拌を生じさせるためには、所定の高さから溶融金属を容器に注ぐ必要があった。そのため、溶融金属を容器に注ぐときに、溶融金属に不純物が混入したり、空気が巻き込まれたりするおそれがあった。一方、特許文献1及び2の技術では、所定の温度域において溶融金属に振動を加える必要があるため、溶融金属の温度を管理しなければならなかった。また、特許文献1及び2に記載の技術では、微細な初晶を得るために超音波振動など高い周波数の振動を加える必要があることから、振動発生装置が高価なものとなる。更に、冷却速度が遅いことから、金属スラリーの作製に時間がかかるという欠点があった。
【0008】
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、微細で均一な非樹枝状(球状)の粒子を含む高品質な半凝固金属スラリーを、比較的簡易で安価な設備により比較的短時間で作製することを可能とした半凝固金属スラリーの作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、溶融金属を溶融金属よりも低い温度にある容器に注いで固液共存状態にまで冷却することにより半凝固金属スラリーを作製する半凝固金属スラリーの作製方法において、溶融金属を冷却するに際して、容器を機械的に振動させることにより、容器に注がれた溶融金属に運動を与えて容器の中にて溶融金属を対流させること
と、容器の振動周波数が20Hz以上250Hz以下で、かつ、振動速度振幅が150mm/s以上で、振動変位振幅が0.25mm以上であることを趣旨とする。
ここで、「振動周波数」は、容器が1秒間に振動する回数を意味する。「振動速度振幅」は、容器の最大速度を意味する。「振動変位振幅」は、容器の移動量を意味する。
【0010】
上記発明の構成によれば、容器を機械的に振動させることで容器の内周面に生じる金属の固相が粒子状に遊離し、それら粒子が分散する。また、それら粒子が溶融金属の対流によって相互に干渉し合いながら流動するので、粒子がより微細な丸みを帯びた形状となる。更に、容器を機械的に振動させるので、電磁的な振動発生と比べ振動発生装置の構成を簡略化することが可能となる。
また、容器の振動周波数を20Hz以上250Hz以下に、かつ、振動速度振幅を150mm/s以上に、振動変位振幅を0.25mm以上に特定することで、平均粒径が80μm以下の微細な粒子を有する半凝固金属スラリーが得られる。
【0011】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、容器に溶融金属を注ぐ前から容器を振動させることを趣旨とする。
を趣旨とする。
【0012】
上記発明の構成によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、容器に溶融金属を注ぐ前から容器が振動しているので、溶融金属を注ぐタイミングの自由度が増す。
【0013】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、容器に溶融金属を注いで所定の時間が経過してから容器を振動させることを趣旨とする。
【0014】
上記発明の構成によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、溶融金属を注ぎ始めるときに容器が振動していないので、溶融金属を容器に注ぎ易くなる。
【0017】
上記目的を達成するために、請求項
4に記載の発明は、請求項1乃至
3の何れかに記載の発明において、容器の振動加速度が100G以下で、かつ、振動変位振幅が3mm以下であることを趣旨とする。ここで、「振動加速度」は、容器の最大加速度を意味する。
【0018】
上記発明の構成によれば、請求項1乃至
3の何れかに記載の発明の作用に加え、容器の振動加速度が100G以下に抑えられるので、通常の出力を有する振動発生装置を使用することが可能となる。また、振動変位振幅が3mmを超えると溶融金属が容器から溢れ出るおそれがあるが、振動変位振幅が3mm以下となるので問題がない。
【0019】
上記目的を達成するために、請求項
5に記載の発明は、請求項1乃至
4の何れかに記載の発明において、容器に注ぐ前の溶融金属の温度が溶融金属の液相線温度に対し30℃以上高いことを趣旨とする。ここで、「液相線温度」は、これ以上の温度では完全に液体状態となる温度を意味する。
【0020】
上記発明の構成によれば、請求項1乃至
4の何れかに記載の発明の作用に加え、容器に注ぐ前の溶融金属の温度が液相線温度に対し30℃以上高くなるので、直ちに凝固することのない半凝固金属スラリーが得られる。
【0021】
上記目的を達成するために、請求項
6に記載の発明は、請求項1乃至
5の何れかに記載の発明において、容器の温度が50℃以下であることを趣旨とする。
【0022】
上記発明の構成によれば、請求項1乃至
5の何れかに記載の発明の作用に加え、容器の温度が50℃以下となるので、容器の温度を室温と同じにすることが可能となり、容器の温度管理の必要がない。
【0023】
上記目的を達成するために、請求項
7に記載の発明は、請求項1乃至
6の何れかに記載の発明において、容器が金属製であることを趣旨とする。
【0024】
上記発明の構成によれば、請求項1乃至
6の何れかに記載の発明の作用に加え、容器が金属製であることから、容器の熱伝導性が良好となり、溶融金属の冷却効率がよくなる。
【0025】
上記目的を達成するために、請求項
8に記載の発明は、請求項1乃至
7の何れかに記載の発明において、溶融金属がアルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金又は鉄系合金であることを趣旨とする。
【0026】
上記発明の構成によれば、請求項1乃至
7の何れかに記載の発明の作用に加え、溶融金属がアルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金又は鉄系合金であることから、従前の材料の使用が可能となる。
【発明の効果】
【0027】
請求項1に記載の発明によれば、微細で均一な非樹枝状(球状)の粒子を含む高品質な半凝固金属スラリーを、比較的簡易で安価な設備により比較的短時間に作製することができる。
【0028】
請求項2に記載の発明によれば、微細で均一な非樹枝状(球状)の粒子を含む高品質な半凝固金属スラリーを、比較的簡易で安価な設備により比較的短時間に作製することができる。
【0029】
請求項3に記載の発明によれば、微細で均一な非樹枝状(球状)の粒子を含む高品質な半凝固金属スラリーを、比較的簡易で安価な設備により比較的短時間に作製することができる。
【0031】
請求項
4に記載の発明によれば、請求項1乃至
3の何れかに記載の発明の効果に加え、
比較的簡易で安価な設備により半凝固金属スラリーを歩留りよく作製することができる。
【0032】
請求項
5に記載の発明によれば、請求項1乃至
4の何れかに記載の発明の効果に加え、半凝固鋳造に最適な半凝固金属スラリーを作製することができる。
【0033】
請求項
6に記載の発明によれば、請求項1乃至
5の何れかに記載の発明の効果に加え、比較的簡易で安価な振動発生装置を使用して半凝固金属スラリーを作製することができる。
【0034】
請求項
7に記載の発明によれば、請求項1乃至
6の何れかに記載の発明の効果に加え、比較的短時間に半凝固金属スラリーを作製することができる。
【0035】
請求項
8に記載の発明によれば、請求項1乃至
7の何れかに記載の発明の効果に加え、比較的簡易で安価に半凝固金属スラリーを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】一実施形態に係り、半凝固金属スラリーの作製方法の概略を示す斜視図。
【
図2】同実施形態に係り、半凝固金属スラリーの作製方法の概略を示す断面図。
【
図3】同実施形態に係り、半凝固金属スラリーの作製方法の概略を示す断面図。
【
図4】同実施形態に係り、半凝固金属スラリーの作製方法の概略を示す断面図。
【
図5】同実施形態に係り、実験1により得られた半凝固金属スラリーの切断面を顕微鏡拡大して示す拡大図。
【
図6】同実施形態に係り、実験2により得られた半凝固金属スラリーの切断面を顕微鏡拡大して示す拡大図。
【
図7】同実施形態に係り、実験3により得られた半凝固金属スラリーの切断面を顕微鏡拡大して示す拡大図。
【
図8】同実施形態に係り、実験4により得られた半凝固金属スラリーの切断面を顕微鏡拡大して示す拡大図。
【
図9】同実施形態に係り、実験1により得られた半凝固金属スラリーの切断面を顕微鏡拡大して示す拡大図。
【
図10】同実施形態に係り、実験5により得られた半凝固金属スラリーの切断面を顕微鏡拡大して示す拡大図。
【
図11】同実施形態に係り、実験6により得られた半凝固金属スラリーの切断面を顕微鏡拡大して示す拡大図。
【
図12】同実施形態に係り、実験7により得られた半凝固金属スラリーの切断面を顕微鏡拡大して示す拡大図。
【
図13】同実施形態に係り、半凝固金属スラリーの切断面を顕微鏡拡大して示す拡大図。
【
図14】同実施形態に係り、(a)〜(e)は、粒子形状と円形度との関係を示す説明図。
【
図15】同実施形態に係り、実験1〜実験5につき、各種振動条件(振動周波数、振動加速度、振動速度振幅、振動変位振幅)、平均粒径、平均円形度及び組織状態(非樹枝性)を対比して示す表。
【
図16】同実施形態に係り、実験6及び実験7につき、各種振動条件(振動周波数、振動加速度、振動速度振幅、振動変位振幅)、平均粒径、平均円形度及び組織状態(非樹枝性)を対比して示す表。
【
図17】同実施形態に係り、各種振動条件である振動周波数、振動加速度、振動速度振幅及び振動変位振幅の関係を示すグラフ。
【
図18】同実施形態に係り、各種振動条件である振動周波数、振動加速度、振動速度振幅及び振動変位振幅の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明における半凝固金属スラリーの作製方法を具体化した一実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0038】
図1に、半凝固金属スラリーの作製方法の概略を斜視図により示す。
図2〜
図4に、半凝固金属スラリーの作製方法の概略を断面図により示す。
図1、
図2に示すように、この作製方法は、溶融金属21をその溶融金属21よりも低い温度にある金属製の容器11に注ぎ、溶融金属21が固液共存状態まで冷却されることにより半凝固金属スラリーを作製するものである。ここで、溶融金属21を冷却するに際して、
図1〜
図3に示すように、容器11を水平方向における一方向(矢印AR1により示す。)へ機械的に振動させることにより、容器11に注がれた溶融金属21に運動を与えて、
図4に示すように、容器11の中で溶融金属21を対流させるようにしている。
【0039】
ここでは、容器11は室温状態に保たれながら振動することになる。
図1、
図2に示すように、振動している容器11に、高温の溶融金属21を注ぐと、溶融金属21は急速に冷却され、その冷却の際に容器11の内周面11aに結晶としての金属の固相22が生じる。そして、
図3に示すように、これら固相22が容器11の振動によって粒子23の形となって遊離することになる。これにより、容器11の内周面11aにて固相22が樹枝状に成長することを妨げるようにしている。
【0040】
すなわち、室温状態の容器11に高温の溶融金属21を注ぐと、溶融金属21は容器11に熱を奪われて急速に温度が下がり、容器11の内周面11aに急速に固相22が生じる。このとき、容器11を予め振動させておくことにより、容器11の内周面11aに生じた固相22が内周面11aから粒子23の形となって遊離し、それら粒子23が容器11の中心部へ移動、分散する。一方、容器11の内周面11aでは、新たな固相22が生じ、遊離した粒子23は振動によって容器11の中心部へ移動、分散する。このとき、容器11の中では、振動によって運動エネルギーが与えられた溶融金属21に、
図4に矢印AR2で示すような対流が生じる。この対流は、容器11の内周面11aと容器11の中心部との間を巡回する流れを形成する。ここで、容器11は、溶融金属21から熱を奪うことで温度が上昇するので、溶融金属21が冷却される速度は次第に低下することになる。これにより、容器11の内周面11aでの固相22の発生量が減少し、数分間だけ固液共存状態が保たれる。この結果、微細な粒子23が分散した固液共存状態の半凝固金属スラリーを得ることができる。
【0041】
この実施形態では、溶融金属21の材料として、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金又は鉄系合金などの金属を適用することができる。容器11は、円筒形をなし、鉄等の金属により形成することができる。
【0042】
この実施形態では、容器11を水平方向における特定の一方向(矢印AR1の方向、以下同様。)へ機械的に振動させるために、振動発生装置が使用される。
図1に示すように、この装置は、水平に支持された可動板12と、可動板12を水平方向における特定の一方向へ機械的に振動させる振動発生機13とを備える。そして、可動板12の上に容器11を載せて固定し、可動板12を容器11と共に振動発生機13により一方向へ機械的に振動させるように構成される。この種の振動発生装置は、超音波振動を発生させる装置や電磁的に振動を発生させる装置よりも構成が簡易である。特に、機械的な振動は、電磁的な振動よりも大きな変位、すなわち大きな運動エネルギーを溶融金属21に与えることができる点で有利である。また、機械的な振動発生装置は、各種振動条件を容易にコントロールできることから、多様で安定した品質の半凝固金属スラリーを作製することができる。その他、電磁的な振動発生装置では、磁場発生装置や電流発生装置などの大きな付帯設備が必要になるところ、機械的な振動発生装置では、これらの付帯設備が不要となる。この実施形態の振動発生装置では、各種振動条件として、「振動周波数」、「振動加速度」、「振動速度振幅」及び「振動変位振幅」をコントロールするように構成される。
【0043】
この実施形態では、容器11に溶融金属21を注ぐ前から容器11を振動させるようにしている。また、
図1、
図2に示すように、容器11への溶融金属21の注入は、容器11と干渉しない程度に容器11から離れたノズル14から行われるようになっている。
【0044】
この実施形態では、容器11の振動周波数を「20Hz以上250Hz以下」に、かつ、振動速度振幅を「150mm/s以上4600mm/s以下」に、振動変位振幅を「0.25mm以上」にコントロールするようになっている。また、容器11の振動加速度を「3G以上100G以下」に、かつ、振動変位振幅を「3mm以下」にコントロールするようになっている。容器11に注ぐ前の溶融金属21の温度は、溶融金属21の液相線温度に対し「30℃以上150℃以下」だけ高くなるように、望ましくは「30℃以上100℃以下」だけ高くなるようにコントロールするようになっている。更に、容器11の温度は、「−30℃以上50℃以下」に、望ましくは「0℃以上50℃以下」にコントロールするようになっている。
【0045】
次に、各種振動条件と溶融金属21の種類を変えて行った半凝固金属スラリーの作製実験について説明する。
図5〜
図12に、実験1〜実験7により得られた半凝固金属スラリーの切断面を顕微鏡拡大した拡大図により示す。
【0046】
図5は、実験1(E1)に関する拡大図である。
図5において、白い部分は固相の粒子23を示し、黒い部分は固相化していない液相部分24を示す(
図6〜
図12においても同じ。)。この実験1では、溶融金属21の材料を「AC4CH合金」とし、各種振動条件として、振動周波数を「50Hz」、振動加速度を「6G」、振動速度振幅を「187.2mm/s」とした。この結果、粒子23の平均粒径dsは「79.0μm」に、平均円形度Rsは「2.57」となった。ここでは、半凝固金属スラリーを用いた鋳造製品の機械的強度の信頼性を向上させるためには、粒子23の平均粒径dsを「80μm以下」に、かつ、平均円形度Rsを「3以下」にするのが望ましい。この実験1の結果は、上記した望ましい平均粒径ds及び平均円形度Rsを満たす。
【0047】
図6は、実験2(E2)に関する切断面の拡大図である。この実験2は、実験1と対比されるものであり、溶融金属の材料を「AC4CH合金」とし、各種振動条件として、振動周波数を「50Hz」、振動加速度を「3G」、振動速度振幅を「93.6mm/s」とした。この結果、粒子23の平均粒径dsは「100.5μm」に、平均円形度Rsは「3.98」となった。これは、上記した望ましい平均粒径ds及び平均円形度Rsを満たさない。
図5、
図6の対比から、実験2では、実験1よりも粒子23が大きく、丸みを帯びた形が少ないことがわかる。実験1と実験2の各種振動条件の対比から、振動速度振幅として、「90mm/s」前後よりも「180mm/s」前後の方が有利なことがわかる。
【0048】
ここで、固相の粒子23の粒径dは次の式(1)で規定され、円形度Rは次の式(2)で規定される。
d=2√(A/π) …式(1)
R=L
2/(4πA) …式(2)
【0049】
図13に、半凝固金属スラリーの切断面を顕微鏡拡大した拡大図により示す。
図13に示すように、「L(μm)」は粒子23の周囲長を意味し、「A(μm
2)」は粒子23の面積を意味する。式(1)は、同じ面積Aを有する等価円の直径を求めることになる。式(2)は、同じ面積Aを有する等価円の周囲長と実際の周囲長Lの比を求めることになる。
図14(a)〜(e)は、粒子形状と円形度Rとの関係を説明図により示す。
図14(a)に示すように、粒子形状が真円では、円形度Rが「1」となる。また、
図14(b)〜(e)に示すように、粒子形状が真円から外れるほど円形度Rの値が大きくなる。
【0050】
実際の計算では、半凝固金属スラリーの切断面の顕微鏡画像を処理することにより、複数の粒子について粒径di、円形度Ri及び面積Aiをそれぞれ測定する。そして、各粒子の面積で重み付けをした平均粒径dsと平均円形度Rsを、次の式(3)及び式(4)により算出するようにしている。
ds=Σ(di×Ai)/ΣAi …(3)
Rs=Σ(Ri×Ai)/ΣAi …(4)
【0051】
図7は、実験3(E3)に関する切断面の拡大図である。この実験3では、溶融金属の材料を「AC4CH合金」とし、各種振動条件として、振動周波数を「10Hz」、振動加速度を「1.8G」、振動速度振幅を「280.7mm/s」とした。この結果、粒子23の平均粒径dsは「118.4μm」に、平均円形度Rsは「5.71」となった。この実験3の結果は、上記した望ましい平均粒径ds及び平均円形度Rsを満たさない。
【0052】
図8は、実験4(E4)に関する切断面の拡大図である。この実験4は、実験3と対比されるものであり、溶融金属の材料を「AC4CH合金」とし、各種振動条件として、振動周波数を「300Hz」、振動加速度を「39G」、振動速度振幅を「202.7mm/s」とした。この結果、粒子23の平均粒径dsは「104.4μm」に、平均円形度Rsは「4.39」となった。この実験4の結果は、上記した望ましい平均粒径ds及び平均円形度Rsを満たさない。
図7、
図8の対比から、実験3と実験4では、粒子23が比較的大きく、丸みを帯びた形が少ないことがわかる。
【0053】
図9は、実験1(E1)に関する切断面の拡大図である。この実験1では、溶融金属の材料を「AC4CH合金」とし、各種振動条件として、振動周波数を「50Hz」、振動加速度を「6G」、振動変位振幅を「0.6mm」とした。この結果、粒子23の平均粒径dsは「79.0μm」に、平均円形度Rsは「2.57」となった。この実験1の結果は、上記した望ましい平均粒径ds及び平均円形度Rsを満たす。
【0054】
図10は、実験5(E5)に関する切断面の拡大図である。この実験5は、実験1と対比されるものであり、溶融金属の材料を「AC4CH合金」とし、各種振動条件として、振動周波数を「150Hz」、振動加速度を「18G」、振動変位振幅を「0.2mm」とした。この結果、粒子23の平均粒径dsは「132μm」に、平均円形度Rsは「5.31」となった。この実験5の結果は、上記した望ましい平均粒径ds及び平均円形度Rsを満たさない。
図9、
図10の対比から、実験5では、実験1よりも粒子23が大きく、丸みを帯びた形が少ないことがわかる。実験1と実験5の各種振動条件の対比から、振動変位振幅として、「0.2mm」よりも「0.6mm」の方が有利なことがわかる。
【0055】
図11は、実験6(E6)に関する切断面の拡大図である。この実験6では、溶融金属の材料を「ADC12合金」とし、各種振動条件として、振動周波数を「50Hz」、振動加速度を「6G」、振動速度振幅を「187.2mm/s」とした。この結果、粒子23の平均粒径dsは「66.3μm」に、平均円形度Rsは「2.84」となった。この実験6の結果は、上記した望ましい平均粒径ds及び平均円形度Rsを満たす。
【0056】
図12は、実験7(E7)に関する切断面の拡大図である。この実験7は、実験6と対比されるものであり、溶融金属の材料を「ADC12合金」とし、各種振動条件として、振動周波数を「50Hz」、振動加速度を「3G」、振動速度振幅を「93.6mm/s」とした。この結果、粒子23の平均粒径dsは「171.2μm」に、平均円形度Rsは「4.29」となった。この実験7の結果は、上記した望ましい平均粒径ds及び平均円形度Rsを満たさない。
図11、
図12の対比から、実験7では、実験6よりも粒子23が大きく、丸みを帯びた形が少ないことがわかる。実験6と実験7の各種振動条件の対比から、振動速度振幅として、「90mm/s」前後よりも「180mm/s」前後の方が有利なことがわかる。
【0057】
図15に、溶融金属の材料として「AC4CH合金」を使用した実験1〜実験5につき、各種振動条件(振動周波数、振動加速度、振動速度振幅、振動変位振幅)、平均粒径、平均円形度及び組織状態(非樹枝性)を対比して表に示す。この表から明らかなように、望ましい平均粒径「80μm以下」及び平均円形度「3以下」を満たし、組織状態が良好な振動条件は、実験1(E1)のみであることがわかる。
【0058】
図16に、溶融金属の材料として「ADC12合金」を使用した実験6及び実験7につき、各種振動条件(振動周波数、振動加速度、振動速度振幅、振動変位振幅)、平均粒径、平均円形度及び組織状態(非樹枝性)を対比して表に示す。この表から明らかなように、望ましい平均粒径「80μm以下」及び平均円形度「3以下」を満たし、組織状態が良好な振動条件は、実験6(E6)であることがわかる。
【0059】
ここで、各種振動条件である振動周波数、振動加速度、振動速度振幅及び振動変位振幅を様々に変えて幾つかの実験(上記した実験1(E1)〜実験5(E5)を含む。)を行ったところ、半凝固金属スラリーを構成する固相の粒子の平均粒径ds及び平均円形度Rsとして、望ましい値(ds:80μm以下、Rs:3以下)を満たす範囲を特定することができた。
図17、
図18には、各種振動条件である振動周波数、振動加速度、振動速度振幅及び振動変位振幅の関係をグラフにより示す。これらグラフにおいて、ハッチングで示す領域RAは、半凝固金属スラリーを構成する固相の粒子の平均粒径ds及び平均円形度Rsが、望ましい値(ds:80μm以下、Rs:3以下)を満たす範囲を示す。これらグラフから、組織状態(非樹枝性)として望ましい半凝固金属スラリーを作製するために必要な各種振動条件は、振動周波数で「20Hz〜250Hz」、振動速度振幅で「150mm/s以上」、振動変位振幅で「0.25mm/s以上」であることがわかる。ここで、振動変位振幅が「3mm」を超えると溶融金属21が容器11から溢れ出ることから、振動変位振幅の上限値を「3mm」にする必要がある。また、振幅加速度を上げた場合、振動発生装置の出力を上げる必要があることから、現状の市販装置の使用を前提とした場合に、振動加速度の上限値は「100G」程度となる。
【0060】
以上説明したこの実施形態における半凝固金属スラリーの作製方法によれば、容器11を機械的に振動させることで容器11の内周面11aに生じる金属の固相22が粒子状に遊離し、それら粒子23が分散することになる。また、それら粒子23同士が溶融金属21の対流によって相互に干渉し合いながら流動するので、粒子23がより微細な丸みを帯びた形状となる。更に、容器11を機械的に振動させるので、電磁的な振動発生と比べ振動発生装置の構成を簡略化することが可能となる。この結果、微細で均一な非樹枝状(球状)の粒子を含む高品質な半凝固金属スラリーを、比較的簡易で安価な設備により比較的短時間に作製することができる。すなわち、溶融金属に不純物や空気が混入することがなく、微細で均一な非樹枝状(球状)の粒子を含む高品質な半凝固金属スラリーを容易に作製することができる。また、溶融金属を温度管理する必要がなく、比較的簡易で安価な振動発生装置を使用して比較的短時間に半凝固金属スラリーを作製することができる。
【0061】
この実施形態によれば、容器11に溶融金属21を注ぐ前から容器11が振動しているので、溶融金属21を注ぐタイミングの自由度が増す。この意味からも、比較的簡易で安価な設備で半凝固金属スラリーを容易に作製することができる。
【0062】
この実施形態によれば、容器11の振動周波数を20Hz以上250Hz以下に、かつ、振動速度振幅を150mm/s以上4600mm/s以下に、振動変位振幅を0.25mm以上に特定することで、平均粒径が80μm以下の微細な粒子23を有する半凝固金属スラリーが得られる。この結果、微細で均一な非樹枝状(球状)の粒子を含む高品質な半凝固金属スラリーを作製することができる。
【0063】
この実施形態によれば、容器11の振動加速度が3G以上100G以下に抑えられるので、通常の出力を有する振動発生装置を使用することが可能となる。また、容器11から溶融金属21が溢れ出るおそれがない。この結果、比較的簡易で安価な設備により半凝固金属スラリーを歩留りよく作製することができる。
【0064】
この実施形態によれば、容器11に注ぐ前の溶融金属21の温度が液相線温度に対し30℃以上150℃以下だけ高く、望ましくは30℃以上100℃以下だけ高くなるので、直ちに凝固することのない半凝固金属スラリーが得られる。この結果、半凝固鋳造に最適な半凝固金属スラリーを作製することができる。
【0065】
この実施形態によれば、容器11の温度が−30℃以上50℃以下に、望ましくは0℃以上50℃以下となるので、容器11の温度を室温と同じにすることが可能となり、容器11の温度管理の必要がない。この意味で、比較的簡易で安価な振動発生装置を使用して半凝固金属スラリーを作製することができる。
【0066】
この実施形態によれば、容器11が金属製であることから、容器11の熱伝導性が良好となり、溶融金属21の冷却効率がよくなる。この意味でも、比較的短時間に半凝固金属スラリーを作製することができる。
【0067】
この実施形態によれば、溶融金属21がアルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金又は鉄系合金であることから、従前の材料の使用が可能となる。この意味で、比較的簡易で安価に半凝固金属スラリーを作製することができる。
【0068】
なお、この発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜変更して実施することもできる。
【0069】
例えば、前記実施形態では、容器11に溶融金属21を注ぐ前から容器11を振動させるようにした。これに対し、容器11の振動を開始するタイミングとして、容器11に溶融金属21を注いで所定の時間(例えば「10秒以内の時間」)が経過してから容器11の振動を開始することもできる。この場合は、容器11に溶融金属21を注ぎ始めるときに容器11が振動していないので、溶融金属21を容器11に注ぎ易くなる。この意味で、半凝固金属スラリーを容易に作製することができる。