(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
インサート金属部材と、樹脂組成物からなり、前記インサート金属部材上にインサート成形された樹脂部材と、を備え、前記インサート金属部材の、前記樹脂部材と接する表面の少なくとも一部は、物理的処理及び/又は化学的処理を施されている金属樹脂複合成形体であって、
前記樹脂組成物は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部と、(B)非繊維状であり、平均粒子径が30μm以下であり、かつ、球状シリカ及びガラスビーズからなる群より選択される無機充填材10〜250質量部と、(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体3〜55質量部と、を含み、
前記(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体が(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含み、
前記樹脂組成物中のエポキシ基含有量は0.01〜0.80質量%である金属樹脂複合成形体。
前記(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体が、α−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含むオレフィン系共重合体である請求項1に記載の金属樹脂複合成形体。
表面の少なくとも一部が物理的処理及び/又は化学的処理を施されたインサート金属部材を射出成形用金型内に配置し、樹脂組成物を溶融状態で前記射出成形用金型内に射出して、前記インサート金属部材を樹脂部材と一体化する一体化工程を有する、金属樹脂複合成形体の製造方法であって、
前記樹脂組成物は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部と、(B)非繊維状であり、平均粒子径が30μm以下であり、かつ、球状シリカ及びガラスビーズからなる群より選択される無機充填材10〜250質量部と、(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体3〜55質量部と、を含み、
前記(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体が(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含み、
前記樹脂組成物中のエポキシ基含有量は0.01〜0.80質量%である、金属樹脂複合成形体の製造方法。
前記(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体が、α−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含むオレフィン系共重合体である請求項5に記載の金属樹脂複合成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0021】
<インサート金属部材>
本発明で用いられるインサート金属部材は、樹脂部材と接する表面の少なくとも一部、好ましくは全部に、物理的処理及び/又は化学的処理を施されている。
【0022】
インサート金属部材を構成する金属材料は特に限定されず、その例としては、銅、アルミニウム、マグネシウム等を例示することができる。また、インサート金属部材は、金属合金から構成されてもよい。金属合金としては、例えば、銅合金、アルミニウム合金、マグネシウム合金、ステンレス鋼等が挙げられる。また、金属材料の表面には、陽極酸化処理等の表面処理や塗装がされていてもよい。
【0023】
本発明では、用途等に応じて所望の形状に成形したインサート金属部材を使用する。例えば、所望の形状の型に溶融した金属等を流し込むことで、所望の形状のインサート金属部材を得ることができる。また、インサート金属部材を所望の形状に成形するために、工作機械等による切削加工等を用いてもよい。
【0024】
上記のようにして得られたインサート金属部材の表面に、物理的処理及び/又は化学的処理を施す。物理的処理及び/又は化学的処理を施す位置や、処理範囲の大きさは、樹脂部材が形成される位置等を考慮して決定される。
【0025】
物理的処理及び化学的処理は、特に限定されず、公知の物理的処理及び化学的処理を用いることができる。物理的処理により、インサート金属部材の表面は粗面化され、粗面化領域に形成された孔に、樹脂部材を構成する樹脂組成物が入り込むことでアンカー効果が生じ、インサート金属部材と樹脂部材との界面における密着性が向上しやすくなる。一方、化学的処理により、インサート金属部材とインサート成形される樹脂部材との間に、共有結合、水素結合、又は分子間力等の化学的接着効果が付与されるため、インサート金属部材と樹脂部材との界面における密着性が向上しやすくなる。化学的処理は、インサート金属部材の表面の粗面化を伴うものであってもよく、この場合には、物理的処理と同様のアンカー効果が生じて、インサート金属部材と樹脂部材との界面における密着性が更に向上しやすくなる。
【0026】
物理的処理としては、例えば、レーザー処理、サンドブラスト(特開2001−225346号公報)等が挙げられる。複数の物理的処理を組み合わせて施してもよい。レーザー処理の場合、具体的には、レーザーを照射して、金属表面を溝堀加工及び溶融させ再凝固させる条件にて粗面加工する。
化学的処理としては、例えば、コロナ放電等の乾式処理、トリアジン処理(特開2000−218935号公報参照)、ケミカルエッチング(特開2001−225352号公報)、陽極酸化処理(特開2010−64496)、ヒドラジン処理等が挙げられる。また、インサート金属部材を構成する金属材料がアルミニウムである場合には、温水処理(特開平8−142110号公報)も挙げられる。温水処理としては、100℃の水への3〜5分間の浸漬が挙げられる。複数の化学的処理を組み合わせて施してもよい。
【0027】
<樹脂部材>
本発明で用いられる樹脂部材は、樹脂組成物からなり、インサート金属部材上にインサート成形される。上記樹脂組成物は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部と、(B)非繊維状であり、平均粒子径が30μm以下であり、かつ、球状シリカ及びガラスビーズからなる群より選択される無機充填材10〜250質量部と、(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体3〜55質量部と、を含み、前記樹脂組成物中のエポキシ基含有量は0.01〜0.80質量%である。以下、本発明で用いる樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0028】
[(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂]
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂としては、特に限定されず、従来公知のポリアリーレンサルファイド樹脂を使用することができる。(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂が好ましく用いられる。(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂は、インサート金属部材と樹脂部材とのより良い密着性が得られるため、310℃で測定した、剪断速度1216/秒での溶融粘度が8〜300Pa・sであることが好ましく、10〜200Pa・sであることが特に好ましい。
【0030】
[(B)無機充填材]
(B)成分の無機充填材は、非繊維状であり、平均粒子径が30μm以下であり、かつ、球状シリカ及びガラスビーズからなる群より選択される限り、特に限定されない。(B)成分の無機充填材は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0031】
(B)成分の無機充填材の形状は、非繊維状である限り特に限定されず、例えば、球状、粉粒状、板状、鱗片状、不定形状等が挙げられる。無機充填材の形状が非繊維状であると、得られる金属樹脂複合成形体は、表面外観や耐薬品性が優れたものとなりやすい。
【0032】
(B)成分の無機充填材の平均粒子径は、30μm以下であり、好ましくは0.1〜25μmであり、より好ましくは0.1〜10μmであり、更に好ましくは0.1μm〜5μmである。上記平均粒子径が小さいほど、表面外観が優れる。一方、上記平均粒子径が30μmを超えると、十分な表面外観が得られない場合がある。なお、本明細書において、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法で測定した粒度分布における積算値50%の粒子径(50%d)である。
【0033】
(B)成分の無機充填材の含有量は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対し、通常、10〜250質量部であり、好ましくは20〜200質量部である。上記含有量が10質量部未満であると、材料の剛性及び寸法精度が不足しやすい。上記含有量が250質量部を超えると、流動性が悪化しやすく、金属との十分な接合強度が得られない場合がある。
【0034】
[(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体]
(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体は、特に限定されない。(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0035】
(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体としては、例えば、α−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含むオレフィン系共重合体が挙げられ、中でも、特に優れた金属樹脂複合成形体が得られることから、更に(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むオレフィン系共重合体が好ましい。なお、以下、(メタ)アクリル酸エステルを(メタ)アクリレートともいう。例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルエステルをグリシジル(メタ)アクリレートともいう。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸との両方を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートとの両方を意味する。
【0036】
α−オレフィンとしては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられ、特にエチレンが好ましい。α−オレフィンは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体がα−オレフィン由来の構成単位を含むことで、樹脂部材には可撓性が付与されやすい。可撓性の付与により樹脂部材が軟らかくなることは、インサート金属部材と樹脂部材との間の接合強度の改善に寄与し、また、耐衝撃性の改善にも寄与する。
【0037】
α,β−不飽和酸のグリシジルエステルとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル等が挙げられ、特にメタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体がα,β−不飽和酸のグリシジルエステル
由来の構成単位を含むことで、インサート金属部材と樹脂部材との間の接合強度が向上する効果が得られやすい。
【0038】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル
酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル
酸n−ブチル、アクリル
酸n−ヘキシル、アクリル
酸n−オクチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル
酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル
酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル
酸n−アミル、メタクリル
酸n−オクチル等のメタクリル酸エステルが挙げられる。中でも、特にアクリル酸メチルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位は、インサート金属部材と樹脂部材との間の接合強度の向上に寄与する。
【0039】
α−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含むオレフィン系共重合体、及び、更に(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むオレフィン系共重合体は、従来公知の方法で共重合を行うことにより製造することができる。例えば、通常よく知られたラジカル重合反応により共重合を行うことによって、上記共重合体を得ることができる。共重合体の種類は、特に問われず、例えば、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。また、上記オレフィン系共重合体に、例えば、ポリメタアクリル酸メチル、ポリメタアクリル酸エチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル
酸2−エチルヘキシル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリル酸ブチル・スチレン共重合体等が、分岐状に又は架橋構造的に化学結合したオレフィン系グラフト共重合体であってもよい。上記共重合体の種類としては、オレフィン系グラフト共重合体でないことが好ましく、ランダム共重合体及び/又はブロック共重合体であることがより好ましい。
【0040】
本発明に用いるオレフィン系共重合体は、本発明の効果を害さない範囲で、他の共重合成分由来の構成単位を含有することができる。
【0041】
より具体的には、(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体としては、例えば、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体、グリシジルエーテル変性エチレン共重合体等が挙げられ、中でも、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体が好ましい。
【0042】
グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体としては、グリシジルメタクリレートグラフト変性エチレン重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体を挙げることができる。中でも、特に優れた金属樹脂複合成形体が得られることから、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体及びエチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体が好ましく、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体が特に好ましい。エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体及びエチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体の具体例としては、「ボンドファースト」(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0043】
グリシジルエーテル変性エチレン共重合体としては、例えば、グリシジルエーテルグラフト変性エチレン共重合体、グリシジルエーテル−エチレン共重合体を挙げることができる。
【0044】
(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体の含有量は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対し、通常、3〜55質量部であり、好ましくは3〜30質量部である。上記含有量が3質量部未満であると、インサート金属部材と樹脂部材との間の接合強度が十分に得られない場合がある。なお、インサート金属部材と樹脂部材との密着性には、これら部材間の線膨張差が影響している。(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体が応力緩和を実現することで、ひずみが小さくなり、上記接合強度が改善すると考えられる。応力緩和には、靭性が効いており、靭性は、引張伸びで評価できる。エラストマーとして機能する(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体の含有量が少ないと、引張伸びが小さく、十分な応力緩和効果が得られないと考えられる。また、応力緩和は、耐衝撃性の改善にも寄与する。一方、上記含有量が55質量部を超えると、(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体と(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂との反応による粘度上昇が大きくなりやすいため、流動性が悪化しやすく、インサート金属部材と樹脂部材との間の接合強度が十分に得られない場合がある。上記含有量が3〜30質量部であると、耐硫酸性の観点からも好ましく、より優れた金属樹脂複合成形体を得やすい。
【0045】
また、樹脂組成物中のエポキシ基含有量は、通常、0.01〜0.80質量%であり、0.03〜0.60質量%であることが好ましい。上記エポキシ基含有量が0.01〜0.80質量%であると、インサート金属部材と樹脂部材との間の接合強度が良好に維持されやすく、また、インサート成形時の離型性が悪化しにくい点、及び、発生ガスの量が抑えられる傾向にあり金型メンテナンスの頻度が低くなりやすい点で好ましい。なお、上記樹脂組成物中のエポキシ基含有量とは、(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体中のエポキシ基含有量と、後述する(D)エポキシ基含有化合物中のエポキシ基含有量との合計である。上記樹脂組成物が、エポキシ基を含有する成分として、(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体のみを含む場合、上記樹脂組成物中のエポキシ基含有量は、(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体中のエポキシ基含有量に等しい。(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体中のエポキシ基含有量は、全組成物中0.02〜0.60質量%であることが好ましく、0.02〜0.50質量%であることがより好ましい。
【0046】
[(D)エポキシ基含有化合物]
本発明で用いる樹脂組成物は、(D)エポキシ基含有化合物を含んでもよい。本発明で用いる樹脂組成物に(D)エポキシ基含有化合物を添加すると、得られる金属樹脂複合成形体において、インサート金属部材と樹脂部材との間の接合強度がより向上しやすい。(D)エポキシ基含有化合物は、上記(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体以外のエポキシ基含有化合物である限り、特に限定されない。(D)エポキシ基含有化合物は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0047】
(D)エポキシ基含有化合物は、1分子内に1個のエポキシ基を含有する化合物であってもよいし、1分子内に2個以上のエポキシ基を含有する化合物であってもよい。(D)エポキシ基含有化合物としては、例えば、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるビスフェノール型エポキシ化合物、ノボラック樹脂とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるノボラック型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルエステル類、脂環化合物から得られる脂環化合物型エポキシ化合物、アルコール性水酸基を有する脂肪族化合物とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるグリシジルエーテル類、エポキシ化ブタジエン、及び二重結合を有する化合物と過酸化物とを反応させて得られるエポキシ化合物が挙げられる。具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、メチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、種々の脂肪酸グリシジルエステル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化SBS等が挙げられる。中でも、ビスフェノールA型エポキシ化合物等のビスフェノール型エポキシ化合物が好ましい。
【0048】
(D)エポキシ基含有化合物の含有量は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対し、好ましくは0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.01〜5質量部である。上記含有量が0.01〜10質量部であると、インサート金属部材と樹脂部材との間の接合強度がより向上しやすい。
【0049】
また、(D)エポキシ基含有化合物中のエポキシ基含有量は、上述したように、(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体中のエポキシ基含有量と、(D)エポキシ基含有化合物中のエポキシ基含有量との合計が、全組成物中、0.01〜0.80質量%であれば、特に限定されないが、(D)エポキシ基含有化合物中のエポキシ基含有量は、全組成物中、0.5質量%以下(例えば、0質量%超0.5質量%以下)であることが好ましく、0.35質量%以下(例えば、0質量%超0.35質量%以下)であることがより好ましい。上記エポキシ基含有量が全組成物中0.5質量%以下であると、インサート金属部材と樹脂部材との間の耐剥離性が低下しにくい。特に、インサート成形時に、溶融状態にある樹脂組成物の流動末端でも界面剥離が生じにくい。また、インサート成形時の離型性が悪化しにくいため、目的の成形品が得やすい点、及び、生産性が低下しにくい点で好ましい。
【0050】
[その他の成分]
本発明で用いる樹脂組成物は、上記成分の他に、本発明の効果を大きく害さない範囲において、所望の物性付与のために、(B)成分以外の無機充填材、有機充填材、難燃剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤、カーボンブラック、離型剤、可塑剤等の添加剤を含有したものであってもよい。
【0051】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明で用いる樹脂組成物の製造方法は、この樹脂組成物中の成分を均一に混合できれば特に限定されず、従来知られる樹脂組成物の製造方法から適宜選択することができる。例えば、1軸又は2軸押出機等の溶融混練装置を用いて、各成分を溶融混練して押出した後、得られた樹脂組成物を粉末、フレーク、ペレット等の所望の形態に加工する方法が挙げられる。
【0052】
<金属樹脂複合成形体>
本発明に係る金属樹脂複合成形体は、インサート金属部材と、上記樹脂組成物からなり、上記インサート金属部材上にインサート成形された樹脂部材と、を備える。上記インサート金属部材の、上記樹脂部材と接する表面の少なくとも一部は、物理的処理及び/又は化学的処理を施されている。本発明に係る金属樹脂複合成形体は、(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体を含み、エポキシ基含有量を所定の範囲に調整した樹脂組成物を用いたものであるため、インサート金属部材と樹脂部材との接合強度が強い。また、(B)成分の無機充填材を含むため、表面の外観が良好であり、酸やアルカリ等に対する耐薬品性に優れる。
【0053】
上記のような特性を有するため、本発明の金属樹脂複合成形体は、インサート金属部材と樹脂部材との接合強度が強いだけでなく、表面の外観が良好であり、酸やアルカリ等に対する耐薬品性に優れることも要求される用途に好適に使用することができる。例えば、本発明の金属樹脂複合成形体は、湿度や水分により悪影響を受けやすい電気・電子部品等を内部に備える金属樹脂複合成形体として好適である。特に、高レベルで防水が求められる分野、例えば、川、プール、スキー場、お風呂等での使用が想定される、水分や湿気の侵入が故障に繋がる電気又は電子機器用の部品として用いることが好適である。また、本発明の金属樹脂複合成形体は、例えば、電気・電子機器用筐体の少なくとも一部としても有用である。上記電気・電子機器用筐体は、内部に樹脂製のボスや保持部材等を備えていてもよい。ここで、電気・電子機器用筐体としては、携帯電話の他に、カメラ、ビデオ一体型カメラ、デジタルカメラ等の携帯用映像電子機器の筐体、ノート型パソコン、ポケットコンピュータ、電卓、電子手帳、PDC、PHS、携帯電話等の携帯用情報あるいは通信端末の筐体、MD、カセットヘッドホンステレオ、ラジオ等の携帯用音響電子機器の筐体、液晶TV・モニター、電話、ファクシミリ、ハンドスキャナー等の家庭用電化機器の筐体等を挙げることができる。
【0054】
<金属樹脂複合成形体の製造方法>
金属樹脂複合成形体の製造方法の具体的な工程は特に限定されず、上記インサート金属部材の、物理的処理及び/又は化学的処理を施された表面の少なくとも一部を介してインサート金属部材と樹脂部材と密着させることで、樹脂部材とインサート金属部材とを一体化させるものであればよい。
【0055】
例えば、表面の少なくとも一部が物理的処理及び/又は化学的処理を施されたインサート金属部材を射出成形用金型内に配置し、本発明で用いる樹脂組成物を溶融状態で射出成形用金型内に射出して、樹脂部材とインサート金属部材とが一体化した金属樹脂複合成形体を製造する方法が挙げられる。射出成形の条件は特に限定されず、ポリアリーレンサルファイド樹脂の物性等に応じて、適宜、好ましい条件を設定することができる。また、トランスファ成形、圧縮成形等を用いる方法も樹脂部材とインサート金属部材とが一体化した金属樹脂複合成形体を形成する有効な方法である。これらの方法において、上記インサート金属部材の、上記樹脂部材と接する表面の少なくとも一部、好ましくは全部が、物理的処理及び/又は化学的処理を施されている。
【0056】
他の例としては、予め射出成形法等の一般的な成形方法で樹脂部材を製造し、物理的処理及び/又は化学的処理を施されているインサート金属部材と上記樹脂部材とを、所望の接合位置で当接させ、当接面に熱を与えることで、樹脂部材の当接面付近を溶融させて、樹脂部材とインサート金属部材とが一体化した金属樹脂複合成形体を製造する方法が挙げられる。この方法においても、上記インサート金属部材の、上記樹脂部材と接する表面の少なくとも一部、好ましくは全部が、物理的処理及び/又は化学的処理を施されている。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
実施例及び比較例で使用した金属樹脂複合成形体の模式図を
図1に示した。(a)は分解斜視図であり、(b)は斜視図であり、(c)は金属部のみを示す図である。この金属樹脂複合成形体を以下の方法で作製した。なお、図中の寸法の単位はmmである。
【0059】
<樹脂組成物の調製>
下記の原料成分をドライブレンドした後、シリンダー温度320℃の二軸押出機に投入し、溶融混練して、ペレット化した熱可塑性樹脂組成物を得た。各成分の配合量(質量部)は表1〜表3に示した通りである。
・ポリフェニレンサルファイド樹脂
A−1:(株)クレハ製、フォートロンKPS W202A(製品名)、溶融粘度:20Pa・s(剪断速度:1216sec
−1、温度:310℃)
A−2:(株)クレハ製、フォートロンKPS W214A(製品名)、溶融粘度:130Pa・s(剪断速度:1216sec
−1、温度:310℃)
・無機充填材
B−1:ガラスビーズ(ポッターズ・バロティーニ(株)製、EMB−10(平均粒子径:5μm))
B−2:ガラスビーズ(ポッターズ・バロティーニ(株)製、GL−BS(平均粒子径:20μm))
B−3:球状シリカ((株)アドマテックス製、SO−C2(平均粒子径:0.55μm))
B−4:球状シリカ((株)アドマテックス製、SO−C6(平均粒子径:2.2μm))
B−5:炭酸カルシウム(白石工業(株)製、Brilliant−1500(平均粒子径50%d:0.7μm))
B−6:ガラスフレーク(日本板硝子(株)製、REFG-401(平均粒子径:300μm、平均厚さ:5μm))
B−7:ガラス繊維(オーウェンスコーニング製造(株)製、03DE−FT798(繊維径6μm、繊維長3mm))
・エポキシ基含有オレフィン系共重合体
C−1:エチレン−グリシジルメタクリレート
−アクリル酸メチル共重合体(住友化学(株)製、ボンドファースト7L)
C−2:エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学(株)製、ボンドファーストE)
C−3:エチレンエチルアクリレート共重合体(日本ユニカー(株)製、NUC−6570)
・エポキシ基含有化合物
D−1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、jER(旧「エピコート」、いずれも登録商標)1004K(製品名))、エポキシ基含有量:4.6質量%、エポキシ当量925、分子量:1650
なお、溶融粘度の測定方法は以下の通りである。
【0060】
[溶融粘度]
東洋精機(株)製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、剪断速度1216/秒での溶融粘度を測定した。
【0061】
<インサート金属部材の物理的処理又は化学的処理>
【0062】
インサート金属部材として、銅(C−1100P、厚さ2mm)又はアルミニウム(A5052、厚さ2mm)から構成され、下記の通りにして物理的処理又は化学的処理を施した板状物を用いた。これら板状のインサート金属部材は、
図1(a)の斜線で示す部分に接合面を有する。なお、表1〜表3中、「物理」、「化1」、及び「化2」は、それぞれ、下記の物理的処理、化学的処理1、及び化学的処理2を指す。
【0063】
[物理的処理]
アルミニウム製のインサート金属部材に、市販の液体ホーニング装置を使用して、粒度が#1000(中心粒径:14.5〜18μm)のアルミナ研磨剤を濃度20%、ゲージ圧0.4MPaの条件で吹き付け、粗化処理を行った。
【0064】
[化学的処理1]
銅製のインサート金属部材の表面を、下記組成のエッチング液A(水溶液)に1分間浸漬して防錆皮膜除去を行い、次に下記組成のエッチング液B(水溶液)に5分間浸漬して金属部品表面をエッチングした。
・エッチング液A(温度20℃)
過酸化水素 26g/L
硫酸 90g/L
・エッチング液B(温度25℃)
過酸化水素 80g/L
硫酸 90g/L
ベンゾトリアゾール 5g/L
塩化ナトリウム 0.2g/L
【0065】
[化学的処理2]
アルミニウム製のインサート金属部材の表面を、下記組成のアルカリ脱脂液(水溶液)に5分間浸漬して脱脂処理を行い、次に下記組成のエッチング液A(水溶液)に3分間浸漬して金属部品表面をエッチングした。
・アルカリ脱脂液(温度40℃)
AS−165F(荏原ユージライト製) 50ml/L
・エッチング液A(温度40℃)
OF−901(荏原ユージライト製) 12g/L
水酸化マグネシウム 25g/L
【0066】
<金属樹脂複合成形体の作製>
物理的処理又は化学的処理を施したインサート金属部材を金型に配置し、このインサート金属部材を実施例1〜19及び比較例1〜12のいずれかで調製したポリフェニレンサルファイド樹脂組成物から構成される樹脂部材と一体化する一体化工程を行った。成形条件は以下の通りである。金属樹脂複合成形体の形状は
図1に示す通りである。
[成形条件]
成形機:ソディックTR−40VR(縦型射出成形機)
シリンダー温度:320℃
金型温度:150℃
射出速度:100mm/s
保圧力:49MPa×5秒
【0067】
<金属樹脂複合成形体の評価>
上記の方法で作製した金属樹脂複合成形体について、接合部分の接合強度、剥離後の破壊形態、及び耐剥離性を評価した。具体的な評価方法は以下の通りである。
[接合強度]
図1に示す形状を有する金属樹脂複合成形体を、
図2に示すように、台座(冶具)上に配置し、1mm/分の速度で矢印方向にインサート金属部材から樹脂部材を押し剥がすように冶具を動かした。インサート金属部材から樹脂部材が剥がれた時点での強度を接合強度として測定した。なお、測定機器としてテンシロンUTA−50kN((株)オリエンテック製)を使用した。測定結果を表1〜表3に示す(値は3回の試験における平均値である)。
【0068】
[破壊形態]
接合強度測定後に、接合部分であった領域を目視にて観察し、破壊がインサート金属部材と樹脂部材との界面で生じたか(界面剥離、×で表示)、インサート金属部材又は樹脂部材中で生じたか(凝集破壊、○で表示)を評価した。結果を表1〜表3に示す。
【0069】
[耐剥離性]
接合強度測定後に、接合部分であった領域のインサート金属部材側を目視にて観察し、インサート金属部材上に付着している樹脂部材が占める面積と接合部分であった領域全体の面積との比を求め、以下の基準で評価した。結果を表1〜表3に示す。
◎:上記の比が50%以上であり、耐剥離性が非常に良好である。
○:上記の比が20%以上50%未満であり、耐剥離性が良好である。
△:上記の比が0%超え20%未満であり、耐剥離性が不良である。
×:上記の比が0%であり、耐剥離性が極めて不良である。
【0070】
<その他の評価>
[表面外観]
射出成形にて、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で厚み4mmtのダンベル試験片を作製し、表面外観を目視で観察した。以下の評価基準で評価した表面外観の結果を表1〜表3に示す。評価が5〜3のいずれかである場合、製品として問題なく使用可能であるが、評価が2又は1である場合、製品として使用可能なレベルにない。
5:添加した無機充填材に起因する表面荒れが認められず、曇りがなく光沢があった。
4:添加した無機充填材に起因する表面荒れは認められなかったが、一部僅かに曇りが見られた。全体的には光沢があった。
3:添加した無機充填材に起因する表面荒れは認められなかったが、やや曇りが見られた。
2:添加した無機充填材に起因する表面荒れが全面に対して1/3程度認められた。
1:添加した無機充填材に起因する表面荒れがほぼ全面に認められた。
【0071】
[耐硫酸性]
表面外観の観察に用いたものと同様に作製したダンベル試験片を10質量%硫酸水溶液に室温で1時間浸漬した後、水洗、乾燥し、表面外観を目視で観察した。以下の評価基準で評価した耐硫酸性の結果を表1〜表3に示す。
◎:浸漬前と変化がなかった。
○:やや表面に曇りがあったが、表面平滑性には変化がなかった。
×:表面の白化が見られるとともに表面平滑性が悪化した。
【0072】
[離型性]
表面外観の観察に用いたダンベル試験片の作製時に金型からの離型性を以下の基準で評価した。結果を表1〜表3に示す。
○:金型からの離型が問題なくでき、離型性が良好である。
×:金型からの離型が困難であり、離型性が不良である。表面外観の評価が不可能である。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
表1及び表2に示す通り、(B)球状シリカ及び/又はガラスビーズと(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体とを併用し、各成分の含有量を所定の範囲に調整した実施例1〜19では、金属樹脂複合成形体におけるインサート金属部材と樹脂部材との間の接合強度が強く、かつ、表面外観及び耐
硫酸性に優れることが確認された。更に、(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体と(D)エポキシ基含有化合物とを併用し、これら各成分中のエポキシ基含有量を所定の範囲に調整した実施例15〜18の金属樹脂複合成形体では、インサート金属部材と樹脂部材との間で、接合強度が強く、かつ、耐剥離性に優れていた。
また、平均粒子径が10μm以下の球状シリカ及び/又はガラスビーズのみを用いた場合、表面外観がより優れることが確認された。
【0077】
これに対し、表3に示す通り、(B)球状シリカ及び/又はガラスビーズの代わりに炭酸カルシウムを用いた比較例1及び6は、実施例1〜19に比べ、耐硫酸性に劣っていた。また、(B)球状シリカ及び/又はガラスビーズの代わりにガラスフレーク又はガラス繊維を用いた比較例2〜4及び7は、実施例1〜19に比べ、表面外観に劣っていた。
また、(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体と(D)エポキシ基含有化合物とを併用したものの、これら各成分中のエポキシ基含有量の合計が全組成物中0.80質量%を超える比較例9は、離型性に劣っていた。