特許第6133075号(P6133075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6133075面発光レーザ素子および面発光レーザアレイ素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133075
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】面発光レーザ素子および面発光レーザアレイ素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/183 20060101AFI20170515BHJP
【FI】
   H01S5/183
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-24997(P2013-24997)
(22)【出願日】2013年2月12日
(65)【公開番号】特開2014-154787(P2014-154787A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100142712
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 至男
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 政樹
【審査官】 佐藤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−253408(JP,A)
【文献】 特開2009−246194(JP,A)
【文献】 特開2005−353623(JP,A)
【文献】 特開2007−234724(JP,A)
【文献】 特開2006−351909(JP,A)
【文献】 特開2008−243834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光共振器を構成する第1の反射鏡および第2の反射鏡と、
前記第1の反射鏡と前記第2の反射鏡との間に配置された、発光領域を有する活性層と、
前記第1の反射鏡と前記第2の反射鏡との間に配置された波長調整層と、を備え、
前記波長調整層は、少なくとも前記光共振器内で発振するレーザ光の電界分布の幅内の領域で、層厚方向の光学長が面内位置によって異なり、第1の屈折率を有して層厚方向の実効屈折率を規定する凸部または凹部のパターンが形成されたパターン形成層を有し、
前記第2の反射鏡にキャリアを経由させないイントラキャビティ構造であって、前記波長調整層はキャリアを経由しない箇所に設けられ、
半導体層が選択酸化された電流狭窄部を有する電流狭窄層と電流狭窄をしない前記波長調整層とが、別に設けられている
ことを特徴とする面発光レーザ素子。
【請求項2】
前記波長調整層は、前記パターン形成層と、前記パターン形成層を覆うように形成され、前記第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有するパターン保護層とが積層した構造を有することを特徴とする請求項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項3】
前記パターン形成層および前記パターン保護層とは誘電体材料からなることを特徴とする請求項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項4】
前記パターン形成層は半導体材料からなり、前記パターン保護層は誘電体材料からなることを特徴とする請求項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項5】
単一モードレーザ光を出力することを特徴とする請求項1〜のいずれか一つに記載の面発光レーザ素子。
【請求項6】
複数の請求項1〜のいずれか一つに記載の面発光レーザ素子を備えることを特徴とする面発光レーザアレイ素子。
【請求項7】
前記複数の面発光レーザ素子は、前記電界分布の幅内の領域で層厚方向の実効光学長が互いに異なり、かつ互いにレーザ発振波長が異なることを特徴とする請求項に記載の面発光レーザアレイ素子。
【請求項8】
前記複数の面発光レーザ素子は、前記パターン形成層のパターンが互いに異なることを特徴とする請求項に記載の面発光レーザアレイ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザ素子および面発光レーザアレイ素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基板上に複数の面発光レーザ素子が配列された面発光レーザアレイ素子およびこれを信号光源として用いた光インターコネクションが開示されている。この面発光レーザアレイ素子は、個々の面発光レーザ素子が異なる波長のレーザ信号光を出力するように構成されている(非特許文献1〜3、特許文献1参照)。これらの文献で使用されている面発光レーザアレイ素子は、レーザ信号光の波長間隔が5nm程度以上のCWDM(Coarse Wavelength Division Multiplexing)光信号を出力するものである。
【0003】
一方、WDM光信号の波長間隔がより狭い高密度なDense−WDM(DWDM)光信号を利用した光インターコネクションシステムも開示されている。たとえば、シリコンフォトニクス技術を利用して、半導体集積素子内に、演算処理装置、変調器、光合波/分波器、受光素子(Photo Detector,PD)を集積し、複数の半導体集積素子間をシリコン光導波路で接続し、半導体集積素子間の光通信を行なう光インターコネクションシステムが開示されている(非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−214430号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Padullaparthi Babu Dayal, Takahiro Sakaguchi, Akihiro Matsutani, and Fumio Koyama, “Multiple-Wavelength Vertical-Cavity Surface-Emitting Lasers by Grading a Spacer Layer for Short-Reach Wavelength Division Multiplexing Applications”, Appl. Phys. Express 2(2009) 092501.
【非特許文献2】鈴木貞一 他,「高密度CWDM用モノリシック多波長VCSELの試作」,信学技報, vol. 107, no. 198, OPE2007-86, pp. 101-106, 2007年8月.
【非特許文献3】B. E. Lemoff et al. “MAUI: Enabling fiber-to-the-processor with parallel multiwavelength optical interconnects.” J. Lightwave Technol., 22(9):2043, 2004.
【非特許文献4】Kannan Raji et al. “”Macrochip” Computer Systems Enabled by Silicon Photonic Interconnects”, Proceedings SPIE 7607, 760702, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、CWDMまたはDWDM信号光源を、面発光レーザ素子または面発光レーザアレイ素子を用いて実現する場合には、各面発光レーザ素子のレーザ発振波長を高精度に制御する必要がある。
また、これまでに開示されている複数波長を有する面発光レーザアレイでは、作製方法が容易でなかった。例えば非特許文献1では、多数の発振波長を実現するためには波長調整用のスペーサ層の膜厚を変える必要があり、リソグラフィーとエッチング工程を複数回繰り返して行なう必要があり、作製工程が複雑になるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、レーザ発振波長が高精度に制御された面発光レーザ素子および面発光レーザアレイ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る面発光レーザ素子は、光共振器を構成する第1の反射鏡および第2の反射鏡と、前記第1の反射鏡と前記第2の反射鏡との間に配置された、発光領域を有する活性層と、前記第1の反射鏡と前記第2の反射鏡との間に配置された波長調整層と、を備え、前記波長調整層は、少なくとも前記光共振器内で発振するレーザ光の電界分布の幅内の領域で、層厚方向の光学長が面内位置によって異なることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る面発光レーザ素子は、上記発明において、前記波長調整層は、第1の屈折率を有し、凸部または凹部のパターンが形成されたパターン形成層を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る面発光レーザ素子は、上記発明において、前記波長調整層は、前記パターン形成層と、前記パターン形成層を覆うように形成され、前記第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有するパターン保護層とが積層した構造を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る面発光レーザ素子は、上記発明において、前記パターン形成層および前記パターン保護層とは誘電体材料からなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る面発光レーザ素子は、上記発明において、前記パターン形成層は半導体材料からなり、前記パターン保護層は誘電体材料からなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る面発光レーザ素子は、上記発明において、単一モードレーザ光を出力することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る面発光レーザアレイ素子は、複数の上記発明の面発光レーザ素子を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る面発光レーザアレイ素子は、上記発明において、前記複数の面発光レーザ素子は、前記電界分布の幅内の領域で層厚方向の実効光学長が互いに異なり、かつ互いにレーザ発振波長が異なることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る面発光レーザアレイ素子は、上記発明において、前記複数の面発光レーザ素子は、前記パターン形成層のパターンが互いに異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、レーザ発振波長が高精度に制御された面発光レーザ素子および面発光レーザアレイ素子を実現できるという効果を奏する。また、多数の発振波長を実現する場合であっても、波長調整層のパターン形成層のパターンを変えるだけで波長を変えることができるため、一回のパターン形成工程で作製可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施の形態1に係る面発光レーザ素子の模式的な断面図である。
図2図2は、図1に示すパターン形成層の一部の模式的な平面図である。
図3図3は、図1の波長調整層を示す図である。
図4図4は、2a/Λと波長変化量との関係を示す図である。
図5図5は、異なるΔdに対する2a/Λと波長変化量との関係を示す図である。
図6図6は、異なる材料の組み合わせに対する2a/Λと波長変化量との関係を示す図である。
図7図7は、異なる光共振器長に対する2a/Λと波長変化量との関係を示す図である。
図8図8は、パターン形成層に適用できるパターンの他の態様の例を示す図である。
図9図9は、実施の形態2に係る面発光レーザアレイ素子の模式的な断面図である。
図10図10は、図9に示す各面発光レーザ素子の波長調整層を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本発明に係る面発光レーザ素子および面発光レーザアレイ素子の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、以下では、半導体層の面に対して平行なxy平面を定義して、適宜説明を行う。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る面発光レーザ素子の模式的な断面図である。図1に示すように、面発光レーザ素子100は、面方位(001)のn型GaAsからなる基板1上に積層された、第1の反射鏡として機能するアンドープの下部DBR(Distributed Bragg Reflector)ミラー2、n型コンタクト層3、n側電極4、n型クラッド層5、活性層6、p型クラッド層7、電流狭窄層8、p型スペーサ層9、電流拡散層10、p側電極11、波長調整層12、および第2の反射鏡として機能する上部誘電体DBRミラー13を備える。
【0021】
電流拡散層10およびn型コンタクト層3は、下部DBRミラー2と上部誘電体DBRミラー13との間に配置されている。活性層6および波長調整層12は、下部DBRミラー2と上部誘電体DBRミラー13との間に配置されている。電流狭窄層8は、電流拡散層10と活性層6との間に配置されている。p側電極11は電流拡散層10上に形成され、n側電極4はn型コンタクト層3上に形成されている。
【0022】
n型クラッド層5から電流拡散層10までの積層構造は、エッチング処理等によって柱状に成形されたメサポストとして形成されている。メサポスト径はたとえば直径30μmである。また、n型コンタクト層3はメサポストの外周側に延在している。また、下部DBRミラー2と上部誘電体DBRミラー13とは光共振器を構成している。
【0023】
下部DBRミラー2は、n型GaAs基板1上に積層されたアンドープGaAsバッファ層(不図示)上に形成される。下部DBRミラー2は、低屈折率層として機能するAl0.9Ga0.1As層と、高屈折率層として機能するGaAs層とを1ペアとする複合半導体層がたとえば40.5ペア積層された、周期構造を有する半導体多層膜ミラーとして形成されている。下部DBRミラー2の複合半導体層を構成する各層の層厚は、λ/4n(λ:レーザ発振波長、n:屈折率)である。たとえば、λが1060nmの場合、Al0.9Ga0.1As層の層厚は約88nmであり、GaAs層の層厚は約76nmである。
【0024】
n型コンタクト層3およびn型クラッド層5は、n型GaAsを材料として形成される。
【0025】
p型クラッド層7およびp型スペーサ層9は、p型AlGaAsを材料として形成される(たとえば、Al0.3Ga0.7Asが望ましい)。
【0026】
電流拡散層10は、p型GaAsを材料として形成したp型コンタクト層およびp型GaAsまたはp型AlGaAsを材料として形成したp型スペーサ層の積層構造からなる。
【0027】
p型クラッド層7およびp型スペーサ層9のキャリア濃度は、p型ドーパントによる吸収損失の増加を防ぐため、たとえば3×1017cm−3程度となっている。また、n型クラッド層5、n型コンタクト層3のキャリア濃度は、たとえばそれぞれ1×1018cm−3、2×1018cm−3程度である。また、電流拡散層10のp型スペーサ層およびp型コンタクト層のキャリア濃度は、たとえば3×1019cm−3程度である。
【0028】
電流狭窄層8は、電流注入部としての開口部8aと電流狭窄部としての選択酸化層8bとから構成されている。開口部8aはAl1−xGaAs(0≦x<0.1)からなり、選択酸化層8bは(Al1−xGaからなる。なお、xはたとえば0.02である。
【0029】
電流狭窄層8は、Al1−xGaAsからなるAl含有半導体層を選択酸化熱処理することによって形成される。すなわち、選択酸化層8bは、このAl含有半導体層がメサポストの外周部から積層面に沿って所定範囲だけ酸化されることで、開口部8aの外周にリング状に形成されている。選択酸化層8bは、絶縁性を有し、p側電極11から注入される電流を狭窄して開口部8a内に集中させることで、活性層6における開口部8aの直下の領域に注入される電流密度を高める機能を有する。開口部8aの開口径はたとえば6μmであるが、高速動作と信頼性の観点では、たとえば4μm〜15μmが好ましい。さらに、高次の横モード発振を抑制するためには、たとえば4μm〜8μmがさらに好ましい。
【0030】
活性層6は、井戸層と障壁層とが交互に積層した多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)層の両側を分離閉じ込め(Separate Confinement Heterostructure)層で挟んだMQW−SCH構造を有する。この活性層6は、p側電極11から注入されて電流狭窄層8によって狭窄された電流により、開口部8aの直下付近の発光領域Sにおいて自然放出光を発光する。活性層6は、たとえば1.0μm〜1.1μm(1.0μm帯とする)の波長の光を含む自然放出光を発するようにその半導体材料の組成および層厚が設定されている。たとえば、井戸層は所望の波長帯域の光を放出するように選択される材料であるGaInAs系の半導体材料からなる。障壁層は井戸層に対して障壁となるように、たとえばGaAsからなる。
【0031】
p側電極11は、電流拡散層10上にリング状に形成されている。一方、n側電極4は、メサポストの外周側に延在したn型コンタクト層3の延在部分の表面に形成され、メサポストの周囲を取り囲むようにC字状に形成されている。
【0032】
波長調整層12は、電流拡散層10上であってp側電極11の内周側に形成されている。波長調整層12は、パターン形成層12aと、パターン形成層12aを覆うように形成されたパターン保護層12bとが積層した構造を有する。
【0033】
図2は、パターン形成層12aの一部の模式的な平面図である。図3は、波長調整層12を示す図である。パターン形成層12aは、一辺の長さが2a、2a、深さΔdである直方体状の凸部12aaが、x方向にはΛのピッチ、y方向にはΛのピッチで格子状に並んだパターンが形成されているものである。
【0034】
また、パターン形成層12aは第1の屈折率である屈折率nを有する。パターン保護層12bは、第1の屈折率とは異なる値の第2の屈折率である屈折率nを有する。パターン形成層12aはたとえばSiOからなり、パターン保護層12bはたとえばSiNからなる。この場合、nは1.45、nはたとえば2.2であり、n<nである。
【0035】
上部誘電体DBRミラー13は、波長調整層12上に形成されている。上部誘電体DBRミラー13は、低屈折率層として機能するSiO2層と、高屈折率層として機能するSiNx層とを1ペアとする複合誘電体層がたとえば9ペア積層された、周期構造を有する誘電体多層膜ミラーとして形成されており、下部DBRミラー2と同様に各層の層厚がλ/4nとされている。
【0036】
つぎに、この面発光レーザ素子100の動作について説明する。はじめに、不図示のレーザ制御器が、p側電極11とn側電極4との間に電圧を印加し電流を注入する。p側のキャリア(ホール)は、電流拡散層10では層内を紙面横方向に流れ、その後p型スペーサ層9を通過し、電流狭窄層8の開口部8a内に集中して密度が高められた状態で、活性層6の発光領域Sに注入される。一方、n側のキャリア(電子)については、n側電極4からn型コンタクト層3、n型クラッド層5を通過して、活性層6に注入される。
【0037】
このように、本実施の形態1に係る面発光レーザ素子100は、p側のキャリアおよびn側のキャリアのいずれもが、DBRミラーを経由しないで活性層に注入される、いわゆるダブルイントラキャビティ構造を有する。
【0038】
キャリアが注入された活性層6は、自然放出光を発生する。発生した自然放出光は、活性層6の光増幅作用と光共振器の作用とによって、1.0μm波長帯のいずれかの波長においてレーザ発振する。その結果、この面発光レーザ素子100は、上部誘電体DBRミラー13上からレーザ光L1を出力する。レーザ光L1が単一モードレーザ光であることが好ましい。レーザ発振時には光共振器内にはレーザ光L1の定在波が形成されている。このため、レーザ光L1の波長は光共振器長に依存する値である。
【0039】
ここで、波長調整層12は、互いに異なる屈折率を有するパターン形成層12aとパターン保護層12bとが積層した構造を有する。パターン形成層12aには凸部12aaのパターンが形成されているため、半導体層面内で凸部12aaがある位置と凸部12aaが無い位置とでは、層厚方向の平均屈折率が異なるので、その層厚方向の光学長も異なる。なお、光学長は屈折率と物理的長さとの積で表される。
【0040】
このとき、光共振器内において、レーザ光L1は、図1にプロファイルPで示すようなxy平面で電界E(x、y)の分布を有する。電界E(x、y)の分布がガウシアン分布の場合、その分布の幅Wは電界の2乗の強度がピークの1/eとなる幅で定義される。電界E(x、y)の分布がガウシアン分布でない場合であっても、電界の2乗の強度がピークの1/e(約13.5%)となる幅で分布の幅Wを定義することができる。その結果、レーザ光L1が感じる波長調整層12の層厚方向の光学長(実効光学長とする)は、少なくとも電界E(x、y)の分布の幅内の領域での凸部12aaのパターンの密度や凸部12aaの深さΔdによって異なることとなる。たとえば、パターン形成層12aの屈折率n、パターン保護層12bの屈折率nについて、n<nである場合、電界E(x、y)の分布の幅内で凸部12aaのパターンの密度が高い方が、波長調整層12の層厚方向の実効光学長は短くなる。
【0041】
波長調整層12は光共振器内に存在するため、波長調整層12の層厚方向の実効光学長を変化させると光共振器長も変化する。したがって、本実施の形態1に係る面発光レーザ素子100から出力されるレーザ光L1の波長(レーザ発振波長)は、波長調整層12におけるパターンの制御によって制御することができる。このような波長調整層12におけるパターンは、電子ビーム描画装置やステッパー装置とエッチングとを用いて正確に形成することができる。また、深さΔdが大きい方が、凸部12aaのパターンの密度を変化させた場合の実効光学長の変化が大きくなるが、深さΔdはエッチング時間の制御などによって容易に制御できる。したがって、面発光レーザ素子100から出力されるレーザ光L1の波長も、正確に制御することができる。
【0042】
たとえば、面発光レーザ素子100の実効的な光共振器長をLcav、光共振器内の実効屈折率をneff、レーザ発振波長をλとすると、2neffcav=mλ(ただし、mは自然数)の関係が成り立つ。波長調整層12の層厚方向の実効光学長をΔLだけ変化させたときにレーザ発振波長がΔλだけ変化すると仮定すると、2neff(Lcav+ΔL)=m(λ+Δλ)の関係が成り立つ。このとき、Δλは以下の式(1)で表される。
Δλ=(λ/neffcav)ΔL ・・・ (1)
【0043】
式(1)から明らかなように、ΔLが同じならば、λ/neffcavが大きい程(すなわち波長が長い程、または共振器の実効的な光学長neffcavが短い程)、Δλを大きくできるので、波長の制御範囲を広くできる。
【0044】
つぎに、波長調整層12の設計パラメータと、レーザ発振波長の変化量との関係について説明する。
【0045】
図3に示すように、パターン形成層12aの屈折率をn、層厚をd(x、y)とする。また、パターン保護層12bの屈折率をn、層厚をd(x、y)とする。d(x、y)、d(x、y)はx、yの関数である。また、波長調整層12におけるxy平面での電界分布をE(x、y)とする。このとき、波長調整層12の実効光学長Leffは、以下の式(2)で表される。
【0046】
【数1】
【0047】
式(2)のLeffをΔLだけ変化させると、式(1)に示すΔλだけ波長を変化させることができる。式(2)からわかるように、ΔLを大きくするためには、層厚d(x、y)と層厚d(x、y)との差が異なる位置において大きく異なること、すなわち深さΔdが大きいことが好ましく、またnとnとの差が大きいことが好ましい。
【0048】
つぎに、パターン形成層12aが図2に示すパターンを有している場合に、パターンを変化させた場合の具体的なレーザ発振波長の変化量について説明する。
【0049】
ここでは、基準となるレーザ発振波長λを1060nm、光共振器内の実効屈折率neffを3.3、Lcavを1284.848nm(すなわち光共振器は4波長分の長さである4λ共振器)、nを誘電体であるSiOの屈折率である1.45、nを誘電体であるSiNxの屈折率の一例である2.2、凸部12aaの深さΔdを50nmとする。また、図2に示すパラメータについて、Λ=Λ=Λ=300nmとする。また、a=a=aとし、aを0から150nmまで変化させる。これは、凸部12aaのxy平面での断面積を変化させることに相当する。また、簡略化のためにパターンのピッチは電界分布E(x、y)の分布の幅Wよりも十分小さいとすると、式(2)は下記式(3)のように近似できる。
【数2】
【0050】
図4は、2a/Λと波長変化量との関係を示す図である。波長変化量は1060nmからの波長変化量を示している。図4に示すように、aを0から150nmまで変化させる、すなわち2a/Λを0から1まで変化させることで、短波長側に約30nmもレーザ発振波長を変化させることができる。
【0051】
つぎに、他のパラメータは図4の場合と同じにしたまま、深さΔdを10nmまたは30nmとした。図5は、異なるΔd(10nm、30nm、50nm)に対する2a/Λと波長変化量との関係を示す図である。図5に示すように、深さΔdが大きいほど波長変化量を大きくできる。
【0052】
つぎに、他のパラメータは図4の場合と同じにしたまま、深さΔdを30nmとし、n、n図4と同様にそれぞれ1.45、2.2とするか、またはnを半導体材料であるGaAsの屈折率である3.4、nをSiOの屈折率である1.45とした。図6は、異なる材料の組み合わせ(SiO(1.45)/SiNx(2.2)、GaAs(3.4)/SiO(1.45))に対する2a/Λと波長変化量との関係を示す図である。図6に示すように、半導体材料と誘電体材料との組み合わせのように、nとnの差が大きいほど波長変化量を大きくできる。また、n>nの場合は波長を長波長側に変化させることができる。このように、パターン形成層12aおよびパターン保護層12bのうちの一方を半導体材料、他方を誘電体材料で構成してもよい。また、パターン形成層12aおよびパターン保護層12bのうちの両方を半導体材料で構成してもよい。
【0053】
つぎに、他のパラメータは図4の場合と同じにしたまま、深さΔdを30nmとし、Lcav図4と同様に1284.848nm(4λ共振器)、または642.424nm(2λ共振器)、321.212nm(λ共振器)とした。図7は、異なる光共振器長(4λ、2λ、λ)に対する2a/Λと波長変化量との関係を示す図である。図7に示すように、光共振器長が短いほど波長変化量を大きくできる。特にλ共振器であれば波長変化量を70nmときわめて広くできる。
【0054】
なお、波長調整層のパターン形成層に形成されるパターンとしては、図2に示すものに限られず、さまざまなパターンを使用することができる。図8は、パターン形成層に適用できるパターンの他の態様の例を示す図である。図8(a)は、半径rの円柱状の凸部が、x方向にはΛのピッチ、y方向にはΛのピッチで格子状に並んだパターンが形成されているものである。図8(b)は、xy平面での断面がひし形状の凸部が、x方向にはΛのピッチ、y方向にはΛのピッチで格子状に並んだパターンが形成されているものである。図8(c)は、半径rの円柱状の凸部が、ピッチがΛの三角格子状に並んだパターンが形成されているものである。図8(d)は、円柱状の凸部が、同心円の上に並んだパターンが形成されているものである。また、図8(d)では、同心円の半径Rが大きくなるにつれて、円柱状の凸部の半径が大きくなっている。これによって、同心円を含む所定幅の円環領域における凸部の面積の割合を、円環領域の半径に依らず一定にすることができる。その他、凸部を同心円状に形成したパターンや、放射状のパターンも使用できる。さらには、これらのパターンの凸部とそれ以外の部分を反転させ、凸部を凹部としたパターンも使用できる。
【0055】
各パターンの適用範囲は特に限定されるものではないが、凸部を同心円状に形成したパターン、放射状のパターンや、図8(d)に示すパターンは、等方性が高いため、偏波依存性が低い面発光レーザ素子に使用するのにより好適である。また、図2図8(a)〜図8(c)のパターンは、異方性が高いため、単一偏波面発光レーザ素子に使用するのにより好適である。
【0056】
また、上記のパターンのピッチ(Λ、Λ、Λ等)は、レーザ光L1の幅W(1/e幅)よりも十分小さいことが好ましく、たとえばΛ、Λ、Λ<W/5であることが好ましい。これによって、レーザ光L1の電界分布の範囲内に十分な量のパターンを含ませることができるので、パターンの密度の変化による実効光学長の変化がより平均化されることにより、レーザ発振波長の制御性が高くなるとともに設計も容易になる。
【0057】
また、上記の凸部のサイズ(2a、2a、r等)は、レーザ光L1の光共振器内での波長λ/neffよりも小さいことが好ましく、たとえば2a、2a、r<λ/neffであることが好ましい。これによって、レーザ光L1が凸部で散乱される成分が少なくなり、光損失が低減するので、出力されるレーザ光L1の強度が高くなる。
【0058】
また、上記の凸部の深さΔdは、パターンのピッチ(Λ、Λ、Λ等)よりも十分小さいことが好ましく、たとえばΔd<Λ、Λ、Λであることが好ましい。これによって、凸部とそれ以外の部分でのレーザ光L1の定在波の位相ずれが十分小さくなる。
【0059】
(実施の形態2)
図9は、実施の形態2に係る面発光レーザアレイ素子の模式的な断面図である。図9に示す面発光レーザアレイ素子1000は、図1に示す実施の形態1に係る面発光レーザ素子100と同様の構成を有する複数の面発光レーザ素子200、300、400、500が1次元的にアレイ状に配列した構成を有する。なお、各面発光レーザ素子200、300、400、500は、共通の基板1、下部DBRミラー2およびn型コンタクト層3を備えている。また、各面発光レーザ素子200、300、400、500は、それぞれ波長調整層212、312、412、512を備えている。
【0060】
図10は、図9に示す各面発光レーザ素子の波長調整層212、312、412、512を示す図である。波長調整層212、312、412、512は、それぞれ、第1の屈折率を有するパターン形成層212a、312a、412a、512aと、第1の屈折率とは異なる値の第2の屈折率を有するパターン保護層212b、312b、412b、512bとが積層した構造を有する。また、パターン形成層212a、312a、412a、512aにはいずれも図2に示すパターン形成層12と同様のパターンが形成されているが、パターン形成層212a、312a、412a、512aにおけるパラメータ2a/Λ(すなわち、パターンにおける凸部の面積比率)は互いに異なっている。これによって、波長調整層212、312、412、512の層厚方向の実効光学長も互いに異なるので、面発光レーザ素子200、300、400、500は互いにレーザ発振波長が異なるレーザ光を出力することができる。
【0061】
波長調整層212、312、412、512は、パターン形成層とパターン保護層との積層構造からなる点は同じであり、そのパターンの面積比率のみが異なるものであるから、マスクパターンを場所に応じて変更するだけで、同一の工程(マスクパターン形成工程とエッチング工程)で形成することができる。また、同一の工程で形成できるので、たとえばパターンの凸部の深さの波長調整層212、312、412、512毎のばらつきも小さい。また、たとえば凸部の深さに製造上誤差が生じたとしても、同一の工程で形成すれば、その誤差については、各波長調整層212、312、412、512間でのばらつきは少ない。そのため、各面発光レーザ素子200、300、400、500間でのレーザ発振波長の相対的な差にばらつきが生じにくいので好ましい。
【0062】
なお、本実施の形態2に係る面発光レーザアレイ素子1000では、面発光レーザ素子200、300、400、500のレーザ発振波長を互いに異なるようにしているが、波長調整層212、312、412、512の層厚方向の実効光学長を同一とすれば、面発光レーザ素子200、300、400、500のレーザ発振波長をより高精度に同一とすることもできる。
本実施の形態2では、面発光レーザが1次元的にアレイ状に配列した構成をとっているが、これに限定されず、2次元的なアレイ状に配列した構成であってもよい。本発明を用いれば、異なる波長あるいは同一波長を有する面発光レーザ素子を任意に配置した2次元的なアレイ構成を実現することが可能である。
【0063】
上記実施の形態では、波長調整層は、互いに屈折率が異なるパターン形成層とパターン保護層とが積層した構造である。しかし、波長調整層の構成としては、これに限定されず、レーザ光の電界分布の幅内の領域に対応する波長調整層の面内で、位置によって層厚方向の実効光学長が異なる構成であればよい。
【0064】
たとえば、波長調整層は、パターン形成層の単層から構成されていてもよい。その場合、パターン形成層の凸部の周囲が空隙となるように構成すれば、パターン形成層の屈折率と空気の屈折率との大きな屈折率差によって、波長調整量をより大きくできる。
【0065】
また、波長調整層の位置は、光共振器内であれば特に限定はされない。また、波長調整層において、層厚方向の光学長が面内位置によって異なる領域は、少なくとも光共振器内で発振するレーザ光の電界分布の幅内の領域であればよいが、当該幅の領域外まで広がっていてもよい。
【0066】
また、本発明に対して使用できる面発光レ−ザ素子は、図1に示す構成のものに限定されない。たとえば、本発明は、イントラキャビティ構造でない面発光レーザ素子にも適用できる。すなわち、活性層に注入されるキャリアが、下部DBRミラーおよび/または上下部DBRミラーのそれぞれを経由して活性層に注入される構造の面発光レーザ素子にも本発明は適用できる。キャリアを注入する経路となるDBRミラーは半導体材料で構成することが好ましい。
【0067】
また、上記実施の形態では、活性層の下部にn型半導体層が配置され、活性層の上部にp型半導体層が配置されているが、活性層の上部にn型半導体層が配置され、活性層の下部にp型半導体層が配置されていてもよい。
【0068】
また、上記実施の形態では、1.0μm波長帯用にその化合物半導体の材料、サイズ等が設定されている。しかしながら、各材料やサイズ等は、所望のレーザ光の発振波長に応じて適宜設定されるものであり、特に限定はされない。たとえば、各半導体層を構成する半導体材料としてInP系の材料を用いてもよい。
【0069】
また、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 基板
2 下部DBRミラー
3 n型コンタクト層
4 n側電極
5 n型クラッド層
6 活性層
7 p型クラッド層
8 電流狭窄層
8a 開口部
8b 選択酸化層
9 p型スペーサ層
10 電流拡散層
11 p側電極
12、212、312、412、512 波長調整層
12a、212a、312a、412a、512a パターン形成層
12aa 凸部
12b、212b、312b、412b、512b パターン保護層
13 上部DBRミラー
100、200、300、400、500 面発光レーザ素子
1000 面発光レーザアレイ素子
L1 レーザ光
P プロファイル
S 発光領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10