特許第6133357号(P6133357)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6133357タンタルスパッタリングターゲット及びその製造方法
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  • 特許6133357-タンタルスパッタリングターゲット及びその製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133357
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】タンタルスパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20170515BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20170515BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   H01L21/285 S
   H01L21/28 301R
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-100654(P2015-100654)
(22)【出願日】2015年5月18日
(62)【分割の表示】特願2013-547089(P2013-547089)の分割
【原出願日】2012年11月15日
(65)【公開番号】特開2015-206120(P2015-206120A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2015年5月18日
(31)【優先権主張番号】特願2011-261550(P2011-261550)
(32)【優先日】2011年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】仙田 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】永津 光太郎
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/107763(WO,A1)
【文献】 特開2005−336617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01L 21/28
H01L 21/285
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンタルスパッタリングターゲットのスパッタ面において、(200)面の配向率が38.6%以上69.8%以下、かつ、(222)面の配向率が12.1%以上37.8%以下であることを特徴とするタンタルスパッタリングターゲット。
【請求項2】
溶解鋳造したタンタルインゴットを鍛造及び再結晶焼鈍した後、圧延及び熱処理し、圧延は、圧延ロール径500mm以上の圧延ロールを用いて、圧延速度10m/分以上、圧延率80%超で冷間圧延を行い、熱処理は、温度900℃〜1400℃で行って、ターゲットのスパッタ面において、(200)面の配向率が36.8%以上69.8%以下、かつ、(222)面の配向率が12.1%以上37.8%以下である結晶組織を形成することを特徴とするタンタルスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項3】
溶解鋳造したタンタルインゴットを鍛造及び再結晶焼鈍した後、圧延及び熱処理し、圧延及び熱処理を2回以上繰り返し、圧延は、圧延ロール径500mm以上の圧延ロールを用いて、圧延速度10m/分以上、圧延率65%以上92%以下で冷間圧延を行い、熱処理は、温度900℃〜1400℃で行って、ターゲットのスパッタ面において、(200)面の配向率が36.8%以上69.8%以下、かつ、(222)面の配向率が12.1%以上37.8%以下である結晶組織を形成することを特徴とするタンタルスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
鍛造及び再結晶焼鈍を2回以上繰り返すことを特徴とする請求項2又は3に記載のタンタルスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
圧延及び熱処理後、切削、研磨による表面仕上げを行うことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載のタンタルスパッタリングターゲットの製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンタルスパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。特には、LSIにおける銅配線の拡散バリア層としてのTa膜又はTaN膜の形成に用いられるタンタルスパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子の配線材料としてアルミニウムが使用されていたが、素子の微細化、高集積化に伴い、配線遅延の問題が表面化し、アルミに替わって電気抵抗の小さい銅が使用されるようになった。銅は、配線材料として非常に有効であるが、銅自体が活発な金属であるため、層間絶縁膜に拡散して汚染するという問題があり、銅配線と層間絶縁膜との間に、Ta膜やTaN膜などの拡散バリア層を形成する必要がある。
【0003】
一般に、Ta膜やTaN膜は、タンタルターゲットをスパッタリングすることにより成膜する。これまでタンタルターゲットについて、スパッタリング時のパフォーマンスに及ぼす影響に関して、ターゲットに含有される各種不純物、ガス成分、結晶の面方位や結晶粒径等が、成膜速度、膜厚の均一性、パーティクル発生等に影響を与えることが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ターゲット厚さの30%の位置からターゲットの中心面に向かって(222)配向が優先的である結晶組織にすることより、膜の均一性を向上させることが記載されている。また、特許文献2は、タンタルターゲットの結晶配向をランダムにする(特定の結晶方位にそろえない)ことにより、成膜速度が大きく、膜の均一性を向上させることが記載されている。また、特許文献3には、原子密度の高い(110)、(200)、(211)の面方位をスパッタ面に選択的に多くすることにより成膜速度が向上し、かつ面方位のばらつきを抑えることでユニフォーミティの向上が記載されている。
【0005】
さらに、特許文献4には、X線回折により求められる(110)面の強度比の、スパッタ表面部分の場所によるばらつきを20%以内にすることにより、膜厚均一性を向上させることが記載されている。また、特許文献5には、スエージング、押し出し、回転鍛造、無潤滑の据え込み鍛造をクロック圧延と組み合わせて用い、非常に強い(111)、(100)などの結晶学集合組織を持つ円形の金属ターゲットを作製できると述べられている。しかしながら、いずれのタンタルターゲットを用いてスパッタリングを実施しても、スパッタレート(成膜速度)が必ずしも高くなく、スループットが悪いという問題が生じた。
【0006】
この他、下記特許文献6には、タンタルインゴットを、鍛造、焼鈍、圧延加工を施し、最終組成加工後、さらに1173K以下の温度で焼鈍を行い、未再結晶組織を20%以下、90%以下とするタンタルスパッタリングターゲットの製造方法が記載されている。しかし、この場合は、結晶配向を制御することにより、スパッタレートを早め、スループットを向上させるという発想はない。
【0007】
また、特許文献7には、鍛造、冷間圧延等の加工と熱処理により、ターゲットのスパッタ面のピークの相対強度を(110)>(211)>(200)とし、スパッタ特性を安定化させる技術が開示されている。しかし、結晶配向を制御して、スパッタレートを早め、スループットを向上させるという発想はない。
【0008】
さらに、特許文献8には、タンタルインゴットを鍛造し、この鍛造工程で2回以上の熱処理を行い、さらに冷間圧延を施し、これを再結晶化熱処理を行うことが記載されている。しかし、この場合も結晶配向を制御することにより、スパッタレートを早め、スループットを向上させるという発想はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−107758号公報
【特許文献2】国際公開2005/045090号
【特許文献3】特開平11−80942号公報
【特許文献4】特開2002−363736号公報
【特許文献5】特表2008−532765号公報
【特許文献6】特許第4754617号
【特許文献7】国際公開2011/061897号
【特許文献8】特許第4714123号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、タンタルスパッタリングターゲットにおいて、ターゲットのスパッタ面における結晶配向を制御することにより、スパッタレートを早めることができ、短時間で必要な膜厚を成膜することを可能とし、スループットを向上することを課題とする。特に活発なCuの拡散による配線周囲の汚染を効果的に防止することができるTa膜又はTaN膜などからなる拡散バリア層の形成に有用なタンタルスパッタリングターゲットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の発明を提供するものである。
1)タンタルスパッタリングターゲットのスパッタ面において、(200)面の配向率が70%以下、かつ、(222)面の配向率が10%以上であることを特徴とするタンタルスパッタリングターゲット、
2)タンタルスパッタリングターゲットのスパッタ面において、(200)面の配向率が60%以下、かつ、(222)面の配向率が20%以上であることを特徴とする上記1)記載のタンタルスパッタリングターゲット、
3)タンタルスパッタリングターゲットのスパッタ面において、(200)面の配向率が50%以下、かつ、(222)面の配向率が30%以上であることを特徴とする上記1)記載のタンタルスパッタリングターゲット、
4)上記1)〜3)のいずれかに記載のスパッタリングターゲットを用いて形成した拡散バリア層用薄膜、
5)上記4)記載の拡散バリア層用薄膜を用いられた半導体デバイス、を提供する。
【0012】
また、本発明は、
6)溶解鋳造したタンタルインゴットを鍛造及び再結晶焼鈍した後、圧延及び熱処理し、ターゲットのスパッタ面において、(200)面の配向率が70%以下、かつ、(222)面の配向率が10%以上である結晶組織を形成することを特徴とするタンタルスパッタリングターゲットの製造方法、
7)溶解鋳造したタンタルインゴットを鍛造及び再結晶焼鈍した後、圧延及び熱処理し、ターゲットのスパッタ面において、(200)面の配向率が60%以下、かつ、(222)面の配向率が20%以上である結晶組織を形成することを特徴とする上記6)記載のタンタルスパッタリングターゲットの製造方法、
8)溶解鋳造したタンタルインゴットを鍛造及び再結晶焼鈍した後、圧延及び熱処理し、ターゲットのスパッタ面において、(200)面の配向率が50%以下、かつ、(222)面の配向率が30%以上である結晶組織を形成することを特徴とする上記6)記載のタンタルスパッタリングターゲットの製造方法、
9)圧延ロール径500mm以上の圧延ロールを用いて、圧延速度10m/分以上、圧延率80%超で冷間圧延することを特徴とする上記6)〜8)のいずれかに記載のタンタルスパッタリングターゲットの製造方法、
10)圧延及び熱処理を2回以上繰り返し、圧延ロール径500mm以上の圧延ロールを用いて、圧延速度10m/分以上、圧延率60%以上で冷間圧延することを特徴とする上記6)〜8)のいずれかに記載のタンタルスパッタリングターゲットの製造方法、
11)温度900℃〜1400℃で熱処理することを特徴とする上記6)〜10)のいずれかに記載のタンタルスパッタリングターゲットの製造方法、
12)鍛造及び再結晶焼鈍を2回以上繰り返すことを特徴とする上記6)〜11)のいずれかに記載のタンタルスパッタリングターゲットの製造方法、
13)圧延及び熱処理後、切削、研磨により表面仕上げを行うことを特徴とする上記6)〜12)のいずれかに記載のタンタルスパッタリングターゲットの製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のタンタルスパッタリングターゲットは、ターゲットのスパッタ面における結晶配向を制御することにより、スパッタレートを早めることができ、これにより、短時間で必要な膜厚を成膜することが可能となり、スループットを向上することができるという優れた効果を有する。特に活発なCuの拡散による配線周囲の汚染を効果的に防止することができるTa膜又はTaN膜などからなる拡散バリア層の形成に優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例及び比較例に係る結晶配向とスパッタレートとの関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のタンタルスパッタリングターゲットは、そのスパッタ面における(200)面の配向率を低くすること、かつ、(222)面の配向率を高くすることが特徴である。
タンタルの結晶構造は体心立方格子構造(略称、BCC)であるため、(222)面の方が(200)面よりも隣接する原子間距離が短く、(222)面の方が(200)面よりも原子が密に詰まっている状態にある。このため、スパッタリングの際、(222)面の方が(200)面よりもタンタル原子をより多く放出して、スパッタレート(成膜速度)が早くなると考えられる。
【0016】
本発明において、タンタルスパッタリングターゲットは、そのスパッタ面における(200)面の配向率は70%以下、かつ、(222)面の配向率は10%以上とすることが好ましい。より好ましくは、(200)面の配向率は60%以下、かつ、(222)面の配向率は20%以上とし、さらに好ましくは、(200)面の配向率は60%以下、かつ、(222)面の配向率は20%以上とする。
なお、安定な結晶構造を得るために(200)面の配向率は50%以上、(222)面の配向率は30%以下であることが好ましい。(200)面の配向率の下限値は30%、(222)面の配向率の上限値は40%とすることが望ましい。(200)面の配向率の下限値及び(222)面の配向率の上限値は、特に制限はないが、(200)面の配向率が30%より小さい場合、また(222)面の配向率が40%より大きい場合は、スパッタレートが10Å/secを超えるので、薄いTaバリア膜を成膜する際には、成膜時間が短くなりすぎ、均一なバリア膜を得るのが難しくなるためである。しかしながら、必要に応じて上記(200)面の配向率の下限値30%、(222)面の配向率の上限値40%を超えて実施することも可能である。
【0017】
本発明において配向率とは、X線回折法によって得られる(110)、(200)、(211)、(310)、(222)、(321)それぞれの回折ピークの測定強度を標準化し、それぞれの面方位の強度の総和を100とした時の、特定の面方位の強度比を意味する。なお、標準化にはJCPDS(Joint Committee for Powder Diffraction Standard)を用いた。
例えば、(200)面の配向率(%)は、{[(200)の測定強度/(200)のJCPDS強度]/Σ(各面の測定強度/各面のJCPDS強度)}×100となる。
【0018】
本発明のタンタルスパッタリングターゲットは、銅配線におけるTa膜又はTaN膜などの拡散バリア層を形成するために用いることができる。スパッタ時の雰囲気に窒素を導入してTaN膜を成膜する場合においても、本発明のスパッタリングターゲットは、従来に比べてスパッタレートを早くすることができる。このようにスパッタ効率を向上させることができるので、従来よりも短時間で必要な膜厚を成膜することができ、当該Ta膜又はTaN膜などの拡散バリア層を備えた銅配線形成、さらに、その銅配線を備えた半導体デバイス製造において、スループットを著しく向上することができる。
【0019】
本発明のタンタルスパッタリングターゲットは、次のような工程によって製造する。その例を示すと、まず、タンタル原料として、通常4N(99.99%)以上の高純度タンタルを使用する。これを電子ビーム溶解等により溶解し、これを鋳造してインゴット又はビレットを作製する。次に、このインゴット又はビレットを、鍛造、再結晶焼鈍、を行う。具体的には、例えば、インゴット又はビレット−締め鍛造−1100〜1400℃の温度での焼鈍−冷間鍛造(一次鍛造)−再結晶温度〜1400℃の温度での焼鈍−冷間鍛造(二次鍛造)−再結晶温度〜1400℃の温度での焼鈍を行う。
【0020】
次に、冷間圧延を行う。この冷間圧延の条件を調整することで、本発明のタンタルスパッタリングターゲットの配向率を制御することができる。具体的には、圧延ロールはロール径が大きいものがよく、500mmφ以上のものが好ましい。また、圧延速度はできるだけ速い方がよく、10m/min以上が好ましい。さらに、圧延を1回のみ実施する場合は、圧延率は高く80%超であることが好ましく、圧延を2回以上繰り返す場合は、圧延率は60%以上とし、ターゲットの最終厚みを圧延1回の場合と同じにする必要がある。
【0021】
次に、熱処理を行う。冷間圧延の条件と併せて、冷間圧延後に行う熱処理条件を調整することで、本発明のタンタルスパッタリングターゲットの配向率を制御することができる。具体的には熱処理温度は高い方が良く、好ましくは900〜1400℃とする。圧延で導入される歪みの量にもよるが、再結晶組織を得るためには900℃以上の温度で熱処理する必要がある。一方、1400℃超で熱処理することは、経済的に好ましくない。この後、ターゲットの表面を機械加工、研磨加工等の仕上げ加工によって、最終的な製品に仕上げる。
【0022】
上記の製造工程によってタンタルターゲットを製造するが、本発明において特に重要なことは、ターゲットのスパッタ面の結晶配向において、(200)配向率を低くし、かつ、(222)配向率を高くすることである。
配向の制御に大きくかかわるのは、主として圧延工程である。圧延工程においては、圧延ロールの径、圧延速度、圧延率等のパラメータを制御することにより、圧延時に導入される歪みの量や分布を変えることが可能となり、(200)面配向率及び(222)面配向率の制御が可能となる。
面配向率の調整を効果的に行うには、ある程度の繰り返しの条件設定が必要であるが、一旦(200)面配向率及び(222)面配向率の調整ができると、その製造条件を設定することにより、恒常的特性の(一定レベルの特性を持つ)ターゲットの製造が可能となる。
通常、ターゲットを製造する場合には、圧延ロール径500mm以上の圧延ロールを使用し、圧延速度を10m/min以上、1パスの圧延率を8〜12%とすることが有効である。しかし、本発明の結晶配向が達成できる製造工程であれば、必ずしも、この製造工程のみに限定する必要はない。一連の加工において、鍛造・圧延で鋳造組織を破壊するとともに、再結晶化を十分に行うという条件設定が有効である。
さらに、溶解鋳造したタンタルインゴット又はビレットに鍛造し、圧延等の加工を加えた後は、再結晶焼鈍し、組織を微細かつ均一化するのが望ましい。
【実施例】
【0023】
次に、実施例に基づいて本発明を説明する。以下に示す実施例は、理解を容易にするためのものであり、これらの実施例によって本発明を制限するものではない。すなわち、本発明の技術思想に基づく変形及び他の実施例は、当然本発明に含まれる。
【0024】
純度99.995%のタンタル原料を電子ビーム溶解し、これを鋳造して直径195mmφのインゴットとした。次に、このインゴットを室温で締め鍛造して直径150mmφとし、これを1100〜1400℃の温度で再結晶焼鈍した。再度、これを室温で鍛造して厚さ100mm、直径150mmφとし(一次鍛造)、これを再結晶温度〜1400℃の温度で再結晶焼鈍した。さらに、これを室温で鍛造して厚さ70〜100mm、直径150〜185mmφとし(二次鍛造)、これを再結晶温度〜1400℃の温度で再結晶焼鈍して、ターゲット素材を得た。
【0025】
(実施例1)
実施例1では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径650mmの圧延ロールを用いて、圧延速度20m/min、圧延率92%で冷間圧延して厚さ8mm、直径520mmφとし、これを1000℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。以上の工程により、(200)配向率が38.6%、(222)配向率が37.8%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施したところ、スパッタレートが9.52Å/secと良好であり、スパッタ効率を向上させることができた。この結果を表1に示す。
なお、スパッタリングの条件は以下のとおりである。
電源:直流方式
電力:15kW
到達真空度:5×10-8Torr
雰囲気ガス組成:Ar
スパッタガス圧:5×10-3Torr
スパッタ時間:15秒
【0026】
(実施例2)
実施例2では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径650mmの圧延ロールを用いて、圧延速度20m/min、圧延率66%で冷間圧延して厚さ24mm、直径300mmφとし、これを1100℃の温度で熱処理した。再度、これを圧延率67%で冷間圧延して厚さ8mm、直径520mmφとし、これを900℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。以上の工程により、(200)配向率が39.6%、(222)配向率が34.5%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施したところ、スパッタレートが9.23Å/secと良好であり、スパッタ効率を向上させることができた。この結果を表1に示す。
【0027】
(実施例3)
実施例3では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径500mmの圧延ロールを用いて、圧延速度20m/min、圧延率91%で冷間圧延して厚さ8mm、直径520mmφとし、これを1000℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。以上の工程により、(200)配向率が40.8%、(222)配向率が35.7%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施したところ、スパッタレートが9.19Å/secと良好であり、スパッタ効率を向上させることができた。この結果を表1に示す。
【0028】
(実施例4)
実施例4では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径650mmの圧延ロールを用いて、圧延速度15m/min、圧延率65%で冷間圧延して厚さ24mm、直径300mmφとし、これを1100℃の温度で熱処理した。再度、これを圧延率67%で冷間圧延して厚さ8mm、直径520mmφとし、これを900℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。以上の工程により、(200)配向率が45.2%、(222)配向率が32.7%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施したところ、スパッタレートが9.18Å/secと良好であり、スパッタ効率を向上させることができた。この結果を表1に示す。
【0029】
(実施例5)
実施例5では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径650mmの圧延ロールを用いて、圧延速度15m/min、圧延率90%で冷間圧延して厚さ8mm、直径520mmφとし、これを1200℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。以上の工程により、(200)配向率が53.4%、(222)配向率が21.2%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施したところ、スパッタレートが8.96Å/secと良好であり、スパッタ効率を向上させることができた。この結果を表1に示す。
【0030】
(実施例6)
実施例6では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径500mmの圧延ロールを用いて、圧延速度20m/min、圧延率92%で冷間圧延して厚さ8mm、直径520mmφとし、これを900℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。以上の工程により、(200)配向率が55.4%、(222)配向率が20.4%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施したところ、スパッタレートが8.91Å/secと良好であり、スパッタ効率を向上させることができた。この結果を表1に示す。
【0031】
(実施例7)
実施例7では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径500mmの圧延ロールを用いて、圧延速度10m/min、圧延率90%で冷間圧延して厚さ8mm、直径520mmφとし、これを1400℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。以上の工程により、(200)配向率が63.9%、(222)配向率が16.8%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施したところ、スパッタレートが8.86Å/secと良好であり、スパッタ効率を向上させることができた。この結果を表1に示す。
【0032】
(実施例8)
実施例8では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径500mmの圧延ロールを用いて、圧延速度20m/min、圧延率82%で冷間圧延して厚さ8mm、直径520mmφとし、これを900℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。以上の工程により、(200)配向率が69.8%、(222)配向率が12.1%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施したところ、スパッタレートが8.66Å/secと良好であり、スパッタ効率を向上させることができた。この結果を表1に示す。
【0033】
(比較例1)
比較例1では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径650mmの圧延ロールを用いて、圧延速度20m/min、圧延率80%で冷間圧延して厚さ8mm、直径520mmφとし、これを800℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。以上の工程により、(200)配向率が77.2%、(222)配向率が9.6%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施したところ、スパッタレートが8.27Å/secと悪く、スループットを低下させる原因となった。この結果を同様に表1に示す。
【0034】
(比較例2)
比較例2では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径500mmの圧延ロールを用いて、圧延速度15m/min、圧延率80%で冷間圧延して厚さ8mm、直径520mmφとし、これを800℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。以上の工程により、(200)配向率が78.7%、(222)配向率が8.3%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施したところ、スパッタレートが8.21Å/secと悪く、スループットを低下させる原因となった。この結果を同様に表1に示す。
【0035】
(比較例3)
比較例3では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径400mmの圧延ロールを用いて、圧延速度10m/min、圧延率78%で冷間圧延して厚さ8mm、直径520mmφとし、これを1100℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。以上の工程により、(200)配向率が85.3%、(222)配向率が8.0%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施したところ、スパッタレートが8.05Å/secと悪く、スループットを低下させる原因となった。この結果を同様に表1に示す。
【0036】
(比較例4)
比較例4では、得られたターゲット素材を、圧延ロール径400mmの圧延ロールを用いて、圧延速度10m/min、圧延率75%で冷間圧延して厚さ8mm、直径520mmφとし、これを1200℃の温度で熱処理した。その後、表面を切削、研磨してターゲットとした。以上の工程により、(200)配向率が87.5%、(222)配向率が6.8%の結晶組織を有するタンタルスパッタリングターゲットを得ることができた。このスパッタリングターゲットを使用して、スパッタリングを実施したところ、スパッタレートが7.83Å/secと悪く、スループットを低下させる原因となった。この結果を同様に表1に示す。
【0037】
以上の実施例及び比較例が示すように、本願発明の条件の範囲にあるものはスパッタレートが早く、スループットを向上させることができる。また、実施例及び比較例における結晶配向とスパッタレートとの関係を図1に示す。図1に示されるとおり、(200)面の配向率が下がるにつれて、また、(222)面の配向率が上がるにつれて、スパッタレートが早くなることが分かる。
【0038】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、タンタルスパッタリングターゲットを提供するものであり、ターゲットのスパッタ面における結晶配向を制御することによって、スパッタレートを早めることができ、これにより、短時間で必要な膜厚を成膜することが可能となり、スループットを向上することができるという優れた効果を有する。
本発明のタンタルスパッタリングターゲットは特に、活発なCuの拡散による配線周囲の汚染を効果的に防止することができるTa膜又はTaN膜などからなる拡散バリア層の形成に有用である。
図1