(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133701
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】浮体の係留装置
(51)【国際特許分類】
B63B 21/00 20060101AFI20170515BHJP
B63B 21/29 20060101ALI20170515BHJP
B63B 35/34 20060101ALI20170515BHJP
E04H 9/14 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
B63B21/00 E
B63B21/29
B63B35/34 Z
E04H9/14 Z
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-126223(P2013-126223)
(22)【出願日】2013年6月17日
(65)【公開番号】特開2015-660(P2015-660A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2016年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】三井造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091591
【弁理士】
【氏名又は名称】望月 秀人
(72)【発明者】
【氏名】森山 誠
【審査官】
岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭56−120480(JP,A)
【文献】
実開昭53−077596(JP,U)
【文献】
実公昭57−008550(JP,Y2)
【文献】
登録実用新案第3178947(JP,U)
【文献】
実開昭63−104414(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 21/00,21/29,35/34
E04H 9/14
E02B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水位の変化に応じて昇降する水面に浮遊する浮体を、所望の位置に留まるよう規制する浮体の係留装置において、
水底に移動可能に設置した着底部材に起立させて設けて、上部を水面より突出させた複数本の係留杭と、
前記係留杭に連係して前記昇降が案内されて浮遊する浮体と、
前記係留杭の下部に先端部を固定し、基端部を水底に固定されたアンカー手段に固定した杭拘束手段と、
前記浮体が該係留杭から離脱することを防止する浮体離脱防止手段とからなることを特徴とする浮体の係留装置。
【請求項2】
前記浮体離脱防止手段は、前記着底部材と前記浮体との間に掛け渡した離脱防止索であることを特徴とする請求項1に記載の浮体の係留装置。
【請求項3】
前記離脱防止索は、該離脱防止索を連係させた着底部材に対して回動可能とし、前記離脱防止索を該着底部材に対して巻き取らせてあることを特徴とする請求項2に記載の浮体の係留装置。
【請求項4】
前記浮体離脱防止手段は、前記係留杭の上端部に設けた離脱防止堰であり、浮体が上昇した状態で該離脱防止堰に係合することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の浮体の係留装置。
【請求項5】
水位の変化に応じて昇降する水面に浮遊する浮体を、所望の位置に留まるように規制する浮体の係留装置において、
前記浮体に連係して前記昇降を案内すると共に、浮力を受けて、上部が水面より突出して浮遊する複数本の係留杭と、
前記係留杭のそれぞれの水中にある下部に先端部を固定した杭拘束手段と、
前記杭拘束手段の基端部を固定したアンカーウェイトと、
前記アンカーウェイトのうちの1個または2個以上を水底に固定し、他のアンカーウェイトは固定されていないことを特徴とする浮体の係留装置。
【請求項6】
前記係留杭の下部を連結する連結部材を備え、前記係留杭と連結部材とのいずれか一方又は双方の比重を小さくしてこれら係留杭と連結部材とを浮遊させてあることを特徴とする請求項5に記載の浮体の係留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大津波の発生等によって潮位が異常に上昇した場合であっても、海面に浮遊する浮桟橋等の浮体が流出してしまうことを極力防止するための係留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海底で巨大地震が発生した場合に沿岸部には大津波が発生するおそれがある。この大津波により、港湾内に係留されていた船舶等が陸地にまで運ばれたり、引き波によって海上に引き戻されたりするおそれがある。また、大津波が河川を遡上する場合には河川に係留されていた浮桟橋等が流されてしまうおそれがある。港湾内や河川に係留されている浮桟橋等の浮体のうちの杭係留方式のものでは潮位や水位の変化に応じて係留杭に沿って昇降するが、大津波等の場合には係留杭に作用する力が杭の許容値を超えてしまい、係留杭が引き倒されたり、水底から引き抜かれてしまうおそれがある。係留杭が破損した場合で、浮体が係留杭から離脱してしまうと浮体が流出し、漂流したり、該浮体が破損して沈没してしまうおそれがある。あるいは、漂流した浮体が他の浮体や船舶等に衝突して大きな被害をもたらすおそれがある。
【0003】
また、浮体の係留を水底に一端を固定したチェーンにより行うチェーン係留方式のものでは、大津波等が
襲来した場合には浮体が移動するおそれがあるが、複数本のチェーンで係留させてあるため、全てのチェーンが切断されない限り浮体が流出してしまうことが防止される。なお、チェーン係留方式では杭係留方式に比べて通常時の波の影響による浮体の揺れは大きい。
【0004】
例えば、特許文献1には、津波の発生時に海岸近くの住民が迅速に避難することが可能であるとともに、高い津波が発生した時にも充分な安全性を確保することができ、容易に迅速な避難を可能とするフロート式津波避難所が開示されている。このフロート式津波避難所は、地中に打ち込まれた支柱と、該支柱の地上部分に設けられた避難台とからなり、この避難台を海面上に浮遊させることが可能なフロートを備えてなるとともに、該フロートの浮力により前記支柱に沿って上昇可能とされているものである。
【0005】
また、特許文献2には、海洋構造物を海洋に浮上させて設置可能とすると共に、水位の変化(水面の上下動)による浮き沈みをなくして陸地と構造物との間に恒久的な橋や鉄橋などを架設可能とする海洋構造物が開示されている。この特許文献2には、海洋構造物の海中構造体の下方に係留チェーンによりバランスウェートを設け、また海中構造体を係留チェーンにより海底に設けた固定構造体で支持する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−112089号公報
【特許文献2】特開2000−96546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたフロート式津波避難所は、支柱によって避難台を支持している構造であるために、予想を大きく上回る規模の大津波が発生して、津波による力が支柱の許容値を超えてしまう場合には、支柱を損壊して避難台を流出させてしまうおそれがある。
【0008】
また、引用文献2に開示されている前述した係留チェーンを用いた海洋構造物では、バランスウェートによって海洋構造物の重心位置が海中の深い下方の位置となって安定し、干満による潮位の変化や波浪による動揺が少なくなる。しかし、係留チェーンはバランスウェートに対して移動可能に連係されるから、波の進行に応じて海洋構造物の各部の高さ位置が変化することになり、杭係留方式に比べて揺れが大きくなることを避けられない。
【0009】
そこで、この発明は、通常時には干満による潮位の変化に追随して昇降することを許容すると共に、波に対する揺れが少なく、しかも、大津波等の襲来があった場合にも流出することを極力防止する浮体の係留装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するための技術的手段として、この発明に係る浮体の係留装置は、水位の変化に応じて昇降する水面に浮遊する浮体を、所望の位置に留まるよう規制する浮体の係留装置において、水底に移動可能に設置した着底部材に起立させて設けて、上部を水面より突出させた
複数本の係留杭と、前記係留杭に連係して前記昇降が案内されて浮遊する浮体と、前記係留杭の下部に先端部を固定し、基端部を水底に固定されたアンカー手段に固定した杭拘束手段と、前記浮体が該係留杭から離脱することを防止する浮体離脱防止手段とからなることを特徴としている。
【0011】
通常時は前記着底部材は水底に沈んだ状態にあり、この着底部材から起立させた係留杭に前記浮体が連係して水位の変化に応じて昇降する。大津波等の襲来があると潮位や河川の水位が通常の場合よりも大きく上昇する。この水位の上昇に応じて浮体が上昇し、水底に固定されていない前記着底部材も浮体の上昇に伴われて上昇する。前記係留杭には前記杭拘束手段により水底に固定されたアンカー手段に連係させてあるから、係留杭が当該位置から流出することが防止される。
【0012】
また、請求項2の発明に係る浮体の係留装置は、前記浮体離脱防止手段は、前記着底部材と前記浮体との間に掛け渡した離脱防止索であることを特徴としている。
【0013】
浮体が上昇すると前記離脱防止索が緊張して着底部材を水底から引き上げて浮上させる。これにより、係留杭も上昇するから、係留杭と浮体との連係関係は維持され、浮体が係留杭から離脱しない。また、係留杭は前記杭拘束手段により水底に固定されたアンカー手段に連係させてあるから、浮体が流出することが防止される。
【0014】
また、請求項3の発明に係る浮体の係留装置は、前記離脱防止索は、該離脱防止索を連係させた着底部材に対して回動可能とし、前記離脱防止索を該着底部材に対して巻き取らせてあることを特徴としている。
【0015】
前記浮体が通常時の水位の変化に応じて円滑に昇降するためには、前記離脱防止索が緊張している状態では不都合であり、弛緩させた状態にある必要がある。通常時の水位の変化に対してはこの弛緩した範囲内で浮体の昇降を許容する。大津波等で水位が異常に上昇した場合には離脱防止索が緊張し、さらに浮体が上昇すると、着底部材に巻き取られた部分が巻き解かれて浮体を係留杭の上部まで上昇することを許容し、その後離脱防止索の緊張によって着底部材を引き上げながら浮体が上昇する。
【0016】
また、請求項4の発明に係る浮体の係留装置は、前記浮体離脱防止手段は、前記係留杭の上端部に設けた離脱防止堰であり、浮体が上昇した状態で該離脱防止堰に係合することを特徴としている。
【0017】
浮体が係留杭に対して上部まで上昇すると、前記離脱防止堰に係合して係留杭から離脱することが防止される。係留杭は前記着底部材に突出させてあるから、浮体が係留杭を伴って更に上昇すると、着手部材が引き上げられる。係留杭には水底に固定されたアンカー手段に杭拘束手段で連係させてあるから、係留杭と浮体は流出することがない。なお、この離脱防止堰と前記離脱防止索とを組み合わせた浮体離脱防止手段とすることもできる。
【0018】
また、請求項5の発明に係る浮体の係留装置は、水位の変化に応じて昇降する水面に浮遊する浮体を、所望の位置に留まるように規制する浮体の係留装置において、前記浮体に連係して前記昇降を案内すると共に、浮力を受けて、上部が水面より突出して浮遊する複数本の係留杭と、前記係留杭のそれぞれの水中にある下部に先端部を固定した杭拘束手段と、前記杭拘束手段の基端部を固定したアンカーウェイトと、前記アンカーウェイトのうちの1個または2個以上を水底に固定し、他のアンカーウェイトは固定されていないことを特徴としている。
【0019】
大津波等の襲来があると水位が通常の場合よりも大きく上昇する。水位の上昇により前記係留杭と浮体とが上昇し、係留杭に前記杭拘束手段を介して連係させた前記アンカーウェイトのうちの固定されていないものは前記係留杭の上昇に伴われて水底を移動し、さらに水底から引き上げられる。一方、水底に固定されているアンカーウェイトは移動することがない。このため、固定されているアンカーウェイトに連係した杭拘束手段の張力を受けて浮体が傾くが、当該位置から流出することが防止される。
【0020】
また、請求項6の発明に係る浮体の係留装置は、前記係留杭の下部を連結する連結部材を備え、前記係留杭と連結部材とのいずれか一方又は双方の比重を小さくしてこれら係留杭と連結部材とを浮遊させてあることを特徴としている。
【0021】
前記係留杭を単独で浮遊させる場合には、例えば、下部の重量を大きくして起立状態を確保すると共に、係留杭が浮体から離脱しない構造を備える。一方、係留杭の下部を前記連結部材で連結させることにより、係留杭を起立状態に保持させることができる。この連結部材を中空として浮力を受けて浮遊するようにすれば、前記浮体を係留杭に連係させることができる。また、連結部材の中空部に、例えば発砲スチロール等の比重の小さい材料を充填することで、該充填量を調整することで比重を調整できる。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明に係る浮体の係留装置によれば、係留杭は水底に沈ませた着底部材に起立させてあるから、通常時には係留杭は定位置にあって浮体の昇降を安定して案内できる。また、潮位の異常な上昇時には浮体の上昇に伴われて着底部材と係留杭とが上昇するが、着底部材は前記杭拘束手段を介してアンカー手段に固定されているため、これら浮体と係留杭、着底部材等は流出することが防止される。
【0023】
また、前記浮体離脱防止手段によって浮体が係留杭から離脱することが防止されるから、浮体の上昇に応じて確実に係留杭と着底部材とが引き上げられ、異常潮位に対しても浮体を沈めることがない。
【0024】
また、請求項5の発明に係る浮体の係留装置によれば、通常時には浮体は定位置で浮遊している係留杭に連係して案内されることにより、潮位の変化に応じて昇降すると共に、浮体の揺れが抑制される。
【0025】
また、大津波等の襲来により潮位が異常に上昇した場合には、浮体と共に係留杭も上昇するが、係留杭は1本または2本以上は前記杭拘束手段を介して水底に固定された前記アンカーウェイトに拘束される。一方、他の係留杭は固定されていないアンカーウェイトに連係させてあるから、当該係留杭が上昇すると固定されていないアンカーウェイトは水底を移動し、さらに引き上げられることになる。このため、浮体は傾いた状態となるが、流出することが防止される。
【0026】
また、請求項6の発明に係る浮体の係留装置によれば、係留杭が連結部材によって連結されているから、該係留杭に姿勢を一定に保つことができ、通常時における浮体の昇降の案内を円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】この発明に係る係留装置の第1の実施形態を示す図で、浮体に実装する場合を示す概略の斜視図である。
【
図2】第1の実施形態に係る係留装置を示す図で、通常潮位時の状態を示している。
【
図3】第1の実施形態に係る係留装置であって、異常潮位時の状態を示している。
【
図4】第1の実施形態に係る浮体の係留装置の概略の平面図である。
【
図5】この発明に係る浮体の係留装置の第2の実施形態を示す図で、通常の潮位の場合の状態を示している。
【
図6】第2の実施形態に係る係留装置であって、異常潮位時の状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図示した好ましい実施の形態に基づいて、この発明に係る浮体の係留装置を具体的に説明する。なお、以下の説明は港湾内等の海面に浮遊させる浮体に関して行っているが、河川や湖沼の水面に浮遊させる浮体について利用できるものである。
【0029】
図1はこの発明に係る係留装置を実装するのに適した浮体について示す概略の斜視図である。浮体1は4本の係留杭2に囲まれた位置に配されており、浮体1の対向する側面から側方に突出させたそれぞれ一対の係合板3が、隣接する係留杭2に連係させて配されている。なお、この係合板3の係留杭2に対向した面には図示しないローラが設けられており、該ローラが係留杭2の側面を転動して円滑に移動できるようにしてある。
【0030】
浮体1と岸壁Gとには渡橋4が掛け渡されており、この渡橋4を渡って人が岸壁Gと浮体1との間を行き来するようにしてある。
【0031】
前記係留杭2の下端には着底部材を構成する支柱5が下方を指向して突設されており、隣接する支柱5には連結ロッド6が掛け渡されている。また、これら連結ロッド6の適宜な位置に適宜な本数の補強ロッド7が掛け渡されて、着底部材が容易に変形することがないようにしてある。また、前記浮体1と前記連結ロッド6とには、浮体離脱防止手段としての離脱防止索8が掛け渡されている。この離脱防止索8には、例えば、ワイヤーロープやリンクチェーン等が用いられており、着税部材が海底に沈下した状態で、通常時の潮位の変化による浮体1の昇降を許容する長さとしてあり、海面が最低位となる干潮時には該離脱防止索8が充分に弛緩し、満潮時にも僅かに弛緩して緊張することがない状態となるようにしてある。
【0032】
前記支柱5の下端部には杭拘束手段としての係留索9の先端部が固定され、この係留索9の基端部は海底Sに固定されたアンカー手段としてのアンカーブロック10に固定されている。なお、係留索9にはワイヤーロープやリンクチェーン等が用いられている。
【0033】
以上により構成されたこの発明の第1実施形態に係る浮体の係留装置の作用を、
図2と
図3を参照して説明する。
【0034】
図2には通常時の潮位の変化によって浮体1が昇降する場合を示しており、着底部材の支柱5と連結ロッド6とが海底Sに沈んだ状態にある。この状態では、支柱5に連結された4本の係留杭2が起立した状態にあって、これら係留杭2に案内されて浮体1が潮位の変化に応じて昇降するようにしてある。このため、潮位に拘わらず前記渡橋4を渡って岸壁Gと浮体1との間を行き来することができる。
【0035】
大津波等の襲来によって異常潮位が発生した場合には浮体1は通常時の場合よりも上方まで上昇する。前記離脱防止索8で浮体1に連係させてある着底部材の前記係留杭2と連結ロッド6等は海底Sに固定されていないため、浮体1の上昇によって前記離脱防止索8が緊張した後は、該浮体1の上昇に伴われて海底Sから離脱して上昇することになる。このため、浮体1が係留杭2から離脱することなく、係留杭2と浮体1とが連係状態を保ちながらこれらは上昇する。一方、係留杭2の下端部には前記係留索9を介してアンカーブロック10に連係させてあり、このアンカーブロック10は海底Sに固定されているから、
図3に示すように、係留杭9はこの係留索9が緊張する状態まで上昇することができる。そして、この係留索9の長さを相当長とすることにより、大津波等の異常潮位時において、浮体1と係留杭2等が流出してしまうことが阻止される。
【0036】
また、大津波等の襲来が治まって、潮位が通常時の状態まで復帰すると、浮体1が通常潮位の位置まで下降し、
図2に示すように、係留杭2と支柱5、連結ロッド6等からなる着底手段も下降し、着底手段が着底する。この状態で係留杭2が起立した状態となる。しかも、異常潮位時でも係留杭2から浮体1が離脱することがないから、大津波等の襲来が治まった後には、浮体1と係留杭2との連係状態が維持されており、浮体1は係留杭2に案内されて潮位の変化に応じて昇降することができる。
【0037】
以上に説明した実施形態では、前記離脱防止索8を連結ロッド6に固定させた場合を説明したが、さらに離脱防止索8の端部を連結ロッド6に巻回させた構造とすることもできる。例えば、連結ロッド6に旋回自在に環状の取付環(図示せず)を設け、この取付環に端部を固定し、該取付環を適宜回数回転させて離脱防止索8を連結ロッド6に巻回した状態とする。異常潮位の発生により浮体1が上昇して離脱防止索8が引かれると、前記取付環が旋回して離脱防止索8を繰り出すようにする。これにより、通常潮位時には該潮位の変化に追随させて浮体1を昇降するのに必要な量で該離脱防止索8を弛緩させられるから、通常潮位時の漂流物が該離脱防止索8に引っ掛かることが極力防止される。しかも、取付環への巻回量を調整することにより、この浮体1を設置する深度に応じて離脱防止索8の弛緩量を調整することができる。
【0038】
また、浮体離脱防止手段に離脱防止索8を用いたものとして説明したが、係留杭2の上部に浮体1の上昇域まで突出させた離脱防止堰(図示せず)を設け、異常潮位時に浮体1が上昇すると、該離脱防止堰に係合して該浮体1が係留杭2から離脱することを防止する構造とすることもできる。なお、前記離脱防止索8とこの離脱防止堰とを組み合わせた構造とすることも好ましい。
【0039】
次に、
図5と
図6に示す第2の実施形態について説明する。なお、第1の実施形態の浮体の係留装置と同一の部位には同一の符号を付してある。
【0040】
図5に示すように、浮体1は係留杭20に連係させてあり、潮位の変化に応じて該係留杭20に案内されて昇降するようにしてある。係留杭20の下部は連結部材21で連結されており、連結部材21同士には図示しない補強ロッドが掛け渡されて、連結部材21が変形しないようにしてある。
【0041】
前記係留杭20は浮体1と共に浮遊させてあり、しかも、浮遊した状態で浮体1の昇降を案内することができるようにしてある。このため、係留杭20と連結部材21とに浮力が付与されている。この浮力を確保するために、係留杭20と連結部材21とを中空構造としたり、あるいは、例えば発泡スチロール等を中空部に充填して比重を小さくすると共に、着底部材の比重の大きさを調整できるようにすることが好ましい。
【0042】
また、前記係留杭20の下端には杭拘束手段としての拘束索22の先端部が固定され、この拘束索22の基端部はアンカーウェイト23a、23bに固定されている。これらアンカーウェイト23のうちの1個または2個以上のアンカーウェイト23aは海底Sに固定された固定ウェイト23aとしてあり、他のアンカーウェイト23bは固定されていない可動ウェイト23bとしてある。
【0043】
潮位が通常の状態で変化する場合には、
図5に示すように、係留杭20と連結部材21とが浮遊した状態で前記拘束索22が緊張して、これらをほぼ定位置で、かつ、係留杭20を起立させて浮遊させるようにしてある。この状態で、浮体1は浮遊している係留杭20に案内されて潮位の変化に応じて昇降するようにしてある。
【0044】
以上により構成されたこの第2実施形態に係る浮体の係留装置の作用を、以下に説明する。
【0045】
通常時には、
図5に示すように、アンカーウェイト23a、23bはいずれも海底Sに沈んだ状態にあり、前記拘束索22が緊張してその張力が、係留杭20と連結部材21に対する浮力と均衡している。この状態で、潮位の変化に応じた浮体1の昇降が係留杭20に案内される。
【0046】
大津波等の襲来により潮位が異常に高くなった場合には、襲来した波浪の勢力を受けて係留杭20と連結部材21とが通常時よりも高く上昇することになる。この係留杭20の上昇によって、前記可動ウェイト23bが海底Sを移動する。該可動ウェイト23bに拘束索22を介して連係させてある係留杭20の下方にまで移動した後には、係留杭20の上昇によって該可動ウェイト23bも上昇する。
【0047】
一方、前記固定ウェイト23aは海底Sに固定されているため、係留杭20の上昇によっても移動したり、上昇したりすることがない。このため、
図6に示すように、固定ウェイト23aが海底Sに固定され、可動ウェイト23bが上昇して、浮体1が係留杭20と連結部材21と共に海中で傾いた状態となる。この状態となっても、固定ウェイト23aによって係留杭20や連結部材21は拘束索22によって拘束されているから、浮体20等が流出してしまうことがない。
【0048】
大津波等が治まって通常潮位になると、浮体1と係留杭20と連結部材21とが
図5の状態に復帰し、可動ウェイト23bは海底Sに沈んだ状態となる。これにより、浮体2が潮位の変化に応じて係留杭20に案内されて昇降することになる。
【0049】
以上説明した第2の実施形態では、係留杭20を連結部材21で連結させ構造として説明したが、係留杭20を浮遊させた状態で姿勢を保つことができれば、連結部材21を要しない。例えば、前述したように、浮体1に取り付けられた前記係合板3には図示しないローラが回動自在に支持されて、係留杭20の側面を転動することで案内されるようにしてあるが、このローラを係留杭20の側面から離脱することのない構造とすることにより、浮体1と係留杭20との係合関係が解除されない構造とすると共に、係留杭20の下部の重量を大きくして起立状態を保つようにして、浮体1と係留杭20との連係状態を保つようにする。これにより、異常潮位となって海面が上昇した場合には、前述と同様に、可動ウェイト23bが移動し上昇することにより、浮体1と係留杭20とは傾いた状態となるが、流出することは阻止される。
【産業上の利用可能性】
【0050】
この発明に係る浮体の係留装置によれば、通常時は係留杭に案内されて昇降するから浮体の揺れが小さく安定させて浮遊させることができ、大津波等の襲来時には係留杭から浮体を離脱させることなく、浮体や係留杭等の流出を防止できるから、大津波等の消滅後における港湾等の迅速な復興に寄与する。
【符号の説明】
【0051】
G 岸壁
1 浮体
2 係留杭
3 係合板
4 渡橋
5 支柱
6 連結ロッド
7 補強ロッド
8 離脱防止索(浮体離脱防止手段)
9 係留索(杭拘束手段)
10 アンカーブロック(アンカー手段)
20 係留杭
21 連結部材
22 拘束索(杭拘束手段)
23a、23b アンカーウェイト