(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
近年、パーソナルコンピュータなどの情報処理分野、携帯電話などの無線通信分野の発展は目覚ましい。これらの分野において情報処理速度を向上させるには、基板の伝播速度の向上、高周波領域での低伝送を実現することが必要である。信号の伝搬速度は誘電率が低いほど高速に近づく。さらに、誘電率が低いほど波形の歪みが小さくなることから、低誘電率である高周波回路基板の開発が検討されている。
【0004】
従来こうした用途には、セラミックが用いられてきたが、加工が困難であること、高価であることが課題であり、加工が容易で、安価である有機材料への材料変更が望まれている。例えば、有機材料として、誘電特性に優れたフッ素樹脂を電気絶縁層とする基板(以下、PTFE基板という)または耐熱性に優れたポリイミドを電気絶縁層とする基板(以下、PI基板という)を用いることが提案されている。
【0005】
しかし、PTFE基板については、フッ素樹脂そのものは優れた高周波特性、耐湿性をもつが、寸法安定性を高めるために用いられるガラスクロス等の影響により、基板全体の高周波特性および耐湿性は低い。PI基板については、高周波特性がPTFE基板より大幅に劣り、また吸湿性が大きく、吸湿により極端に高周波特性が悪化する。
【0006】
そこで、特許文献1(特開平11−309803号公報)には、多層積層板とその製造方法および多層実装回路基板が開示されている。
この文献では、光学的異方性の溶融相を形成し得るポリマーから作製されるフィルムと被着体との積層体が複数、熱圧着によって接合されており、接合された状態で隣接する一方の積層体の被着体と、他方の積層体の被着体とが相対向している場合には、両者の間に光学的異方性の溶融相を形成し得るポリマーから作製されるフィルムからなる中間シートが介装されており、前記積層体のフィルムおよび中間シートは、同一化学組成であり、かつ隣接するフィルムおよび中間シートに、互いに異なる耐熱性が付与されていることを特徴とする多層積層板が開示されている。
【0007】
また、特許文献2(特開2000−263577号公報)には、金属箔積層板の製造方法および金属箔積層板が開示されている。
この文献には、光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマーからなるフィルム(以下、これを熱可塑性液晶ポリマーフィルムと称する)と金属箔とからなる構成材料を重ね合せて平坦な金属プレート間に挟んだ構成のセットを複数セット積み重ね、対向する加熱加圧盤間に装着し、加熱プレスして金属箔積層板を製造する方法において、対向する加熱加圧盤間に装着した後に、(1)加圧することなく、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点より30℃低い温度を上限とする予熱温度まで加熱する予熱工程である第1工程、(2)2kg/cm
2以下のプレス圧力を保ちながら、予熱温度から、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点より5℃低い温度以上融点より5℃高い温度以下の範囲から選択される積層温度まで加熱する昇温工程である第2工程、(3)積層温度で、20kg/cm
2から50kg/cm
2までの範囲から選択されるプレス圧力にまで加圧する加圧工程である第3工程、および(4)加圧工程のプレス圧力を保ちながら、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点より30℃以上低い冷却温度まで冷却する冷却工程である第4工程を行い、その際に、第2工程から第4工程までを30分以内の時間で行い、かつ第1工程から第4工程までを30torr以下の減圧状態で行い、次いで(5)加圧および減圧状態を解除して、金属箔積層板を取り出す排出工程である第5工程を行うことを特徴とする金属箔積層板の製造方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらの特許文献に開示されている多層積層板または金属箔積層板から作製した回路では、回路設計値と実性能が不整合となる場合があり、そのような場合は繰り返し回路を試作する必要があった。
【0010】
従って、本発明の目的は、加熱しても、その誘電特性の変化を抑制することが可能な熱可塑性液晶ポリマーフィルムを提供することにある。
本発明の別の目的は、前記目的に加えて、温度・水分環境が変動した場合、特に、高温および/または高湿条件下にフィルムを曝した場合であっても、優れた誘電特性を示す熱可塑性液晶ポリマーフィルムを提供することにある。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、このような熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いた積層体および回路基板を提供することにある。
本発明の他の目的は、このような積層体または回路基板を効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、まず、(i)熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、温度や電場によっては、得られたフィルムの誘電特性が変化する場合があり、それは、溶融押出によってフィルム化する際、液晶ポリマー分子が高度に配列した異方的な層構造になるためであること、(ii)特に、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いた場合に設計値と回路加工後の電気特性が大きく変わるのは、熱可塑性という性質に起因して、回路加工までの熱や応力で分子配向が変化するためであること、を見出した。そしてさらに研究を進めた結果、発明者らは、液晶ポリマーの分子構造と誘電特性の関係を詳細に研究し、温度や電場による変化が小さい構造のフィルムを製造することに成功した。具体的には、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを製造する際に、特定の工程を組合わせることによって、液晶ポリマーフィルム内の液晶ドメイン構造を変化させ、加熱処理時の分子運動を抑制させ、温度変化や吸湿による誘電特性の変化を低減できることができることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマーからなる液晶ポリマーフィルム(以下、これを熱可塑性液晶ポリマーフィルムと称する)であって、
1〜100GHzの
範囲における少なくとも一点の同一の周波数において、フィルムを加熱する前の比誘電率(ε
r1)に対するフィルムを加熱した後の比誘電率(ε
r2)の変化率が、フィルムを該フィルムの融
点で1時間加熱し
て加熱前後の比誘電率の変化を評価する場合に、下記式(I)を満たす熱可塑性液晶ポリマーフィルムである。
|ε
r2−ε
r1|/ε
r1×100≦5 (I)
(式中、ε
r1は、フィルムを加熱する前の比誘電率であり、ε
r2は、フィルムを加熱した後の比誘電率であり、これらの比誘電率は、同一の周波数において
、20℃で測定される。)
【0014】
前記フィルムにおいて、加熱後のフィルムの比誘電率(ε
r2)は2.6〜3.5程度であってもよく、前記フィルムの誘電正接(Tanδ
2)は0.001〜0.01程度であってもよい。また、この場合の測定温度は、−100〜100℃の温度範囲であってもよいし、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムを、一旦、25℃50%RHおよび85℃85%RH条件に曝した後の比誘電率(ε
r2)および誘電正接(Tanδ
2)が、いずれも、上述の値を示していてもよい。
【0015】
また、本発明は、このような熱可塑性液晶ポリマーフィルムを製造する方法を包含してもよく、前記製造方法は、
(I)熱可塑性液晶ポリマーを溶融押出する工程であって、ダイから溶融押出する際に熱可塑性液晶ポリマーがダイ領域で受けるダイ剪断速度を200秒
−1以上とする溶融押出工程、
(II)押出後の冷却過程で、MD方向の延伸比(またはドロー比:Dr)に対するTD方向の延伸比(またはブロー比:Br)の延伸倍率の比(Br/Dr)を、1.5〜5として延伸を行う延伸工程、
(III)押出成形後の原反フィルムを、張力下で1.5%以上、熱収縮させる熱収縮工程、
(
IV)熱収縮させたフィルムを、被着体と積層した複合体としてフィルムの熱膨張係数を制御した後、フィルムの融点(Tm)から10℃低い温度(Tm−10℃)〜Tmから10℃高い温度(Tm+10℃)の範囲内で加熱してフィルムの熱変形温度(Td)を増加させる熱処理工程、および
(V)熱処理後に被着体から剥離したフィルムに対して、原反フィルムの熱変形温度(Td)から80℃低い温度(Td−80℃)〜Tdから10℃低い温度(Td−10℃)の範囲内で加熱してフィルムのアニール処理を行うアニール工程、
を少なくとも備える熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法である。
【0016】
また、本発明は、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムからなる少なくとも1つのフィルム層と、少なくとも1つの金属層とを備え、前記フィルム層と金属層とを交互に積層させた積層構造を有する積層体についても包含する。
【0017】
この積層体では、超ロープロファイルの金属箔を用いることができ、例えば金属層の表面粗さは、フィルムの厚さの50分の1以下であってもよい。
【0018】
さらに、本発明は、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムと、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に形成された導体回路層と、
を少なくとも含む回路基板を包含する。なお、この回路基板は、複数の導体回路層を備えていてもよい。
【0019】
さらにまた、本発明は、積層体の製造方法についても包含し、前記製造方法は、
(i)請求項1〜4のいずれか一項に記載の液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に金属層が熱圧着された金属積層フィルムを準備する金属積層フィルム準備工程と、
(ii)複数の前記金属積層フィルム同士を、または少なくとも一つの金属積層フィルムと少なくとも一つの熱可塑性液晶ポリマーフィルムとを、フィルム層と金属層とが交互に積層した状態で積み重ねた基板セットを、少なくとも1セット準備して、対向する加熱加圧盤間に装着する基板セット装着工程と、
(iii)前記加熱加圧盤を加熱して、前記装着された基板セットを熱圧着によって接合する接合工程と、
を含む積層体の製造方法であって、
前記加熱加圧盤は、金属層の熱膨張を吸収するための微小凸部を有している。
【0020】
この製造方法において、加熱加圧盤に形成された微小凸部は、基板セット側において加熱加圧盤の端部から中央部に向かって盛り上がる凸部であってもよく、中央部における凸部の高さが10〜500μm程度であってもよい。
【0021】
なお、本発明において、MD方向とはフィルムの機械軸方向を意味し、TD方向とはこれと直交する方向を意味する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムでは、液晶ドメイン構造を制御したフィルムであるため、熱可塑性フィルムであっても、加熱前後の誘電特性を安定させるができる。
【0023】
特に、このようなフィルムでは、温度・水分環境が変動した場合や、特に、高温および/または高湿条件下にフィルムを曝した場合であっても、液晶ポリマ−フィルムの優れた誘電特性を維持することができる。
【0024】
さらに、本発明では、特定の加熱加圧盤を有する熱圧着装置を用いることにより、熱圧着後であっても優れた誘電特性を維持できる積層体や回路基板を効率よく作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、1〜100GHzの
範囲における少なくとも一点の同一の周波数において、フィルムを加熱する前の比誘電率(ε
r1)に対するフィルムを加熱した後の比誘電率(ε
r2)の変化率が、フィルムを該フィルムの融
点で1時間加熱し
て加熱前後の比誘電率の変化を評価する場合に、下記式(I)を満たす熱可塑性液晶ポリマーフィルムである。
|ε
r2−ε
r1|/ε
r1×100≦5 (I)
(式中、ε
r1は、フィルムを加熱する前の比誘電率であり、ε
r2は、フィルムを加熱した後の比誘電率ε
r2であり、これらの比誘電率は、同一の周波数において
、20℃で測定される。)
【0027】
(熱可塑性液晶ポリマー)
前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、溶融成形できる液晶性ポリマー(または光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマー)で構成され、この熱可塑性液晶ポリマーは、溶融成形できる液晶性ポリマーであれば特にその化学的構成については特に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性液晶ポリエステル、又はこれにアミド結合が導入された熱可塑性液晶ポリエステルアミドなどを挙げることができる。
【0028】
また熱可塑性液晶ポリマーは、芳香族ポリエステルまたは芳香族ポリエステルアミドに、更にイミド結合、カーボネート結合、カルボジイミド結合やイソシアヌレート結合などのイソシアネート由来の結合等が導入されたポリマーであってもよい。
【0029】
本発明に用いられる熱可塑性液晶ポリマーの具体例としては、以下に例示する(1)から(4)に分類される化合物およびその誘導体から導かれる公知の熱可塑性液晶ポリエステルおよび熱可塑性液晶ポリエステルアミドを挙げることができる。ただし、光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマーを形成するためには、種々の原料化合物の組合せには適当な範囲があることは言うまでもない。
【0030】
(1)芳香族または脂肪族ジヒドロキシ化合物(代表例は表1参照)
【表1】
【0031】
(2)芳香族または脂肪族ジカルボン酸(代表例は表2参照)
【表2】
【0032】
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸(代表例は表3参照)
【表3】
【0033】
(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸(代表例は表4参照)
【表4】
【0034】
これらの原料化合物から得られる液晶ポリマーの代表例として表5および6に示す構造単位を有する共重合体を挙げることができる。
【0037】
これらの共重合体のうち、p―ヒドロキシ安息香酸および/または6−ヒドロ
キシ−2−ナフトエ酸を少なくとも繰り返し単位として含む重合体が好ましく、特に、(i)p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロ
キシ−2−ナフトエ酸との繰り返し単位を含む重合体、(ii)p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロ
キシ−2−ナフトエ酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ヒドロキシカルボン酸と、4,4’−ジヒドロキシビフェニルおよびヒドロキノンからなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジオールと、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸との繰り返し単位を含む重合体が好ましい。
【0038】
例えば、(i)の重合体では、熱可塑性液晶ポリマーが、少なくともp−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロ
キシ−2−ナフトエ酸との繰り返し単位を含む場合、繰り返し単位(A)のp−ヒドロキシ安息香酸と、繰り返し単位(B)の6−ヒドロ
キシ−2−ナフトエ酸とのモル比(A)/(B)は、液晶ポリマー中、(A)/(B)=10/90〜90/10程度であるのが望ましく、より好ましくは、(A)/(B)=50/50〜85/15程度であってもよく、さらに好ましくは、(A)/(B)=60/40〜80/20程度であってもよい。
【0039】
また、(ii)の重合体の場合、p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロ
キシ−2−ナフトエ酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ヒドロキシカルボン酸(C)と、4,4’−ジヒドロキシビフェニルおよびヒドロキノンからなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジオール(D)と、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸(E)の、液晶ポリマーにおける各繰り返し単位のモル比は、芳香族ヒドロキシカルボン酸(C):前記芳香族ジオール(D):前記芳香族ジカルボン酸(E)=30〜80:35〜10:35〜10程度であってもよく、より好ましくは、(C):(D):(E)=35〜75:32.5〜12.5:32.5〜12.5程度であってもよく、さらに好ましくは、(C):(D):(E)=40〜70:30〜15:30〜15程度であってもよい。
【0040】
また、芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位と芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位とのモル比は、(D)/(E)=95/100〜100/95であることが好ましい。この範囲をはずれると、重合度が上がらず機械強度が低下する傾向がある。
【0041】
なお、本発明にいう溶融時における光学的異方性とは、例えば試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を観察することにより認定できる。
【0042】
熱可塑性液晶ポリマーとして好ましいものは、融点(以下、Tmと称す)が260〜360℃の範囲のものであり、さらに好ましくはTmが270〜350℃のものである。なお、Tmは示差走査熱量計((株)島津製作所DSC)により主吸熱ピークが現れる温度を測定することにより求められる。
【0043】
前記熱可塑性液晶ポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲内で、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエステルエーテルケトン、フッ素樹脂等の熱可塑性ポリマー、各種添加剤、充填剤などを添加してもよい。
【0044】
本発明に使用される熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、熱可塑性液晶ポリマーを押出成形して得られる。熱可塑性液晶ポリマーの剛直な棒状分子の方向を制御できる限り、周知のTダイ法、ラミネート体延伸法などの任意の押出成形法が適用できるが、特にインフレーション法が好ましい。
【0045】
本発明では、押出成形の際、以下の第一工程から第五工程までの工程を組合わせて行うことにより、液晶ポリマーの分子構造を制御し、加熱による誘電特性の変化が小さいフィルムを製造することができる。
【0046】
(第一工程)
第一工程では、溶融押出時の熱可塑性液晶ポリマーへの剪断速度を制御して、ダイから熱可塑性液晶ポリマーを溶融押出する。この際、ダイから溶融押出する際に熱可塑性液晶ポリマーがダイ領域で受けるダイ剪断速度(単に、剪断速度と称する場合がある)は、製膜する厚みなどに応じて、200秒
−1以上(例えば、200〜5000秒
−1程度)、好ましくは300〜4000秒
−1程度から選択することができる。
【0047】
(第二工程)
第二工程では、押出後の冷却過程での縦横延伸比率を制御する。ダイから溶融押出されたシート(特に、リングダイを用いた場合には、円筒状シート)に対して、所定のドロー比(MD方向の延伸倍率に相当する)およびブロー比(TD方向の延伸倍率に相当する)で延伸を行う。この際の延伸倍率は、MD方向の延伸倍率(またはDr)とTD方向の延伸倍率(またはBr)とのそれぞれの延伸倍率の比(Br/Dr)として、例えば、1.5〜5、好ましくは2.0〜4.5程度であってもよい。
【0048】
(第三工程)
第三工程では、押出成形後のフィルムを、熱収縮させることによって、フィルム内部に存在する歪みを緩和させる。
この際、熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、張力下(例えば、MD方向に2.0〜3.0kg/mm
2程度)で、幅方向に1%以上の熱収縮、好ましくは1.5%以上、熱収縮させる。なお、熱収縮率の上限は、フィルムに応じて適宜決定されるが、通常幅方向で4%程度である。熱収縮を行う際の熱風乾燥炉の設定温度は、例えば200〜290℃程度、好ましくは230〜270℃程度であってもよい。
【0049】
(第四工程)
そして、第四工程では、一旦熱収縮させたフィルムを、更に溶融温度付近で加熱することによって、フィルム内部に存在する液晶ドメインの分子量を増加させる。このような液晶ドメインの分子量の増加は、フィルム自体の熱変形温度の増大として把握することができる。この場合、フィルムは、一旦、該フィルムの熱処理時に形態を保持し得る被着体(例えば、銅箔、アルミニウム箔などの金属箔)と積層した複合体として熱処理を行う。フィルムと被着体の接着は、通常、熱プレス、熱ローラー等の熱圧着によって行われる。このような複合体は、フィルムの熱膨張係数が被着体の熱膨張係数と同じ熱膨張係数(たとえば、16×10
−6〜26×10
−6cm/cm/℃程度)になるように熱処理を行った後、フィルムの融点(Tm)付近の温度、すなわち、Tm−30(℃)〜Tm+10(℃)の範囲内、好ましくはTm−25(℃)〜Tm+5(℃)の範囲内において4〜12時間、好ましくは5〜10時間程度加熱させる。その結果、フィルムの熱変形温度は、原反フィルムの熱変形温度より、例えば、40〜80℃程度、好ましくは、50〜60℃程度上昇する。
【0050】
(第五工程)
第五工程では、アニール処理によって、得られたフィルムの内部歪みの緩和を行なう。具体的には、被着体からフィルムを剥がした後、この熱可塑性液晶ポリマーフィルムを、フィルムの熱変形温度(Td)から90℃低い温度(Td−90℃)〜Tdから10℃低い温度(Td−10℃)に制御した熱風乾燥炉に連続的に供給して、5〜60秒間程度、加熱処理を行い、内部歪みを0.3〜3%程度、好ましくは0.5〜2.5%程度除去する。
【0051】
このようにして得られた本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、熱可塑性ポリマーであるにもかかわらず、加熱前後における分子配向の変化を制御することができるため、高周波領域である1〜100GHzの周波数において、フィルムを加熱する前の比誘電率(ε
r1)に対する、フィルムを加熱した後の比誘電率(ε
r2)の変化率が、加熱前後で5%以下しか変化しない。
【0052】
すなわち、本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、該フィルムを、該フィルムの融点よりも30℃低い温度から融点より10℃高い温度の範囲で、例えば、少なくとも1時間(例えば、2時間)加熱した場合に、加熱前後における比誘電率に関し、下記式(I)を満たしている。
|ε
r2−ε
r1|/ε
r1×100≦5 (I)
(式中、ε
r1は、フィルムを加熱する前の比誘電率であり、ε
r2は、フィルムを加熱した後の比誘電率ε
r2であり、これらの比誘電率は、1〜100GHzの範囲内の同一の周波数において測定される。)
なお、ここで比誘電率は、後述する実施例に記載した方法により測定される値である。
【0053】
好ましくは、1〜100GHzの周波数において、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの加熱後の比誘電率(ε
r2)は、例えば2.6〜3.5であってもよく、より好ましくは2.6〜3.4であってもよい。
【0054】
また、1〜100GHzの周波数において、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの加熱後の誘電正接(Tanδ
2)は、例えば0.001から0.01であってもよく、より好ましくは0.001から0.008であってもよい。
【0055】
好ましくは、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの加熱後の比誘電率(ε
r2)および誘電正接(Tanδ
2)は、いずれも、測定温度が−100〜100℃の温度範囲において上述の値を示していてもよい。
【0056】
また好ましくは、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの加熱後の比誘電率(ε
r2)および誘電正接(Tanδ
2)は、いずれも、25℃50%RHおよび85℃85%RH条件に曝した後であっても、上述の値を示していてもよい。
【0057】
本発明において使用される熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、任意の厚みであってもよく、そして、5mm以下の板状またはシート状のものをも包含する。ただし、高周波伝送線路に使用する場合は、厚みが厚いほど伝送損失が小さくなるので、できるだけ厚みを厚くする必要がある。しかしながら電気絶縁層として熱可塑性液晶ポリマーフィルムを単独で用いる場合、そのフィルムの膜厚は、10〜500μmの範囲内にあることが好ましく、15〜200μmの範囲内がより好ましい。フィルムの厚さが薄過ぎる場合には、フィルムの剛性や強度が小さくなることから、フィルム膜厚10〜200μmの範囲のフィルムを積層させて任意の厚みを得る方法を使用してもよい。
【0058】
(積層体)
本発明の積層体は、前記熱可塑性ポリマーフィルムからなる少なくとも1つのフィルム層と、少なくとも1つの金属層とを備え、前記フィルム層と金属層とが交互に積層した積層構造を有している。なお、フィルム層が複数存在する場合、各フィルム層を形成する熱可塑性ポリマーフィルムは、それぞれ同じ融点を有するものであってもよく、異なる融点を有するものであってもよい。
【0059】
積層体は、熱可塑性ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に金属層を熱圧着により接着させて作製することができる。積層体は金属層を単層で備える単層積層体であってもよいし、複数の金属層を備えている多層積層体であってもよい。
【0060】
なお、金属層で用いられる金としては、電気的接続に使用されるような金属が好適であり、銅、金、銀、ニッケル、アルミニウムなどを挙げることができるが、中でも銅が好適である。金属層の厚さは、1〜50μmの範囲内が好ましく、5〜20μmの範囲内がより好ましい。
【0061】
また、本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、超ロープロファイルの金属と直接熱圧着することが可能であり、そのような金属層の表面粗さは、フィルムと対向する面において、フィルムの厚さの50分の1以下、好ましくは60分の1以下、さらに好ましくは70分の1以下であってもよい。また、具体的な表面粗さとしては、例えば、5μm以下、好ましくは3μm以下であってもよい。
【0062】
本発明では、上述した熱可塑性液晶ポリマーフィルムの誘電特性に由来して、熱圧着によって金属層と積層した後であっても、低い誘電特性を維持することが可能である。例えば、熱圧着前のフィルムの比誘電率(ε
r1)に対する熱圧着後の積層体の比誘電率(ε
r3)の変化率は、下記式(II)を満たしている。
|ε
r3−ε
r1|/ε
r1×100≦5 (II)
(式中、ε
r1は、熱圧着前のフィルムの比誘電率であり、ε
r3は、フィルムと金属層との熱圧着後の比誘電率であり、これらの比誘電率は、1〜100GHzの範囲内の同一の周波数において測定される。)
【0063】
なお、ここで比誘電率は、後述する実施例に記載した方法により測定される値である。
【0064】
好ましくは、1〜100GHzの周波数において、前記積層体の熱圧着後の比誘電率(ε
r3)は、例えば2.6〜3.5であってもよく、より好ましくは2.6〜3.4であってもよい。
【0065】
また、1〜100GHzの周波数において、前記積層体の熱圧着後の誘電正接(Tanδ
3)は、例えば0.001から0.01であってもよく、より好ましくは0.001から0.008であってもよい。
【0066】
好ましくは、前記積層体の熱圧着後の比誘電率(ε
r3)および誘電正接(Tanδ
3)は、いずれも、測定温度が−100〜100℃の温度範囲において上述の値を示していてもよい。
【0067】
また好ましくは、前記積層体の熱圧着後の比誘電率(ε
r3)および誘電正接(Tanδ
3)は、いずれも、25℃50%RHおよび85℃85%RH条件に曝した後であっても、上述の値を示していてもよい。
【0068】
このような積層体は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの誘電特性が変化しない限り、熱プレス、熱ローラー等の熱圧着方法を利用して製造することが可能であるが、特に、発明者らは、今般、積層体または回路基板を効率よく製造するための新規な方法を見出した。
【0069】
その製造方法は、(i)請求項1〜4のいずれか一項に記載の液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に金属層が熱圧着された金属積層フィルムを準備する金属積層フィルム準備工程と、
(ii)複数の前記金属積層フィルム同士を、または少なくとも一つの金属積層フィルムと少なくとも一つの熱可塑性液晶ポリマーフィルムとを、フィルム層と金属層とが交互に積層した状態で積み重ねた基板セットを、少なくとも1セット準備して、対向する加熱加圧盤間に装着する基板セット装着工程と、
(iii)前記加熱加圧盤を加熱して、前記装着された基板セットを熱圧着によって接合する接合工程と、
を含む積層体の製造方法であって、
前記加熱加圧盤が、金属層の熱膨張を吸収するための微小凸部を有している製造方法である。
【0070】
この製造方法では、加熱加圧盤が金属層の熱膨張を吸収するための微小凸部を有しているため、従来、加熱加圧盤により熱プレスを行なう際に必要であった金属層の熱膨張吸収部材を用いる必要がなくなって、熱プレスの際の熱伝導率が向上し、熱プレスのサイクル時間を従来よりも大幅に短縮することが可能となる。
【0071】
前記微小凸部は、金属層の熱膨張率に応じて適宜設定することができ、例えば、金属の熱膨張率に応じて、例えば、微小凸部は、基板セット側において加熱加圧盤の端部から中央部に向かって盛り上がるなだらかな凸部であって、中央部における高さが、例えば、10〜500μm程度、好ましくは100〜200μm程度であってもよい。
【0072】
なお、前記積層体の製造方法は、本発明の特定の熱可塑性液晶ポリマーフィルムに対して有効に利用できるだけでなく、熱プレスサイクルを短縮できるという点では、従来使用されている市販の熱可塑性液晶ポリマーフィルム(例えば、(株)クラレ社から上市されているベクスターシリーズ)に対しても有効に利用することができる。
【0073】
(回路基板)
回路基板は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に形成された導体回路層と、を少なくとも含んでいる。
【0074】
導体回路の形成は公知の方法に従って実施することができる。具体例を示せば、(a)熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属層とを熱圧着により積層した後、エッチング処理等を施して、導体回路を形成する方法、(b)熱可塑性液晶ポリマーフィルムの表面にスパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法などの気相法や湿式のメッキ法により導体層を形成し、導体回路とする方法などが挙げられる。
【0075】
金属層(または導体回路層)を形成するのに用いられる金属材料としては、前述の金属層において記載された各種金属を利用することができる。
【0076】
また、前記積層体の製造方法は、回路基板を製造する方法として利用することが可能であり、この場合、金属層に必要に応じてパターンニングした金属積層フィルムを用いる以外は、上記の製造方法と同様にして、回路基板を製造することが可能である。
【0077】
回路基板は単数の金属層(または導体回路層)を備える単層回路基板であってもよいが、回路基板に対する高機能化への要求を満たすためには、複数の金属層(または導電パターン層)を備える多層回路基板(例えば、2層回路基板、3層回路基板、4層回路基板など)であるのが好ましい。この場合、回路基板において、必要に応じてパターニングされた金属層は、所定のパターンの信号ラインやグラウンドプレーンラインとして用いられる。
【0078】
回路基板は、高周波領域であっても、加熱前後で安定した比誘電率を有しているため、高周波回路基板として用いることが可能である。高周波回路基板としては、単に高周波信号のみを伝送する回路からなるものだけでなく、高周波信号を低周波信号に変換して、生成された低周波信号を外部へ出力する伝送路や、高周波対応部品の駆動のために供給される電源を供給するための伝送路等、高周波信号ではない信号を伝送する伝送路も同一平面上に併設された回路も含まれる。
【0079】
このような伝送路としては、各種伝送線路、例えば、同軸線路、ストリップ線路、マイクロストリップ線路、コプレナー線路、平行線路などの公知または慣用の伝送線路を例示することができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0081】
[融点]
示差走査熱量計を用いて、フィルムの熱挙動を観察して得た。つまり、供試フィルムを20℃/分の速度で昇温して完全に溶融させた後、溶融物を50℃/分の速度で50℃まで急冷し、再び20℃/分の速度で昇温した時に現れる吸熱ピークの位置を、フィルムの融点として記録した。
【0082】
[熱収縮率]
熱収縮率は、前記の熱収縮前後の試験片の寸法をノギスで測定し、次式により算出した。
【数1】
【0083】
[熱変形温度]
熱機械分析装置(TMA)を用いて、幅5mm、長さ20mmのフィルムの両端に1gの引張荷重をかけ、室温から5℃/分の速度で、フィルムが破断するまで昇温したときの、急激な膨張(伸び)が発生した温度であり、温度〜変形曲線における高温側のベースラインの接線と低温側のベースラインの接線の交点の温度を熱変形温度とする。
【0084】
[内部歪み]
2次元測長器を用いて、加熱前の長さに対して加熱後の長さを測定し、次式により算出した。
内部歪み(%)=(加熱後の長さ−加熱前の長さ)/加熱後の長さ × 100
【0085】
[膜厚]
膜厚は、デジタル厚み計(株式会社ミツトヨ製)を用い、選られたフィルムをTD方向に1cm間隔で測定し、中心部および端部から任意に選んだ10点の平均値を膜厚とした。
【0086】
[銅箔表面の粗度]
形状測定顕微鏡(キーエンス(株)製、型式:VK−810) を用い、測定倍率1000倍で銅箔の表面粗度(Rz)を測定した。測定はJIS B0601―1994に準拠した方法により行った。表面粗度(Rz)は、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さを抜き取り、最高から5番目までの山頂(凸の頂点)の標高の平均値と、最深から5番目までの谷底(凹の底点)の標高の平均値との差をμmで表わしたもので、十点平均粗さを示している。
【0087】
[誘電特性]
誘電率測定は周波数
1GHzで共振摂動法により実施した。ネットワークアナライザ(Agilent Technology社製「E8362B」)に1GHzの空洞共振器((株)関東電子応用開発)を接続し、空洞共振器に微小な材料(幅:2.7mm×長さ:45mm)を挿入し、温度20℃、湿度65%RHにおいて96時間
放置した後、材料挿入前後の
空洞共振器の共振周波数の変化から、材料の誘電率および誘電正接を測定した。
【0088】
[接着強度]
液晶ポリマーフィルムと金属層との積層体から1.0cm幅の剥離用試験片を作製し、液晶ポリマーフィルムを両面接着テープで平板に固定し、JIS C 5016に準じて180°法により、積層体を50mm/分の速度で剥離したときの強度(kN/m)を測定した。
【0089】
(実施例1)
熱可塑性液晶ポリエステル〔ベクトラA950(商品名)、ポリプラスチックス社製〕を単軸押出機で加熱混練し、ダイ直径33.5mm、ダイスリット間隔500μmの環状インフレーションダイから、ダイ剪断速度1000秒
−1で溶融押出し(第一工程)、その後MD方向の延伸倍率(またはDr)に対するTD方向の延伸倍率(またはBr)の比(Br/Dr)が3となるように延伸を行った(第二工程)。ついで、得られた原反フィルム(融点280℃)を張力下で260℃に設定した熱風乾燥炉で加熱することにより、2%熱収縮させた(第三工程)。さらに、この熱可塑性液晶ポリマーフィルムを、一旦、厚さ50μmのアルミニウム箔と熱接着させて複合体とし、270℃に制御した熱風炉で30秒間加熱し、熱膨張係数を18×10
−6cm/cm/℃に変化させ、続いて、この複合体を270℃(原反フィルムのTm−10℃)に制御した熱風循環式熱処理炉に10時間供給することにより、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱変形温度を80℃増大させた(第四工程)。そして、被着体からフィルムを剥がした後、このフィルムを、200℃(原反フィルムのTd−60℃)に制御した炉長1mの熱風循環式熱処理炉に1m/分の速度で供給して加熱処理を行い、内部歪みを1%除去した(第五工程)。得られたフィルムは、1〜100GHzで測定された比誘電率が3.3であった。
【0090】
(実施例2)
熱可塑性液晶ポリエステル〔ベクトラA950(商品名)、ポリプラスチックス社製〕を単軸押出機で加熱混練し、ダイ直径33.5mm、ダイスリット間隔350μmの環状インフレーションダイから、ダイ剪断速度2000秒
−1で溶融押出し(第一工程)、その後MD方向の延伸倍率(またはDr)に対するTD方向の延伸倍率(またはBr)の比(Br/Dr)が4となるように延伸を行った(第二工程)。ついで、得られた原反フィルム(融点280℃)を張力下で260℃に設定した熱風乾燥炉で加熱することにより、3%熱収縮させた(第三工程)。さらに、この熱可塑性液晶ポリマーフィルムを、一旦、厚さ50μmのアルミニウム箔と熱接着させて複合体とし、270℃に制御した熱風炉で10秒間加熱し、熱膨張係数を10×10
−6cm/cm/℃に変化させた。続いて、この複合体を260℃(原反フィルムのTm−20℃)に制御した熱風循環式熱処理炉に8時間供給することにより、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱変形温度を40℃増大させた(第四工程)。そして、被着体からフィルムを剥がした後、このフィルムを、230℃(原反フィルムのTd−30℃)に制御した炉長1mの熱風循環式熱処理炉に1m/分の速度で供給して加熱処理を行い、内部歪みを2%除去した(第五工程)。得られたフィルムは、1〜100GHzで測定された比誘電率が3.1であった。
【0091】
(比較例1)
熱可塑性液晶ポリエステル〔ベクトラA950(商品名)、ポリプラスチックス社製〕を単軸押出機で加熱混練し、ダイ直径33.5mm、ダイスリット間隔500μmの環状インフレーションダイから、ダイ剪断速度1000秒
−1で溶融押出し(第一工程)、その後MD方向の延伸倍率(またはDr)に対するTD方向の延伸倍率(またはBr)の比(Br/Dr)が3となるように延伸を行った(第二工程)。ついで、得られた原反フィルム(融点280℃)を張力下で260℃に設定した熱風乾燥炉で加熱することにより、1%熱収縮させた(第三工程)。さらに、この熱可塑性液晶ポリマーフィルムを、一旦、厚さ50μmのアルミニウム箔と熱接着させて複合体とし、260℃に制御した熱風炉で30秒間加熱し、熱膨張係数を10×10
−6cm/cm/℃に変化させた。得られたフィルムは、1〜100GHzで測定された比誘電率が3.0であった。
【0092】
(比較例2)
熱可塑性液晶ポリエステル〔ベクトラC950(商品名)、ポリプラスチックス社製〕を単軸押出機で加熱混練し、ダイ直径33.5mm、ダイスリット間隔400μmの環状インフレーションダイから、ダイ剪断速度1000秒
−1で溶融押出し(第一工程)、その後MD方向の延伸倍率(またはDr)に対するTD方向の延伸倍率(またはBr)の比(Br/Dr)が3となるように延伸を行った(第二工程)。ついで、得られた原反フィルム(融点320℃)を張力下で270℃に設定した熱風乾燥炉で加熱することにより、1%熱収縮させた(第三工程)。さらに、この熱可塑性液晶ポリマーフィルムを、一旦、厚さ50μmのアルミニウム箔と熱接着させて複合体とし、280℃に制御した熱風炉で30秒間加熱し、熱膨張係数を10×10
−6cm/cm/℃に変化させた。続いて、この複合体を280℃(原反フィルムのTm−40℃)に制御した熱風循環式熱処理炉に6時間供給することにより、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱変形温度を40℃増大させた(第四工程)。得られたフィルムは、1〜100GHzで測定された比誘電率が3.2であった。
【0093】
実施例および比較例で得られたフィルムを、一旦得られたフィルムの融点で60分間加熱し、―100〜100℃の温度範囲において、その比誘電率および誘電正接を測定した。さらに、前記加熱したフィルムを、更に一旦25℃50%RHおよび85℃85%RHにおいて、それぞれ96時間放置し、放置後のフィルムの比誘電率および誘電正接を測定した。実施例および比較例で得られたフィルムの物性を、表7に示す。
【0094】
【表7】
【0095】
表7に示すように、実施例1および2の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、加熱前後で比誘電率がほとんど変化していない。一方、比較例1および2の熱可塑性液晶ポリマーフィルムでは、加熱前と比べて、加熱後の比誘電率が大きく変化している。また、実施例1および2のフィルムは、加熱後においても幅広い温度範囲および高温・高湿条件下において低い比誘電率および誘電正接を維持しているが、比較例1および2は、いずれも、加熱後の誘電率および誘電正接が上昇している。また、高温・高湿条件下では、これらの誘電特性はさらに悪化している。
【0096】
(実施例3)
実施例1で作製された熱可塑性液晶ポリマーフィルムの両面に厚さ18μmの銅箔(銅箔の粗度3μm)を重ね合わせ、真空熱プレス装置を用いて、温度が300℃、圧力が30Kg/cm
2の条件で加熱圧着することにより、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと銅箔からなる金属積層フィルムを作製した。次いで、2枚の金属積層フィルムの間に上記実施例1で作製されたフィルムをさらに中間シートとして挟み、加熱加圧盤に10セット準備した。なお、この加熱加圧盤は、基板セット側において、端部から中央部に向かってなだらかな凸部を有しており、中央部における凸部の高さは約100μmである。
【0097】
図1に示すように、各基板セット12は、その外側に離型材14およびクッション材16を介して加熱加圧盤18,18に挟まれた状態で、熱圧着装置10にセットされている。また、ステンレス板19,19は、加熱加圧盤側においてのみ配設され、全ての基材セットを挟み込むようにして配設されている。
【0098】
この状態で、加熱加圧盤18を加熱したところ、基板セット12は速やかに295℃まで昇温し、総プレス時間30分間で複数の多層積層板を形成した。得られた多層積層板の界面接着強度は、0.8kN/mであった。
【0099】
(比較例3)
熱可塑性液晶ポリマーフィルムとして、比較例1を用いる以外は、実施例3と同様にして、基板セットを実施例3と同じセット数準備した。次いで、
図2に示すように、各基板セット22を、その外側に離型材14、クッション材16およびステンレス板19を介して加熱加圧盤28,28に挟まれた状態で熱圧着装置20にセットした。なお、この加熱加圧盤28は、微細凸部を有していない。また、この熱圧着装置では、加熱加圧盤側においてのみ全ての基材セットを挟み込むようにして、銅箔の歪みを補正するためのプレスパッド25が配設されている。さらに、銅箔の歪みを補正するため、各基板セット間においてクッション材の間にステンレス板19を挿入しているとともに、ステンレス板19の両側にクッション材16を配設している。
【0100】
この状態で、加熱加圧盤28を加熱したところ、比較例3は、実施例3と異なって、各基板セット間にステンレス板を必要とするだけでなく、プレスパッドも必要であるため、基板セット22が295℃まで昇温するのに時間がかかり、複数の多層積層板を形成するための総プレス時間は120分間であった。得られた多層積層板の界面接着強度は、
0.8kN/mであった。
【0101】
実施例3および比較例3で得られた多層積層板の比誘電率および誘電正接を、―100〜100℃の温度範囲において、測定した。さらに、前記多層積層板を、更に一旦25℃50%RHおよび85℃85%RHにおいて、それぞれ96時間放置し、放置後の多層積層板の比誘電率および誘電正接を測定した。
実施例3および比較例3で得られた多層積層板の物性を、表8に示す。
【0102】
【表8】
【0103】
表8に示すように、実施例3の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、加熱前後で比誘電率がほとんど変化していない。また、超ロープロファイルの銅箔を用いても、多層積層板から熱可塑性液晶ポリマーが流れ出すことはなかった。一方、比較例3の多層積層体では、加熱前と比べて、加熱後の比誘電率が大きく変化している。また、超ロープロファイルの銅箔を用いたため、多層積層板から熱可塑性液晶ポリマーが流れ出した。
【0104】
なお、参考例として言及すると、実施例1の熱可塑性液晶ポリマーフィルムに代えて比較例1の熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いる以外は実施例3と同様にして熱プレスを行う場合、超ロープロファイルの銅箔であっても流れ出すことなく、効率よく多層積層板を作製することが可能である。