(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記透明酸化物電極が、フッ素ドープ酸化スズ、アルミニウムドープ酸化亜鉛、インジウムドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛、スズドープ酸化インジウム及びニオブドープ酸化チタン透明導電性酸化物からなる群より選択される請求項6または7に記載の表面修飾された透明酸化物電極。
【背景技術】
【0002】
電荷移動錯体とは、複数の分子からなる分子間化合物であって、分子間電荷移動による静電的な相互作用によって形成される化合物である。電子供与性を有する有機化合物(ドナー)と、電子受容性を有する有機化合物(アクセプター)との適切な組み合わせにより、有機化合物からなる電荷移動錯体を得ることができる。すなわち、ドナーからアクセプターへ少なくとも部分的な電荷移動が起こり、結果として生じる分子間の静電引力により電荷移動錯体が形成される。電荷移動錯体の代表例として、テトラチアフルバレン(TTF)―テトラシアノキノジメタン(TCNQ)が知られている。このTTF−TCNQの結晶は、有機物でありながら高い電気伝導性を示すことが特徴的である。
【0003】
近年、精力的に研究が行われている有機ELにおいても電荷移動錯体が利用されている。すなわち、陽極上にアクセプターとホール輸送性の化合物であるドナーを順に蒸着することによって、アクセプター層とドナー層との界面で電荷移動錯体が形成され、結果として陽極から有機層へのホール注入が円滑に行われる(例えば、特許文献1)。また、ドナーとアクセプターを共蒸着することによって、p−ドープされたドナーの層を得て、これをホール注入層としている例もある(例えば、非特許文献1)。
【0004】
さらに、マルチフォトンエミッションと称されるタンデム型の有機EL素子では、素子を構成する複数の発光ユニットを連結するため、アクセプターとドナーとを順に蒸着することにより、界面で電荷移動錯体を形成させた電荷発生層を用いている(例えば、特許文献2)。
【0005】
上記のように電荷移動錯体を形成するドナーとアクセプターを別々に製膜して界面で電荷移動錯体を形成させる方法が採用される理由として、予め形成させた電荷移動錯体は蒸着するために十分な耐熱性を有さないことが挙げられる。また、有機EL材料として使用されるドナーやアクセプターは溶解性が低い場合が多く、分子レベルで均一に混合することが難しいことも理由の一つである。なお、「共蒸着」とは、ドナーとアクセプターを同時に蒸着する手法であって、ドナーとアクセプターを混合してから蒸着することを意味するものではない。
【0006】
代表的なアクセプターであるテトラフルオロテトラシアノキノジメタン(F4−TCNQ)と各種のホール輸送性化合物が順に蒸着された金電極が作製されている(例えば、非特許文献2)。非特許文献2には、金表面とその近傍に存在するF4−TCNQとの間で電荷移動が起こっており、その結果、金からのホール注入障壁が小さくなっていることが記述されている。F4−TCNQの膜厚は1nm以下であってよく、単分子膜で効果が発揮されている。
【0007】
一方、有機EL素子に用いられる透明電極であるスズドープ酸化インジウム(ITO)を使用して同様の検討がなされている(例えば、非特許文献3)。すなわち、F4−TCNQと各種ホール輸送性化合物が順に蒸着されたITO電極が作製され、F4−TCNQの膜厚とITO表面からのホール注入障壁の大きさについて調べられている。理論的には、F4−TCNQの単分子膜で電極表面が被覆されれば、1nm以下の厚さの膜で十分な効果が得られるはずである。しかし、実際には電極表面でF4−TCNQが凝集するため、特に膜が薄いときに電極表面の被覆率は低い。結果として、電極表面を十分に被覆し、ホール注入障壁を十分小さくするためには、F4−TCNQの膜厚を7nm以上にする必要があるという結果が得られている。この場合、F4−TCNQの大半は電荷移動錯体を形成していないと考えられ、材料の利用効率が低い。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施の形態を挙げて詳細に説明する。
【0019】
[反応性シリル基を有する電荷移動錯体]
本発明は、第1実施形態によれば、反応性シリル基を有する電荷移動錯体である。本発明の反応性シリル基を有する電荷移動錯体は、下記一般式(1)で表される。
【0020】
【化3】
上記一般式(1)において、Dは芳香族アミンからなる有機電子ドナー分子であり、Aは有機電子アクセプター分子であって、基底状態でDからAへ電荷が移動して錯体を形成している。
【0021】
[有機電子ドナー分子D]
有機電子ドナー分子は最高占有分子軌道(HOMO)が比較的浅い(高い)化合物である。本実施形態において、有機電子ドナー分子Dは、芳香族アミンからなる骨格構造を有し、芳香族アミンが、少なくとも一つの下記一般式(2)で表される反応性シリル基によって置換されている有機電子ドナー分子である。
【化4】
【0022】
上記一般式(2)において、R
0は、炭素数が1〜10の二価炭化水素基または単結合を表す。R
0の具体例としては、単結合;メチレン基、1,2−エタンジイル基、1,1−エタンジイル基、1,2−エテンジイル基、1,1−エテンジイル基、1,3−プロパンジイル基、1,2−プロパンジイル基、2−メチル−1,3−プロパンジイル基、1,3−ブタンジイル基、1,4−ブタンジイル基、1,5−ペンタンジイル基、1,6−ヘキサンジイル基、1,4−シクロヘキサンジイル基、1,7−ヘプタンジイル基、1,8−オクタンジイル基、1,9−ノナンジイル基、1,10−デカンジイル基等の直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の、飽和もしくは不飽和の脂肪族二価炭化水素基;1,3−ベンゼンジイル基、1,4−ベンゼンジイル基、2−メチル−1,4−ベンゼンジイル基、3−メチル−1,4−ベンゼンジイル基、2,5−ジメチル−1,4−ベンゼンジイル基、1,4−ナフタレンジイル基、2,6−ナフタレンジイル基、2,7−ナフタレンジイル基、4−エチルベンゼン−1,2−ジイル基、4−プロピルベンゼン−1,3−ジイル基等の芳香族二価炭化水素基等が挙げられる。
【0023】
一般式(2)において、X
1は、炭素数が1〜10、好ましくは1〜5のアルコキシ基または水酸基である。X
1の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基等の直鎖状アルコキシ基;イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、イソペンチルオキシ基、2−ペンチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基等の分岐鎖状アルコキシ基;シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2−ノルボルニルオキシ基等の環状アルコキシ基;および水酸基等が挙げられる。
【0024】
一般式(2)において、X
2およびX
3は、それぞれ独立に、炭素数が1〜10の直鎖状、分岐鎖状、もしくは環状の一価炭化水素基、炭素数が1〜10のアルコキシ基、水酸基から選ばれる。X
2、X
3の具体例としては、X
1の具体例として挙げた基に加えて、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、2−ペンチル基、2−エチルヘキシル基等の分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2−ノルボルニル基等の環状アルキル基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、フェニル基、トリル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、ナフチル基等のアリール基等が挙げられる。
【0025】
上記一般式(2)においてSiX
1X
2X
3で表されるシリル基の具体例としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリプロポキシシリル基、メトキシジエトキシシリル基、イソプロポキシジメトキシシリル基、tert−ブトキシジメトキシシリル基、シクロヘキシルオキシジメトキシシリル基、2−エチルヘキシルオキシジメトキシシリル基、ヒドロキシジメトキシシリル基、ジヒドロキシメトキシシリル基、トリヒドロキシシリル基等の三官能シリル基;
メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、メチルジイソプロポキシシリル基、メチルヒドロキシメトキシシリル基、メチルジヒドロキシシリル基、エチルジメトキシシリル基、プロピルジメトキシシリル基、イソプロピルジメトキシシリル基、イソブチルジメトキシシリル基、sec−ブチルジメトキシシリル基、tert−ブチルジメトキシシリル基、イソペンチルジメトキシシリル基、2−ペンチルジメトキシシリル基、2−エチルヘキシルジメトキシシリル基、シクロペンチルジメトキシシリル基、シクロヘキシルジメトキシシリル基、2−ノルボルニルジメトキシシリル基、ベンジルジメトキシシリル基、フェネチルジメトキシシリル基、フェニルジメトキシシリル基、トリルジメトキシシリル基、3,5−ジメチルフェニルジメトキシシリル基、2,5−ジメチルフェニルジメトキシシリル基、4−tert−ブチルフェニルジメトキシシリル基、ナフチルジメトキシシリル基等の二官能シリル基;
メトキシジメチルシリル基、エトキシジメチルシリル基、プロポキシジメチルシリル基、ブトキシジメチルシリル基、ペンチルオキシジメチルシリル基、ヘキシルオキシジメチルシリル基、オクチルオキシジメチルシリル基、デシルオキシジメチルシリル基、イソプロポキシジメチルシリル基、イソブトキシジメチルシリル基、sec−ブトキシジメチルシリル基、tert−ブトキシジメチルシリル基、イソペンチルオキシジメチルシリル基、2−ペンチルオキシジメチルシリル基、2−エチルヘキシルオキシジメチルシリル基、シクロペンチルオキシジメチルシリル基、シクロヘキシルオキシジメチルシリル基、2−ノルボルニルオキシジメチルシリル基、ヒドロキシジメチルシリル基、メトキシジエチルシリル基、エトキシジエチルシリル基、ヒドロキシジエチルシリル基、メトキシジプロピルシリル基、エトキシジプロピルシリル基、ヒドロキシジプロピルシリル基、メトキシメチルプロピルシリル基、エトキシメチルプロピルシリル基、ヒドロキシメチルプロピルシリル基、メトキシジイソプロピルシリル基、エトキシジイソプロピルシリル基、ヒドロキシジイソプロピルシリル基、メトキシジイソブチルシリル基、エトキシジイソブチルシリル基、ヒドロキシジイソブチルシリル基、メトキシジ−sec−ブチルシリル基、エトキシジ−sec−ブチルシリル基、ヒドロキシジ−sec−ブチルシリル基、メトキシジ−tert−ブチルシリル基、エトキシジ−tert−ブチルシリル基、ヒドロキシジ−tert−ブチルシリル基、メトキシ−tert−ブチルメチルシリル基、エトキシ−tert−ブチルメチルシリル基、ヒドロキシ−tert−ブチルメチルシリル基、メトキシジイソペンチルシリル基、エトキシジイソペンチルシリル基、ヒドロキシジイソペンチルシリル基、メトキシジシクロペンチルシリル基、エトキシジシクロペンチルシリル基、ヒドロキシジシクロペンチルシリル基、メトキシジシクロヘキシルシリル基、エトキシジシクロヘキシルシリル基、ヒドロキシジシクロヘキシルシリル基、メトキシシクロヘキシルメチルシリル基、エトキシシクロヘキシルメチルシリル基、ヒドロキシシクロヘキシルメチルシリル基、メトキシジフェニルシリル基、エトキシジフェニルシリル基、ヒドロキシジフェニルシリル基、メトキシジトリルシリル基、エトキシジトリルシリル基、ヒドロキシジトリルシリル基等の一官能シリル基;等が挙げられる。このうち、複数のシリル基間での望ましくない縮合を避けることができるため、特に一官能シリル基が好ましい。
【0026】
一般式(1)で表される電荷移動錯体の電極表面に対する反応性および反応性シリル基の安定性は、一般式(1)の電荷移動錯体に含有される、一般式(2)で表される反応性シリル基におけるX
1、X
2、X
3の種類と組み合わせにより決定される。これらのうち、X
1、X
2、X
3のうち少なくとも一つが直鎖状アルコキシ基あるいは水酸基である場合に、電極表面との反応性が高く好ましい。また、X
2およびX
3がともに分岐鎖状アルキル基または環状アルキル基である場合には、電極表面を修飾する際に反応性シリル基の自己縮合等の望ましくない副反応を抑制することができるため好ましい。
【0027】
また、R
0は、電極表面と本発明の電荷移動錯体、ひいては電極表面とアクセプター分子との距離を規定する置換基である。電荷の授受をスムーズに行うためには、R
0は単結合または炭素数が1〜6の二価炭化水素基であることが好ましい。なかでも、単結合、メチレン基、1,2−エタンジイル基、1,2−エテンジイル基、1,3−プロパンジイル基、2−メチル−1,3−プロパンジイル基、1,4−ブタンジイル基、1,5−ペンタンジイル基、1,6−ヘキサンジイル基、1,3−ベンゼンジイル基、1,4−ベンゼンジイル基等が好ましい。
【0028】
上記一般式(2)における、SiX
1X
2X
3とR
0の組み合わせは任意であり、上記に例示したR
0と、SiX
1X
2X
3との全ての組み合わせであってよい。具体的には、一般式(2)で表される反応性シリル基の好ましいSiX
1X
2X
3として列挙した具体的な置換基と、R
0として好ましい単結合またはまたは炭素数が1〜6の二価炭化水素基とを組み合わせて得られる基が好ましい。例えば、三官能シリル基と単結合、三官能シリル基と炭素数1〜6の二価炭化水素基、二官能シリル基と単結合、二官能シリル基と炭素数1〜6の二価炭化水素基、一官能シリル基と炭素数1〜6の二価炭化水素基を組み合わせて得られる基である。具体的には、トリメトキシシリル基、トリメトキシシリルメチル基、トリメトキシシリルエチル基、トリメトキシシリルエテニル基、トリメトキシシリルプロピル基、3−トリメトキシシリル−2−メチルプロピル基、トリメトキシシリルブチル基、トリメトキシシリルペンチル基、トリメトキシシリルヘキシル基、4−トリメトキシシリルフェニル基、3−トリメトキシシリルフェニル基等の三官能シリル基を含む置換基;メチルジエトキシシリル基、メトキシジエトキシシリルメチル基、メチルジエトキシシリルエチル基、メチルジエトキシシリルエテニル基、メチルジエトキシシリルプロピル基、3−メチルジエトキシシリル−2−メチルプロピル基、メチルジエトキシシリルブチル基、メチルジエトキシシリルペンチル基、メチルジエトキシシリルヘキシル基、4−メチルジエトキシシリルフェニル基、3−メチルジエトキシシリルフェニル基等の二官能シリル基を含む置換基;ヒドロキシジイソプロピルシリル基、ヒドロキシジイソプロピルシリルメチル基、ヒドロキシジイソプロピルシリルエチル基、ヒドロキシジイソプロピルシリルエテニル基、ヒドロキシジイソプロピルシリルプロピル基、3−ヒドロキシジイソプロピルシリル−2−メチルプロピル基、ヒドロキシジイソプロピルシリルブチル基、ヒドロキシジイソプロピルシリルペンチル基、ヒドロキシジイソプロピルシリルヘキシル基、4−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)フェニル基、3−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)フェニル基等の一官能シリル基を含む置換基等が挙げられる。
【0029】
有機電子ドナー分子Dにおいて、芳香族アミンからなる骨格構造は、好ましくは、下記一般式(3)で表されるトリアリールアミン骨格を有する。すなわち、本実施形態において、好ましい有機電子ドナー分子Dは、一般式(2)の反応性シリル基により置換された下記一般式(3)で表されるトリアリールアミン骨格を有する化合物である。
【化5】
【0030】
式(3)において、Y
1は、それぞれ独立に炭素数6〜16の一価芳香族炭化水素基、あるいは炭素数4〜12であって環を構成する原子として窒素原子、酸素原子、もしくは硫黄原子を含有する一価ヘテロ芳香族置換基を表す。Y
2は、複数存在する場合においてはそれぞれ独立に、炭素数6〜16の二価芳香族炭化水素基を表す。Y
1およびY
2は、炭素数1〜20の直鎖状、分岐鎖状、もしくは環状の一価炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基で置換されたトリオルガノシリル基、上記一般式(2)で表される反応性シリル基、下記一般式(4)で表されるジアリールアミノ基から、それぞれ独立して選択される1以上の置換基を有していてもよい。mは0〜3の整数、nは0または1、pは0〜4の整数を表す。ただし、一般式(3)の化合物には、少なくとも一つの一般式(2)で表される反応性シリル基が置換基として存在する。
【0032】
上記一般式(4)において、R
1はそれぞれ独立に、炭素数1〜20、好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜8の直鎖状、分岐鎖状、もしくは環状の一価炭化水素基、炭素数1〜20、好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜8のアルコキシ基、炭素数6〜20、好ましくは6〜10のアリーロキシ基、炭素数1〜10、好ましくは1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基で置換されたトリオルガノシリル基、水素原子、および一般式(2)で表される反応性シリル基から選ばれる置換基を表す。置換基R
1の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、2−ペンチル基、2−エチルヘキシル基等の分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2−ノルボルニル基等の環状アルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;フェニルエテニル基、4−メチルフェニルエテニル基等のアリールアルケニル基;フェニルエチニル基、4−フェニルエチニル基等のアリールアルキニル基;フェニル基、トリル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、ナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、イコシルオキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、イソペンチルオキシ基、2−ペンチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2−ノルボルニルオキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、3−メチルフェノキシ基、3,5−ジメチルフェノキシ基、2,5−ジメチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、ナフチルオキシ基等のアリーロキシ基;トリフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基、ナフチルジフェニルシリル基、トリ−p−トリルシリル基、トリ−m−トリルシリル基、トリ−o−トリルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリメチルシリル基等のトリオルガノシリル基;水素原子;および、上記一般式(2)で表される反応性シリル基の具体例として例示した基等が挙げられる。
【0033】
上記一般式(3)におけるY
1の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、インデニル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ピレニル基、ビフェニリル基、フルオレニル基等の一価炭化水素基;フリル基、チエニル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、カルバゾリル基、ジベンゾシロリル基、ジベンゾチエニル基等の一価ヘテロ芳香族基、等が挙げられる。また、上記一般式(3)におけるY
2の具体例としては、ベンゼンジイル基、ナフタレンジイル基、インデンジイル基、アントラセンジイル基、フェナントレンジイル基、ピレンジイル基、ビフェニレンジイル基、トリフェニレンジイル基、フルオレンジイル基等の二価炭化水素基が挙げられる。
【0034】
Y
1およびY
2が有していてもよい置換基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、2−ペンチル基、2−エチルヘキシル基等の分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2−ノルボルニル基等の環状アルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;フェニルエテニル基、4−メチルフェニルエテニル基等のアリールアルケニル基;フェニルエチニル基、4−フェニルエチニル基等のアリールアルキニル基;フェニル基、トリル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、ナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、イコシルオキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、イソペンチルオキシ基、2−ペンチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2−ノルボルニルオキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、3−メチルフェノキシ基、3,5−ジメチルフェノキシ基、2,5−ジメチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、ナフチルオキシ基等のアリーロキシ基;トリフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基、ナフチルジフェニルシリル基、トリ−p−トリルシリル基、トリ−m−トリルシリル基、トリ−o−トリルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリメチルシリル基等のトリオルガノシリル基;N,N−ジフェニルアミノ基、N−p−トリル−N−フェニルアミノ基、N−m−トリル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジ−p−トリルアミノ基、N,N−ジ−m−トリルアミノ基、N−ナフチル−N−フェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;および上記一般式(2)で表される反応性シリル基の具体例として例示した基等が挙げられる。
【0035】
一般式(2)で表される反応性シリル基は、一般式(3)で表される化合物中、特に、Nに直結した一価芳香族炭化水素基もしくは一価ヘテロ芳香族置換基であるY
1の置換基であることが好ましく、特にはY
1中、芳香環を構成する炭素に直結した置換基であることが好ましい。また、一般式(3)で表される化合物中、一般式(2)で表される反応性シリル基は、1つ、2つ、もしくは3つ含まれていることが好ましいが、一般式(2)で表される反応性シリル基の数は、特定の数には限定されない。
【0036】
以下に一般式(3)で表されるトリアリールアミンの骨格例を具体的に示すが、本発明はこれらに限定されない。以下の化学式中、*は、上記一般式(2)で表される反応性シリル基の結合位置を示す。また、Meはメチル基、Phはフェニル基を表す。
【0080】
このような有機電子ドナー分子D、特には、一般式(3)で表されるトリアリールアミン骨格を有する化合物は、既知の方法で製造することができる。すなわち、Suzukiカップリング反応やNegishiカップリング反応等の炭素−炭素結合形成反応、Buchwald−Hartwigアミノ化反応やUlmann反応等の炭素−窒素結合形成反応等により主骨格を形成することができる。また、反応性シリル基の導入方法としては、グリニャール試薬やリチウム試薬を用いるケイ素上での求核置換反応や、白金等の遷移金属触媒を用いた不飽和結合のヒドロシリル化反応、パラジウムやロジウム等の遷移金属触媒を用いたハロゲン化アリールのシリル化反応等が知られており、これらの反応を利用することができる。
【0081】
[有機電子アクセプター分子A]
一般的に、有機電子アクセプター分子は最低非占有分子軌道(LUMO)の準位が比較的深い(低い)化合物である。Aで表される有機電子アクセプター分子としては、有機電子ドナー分子Dと基底状態で電荷移動錯体を形成することができる芳香族化合物であって、LUMOの準位が−4eV以下であることが好ましい。有機電子アクセプター分子Aとしては、例えば7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)およびその誘導体、11,11,12,12−テトラシアノナフトキノジメタン(TCNNQ)およびその誘導体、3,4,9,10−ぺリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)およびその誘導体、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)およびその誘導体、フッ素置換された銅フタロシアニン(CuPc)、またはヘキサアザトリフェニレンおよびその誘導体、フラーレン誘導体等が挙げられ、好ましくはフッ素原子またはシアノ基で置換されたTCNQ、フッ素原子またはシアノ基で置換されたTCNNQ、フッ素原子またはシアノ基で置換されたPTCDA、フッ素原子またはシアノ基で置換されたNTCDA、フッ素原子で置換されたF16CuPc、またはヘキサシアノヘキサアザトリフェニレン(HAT−CN)等が挙げられる。なかでも、4個のフッ素原子で置換されたTCNQである2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4−TCNQ)や、6個のフッ素原子で置換されたTCNNQである1,3,4,5,7,8−ヘキサフルオロ−11,11,12,12−テトラシアノナフトノキノジメタン(F6−TCNNQ)等が好ましい。これらの化合物はLUMOの準位が深く、本実施形態において前述した任意の有機電子ドナー分子Dと電荷移動錯体を形成することができるためである。
【0082】
上記の好ましい有機電子アクセプター分子Aは、市販されている化合物を用いることができるほか、従来既知の方法で、当業者が適宜製造することができる。
【0083】
[反応性シリル基を有する電荷移動錯体]
上記一般式(1)の化合物は、反応性シリル基を有する有機電子ドナー分子Dから、有機電子アクセプター分子Aに少なくとも部分的に電荷移動が起こることにより得られる電荷移動錯体である。電荷移動の起こりやすさはDのHOMOとAのLUMOの準位から推測することができる。すなわち、AのLUMOの準位がDのHOMOの準位よりも深い場合には自発的に電荷移動が起こるが、AのLUMOの準位がDのHOMOの準位よりも浅い場合には、電荷移動が起こるためには熱等のエネルギーが必要である。HOMOやLUMO等の分子軌道の準位は、イオン化ポテンシャルや電子親和力として実測することが可能である。測定方法としては、紫外光電子分光法(UPS)、逆光電子分光法(IPES)、光電子収量分光法(PYS)等が挙げられる。密度汎関数法等による理論計算によっても分子軌道準位を求めることができる。いずれの方法による値も電荷移動の起こりやすさの目安として使用することができるが、測定や計算手法に由来する誤差が含まれることに注意が必要である。
【0084】
したがって、本発明の一実施形態による好ましい電荷移動錯体における有機電子ドナー分子Dと有機電子アクセプター分子Aの組み合わせは、電荷移動の起こりやすい化合物の組み合わせである。DのHOMO準位に対してAのLUMO準位が深いほど基底状態で電荷移動が起こりやすく好ましい。具体的にはDのHOMO準位からAのLUMO準位を差し引いた値が、−1.0〜2.0eV、特に−0.5〜1.0eVであることが好ましい。好ましいDとAの組み合わせとしては、例えば、トリフェニルアミン骨格(例えば(A−1)〜(A−3)、(A−19)〜(A−63)等)やジフェニルベンジジン骨格(例えば(B−5)〜(B−8)、(B−41)〜(B−62)等)を有するDと、F4−TCNQやF6−TCNNQ等のフッ素またはシアノ基で置換されたAの組み合わせ、等が挙げられるが、これらには限定されない。同一の骨格を有する化合物群のなかでも、個々の化合物が有する置換基や置換位置によってHOMOやLUMOの準位は多少変化する。
【0085】
[反応性シリル基を有する電荷移動錯体の製造方法]
本発明は、別の実施形態によれば、一般式(1)で表される反応性シリル基を有する電荷移動錯体の製造方法であって、前記一般式(2)で表される反応性シリル基で置換された有機電子ドナー分子Dと、有機電子アクセプター分子Aとを溶媒中で均一に混合する工程を含む。
【0086】
均一に混合する方法としては、有機電子ドナー分子Dと有機電子アクセプター分子Aの双方が溶解する溶媒を用いて溶液を作製するのが簡便で好ましい。具体的には、有機電子ドナー分子Dを溶媒に溶解させた溶液L
Dと、有機電子アクセプター分子Aを溶媒に溶解させた溶液L
Aとを、別々に調製し、調製後に、これらの溶液L
DとL
Aとを混合する方法や、有機電子ドナー分子D及び有機電子アクセプター分子Aを混合してから溶媒に溶解させて溶液とする方法が好ましい。有機電子ドナー分子Dと有機電子アクセプター分子Aの混合比率は任意に決定することができるが、一般には有機電子ドナー分子Dと有機電子アクセプター分子Aのモル比率が、好ましくは1:2〜2:1、より好ましくは1:1.1〜1.1:1の範囲であり、有機電子ドナー分子Dと有機電子アクセプター分子Aのモル比率が1:1で混合されるように、溶液L
DとL
Aとを混合することが最も好ましい。
【0087】
使用することができる溶媒は、上述のように有機電子ドナー分子Dと有機電子ドナー分子Aとの両方を溶解することができる溶媒であればよく、一般的な有機溶媒から任意に選択される。例えば、ヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、トルエン、キシレン、メシチレン等の炭化水素;アニソール、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、プロピレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエステル;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、tert−ブタノール等のアルコール;等が挙げられるが、これらには限定されない。また、これらの中から二種以上の溶媒を任意の比率で混合して使用することもできる。混合溶媒を用いることにより溶解性を向上させたり、透明酸化物電極の表面修飾剤として使用する際に濡れ性を向上させたりすることが可能となる場合がある。
【0088】
溶液L
Dにおける有機電子ドナー分子Dの濃度および溶液L
Aにおける有機電子アクセプター分子Aの濃度は、それぞれの分子が溶解するように任意に決定することができるが、好ましくは各々1×10
−6〜5モル/L、より好ましくは1×10
−5〜1モル/Lである。溶液L
DとL
Aとを混合後に、さらに同一の溶媒を添加して、濃度を調節することもできる。濃度が高すぎると、溶液の粘度が上昇して均一な混合が困難となる場合があり、濃度が低すぎると電荷移動錯体の形成速度が低下する場合がある。
【0089】
溶液L
DとL
Aとを均一に混合すると、有機電子ドナー分子Dと有機電子アクセプター分子Aの組み合わせによっては、式(1)の電荷移動錯体が室温で自発的に形成される。電荷移動錯体の形成が遅い場合には、錯体形成を加速するために加熱を行ってもよい。加熱する際、温度は溶媒の沸点以下、通常30〜200℃の範囲で任意に決定される。圧力は任意であるが、常圧で行うことが簡便で好ましい。
【0090】
溶媒中で形成された電子移動錯体は、有機電子ドナー分子Dと有機電子アクセプター分子Aとの種類にもよるが、溶媒を除去することにより一般に固体、粘性の固体、あるいは粘性の液体といった形態で安定に得ることができ、あるいは、溶媒に溶解したままの状態で得ることができる。また、固体や任意の濃度の溶液といった方法で保管することができる。
【0091】
[表面修飾剤]
本実施形態による、一般式(1)で表される電荷移動錯体は、反応性シリル基を有しているため、透明酸化物電極の表面と反応することができ、透明酸化物電極の表面修飾剤として用いることができる。一般式(1)で表される電荷移動錯体を表面修飾剤として用いる場合、かかる表面修飾剤は、一般式(1)で表される電荷移動錯体と、これを溶解する有機溶媒とを含んでなり、任意選択的に、透明酸化物電極の表面に対する濡れ性を向上させるための界面活性剤をさらに含んでもよい。また、表面修飾剤には、一般式(1)で表される電荷移動錯体が1種類のみ含まれていても良く、2種類以上含まれていても良い。
【0092】
表面修飾剤を構成する有機溶媒としては、上記電荷移動錯体の均一な混合に用いることができるものとして例示した任意の有機溶媒であってよい。有機溶媒の含有量は、上記電荷移動錯体を均一に混合する工程において例示した電荷移動錯体の濃度(モル/L)を達成する量であってよく、あるいは当該濃度からさらに希釈もしくは濃縮した濃度となるように溶媒含有量を調整してもよい。
【0093】
また、任意選択的に含まれていても良い界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤のいずれであっても使用することができる。カチオン系界面活性剤としては、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等を例示することができ、アニオン系界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム等を例示することができ、ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等を例示することができるがこれらには限定されない。界面活性剤を含有する場合、その含有量は、表面修飾剤の総質量を100%としたときに、0.1〜1質量%程度とすることが好ましい。
【0094】
[表面修飾された透明酸化物電極]
本発明は、第2実施形態によれば、表面修飾された透明酸化物電極の製造方法に関する。第1実施形態において説明した電荷移動錯体は、透明酸化物電極の表面と反応することができる反応性シリル基を有している。したがって、かかる電荷移動錯体は、表面修飾された透明酸化物電極の製造方法において使用することができる。以下に、表面修飾された透明酸化物電極の製造方法及び係る製造方法により製造された透明酸化物電極について説明する。
【0095】
第2実施形態による、上記一般式(1)で表される電荷移動錯体を使用した表面修飾された透明酸化物電極の製造方法は、表面修飾剤を透明酸化物電極の表面に接触させる工程と、これにより、表面修飾された透明酸化物電極を得る工程とを含む。任意選択的に、前記接触させる工程の前に、前記透明酸化物電極の表面を活性化する工程と、前記接触させる工程の後に、余分の表面修飾剤を除去し、かつ、表面修飾された電極表面の水分を除去する工程を備えても良い。
【0096】
本実施形態において、修飾される対象は、一般的には、有機EL素子に用いられる透明酸化物電極の表面である。透明酸化物電極を構成する透明導電性酸化物としては、例えば、フッ素ドープ酸化スズ、アルミニウムドープ酸化亜鉛、インジウムドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛、スズドープ酸化インジウム(ITO)、ニオブドープ酸化チタン等が挙げられるが、これらには限定されない。特に好ましくは、透明酸化物電極は、スズドープ酸化インジウムである。
【0097】
本発明の表面修飾された透明酸化物電極の製造方法では、一般式(1)で表される反応性シリル基を有する電荷移動錯体と溶媒とを含む表面修飾剤と、上記透明酸化物電極表面とを接触させる工程(以下、この工程を「接触工程」という。)により行われる。接触させる方法は任意であり、例えば電荷移動錯体の溶液に液相で透明酸化物電極を接触させる方法が挙げられる。
液相で接触させる場合には、電荷移動錯体の溶液を透明酸化物電極表面に接触させた後に溶媒を揮発させる方法が簡便であり、ムラを低減することが可能である。
【0098】
接触工程を液相で行う場合の温度は、使用する溶媒の性質に応じて約0〜250℃の範囲で任意に定めることができるが、好ましくは約15〜200℃、より好ましくは約20〜180℃である。接触工程を固相で行う場合の温度は、約0〜250℃の範囲で任意に定めることができるが、好ましくは15〜200℃、より好ましくは20〜180℃である。
【0099】
接触工程に使用する表面修飾剤に含まれる好ましい電荷移動錯体の量は、修飾される電極の表面積1m
2あたり、好ましくは1×10
−6〜10モル、より好ましくは、1×10
−5〜5モルであり、さらに好ましくは、1×10
−4〜3モルである。大過剰量の電荷移動錯体を使用することが、表面修飾速度を高める観点から好ましい。電極に結合しなかった電荷移動錯体は、回収して再使用することが可能である。なお、ここでいう電極の表面積とは、電極の有効表面積をいうものとする。有効表面積とは、電極表面の粗さ、テクスチャ及び微細形状を考慮した表面積を意味する。本発明の表面修飾剤の分子の大きさを考慮すると、1ナノメートル程度の表面粗さや微細形状をも考慮して有効表面積を算出し、使用する表面修飾剤の量を決定することができる。
【0100】
接触工程を行う際には、水を共存させても良い。一般式(1)で表される反応性シリル基を含有する電荷移動錯体におけるケイ素原子に結合した反応性基がアルコキシ基である場合には、加水分解反応によってシラノールが生成し、電極表面との反応が進行しやすくなる。ケイ素原子に結合した反応性基が水酸基である場合には、水の添加は必ずしも必要ない。液相で接触工程を行う場合には、電荷移動錯体の溶液に水を添加することができる。また、接触工程を行う前から、電極表面に吸着している水を利用することもできる。例えば、電極表面に対する水の接触角を測定し、接触角が30度以下となる親水性状態の場合には、雰囲気中に水蒸気が存在すれば電極表面に供給されて、十分な量の水が電極表面に吸着すると考えられる。
【0101】
接触工程において、表面修飾剤に水を添加する場合における添加する水の量は、表面修飾剤の自己縮重合を最小限にとどめるため、接触工程に使用する表面修飾剤1モルに対して通常0.01〜3モルが好ましい。
【0102】
上記接触工程では、少なくとも一種類の一般式(1)で表される電荷移動錯体を含む表面修飾剤を使用する。従って、例えば、複数種類の一般式(1)の電荷移動錯体を混合した表面修飾剤を用いて、接触工程を実施することもできる。複数種類の表面修飾剤を混合した表面修飾剤を用いる接触工程の態様も、上記と同様にして実施することができる。あるいは、複数の異なる電荷移動錯体を含む異なる種類の表面修飾剤について、逐次接触工程を実施することもできる。逐次接触工程を実施する場合も、液相の場合も、固相の場合も、同様にして実施することができる。これらの態様では、複数の表面修飾剤を透明酸化物電極表面に結合させることができるため、電極からのホール注入性を微調整することが可能である。
【0103】
本発明の表面修飾された透明酸化物電極の製造方法において、接触工程の前に、任意選択的な工程として、電極表面を活性化する工程を含んでも良い。活性化の方法には、コロナ放電処理、UVオゾン処理、酸素プラズマ処理等があり、いずれも表面に吸着した有機物を酸化分解するとともに電極表面をも酸化するため、処理後の電極表面は親水性で表面自由エネルギーが高い状態となる。それゆえ、活性化によって表面修飾の速度を速めることができ、接触工程を短縮することができる。接触工程に水を使用する場合には、活性化工程について水蒸気を含む雰囲気で行うか、あるいは活性化工程を終了した後の電極表面を水と接触させる工程を更に含むことが好ましい。電極表面に、満遍なく水が吸着した状態になるためである。
【0104】
任意選択的に表面修飾された透明酸化物電極に対して、接触工程後に、加熱、洗浄、乾燥等の後処理工程を実施しても良い。余剰の電荷移動錯体を含む表面処理剤を、電極上から溶媒を用いた洗浄により除去することが好ましい。この際、電極に、同時に超音波照射を行うと洗浄効率が高い。具体的には、超音波洗浄装置に、洗浄用の溶媒を入れた中に、接触工程を完了した透明酸化物電極を浸漬し超音波を照射することにより実施することができる。また、後処理工程として、表面に吸着した水分を除去する工程を実施しても良い。具体的には、ホットプレート上やオーブン内で、表面修飾された透明酸化物電極を加熱することで実施することができる。この場合の、加熱温度及び加熱時間は、当業者が任意に決定することができる。典型的には好ましくは40〜300℃、より好ましくは60〜250℃で、好ましくは1〜120分間、より好ましくは、5〜60分間である。加熱は大気中で行っても良いし、窒素やアルゴン等の不活性ガス中で行っても良い。
【0105】
このような製造方法により製造された、表面修飾された透明酸化物電極の表面修飾層の平均厚さは、含有される電荷移動錯体の種類にもよるが、少なくとも0.5nm以上であって、5nm以下であることが好ましい。平均厚さが小さいと電極表面が十分に被覆されていない場合があり、平均厚さが大きいと材料の利用効率が低下する。表面修飾層の平均厚さは、エリプソメトリーや光干渉法といった光学的方法、走査電子顕微鏡、透過電子顕微鏡、走査プローブ顕微鏡といった顕微鏡を用いた方法により測定されたものである。
【0106】
上記の通り、本発明の電荷移動錯体を使用した表面修飾された透明酸化物電極の製造方法、あるいは透明酸化物電極の表面修飾方法によれば、透明酸化物電極の表面に本発明の電荷移動錯体を接触させ、被覆することにより、表面修飾された透明酸化物電極を得ることができる。
【実施例】
【0107】
以下、本発明の電荷移動錯体および本発明の電荷移動錯体によって表面修飾された透明酸化物電極について、実施例を挙げてより具体的に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0108】
[実施例1]
N,N’−[3−(ジイソプロピルヒドロキシシリル)フェニル]−N,N’−ジフェニルベンジジンと2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンからの電荷移動錯体合成
公知の方法により合成されたN,N’−[3−(ジイソプロピルヒドロキシシリル)フェニル]−N,N’−ジフェニルベンジジン(以下TPDIP)の0.5mMのアセトニトリル溶液と2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(東京化成工業より入手、以下、「F4−TCNQ」という)の0.5mMアセトニトリル溶液を60μLずつアセトニトリル2.88mLに加えて混合した。このように調製した混合溶液を、窒素雰囲気下、室温で静置し、可視紫外吸収スペクトルの変化を調べた。
図1に示すように、F4−TCNQの吸収を示す385nmのピーク強度が時間の経過とともに減少してほぼ消失した。このことは、F4−TCNQの中性分子が消失したことを示す。また、それに伴ってF4−TCNQラジカルアニオンの吸収を示す752nmおよび856nmのピーク強度が増加した。これらのことから、TPDIP分子からF4−TCNQ分子へ電子が移動し、目的の電荷移動錯体が生成したと判断された。
【0109】
[実施例2]
N,N−ビス[4’−(ジ−p−トリルアミノ)ビフェニル−4−イル]−3−(ジイソプロピルヒドロキシシリル)アニリンと2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンからの電荷移動錯体合成
実施例1で使用したTPDIPを、公知の方法により合成されたN,N−ビス[4’−(ジ−p−トリルアミノ)ビフェニル−4−イル]−3−(ジイソプロピルヒドロキシシリル)アニリン(以下、「BTPDIP」という)に変更した以外は実施例1と同様にして、混合溶液の可視紫外吸収スペクトルの変化を調べた。
図2に示すように、385nmの吸収強度が時間の経過とともに減少し、753nmおよび856nmの吸収強度が増加した。これらのことから、BTPDIP分子からF4−TCNQ分子へ電子が移動し、目的の電荷移動錯体が生成したと判断された。
【0110】
[実施例3]
N,N−ジフェニル−4−[3−(ジイソプロピルヒドロキシシリル)プロピル]アニリンと2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンからの電荷移動錯体合成
実施例1で使用したTPDIPを公知の方法により合成されたN,N−ジフェニル−4−[3−(ジイソプロピルヒドロキシシリル)プロピル]アニリン(以下TPAIP)に変更した以外は実施例1と同様にして、混合溶液の可視紫外吸収スペクトルの変化を調べた。
図3に示すように、385nmの吸収強度が時間の経過とともに減少し、753nmおよび856nmの吸収強度が増加した。これらのことから、TPAIP分子からF4−TCNQ分子へ電子が移動し、目的の電荷移動錯体が生成したと判断された。
【0111】
[実施例4]
N−メチル−N−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アニリンと2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンからの電荷移動錯体合成
実施例1で使用したTPDIPを公知の方法により合成されたN−メチル−N−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アニリン(以下MTMA)に変更した以外は実施例1と同様にして、混合溶液の可視紫外吸収スペクトルの変化を調べた。
図4に示すように、385nmの吸収強度が時間の経過とともに減少し、753nmおよび856nmの吸収強度が増加した。これらのことから、MTMA分子からF4−TCNQ分子へ電子が移動し、目的の電荷移動錯体が生成したと判断された。なお、実施例1〜3とは異なり1時間後までにスペクトルの変化がほとんど終了していた。
【0112】
[実施例5]
N,N−ビス[4’−(ジ−p−トリルアミノ)ビフェニル−4−イル]−3−(ジイソプロピルヒドロキシシリル)フェニルアニリンと2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンから調製した電荷移動錯体を用いた電極の表面修飾
20mm角に切断したスズドープ酸化インジウム膜付きガラス(以下ITOガラス、ジオマテック製)のITO面をUVオゾン洗浄した。実施例2で調製した電荷移動錯体溶液10μLをITO面に塗布し、溶媒を常温で揮発させた。このガラスを窒素中180℃で30分間加熱した後、室温に冷却して、トルエン中で超音波洗浄した。得られたITOガラスのITO面をX線光電子分光法により分析した。フッ素(1s)、酸素(1s)、スズ(3d
5/2)、インジウム(3d
5/2)、窒素(1s)、炭素(1s)、ケイ素(2p)について定量した結果を表1に示した。
【0113】
【表1】
【0114】
実施例5で得られたITOガラスからは、未処理のITOからは検出されないフッ素、窒素、ケイ素が検出された。これらの元素は、実施例2で得られた本発明の電荷移動錯体に含有されるものであり、また炭素が増加していることからも、ITO表面に本発明の電荷移動錯体が存在していることが示唆された。ITO表面に結合せず物理吸着していた電荷移動錯体分子は、超音波洗浄によって除去されているので、残存するのはITO表面に結合した電荷移動錯体分子である。本実施例5により、本発明の電荷移動錯体によって表面修飾されたITOガラスを得ることができた。