特許第6134368号(P6134368)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6134368焼結体及び該焼結体からなるスパッタリングターゲット並びに該スパッタリングターゲットを用いて形成した薄膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134368
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】焼結体及び該焼結体からなるスパッタリングターゲット並びに該スパッタリングターゲットを用いて形成した薄膜
(51)【国際特許分類】
   G11B 7/24056 20130101AFI20170515BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20170515BHJP
   C04B 35/453 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   G11B7/24056
   C23C14/34 A
   C04B35/453
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-205149(P2015-205149)
(22)【出願日】2015年10月19日
(65)【公開番号】特開2017-79085(P2017-79085A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2016年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】奈良 淳史
【審査官】 川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−080389(JP,A)
【文献】 特開2003−242684(JP,A)
【文献】 特開2005−302261(JP,A)
【文献】 特開2004−158049(JP,A)
【文献】 特開2006−299307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 7/24 − 7/2595
G11B 7/26
C23C 14/00 − 14/58
C04B 35/453 − 35/457
C04B 35/547
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnSと酸化物を含有する焼結体であって、前記焼結体はZnSを40〜50mol%含有し、前記酸化物は少なくともZn,Ga,Oからなる複合酸化物を含み、前記焼結体の組成が4at%≦Ga/(Ga+Zn−S)≦18at%の関係式を満たすことを特徴とする焼結体。
【請求項2】
バルク抵抗率が10Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1記載の焼結体。
【請求項3】
相対密度が90%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の焼結体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の焼結体からなるスパッタリングターゲット。
【請求項5】
Zn,Ga,S,Oを含有する膜であって、SをZnS換算で40〜50mol%含有し、4at%≦Ga/(Ga+Zn−S)≦18at%の関係式を満たすことを特徴とする膜。
【請求項6】
波長550nmにおける屈折率が2.10以上であることを特徴とする請求項5記載の膜。
【請求項7】
波長405nmにおける消衰係数が0.1以下であることを特徴とする請求項5又は6記載の膜。
【請求項8】
アモルファスであることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の膜。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体及び該焼結体からなるスパッタリングターゲット並びに該スパッタリングターゲットを用いて形成した薄膜に関し、特にDCスパッタリングが可能なスパッタリングターゲット及び所望の特性を備えた薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL、液晶ディスプレイやタッチパネル、光ディスク等の各種光デバイスにおいて可視光を利用する場合、使用する材料は透明である必要があり、特に可視光領域の全域において、高い透過率をもつことが望まれる。例えば、ZnS−SiOは、高透過率かつ柔軟な材料であることから、光ディスクの保護膜と使用されてきた。しかし、この材料は絶縁性であることから、DCスパッタリングができないという問題があった。
【0003】
このようなことから、ZnSに導電性材料を添加することで低抵抗化し、DCスパッタリングを可能とする技術がある。例えば、特許文献1には、酸化亜鉛(ZnS)を主成分とし、さらに導電性酸化物を含有させることにより、バルク抵抗値を下げ、DCスパッタリングを可能とすることが開示されている。導電性酸化物としては、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ZnS系誘電体材料(ITOを含む場合もある)を主成分とし、該材料中に、0〜5mol%のAlを配合したZnOが5〜30mol%分散したスパッタリングターゲットが開示されている。このターゲットは500Ω以下の抵抗値を有し、DCスパッタリングが可能であり、さらに、このターゲットを用いて得られる誘電体膜は非晶質であることが記載されている。
【0005】
しかし、導電性材料として酸化インジウム(In)を添加した場合、可視光短波長域に吸収を生じてしまい、透過率が低下するといった問題がある。この点、波長が650nmの光を利用する光ディスク(DVD)用途では、特に問題とならないが、タッチパネルやディスプレイ等の表示デバイスに使用する場合には、可視光領域全域で透明(高透過率)であることが要求されるため、このようなデバイスには適さないという問題がある。また、酸化アルミニウム(Al)を添加した場合、AlはZnよりも安定な硫化物を形成し易く、Alが硫黄(S)と結合してしまい、ZnSの優れた特性が維持できないという問題もある。
【0006】
また、保護層として使用される場合、デバイスのいくつかには、水との接触を嫌う金属等も多く使用されているため、その特性の一つとして、水(湿度)からの保護も要求される。特に、光ディスクのような記録保存媒体は、長期データ保存のため耐水性が必要とされており、また、有機ELの場合には、酸素や水に非常に弱いため、材料には特に高い耐水性が要求されている。
【0007】
なお、本発明を含め、上記の技術は、光学特性等を制御するための膜(光学調整膜、保護膜等)であり、導電性が求められる一般的な透明導電膜(電極)として使用されるものとは用途が異なるものである。このような膜は屈折率や透過率といった光学特性以外にも、耐湿性やアモルファス膜といったさらなる高性能化のために複数の特性の向上も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−242684号公報
【特許文献2】特開2011−8912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、バルク抵抗率が低く、DCスパッタリングが可能な焼結体スパッタリングターゲットを提供することを課題とする。また、本発明は、所望の光学特性等を備える薄膜を提供することを課題とする。この薄膜は、可視光領域全域において透過率が高く、且つ、屈折率が高く、さらに、アモルファス膜であり、良好な耐湿性を備えていることから、有機EL、液晶ディスプレイやタッチパネル、光ディスク等の光デバイス用の光学薄膜として有用である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明者は鋭意研究を行った結果、下記に提示する材料系を採用することで、DCスパッタリングによる安定で生産性が高い成膜が可能であり、且つ、所望の光学特性等を備えた薄膜を得ることが可能となり、該薄膜を使用する光デバイスの特性改善や生産性向上が可能であるとの知見を得た。
【0011】
本発明者はこの知見に基づき、下記の発明を提供する。
1)ZnSと酸化物を含有する焼結体であって、前記焼結体はZnSを40〜70mol%含有し、前記酸化物には、少なくともZn,Ga,Oからなる酸化物を含み、前記焼結体の組成が4at%≦Ga/(Ga+Zn−S)≦18at%の関係式を満たすことを特徴とする焼結体。
2)バルク抵抗率が10Ω・cm以下であることを特徴とする上記1)記載の焼結体。
3)相対密度が90%以上であることを特徴とする上記1)又は2)記載の焼結体。
4)上記1)〜3)のいずれか一に記載の焼結体からなるスパッタリングターゲット。
5)Zn,Ga,S,Oを含有する膜であって、SをZnS換算で40〜70mol%含有し、4at%≦Ga/(Ga+Zn−S)≦18at%の関係式を満たすことを特徴とする膜。
6)波長550nmにおける屈折率が2.10以上であることを特徴とする上記5)記載の膜。
7)波長405nmにおける消衰係数が0.1以下であることを特徴とする上記5)又は6)記載の膜。
8)アモルファスであることを特徴とする上記5)〜7)のいずれか一に記載の膜。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記に示す材料系を採用することにより、バルク抵抗率が低く、DCスパッタリングによる安定的な成膜が可能であり、これより、生産性向上が可能となる。また、本発明によれば、有機EL、液晶ディスプレイやタッチパネル、光ディスク等の光デバイス用の薄膜として良好な光学特性(透過率や屈折率)を確保することができるとともに、良好な耐水性等を確保することできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1及び実施例2におけるターゲットのEPMA画像を示す図である。
図2】実施例2及び比較例5における薄膜のX線回折スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の焼結体(スパッタリングターゲット)は、ZnSと酸化物を含有する焼結体であって、前記酸化物は、少なくともZn,Ga,Oからなる酸化物を含むものである。Zn,Ga,Oからなる酸化物としては、Gaが固溶したZnO固溶体(GZO)や、ZnGaのような複合酸化物がある。これによって、バルク抵抗率が低く、DC(直流)スパッタリングが可能となると共に、良好な光学特性(透過率や屈折率等)と耐水性を備えた、有機EL、液晶ディスプレイやタッチパネル、光ディスク等の光デバイス用に適したアモルファス薄膜を成膜することが可能となる。
【0015】
DCスパッタリングは、RF(高周波)スパッタリングに比べて、成膜速度が速く、スパッタリング効率が良いという優れた特徴を持つ。また、DCスパッタリング装置は価格が安く、制御が容易であり、電力の消費量も少なくて済むという利点がある。したがって、本発明のスパッタリングターゲットを使用することで、低コストで安定して膜を製造することができ、生産性が向上する。
【0016】
スパッタリングターゲット中の硫化亜鉛(ZnS)の含有量は、40mol%以上、70mol%以下とする。ZnSの含有量を40〜70mol%とする理由は、含有量が40mol%未満であると、ZnSの持つ優れた特長、すなわち、酸化物膜に比べて軟らかく、フレキシブルデバイスに適するという特長を維持することができず、また、形成した膜がアモルファスとならず、耐水性(耐湿性)に劣り、一方、含有量が70mol%を超えると、スパッタリングターゲットの導電性が低下し、DCスパッタリングができないからである。
【0017】
本発明の焼結体を構成する酸化物は、前述の通り、Zn,Ga,Oからなる固溶体や複合酸化物を少なくとも含むものであるが、その他にも、Znの酸化物(ZnOなど)、Gaの酸化物(Gaなど)を含んでいてもよい。そして、本発明の焼結体の組成は、4at%≦Ga/(Ga+Zn−S)≦18at%の関係式を満たすことを特徴とする。なお、前記関係式における元素記号は、焼結体中における各元素の濃度(原子比)を意味する。
【0018】
Ga酸化物の含有量が少ないと、膜特性(特に、耐湿性)が低下するため好ましくなく、一方、Ga酸化物の含有量が多いと、導電性が低下して、安定的なDCスパッタリングが困難となるため、GaとZnとの比は、上記の範囲内とすることが好ましい。なお、ZnSにもZnが含まれるため、上記関係式において、ZnS中のZn(S)分を差し引いている。
【0019】
導電性酸化物として、In、SnO、ZnO等が知られており、また、Al、Ga等をさらに添加することが知られている。従来このような導電性酸化物を添加することでターゲットの抵抗を下げることが行われていたが、一方で、添加材の種類や量によっては膜の光学特性を劣化させることがあり、特に可視光領域全域において高い透過率が必要な表示デバイス用の膜としては、十分な特性が得られていなかった。
【0020】
例えば、Inを含有する材料を使用した場合は、短波長域に吸収を生じてしまう。また、SnOを含有する材料を使用した場合、十分な導電性を得るために、その添加量を増やす必要があり、その結果、ZnS量が減って、ZnSの持つ優れた特長が得られなくなる。また、Inと同様、SnOについても短波長域に吸収が生じやすくなるという問題がある。したがって、可視光領域全域において、高透過率の膜を得るためには、ZnO系材料を使用することが有効である。さらに、このZnO系材料に価数の異なる酸化物を添加することで、導電性等を改善することができる。
【0021】
価数の異なる酸化物としては、Al、B、Ga等が知られている。しかし、Alを使用した場合には、Znよりも安定な硫化物を形成しまい、ZnSの優れた特性を低下させる。また、硫化物を形成することにより、添加したAlがZnOへのn型ドーパントとして働かなくなるため、導電性が低下する。また、Bは耐水性が低くデバイスの信頼性に悪影響を及ぼす可能性がある。一方、Gaの場合、Znよりも硫化物安定性が劣るため、ZnSの特性および導電性を阻害することはない。したがって、価数の異なる酸化物としては、Gaを添加することが好ましい。このように本発明は、添加材の種類と量を厳密に調整することで、良好な光学特性を確保しつつ、DCスパッタリングを可能にするものである。
【0022】
本発明の焼結体は、スパッタリングターゲットとして使用する場合、相対密度90%以上、さらには95%以上とすることが好ましい。このような高密度のスパッタリングターゲットは、膜厚の均一性を高め、また、スパッタリング時のパーティクル(発塵)やノジュールの発生を抑制することができるという効果を有する。これによって、品質のばらつきが少なく量産性を向上させることができる。
【0023】
また、本発明の焼結体は、スパッタリングターゲットとして使用する場合、バルク抵抗率を10Ω・cm以下とすることが好ましい。バルク抵抗率の低下により、DCスパッタによる成膜が可能となる。DCスパッタリングはRFスパッタリングに比べて、成膜速度が速く、スパッタ効率が優れており、スループットを向上できる。なお、製造条件によってはRFスパッタリングを行うことも場合もあるが、その場合でも、成膜速度の向上がある。
【0024】
光学調整膜として使用する場合、通常、反射防止や光損失低減のために、特定の屈折率を持つ材料が必要とされる。必要な屈折率はデバイス構造(光学調整膜の周辺層の屈折率)によって異なる。本発明によって得られる膜は、波長550nmにおける屈折率nを2.10以上の範囲に制御することが可能となる。なお、スパッタリングターゲットを用いて形成した膜の組成は、そのターゲットの組成と実質的に同程度になるように制御することが可能である。すなわち、Zn,Ga,S,Oを含有し、SをZnS換算で40〜70mol%含有し、4at%≦Ga/(Ga+Zn−S)≦18at%の関係式を満たすものである。
【0025】
光学調整膜自体、高い透過率(消衰係数が小さい)ことが好ましく、本発明によれば、波長405nmにおける消衰係数が0.1以下と、可視光の短波長域において、吸収が少ない膜を得ることができる。なお、この消衰係数は、膜厚に依存しない値である。また、本発明の膜は、アモルファスであるため加工性に優れ、また、高温高湿耐性を備えることから、膜質の劣化を防ぐことができる。
【0026】
本発明の焼結体は、各原料粉末を秤量、混合した後、この混合粉末を不活性ガス雰囲気又は真空雰囲気の下、加圧焼結(ホットプレス)するか、又は、原料粉末をプレス成形した後、この成形体を常圧焼結することによって、製造することができる。このとき、焼結温度は、800℃以上、1400℃以下とすることが好ましい。800℃未満とすると高密度の焼結体が得られず、1400℃超とすると、原料の蒸発による組成ズレや、密度の低下が生じるため、好ましくない。また、プレス圧力は、150〜500kgf/cmとするのが好ましい。
【0027】
さらに密度を向上させるためには、Ga原料粉末とZnO原料粉末とを秤量、混合した後、この混合粉末を仮焼(合成)し、その後、これを微粉砕したものを用意し、この合成粉末とZnS粉末とを混合して、焼結用粉末として用いることが有効である。このように予め合成と微粉砕を行うことで均一微細な原料粉末を得ることができ、緻密な焼結体を作製することができる。微粉砕後の粒径については、平均粒径5μm以下、好ましくは、平均粒径2μm以下とする。また、仮焼温度は、好ましくは800℃以上1200℃以下とする。このような範囲とすることで、焼結性が良好となり、さらなる高密度化が可能となる。
【0028】
後述の実施例、比較例を含め、本願願発明における評価方法等は、以下の通りである。
(成分組成について)
装置:SII社製SPS3500DD
方法:ICP-OES(高周波誘導結合プラズマ発光分析法)
(密度測定について)
寸法測定(ノギス)、重量測定
【0029】
(相対密度について)
下記、理論密度を用いて算出する。
相対密度(%)=寸法密度/理論密度×100
理論密度は、各金属元素の化合物換算配合比から計算する。
ZnのZnS換算重量をa(wt%)、GaのGa換算重量をb(wt%)、
ZnのZnO換算重量をc(wt%)としたとき、
理論密度=100/(a/4.06+b/5.95+c/5.61)
また、各金属元素の化合物換算密度は下記値を使用。
ZnS:4.06g/cm、Ga:5.95g/cm
ZnO:5.61g/cm
【0030】
(バルク抵抗について)
装置:NPS社製 抵抗率測定器 Σ−5+
方法:直流4探針法
(成膜方法、条件について)
装置:ANELVA SPL−500
ターゲット:φ6inch×5mmt
基板:φ4inch
基板温度:室温
【0031】
(屈折率、消衰係数について)
装置:SHIMADZU社製 分光光度計 UV−2450
測定サンプル:膜厚500nm以上のガラス基板上成膜サンプル、及び、未成膜ガラス基板
測定データ:
(成膜サンプル):薄膜面からの反射率及び透過率及び基板面からの反射率(いずれも裏面反射あり)
(ガラス基板):裏面反射あり反射率及び透過率、裏面反射なし反射率
計算方法:測定データから以下の資料に基づき算出(小檜山光信著、光学薄膜の基礎理論、株式会社オプトロニクス社、(2006)、126−131)
【0032】
(膜のアモルファス性について)
成膜サンプルのX線回折による回折ピークの有無で判断した。下記条件での測定にて膜材料に起因する回折ピークが見られない場合、アモルファス膜と判断する。
なお、回折ピークが存在しないとは、2θ=10°〜60°における最大ピーク強度をImax、2θ=40°〜50°の平均ピーク強度をIBGとしたときに、Imax/IBG < 5 である場合を意味する。
装置:リガク社製UltimaIV
管球:Cu−Kα線
管電圧:40kV
電流:30mA
測定方法:2θ−θ反射法
スキャン速度:8.0°/min
サンプリング間隔:0.02°
測定範囲:10°〜60°
測定サンプル:ガラス基板(Eagle2000)上成膜サンプル(膜厚500nm以上)
【0033】
(高温高湿耐性について)
高温高湿耐性(耐候性)試験:温度80℃、湿度80%条件下にて48時間保管後、光学定数及び抵抗測定を実施し、高温高湿試験前後において、特性差が10%未満の場合には〇、10%以上の場合には×、と判断する。
【実施例】
【0034】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0035】
(実施例1)
Ga粉、ZnO粉を表1に示す原子比となるように調合し、これを混合した。次に、この混合粉末を大気中、温度1050℃で仮焼した後、湿式微粉砕(ZrOビーズ使用)にて平均粒径2μm以下に粉砕し、乾燥後、目開き150μmの篩で篩別を行った。その後、この微粉砕粉とZnS粉とを表1に記載される配合比で混合した後、Ar雰囲気中、温度1100℃、圧力200kgf/cmの条件でホットプレス焼結した。
その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗と相対密度を測定した結果、表1に示す通り、相対密度は97.7%に達し、バルク抵抗は0.02Ω・cmとなり、安定したDCスパッタが可能であった。ターゲットの成分組成は、分析の結果、原料粉末の配合比と同等になることを確認した。また、EMPA(電子線マイクロアナライザー)を用いてターゲット組織を観察した結果、図1に示すように、Ga、Zn、Oからなる酸化物が形成されていることを確認した。
【0036】
上記仕上げ加工したターゲットを使用して、スパッタリングを行った。スパッタ条件は、DCスパッタ、スパッタパワー500W、酸素を2.0vol%含有するArガス圧0.5Paとし、膜厚5000〜7000Åに成膜した。成膜サンプルの、屈折率(波長550nm)、消衰係数(波長405nm)、体積抵抗率、を測定した。表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜は、屈折率が2.35、消衰係数が0.02と、所望の光学特性が得られた。また、アモルファス性、高温高湿耐性(耐候性)は、良好であった。
【0037】
【表1】
【0038】
(実施例2)
Ga粉、ZnO粉を表1に示す原子比となるように調合し、これを混合した。次に、この混合粉末を大気中、温度1050℃で仮焼した後、湿式微粉砕(ZrOビーズ使用)にて平均粒径2μm以下に粉砕し、乾燥後、目開き150μmの篩で篩別を行った。その後、この微粉砕粉とZnS粉とを表1に記載される配合比で混合した後、実施例1と同様にホットプレス焼結した。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗と相対密度を測定した結果、表1に示す通り、相対密度は96.7%に達し、バルク抵抗は0.003Ω・cmとなり、安定したDCスパッタが可能であった。また、EMPA(電子線マイクロアナライザー)を用いてターゲット組織を観察した結果、図1に示すように、Ga、Zn、Oからなる酸化物が形成されていることを確認した。
次に、仕上げ加工したターゲットを使用して、スパッタリングを行った。スパッタ条件は、実施例1と同様とした。成膜サンプルの、屈折率(波長550nm)、消衰係数(波長405nm)、体積抵抗率、を測定した結果、表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜は、屈折率が2.24、消衰係数が0.04と、所望の光学特性が得られた。また、アモルファス性(図2参照)が、高温高湿耐性(耐候性)は、良好であった。
【0039】
(実施例3)
Ga粉、ZnO粉を表1に示す原子比となるように調合し、これを混合した。次に、この混合粉末を大気中、温度1050℃で仮焼した後、湿式微粉砕(ZrOビーズ使用)にて平均粒径2μm以下に粉砕し、乾燥後、目開き150μmの篩で篩別を行った。その後、この微粉砕粉とZnS粉とを表1に記載される配合比で混合した後、実施例1と同様にホットプレス焼結した。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗と相対密度を測定した結果、表1に示す通り、相対密度は98.2%に達し、バルク抵抗は0.001Ω・cmとなり、安定したDCスパッタが可能であった。また、EMPA(電子線マイクロアナライザー)を用いてターゲット組織を観察した結果、Ga、Zn、Oからなる酸化物が形成されていることを確認した。
次に、仕上げ加工したターゲットを使用して、スパッタリングを行った。スパッタ条件は、実施例1と同様とした。成膜サンプルの、屈折率(波長550nm)、消衰係数(波長405nm)、体積抵抗率、を測定した結果、表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜は、屈折率が2.22、消衰係数が0.001、所望の光学特性が得られた。また、アモルファス性、高温高湿耐性(耐候性)は、良好であった。
【0040】
(実施例4)
Ga粉、ZnO粉を表1に示す原子比となるように調合し、これを混合した。次に、この混合粉末を大気中、温度1050℃で仮焼した後、湿式微粉砕(ZrOビーズ使用)にて平均粒径2μm以下に粉砕し、乾燥後、目開き150μmの篩で篩別を行った。その後、この微粉砕粉とZnS粉とを表1に記載される配合比で混合した後、実施例1と同様にホットプレス焼結した。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗と相対密度を測定した結果、表1に示す通り、相対密度は98.5%に達し、バルク抵抗は0.2Ω・cmとなり、安定したDCスパッタが可能であった。また、EMPA(電子線マイクロアナライザー)を用いてターゲット組織を観察した結果、Ga、Zn、Oからなる酸化物が形成されていることを確認した。
次に、仕上げ加工したターゲットを使用して、スパッタリングを行った。スパッタ条件は、実施例1と同様とした。成膜サンプルの、屈折率(波長550nm)、消衰係数(波長405nm)、体積抵抗率、を測定した結果、表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜は、屈折率が2.23、消衰係数が0.03、と所望の光学特性が得られた。また、アモルファス性、高温高湿耐性(耐候性)は、良好であった。
【0041】
(実施例5)
Ga粉、ZnO粉、ZnS粉を表1に記載される配合比で混合した。この混合粉を、実施例1と同様に(但し、焼結温度は1150℃)でホットプレス焼結した。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗と相対密度を測定した結果、表1に示す通り、相対密度は97.5%に達し、バルク抵抗は0.01Ω・cmとなり、安定したDCスパッタが可能であった。また、EMPA(電子線マイクロアナライザー)を用いてターゲット組織を観察した結果、Ga、Zn、Oからなる酸化物が形成されていることを確認した。
次に、仕上げ加工したターゲットを使用して、スパッタリングを行った。スパッタ条件は、実施例1と同様とした。成膜サンプルの、屈折率(波長550nm)、消衰係数(波長405nm)、体積抵抗率、を測定した結果、表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜は、屈折率が2.23、消衰係数が0.05と、所望の光学特性が得られた。また、アモルファス性、高温高湿耐性(耐候性)は、良好であった。
【0042】
(実施例6)
Ga粉、ZnO粉を表1に示す原子比となるように調合し、これを混合した。次に、この混合粉末を真空中、温度1050℃で仮焼した後、湿式微粉砕(ZrOビーズ使用)にて平均粒径2μm以下に粉砕し、乾燥後、目開き150μmの篩で篩別を行った。その後、この微粉砕粉とZnS粉とを表1に記載される配合比で混合した後、実施例1と同様にホットプレス焼結した。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗と相対密度を測定した結果、表1に示す通り、相対密度は96.6%に達し、バルク抵抗は0.5Ω・cmとなり、安定したDCスパッタが可能であった。また、EMPA(電子線マイクロアナライザー)を用いてターゲット組織を観察した結果、Ga、Zn、Oからなる酸化物が形成されていることを確認した。
次に、仕上げ加工したターゲットを使用して、スパッタリングを行った。スパッタ条件は、実施例1と同様とした。成膜サンプルの、屈折率(波長550nm)、消衰係数(波長405nm)、体積抵抗率、を測定した結果、表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜は、屈折率が2.31、消衰係数が0.05と、所望の光学特性が得られた。また、アモルファス性、高温高湿耐性(耐候性)は、良好であった。
【0043】
(実施例7)
Ga粉、ZnO粉を表1に示す原子比となるように調合し、これを混合した。次に、この混合粉末を真空中、温度1050℃で仮焼した後、湿式微粉砕(ZrOビーズ使用)にて平均粒径2μm以下に粉砕し、乾燥後、目開き150μmの篩で篩別を行った。その後、この微粉砕粉とZnS粉とを表1に記載される配合比で混合した後、実施例1と同様にホットプレス焼結した。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗と相対密度を測定した結果、表1に示す通り、相対密度は96.8%に達し、バルク抵抗は3Ω・cmとなり、安定したDCスパッタが可能であった。また、EMPA(電子線マイクロアナライザー)を用いてターゲット組織を観察した結果、Ga、Zn、Oからなる酸化物が形成されていることを確認した。
次に、仕上げ加工したターゲットを使用して、スパッタリングを行った。スパッタ条件は、実施例1と同様とした。成膜サンプルの、屈折率(波長550nm)、消衰係数(波長405nm)、体積抵抗率、を測定した結果、表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜は、屈折率が2.32、消衰係数が0.04と、所望の光学特性が得られた。また、アモルファス性、高温高湿耐性(耐候性)は、良好であった。
【0044】
(比較例1)
Ga粉、ZnO粉を表1に示す原子比となるように調合し、これを混合した。次に、この混合粉末を大気中、温度1050℃で仮焼した後、湿式微粉砕(ZrOビーズ使用)にて平均粒径2μm以下に粉砕し、乾燥後、目開き150μmの篩で篩別を行った。その後、この微粉砕粉とZnS粉とを表1に記載される配合比で混合した後、実施例1と同様にホットプレス焼結した。なお、ZnS量を規定より多くした。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗を測定した結果、表1に示す通り、バルク抵抗は500kΩ・cm超となり、安定したDCスパッタは困難であった。
【0045】
(比較例2)
Ga粉、ZnO粉を表1に示す原子比となるように調合し、これを混合した。このとき、Ga量を規定より少なくした。次に、この混合粉末を大気中、温度1050℃で仮焼した後、湿式微粉砕(ZrOビーズ使用)にて平均粒径2μm以下に粉砕し、乾燥後、目開き150μmの篩で篩別を行った。その後、この微粉砕粉とZnS粉とを表1に記載される配合比で混合した後、実施例1と同様にホットプレス焼結した。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗などを測定した結果、表1に示す通り、相対密度は98.5%に達し、バルク抵抗は0.01Ω・cmとなり、安定したDCスパッタが可能であった。
次に、仕上げ加工したターゲットを使用して、スパッタリングを行った。スパッタ条件は、実施例1と同様とした。成膜サンプルの、屈折率(波長550nm)、消衰係数(波長405nm)、体積抵抗率、を測定した結果、表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜は、屈折率が2.32、消衰係数が0.02と、所望の光学特性が得られた。一方、高温高湿耐性(耐候性)は劣るものであった。
【0046】
(比較例3)
Ga粉、ZnO粉を表1に示す原子比となるように調合し、これを混合した。このとき、Ga量を規定より多くした。次に、この混合粉末を大気中、温度1050℃で仮焼した後、湿式微粉砕(ZrOビーズ使用)にて平均粒径2μm以下に粉砕し、乾燥後、目開き150μmの篩で篩別を行った。その後、この微粉砕粉とZnS粉とを表1に記載される配合比で混合した後、実施例1と同様に(但し、焼結温度は1150℃)ホットプレス焼結した。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗を測定した結果、表1に示す通り、バルク抵抗は500kΩ・cm超となり、安定したDCスパッタは困難であった。
【0047】
(比較例4)
Al粉、ZnO粉を表1に示す原子比となるように調合し、これを混合した。このとき、Ga粉の代わりにAl粉を使用した。次に、この混合粉末を大気中、温度1050℃で仮焼した後、湿式微粉砕(ZrOビーズ使用)にて平均粒径2μm以下に粉砕し、乾燥後、目開き150μmの篩で篩別を行った。その後、この微粉砕粉とZnS粉とを表1に記載される配合比で混合した後、実施例1と同様に(但し、焼結温度は1150℃)ホットプレス焼結した。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗などを測定した結果、表1に示す通り、相対密度は96.9%に達し、バルク抵抗は0.3Ω・cmとなり、安定したDCスパッタが可能であった。
次に、仕上げ加工したターゲットを使用して、スパッタリングを行った。スパッタ条件は、実施例1と同様とした。成膜サンプルの、屈折率(波長550nm)、消衰係数(波長405nm)、体積抵抗率、を測定した結果、表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜は、屈折率が2.28、消衰係数が0.03と、所望の光学特性が得られた。一方、高温高湿耐性(耐候性)は劣るものであった。
【0048】
(比較例5)
Ga粉、ZnO粉を表1に示す原子比となるように調合し、これを混合した。次に、この混合粉末を大気中、温度1050℃で仮焼した後、湿式微粉砕(ZrOビーズ使用)にて平均粒径2μm以下に粉砕し、乾燥後、目開き150μmの篩で篩別を行った。その後、この微粉砕粉とZnS粉とを表1に記載される配合比で混合した後、実施例1と同様に(但し、焼結温度は1150℃)ホットプレス焼結した。なお、ZnS量を規定より少なくした。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗などを測定した結果、表1に示す通り、相対密度は96.4%に達し、バルク抵抗は0.8Ω・cmとなり、安定したDCスパッタが可能であった。
次に、仕上げ加工したターゲットを使用して、スパッタリングを行った。スパッタ条件は、実施例1と同様とした。成膜サンプルの、屈折率(波長550nm)、消衰係数(波長405nm)、体積抵抗率、を測定した結果、表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜は、屈折率が2.18、消衰係数が0.07と、所望の光学特性が得られた。一方、アモルファス膜とならず(図2参照)、高温高湿耐性(耐候性)は劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のスパッタリングターゲットは、バルク抵抗値が低く、相対密度が90%以上と高密度であることから、安定したDCスパッタリングを可能とする。そして、このDCスパッタリングの特徴であるスパッタの制御性を容易にし、成膜速度を上げ、スパッタリング効率を向上させることができるという著しい効果がある。また、成膜の際にスパッタ時に発生するパーティクル(発塵)やノジュールを低減し、品質のばらつきが少なく量産性を向上させることができる。そして、本発明のスパッタリングターゲットを使用して形成された薄膜は、各種ディスプレイにおける透明導電膜や光ディスクの保護膜、光学調整用の膜として、光学特性や高温高湿耐性において、極めて優れた特性を有する。
図1
図2