特許第6134483号(P6134483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134483
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】ガス分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20170515BHJP
【FI】
   G01N21/3504
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-138125(P2012-138125)
(22)【出願日】2012年6月19日
(65)【公開番号】特開2014-2072(P2014-2072A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121120
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100094145
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 由己男
(72)【発明者】
【氏名】井戸 琢也
(72)【発明者】
【氏名】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】辻本 敏行
【審査官】 塚本 丈二
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−231137(JP,A)
【文献】 特開2003−194674(JP,A)
【文献】 特開2010−236877(JP,A)
【文献】 特開昭60−257347(JP,A)
【文献】 特開昭63−012938(JP,A)
【文献】 特開2012−053038(JP,A)
【文献】 特表昭57−501796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/61
G01N 1/00−1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
煙道内を流れるガス中の極性ガス成分濃度を分析するガス分析装置であって、
少なくとも一部が前記煙道内に配置され、先端部と、試料ガスサンプリング空間とを有するプローブ管と、
前記試料ガスサンプリング空間に接続され、前記煙道内を流れるガスを前記試料ガスサンプリング空間内に吸引して導入するための吸引部と、
前記プローブ管の前記先端部に配置され、前記煙道内を流れるガスを前記試料ガスサンプリング空間に減圧して導入するための試料ガス導入部と、
前記試料ガスサンプリング空間中へ測定光を照射する照射部と、
前記試料ガスサンプリング空間を通過した前記測定光を受光する受光部と、
を備え
前記試料ガスサンプリング空間の少なくとも一部は前記煙道内にあり、
前記極性ガスは、少なくとも一部が前記煙道内にある前記試料ガスサンプリング空間に導入される、
ガス分析装置。
【請求項2】
前記プローブ管の外壁の、前記試料ガスサンプリング空間に対応した領域に設けられた温度調節部をさらに備えている、請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
前記試料ガス導入部は、取り込んだ前記煙道内を流れる前記ガスが通過する際に流量を制限するガス流量制限部を有している、請求項1又は2に記載のガス分析装置。
【請求項4】
前記試料ガス導入部は、粉塵捕獲フィルタを有している、請求項1から3のいずれかに記載のガス分析装置。
【請求項5】
前記試料ガス導入部は、前記プローブ管の前記先端部に設けられた試料ガス導入室と、前記試料ガス導入室から前記煙道内に延びる試料ガス採取部材とを有しており、
前記試料ガス導入室は、前記煙道の圧力以上の圧力で校正用ガスを導入するために用いられる校正用ガス導入口を有している、請求項1から4のいずれかに記載のガス分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析装置に関し、特に試料ガス中の極性ガス成分の濃度を分析するガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電などのボイラーに設置される脱硝設備において、脱硝設備の適正な動作のために、脱硝設備からのリークアンモニア濃度を低濃度に抑制することが求められている。そして、脱硝装置が適正な運転がなされているかどうかのモニタリングを行う目的で、脱硝設備からのリークアンモニア濃度を分析するための分析装置が開発されている。なお、脱硝装置のリークアンモニアのような低濃度のアンモニア濃度を測定する方法としては、脱硝装置などの煙道からサンプリングした試料ガスのアンモニア濃度を測定する方法が知られている。
【0003】
上述の試料ガスのアンモニア濃度を測定する方法としては、アンモニアを触媒に接触させて例えば窒素酸化物(NOx)に変換して、触媒に接触させて生成した生成物の濃度を化学発光法(CLD)により測定する方法や、フーリエ変換型赤外分光法(FT−IR)により直接アンモニア濃度を測定する方法、が知られている。
【0004】
この他、特許文献1及び2には、煙道を流れるガスをサンプリングプローブによりサンプリングし、サンプリングされた試料ガスを試料セルに採取し、試料ガスに光を照射し、アンモニアの吸収スペクトルを利用して試料ガス中のアンモニア濃度を測定する方法が示されている。
【0005】
また、特許文献3には、試料ガスを加熱管を介して試料セルに導入し、試料セルを負圧に維持して試料ガス中の極性ガス成分(アンモニア、ハイドロカーボン(HC)など)を測定する方法が示されている。
【0006】
しかしながら、従来の分析装置のように、煙道などから試料ガスを煙道外部の測定装置へサンプリングする試料ガス中の極性ガス成分の濃度測定方法においては、以下のような問題点がある。
【0007】
第1に、試料ガスを煙道から試料セルあるいは測定装置まで導入する過程において、試料ガスの温度が低くなると、試料ガス中に共存する極性ガス以外の成分、例えば、硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)などとアンモニアが反応し、生成物が生成される。このように、煙道ガス中の極性ガスが生成物の生成に使用されるので、低濃度のアンモニア濃度を精度よく測定できなくなる。また、生成物が固形の生成物である場合には、生成物が配管内に堆積し、最悪の場合には配管を閉塞してしまう。
【0008】
第2に、煙道から試料セルあるいは分析装置までの距離が長くなると、試料ガス中の極性ガスなどが配管内壁表面に付着することによって、試料ガスのサンプリングロスが生じる。このサンプリングロスの影響は、特に、極性ガスが低濃度である場合には無視できなくなる。また、煙道から試料セルあるいは分析装置までの距離が長くなると、試料ガスが煙道から試料セルまでに到達する時間が長くなる。この結果、サンプリング開始から極性ガス濃度分析までにかかる時間が長くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3924013号公報
【特許文献2】特開2012−8008号公報
【特許文献3】特開2012−2799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、ガス分析装置において、試料ガス中の極性ガス成分濃度を精度よくかつリアルタイムに測定できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一見地に係るガス分析装置は、煙道内を流れるガス中の極性ガス成分濃度を分析する装置であって、プローブ管と、吸引部と、試料ガス導入部と、照射部と、受光部と、を備えている。プローブ管は、少なくとも一部が煙道内に配置され、試料ガスサンプリング空間を有する。吸引部は、試料ガスサンプリング空間へ流体的に接続され、煙道内を流れるガスを試料サンプリング空間内に吸引して導入する。試料ガス導入部は、プローブ管の一端に配置され、煙道内を流れるガスを試料ガスサンプリング空間に減圧状態で導入可能とする。照射部は、試料ガスサンプリング空間中へ測定光を照射する。受光部は、試料ガスサンプリング空間を通過した測定光を受光する。
この装置では、試料ガスは、吸引部により、煙道内から試料ガス導入部を通って、さらにプローブ管の試料ガスサンプリング空間中に導入される。その状態で、照射部が試料ガスサンプリング空間中へ測定光を照射して、受光部が試料ガスサンプリング空間を通過した測定光を受光する。以上に述べた測定時において、試料ガスが試料ガス導入部を通過する間に、試料ガス導入部の圧損により、試料ガスは減圧されて試料ガスサンプリング空間内に導入される。この結果、減圧になると吸光スペクトルの線幅が細くなることから、極性ガスの吸光スペクトルが干渉成分ガスの影響を受けにくくなる。よって、極性ガスが低濃度であった場合でも極性ガス濃度を正確に測定できる。
さらに、プローブ管の少なくとも一部が煙道内に配置されているので、試料ガスを短い距離で試料ガスサンプリング空間中に取り込むことができる。これにより、極性ガスのサンプリングロスを最小限にでき、その結果、極性ガスが低濃度であった場合でも極性ガス濃度を正確に測定できる。さらに、試料ガスサンプリング開始から試料ガスが試料ガスサンプリング空間内へ到達するまでの時間が短くなるので、極性ガスの濃度をリアルタイムに測定できる。
【0012】
ガス分析装置は、プローブ管の外壁の、試料ガスサンプリング空間に対応した領域に設けられた温度調節部をさらに備えていてもよい。
この装置では、温度調節部によって、試料ガスサンプリング空間内を一定の温度に保持することができる。したがって、試料ガス中に共存する他の成分(例えば、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)など)と極性ガスの反応物の生成を抑制することができる。また、測定時の試料ガス温度を、煙道内を流れるガスの温度よりも下げつつ、試料ガス中の極性ガスと上記の共存ガスとの反応物が生成されない温度に確実に制御することができる。これにより、極性ガスの強度に対する干渉ガスのスペクトルの強度を相対的に低下させ、結果的に煙道内でそのまま計測するより高感度で、干渉影響を受けにくい計測が可能となる。よって、極性ガスの濃度を正確に測定することができる。
【0013】
試料ガス導入部は、取り込んだ試料ガスが通過する際に流量を制限するガス流量制限部を有していてもよい。
この装置では、ガス流量制限部によって、試料ガス導入部の圧損をさらに大きくできる。これにより、試料ガスサンプリング空間の圧力が煙道内の圧力変化の影響を受けにくくなり、試料ガスサンプリング空間の圧力を一定に保つことができ、かつ、試料ガスサンプリング空間の圧力をさらに減圧できる。つまり、圧力による測定値の影響が少なくなり、その結果、低濃度の極性ガスの濃度を正確に測定できる。
【0014】
試料ガス導入部は、粉塵捕獲フィルタを有していてもよい。
粉塵捕獲フィルタは、煙道内を流れるガス中に含まれる粉塵成分を捕獲する。したがって、粉塵成分が試料ガスサンプリング空間内へ導入されにくくなる。これにより、光学系の汚染を抑制でき、また、測定光が粉塵により乱反射を起こすことを防ぐことができる。以上の結果、極性ガスの濃度を正確に測定できる。
【0015】
試料ガス導入部は、プローブ管の一端に設けられた試料ガス導入室と、試料ガス導入室から煙道内に延びる試料ガス採取部材とを有していてもよい。試料ガス導入室は、煙道の圧力以上の圧力で校正用ガスを導入するために用いられる校正用ガス導入口を有していてもよい。
この装置では、校正用ガス導入口から試料ガス導入室に校正用ガスが導入されると、校正用ガスは試料ガスサンプリング空間内に流れる。この状態で、実ガス(極性ガス、試料ガスの主成分ガスなど)によるガス分析装置の校正(ゼロ点補正、スパン校正など)が行われる。なお、以上の校正は、ガス分析装置を煙道から取り外すことなく、行われる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るガス分析装置では、極性ガスが低濃度であった場合でも正確に極性ガス濃度を測定することができる。また、極性ガスの濃度をリアルタイムに測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係るガス分析装置の模式的断面図
図2】本発明の第1実施形態に係るガス分析装置の要部拡大断面図
図3】本発明の第1実施形態に係るガス分析装置の試料ガス導入部の拡大断面図
図4】本発明の第1実施形態に係るガス分析装置の他の試料ガス導入部の拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
(1)ガス分析装置
図1は、本発明の第1実施形態に係るガス分析装置100の構成を示す断面図であり、図2は、ガス分析装置100の要部拡大図である。
ガス分析装置100は、煙道50内を流れるガスS内の極性ガスの濃度分析を行う装置である。なお、極性ガスの一例としては、NHがある。また、煙道50は、例えば、発電プラントの燃焼ボイラーから煙突までのガス通路である。
【0019】
図1に示すように、ガス分析装置100は、主に、プローブ管2と、試料ガス導入部4と、光学ユニット6と、分析部8とを備えている。ガス分析装置100は、さらに、吸引管10と、ブローバックガス導入管12と、吸引装置16と、ガス供給装置18とを備えている。
【0020】
プローブ管2は、筒状の部材であり、煙道50内のガスSの流れ方向に直交する方向に延びている。次に、プローブ管2の取付位置を説明する。煙道50には、煙道50の側壁を形成する煙道側壁51が形成されている。煙道側壁51は断熱材から構成されている。煙道側壁51の一部には、ガスSの流れ方向に直交する孔部51aが形成されている。孔部51aの周囲には、煙道50から離れる方向に延びる筒状部材52が設けられている。プローブ管2は、概ね、煙道側壁51の孔部51a及び筒状部材52内に収納されている。プローブ管2の基端側にはフランジ20が固定されており、フランジ20が筒状部材52の先端に固定されている。なお、プローブ管2の外周側の空間は、煙道50内と連通しており、煙道50の一部である。
このようにプローブ管2が煙道側壁51の部分に配置されているので、ガス分析装置100の占有空間が小さくなる。
プローブ管2の構造は後に詳細に説明する。
【0021】
光学ユニット6は、プローブ管2の基端側に設けられている。光学ユニット6は、測定光を送受光するための装置であり、照射部62と受光部64とを備えている。
照射部62は、プローブ管2の試料ガスサンプリング空間22にある試料ガスに向けて測定光となる光を照射する光源であり、所定波長域の光を照射するレーザ発信装置などで構成できる。受光部64は、試料ガスサンプリング空間22に導入された試料ガスを通過した測定光を受光するための受光素子である。
【0022】
光源にレーザ光源を用いる場合、レーザ光源としては、特に、量子カスケードレーザ(QCL)を用いることが好ましい。QCL素子は、一定間隔の電流パルスによりレーザ光を発振するものであり、レーザ素子からの発振波数は温度に依存するため、結果的に発振波数はある狭い波数範囲でのスキャンを繰り返す。このQCLを用いた吸光光度法(QCL−IR法)では、目的とする成分の吸収ピーク位置がこの範囲内に入るように、発振中心波数を調整した素子を使用する。
【0023】
なお、減圧した試料ガスサンプリング空間22では、試料ガス中のアンモニア等の吸着性ガス成分の密度が小さく、その吸収ピークが小さくなり、感度が下がってしまう。しかしながら、近赤外領域の発振波長(パルス幅は、例えば、500nsec.)を有するQCLを用いることで、吸収ピークを大きくすることができ、減圧下においても感度を低下させることなく、吸着性ガス成分の濃度を測定でき高速応答が可能となる。
【0024】
また、試料ガスサンプリング空間22にコーナーキューブなどの光反射手段が設けられている場合、光の反射により試料ガスサンプリング空間22内での光路長を長くすることができ、検出信号を大きくすることができ、検出感度を向上させることができる。特に、試料ガスに含まれるアンモニア等の低濃度ガスの濃度測定において有効である。
また、レーザ光源は波長可変の単色光であるので、分光器等を必要としないので、装置の設置が大掛かりにならずに済むので、プローブ管2を煙道側壁51の部分に設置して、ガス分析装置100の占有空間を小さくすることができる。
【0025】
分析部8は、光学ユニット6に接続され、光学ユニット6の受光部64の出力信号に基づいてガスS中の極性ガスの濃度の分析を行う機能を有している。分析部8は、吸引装置16と、ガス供給部18と、温度コントローラ241などと接続され、ガス分析装置100の制御も行う。
【0026】
分析部8は、端末とインターフェース部(いずれも不図示)により構成される。端末は、測定条件の設定、ガス分析装置に対する制御信号の出力、及びガス分析装置の受光部64の出力信号に基づいて極性ガスの濃度分析を行う。インターフェース部は、端末とガス分析装置100に接続され、端末からのガス分析装置100に対する制御信号を受信し、端末からの制御信号をガス分析装置専用の制御信号に変換しガス分析装置(光学ユニット6、吸引装置16、及びガス供給部18)に送信したり、ガス分析装置の受光部64の出力信号(アナログ信号)を受信し、アナログ信号をデジタル信号に変換し、端末へ送信したりする。
【0027】
変形例として、分析部8は、上記インターフェース部を光学ユニット6中に備え、光学ユニット6と端末をLANや光ファイバーなどにより接続するような構成をとっていてもよい。また、光学ユニット6中に上記インターフェース部と無線通信手段とを備え、光学ユニット6と端末とを無線LANやWi−Fiなどの無線通信により通信するような構成をとってもよい。
【0028】
試料ガス導入部4は、試料ガスサンプリング空間22に、煙道50内を流れるガスS又は校正用ガスが導入する構造である。試料ガス導入部4は、プローブ管2の先端に設けられている。試料ガス導入部4は、試料ガスサンプリング空間22と導通している。試料ガス導入部4については後に詳細に説明する。
【0029】
試料ガスサンプリング空間22のプローブ管2の基端部側の壁26は、全部又は一部に光学的に透明な部材を備えている。壁26の光学的に透明な部材としては、例えば、石英、サファイア、フッ化カルシウム(蛍石)などの透明部材を用いることができる。また、測定光を所定の光路で入射するために、壁26の透明部材は、必要に応じて凹レンズ、凸レンズ、又は凹凸レンズ状などの形状に形成されていてもよい。
【0030】
また、試料ガスサンプリング空間22には、光反射手段28が設けられている。光反射手段28は、プローブ管2の先端側に配置され、光学ユニット6の照射部62から照射され、試料ガスサンプリング空間22中の試料ガスを通過した測定光を反射する。光反射手段としては、例えば、コーナーキューブや反射板などを用いることができる。
【0031】
温度調節部24は、試料ガスサンプリング空間22中の試料ガスの温度を一定に調節するための装置である。温度調節部24は、プローブ管2の外壁の、試料ガスサンプリング空間22に対応した領域に設置されている。温度調節部24には、温度コントローラ241が接続されており、温度コントローラ241は、試料ガスサンプリング空間22の温度を一定にするように、温度調節部24を制御する。温度調節部24は、ヒーターなどの加熱手段のみを備えていてもよいし、加熱手段と冷却手段の両方を備えていてもよい。冷却手段としては、例えば、プローブ管2の外壁にガス配管をコイル状に巻きつけて、当該ガス配管に冷却ガスを流してプローブ管2の外壁を冷却する手段を用いることができる。
【0032】
吸引管10は、試料ガスサンプリング空間22を吸引するための部材である。吸引管10は、一端がプローブ管2の試料ガスサンプリング空間22に対応する部分(吸引口)に接続され、他端が吸引装置16に接続されている。ここでは、吸引管10と吸引装置16をあわせて、吸引部と呼ぶこともある。
【0033】
吸引装置16としては、例えば、ロータリーポンプ、ダイアフラムポンプなどのメカニカルポンプや、アスピレーターなどを用いることができる。また、吸引装置16は、試料ガスサンプリング空間22の圧力に応じて吸引装置16の吸引力を調整するために、電磁弁などの流量調整機構を備えていてもよい。
【0034】
ブローバックガス導入管12は、試料ガス導入部4の粉塵捕獲フィルタ46(後述)に捕獲された粉塵を、粉塵捕獲フィルタ46から除去するための部材である。ブローバックガス管12の一端は、プローブ管2の試料ガスサンプリング空間22に対応する部分(ブローバックガス口)に設けられ、試料ガス導入部4の試料ガスサンプリング空間22側のガス出口の近傍に設置されている。ブローバックガスの圧力は煙道50内の圧力以上に設定されている。
【0035】
試料ガス導入部4は、特に、煙道50内で用いられる場合、腐食性物質を含有するガスに直接さらされることがある。したがって、試料ガス導入部4は、耐蝕性と耐熱性とを備える素材により形成されている。試料ガス導入部4を形成する素材として、例えば、SUS304(オーステナイト系ステンレス)のようなステンレスを用いることができる。その他、表面にセラミックコーティングを施したステンレスなどを用いることもできる。
【0036】
試料ガス導入部4は、図3に示すように、試料ガス導入室41と、試料ガス採取部材42と、校正用ガス導入管44と、粉塵捕獲フィルタ46と、ガス流量制限部48とを備えている。
【0037】
試料ガス導入室41は、試料ガス採取部材42と校正用ガス導入管44に接続されている。試料ガス導入室41には、ガスS中の所定成分の濃度分析を行うときには、試料ガス採取部材42からガスSが導入され、ガス分析装置100の校正を行うときは、校正用ガス導入管44から校正用ガスが導入される。
【0038】
試料ガス採取部材42は、煙道50内のガスSを、試料ガスとして試料ガス導入部4の試料ガス導入室41へ導入するための筒状部材である。試料ガス採取部材42は、試料ガス導入部4の先端部に設置され、煙道50内を流れるガスSの流路に対し略垂直に煙道50内に伸びている。
【0039】
校正用ガス導入管44は、校正用ガスを試料ガス導入室41へ導入するための部材である。校正用ガス導入管44は、図1に示すように、一端が試料ガス導入室41の途中部分(校正用ガス導入口)に接続され、他端がガス供給部18の校正用ガス供給口(不図示)に接続されている。ガス供給部18から供給される校正用ガスの圧力は、ガス分析装置100の校正中に、煙道50内を流れるガスSがガス分析装置100のプローブ管2に導入されることを防ぐため、煙道50内のガス圧力以上に設定されている。
【0040】
粉塵捕獲フィルタ46は、試料ガスや校正用ガス中の粉塵を通過させないための部材である。粉塵捕獲フィルタ46は、試料ガス導入室41の試料ガス採取部材42とは反対側に設置されている。また、試料ガス導入部4は高温の煙道中に配置されるため、粉塵捕獲フィルタ46に用いられる部材は耐熱性を有する必要がある。よって、粉塵捕獲フィルタ46の部材としては、例えば、ステンレス製フィルタなどを用いることができる。
【0041】
ガス流量制限部48は、試料ガスサンプリング空間22へのガスの流量を制限し、試料ガス導入部4の圧損を増加させる部材である。ガス流量制限部48は、粉塵捕獲フィルタ46の試料ガス導入室41とは反対側に設置されている。ガス流量制限部としては、例えば、オリフィスを用いることができる。その他、細孔を設けた板や粉塵捕獲フィルタとは別のフィルタなど、ガス流に対して抵抗体となるような部材を用いることができる。
【0042】
なお、図3では、粉塵捕獲フィルタ46とガス流量制限部48は、試料ガス導入室41からプローブ管2の試料ガスサンプリング空間22の方向に向かって、粉塵捕獲フィルタ46、ガス流量制限部48の順番で設置されていたが、図4の変形例に示すように、ガス流量制限部48、粉塵捕獲フィルタ46の順番で設置されていてもよい。この場合、ガス流量制限部48により試料ガス及び校正用ガスの流量を十分に制限した後に、試料ガス及び校正用ガス中の粉塵が粉塵捕獲フィルタ46により捕獲される。
【0043】
また、別の変形例として、ガスが流れる開口部に粉塵フィルタを設置したオリフィスのように、粉塵捕獲フィルタ46の機能とガス流量制限部48の機能とを同時に備えた部材を用いてもよい。この場合は部品点数が少なくなる。
【0044】
(2)濃度分析動作
次に、第1実施形態に係るガス分析装置100により煙道50内を流れるガスSの極性ガス成分の濃度を分析する方法について説明する。
【0045】
ガス分析装置100では、ガス分析装置100の照射部62から照射された測定光が、プローブ管2の試料ガスサンプリング空間22中の試料ガスを通過する間に、試料ガス中の極性ガスにより吸収される光量の程度(吸光度)に基づいて、試料ガス中の極性ガス成分の濃度を分析する(吸光光度分析)。
【0046】
(2−1)試料ガス中の極性ガス濃度分析
ここで、ガス分析装置100を用いて極性ガス成分の濃度分析を行う前に、後述する、ガス分析装置100のゼロ点補正及びスパン校正はすでに行われているものとする。
【0047】
まず、ユーザーにより、分析部8の端末を用いて、試料ガスサンプリング空間22の温度(測定温度)などの測定条件が設定される。測定条件の設定終了後、ユーザーが端末に測定開始の指令を出す。端末に入力された測定開始の指令は、インターフェース部に送信される。このとき、端末から測定開始の指令とともに、設定した測定条件をインターフェース部に送信するようにしてもよいし、以下のガス分析装置100の動作ごとにインターフェース部が端末に対して、測定条件の送信を要求するようにしてもよい。
【0048】
ユーザーによる測定開始の指令後、ガス分析装置100は、プローブ管2の外壁に設置された温度調節部24により、試料ガスサンプリング空間22が設定された測定温度になるように温度を調整する。なお、プローブ管2の外側の空間は煙道50の一部であるので、煙道50の熱を有効利用できる。
【0049】
例えば、測定温度は、150℃以上、400℃以下の範囲で設定できるようにする。測定温度は、極性ガスと試料ガス中の極性ガス以外の成分(共存ガス)との反応と、測定感度の過剰な減少により、極性ガスへの指示誤差が発生しない範囲に設定する。すなわち、共存ガスに含まれる成分に応じて最適な測定温度を設定する。
例えば、測定対象の極性ガスがアンモニアの場合、共存ガスに硫黄酸化物(SOx)が含まれるときは、320℃以上、400℃以下に設定する。この場合、320℃以下になると、アンモニアと硫黄酸化物(SOx)とが反応し、硫酸アンモニウム(硫安、(NH42SO4)が生成する。例えば、また、共存ガスに窒素酸化物(NOx)が含まれるときは、180℃以上、400℃以下に設定する。この場合、180℃以下になると、アンモニアと窒素酸化物(NOx)とが反応し、硝酸アンモニウム(硝安、NH4NO3)が生成する。
【0050】
なお、試料ガスサンプリング空間22を測定温度に調整する前に、試料ガスサンプリング空間22を測定温度よりも高い温度に設定し、数分から数時間程度その温度を保持しておくこともできる。これにより、これまでのガス濃度分析により試料ガスサンプリング空間22中に堆積した、極性ガスとそれ以外の成分との生成物を分解し除去することができる。また、試料ガスサンプリング空間22の壁表面に吸着したガスを、壁表面から離脱させることもできる。
【0051】
試料ガスサンプリング空間22が設定された測定温度に調整された後、ガス分析装置100の吸引装置16により、試料ガスサンプリング空間22を吸引減圧する。これにより、煙道50内のガス圧力と試料ガスサンプリング空間22の圧力の間に差が生じ、煙道50内のガスSが、試料ガス導入部4によってプローブ管2の試料ガスサンプリング空間22へ試料ガスとして取り込まれる。
【0052】
試料ガス導入部4には、粉塵捕獲フィルタ46が設けられているため、煙道50内から採取された試料ガス中の粉塵は、試料ガスが試料ガス導入部4を通過する間に除去される。これにより、試料ガスサンプリング空間22には、粉塵が混入していない試料ガスが取り込まれる。このため、試料ガスサンプリング空間22の壁26の光学的に透明の部材や試料ガスサンプリング空間22に設置された光反射手段28といった光学系の汚染を抑制することができる。また、測定光が、試料ガスを通過中に、試料ガスに混入した粉塵により乱反射を起こすことを防ぐこともできる。
【0053】
また、煙道50と試料ガスサンプリング空間22との間にはガス流量制限部48が設けられているので、試料ガスサンプリング空間22は、煙道50内の圧力変動の影響を受けにくくなっており、かつ、試料ガスサンプリング空間22をさらに減圧できる。このため、試料ガス中の極性ガス濃度分析中は、試料ガスサンプリング空間22を一定の圧力(例えば、10kPa)に減圧することができる。
【0054】
試料ガスサンプリング空間22の圧力は、試料ガス導入部4の配管抵抗と吸引装置16の吸引能力とのバランスにより決まるある一定値に保持される。吸引装置16が流量調整機構を備えている場合は、さらに、吸引装置16の吸引能力を調整しつつ、試料ガスサンプリング空間22を吸引減圧することができる。これにより、試料ガスサンプリング空間22を所定の一定圧力に精度よく保持することができる。この場合、試料ガスサンプリング空間22がユーザーにより設定された圧力になるように、吸引装置16の流量調整機構の電磁弁開度などがフィードバック制御される。
【0055】
このようにして、試料ガスサンプリング空間22が一定の圧力に減圧され、吸光スペクトルの線幅が細くなるので、極性ガスの濃度測定時、測定対象である極性ガスの吸光スペクトルが水分など共存ガスの干渉影響を受けにくくなる。よって、極性ガスが低濃度であった場合でも正確に極性ガス濃度を測定できる。
【0056】
試料ガスサンプリング空間22の温度及び圧力が設定された値になった後、光学ユニット6の照射部62から測定光が試料ガスサンプリング空間22内の試料ガスに入射される。試料ガスサンプリング空間22内の試料ガスを通過した測定光は、光学ユニット6の受光部64により受光される。
【0057】
(2−2)ゼロ点補正及びスパン校正
ガス分析装置100により極性ガスの濃度を精度よく測定することを目的として、ガス分析装置100のゼロ点補正及びスパン校正を行う。ゼロ点補正とは、極性ガスが試料ガス中に存在していないガス(ゼロガス)のガス分析装置100で得られる測定値を、ガス分析装置100のベースラインとするガス分析装置100の校正のことをいう。スパン校正とは、極性ガスの濃度が分かっているスパンガスをガス分析装置100を用いて測定した結果と、ゼロ点補正結果とに基づいて、ガス分析装置100の極性ガス濃度に対する指示値の校正を行うことをいう。
【0058】
ゼロガスとしては、試料ガスの主成分ガスを用いることができる。例えば、乾燥空気や窒素などのガスを用いることができる。スパンガスとしては、極性ガスがある決まった濃度でゼロガスに混合された混合ガスを用いることができる。スパンガスは、スパンガスとして予め用意しておいてもよいし、ゼロ点補正後に、ゼロガスに極性ガスを追加して試料ガスサンプリング空間22に導入するようにして作り出してもよい。
【0059】
ガス分析装置100のゼロ点補正は以下の手順で行う。まず、試料ガス導入部4の校正用ガス導入管44から、試料ガス導入室41、粉塵捕獲フィルタ46、ガス流量制限部48を経て、試料ガスサンプリング空間22にゼロガスを導入する。このとき、ゼロガスは煙道50内の圧力以上の一定の圧力で導入される。これにより、ゼロ点補正時に、煙道50内を流れるガスSが試料ガスサンプリング空間22に流入することを妨げる。つまり、例えばボイラー運転中にも校正が可能になっている。
【0060】
このとき、ゼロガスが試料ガスサンプリング空間22に導入されやすくするために、吸引装置16で試料ガスサンプリング空間22を吸引しながら、ゼロガスの導入を行ってもよい。又は、吸引管10の一部にガス排気口を設け、ゼロ点補正及びスパン校正時には、ゼロガス及びスパンガスを、当該ガス排気口から排気するようにしてもよい。
【0061】
ゼロガスが試料ガスサンプリング空間22に導入された後、光学ユニット6の照射部62から試料ガスサンプリング空間22のゼロガスに向けて測定光を照射し、受光部64でゼロガスを通過した測定光の強度を測定する。当該測定結果に基づき、ガス分析装置100のベースラインを決定する。決定されたベースラインは分析部8に記憶される。
【0062】
ガス分析装置100のスパン校正は以下の手順で行う。まず、校正用ガス導入管44から、煙道50内の圧力以上の一定の圧力でスパンガスを試料ガスサンプリング空間22に導入する。このときも、ゼロ点補正時と同様、吸引装置16で試料ガスサンプリング空間22を吸引しながらスパンガスを導入してもよいし、吸引管10の一部に設けられたガス排気口から排気するようにしてもよい。
【0063】
その後、光学ユニット6の照射部62から試料ガスサンプリング空間22のスパンガスに向けて測定光を照射し、受光部64でスパンガスを通過した測定光の強度を測定する。当該測定結果と、分析部8に記憶されたベースラインとに基づいて、ガス分析装置100の極性ガス濃度に対する指示値の校正を行う。校正結果は分析部8に記憶される。
【0064】
ガス分析装置100の極性ガスに対する指示値が、極性ガスの濃度に対して線形的に変化する場合は、一種類のスパンガス(想定される最大濃度で極性ガスが混合されたスパンガス)のみを用いてスパン校正すればよい。ガス分析装置100の極性ガスに対する指示値が、極性ガスの濃度に対して非線形的に変化する場合は、極性ガスの混合濃度が異なる数種類のスパンガスを用いてスパン校正すればよい。この場合、スパン校正時に測定しなかった濃度の極性ガスに対する指示値は、その濃度近辺の2つのスパン校正結果を用いて補間することにより求めることができる。
【0065】
上記のゼロ点補正及びスパン校正を行う際、試料ガスサンプリング空間22は、試料ガス中の極性ガス濃度分析時に設定する温度と圧力にすることができる。これにより、ゼロ点補正及びスパン校正を行ったのと同じ温度、圧力条件で、極性ガス濃度分析を行うことになるため、極性ガス濃度分析時に測定値の温度及び圧力による補正を省略することができる。
【0066】
(3)実施形態の作用効果
ガス分析装置100(ガス分析装置の一例)は、煙道内を流れるガスS中の極性ガス成分濃度を分析する装置であって、プローブ管2と、試料ガス導入部4と、照射部62と、受光部64と、吸引管10、吸引装置16と、を有している。プローブ管2(プローブ管の一例)は、少なくとも一部が煙道50内に配置され、試料ガスサンプリング空間22(試料ガスサンプリング空間の一例)を有する。試料ガス導入部4(試料ガス導入部の一例)は、プローブ管2の先端部に配置され、煙道50内を流れるガスを試料ガスサンプリング空間22に減圧し導入する。照射部62(照射部の一例)は、試料ガスサンプリング空間22中へ測定光を照射する。受光部64(受光部の一例)は、試料ガスサンプリング空間22を通過した測定光を受光する。吸引管10(吸引部の吸引管の一例)は、吸引装置16(吸引部の吸引装置の一例)に接続され、プローブ管2の試料ガスサンプリング空間22に対応する部分に設けられ、試料ガスサンプリング空間22を吸引するために用いられる。
煙道50内を流れるガスは、試料ガスサンプリング空間22を吸引部により吸引することで、試料ガス導入部4によって取り込まれ、さらにプローブ管2の試料ガスサンプリング空間22中に導入される。その状態で、照射部62が試料ガスサンプリング空間中へ測定光を照射して、受光部64が試料ガスサンプリング空間22を通過した測定光を受光する。以上に述べた測定時において、煙道50内を流れるガスから取り込まれた試料ガスが試料ガス導入部を通過する間に、試料ガス導入部の圧損により、試料ガスは減圧されて試料ガスサンプリング空間内に導入される。この結果、減圧になると吸光スペクトルの線幅が細くなることから、極性ガスの吸光スペクトルが水分などの共存ガスの干渉影響を受けにくくなる。よって、極性ガスが低濃度であった場合でも正確に極性ガス濃度を測定することができる。また、プローブ管2の少なくとも一部が煙道50内に配置されているので、試料ガスを短い距離で試料ガスサンプリング空間22中に取り込むことができる。これにより、極性ガスのサンプリングロスを最小限にでき、その結果、極性ガスが低濃度であった場合でも極性ガスの濃度を正確に測定できる。さらに、試料ガスサンプリング開始から試料ガスが試料ガスサンプリング空間22内へ到達するまでの時間が短くなるので、極性ガスの濃度をリアルタイムに測定できる。
【0067】
ガス分析装置100は、プローブ管2の外壁の、試料ガスサンプリング空間22に対応した領域に設けられた温度調節部24(温度調節部の一例)をさらに備えている。
温度調節部24によって、試料ガスサンプリング空間22内を一定の温度に保持することができる。これにより、煙道50内の温度が高い場合、試料ガスサンプリング空間22内の温度を、試料ガス中に共存する他の成分(例えば、SOx、NOxなど)と極性ガスの反応物の生成を抑制できる温度まで下げて極性ガスの濃度を測定できる。この結果、測定感度の低下を抑制できる。これにより、極性ガスの濃度を正確に測定することができる。
【0068】
例えば、測定対象の極性ガスがアンモニアで、共存ガスに水分が存在する場合、アンモニアの吸光スペクトルと水分の吸光スペクトルとが干渉する。その結果、正確にアンモニア濃度を測定できなくなる。アンモニアの吸光スペクトル強度は温度に対して指数関数的に減少する一方、水分の吸光スペクトル強度は温度に対して指数関数的に増加する。したがって、吸光スペクトルからアンモニア濃度を測定する場合には、測定温度をなるべく低くし、水分による吸光スペクトルがアンモニアの吸光スペクトルに干渉する度合いを低く抑える。すなわち、煙道50内の温度が、極性ガスと試料ガス中に共存する他の成分とが反応する温度より高い場合には、極性ガスと他の成分とが反応しない温度の下限まで温度を下げてアンモニアガスの濃度測定を行う。これにより、アンモニアガスの濃度を正確に測定することができる。
【0069】
本実施形態において、試料ガス導入部4(試料ガス導入部の一例)は、ガス流量制限部48(ガス流量制限部の一例)を有している。
試料ガス導入部4のガス流量制限部48は、試料ガス導入部4の圧損をさらに大きくできる。これにより、試料ガスサンプリング空間22の圧力が煙道50内の圧力変化の影響を受けにくくなり、かつ、試料ガスサンプリング空間22をさらに減圧できる。試料ガスサンプリング空間22を圧力を一定に保ちつつ減圧にすることができる。つまり、圧力による測定値の影響がなくなり、その結果、低濃度の極性ガスの濃度を正確に測定できる。
【0070】
例えば、測定対象の極性ガスがアンモニアで、共存ガスに水分が存在する場合、上記のように、アンモニアの吸光スペクトルと水分の吸光スペクトルが干渉する。この場合、試料ガスサンプリング空間22を一定の圧力で減圧にしつつ吸光スペクトルを測定すると、アンモニアの吸光スペクトルの線幅および水分の吸光スペクトルの線幅がより細くなる。この結果、アンモニアの吸光スペクトルと水分の吸光スペクトルの重なり合いが小さくなる。これにより、アンモニアガスの濃度を正確に測定することができる。
【0071】
本実施形態において、試料ガス導入部4(試料ガス導入部の一例)は、粉塵捕獲フィルタ46(粉塵捕獲フィルタの一例)を有している。試料ガス導入部4の粉塵捕獲フィルタ46は、煙道50内を流れるガス中に含まれる粉塵成分を捕獲する。
したがって、粉塵成分が試料ガスサンプリング空間22内へ導入されにくくなる。これにより、光学系の汚染を抑制でき、また、測定光が粉塵により乱反射を起こすことを防ぐことができる。以上の結果、極性ガスの濃度を正確に測定できる。
【0072】
本実施形態において、試料ガス導入部4(試料ガス導入部の一例)は、プローブ管2(プローブ管の一例)の先端部に設けられた試料ガス導入室41(試料ガス導入室の一例)と、試料ガス導入室41から煙道50内に延びる試料ガス採取部材42(試料ガス採取部材の一例)とを有している。また、試料ガス導入室41は、煙道の圧力以上の圧力で校正用ガスを導入するために用いられる校正用ガス導入管44(校正用ガス導入管の一例)を有している。
ガス分析装置100では、校正用ガス導入管44から試料ガス導入室41に校正用ガスが導入されると、校正用ガスは試料ガスサンプリング空間22内に流れる。この状態で、実ガス(試料ガスの主成分ガス、極性ガスなど)によるガス分析装置100の校正(ゼロ点補正、スパン校正など)が行われる。なお、以上の校正は、ガス分析装置100を煙道50から取り外すことなく、行われる。
【0073】
(4)他の実施形態
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
前記実施形態では、プローブ管2概ね全体が煙道50内に配置されているが、本発明はそのような実施形態に限定されない。プローブ管は基端側の部分が煙道から外に突出していてもよい。
前記実施形態では、試料ガス導入部4のみがガスSの流路に配置されているが、本発明はそのような実施形態に限定されない。試料ガス導入部が側壁51の孔部51a内に収納されていてもよいし、逆に、プローブ管の先端部分も試料ガス導入部と共にガスSの流路に配置されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係るガス分析装置は、試料ガス中の極性ガス成分の濃度を分析するガス分析装置に広く適用できる。
【符号の説明】
【0075】
100 ガス分析装置
2 プローブ管
20 フランジ
22 試料ガスサンプリング空間
24 温度調節部
241 温度コントローラ
26 壁
4 試料ガス導入部
41 試料ガス導入室
42 試料ガス採取部材
44 校正用ガス導入管
46 粉塵捕獲フィルタ
48 ガス流量制限部
6 光学ユニット
62 照射部
64 受光部
8 分析部
10 吸引管
12 ブローバックライン
16 吸引装置
18 ガス供給部
50 煙道
51 煙道側壁
51a 孔部
52 筒状部材
S 煙道を流れるガス
図1
図2
図3
図4