【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、火炎加水分解法により形成された球状アルミナ粒子の粉体において、
レーザ光散乱法による粒子径の体積頻度は、メジアン径が50nm以上で1000nm以下で、
前記体積頻度は、50nm以上で1000nm以下に球状の1次粒子のピークを持ち、
前記体積頻度は、1000nm超にはピークがないかあるいは2次粒子のピークを持ち、2次粒子のピークを持つ場合、粒子径の対数を横軸として、2次粒子ピークの高さと1次粒子のピークの高さとの比(2次粒子ピークの高さ/1次粒子のピークの高さ)が0.5以下であり、
かつX線回折での2θが45.0°以上46.2°以下のピーク(γアルミナの(400)面のピーク)の半値幅が、X線回折装置に固有の半値幅を除いた真値で1°以下であることを特徴とする。
【0007】
この発明のアルミナ粉体では、粒子径分布のメジアン径が50nm以上で1000nm以下と微細で、かつ1次粒子の凝集が少ない。凝集の程度は粒子径分布での2次粒子に起因するピークの強弱で判別でき、
図6に実施例での粒子径分布を、
図7に比較例での粒子径分布を示す。
図6では2次粒子のピークが無く、実施例2では2次粒子のピークは弱い。これに対して
図7の比較例では1次粒子のピークが見当たらずに、2次粒子のピークのみが目立っている。このように、本発明は、前記2次粒子ピークの高さ/1次粒子のピークの高さの比が0.5以下2次粒子への凝集が弱いアルミナ粉体を提供する。
1次粒子径が1μm(1000nm)以下で、2次粒子への凝集が弱いことは、粉体の分散性が高くかつ嵩高くならないことを意味する。また被膜を形成したときに、薄い皮膜を形成できることを意味する。
【0008】
表4に示すように、実施例のアルミナ粉体はX線回折での45.6°付近のピーク(γアルミナの(400)面のピーク)の半値幅が1°未満、比較例では1.5°以上である。なお、
表4の半値幅は回折装置に固有の半値幅を除く前の値で、真の半値幅は
表4よりも0.1°以下の範囲で小さい。このように、本発明は、γアルミナの(400)面のピークの半値幅が、真値で1°以下のアルミナ粉末を提供する。
半値幅が小さいことは結晶の歪みが小さくかつ粒子内で結晶子が充分に成長した、化学的に安定な粒子であることを意味する。
【0009】
この発明のアルミナ粉体を製造するには、例えば、気体状の
ハロゲン化アルミニウムと酸素と可燃性ガス
として水素を含む火炎中で、前記
ハロゲン化アルミニウムから球状のアルミナ粒子を形成し、上記火炎の断熱火炎温度が3000K以上で5000K以下とする方法が好適である。表3に示すように、断熱火炎温度を実施例では3000K以上、比較例では3000K未満としてアルミナ粒子を形成しているが、断熱火炎温度を3000K以上、好ましくは、3300K以上とすることにより、X線回折での45.6°付近のピークの半値幅が真値で1°以下となり、かつ凝集が少ないアルミナ粉体が得られる。なおこの明細書において、アルミナ粉体に関する記載はその製造方法にもそのまま当てはまり、逆にアルミナ粉体の製造方法に関する記載はアルミナ粉体自体にもそのまま当てはまる。
【0010】
なお、本発明における断熱火炎温度は、燃焼反応における反応熱を、燃焼によって得られた熱量により生成する成分もしくは残存する成分の、各々の熱容量に対して均等に分配する時の、反応系の温度と定義付けられる。よって断熱火炎温度をT(K)としたとき、
水素の時間当たりの燃焼熱量を
Q(J/h)、また熱量により生成、副生、残存するアルミナ、水蒸気(H
2O)、塩化水素(HCl)酸素(O
2)、窒素(N
2)の時間当たりの量をN
Al2O3、N
H2O、N
HCl、N
O2、N
N2(mol/h)、熱容量をCp
Al2O3、Cp
H2O、Cp
O2、Cp
N2(J/mol・K)とすると、以下の式で表すことができる。
T=Q/(N
Al2O3Cp
Al2O3+N
H2OCp
H2O+N
HClCp
HCl+N
O2Cp
O2+N
N2Cp
N2)
なお前記熱容量Cp(J/mol・K)の値はJANAF熱化学表により得ることが可能であり、今回は一律に3000Kにおける値を使用している。表1中には3000Kにおける熱容量Cp(J/mol・K)値が記載されている。
【0011】
【表1】
【0012】
この発明のアルミナ粉体には、以下の特徴がある。
1) 球状でサブミクロンオーダーのアルミナ1次粒子から成り、2次粒子への凝集が少ない。従って粉体は嵩張らず、かつハンドリング性がよい。そしてプラスチックへのフィラーにする場合、プラスチックへの分散性が良く、またプラスチック中に多量のフィラーを含有させることができる。またプラスチックフィルム、金属、セラミック等への被覆に用いる場合、薄くかつ多孔度が高い被膜にできる。
2) 結晶子が十分に成長し、化学的に安定である。
3) 火炎加水分解法により、低コストに製造できる。
【0013】
この発明のアルミナ粉体は、リチウムイオン電池等の電池のセパレータへの被膜材料に、特に適している。1次粒子径が小さくかつ凝集が少ないので、薄く通液性の高い被膜が得られ、化学的安定性が高いので、セパレータが損傷した際に電池が暴走し難い。この発明のアルミナ粉体は、IC封止材料へのフィラー、金属、セラミック等への被膜材料等に適している。この発明のアルミナ粉体の好ましい条件を、表2に示す。なおこの明細書において50〜1000nm等と表記する場合、下限の50nmと上限の1000nmとを含むものとする。
【0014】
【表2】
【0015】
本発明のアルミナ粉末の製造方法において、用いる火炎は、多重管バーナを使用し、可燃性ガスと支燃性ガスをそれぞれ別のノズルから供給する拡散火炎と、可燃性ガスと支燃性ガスをあらかじめ混合した後にノズルへ供給する予混合火炎のいずれでも良いが、安定的に火炎を形成させること、かつ断熱火炎温度を高くすることが可能な拡散火炎を用いることが好ましい。具体的には、多重管バーナの中心管に原料ガスと水素の混合ガスを供給し、その外側の供給ノズル管より酸素を供給することが特に好ましい。
また、前記可燃性ガスは水素、又はメタン、プロパン、ブタン等の炭化水素ガスのいずれでもよいが、生成したアルミナに炭素が残存しないこと、また環境負荷の観点から水素を用いることが好ましい。気体状のアルミニウム化合物は水素と酸素とにより火炎加水分解を受け、好ましい気体状のアルミニウム化合物はハロゲン化アルミニウム等の安価な化合物で、特に気化させて水素と容易に混合できるアルミニウム塩化物、AlCl
3が好ましい。断熱火炎温度は少なくとも3000K以上とし、好ましくは3200K以上とする。