【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(ロボット・新技術イノベーションプログラム)「異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
<基体>
[基体10A(10)]
図1は、本発明にかかる基体の第一実施形態である基体10Aの斜視図である。
図2は、
図1のA−A線に沿う断面を示す模式図である。
図3は、
図2の貫通孔1の内部に前記ポリマー状分子を配した様子の一例を示す模式図である。
【0025】
基体10Aは、基材4と、基材4の内部に設けられ、ポリマー状分子を含む溶液を流入させる空間2,3と、基材4の内部に形成され、空間2,3に対して開口している貫通孔1と、が少なくとも配された基体であって、基材4のうち、少なくとも貫通孔4を構成する部位は、単一の部材で形成され、貫通孔1は、その内部に前記ポリマー状分子の少なくとも一部を引き伸ばして配置することが可能な形状である。
【0026】
基材4の上面(主面)4aにおいて、空間2,3はそれぞれ第一流路2及び第二流路3を構成している。各流路には前記溶液を流入若しくは流通させることができる。空間2,3は、前記溶液を流入若しくは流通させられれば特に限定されず、例えば流路もしくはウェルを構成する。前記流路及びウェルの形状及び容積は、流入若しくは流通させる前記溶液の量、粘度又は種々の化学的特性に応じて適宜設計すればよい。
【0027】
ここで、「空間に溶液を流入させる」とは、前記空間の外部から前記空間へ前記溶液を入れる(導入する)ことを意味する。流入された前記溶液は、前記空間に留まって滞留(又は完全に静止)してもよいし、前記空間の外へ流出してもよい。後者の場合、連続的に前記溶液を前記空間に流入させることによって、前記溶液の流れが前記空間において生じる。このことは、本発明にかかる基体の全てに適用される。
【0028】
貫通孔1は基材4の内部に形成され、貫通孔1の一方の開口部は第一流路2の側面2aに開口し、貫通孔1の他方の開口部は第二流路3の側面3aに開口する。つまり、貫通孔1は第一流路2と第二流路3とを連通する。空間2,3である第一流路2及び第二流路3は基材4の主面である上面4aに設けられ、基材4の外部に面する。よって、貫通孔1は第一流路2及び第二流路3を介して基材4の外部へ連通する。
【0029】
第一流路2及び第二流路3に前記液体を流入若しくは流通させる方法としては、当該第一流路2及び第二流路3に、シリンジもしくはポンプ等の公知の流体制御デバイス(不図示)を接続すればよい。第一流路2及び第二流路3を覆う蓋となる部材を配置することによって、前記ポンプ等を用いて前記溶液に圧力をかけながら送液することが可能である。なお、
図1では図を理解しやすくするために前記蓋となる部材は描かれていない。
このように、ポンプ等の送液手段を用いて第一流路2及び第二流路3における前記溶液の流れを制御することによって、前記溶液を制御された方向及び制御された流速で、貫通孔1内に流入若しくは流通させることができる。例えば、第一流路2を陽圧にし、第二流路3を陰圧とすることによって、第一流路2に開口する開口部から前記溶液を貫通孔1内に流入させ、第二流路3に開口する開口部から前記溶液を流出させることが可能である。
【0030】
貫通孔1を構成する部位は単一の部材で形成される。ここで、単一の部材とは、二つ以上の部材を接着等によって貼り合せた部材とは異なることを意味する。すなわち、貫通孔1は単一の部材を穿孔して形成したものであり、溝を掘った部材に蓋を被せて形成した孔ではない。本発明の貫通孔1内には、二つ以上の部材を貼り合せた箇所又は継ぎ目が無いため、貫通孔1の強度特性に優れる。ここで、強度特性とは、耐熱性、耐冷性、耐圧性、耐薬品性及び耐変形性をいう。このように強度特性が優れるため、本発明の基体10は、加熱処理、冷却処理、加圧・陰圧処理、薬品処理、及び機械的変形を生じさせる処理に耐え得る。
さらに、貫通孔1を構成する部位は単一の部材で形成され、貫通孔1内には貼り合せた箇所又は継ぎ目が無いため、貫通孔1内へ照射した分析用の光及び貫通孔1内で発生させた光シグナルが、前記貼り合せた箇所又は継ぎ目によって屈折されることがない。このため、貫通孔1内を光学的に観察して分析することが容易である。
【0031】
図1に示す基体10Aにおいては、前記単一の部材は、貫通孔1を構成するだけでなく、基材4全体を構成している。
前記単一の部材の材料としては、例えばシリコン、ガラス、石英、及びサファイアなどが挙げられる。これらの材料は、貫通孔1の加工性に優れるので好ましい。なかでも、結晶方位による加工異方性の影響を受けにくい非結晶質である方が好ましい。
更には、貫通孔1内を顕微鏡等の光学的手段によって観察する場合には、ガラス、石英、又はサファイアを用いると、可視光線(波長0.36μm〜0.83μm)を透過するため、より好ましい。基体10Aの基材4を構成する単一の部材は透明なガラス基板である。
【0032】
また、前記単一の部材の材料は、波長0.1μm〜10μmである光のうち少なくとも一部の光を透過することが好ましい。
具体的には、加工用レーザーとして使用される一般的な光(波長0.1μm〜10μm)の、少なくとも一部を透過することが好ましい。このようなレーザー光を透過することによって、後述するように、レーザー照射して前記部材に改質部を形成することができる。
また、前記単一の部材の材料は、可視光領域(波長約0.36μm〜約0.83μm)の光を透過することが、より好ましい。可視光領域の光を透過することによって、貫通孔1内に配置された前記ポリマー状分子を、前記単一部材を通して光学顕微鏡もしくは高解像度CCDカメラ等の光学的手法を用いて観察することができる。
なお、本発明における「透過(透明)」とは、前記部材に光を入射して、前記部材から透過光が得られる状態の全てをいう。
【0033】
貫通孔1の形状は、その内部に前記ポリマー状分子の少なくとも一部を引き伸ばして配置することが可能な形状である。通常、引き伸ばされた状態のポリマー状分子は柔軟な紐の様な直鎖状の高分子であるとみなされる(
図3参照)。つまり、貫通孔1の形状は直鎖状の高分子をその内部に配置することが可能な形状であればよい。このため、貫通孔1は少なくとも一部が柱状であることが好ましい。
【0034】
前記柱状とは、長手方向を有する立体形状を意味し、例えば角柱、多角柱、円柱、及び楕円柱等が挙げられる。これらの柱状において、その長手方向は底面に対する高さ方向を意味する。前記多角柱としては、例えば三角柱、四角柱、五角柱、及び六角柱等が挙げられる。これらの立体形状は、幾何学的に厳密に定義されるもの以外に、貫通孔1の形成プロセスにおいて生じた変形又はキズを含んでいてもよい。前記変形としては、当該立体形状の部分的若しくは全体的な歪み、伸長、又は縮小が挙げられる。
前記立体形状において、貫通孔1の形状としては、楕円柱、円柱及び四角柱が好ましい。これらの好ましい立体形状を有する貫通孔1は形成がより容易である。また、これらの好ましい立体形状を有する貫通孔1は、その内壁の形状が比較的単純であるため、貫通孔1内を流通する前記溶液中に乱流が起こりづらい。このため、貫通孔1内における前記柱状をなす部分で、前記ポリマー状分子をより安定に保つことができる。
貫通孔1の少なくとも一部の形状が前記柱状であることによって、前記ポリマー状分子が伸びる方向を、前記柱状の前記長手方向に沿わせて配置することができる。この結果、貫通孔1内におけるポリマー状分子の配置を制御することがより容易となる。
【0035】
貫通孔1における前記柱状部分の長さは特に制限されず、前記ポリマー状分子の引き伸ばされた長さに応じて適宜設定すればよい。その際、前記ポリマー状分子を前記柱状部分の内部において安定に配置する観点から、前記ポリマー状分子の引き伸ばされた長さよりも長くすることが好ましい。例えば、前記ポリマー状分子の長さに対して、前記柱状部分の長さが、100〜1000%であることが好ましく、200〜800%であることがより好ましい。具体的には、前記柱状部分の長さが、0.01μm〜10mmであることが好ましく、0.1μm〜10mmであることがより好ましい。
前記柱状部分は、貫通孔1の一箇所に備えられていてもよいし、二箇所以上に設けられていてもよい。二箇所以上に設けられる場合、一の柱状部分と他の柱状部分とは、同じ立体形状であっても異なる立体形状であってもよい。
【0036】
貫通孔1の長手方向(延設方向)の長さは特に制限されず、前記ポリマー状分子の引き伸ばされた長さに応じて適宜設定すればよい。その際、前記ポリマー状分子を貫通孔1内で安定に配置する観点から、前記ポリマー状分子の引き伸ばされた長さよりも長くすることが好ましい。例えば、前記ポリマー状分子の長さに対して、前記長手方向の長さが、100〜1000%であることが好ましく、200〜800%であることがより好ましい。具体的には、貫通孔1の前記長手方向の長さが、0.01μm〜10mmであることが好ましく、0.1μm〜10mmであることがより好ましい。
【0037】
前記貫通孔の長手方向の長さが前記範囲であることによって、貫通孔1内に前記ポリマー状分子を導入することがより容易となる。
前記範囲の下限値(0.01μm)以上であると、前記ポリマー状分子を前記溶液と共に吸引して貫通孔1内に配置することがより容易となる。前記長手方向の長さが前記下限値未満、例えば1nmという極端に短い長さであると、前記ポリマー状分子を貫通孔1内に吸引した直後に前記ポリマー状分子が前記貫通孔1から流出して、貫通孔1内に前記ポリマー状分子を留めて配置することが困難となる虞がある。
前記範囲の上限値(10mm)以下であると、前記溶液を貫通孔内に吸引又は流通する際の圧力が過度に高まることを防止でき、前記ポリマー状分子を前記溶液とともに貫通孔1内に吸引することがより容易となる。つまり、前記ポリマー状分子を光ピンセット等を用いて直接に運搬することなく、前記溶液の流れとともに貫通孔1内に配置することがより容易となる。
【0038】
貫通孔1の長手方向(延設方向)に直交する断面の形状は特に制限されず、例えば前記柱状を反映したものとすればよく、例えば円、略円、楕円、略楕円、矩形、又は三角形とすることができる。具体的には、前記断面の形状が円、略円、楕円、略楕円、矩形、若しくは三角形の場合には、その直径、短径若しくは長径、又は一辺の長さを0.02μm〜5μmとすることができる。後述する方法で貫通孔1を形成することによって、前記直径、短径、若しくは一辺の長さをさらに縮小することが可能である。例えば、前記直径、短径、若しくは一辺の長さを0.02〜0.8μmとすることができ、さらには1nm〜1000nmとすることも可能である。
【0039】
貫通孔1の長手方向に直交する断面の短径(短軸)若しくは前記断面の周を構成する最も短い辺の長さが、1nm〜1000nmの間であることが好ましい。この長さであると、前記ポリマー状分子を、より安定に且つエントロピー的により有利な(熱運動若しくは拡散運動がより低い)状態で貫通孔1内に保つことができる。
【0040】
貫通孔1が第一流路2及び第二流路3に開口する開口部の形状は、どの様な形状であってもよく、例えば、円又は略円、楕円又は略楕円、矩形、又は三角形とすることができる。具体的には、例えば貫通孔1の長手方向に直交する前記断面の形状と同じものとすればよい。この場合、貫通孔1内において、前記溶液の乱流が生じる可能性を一層低減し、前記ポリマー状分子を一層安定に保つことができる。
【0041】
図2及び
図3において、貫通孔1は、第一流路2の側面2a及び第二流路3の側面3aに対して略垂直となるように形成されている。しかし、必ずしも略垂直である必要はなく、基体10Aの設計に合わせて自由に配置することができる。
また、貫通孔1の開口部の口径を貫通孔1の口径よりもわずかに広げることで、漏斗状に加工することも可能である。このように加工することによって、前記ポリマー状分子を貫通孔1内に導入する際に、開口部のエッジに前記ポリマー状分子が無用に引っかかることを確実に防止できる。
【0042】
本発明にかかる基体10Aにおいて、基材4が主面4aを有する基板であり、貫通孔1の長手方向に直交する断面形状が略楕円形であり、前記楕円形の長軸の向きが、主面4aに対して傾斜している。この結果、前記長軸の向きが主面4aに対して垂直である場合と比べて、前記貫通孔1を主面4aに投影した面積がより大きくなり、主面4aから前記貫通孔1の内部を観察しうる面積が拡がる。この点について、
図4を参照して説明する。
【0043】
図4は、基体10Aにおける貫通孔1の、長手方向に直交する断面を示す模式図である。前記断面の形状は略楕円形であり、前記楕円形の長軸の向き(長径の向き)が、基材4の主面4aに対して傾斜している。
図4に示した例では、長軸の向きが主面4aに対してなす角は約30度である。また、前記楕円形の短軸の向き(短径の向き)は、主面4aと非平行であり、短軸の向きが主面4aに対してなす角は約60度である。
このように、前記長軸と主面4aとの相対的な位置関係を調整して、貫通孔1を基材4に備えることによって、主面4a側(矢印Zの方向)から、前記貫通孔1の内部を光学的に観察することがより容易となる。すなわち、貫通孔1内に配置した前記ポリマー状分子を観察することがより容易となる。
【0044】
本発明にかかる基体10Aにおいて、貫通孔1内に、前記ポリマー状分子の少なくとも一部を固定する固定部が備えられていることが好ましい。
前記固定部を備えることによって前記ポリマー状分子の一部が貫通孔1内の内壁面に、より近づいた状態又は接した状態で保つことがより容易となる。このように貫通孔1の内壁面に接する様に近づけて前記ポリマー状分子を保つことによって、前記ポリマー状分子の熱運動及び拡散による運動エネルギーを一層低減させて、前記ポリマー状分子をより一層安定に保つと共に、前記ポリマー状分子を、貫通孔1の長手方向に引き伸ばした状態で配置することがより一層容易となる。
【0045】
前記固定部は、前記ポリマー状分子の少なくとも一部に対して親和性、吸着性、若しくは結合性を有するものであれば特に制限されない。貫通孔1内において、前記固定部を備える位置は特に制限されず、前記ポリマー状分子を固定する位置に応じて適宜設定できる。
例えば貫通孔1の開口部に近い位置、貫通孔1の端部、又は貫通孔1の中央部の何れであってもよい。前記固定部の大きさ及び前記固定部を配置する領域の面積は特に制限されず、貫通孔1の口径、使用する固定部の種類並びに前記ポリマー状分子の種類及び長さに応じて適宜設定できる。具体的には、前記固定部の大きさは、例えば0.5nm〜100nm程度とすることができる。また、前記固定部を配置する領域の面積は、貫通孔1の内壁のうち、例えば1〜100%に備えられる。前記固定部と前記ポリマー状分子との結合は、可逆的であっても不可逆的であってもよい。
【0046】
前記固定部としては、例えば金属で形成される杭(金属ポスト)又は特定の結合性を有する分子が好ましい。
【0047】
前記金属ポストとしては、例えば、ニッケル、コバルト、マグネシウム、及び金等が挙げられる。
前記金に対して、チオール基(−SH)が化学的に結合しうることは周知である。従って、例えば、前記ポリマー状分子の一端を予めチオール基を有する官能基で修飾しておき、前記ポリマー状分子を、金で形成される金属ポストを備えた貫通孔1内に配し、貫通孔1内において、金で形成される金属ポストと前記官能基とを吸着させることによって、前記固定部と前記ポリマー状分子の一端とを結合させて固定することができる。
また、前記ニッケル及びコバルトに対して、アミノ酸の一種であるヒスチジンを6個連続してペプチド結合させたペプチド鎖(いわゆるヒスタグ(His-tag))が高い親和性を有することは周知である。従って、例えば、前記ポリマー状分子の一端を、予め前記ヒスタグで修飾しておき、前記ポリマー状分子を、ニッケル若しくはコバルトで形成される金属ポストを備えた貫通孔1内に配置し、貫通孔1内において、ニッケル若しくはコバルトで形成される金属ポストと前記ヒスタグとを吸着させることによって、前記固定部と前記ポリマー状分子の一端とを結合させて固定することができる。
また、前記マグネシウムに対して、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート化合物が化学的に吸着することは周知である。従って、例えば、前記ポリマー状分子の一端を予め前記EDTA若しくはEDTA誘導体で修飾しておき、前記ポリマー状分子を、マグネシウムで形成される金属ポストを備えた貫通孔1内に配置し、貫通孔1内において、マグネシウムで形成される金属ポストと前記EDTA若しくはEDTA誘導体とを吸着させることによって、前記固定部と前記ポリマー状分子の一端とを結合させて固定することができる。
【0048】
前記特定の結合性を有する分子としては、例えば、生体分子の中でよく知られた特異的な結合をする分子、又は有機化学若しくは無機化学の分野で用いられるリンカー分子(連結剤)が好適である。具体的には、アビジン、ビオチン、種々の抗原に対する抗体、及びシランカップリング剤等が例示できる。
アビジンとビオチンが高い特異性で互いに結合することは周知である。従って、一方を前記固定部として用い、他方を前記ポリマー状分子に予め結合させておくことによって、前記固定部と前記ポリマー状分子の一端とを結合させて固定することができる。同様の方法で、前記抗原と前記抗体とを用いることができる。
前記シランカップリング剤は、無機物と有機物とを連結するリンカー分子としてよく知られている。例えば、ガラスを構成する二酸化ケイ素(シリカ)に対して、シランカップリング剤で予め修飾した前記ポリマー状分子を結合させる方法は周知である。ポリマー中にシランカップリング剤を化学的に導入する方法(シリル化の方法)としては、ポリマーの末端若しくは側鎖にシランカップリング剤を反応させる方法、ポリマーを構成するモノマーとともにシランカップリング剤を共重合させる方法等が周知である。従って、例えば、前記ポリマー状分子の末端を公知のシランカップリング分子で予め修飾しておき、当該ポリマー状分子を、前記シランカップリング分子が結合できる材料で形成される固定部を備えた貫通孔1内に配置し、前記ポリマー状分子の末端を貫通孔1内の前記固定部に結合して固定することができる。
シランカップリング剤をリンカー分子として、貫通孔1の内壁と前記ポリマー状分子とを固定する場合、貫通孔1の内壁を構成するガラスに対して、前記ポリマー状分子に予め導入したシランカップリング分子を直接結合させてもよい。この固定においては、前記シランカップリング分子が前記固定部に相当する。
【0049】
本発明にかかる基体10Aの貫通孔1内に配置する前記ポリマー状分子としては、生体由来の高分子、有機化学的に合成された高分子(樹脂)等、種々の公知のポリマー状分子が挙げられる。これらの中でも生体由来の高分子が好ましく、一本鎖若しくは二本鎖のDNA分子からなるポリマー、一本鎖若しくは二本鎖のRNA分子で形成されるポリマー、又はポリペプチド鎖で形成されるポリマーがより好ましい。これらのポリマー状分子は、水系溶媒に溶解可能であるため取り扱いが容易であり、前記ポリマー状分子を引き伸ばした略直線的な状態として、貫通孔1内に配置することがより容易である。このため、前記ポリマー状分子を構成する構成単位(モノマー)の配列を分析することがより容易となる。
【0050】
本発明の基体に備えられた貫通孔の本数、経路及び形状は、前記基体の使用目的又は前記貫通孔の内部に配置する前記ポリマー形状の種類及び長さに応じて適宜設計できる。
【0051】
[基体10B(10)]
図5及び
図6に示す本発明にかかる基体10Bにおいて、3本の貫通孔1が備えられ、各貫通孔1に2本の縦孔6が設けられている。縦孔6の一端は貫通孔1に開口し、他端は基材4の主面4aに開口している。縦孔6を設けることによって、貫通孔1内の前記溶液を当該縦孔6を介して流通させることができる。また、前記縦孔6を介して、別のガスもしくは液体を貫通孔1内へ流入、あるいは回収させることができる。従って、貫通孔1内に配置した前記ポリマー状分子に対して、分析等に必要な薬剤もしくはガスを、前記縦孔6を介して供給することができる。この結果、前記ポリマー状分子の分析をより容易に行うことができる。また、各縦孔6の圧力を個別に制御することによって、高分子を貫通孔に効果的に流入させることも可能となる。
【0052】
縦孔6の前記他端は、基材4の主面4a以外の面、例えば、基材4の側面に開口していてもよい。設計上要求される位置に開口させることができる。いずれの面に開口した場合においても、主面4aに開口した場合と同様の効果が奏される。なお、前記ポリマー分子を導入する貫通孔1を「第一の貫通孔1」と呼ぶならば、縦孔6は、貫通孔1と基材4の外部とを連通する「第二の貫通孔6」と呼ぶことができる。
【0053】
[基体10C(10)]
図7及び
図8に示す本発明にかかる基体10Cにおいて、3本の貫通孔1が備えられ、各貫通孔1に2本の縦孔6が設けられた構成は、前述の基体10Bと同様である。さらに、基材4の主面4aを覆う蓋となる部材(蓋材)5が備えられている。主面4aに対向する部材5の下面には、基材4に設けられた複数の縦孔6を連結する溝が2本掘られていて、それぞれ第三流路7及び第四流路を構成している。この構成によって、第三流路7と貫通孔1及び第四流路と貫通孔1を、各縦孔6を介して、連通させることができる。
従って、第三流路7を陽圧にして、第四流路8を陰圧にすると、所定の液体又はガスを、第三流路7から一方の縦孔6を介して貫通孔1へ流入させ、さらに貫通孔1から他方の縦穴6を介して第四流路8へ流入させることができる。各流路の圧力を調整することによって、流路内の液体又はガスが流通する方向が制御される。
従って、第三流路7、第四流路8及び各縦孔6を制御することによって、貫通孔1内に配した前記ポリマー状分子に対して分析等に必要な薬剤及びガスを供給あるいは回収することができる。この結果、前記ポリマー状分子の分析をより容易に行うことができる。
また、第三流路7、第四流路8及び各縦孔6を制御することによって、高分子を貫通孔に効果的に流入させることも可能となる。
【0054】
[基体10D(10)]
図9に示す本発明にかかる基体10Dにおいて、貫通孔1が基材4の内部で屈曲して、主面4aから見てS字状となるように備えられている。図から明らかなように、貫通孔1の長さが基体10Aの貫通孔よりも長い。つまり、基体10の全体のサイズを大きくしなくとも、貫通孔1を長くすることができる。この結果、より長い前記ポリマー状分子を当該貫通孔1の内部に配置することができる。
【0055】
[基体10E(10)]
図10に示す本発明にかかる基体10Eにおいて、貫通孔1が基材4の内部で屈曲して、主面4aから見てS字状となるように備えられた構成は、前述の基体10Dと同様である。さらに、基体10Eの貫通孔1には複数の縦孔6が設けられている。縦孔6を有することによる利点は、前述の基体10Bと同様である。
【0056】
[基体10F(10)]
図11に示す本発明にかかる基体10Fにおいて、貫通孔1が基材4の内部で屈曲して、主面4aから見てS字状となるように備えられた構成は、前述の基体10Dと同様である。さらに、基体10Fの貫通孔1には複数の踊り場9が設けられている。貫通孔1の一端から他端までの途中に踊り場9を設けることによって、貫通孔1内を流通する前記溶液の流速を緩めることができる。この結果、貫通孔1内に配置された前記ポリマー状分子をより安定して保つことができる。なお、複数の踊り場9は前記柱状部分には該当しない。基体10Fにおいて、2個の踊り場9に接続された3本の円柱状の貫通孔1が、前記柱状部分に該当する。
【0057】
[基体10G(10)]
図12に示す本発明にかかる基体10Gにおいて、貫通孔1が基材4の内部で屈曲して、主面4aから見てS字状となるように備えられ、前記貫通孔1には複数の踊り場9が設けられた構成は、前述の基体10Fと同様である。さらに、基体10Gの貫通孔1には複数の縦孔6が設けられている。縦孔6を有することによる利点は、前述の基体10Bと同様である。
【0058】
[基体10H(10)]
図13に示す本発明にかかる基体10Hにおいて、基材4の内部において、貫通孔1の下部に複数の温度制御デバイス11が備えられている。温度制御デバイス11としては、例えばヒーター、ペルチェ素子等が挙げられる。ヒーターを備えることによって貫通孔1内の温度を昇温させることができる。また、ペルチェ素子を備えることによって、貫通孔1内の温度を降下させることができる。このように温度制御デバイス11によって貫通孔1内の温度を制御できるので、前記ポリマー状分子の分析を行うことがより容易となる。
【0059】
<貫通孔内へポリマー状分子を配置する方法>
本発明の基体に備えられた貫通孔の内部に、前記ポリマー状分子を配置する方法は特に制限されない。例えば、基体10B(
図5)を用いる場合を説明する。
まず、前記ポリマー状分子を溶解若しくは分散可能な溶媒に含ませた溶液を調製する。
次に、ポンプ等の送液手段によって前記溶液を第一流路2に流入させ、つづいて第二流路3を陰圧にすることによって、前記溶液を貫通孔1内へ引き込むことができる。貫通孔1内へ引き込まれた前記溶液中には、前記ポリマー状分子が含まれているので、貫通孔1内の前記溶液の流れを止めると、前記ポリマー状分子を貫通孔1内に保つことができる。この際、前記ポリマー状分子と前記固定部とを接触させることにより、前記ポリマー状分子を前記固定部に結合して固定することができる。貫通孔1内に前記ポリマー状分子を配置した後、前記ポリマー状分子を固定しなくてもよいが、貫通孔1内に前記溶液又は別に調製した溶液を流通させる場合には、前記ポリマー状分子を貫通孔1内に確実に留めるために、前記ポリマー状分子の固定を行うことが好ましい。
【0060】
貫通孔1内に配置された前記ポリマー状分子は、貫通孔1内に保たれることによりエントロピー的に有利な状態、すなわち、引き伸ばされた略直線の紐の様な状態となりうる。この際、貫通孔1内の溶液の組成を適宜調整することによって、前記ポリマー状分子を引き伸ばした状態とすることがより容易となる。例えば、前記ポリマー状分子に対する良溶媒若しくは貧溶媒、又は前記ポリマー状分子の高次構造を変性させて一次構造とすることができるような酸性溶媒若しくはアルカリ性溶媒等の使用が挙げられる。
【0061】
また、前記ポリマー状分子が、微生物若しくは細胞等から抽出する場合、その抽出処理を本発明の基体を用いて行うことができる。
図14に示したように、細胞Uを含む溶液を第一流路2に流入させ、前述のように前記溶液を貫通孔1内へ引き込むことにより、貫通孔1の第一流路2に面した開口部に前記細胞を吸着できる。この際、さらに吸引力を強めると、細胞膜の一部が破れて、前記細胞中若しくは前記細胞膜表面に存在する核酸、タンパク質及び糖鎖等のポリマー状分子Tを貫通孔1内に配置することができる。
【0062】
以上で説明した基体10A〜基体10Hは、貫通孔1が1本又は3本備えられた構成である。本発明にかかる基体において、貫通孔の本数、形状、経路、及び貫通孔同士の離間距離は上記の例に限定されず、前記基体の使用目的に応じて適宜設計できる。
【0063】
<ポリマー状分子の分析方法>
本発明の分析方法は、本発明にかかる基体を使用して、前記ポリマー状分子の構成単位の配列を分析する方法であり、少なくとも以下の工程A1〜A4を含む。
ここで、前記構成単位とは、前記ポリマー状分子を構成するモノマーに相当する分子をいう。例えば、前記ポリマー状分子がDNAである場合、前記構成単位はデオキシリボヌクレオチドであり、前記構成単位の配列は、デオキシリボヌクレオチドが有する塩基の配列、すなわち、アデニン(A)グアニン(G)、シトシン(C)、及びチミン(T)の配列である。また、例えば、前記ポリマー状分子がRNAである場合、前記構成単位はリボヌクレオチドであり、前記構成単位の配列は、リボヌクレオチドが有する塩基の配列順序、すなわち、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、及びウラシル(U)の配列である。また、例えば、前記ポリマー状分子がタンパク質である場合、前記構成単位はアミノ酸であり、前記構成単位の配列は、公知の20種以上のアミノ酸の配列順序である。
【0064】
本発明の各工程について、前述の基体10Bを用いた場合を一例として、以下に説明する。
[工程A1]
本発明の分析方法の工程A1は、前記空間に前記ポリマー状分子を含む第一の溶液を流入させ、前記ポリマー状分子を前記貫通孔の内部へ導入する工程である。
基体10Bにおいて、第一の溶液を前記空間である第一流路2に流入させ、第二流路3を陰圧にすることによって、貫通孔1内に第一の溶液を引き込む。この方法の詳細は前述の通りである。また、より直接的に導入する方法としては、光ピンセットを用いて前記ポリマー状分子を貫通孔1内へ運搬する方法が例示できる。
【0065】
[工程A2]
本発明の分析方法の工程A2は、前記ポリマー状分子の少なくとも一部を、前記貫通孔の内壁に固定する工程である。
基体10Bにおける貫通孔1内に配置された前記ポリマー状分子の少なくとも一部を、貫通孔1の内壁に固定する方法としては、例えば、前記ポリマー状分子が本来有する物理化学的性質を利用して、貫通孔1の内壁に吸着若しくは結合させる方法が挙げられる。前記物理化学的性質によって生じうる前記結合としては、水素結合、疎水結合(疎水性相互作用)、ファンデルワールス力による吸着(分子間力による吸着)等が挙げられる。
前記ポリマー状分子の少なくとも一部を、貫通孔1の内壁に固定する方法としては、前記固定部を介して固定する方法が好ましい。前記固定部を介した固定であると、前記固定をより確実に行うことができる。また、前記固定部の種類を適宜選択することによって、前記固定の結合力を調整できる。さらに、貫通孔1内に、前記固定部を設け、前記固定部を設ける位置を調整する。
【0066】
[工程A3]
本発明の分析方法の工程A3は、前記ポリマー状分子に結合する結合体を前記貫通孔内に導入する工程である。
基体10Bに固定した前記ポリマー状分子に結合する結合体を貫通孔1内に導入する方法としては、例えば、前記結合体を溶媒に溶解若しくは分散させ、前記結合体の溶液を調製し、この溶液を貫通孔1内に流入させる。その結果、前記結合体を貫通孔1内に導入することができる。貫通孔1内において、前記結合体は前記ポリマー状分子に結合する。
【0067】
前記ポリマー状分子がDNA又はRNAである場合、前記結合体が標識デオキシヌクレオチドであり、前記シグナルが、DNAポリメラーゼ又はRNAポリメラーゼによるDNA又はRNAの複製反応によって生じることが好ましい。この構成を用いることで、前記光学的な観察によって、前記DNA又はRNAの塩基配列を分析することができる。
【0068】
以下では、分析対象がDNAの場合について説明するが、分析対象がRNAの場合は、リバーストランスクリプターゼによりcDNA化したのち、分析対象がDNAである場合と同様の方法で分析できる。また、分析対象がRNAの場合、標識デオキシリボヌクレオチドとリバーストランスクリプターゼを用いて、RNAを鋳型とした逆転写反応を直接可視化し、DNAの場合と同様にシーケンスすることも可能である。さらに、分析対象がRNAの場合、DNAポリメラーゼ及び標識デオキシリボヌクレオチドに代えて、RNA依存RNAポリメラーゼ(RNAレプリカーゼ)及び標識リボヌクレオチドを使用して、分析対象がDNAの場合と同様に分析できる。
【0069】
[工程A4]
本発明の分析方法の工程A4は、前記結合した結果生じるシグナルを前記基体の外部から光学的に観察する工程である。
貫通孔1内において、既知の配列を持つプライマーもしくはランダムプライマーをDNA鎖の所定の位置に結合させ、前記ポリメラーゼをDNA鎖に結合させる。この際、1本のDNA鎖には複数のポリメラーゼが結合してもかまわない。基質である標識dATP(デオキシアデノシン三リン酸)、標識dGTP(デオキシグアノシン三リン酸)、標識dCTP(デオキシシチジン三リン酸)、標識dTTP(デオキシチミジン三リン酸)のうち、DNA鎖の塩基配列に相補的な標識デオキシヌクレオチド(以下、dNTPと呼ぶ)を順次結合して、DNAの所定の位置から、DNAの複製反応を行う。各dNTPがDNA鎖に結合する際、各dNTPが加水分解されてピロリン酸が放出される。このピロリン酸を、予め蛍光標識しておくことによって、DNAの複製反応における加水分解ごとに、蛍光シグナルを検出することができる。
【0070】
前記シグナルは、ポリメラーゼが結合した場所から得られるため、1本のDNA上の複数箇所に前記プライマー、ポリメラーゼ、及びdNTPを結合させた場合、各箇所から発生する複数のシグナルを、その位置情報と関連付けて、単位時間中に検出することができる。4種類のdNTPのそれぞれに対応する異なる蛍光標識を使用することによって、4種類の蛍光シグナルを観測できる。従って、前記DNAの複製反応が進むとともに、前記DNA鎖の塩基配列に対応した蛍光シグナルが順次観察される。蛍光シグナルの種類、発生順序及び位置を測定及び分析することによって、前記DNA鎖の塩基配列を得ることができる。
【0071】
DNA上に複数のポリメラーゼが結合し観察領域の複数箇所でシグナルが検出される場合は、各シグナルの1次元的な蛍光シグナルの種類と順序に、2次元平面上のシグナルの位置情報を加えて、各シグナル情報を2次元的につなぎ合わせることで、配列決定速度を飛躍的に加速することができる。
前記DNAの複製反応に伴う蛍光シグナルの発生方法について、特許文献1に開示されたFRETシステム等を、本発明の趣旨を逸脱しない限り適用することができる。また、シグナルの位置決定は、既知のFIONA(Fluorescence Imaging One−Nanometer Accuracy)等の位置決定法を用いて、サブナノメートルの精度で決定できる。これにより、1塩基の位置の違いを検出可能となる。上記反応を複数の貫通口内で同時に行うことで、得られるデーターを冗長化し、配列決定精度向上させることも可能である。
FIONA法を用いて、前記各シグナル情報を2次元的につなぎ合わせる方法としては、例えば、下記参考文献に記載されたモータータンパク質におけるFIONA法を、本発明においては、順次現れる前記蛍光シグナルの色と位置を特定することに適用し、その位置情報を2次元座標に記録する。それによって、前記2次元座標に各シグナルを並べて、解析対象であるDNA配列を前記2次元座標に構築する方法が挙げられる。
(参考文献;”Fluorescence Imaging with One Nanometer Accuracy: Application to Molecular Motors” Ahmet Yildiz and Paul R. Selvin, Acc. Chem. Res. 2005, 38, 574−582)
【0072】
前記結合体である標識デオキシヌクレオチドが、前記ポリメラーゼによるDNAの複製反応において、前記ポリマー状分子であるDNA鎖に結合した結果生じる蛍光シグナルを、基体10Bの外部から光学的に観察する方法は特に制限されず、例えば、光学顕微鏡と併用した高解像度CCDカメラ等を用いることができる。
【0073】
前記ポリマー状分子が、タンパク質である場合、既知の変性剤存在下において、直鎖状のポリペプチドに変性させ、貫通口1内に導入する。その後、生理的条件の緩衝液などを導入し、変性剤の除去を行う。次に、3〜4アミノ酸を認識する抗体、DNA/RNAアプタマー、もしくは有機化合物等を導入する。これらの物質をアミノ酸決定分子と呼ぶ。これらは、先頭の1アミノ酸のみを厳格に識別し(認識し)、残る2〜3残基はどの種類のアミノ酸であっても結合してかまわない。このようなアミノ酸決定分子を全てのアミノ酸に対応する種類だけ用意し、順次貫通口1内に導入する。これらの分子は蛍光標識されており、蛍光顕微鏡もしくは蛍光検出器を使用することよって、引き伸ばされたポリペプチド上に結合したアミノ酸決定分子に由来するシグナルを検出することができる。得られるシグナルは、ポリペプチド内に、同じアミノ酸が複数個含まれる。従って、ポリペプチドを構成するアミノ酸に対応する所定位置に同時に複数検出される。このシグナルを既知のFIONA等の位置決定法を用いて、サブナノメートルの精度で蛍光シグナルの位置を決定する。その後、熱もしくは変性剤を導入し、結合しているアミノ酸決定分子を除去する。これをアミノ酸決定分子の種類だけ繰り返し、得られたシグナル位置とアミノ酸決定分子の種類とをつなぎ合わせることでポリペプチドの全配列を決定する。上記反応を複数の貫通口内で同時に行うことで、得られるデーターを冗長化し、配列決定精度向上させることも可能である。
同様な方法は、DNAにおけるエピジェネティクスな目印である、DNAメチル化及びヒストン修飾においても適用することができる。すなわち、DNAの配列決定後、メチル化DNAを認識する蛍光抗体を導入し、メチル化されたDNAに結合させる。その後、上記と同様な2次元的な高精度の位置決定により、蛍光抗体の位置情報を取得する。次に、先に取得したDNAの塩基配列の位置情報と照らし合わせ、どの塩基がメチル化されているか決定する。ヒストンのアセチル化に関しても同様の方法で検出可能である。DNAの流路内の固定については、先に示した方法を用いることが可能である。
【0074】
前記「3〜4アミノ酸を認識する抗体」を作製する方法として、例えば次の方法が例示できる。解析するポリペプチドを構成するアミノ酸の種類が20種類である場合、前記抗体によって認識される4残基で形成されるアミノ酸配列の種類(自由度)は、最初の一つは一意に決められるので、20の3乗(8000種類)となる。最初の一つのアミノ酸だけ1種に決定し、それに続く配列をランダムに化学合成することによって、8000種類のペプチドを準備できる。このとき、化学合成におけるライブラリサイズの限界はおよそ10の8乗(10
8)と言われているので、ランダムな6アミノ酸で構成されるペプチドまでは全てを網羅することが理論的に可能である。次に、合成したペプチドのC末端を、PEG(ポリエチレングリコール)などの適当なリンカーを介して、ラテックスビーズ上に固定する。このビーズを用いて、常法により、マウスもしくはウサギなどの動物に免疫を行い、ポリクロナール抗体を得る。なお、得られる抗体の種類は、免疫する動物が有するB細胞の数に依存する。通常、B細胞は約10の9乗(10
9)〜10の10乗(10
10)程度存在するため、十分な冗長性をもって、8000種類の全てを認識する抗体を生産可能となる。
この方法よって、先に決定した「1種」のアミノ酸を先頭に有する、4残基で形成されるアミノ酸配列に結合可能な抗体が得られる。同様の方法で、残りの19種類のアミノ酸についても、各々8000種類の抗原を用いることによって、ポリクロナール抗体が得られる。作製するポリクロナール抗体は、20種類のアミノ酸に対応して、合計20ロットでよい。解析対象のポリペプチドに対して各ロットを独立に又は同時に使用し、各アミノ酸の種類に対応する抗体がポリペプチドに結合する位置を測定し、ポリペプチドの特定の位置におけるアミノ酸の種類を決定する。得られた位置情報とアミノ酸の種類とを統合することにより、前記ポリペプチドのアミノ酸配列を決定できる。
【0075】
<基体の製造方法>
次に、本発明にかかる基体の製造方法を、前述の第一実施形態の基体10Aを例にとって説明する。
図15A〜Dで示すように、ピコ秒オーダー以下(10ps以下)のパスル時間幅を有するレーザーLを、単一の部材4において、貫通孔1となる領域に照射することによって、前記領域に改質部51を形成する工程M1(
図15A)と、単一の部材4に、前記空間をなす第一流路2及び第二流路3を形成する工程M2(
図15B)と、単一の部材4から改質部51をエッチングによって除去する工程M3(
図15C)と、を少なくとも有する。
【0076】
[工程M1]
レーザーL(レーザー光L)は、パルス時間幅がピコ秒オーダー以下のパルス幅を有するレーザー光を用いることが好ましい。例えば、チタンサファイアレーザー、前記パルス幅を有するファイバーレーザーなどを用いることができる。ただし、部材4を透過する波長を使用することが必要である。より具体的には、部材4に対する透過率が60%以上のレーザー光であることが好ましい。
【0077】
前記レーザーL(レーザー光L)は、加工用レーザーとして使用される一般的な波長領域(0.1〜10um)の光を適用することができる。その中でも、被加工部材である部材4を透過する必要がある。部材4を透過する波長のレーザー光を適用することによって、部材59に改質部51を形成することができる。
【0078】
部材4の材料としては、例えば、シリコン、ガラス、石英、及びサファイアなどが挙げられる。これらの材料は、貫通孔1を形成する際の加工性に優れるので好ましい。なかでも、前記材料は、結晶方位による加工異方性の影響を受けにくい非結晶質である方が好ましい。
更には、顕微鏡等の光学的手段によって観察するには、ガラス、石英、もしくはサファイアを用いると、可視光線(波長0.36μm〜0.83μm)が透過するため、より好ましい。
【0079】
また、部材4の材料は、波長0.1μm〜10μmを有する光のうち少なくとも一部の波長を有する光を透過することが好ましい。
具体的には、加工用レーザー光として使用される一般的な波長領域(0.1μm〜10μm)の、少なくとも一部領域の光を透過することが好ましい。前記部材4の材料が、このようなレーザー光を透過することによって、後述するように、前記部材にレーザー照射して改質部を形成することができる。
また、前記部材4の材料が、可視光領域(波長約0.36μm〜約0.83μm)の光に対して透明であることが、より好ましい。前記部材4の材料が、可視光領域の光を透過することによって、貫通孔1内に導入した前記ポリマー状分子を光学的に観察することができる。
なお、本発明における「透過(透明)」とは、前記部材に光を入射して、前記部材から透過光が得られる状態の全てをいう。
図15A〜Dでは、単一の部材4は透明なガラス基板である(以下、ガラス基板4と呼ぶ)。
以下では、部材4がガラス基板である場合について説明するが、部材4がその他の部材、例えば、シリコン、石英、又はサファイアの場合であっても、同様の工程を行うことができる。
後述する工程M2における加工性は、シリコン、石英、及びガラスがより好適である。
【0080】
ガラス基板4は、例えば石英で形成されるガラス基板、珪酸塩を主成分とするガラス基板、ホウ珪酸ガラスで形成されるガラス基板等を用いることができる。合成石英で形成されるガラス基板が、加工性が良いため好適である。また、ガラス基板4の厚さは特に制限されない。
【0081】
レーザー光Lの照射方法としては、
図15Aに示す方法が挙げられる。すなわち、ガラス基板4の内部に集光して焦点を結ぶようにレーザー光Lを照射して、前記焦点を矢印方向に走査することによって、ガラスが改質された改質部51を形成する。
貫通孔1となる領域に、前記焦点をガラス基板4内部で走査することによって、所望の形状の改質部51を形成することができる。
ここで、本明細書及び特許請求の範囲に置いて、「改質部」とは、エッチング耐性が低くなり、エッチングによって選択的に又は優先的に除去される部分」を意味する。
【0082】
レーザー光Lを照射する際、照射強度をガラス基板4の加工上限閾値(加工適正値)に近い値又は加工上限閾値未満にすると共に、レーザー光Lの偏波方向(電場方向)を走査方向に対して垂直となるようにすることが好ましい。このレーザー照射方法を、以下ではレーザー照射方法Sと呼ぶ。
【0083】
レーザー照射方法Sを、
図16で説明する。レーザー光Lの伝播方向は矢印Zであり、前記レーザー光Lの偏波方向(電場方向)は矢印Yである。レーザー照射方法Sでは、レーザー光Lの照射領域を、前記レーザー光の伝播方向Zと、前記レーザー光の偏波方向に対して垂直な方向と、で形成される平面50内とする。これと共に、レーザー照射強度をガラス基板4の加工上限閾値に近い値又は加工上限閾値未満とする。
【0084】
このレーザー照射方法Sによって、ガラス基板4内にナノオーダーの口径を有する改質部51を形成することができる。例えば、短径が20nm程度、長径が0.2μm〜5μm程度の略楕円形状の断面を有する改質部51が得られる。この略楕円形状は、レーザーの伝播方向に沿った方向が長軸で、レーザーの電場方向に沿った方向が短軸となる。レーザー照射条件によっては、前記断面は矩形に近い形状となることもある。
【0085】
レーザー照射強度を、ガラス基板4の加工上限閾値以上とした場合、得られる改質部51は周期構造を伴って形成されることがある。すなわち、ピコ秒オーダー以下のパルスレーザーを加工上限閾値以上で集光照射させることで、集光部で電子プラズマ波と入射光の干渉が起こり、レーザーの偏波に対して垂直であり、偏波方向に沿って周期性をもつ周期構造が自己形成的に形成されることがある。
【0086】
形成された周期構造はエッチング耐性の低い層となる。例えば、石英の場合、酸素が欠乏した層と酸素が増えた層が周期的に配列され(
図17B)、酸素欠乏部のエッチング耐性が弱くなっており、エッチングを行うと周期的な凹部及び凸部が形成されうる。このような周期的な凹部及び凸部は、後述する貫通孔1の形成においては不要である。
【0087】
一方、前述のレーザー照射方法Sのように、レーザー照射強度をガラス基板4の加工上限閾値未満、且つガラス基板4を改質してエッチング耐性を低下させうるレーザー照射強度の下限値以上とすれば、前記周期構造は形成されず、レーザー照射によって一つの酸素欠乏部(エッチング耐性の低い層)が形成される(
図17A)。また、前記一つの酸素欠乏部のエッチングを行うと、一つの貫通孔1を形成することができる。
【0088】
前述のレーザー照射方法Sによれば、貫通孔1の長手方向に直交する断面の形状を楕円又は略楕円とすることができる。また、その短径をエッチングによってナノオーダーサイズで制御することが可能となる。楕円又は略楕円形状では、短径を、例えば微生物サイズよりも小さくすることで、微生物を捕捉することが出来る。このとき長径をナノオーダーサイズよりも大きくすることもできるため、貫通孔1に流入する流体の圧力損失を小さく出来る。また、前記ポリマー状分子を導入する前準備又は細胞及び微生物を捕捉するための事前準備として、貫通孔1内に、あらかじめ溶液を充填させておくことが好ましい。この場合、貫通孔が微細であるほど毛細管力が大きくなるため、貫通孔1から、溶液が貫通孔1の外に出てこなくなる弊害が発生する場合がある。しかしながら、貫通孔1の断面を楕円又は略楕円とすることで、前記ポリマー状分子を導入したり、前記微生物を捕捉したりするのに十分な短径であった場合でも、長径を十分大きくすることで毛細管力を抑制させ、溶液が貫通孔1の外に出てこなくなる弊害を抑制することができる。
【0089】
エッチング耐性が低い層(石英又はガラスにおいては酸素欠乏部)がレーザー照射によって一層だけ形成されるときにおいても(本明細書では改質部51と呼ぶ。)、前記酸素欠乏部は極めてエッチングの選択性が高い層となる。このことは、本発明者らの鋭意検討によって見出された。
【0090】
したがって、前記加工上限閾値(加工適正値)は、前記周期構造が形成されうるレーザーパルスパワーの下限値(前記周期構造が形成されないレーザーパルスパワーの範囲における上限値)と定義される。
また、前記「ガラス基板4を改質してエッチング耐性を低下させうるレーザー照射強度の下限値(閾値)」とは、エッチング処理により、ガラス基板4に貫通孔1をあけることができる限界値である。この下限値よりも低いと、レーザー照射によってエッチング耐性の低い層が形成出来ないため、貫通孔1があかない。
【0091】
[レーザー照射強度について]
本明細書及び特許請求の範囲において、「加工上限閾値」とは、基材内に照射したレーザー光の焦点(集光域)において、基材とレーザー光との相互作用によって生じる電子プラズマ波と入射するレーザー光との干渉が起こり、該干渉によって基材に縞状の改質部が自己形成的に形成されうるレーザー照射強度の下限値を意味する。
また、本明細書及び特許請求の範囲において、「加工下限閾値(閾値)」とは、基材内に照射したレーザー光の焦点(集光域)において、基材を改質した改質部を形成し、後段のエッチング処理によって選択的又は優先的にエッチングされうる程度に、該改質部のエッチング耐性を低下させうるレーザー照射強度の下限値である。この下限値よりも低いレーザー照射強度でレーザー照射した領域は、後段のエッチング処理において選択的又は優先的にエッチングされ難い。このため、エッチング後に微細孔となる改質部を形成するためには、加工下限閾値以上のレーザー照射強度に設定することが好ましい。
【0092】
加工上限閾値(加工適正値)及び加工下限閾値(閾値)は、レーザー光の波長、レーザー照射対象である基材の材料(材質)及びレーザー照射条件によって概ね決定される。しかし、レーザー光の偏波方向と走査方向との相対的な向きが異なると、加工上限閾値及び加工下限閾値も多少異なる場合がある。例えば、偏波方向に対して走査方向が垂直の場合と、偏波方向に対して走査方向が平行の場合とでは、加工上限閾値及び加工下限閾値が異なる場合がある。したがって、使用するレーザー光の波長及び使用する基材において、レーザー光の偏波方向と走査方向との相対関係を変化させた場合の、それぞれの加工上限閾値及び加工下限閾値を、予め調べておくことが好ましい。
【0093】
前記偏波としては直線偏波に関して詳細に説明したが、多少の楕円偏波成分を持つレーザーパルスであっても同様な構造(改質部)が形成されることが容易に想像できる。
【0094】
レーザー光Lの焦点を走査する方法は特に限定されないが、一度の連続走査によって形成できる改質部51はレーザー光Lの伝播方向Zと、レーザー光Lの偏波方向Yに対して垂直な方向とで構成される平面50内に限定される。この平面50内であれば形成される改質部の形状を調整することができる。
【0095】
図17A及びBでは、レーザー光Lの伝播方向は、ガラス基板4の上面に対して垂直である場合を示したが、必ずしも垂直である必要はない。前記上面に対して所望の入射角で、レーザーLを照射してもよい。
レーザー光Lの伝搬方向と改質部51の長手方向に直交する断面形状が前記略楕円である場合、その楕円の長軸方向とレーザー光Lの伝搬方向とは概ね一致する。したがって、
図4に示すように、長軸の向きを主面4aに対して傾斜させた改質部51を形成するためには、レーザー光Lの伝搬方向、すなわち照射角度を、前記上面(主面4a)に対して所望の角度だけ傾斜させて照射すればよい。
【0096】
一般に、改質された部分のレーザーの透過率は、改質されていない部分のレーザーの透過率とは異なる。そのため、改質された部分を透過させたレーザー光の焦点位置を制御することは通常困難である。したがって、レーザー照射する側の面から見て、奥に位置する領域から改質部を形成していくことが望ましい。
【0097】
また、レーザーの偏波方向(矢印Y方向)を適宜変更することによって、ガラス基板4内に、3次元方向に形成される改質部の形状を調整することも可能である。
【0098】
また、
図17Aで示すように、レーザー光Lをレンズによって集光して、前述の様に照射することによって改質部51を形成してもよい。
前記レンズとしては、例えば屈折式の対物レンズや屈折式のレンズを使用することができるが、他にも例えばフレネル、反射式、油浸、水浸式で照射することも可能である。また、例えばシリンドリカルレンズを用いれば、一度にガラス基板4の広範囲にレーザー照射することが可能である。また、例えばコニカルレンズを用いればガラス基板4の垂直方向に広範囲に一度にレーザー光Lを照射することができる。ただしシリンドリカルレンズを用いた場合には、レーザー光Lの偏波はレンズが曲率を持つ方向に対して水平である必要がある。
【0099】
レーザー照射条件Sの具体例としては、以下の各種条件が挙げられる。例えばチタンサファイアレーザー(レーザー媒質としてサファイアにチタンをドープした結晶を使用したレーザー)を用いる。照射するレーザー光は、例えば波長800nm、繰返周波数200kHzを使用し、レーザー走査速度1mm/秒としてレーザー光Lを集光照射する。これらの波長、繰返周波数、走査速度の値は一例であり、本発明はこれに限定されず必要に応じて変えることが可能である。
【0100】
集光に用いるレンズとしては、例えばN.A.<0.7未満の対物レンズを用いることが好ましい。より微小な貫通孔1を形成させるためには、ガラス基板に照射する際のパルス強度は、加工上限閾値に近い値、たとえば80nJ/pulse程度以下のパワーであることが好ましい。それ以上のパワーであると周期構造が形成され、エッチングによってそれらが繋がるため、ナノオーダーの口径を有する貫通孔1を形成することが困難となる。ミクロンオーダーの口径になる、あるいは前記周期構造が形成されてしまうことがある。
また、N.A.≧0.7であっても加工が可能であるが、スポットサイズがより小さくなり、レーザーフルエンスが大きくなるため、より小さなパルス強度でのレーザー照射が求められる。
【0101】
[工程M2]
次に、単一のガラス基板4に、前記空間を形成する第一流路2及び第三流路3を形成する。
まず、ガラス基板4の上面に、例えばフォトリソグラフィなどによってレジスト52をパターニングして配置する(
図15B)。
次に、ドライエッチング、ウェットエッチング、又はサンドブラスト等の方法によって、ガラス基板4の上面におけるレジスト52が配されていない領域を、所定の深さに達するまでエッチングして除去する(
図15C)。
最後に不要となったレジスト52を剥離すると、第一流路2及び第二流路3が形成されたガラス基板4が得られる。
【0102】
工程M2において、形成する第一流路2の側面2a及び第二流路3の側面3aに、工程M1で形成した改質部51の断面を露呈させることが好ましい。こうすることで、後段の工程M3におけるエッチング処理によって、貫通孔1を形成させることがより容易となる。
【0103】
[工程M3]
つぎに、単一のガラス基板4から、工程M1で形成した改質部51をエッチングによって除去する(
図15D)。
エッチング方法としては、ウェットエッチングが好ましい。第一流路2の側面2a及び第二流路3の側面3aに露出された断面を有する改質部51は、エッチング耐性が低くなっているため、選択的又は優先的にエッチングすることができる。
【0104】
このエッチングは、ガラス基板4の改質されていない部分に比べて、改質部51が非常に速くエッチングされる現象を利用しており、結果として改質部51の形状に応じた貫通孔1を形成することができる。
前記エッチング液は特に限定されず、例えばフッ酸(HF)を主成分とする溶液、フッ酸に硝酸等を適量添加したフッ硝酸系の混酸等を用いることができる。また、部材4の材料に応じて、他の薬液を用いることもできる。
【0105】
前記エッチングの結果、ナノオーダーの口径を有する貫通孔1を、ガラス基板4内の所定位置に、第一流路2と第二流路3とを連通するように、形成することができる。
【0106】
貫通孔1のサイズとしては、例えば、短径が20nm〜200nm程度、長径が0.2μm〜5μm程度の略楕円形状の断面を有する貫通孔とすることができる。また、エッチング処理の具合によっては、前記断面は矩形に近い形状となることもある。
【0107】
前記ウェットエッチングの処理時間を調整することによって、改質部51と貫通孔1とのサイズ差を小さくしたり大きくしたりすることが可能である。
前記処理時間を短くすることによって、前記短径を数nm〜数十nmにすることも理論的には可能である。これとは逆に、前記処理時間を長くすることによって、前記短径を1μm〜2μm程度に、前記長径を5μm〜10μm程度とすることもできる。
【0108】
つぎに、必要に応じて、形成された第一流路2及び第二流路3の上面を覆うように、蓋となる部材をガラス基板4の上面に貼り合わせてもよい。
前記蓋となる部材とガラス基板4の上面とを貼り合わせる方法は、前記蓋となる部材の材料に応じて、公知の方法で行えばよい。
【0109】
前記蓋となる部材の材料としては特に制限されず、PDMS、PMMA等の樹脂基板、もしくはガラス基板を使用することができる。また、前記蓋となる部材の材料は、光学的観察手段の光(例えば可視光線)を透過することが好ましい。
【0110】
工程M2及び工程M3におけるエッチングとしては、ウェットエッチングもしくはドライエッチングが適用できる。ウェットエッチングは、例えば1%以下のフッ酸を用いるのが最も好ましいが、その他の酸もしくは塩基性を持つ容体でもよい。
【0111】
前記ドライエッチングのうち、等方性エッチング法としては、例えば、バレル型プラズマエッチング、平行平板型プラズマエッチング、及びダウンフロー型ケミカルドライエッチング、などの各種ドライエッチング方式が挙げられる。
【0112】
異方性ドライエッチング法としては、例えば反応性イオンエッチング(以下RIE)を用いるものとして例えば平行平板型RIE、マグネトロン型RIE、ICP型RIE、NLD型RIEなどを使用することができ、RIE以外にも例えば、中性粒子ビームを用いたエッチングを使用することが可能である。異方性ドライエッチング法を用いる場合には、プロセス圧力を上げる等の手法によって、イオンの平均自由行程を短くし、等方性エッチングに近い加工も可能となる。
【0113】
使用するガスは例えばフロロカーボン系、SF系ガス、CHF3、フッ素ガス、塩素ガス、など材料を化学的にエッチングすることができるガスが主で、それらに適宜その他の酸素、アルゴン、ヘリウムなどのガスを混合し使用することが可能であり、その他のドライエッチング方式による加工も可能である。
【0114】
工程M2において、より好適なエッチングは異方性エッチングであり、工程M3において、より好適なエッチングは等方性エッチングである。