特許第6134881号(P6134881)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6134881免疫毒性評価細胞を用いたTNF−α阻害活性を定量化するシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134881
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】免疫毒性評価細胞を用いたTNF−α阻害活性を定量化するシステム
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20170522BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20170522BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20170522BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20170522BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20170522BHJP
【FI】
   C12Q1/68 A
   C12Q1/02
   G01N33/50 P
   G01N33/53 P
   !C12N15/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-141412(P2012-141412)
(22)【出願日】2012年6月22日
(65)【公開番号】特開2014-3939(P2014-3939A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相場 節也
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕
(72)【発明者】
【氏名】近江谷 克裕
(72)【発明者】
【氏名】西井 重明
【審査官】 松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/002507(WO,A1)
【文献】 再公表特許第98/022578(JP,A1)
【文献】 特開平10−182486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
G01N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TNF-αを標的とする薬剤を投与した患者の血清にTNF-α活性評価用哺乳類細胞及びTNF-αを作用させる工程(ここで、前記TNF-α活性評価用哺乳類細胞は、レポーター遺伝子がTNF-α刺激により発現が誘導される遺伝子のプロモーターの制御下にあり、前記レポーター遺伝子を哺乳類細胞で一過性または安定発現するように導入してあるものである。レポーター遺伝子はルシフェラーゼ、蛍光タンパク質及び着色タンパク質からなる群から選ばれるものである)、
前記TNF-α刺激により発現が誘導される遺伝子プロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子の発現量を評価する工程、及び
前記レポーター遺伝子の発現量と、前記TNF-α活性評価用哺乳類細胞とTNF-αとを接触させ、かつ、TNF-αを標的とする薬剤を投与した患者の血清で処理しない場合の前記レポータ遺伝子の発現量とを比較する工程を含むことを特徴とする、
TNF-αを標的とする薬剤を投与した患者に対するTNF-αを標的とする薬剤の有効性の評価方法。
【請求項2】
TNF-α活性評価用哺乳類細胞が、
哺乳類細胞がTHP-1細胞であり、
TNF-α刺激により発現が誘導される遺伝子のプロモーターがIL-8遺伝子プロモーターであり、
TNF-α刺激により発現が誘導される遺伝子のプロモーター制御下にあるレポーター遺伝子がルシフェラーゼであり、
前記レポーター遺伝子を哺乳類細胞で安定発現するように導入してある哺乳類細胞
である、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
TNF-α刺激により発現が誘導される少なくとも1つの遺伝子のプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子の発現量の評価が、mRNAの定量測定により行われる、請求項1又は2に記載の評価方法。
【請求項4】
TNF-α活性評価用哺乳類細胞をTNF-αを標的とする薬剤を投与した患者の血清及びTNF-αの存在下に培養する工程(ここで、前記TNF-α活性評価用哺乳類細胞は、TNF-α刺激により発現が誘導される遺伝子のプロモーター制御下にあるタンパク質を哺乳類細胞で一過性または安定発現するように導入してなるものである。)、及び
前記工程で得られた培養液中のTNF-α刺激により発現が誘導される遺伝子のプロモーターの制御下にあるタンパク質の発現量をイムノアッセイにより評価する工程、及び
前記タンパク質の発現量と、前記TNF-α活性評価用哺乳類細胞とTNF-αとを接触させ、かつ、TNF-αを標的とする薬剤を投与した患者の血清で処理しない場合の前記タンパク質の発現量とを比較する工程
を含むことを特徴とする、TNF-αを標的とする薬剤を投与した患者に対するTNF-αを標的とする薬剤の有効性の評価方法。
【請求項5】
TNF-α活性評価用哺乳類細胞が、
哺乳類細胞がTHP-1細胞であり、
TNF-α刺激により発現が誘導される遺伝子のプロモーターがIL-8遺伝子プロモーターであり、
TNF-α刺激により発現が誘導される遺伝子のプロモーター制御下にあるタンパク質が、ルシフェラーゼであり、
前記タンパク質を哺乳類細胞で安定発現するように導入してある哺乳類細胞
である、請求項4に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト細胞に対するTNF-α活性を評価できる免疫毒性評価細胞を用いて対象者(例えば患者)の血清中のTNF-α阻害活性を定量化し、血清中の抗TNF-α抗体,可溶性TNF-α/LTα受容体製剤などのTNF-α阻害剤の薬効を定量評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗TNF-α抗体製剤ないし可溶性TNF-α/LTα受容体製剤は,関節リウマチ,クローン病,乾癬などの疾患に対して世界80カ国以上で販売されている生物学的製剤の一種で,代表的なものに,Infliximab,Adalimumab, Golimumab, Certolizumab, Etanerceptなどが存在する。ユート・ブレーン株式会社ニュースリリース大型医薬品売上高ランキング2008では,2008年に全世界でInfliximabが60億ドル,Adalimumabが40億ドルと極めて高い売上高を計上している。また,日本国内の売上高においても,関節リウマチ領域の市場のみで,既に1000億円に達しようとしている。これらの薬剤が世界的に使用されている背景には、それらの薬剤の持つ従来の薬剤では得られなかった高い薬効と安全性という特徴がある。
【0003】
しかし,抗TNF-α抗体製剤ないし可溶性TNF-α/LTα受容体製剤は極めて有用な薬剤ではあるが,いくつかの問題点を有している。最も大きな問題点は高額なため患者ならびに医療経済に与える負担が極めて大きいという点,また、場合によっては重篤な感染症を誘発する点であるが,それらに加えて,これら治療法に対する反応性の個人差,また,使用中に形成される薬剤に対する抗体などによる有効性の減弱, infusion reactionとよばれるアレルギー反応があげられる。そこで,後者の問題に関しては,現在,患者の血清中の抗TNF-α抗体ないし可溶性TNF-α/LTα受容体製剤の濃度を定期的にモニターするtherapeutic drug monitoringの必要性が唱えられている。しかしながら,血中の抗TNF-α抗体製剤ないし可溶性TNF-α/LTα受容体製剤の薬剤濃度を定量することは必ずしも容易ではなく、また、その血中濃度が血中のTNF-α中和活性と相関するかに関しては全く未知数である。さらに、抗TNF-α抗体製剤ないし可溶性TNF-α/LTα受容体製剤に対する反応性の低下は、治療薬に対する抗体以外にも生じる可能性は否定できず,患者血清中の生物学的なTNF-α阻害活性の定量化が望まれる。
【0004】
特許文献1は、多色発光システムを用いた免疫毒性評価法に関する手段を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2012/002507
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Takahashi T, Kimura Y, Saito R, Nakajima Y, Ohmiya Y, Yamasaki K, Aiba S: An in vitro test to screen skin sensitizers using a stable THP-1-derived IL-8 reporter cell line, THP-G8. Toxicol Sci., 124, 359-69, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来評価できなかった血中の抗TNF-α抗体製剤ないし可溶性TNF-α/LTα受容体製剤によってもたらされるTNF-α阻害活性を化学物質の免疫毒性発現機序の分子レベルの知見に基づいた、培養細胞の評価系によって簡易に解析する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、これまでに免疫毒性を評価するためにIL-8プロモーター領域を挿入したルシフェラーゼレポーター遺伝子を作成、これをTHP−1などの細胞に導入した免疫系評価細胞(THP-G8)を構築、本細胞が化学物質によるIL-8の遺伝子発現量の変化を短時間にレポーター活性の変化量で定量できることを明らかにした(特許文献1)。また本細胞に各種化合物を反応させることで皮膚感作試験法として有用であることを証明した(非特許文献1)。
【0009】
さらに本免疫毒性評価細胞(THP-G8)はTNF-αを加えることでIL-8のプロモーター活性が増加するが、その際にあらかじめ添加するTNF-αを抗TNF-α抗体,可溶性TNF-α/LTα受容体製剤などのTNF-α阻害剤で処理することによりTNF-αによるIL-8のプロモーター活性が減弱する。よってこの原理に基づき,血清中の抗TNF-α抗体製剤ないし可溶性TNF-α/LTα受容体製剤の影響を探ることが可能である。すなわち、抗TNF-α抗体製剤ないし可溶性TNF-α/LTα受容体製剤などTNF-α阻害薬による治療を行っている患者血清であらかじめ処理された一定濃度のTNF-αを本免疫毒性評価細胞に加え,そのIL-8プロモーター活性を定量する。その際,血清で処理されていない等量のTNF-αを評価細胞に加えた際のIL-8プロモーター活性も定量し,両者を比較することにより,TNF-α活性の抑制率を計算することができ,それを用いて血清中のTNF-α中和活性を定量化することが可能であることを明らかにした。これらの結果より、従来、種々のTNF-α阻害剤による薬剤治療に対する個人の治療効果を定量的に評価できることから、本発明に至った。
【0010】
また,同様に,この系に,一定量のTNF-αをTNF-α抗体製剤ないし可溶性TNF-α/LTα受容体製剤などTNF-α阻害薬で処理した後に添加することにより,添加した製剤のEC50が容易に求められ,各薬剤間のin vitroでの有効性の違いが容易に判定できることを明らかにした。
【0011】
本発明は、以下の抗TNF-α抗体製剤ないし可溶性TNF-α/LTα受容体製剤などのTNF-α阻害薬の効果を定量するための哺乳類細胞、アッセイ方法、評価法を提供するものである。
項1.
対象血清にTNF-α活性評価用哺乳類細胞及びTNF-αを作用させる工程(ここで、前記TNF-α活性評価用哺乳類細胞は、レポーター遺伝子がTNF-α刺激により発現が誘導される遺伝子のプロモーターの制御下にあり、前記レポーター遺伝子を哺乳類細胞で一過性または安定発現するように導入してあるものである。レポーター遺伝子はルシフェラーゼ、蛍光タンパク質及び着色タンパク質からなる群から選ばれるものである)、及び
TNF-α刺激により発現が誘導される、少なくとも1つの遺伝子のプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子の発現量を評価する工程を含むことを特徴とする、TNF-αを標的とする薬剤の有効性の評価方法。
項2.
TNF-α刺激により発現が誘導される遺伝子のプロモーターが、IL-1α、IL-1β、IL-8、IFN-γ、E-selectin、COX-2,ICAM-1、VCAM-1、RANTES、MMP-9、及びTNFAIP8からなる群から選ばれる少なくとも1種のプロモーターである、項1に記載の評価方法。
項3.
TNF-α刺激により発現が誘導される、少なくとも1つの遺伝子のプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子の発現量の評価が、mRNAの定量測定により行われる、項1又は2に記載の評価方法。
項4.
TNF-α活性評価用哺乳類細胞を血清及びTNF-αの存在下に培養する工程(ここで、前記TNF-α活性評価用哺乳類細胞は、TNF-α刺激により発現が誘導される遺伝子のプロモーターの制御下にあるタンパク質を哺乳類細胞で一過性または安定発現するように導入してなるものである。)、及び
前記工程で得られた培養液中のTNF-α刺激により発現が誘導される、少なくとも1つの遺伝子のプロモーターの制御下にあるタンパク質の発現量をイムノアッセイにより評価する工程
を含むことを特徴とする、TNF-αを標的とする薬剤の有効性の評価方法。
項5.
TNF-α刺激により発現が誘導される遺伝子のプロモーターが、IL-1α、IL-1β、IL-8、IFN-γ、E-selectin、COX-2,ICAM-1、VCAM-1、RANTES、MMP-9、及びTNFAIP8からなる群から選ばれる少なくとも1種のプロモーターである、項4に記載の評価方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の細胞を用いると、抗TNF-α抗体製剤ないし可溶性TNF-α/LTα受容体製剤などTNF-α阻害剤投与後一定時間後の血清をTHP-G8細胞で評価することにより,患者ごとに薬剤投与後の血中TNF-α中和活性を定量、評価することができる。将来的には,臨床的有効性とTHP-G8細胞により評価された血中TNF-α阻害活性との相関を調べることにより,患者ごとに投与薬剤の有効性を早期に予測することや,一定の臨床効果を得るのに必要とする投与量の決定にも応用できる。
【0013】
抗TNF-α抗体製剤ないし可溶性TNF-α/LTα受容体製剤などTNF-α阻害剤投与後定期的にTHP-G8細胞を用いた血中TNF-α阻害活性測定を行う事で,投与薬剤の効果を経時的に判定できる。将来的に,臨床効果と経時的モニタリングとの相関を検討することにより,投与薬剤の増量,減量,あるいは,多剤への変更の指標として利用できる。さらには、抗TNF-α抗体製剤ないし可溶性TNF-α/LTα受容体製剤などTNF-α阻害剤の開発に際し,そのスクリーニング系として,また,既存の薬剤との力価比較に応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】患者1のTNFαの阻害作用
図2】患者2のTNFαの阻害作用
図3】患者3のTNFαの阻害作用
図4】健常人のTNFαの阻害作用
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、「患者」とは、TNF-αに関与する疾患の患者(ヒト)であり、例えば乾癬、関節炎、関節リウマチ,クローン病、潰瘍性大腸炎、ベーチェット病、強直性脊椎炎などの疾患の患者が挙げられる。
【0016】
TNF-α活性評価用哺乳類細胞に作用させるTNF-αとしては、ヒトTNF-αが好ましいが、ヒト以外の哺乳動物(ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、サルなど)由来であってもよい。
【0017】
TNF-α活性評価用哺乳類細胞としては、Jurkat細胞、U937細胞、またはTHP-1細胞などが挙げられ、THP-1細胞が好ましい。
【0018】
免疫評価の対象となるプロモーターとしては、TNF-αにより産生が亢進されるサイトカイン、ケモカイン、接着分子、Cox-2などが挙げられ、例えばIL-1α、IL-1β、IL-8、IFN-γ、E-selectin、COX-2,ICAM-1、VCAM-1、RANTES、MMP-9、TNFAIP8 が挙げられ、IL-8が特に好ましい。これらは1つ又は2つ以上のプロモーターを組み合わせて使用することができる。好ましいJurkat細胞用のプロモーターとしては、IL-2とIFNγの組合せが挙げられる。THP-1細胞についてはIL-1β、IL-8が好ましく例示され、これらは1つ又は2つ以上のプロモーターを組み合わせて使用することができる。好ましい組合せはIL-1βとIL-8の組合せである。
【0019】
本発明の哺乳類細胞は、定常発現プロモーターを有するものではないが、細胞の状態を評価、コントロールとなる定常発現プロモーターを通常1或いは2以上が哺乳類細胞内に導入してもよい。なお、定常発現プロモーターとしては、G3PDH、TK、β-actinなどが挙げられ、G3PDHが好ましい。
【0020】
レポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ、蛍光タンパク質、着色タンパク質などが挙げられる。
【0021】
本明細書において、ルシフェラーゼとしては、ウミボタル、ヒオドシエビ、発光昆虫(ホタル、ヒカリコメツキなど)、発光ミミズ、ラチア、ウミシイタケ、オワンクラゲ(エクオリン)などの各種発光生物由来のルシフェラーゼが例示される。
【0022】
蛍光タンパク質としては、グリーン蛍光タンパク質(GFP),黄色蛍光タンパク質(YFP),青色蛍光タンパク質(BFP),シアン蛍光タンパク質(CFP)、DsRED、赤色蛍光タンパク質(RFP)などが例示される。
【0023】
着色蛋白質としては、フィコシアニン、フィコエリトリンが挙げられる。
【0024】
以下、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子の場合を例に挙げて説明する。
【0025】
ルシフェラーゼ遺伝子は、2つ以上のルシフェラーゼ由来の発光量を測定し、それらの相対比率を算出することが重要であるので、2つ以上、好ましくは3つ以上のルシフェラーゼについて発光波長が測定条件(例えばpH)に実質的に依存しない光を発光することが必要である。また、ルシフェラーゼが測定条件に依存しない光を発し、それらをカラーフィルター等で相互の光の発光量の比率を測定可能であるなら、フィルター前後での各発光の透過率より各発光は定量できるので、相互に分別可能な光を発光する2以上(好ましくは3以上)のルシフェラーゼが必要である。
【0026】
本明細書において、「発光波長が測定条件に実質的に依存しない」とは、pH、温度、濃度などが変化しても、最大発光波長の変動が3nm以下、好ましくは2nm以下、さらに好ましくは1nm以下、特に好ましくは0.5nm以下である。最大発光波長の変化量がこの範囲内であれば、複数のルシフェラーゼ質の発現量をフィルター等で分離して定量する場合、相互のルシフェラーゼ質の比率がほとんど変化しないため好ましい。
【0027】
本明細書において、「相互に分別可能な光を発光する2以上(好ましくは3以上)のルシフェラーゼ」とは、例えばフィルター(カラーフィルター、バンドパスフィルターなど)を用いて相互の光の発光量の比率を測定可能であることを意味する。例えば、鉄道虫由来の赤色、緑色ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来の橙色、緑色ルシフェラーゼなどは、フィルターを使用することにより、緑色同士を除き、相互の光の発光量の比率を測定可能である。相互の光の発光量の比率を測定可能であるためには、フィルターの性能や各発光スペクトルのピーク形状にもよるが、最大発光波長が通常20nm以上、好ましくは30nm以上、より好ましくは40nm以上、特に好ましくは50nm以上離れているのが好ましい。この程度の最大発光波長の分離があれば、例えば各最大波長間のフィルターを使用し、フィルターの前後での各発光の透過率を測定して換算することで、各発光の発光量を同時に定量することができる。
【0028】
本発明で使用される好ましいルシフェラーゼは、鉄道虫由来の緑〜赤(その変異体を含む、最大発光波長:535〜635nm、例えば540〜630nm)のルシフェラーゼ、ヒカリコメツキムシのオレンジ〜緑(その変異体を含む、最大発光波長:530〜600nm)のルシフェラーゼ、イリオモテホタルのオレンジ〜緑(その変異体を含む、最大発光波長:550〜590nm)のルシフェラーゼなどが挙げられる。例えば鉄道虫の場合、赤色最大発光波長622nmと緑色最大発光波長545nmのルシフェラーゼが知られているが(US2002/0119542−A1)、この2種以外にも540〜635nmの間の光を発光する多数のルシフェラーゼが存在していることを本発明者は確認しており、これらのルシフェラーゼは、全て使用可能である。例えば、鉄道虫由来の最大発光波長622nm(昆虫または大腸菌で発現)の赤色ルシフェラーゼは、哺乳類細胞中で発現すると最大発光波長が630nmにシフトすることを本発明者は確認した。
【0029】
特に、最大発光波長がある程度離れている複数のルシフェラーゼを有する鉄道虫、イリオモテボタルなどに由来するルシフェラーゼを使用する場合、1つの発光基質(例えば鉄道虫、イリオモテボタル、ヒカリコメツキムシ由来のルシフェラーゼではホタルルシフェリンを使用できる)を使用して、共発現させた複数のルシフェラーゼに由来する発光量の同時定量が可能であり、各プロモーターの発現量の比を正確に測定することができる。また、発光波長が測定条件(例えばpH)に依存しない光を発光するルシフェラーゼとして、青色に発光するウミシイタケ・ルシフェラーゼ、渦鞭毛藻の各種ルシフェラーゼ(全配列或いはドメイン1,ドメイン2,ドメイン3などの発光ドメインを含む;特開2002−335961;Li L.,Hong R.,Hasting JW.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1997)94,8954)、ウミボタル・ルシフェラーゼをさらに組み合わせて使用することができる。鉄道虫、イリオモテボタル、ヒカリコメツキムシ由来のルシフェラーゼを使用すると、ホタルルシフェリンを使用できるので、バックグラウンドを低くすることが可能である。また、渦鞭毛藻のルシフェラーゼとルシフェリンの組み合わせについても、バックグラウンドが低く好ましい。
【0030】
本発明の好ましい実施形態の1つにおいて、鉄道虫、イリオモテボタルのルシフェラーゼを使うことで1種類のルシフェリンでも少なくとも3つのプロモーターの発現量の定量が可能である(例えば鉄道虫の赤色ルシフェラーゼと、イリオモテボタルの橙色及び緑色ルシフェラーゼ)(VR.Viviani,A.Uchida,N.Suenaga,M.Ryufuku & Y.Ohmiya:Thr−226 is a key−residue for bioluminescence spectra determination in beetle luciferases(2001)Biochem.Biophys.Res.Communi.280,1286−1291)。また、青色ルシフェラーゼ(ウミシイタケ、渦鞭毛藻またはウミボタルの各ルシフェラーゼ)を合わせて4種以上は可能である。上手なフィルター設定により540−635nm(緑から赤色)、好ましくは540−630nmの中で複数の発現解析は可能であり、さらに基質の違う青色のルシフェラーゼにより1種類を加えることができる。よって、ルシフェラーゼの同時測定としては、同じルシフェリンで3つ以上、違うルシフェリンも用いて4つ以上の同時定量が可能である。
本発明の好ましい実施形態としては、例えばレポーター遺伝子のmRNAのコピー数を増やすことであるので、例えばcDNAの配列を、昆虫のコドンユーセージ(コドンの使用頻度の偏り)を哺乳類用に変えること、さらには、余分な転写因子が結合しないように、cDNAの配列を変えること、さらに使用上、制限酵素部位が多いことで応用が限定されることからそのcDNAを変えることが挙げられる。このような手法も、鉄道虫ルシフェラーゼ、イリオモテボタルルシフェラーゼの哺乳類細胞内での発現に有効であった。特にコドンユーセージ(コドンの使用頻度の偏り)を哺乳類用に変えること、さらには、余分な転写因子が結合しないように、cDNAの配列を変えることは有効である。
【0031】
cDNAの配列の変更は、以下の点を1)〜4)の順に考慮して行うことができる:
1)ルシフェラーゼのアミノ酸配列はできるだけ変更しないのがよい(好ましくは全く変更しない);
2)次に、余分な転写因子が結合しないように、cDNAの配列を変更する;
3)さらに、cDNAの配列において、昆虫のコドンユーセージを哺乳類用に変更する;
4)必要に応じてさらに、制限酵素部位をなくすようにcDNA配列を変更する。
【0032】
上記は、鉄道虫由来のルシフェラーゼ、イリオモテボタルルシフェラーゼの発現について記載したが、ヒカリコメツキムシなどの他の生物由来のルシフェラーゼについても同様に当てはまる。
【0033】
本明細書において、「ルシフェラーゼ」は、ルシフェラーゼなど、ルシフェリン光化学反応を触媒する発光酵素群を包含し、ルシフェラーゼにはエクオリンのようなものも含まれる。また、ルシフェリンの構造を変化させることにより発光作用を有するような、触媒作用(ルシフェリンを酸化して発光物質に変換する作用)の弱いタンパク質も、発光波長が測定条件(例えばpH)に実質的に依存しない限り本発明のルシフェラーゼに含まれ得る。
【0034】
本発明のルシフェラーゼ遺伝子としては、野生型又は変異型ルシフェラーゼ遺伝子をそのまま使用することもでき、該ルシフェラーゼ遺伝子とストリンジェントな条件下にハイブリダイズし得るDNA、該ルシフェラーゼの1又は複数のアミノ酸が置換、付加、欠失または挿入され、且つルシフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAを該ルシフェラーゼ遺伝子として使用することが可能である。
【0035】
1つの好ましい実施形態において、本発明者は様々な発現系を検討することにより、ルシフェラーゼの哺乳類細胞での安定発現のためには、翻訳を効率化するエレメント及び/又はmRNAの安定化エレメントを遺伝子構築物に導入することが重要であることを見出した。翻訳を効率化するエレメントとしては、kozak配列(Ko)などが例示され、mRNAの安定化エレメントとしては、β−globin intron IIなどが例示される。ルシフェラーゼを哺乳類細胞中で安定に発現するためには、特に、(β−グロビンイントロンII)−(コザック配列)−(赤/緑色ルシフェラーゼ)の部分構造が好ましい。また、cDNAの配列を、昆虫のコドンユーセージ(コドンの使用頻度の偏り)を哺乳類用に変えること、さらには、余分な転写因子が結合しないように、cDNAの配列を変えることもルシフェラーゼの哺乳類細胞での安定発現のために好ましいことを確認した。
一つの好ましい実施形態において、本発明の遺伝子構築物にはルシフェラーゼ遺伝子、該遺伝子の上流側にプロモーター、翻訳を効率化するエレメント及び/又はmRNAの安定化エレメントを含み、さらにエンハンサ、IRES、SV40pA、薬剤耐性遺伝子(Neorなど)を含み得る。
【0036】
本発明の好ましい遺伝子構築物の例を以下に示す。
(1)(CMVエンハンサ)−(ニワトリβアクチンプロモーター)−(β−グロビンイントロンII)−(コザック配列)−(赤、緑色ルシフェラーゼ)−(SV40ポリA配列)
(2)(CMVエンハンサ)−(ニワトリβアクチンプロモーター)−(β−グロビンイントロンII)−(コザック配列)−(赤、緑色ルシフェラーゼ)−(IRES)−(Neo遺伝子)−(SV40ポリA配列)
本発明の遺伝子構築物は、そのままで哺乳類細胞に導入してもよいが、ベクター(例えばプラスミドやウイルスベクターを含む)に組み込んで哺乳類細胞に導入するのが好ましい。遺伝子構築物に複数のルシフェラーゼを発現可能に組み込んだ場合には、1つの遺伝子構築物または発現ベクターを哺乳類細胞に導入すればよいが、1つの遺伝子構築物に1つのルシフェラーゼを組み込んだ場合には、複数の遺伝子構築物または発現ベクターを同時にまたは逐次的に哺乳類細胞に常法に従って導入すればよい。
【0037】
本発明において、哺乳類としては、ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、ブタ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌが挙げられ、好ましくはヒトである。
【0038】
好ましい実施形態において、TNF-α活性の評価法は、THP-1細胞に、以下に述べる遺伝子プロモーター下流に多色発光ルシフェラーゼを含む遺伝子を導入した長期安定培養細胞から構築される。具体的には、東洋紡製赤色発光ルシフェラーゼベクター(pSLR)、橙色発光ルシフェラーゼベクター(pSLO)、緑色発光ルシフェラーゼベクター(pSLG)を好ましく用いることができる。THP-1細胞においては、G3PDH遺伝子をpSLR、purinergic receptorやmitogen activated protein kinaseの関与する刺激伝達系およびAP-1、NF-kB転写因子活性化の指標としたIL-8遺伝子をpSLGに、また、NF-kB, AP-1, NF-IL6, CRE/ATF転写因子活性化の指標としてIL-1β遺伝子をpSLOに挿入したプラスミド群を用い、それらを導入した安定細胞株を作製することができる。
【0039】
レポーター遺伝子の発現量の評価は、mRNAまたはタンパク質を定量することにより評価できる。mRNAを定量する方法としては、細胞内の特定mRNA量を定量できる方法であれば、特に制限されず、例えば、前記mRNAマーカーのmRNAもしくはそのcDNAの塩基配列またはそれらの相補塩基配列の一部からなるオリゴヌクレオチドであって、前記mRNAまたはcDNAに部位特異的に結合するオリゴヌクレオチドを含むプライマーやプローブを用いた方法が挙げられる。前記プライマーやプローブは、前記オリゴヌクレオチドが前記マーカーmRNAのmRNAまたはそのcDNAと部位特異的塩基対を形成するものであれば、前記mRNAを検出・定量するための様々な修飾がされたものであってよい。また、前記方法としては、必要試料量が少なく、精度および感度がよく、簡便な方法が好ましく、具体的には、例えば、リアルタイムPCR法やコンペティティブPCR法、または、mRNAを直接測定する方法等があげられる。これらの中でも、例えば、同一チューブまたはウェル内の反応で、本発明の遺伝子マーカーのmRNAと内部対照遺伝子のmRNAとを同時に測定できる方法がより好ましい。
【0040】
前記リアルタイムPCR法としては、例えば、細胞内のトータルRNAやmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、このcDNAを鋳型に目的領域をPCRで増幅し、リアルタイムモニタリング用試薬を用いて増幅産物の生成過程をリアルタイムでモニタリングし、解析する方法があげられる。前記リアルタイムモニタリング試薬としては、例えば、SYBR(登録商標:MolecularProbes社)GreenIや、TaqMan(登録商標:Applied Biosystems社)プローブ等が挙げられる。
【0041】
また、前記コンペティティブPCR法としては、例えば、細胞内のトータルRNAやmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、このcDNAとDNAコンペティターとを同一チューブ内で反応させる方法や、さらに前記逆転写反応時にmRNAとともにRNAコンペティターを加えて反応させる方法等があげられる。またコンペティターのプライマー配列以外の内部配列としては、例えば、増幅目的mRNAの配列と相同配列でもよく、非相同な配列でもよい。
【0042】
mRNAを直接測定する方法としては、例えば、Invader(登録商標:ThirdWave Technologies社)RNAアッセイ等があげられる。
【0043】
本発明の発現産物である蛋白質を定量する具体的方法としては、細胞内ないしは細胞培養上清中の特定蛋白質を定量できる方法であれば、特に制限されず、例えば、前記蛋白質マーカーの蛋白質に特異的な抗体を用いた方法が挙げられ、その中でも、必要な細胞量が少なく、精度および感度がよく、簡便な方法が好ましい。具体的には、例えば、各種のエンザイムイムノアッセイ(EIA)やラジオイムノアッセイ(RIA)等があげられ、これらの中でも、より感度がよく、簡便という点から、固相酵素免疫検定法(ELISA)やサンドウィッチELISAが好ましい。これらの方法に使用する抗体としては、前記蛋白質の定量方法に応じて、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。
【0044】
本発明において、図1で示されるように、Adalimumab投与2週間後の乾癬患者血清をTHP-G8細胞により評価した場合、初めに使用した患者血清を容量依存的に1/32→1/2稀釈したものとTNF-αを混合し30分間放置したものをTHP-G8細胞に加えることで、TNF-αによるIL-8プロモーター活性の抑制がしめされる。これによって、血清中に十分量のTNF-α阻害活性が存在することが評価できる。さらに、図2は、抗TNF-α抗体や可溶性TNF-α/LTα受容体製剤の使用経験のない乾癬患者血清、また、図4は、抗TNF-α抗体や可溶性TNF-α/LTα受容体製剤の使用経験のない健常者血清をTHP-G8細胞により評価したものであるが、TNF-αによるIL-8プロモーター活性は全く抑制されていない。一方、図3は、Adalimumaba投与2週間後の乾癬患者血清をTHP-G8細胞により評価したのであるが、この血清はTNF-αによるIL-8プロモーター活性を全く抑制せず、抗TNF-α活性を有していないと判断される。したがって、投与2週間後でTNF-α阻害活性が失われていることとなり、現在投与中の薬剤の有効性が懸念され、薬剤の増量あるいは異なる抗TNF-α抗体製剤ないし可溶性TNF-α/LTα受容体製剤による治療の必要性が示唆される。また、早期にTNF-α阻害活性が失われている理由として、抗TNF-α抗体製剤ないし可溶性TNF-α/LTα受容体製剤の作用を低下させる物質、例えばこれらに対する抗体などが生体内で産生されていると考えられる。
【0045】
このように、本発明の評価方法を用いることで個々の患者の治療効果の有効性を評価できる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0047】
実施例1:2色免疫毒性評価THP-1細胞IL8-SLO/G3PDH-SLR(THP-G8細胞)の樹立
免疫毒性評価THP-1細胞株を作製するため、内部標準としてG3PDH プロモーター(転写開始点上流1.3 kbを含む)下流にSLRを導入したプラスミド、IL-8プロモーター(転写開始点上流5 kbpを含む)下流にSLOを導入したプラスミドを作成した。なお、これらのプラスミドはSLR、SLOの下流にはそれぞれピューロマイシン、ネオマイシンの各耐性遺伝子を含む。ホストであるTHP-1細胞へのトランスフェクションには、前日に2×105cells/mlで継代したものを使用した。トランスフェクション後の薬剤選択条件は、一次選択では薬剤存在下で1週間し、二次選択培養では一次選択培養で生き残った細胞を96ウェルプレートに1 cell/wellまたは100 cells/wellで播種し、同じ薬剤条件で2週間培養した。二次選択培養後の細胞についてはシグナル強度および薬剤処理によるシグナルの誘導の2点からクローン選択を行った。マクロファージ細胞株THP-1細胞のトランスフェクションでは、1×106 cellsに対し、1 μgのプラスミドをnucleofector(Lonsa) を使用して導入した。まずG3PDHプロモーターSLRを導入し、選択薬剤0.15 μg/ml ピューロマイシンを用いてシグナルの良い1色安定株TGC17を樹立した。それを親株として、続いてIL-8プロモーターSLOを導入し、選択薬剤0.15 μg/mlピューロマイシン、300 μg/ml ネオマイシンを用いて2色安定株THP-G8細胞を樹立し、シグナルバランスも良好であったことから、以後の解析にはTHP-1 : IL8-SLO/G3PDH-SLR #THP-G8株(THP-G8)を用いた。
【0048】
実施例2:THP-G8細胞を用いたTNF-αを標的とする薬剤の有効性の評価
THP-G8細胞については、試験前々日もしくは前日に継代及び培地交換した細胞を、greiner社製の96ウェル黒プレートに5×104 cells/wellで播種した。この培養細胞中にTNF-αを加えた。6時間後、Tripluc(登録商標)Assay Reagentで処理した後、Pheliosを用いて発光量を測定した。データ取得後、内部標準であるG3PDHプロモーター活性でデータの正規化をした。次いで、溶媒のみで刺激したときのIL-8レポーター活性を1とし化学物質で刺激した時のIL-8誘導率を算出した。図1、2、3、4の左の2つのカラムはTNF-αを加えた場合と加えなかった場合を表しており、TNF-αによりIL-8のプロモーター活性が3倍程度上昇する。
【0049】
患者血清中のTNF-α阻害効果を評価するため、3名の患者及び1名の健常人の血清を用意した。表1は患者の履歴をまとめたものであり、患者は乾癬患者であり、その内患者1はInfliximabを使用していたが改善せずAdalimumabに変更、最終投与は2週間前に行われた。患者2は抗TNF-α製剤の使用歴なし。患者3はInfliximabを使用していたが改善せず、Adalimumabに変更、最終投与は2週間前に投与したものの血清である。
【0050】
THP-G8細胞については、試験前々日もしくは前日に継代及び培地交換した細胞を、greiner社製の96ウェル黒プレートに5×104 cells/wellで播種した。THP-αとそれぞれの患者の血清を2倍、4倍、8倍、16倍、32倍に希釈したものを加えた。6時間後、Tripluc(登録商標)Assay Reagentで処理した後、Pheliosを用いて発光量を測定した。データ取得後、内部標準であるG3PDHプロモーター活性でデータの正規化をした。図1、2、3は患者1、2、3の、図4は健常者の結果である。患者1、3は治療薬としてInfliximabを用いたが、有効でなくadalimumabに変更した方であり、どちらもadalimumabを2週間前に投与したものである。健常人の血清にはIL-8プロモーター活性を変化させるTNF-α阻害効果はなく、また、患者2ではTNF-α製剤の使用歴がないことから患者2の血清にはIL-8プロモーター活性の変化はなくTNF-α阻害効果はない。一方、患者1の血清でのみTNFα刺激でのIL-8発現を示すIL-8プロモーター活性が抑制され、TNF-α阻害効果が認められた。ユニークなのは患者3であり、血清中には投与2週間目でIL-8プロモーター活性の変化はなくTNF-α阻害効果は認められず、adalimumabが既に血中に存在していないか、あるいはその活性を阻害するなんらかの因子の存在が示唆されている。
【0051】
【表1】
図1
図2
図3
図4