(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6135609
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】オートクレーブへのガス吹込み方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20170522BHJP
B01J 3/02 20060101ALI20170522BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20170522BHJP
B01J 3/04 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
C22B23/00 102
B01J3/02 A
C22B3/04
B01J3/04 G
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-133577(P2014-133577)
(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公開番号】特開2016-11442(P2016-11442A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2016年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒
(72)【発明者】
【氏名】柴山 敬介
(72)【発明者】
【氏名】服部 靖匡
【審査官】
國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−313928(JP,A)
【文献】
米国特許第06368381(US,B1)
【文献】
特公平07−084623(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
B01J 3/00− 3/08
B01F 7/00− 7/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オートクレーブに金属原料のスラリーを供給し、隔壁で複数に区画された各区画室内に順に移送して、撹拌しながらガス吹込み装置によってガスを吹込むことにより、金属原料に含有される金属を加圧浸出する際に、オートクレーブ外で分岐した後にオートクレーブの各区画室内に挿入された複数のガス吹込み管を用い、これらのガス吹込み管のガス吐出口から各区画室内に配置された撹拌機の最下段の撹拌翼の近傍で且つ該撹拌翼の少なくとも上下各1ヶ所にガスを吹込み、前記最下段の撹拌翼の下に吹込むガスの流量の全吹込みガスの流量に対する比率を50〜90%とすることを特徴とするオートクレーブへのガス吹込み方法。
【請求項2】
前記分岐したガス吹込み管の各々には、流量計及び流量調節弁を備えたものを用いることを特徴とする、請求項1に記載のオートクレーブへのガス吹込み方法。
【請求項3】
前記各区画室ごとに挿入される複数のガス吹込み管の本数が2本であり、これら2本のガス吹込み管は最下段の撹拌翼の上及び下にそれぞれガス吐出口を有していることを特徴とする、請求項1又は2に記載のオートクレーブへのガス吹込み方法。
【請求項4】
前記ガスが空気又は酸素ガスであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のオートクレーブへのガス吹込み方法。
【請求項5】
前記金属原料がニッケル及びコバルトを含む硫化物又は酸化物であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のオートクレーブへのガス吹込み方法。
【請求項6】
前記金属原料のスラリー濃度が100〜400g/lであり、前記オートクレーブ内の圧力が0.1〜5.1MPa及び温度が100〜250℃であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のオートクレーブへのガス吹込み方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属原料に含まれる金属の加圧浸出に関するものであり、更に詳しくは、加圧浸出に用いるオートクレーブ(高圧反応装置)、及びオートクレーブへのガス吹込み方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有価金属を回収する方法として、オートクレーブ等に代表される浸出装置を使用してニッケルマット等の金属原料に含まれる金属を水溶液中に浸出する方法が工業的規模で広く実施されている。例えば、古くから工業化されている有価金属の浸出技術として、ニッケルマットのアンモニア−硫酸アンモニウム浸出プロセスがある。
【0003】
上記アンモニア−硫酸アンモニウム浸出プロセスでは、微粉砕したニッケルマットのスラリーとアンモニアをオートクレーブに装入して圧縮空気を吹込むことにより、ニケルマットに含まれるニッケル等の金属をアンモニウム錯イオンとして浸出する。尚、ニッケルマットとは、ニッケル鉱石の製錬において、ニッケル硫化鉱石を溶鉱炉で溶解して得られるニッケル硫化物や、ニッケル酸化鉱石に硫黄を添加して電気炉で溶解して得られるニッケル硫化物等、いわゆる乾式製錬法で得られた亜硫化ニッケル(Ni
3S
2)等のニッケル硫化物を主成分とするニッケル濃縮物のことを称している。
【0004】
このアンモニア−硫酸アンモニウム浸出プロセスでは、金属材原料の加圧浸出に該当しないが、空気による硫黄のオキソ酸イオンの硫酸イオンへの酸化や、水素ガスによる水溶液中のニッケルの還元析出等の各種反応等においても、加圧反応容器としてオートクレーブが利用されている。また、例えば亜鉛の湿式製錬においても、亜鉛原料の硫酸浸出残渣の処理工程において、鉄を主体とする不純物の形態安定化のためにオートクレーブ等の加圧反応容器が用いられることがある。
【0005】
近年では、例えば特許文献1に記載されているように、低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石を加圧酸浸出(High Pressure Acid Leaching;HPAL)する方法も工業化されている。この加圧酸浸出方法は、ニッケル酸化鉱石のスラリーと硫酸をオートクレーブに装入して、高圧空気と高圧水蒸気を吹込むことにより、圧力4.1〜5.1MPa及び温度220〜280℃の高温高圧条件下において、ニッケル酸化鉱石中のニッケルを硫酸で加圧浸出するものである。
【0006】
これらの方法によりオートクレーブ等の加圧浸出装置を用いて金属原料から金属を浸出するに当たっては、浸出の反応速度や金属の浸出率が重要視されている。反応速度の増加や浸出率の上昇を図るためには、化学的な見地からは反応条件の最適化、即ち粉砕原料の微粒子化、ガス吹込み流量やガス濃度の増加、あるいは反応温度の上昇といった手段が考えられる。
【0007】
ところが、これらの手段には設備能力等による限界があり、既に工業的に実施可能な限界近くにて操業が行われているため、現状では改善の余地はほとんどない。そのため現状では、反応速度や浸出率等の加圧浸出操業の成績を決定付ける重要な因子として、オートクレーブの装置そのものの構造や原料スラリー等の供給方法、付帯機械装置の能力等の改善に依存することが多くなっている。
【0008】
例えば特許文献2には、非鉄金属含有硫化物材料からの非鉄金属回収方法として、間仕切りにより内部が複数の区画室に分割されたオートクレーブにおいて、第一区画室と第二区画室以降の区画室の容量、第一区画室と第二区画室以降へのスラリーの供給方法や酸素含有気体の供給方法、第一区画室と第二区画室以降のスラリー濃度等を最適化することによって、第一区画室と第二区画室以降の浸出反応を制御する方法が記載されている。
【0009】
また、特許文献3には、加熱、加圧された原料スラリー及び硫酸を、隔壁で複数に区画されたオートクレーブ内の各区画室に備えられた撹拌機によって撹拌し、上流側の区画室から下流側の区画室にスラリーを移送しながら、浸出を進行させる高圧酸浸出工程におけるオートクレーブへの原料スラリーと硫酸の添加方法及びオートクレーブ装置が記載されている。
【0010】
即ち、特許文献3に記載の方法及び装置においては、オートクレーブの上流端の区画室に備えられた撹拌機の撹拌翼の周囲に交互に配された原料スラリー吐出口を有する原料スラリー供給管と硫酸吐出口を有する硫酸供給管とを介して、撹拌翼の最上部より高く且つ内容物液面より低い位置に位置させた原料スラリー吐出口及び硫酸吐出口から上流端の区画室に原料スラリーと硫酸を添加することが特徴とされている。
【0011】
しかし、上記した特許文献2及び特許文献3には、内部を複数の区画室に分割されたオートクレーブや原料スラリー等の添加位置等については記載されているが、空気等のガスの吹込み方法や吹込み装置については何ら具体的な提案も示唆も行われていない。このような現状から、金属原料から金属を浸出する工程における浸出の反応速度や金属の浸出率の改善向上については、いまだ十分なものとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−197298号公報
【特許文献2】特公平07−084623号公報
【特許文献3】特開2013−241668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記したように従来のオートクレーブ等の加圧浸出装置や加圧浸出方法においては、微粉砕されたニッケルマット等の金属原料のスラリーを隔壁で区画された各区画室に移送して、撹拌機で撹拌しながら空気吹込み管によって撹拌翼の下側から加圧空気を吹込むことにより、金属原料と加圧空気中の酸素との固気反応を促進させて、金属原料からニッケル等の金属を浸出させている。
【0014】
しかし、撹拌機の軸や撹拌翼に固形物が付着することが避けられず、そのため撹拌不良が発生して反応速度や金属の浸出率が低下するという問題があった。即ち、撹拌機の軸や撹拌翼への固形物の付着が著しくなると、オートクレーブの運転を停止して人手で固形物を除去する作業を行わなければならず、危険な作業による作業効率の悪化、運転停止による稼働率の低下、稼働率の低下による処理量の減少や処理効率の低下、処理コストの上昇等、様々な問題が引き起こされていた。
【0015】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、オートクレーブでの加圧浸出において、撹拌機の軸や撹拌翼への固形物の付着を防止することができ、反応速度や金属の浸出率の改善向上を可能とするオートクレーブへのガス吹込み方法及びそのオートクレーブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明者らは、隔壁で複数に区画されたオートクレーブ内の各区画室に備えられたガス吹込み装置からのガス吹込み方法に着目して研究を重ねた結果、撹拌機の軸や撹拌翼への固形物の付着を防止し、反応速度や浸出率を改善向上させるためには、各区画室内においてガス吹込み管から最下段の撹拌翼の上と下の各1ヶ所以上にガスを吹き込むことが有効であることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0018】
また、本発明が提供するオートクレーブへのガス吹込み方法は、オートクレーブに金属原料のスラリーを供給し、隔壁で複数に区画された各区画室内に順に移送して、撹拌しながらガス吹込み装置によってガスを吹込むことにより、金属原料に含有される金属を加圧浸出する際に、オートクレーブ外で分岐した後にオートクレーブの各区画室内に挿入された複数のガス吹込み管を用い、これらのガス吹込み管のガス吐出口から各区画室内に配置された撹拌機の最下段の撹拌翼の近傍で且つ該撹拌翼の少なくとも上下各1ヶ所にガスを吹込
み、前記最下段の撹拌翼の下に吹込むガスの流量の全吹込みガスの流量に対する比率を50〜90%とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、分岐したガス吹込み管を用いてオートクレーブへのガス吹込み位置を工夫することによって、撹拌機の軸や撹拌翼への固形物の付着を防止することが可能となった。しかも、分岐したガス吹込み管を用いることで、最下段の撹拌翼の上及び下に吹き込むガスの流量を調整することができ、反応速度や浸出率を向上させることができる。従って、本発明のオートクレーブあるいはオートクレーブへのガス吹込み方法を用いることによって、オートクレーブの運転の安定化を図ることができ、オートクレーブの稼働率の向上、ひいては処理能力の増加を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明によるオートクレーブの一具体例を示す概略の一部切欠き側面図である。
【
図2】加圧浸出における圧縮空気の下吹き比率(最下段の撹拌翼の下に吹き込むガスの流量の全吹き込みガスの流量に対する比率)と残渣発生率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明によるオートクレーブは、その内部に隔壁で区画された複数の区画室を備え、各区画室内にニッケルマット等の金属原料のスラリーを順に移送して、撹拌しながらガス吹込み装置によって圧縮空気等のガスを吹込むことにより、金属原料に含有されているニッケル等の金属を浸出する、いわゆる加圧浸出工程に使用するオートクレーブである。そして、上記ガス吹込み装置は、オートクレーブ外で分岐した後にオートクレーブの各区画室内に挿入される複数のガス吹込み管を有し、これらのガス吹込み管のガス吐出口が各区画室内に配置された撹拌機の最下段の撹拌翼の近傍であって、且つ最下段の撹拌翼の少なくとも上と下の各1ヶ所に設けられている。
【0022】
上記した本発明によるオートクレーブの一具体例を、1つの区画室のみを示す
図1を参照して更に具体的に説明する。本発明のオートクレーブ1は、第1の特徴点として、隔壁で区画された複数の区画室(
図1では1a)のそれぞれにガスを吹き込むガス吹込み装置2が、オートクレーブ1の外で分岐した後に、オートクレーブ1の各区画室1a内に挿入される複数のガス吹込み管3、4を有している。尚、分岐したガス吹込み管の数は、区画室1a毎に少なくとも2本必要であるが、2本以上であってもよい。
【0023】
また第2の特徴点として、上記のごとく分岐したガス吹込み管3、4のガス吐出口3a、4aは、区画室1a内に配置された撹拌機5の最下段の撹拌翼5aの近傍であって、且つ上下(高さ)方向において最下段の撹拌翼5aの少なくとも上と下の各1ヶ所に設けてある。例えば
図1のオートクレーブ1では、ガス吹込み管3のガス吐出口3aは最下段の撹拌翼5aの上に、ガス吹込み管4のガス吐出口4aは最下段の撹拌翼5aの下に設けてある。尚、
図1の符号8は温度計である。
【0024】
更に、上記ガス吹込み装置2は、オートクレーブの外で分岐した複数のガス吹込み管3、4毎に、それぞれ流量計6a、6bと流量調節弁7a、7bを具えることが好ましい。このように分岐したガス吹込み管3、4毎に流量計6a、6bと流量調節弁7a、7bを設置することで、最下段の撹拌翼5aの上に吹き込む(「上吹き」と称する)ガスの流量と、最下段の撹拌5a翼の下に吹き込む(「下吹き」と称する)ガスの流量を、それぞれ正確に把握して調整することができる。
【0025】
ただし、流量計と流量調節弁は、必ずしも分岐した後の複数のガス吹込み管の全てにそれぞれ設置する必要はなく、例えば
図1に示すように、分岐する前のガス吹込み管に流量計6aと流量調節弁7aを設置してガスの合計流量を計測して調節すると共に、上吹きガス吹込み管と下吹きガス吹込み管のどちらかに流量計6bと流量調節弁7bを設置して、どちらかの単独流量を計測して調節する方式でも構わない。
【0026】
尚、加圧浸出工程におけるオートクレーブの材質及び構造は、一般的に、圧延鋼製の缶体の内面に鉛ライニングを施し、更に鉛ライニングの内面に耐酸レンガを積層した装置が工業的に使用されている。しかし、耐圧性や耐熱性の他、浸出液に対する耐食性を示す材質や構造であれば、例えばステンレスやチタン等でも構わない。
【0027】
また、本発明によるオートクレーブへのガス吹込み方法は、
図1を参照して具体的に説明すると、金属原料に含有される金属をオートクレーブで加圧浸出する際に、オートクレーブ1外で分岐した後にオートクレーブ1の各区画室1a内に挿入された複数のガス吹込み管3、4のガス吐出口3a、4aから、各区画室1a内に配置された撹拌機5の最下段の撹拌翼5aの近傍で且つ該最下段の撹拌翼5aの少なくとも上下各1ヶ所にガスを吹込むことを特徴としている。
【0028】
従来のオートクレーブを用いた加圧浸出では、撹拌機の最下段の撹拌翼の近傍で且つ該最下段の撹拌翼の下にガスを吹込むことで、十分な加圧浸出反応が得られることが知られていたが、その一方で、前述したように撹拌機の軸や撹拌翼に固形物が付着して様々な不具合を招いていた。本発明のオートクレーブへのガス吹込み方法によれば、最下段の撹拌翼の下だけでなく、少なくとも最下段の撹拌翼の上1ヶ所にもガスを吹込むことで、撹拌機の軸や撹拌翼への固形物の付着を防ぎながら、十分な加圧浸出反応を得ることができる。
【0029】
しかも、本発明においては、分岐したガス吹込み管3、4毎に流量計6a、6bと流量調節弁7a、7bを設けることで、最下段の撹拌翼の上に吹き込む上吹きガスの流量と最下段の撹拌翼の下に吹き込む下吹きガスの流量を、それぞれ正確に把握して調整することができる。
【0030】
従って、加圧浸出反応が発熱反応であれば、オートクレーブ内部の温度上昇速度を解析することにより反応状態を推測することができるため、最適な反応状態となるように下吹きガスの流量を調整することができる。また、撹拌機の撹拌動力の電力量や電流値等を計測すれば、撹拌機の軸や撹拌翼への固形物の付着状態を推定することができるため、撹拌機の軸や撹拌翼への固形物の付着を防止するために必要な上吹きガスの流量を調整することができる。
【0031】
即ち、上記のごとくガス吹込み管をオートクレーブの外で分岐させ、片方を上吹きガス吹込み管とし、他方を下吹きガス吹込み管とすると共に、これら上吹きガス吹込み管と下吹きガス吹込み管にそれぞれ流量計と流量調節弁を設けることによって、下吹き吹込み管及び上吹き吹込み管へのガス供給量を必要に応じて適宜調整することができる。
【0032】
このように、分岐したガス吹込み管ごとに下吹きガスの吹込み流量と上吹きガスの吹込み流量を任意に且つ自在に調整することにより、反応不良等のトラブルを回避することができ、反応速度や浸出率を向上させることができる。また、最適な上吹きガスと下吹きガスの流量の比率を定めることも可能であり、具体的には、最下段の撹拌翼の下に吹き込む下吹きガスの流量の全吹き込みガスの流量に対する比率(下吹き比率)を50〜90%とすることが好ましい。
【0033】
尚、本発明における加圧浸出に用いる金属原料としては、特に限定されるものではなく、ニッケル及びコバルトを含む硫化物又は酸化物のほか、金属含有スラッジ等の金属硫化物若しくは金属酸化物、あるいはメタル屑等を用いることができる。また、オートクレーブに吹込むガスとしては、特に限定されるものではないが、金属原料や浸出反応に応じて、空気又は酸素ガスのような酸素含有ガスのほか、塩素ガス、塩化水素ガス、亜硫酸ガス、アンモニアガス等を用いることができる。一般的な加圧浸出反応の条件は、圧力0.1〜5.1MPa、温度100〜250℃である。
【0034】
次に、本発明の一実施形態として、ニッケル酸化鉱石に硫黄を添加して電気炉で溶解して得られるニッケル硫化物、いわゆる乾式製錬法で得られた亜硫化ニッケル及び金属ニッケルを主成分とするニッケルマットを金属原料として用い、このニッケルマット中に含まれているニッケルを圧縮空気によって加圧浸出する方法について、工程毎に詳しく説明する。
【0035】
(1)原料粉砕工程
一般的にニッケルマットの化学組成は、Niが74〜80重量%、Coが約1重量%、Cuが0.1〜0.4重量%、Feが0.1〜0.7重量%、Sが18〜23重量%である。まず、原料粉砕工程では、上記組成のニッケルマットを湿式の振動ミルに装入して微粉砕し、ニッケルマットのスラリーを製造する。微粉砕後のニッケルマットの粒径は、特に制限されないが、ニッケルの浸出反応速度を増加させる点からは小さいほど望ましく、例えば50%D(個数基準50%粒子径)で50μm未満が好ましく、30μm未満が更に好ましい。
【0036】
(2)原料調製工程
次の原料調製工程では、固体硫黄を湿式の振動ミルに装入して微粉砕し、硫黄のスラリーを製造した後、得られた硫黄のスラリーを上記原料粉砕工程で製造したニッケルマットのスラリーと混合して、ニッケルマットと硫黄の比率及び混合スラリーのスラリー濃度を調製する。
【0037】
原料調製工程においてニッケルマットのスラリーに硫黄のスラリーを混合するのは、ニッケルマット中のニッケルに対して、硫酸ニッケルを生成するために当量的に不足する硫黄分を補充するためである。しかしながら、ニッケルに対して硫黄の添加量が過剰になった場合には、硫黄の酸化反応が起こって硫酸が生成される。この硫酸はニッケルマット中の金属ニッケルを溶解して、水素ガスを発生させるため好ましくない。
【0038】
従って、上記水素ガスの発生を防止し、必要な圧縮空気量を抑えることによって、ニッケルマットの処理能力や処理コストの面で有利な操業を図るため、ニッケルマットに含有される金属成分を硫酸塩として加圧浸出するために必要な反応当量の硫黄量を1としたとき、ニッケルマットに含有される硫黄量と原料調製工程で使用する固体硫黄量の合計が、0.8程度になるように固体硫黄を添加することが好ましい。
【0039】
また、混合スラリーのスラリー濃度は、ハンドリング上の問題やオートクレーブ内での吹込み空気拡散性などを考慮すると、工業レベルでは100〜400g/lの範囲とすることが好ましい。
【0040】
(3)加圧浸出工程
ニッケルマットの加圧浸出工程におけるニッケルの加圧浸出反応は、下記化学式1〜4に基づいて進行する。また、ニッケルマットの加圧浸出反応の条件は、圧力が1.6〜1.9MPa、温度が140〜180℃である。
【0041】
[化学式1]
Ni
3S
2+S+6O
2→3NiSO
4
[化学式2]
Ni+S+2O
2→NiSO
4
【0042】
[化学式3]
2Ni
3S
2+9O
2+2H
2O→4NiSO
4+2NiO・H
2O
[化学式4]
2Ni+O
2→2NiO
【0043】
上記したように、ニッケルマットに含有される金属成分を硫酸塩として加圧浸出するために必要な反応当量の硫黄量を1としたときに、ニッケルマットに含有される硫黄量と原料調製工程で使用する固体硫黄量の合計が目安として0.8程度になるように固体硫黄を添加するので、硫酸の生成および消費は起こらず、ほぼ中性pH領域にて反応が進行する。
【0044】
このニッケルマットの加圧浸出反応では、ニッケルに対して硫黄が不足した状態で加圧浸出が行われるので、反応生成物は固体の塩基性硫酸ニッケルを含んだ硫酸ニッケル水溶液となる。この反応生成物である硫酸ニッケル溶液は、フラッシュ装置によって大気圧にまで減圧された後、回収される。
【実施例】
【0045】
金属原料であるニッケルマットを水と混合し、ロッドミルを用いて50%D(個数基準50%粒子径)で30μmになるように微粉砕して、ニッケルマットのスラリーを作製した。尚、上記ニッケルマットはニッケル酸化鉱石を乾式製錬して得られた亜硫化ニッケルと金属ニッケルの混合物であり、その化学組成はNiが78重量%、Sが20重量%である。一方、固体硫黄を水と混合し、ボールミルを用いて50%D(個数基準50%粒子径)で30μmになるように微粉砕して、硫黄のスラリーを作製した。
【0046】
得られた硫黄のスラリーを、硫黄量がニッケルマットの単位重量当たり80〜100kg/tとなるように上記ニッケルマットのスラリーと混合し、水を添加してスラリー濃度が200〜220g/lになるように調製した。この混合スラリーを
図1に示すオートクレーブ(有効容量10m
3)に連続供給しながら、ガス吹込み装置により圧縮空気を吹き込むことによって、オートクレーブ内の圧力を1.63MPaに制御して加圧浸出した。
【0047】
その際、試料1においては、分岐する前のガス吹込み管に設置した流量計及び流量調節弁と、下吹きガスの吹込み管に設置した流量計及び流量調節弁によって、ニッケルマット1トン当たりの上吹き空気吹込み流量を2450Nm
3/t及び下吹き空気吹込み流量を1633Nm
3/t、下吹き比率(全空気吹込み流量に対する下吹き空気吹込み流量の比率)を40%に調整した。
【0048】
その後、上記加圧浸出操作が終了した試料1のスラリーを、フラッシュ装置により大気圧にまで減圧させた。得られた常圧のスラリーに70重量%の硫酸を添加してpHを1.0に調整した後、フィルタープレスによりろ過して、ろ過残渣と浸出されたニッケルを含む溶液とに分離した。
【0049】
上記ろ過残渣の重量を測定し、得られた残渣発生量と原料処理重量とから残渣発生率を算出することにより、試料1における反応性の評価を行った。上記試料1の残渣発生量と残渣発生率を、原料処理量、圧縮空気の吹込み流量(上吹き流量と下吹き流量)及び下吹き比率と共に、下記表1に示した。
【0050】
次に、上記試料1と同様に作製したニッケルマットのスラリーと硫黄のスラリーを用い、原料処理量、圧縮空気の吹込み流量(上吹き流量と下吹き流量)及び下吹き比率を下記表2の試料2〜6に示す値に制御した以外は上記試料1と同様にして、それぞれ加圧浸出を行った。
【0051】
上記加圧浸出操作が終了した後、試料2〜6の各スラリーを、フラッシュ装置により大気圧にまで減圧させた。得られた常圧のスラリーに70重量%の硫酸を添加してpHを1.0に調整した後、フィルタープレスによりろ過して、ろ過残渣と浸出されたニッケルを含む溶液とに分離した。
【0052】
残渣発生量と原料処理重量とから残渣発生率を算出し、試料2〜6における反応性の評価を行った。上記試料2〜6について、残渣発生量と残渣発生率を、原料処理量、圧縮空気の吹込み流量(上吹き流量と下吹き流量)及び下吹き比率と共に、下記表1に示した。
【0053】
【表1】
【0054】
上記表1に示す結果から、下吹き比率を40%に調整した試料1及び試料2においては、残渣発生率が1.69%及び1.76%と大きく、加圧浸出の反応効率が悪いことが分かる。一方、下吹き比率を50〜70%の3水準に設定した試料3〜6では、残渣発生率が0.85〜1.38%といずれも1.5%より小さくなり、加圧浸出の反応効率が良いことが分かる。
【0055】
また、上記表1の結果をグラフに示した
図2からも分かるように、撹拌機の軸や撹拌翼への固形物の付着状態にもよるが、下吹き比率を高めることによって金属原料の浸出率が明らかに向上することが判明した。
【0056】
尚、上記した試料1〜6においては撹拌機の軸や撹拌翼への固形物の付着は発生せず、下吹き比率を70%とした試料6においても同様であった。ただし、上記試料1において、下吹き比率を100%(即ち上吹き無し)とした場合には、残渣発生率は1.5〜2.0%程度であったが、撹拌機の軸や撹拌翼への固形物の付着が顕著になり、固形物を除去するために約1ヶ月間で操業を停止する必要があった。
【符号の説明】
【0057】
1 オートクレーブ
1a 区画室
2 ガス吹込み装置
3、4 ガス吹込み管
3a、4a ガス吐出口
5 撹拌機
5a 最下段の撹拌翼
6a、6b 流量計
7a、7b 流量調節弁
8 温度計