特許第6135611号(P6135611)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越半導体株式会社の特許一覧

特許6135611点欠陥濃度計算方法、Grown−in欠陥計算方法、Grown−in欠陥面内分布計算方法及びこれらを用いたシリコン単結晶製造方法
<>
  • 特許6135611-点欠陥濃度計算方法、Grown−in欠陥計算方法、Grown−in欠陥面内分布計算方法及びこれらを用いたシリコン単結晶製造方法 図000002
  • 特許6135611-点欠陥濃度計算方法、Grown−in欠陥計算方法、Grown−in欠陥面内分布計算方法及びこれらを用いたシリコン単結晶製造方法 図000003
  • 特許6135611-点欠陥濃度計算方法、Grown−in欠陥計算方法、Grown−in欠陥面内分布計算方法及びこれらを用いたシリコン単結晶製造方法 図000004
  • 特許6135611-点欠陥濃度計算方法、Grown−in欠陥計算方法、Grown−in欠陥面内分布計算方法及びこれらを用いたシリコン単結晶製造方法 図000005
  • 特許6135611-点欠陥濃度計算方法、Grown−in欠陥計算方法、Grown−in欠陥面内分布計算方法及びこれらを用いたシリコン単結晶製造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6135611
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】点欠陥濃度計算方法、Grown−in欠陥計算方法、Grown−in欠陥面内分布計算方法及びこれらを用いたシリコン単結晶製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
   C30B29/06 502H
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-137908(P2014-137908)
(22)【出願日】2014年7月3日
(65)【公開番号】特開2016-13957(P2016-13957A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2016年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】星 亮二
(72)【発明者】
【氏名】小内 駿英
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−193897(JP,A)
【文献】 特開2003−073192(JP,A)
【文献】 特開2004−356253(JP,A)
【文献】 特開2004−091316(JP,A)
【文献】 特開2003−040695(JP,A)
【文献】 特開平10−256174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
育成中のシリコン単結晶中における点欠陥濃度を計算する方法において、点欠陥の拡散を、結晶成長軸に平行な拡散と、結晶径方向の拡散とを、それぞれ1次元の拡散として計算することを特徴とする点欠陥濃度計算方法。
【請求項2】
前記結晶成長軸に平行な拡散を計算する場合と、前記結晶径方向の拡散を計算する場合とで、異なる点欠陥の拡散係数を用いることを特徴とする請求項1に記載の点欠陥濃度計算方法。
【請求項3】
前記結晶成長軸に平行な拡散及び前記結晶径方向の拡散を、点欠陥の濃度勾配による拡散、温度勾配による拡散のいずれか一方もしくは両者とし、前記濃度勾配による拡散、前記温度勾配による拡散のいずれか一方もしくは両者を計算するか、加えて対消滅による前記点欠陥濃度の減少効果を計算することにより前記点欠陥濃度を求めることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の点欠陥濃度計算方法。
【請求項4】
前記点欠陥濃度の計算を融点から欠陥形成温度まで行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の点欠陥濃度計算方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の点欠陥濃度計算方法で求められた前記点欠陥濃度から、欠陥形成温度帯における点欠陥の凝集を計算することによりGrown−in欠陥サイズを求めることを特徴とするGrown−in欠陥計算方法。
【請求項6】
前記Grown−in欠陥サイズが一定値以下となる領域を無欠陥領域と判断することを特徴とする請求項5に記載のGrown−in欠陥計算方法。
【請求項7】
前記点欠陥濃度の計算及び前記点欠陥の凝集の計算を、総合伝熱解析ソフトによって求められた育成炉内の温度分布に基づいて行うことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のGrown−in欠陥計算方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載のGrown−in欠陥計算方法で求められる空孔型・格子間型それぞれの無欠陥領域となる成長速度を、結晶径に対しプロットすることにより欠陥面内分布形状を求めることを特徴とするGrown−in欠陥面内分布計算方法。
【請求項9】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の点欠陥濃度計算方法、請求項5から請求項7のいずれか1項に記載のGrown−in欠陥計算方法又は請求項8に記載のGrown−in欠陥面内分布計算方法で計算した結果に基づいて、育成炉構造、炉内部品、温度環境及び操業条件のいずれか一つ以上の育成条件を変更し、該育成条件にて実結晶を育成することを特徴とするシリコン単結晶製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点欠陥濃度計算方法、Grown−in欠陥計算方法、Grown−in欠陥面内分布計算方法及びこれらを用いたシリコン単結晶製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デバイスの高集積化に伴い、シリコン単結晶ウェーハの高品質要求が厳しくなっている。高品質とは、デバイスが動作するウェーハ表面近傍の欠陥が少ないもしくは無いことである。それらを達成できるウェーハとして、エピタキシャルウェーハ、アニールウェーハ、低/無欠陥結晶PW(ポリッシュドウェーハ)などがある。この中でも低コスト化が可能である低/無欠陥結晶PWが広く用いられるようになってきた。これは結晶成長中に形成されるGrown−in欠陥を制御して、低欠陥更には無欠陥にした結晶を製造し、これから切り出したウェーハである。
【0003】
Grown−in欠陥は点欠陥が結晶成長中に凝集して形成された欠陥である。点欠陥には格子点のSi原子が欠落したVacancy(空孔)と、格子間にSi原子が入り込んだInterstitial−Si(格子間Si)の2種類が存在する。このGrown−in欠陥の形成状態は、単結晶の成長速度やシリコン融液から引上げられた単結晶の冷却条件により違いが生じる。例えば成長速度を比較的速く設定して単結晶を育成した場合には、Vacancyが優勢になることが知られている。このVacancyが凝集して集まったものはVoid欠陥と呼ばれ、検出のされ方によって呼称は異なるが、FPD(Flow Pattern Defect)、COP(Crystal Originated Particle)あるいはLSTD(Laser Scattering Tomography Defects)などとして検出される。これらの欠陥がシリコン基板上に形成される酸化膜に取り込まれると、酸化膜の耐圧不良の原因となると考えられている。
【0004】
一方で成長速度を比較的低速に設定して単結晶を育成した場合には、Interstitial−Si(以下I−Siと表記する)が優勢になることが知られている。このI−Siが凝集して集まると、転位ループなどがクラスタリングしたと考えられるLEP(Large Etch Pit=転位クラスタ欠陥)が検出される。この転位クラスタ欠陥が生じる領域にデバイスを形成すると、電流リークなど重大な不良を起こすと言われている。
【0005】
そこでVacancyが優勢となる条件とI−Siが優勢となる条件との中間的な条件で結晶を育成すると、VacancyやI−Siが無い、もしくはVoid欠陥や転位クラスタ欠陥を形成しない程度の少量しか存在しない、無欠陥領域が得られることが知られている。無欠陥であってもVacancyが優勢な領域をNv領域、I−Siが優勢な領域をNi領域と呼んでいる。このような無欠陥領域を得るためには、育成される結晶の熱環境を調整する必要がある。この調整を試行錯誤的に実施しても簡単に無欠陥領域が得られるわけではなく、また膨大なコストがかかる。そこで、炉内熱環境や欠陥の形成をシミュレーションすることで、無欠陥結晶が得られる条件を求める試みがなされている。
【0006】
シリコン単結晶におけるGrown−in欠陥の形成論としては、ボロンコフにより提唱されたモデルが広く知られている。これは点欠陥の濃度が濃度勾配による拡散、温度勾配による拡散、対消滅による減少の3つによって決まるものである。多くの場合、この理論に基づいて計算が行われている。
【0007】
特許文献1ではこのモデルを簡単化し、成長速度Vと界面近傍の温度勾配Gとの比V/Gに依存して点欠陥濃度が決まるモデルが提案されている。V/Gが大きければVacancy濃度が優勢となり、V/Gが小さいとI−Siが優勢となる。Vacancy濃度とI−Si濃度が拮抗するV/Gに制御することで、点欠陥の濃度を低減でき、Grown−in欠陥を成長させないようにしている。このV/Gの径方向の分布によって欠陥分布が決まるとしている。また特許文献2では、結晶成長界面での温度勾配Gと結晶成長速度Vとの比(V/G)を制御することで無欠陥結晶が得られることが示されている。このモデルは、結晶の温度分布を求めるだけで、欠陥分布が予想できるので簡便であり有効である。しかしこのモデルでは点欠陥のシンクである外表面へ向かう外方拡散を考慮していない。このため現実の欠陥面内分布、特に外周部における分布形状を表すことができない。近年、無欠陥領域でもより高品質化が望まれており外周部の欠陥分布が重要となってきている。そのため、外周部の欠陥分布を正確に計算できるシミュレーション方法が求められている。
【0008】
そこで特許文献3−5に開示されている欠陥分布シミュレーション方法は、結晶の長さを変化させて結晶内温度を求め、その後に拡散方程式に基づき点欠陥(VacancyとI−Si)濃度を求め、両点欠陥濃度の差が小さい部分を無欠陥領域として求めるものである。これらの計算を多次元で行うことで、外方拡散の影響も考慮しているようである。しかし、特許文献5で得られている欠陥分布は、現実の分布を正確に表していないように見える。またこのような多次元の計算は計算量が飛躍的に増えるので非常に時間がかかる。このため炉内部品を変えながら、最適な育成条件を見つけるという作業が簡便に行えないという問題がある。特許文献6でも多次元と思われる計算を行っているが、段落(0034)に記載されているように、結晶周辺部の分布が合っておらず、I−Siの径方向拡散を削除している。これでも欠陥分布が正しく表現されておらず、しかも膨大な計算量が必要であるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−1393号公報
【特許文献2】特開平11−157996号公報
【特許文献3】特開2001−302394号公報
【特許文献4】特開2002−47096号公報
【特許文献5】特開2004−26567号公報
【特許文献6】特開2003−73192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、短時間で正確に点欠陥濃度を計算することができる点欠陥濃度計算方法及び短時間で正確にGrown−in欠陥のサイズを計算することができるGrown−in欠陥計算方法を提供することを目的とする。また、正確な欠陥分布を簡便に求めることができるGrown−in欠陥面内分布計算方法を提供することを目的とする。更に、これらの計算結果を利用したシリコン単結晶製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明では、育成中のシリコン単結晶中における点欠陥濃度を計算する方法において、点欠陥の拡散を、結晶成長軸に平行な拡散と、結晶径方向の拡散とを、それぞれ1次元の拡散として計算することを特徴とする点欠陥濃度計算方法を提供する。
【0012】
このように拡散を計算し、点欠陥濃度を計算する方法であれば、非常に簡単な計算により短時間で正確に点欠陥濃度を求めることができる。
【0013】
また、前記結晶成長軸に平行な拡散を計算する場合と、前記結晶径方向の拡散を計算する場合とで、異なる点欠陥の拡散係数を用いることが好ましい。
【0014】
このような点欠陥濃度計算方法であれば、特に結晶径方向の拡散(外方拡散)の計算結果を、現実のシリコン単結晶の測定結果により近づけることができる。
【0015】
また、前記結晶成長軸に平行な拡散及び前記結晶径方向の拡散を、点欠陥の濃度勾配による拡散、温度勾配による拡散のいずれか一方もしくは両者とし、前記濃度勾配による拡散、前記温度勾配による拡散のいずれか一方もしくは両者を計算するか、加えて対消滅による前記点欠陥濃度の減少効果を計算することにより前記点欠陥濃度を求めることが好ましい。
【0016】
このような点欠陥濃度計算方法であれば、得られる点欠陥濃度の値が、現実のシリコン単結晶の点欠陥濃度の値により近づくため好ましい。
【0017】
また、前記点欠陥濃度の計算を融点から欠陥形成温度まで行うことが好ましい。
【0018】
このような点欠陥濃度計算方法であれば、より効率的に点欠陥濃度を計算することができる。
【0019】
更に本発明では、上記本発明の点欠陥濃度計算方法で求められた前記点欠陥濃度から、欠陥形成温度帯における点欠陥の凝集を計算することによりGrown−in欠陥サイズを求めることを特徴とするGrown−in欠陥計算方法を提供する。
【0020】
このようなGrown−in欠陥計算方法であれば、短時間で正確にGrown−in欠陥のサイズを計算することができる。
【0021】
この場合、前記Grown−in欠陥サイズが一定値以下となる領域を無欠陥領域と判断することができる。
【0022】
このようなGrown−in欠陥計算方法であれば、シリコン単結晶が無欠陥領域を有するものであるかどうかを容易に判断することができる。
【0023】
また、前記点欠陥濃度の計算及び前記点欠陥の凝集の計算を、総合伝熱解析ソフトによって求められた育成炉内の温度分布に基づいて行うことが好ましい。
【0024】
このようなソフトは、インターフェイスなどが整備され使いやすい上、それぞれ実績があるので一定の条件下で用いる場合にはある程度信頼できる結果が期待できる。
【0025】
更に本発明では、上記本発明のGrown−in欠陥計算方法で求められる空孔型・格子間型それぞれの無欠陥領域となる成長速度を、結晶径に対しプロットすることにより欠陥面内分布形状を求めることを特徴とするGrown−in欠陥面内分布計算方法を提供する。
【0026】
このようなGrown−in欠陥面内分布計算方法であれば、正確な欠陥分布を簡便に求めることができる。
【0027】
更に本発明では、上記本発明の点欠陥濃度計算方法、Grown−in欠陥計算方法又はGrown−in欠陥面内分布計算方法で計算した結果に基づいて、育成炉構造、炉内部品、温度環境及び操業条件のいずれか一つ以上の育成条件を変更し、該育成条件にて実結晶を育成することを特徴とするシリコン単結晶製造方法を提供する。
【0028】
このようなシリコン単結晶製造方法であれば、欠陥が少ないもしくは無いシリコン単結晶を低コストで得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の点欠陥濃度計算方法であれば、短時間で正確に点欠陥濃度を求めることができる。また、本発明のGrown−in欠陥計算方法であれば、短時間で正確にGrown−in欠陥のサイズを計算することができる。これらの計算結果を用いる本発明のGrown−in欠陥面内分布計算方法であれば、正確な欠陥分布を簡便に求めることができる。更に、本発明の点欠陥濃度計算方法、Grown−in欠陥計算方法又はGrown−in欠陥面内分布計算方法の計算結果に基づいて育成条件を設定するシリコン単結晶製造方法であれば、欠陥が少ないもしくは無いシリコン単結晶を低コストで得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施例で得られた無欠陥領域が得られる上限及び下限の成長速度の結晶径方向分布を表した図である。
図2】実験で得られた縦割りサンプルのX線トポグラフの例を示した図である。
図3】欠陥面内分布における点欠陥外方拡散の効果を説明した図である。
図4】本発明のシリコン単結晶製造方法に用いることができる単結晶育成炉の概略を表した図である。
図5】比較例で得られた無欠陥領域が得られる上限及び下限の成長速度の結晶径方向分布を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0032】
上記のように、短時間で正確に点欠陥濃度を計算することができる点欠陥濃度計算方法が求められている。
【0033】
結晶中の点欠陥の拡散は3次元的に起こる現象であり、本来拡散方程式を3次元で解くことが望ましい。しかし拡散方程式を解くことは一般に難しく、差分法等による計算を行う場合には、次元が増加すると計算量が飛躍的に増大するので計算に時間がかかる。特許文献1や特許文献2で示されるように、成長軸方向の1次元の簡単化したモデルで、おおよその欠陥分布は推定できている。つまり結晶の中心付近では、結晶成長軸方向の濃度勾配は大きいが、結晶径方向の濃度勾配は大きくないので、成長方向の1次元で考えても大きな問題は無いと考えられる。しかし結晶外周部では、点欠陥のシンクである表面が近いため、表面に向かって点欠陥が拡散する外方拡散の影響が大きくなる。
【0034】
このような外方拡散の影響も考慮するために、拡散を多次元で計算すると、上記のように計算量が飛躍的に増大する問題が生じる。このように、従来の方法では、拡散の計算量を減らすことと、点欠陥濃度を正確に計算することとを両立することはできなかった。
【0035】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討を行った結果、育成中のシリコン単結晶中における点欠陥濃度を計算する方法において、点欠陥の拡散を、結晶成長軸に平行な拡散と、結晶径方向の拡散とを、それぞれ1次元の拡散として計算する点欠陥濃度計算方法が、上記問題点を解決できることを見出し、本発明の点欠陥濃度計算方法を完成させた。
【0036】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
[点欠陥濃度計算方法]
上記のように、本発明の点欠陥濃度計算方法は、点欠陥の拡散を、結晶成長軸に平行な拡散と、結晶径方向の拡散(外方拡散)とを、それぞれ1次元の拡散として計算する方法である。このように、結晶成長軸に平行な拡散と、結晶径方向の外方拡散とを、それぞれ1次元で計算することで最終的な点欠陥濃度を求める本発明であれば、拡散の計算量を減らしつつ、点欠陥濃度を正確に計算することができる。
【0038】
例えば、結晶成長軸に平行な1次元の拡散を計算し、結晶成長軸に平行な拡散のみを考慮した点欠陥濃度を求めたあとに、外方拡散(結晶径方向の拡散)を計算し、結晶外周部の点欠陥の濃度を修正し、最終的な点欠陥濃度を求めることができる。これらの計算を1次元で行うことで、非常に簡単な計算により精度よく点欠陥濃度を求めることができる。
【0039】
この際に、結晶成長軸に平行な拡散を計算する場合と、結晶径方向の外方拡散を計算する場合とで、異なる点欠陥の拡散係数を用いることが好ましい。外方拡散を1次元で計算する場合には、次に示すような幾つかの理由で、結晶成長軸に平行な拡散を計算する場合と異なった拡散係数を用いることが好ましい。
【0040】
通常固体中では圧力変化が無いので平衡濃度Ceや拡散係数Dを
Ce=Coexp(−Ec/kT)、D=Doexp(−Ed/kT)・・・式1
Ec,Ed:活性化エネルギー、Co,Do:係数
と表記しても大きな問題がない。しかし育成中の結晶中には不均一な内部応力が働いている。このため式1は圧力を考慮した
Ce=Coexp(−(Ec+pVc)/kT)、D=Doexp(−(Ed+pVd)/kT)・・・式2
Vc,Vd:活性化体積、p:圧力
と表記するのが好ましいと考えられる。
【0041】
ここで拡散係数の圧力依存性については議論することは簡単ではないが、平衡濃度に関しては比較的容易に想像できる。つまり圧力が高い場合はVacancyが安定であり、低い場合はI−Siが安定であろうと考えられる。
【0042】
一方で結晶内応力は中心付近で圧縮、外周部で引張りと推定される。従ってI−Siの平衡濃度は周辺で高いと考えられ、このため逆に過飽和度は周辺で低いと考えられる。Grown−in欠陥形成に寄与したり、拡散の駆動力となったりするのは、平衡濃度を超え過飽和となった点欠陥と考えられる。従って(1)周辺ではI−Si欠陥が形成しにくい、(2)周辺に向かうI−Si拡散が起こりやすい、というふたつの効果がある。VacancyではI−Siと逆の効果が考えられる。この結晶中心付近と外周部との応力差による(1)と(2)の効果によりI−Siは見かけ上拡散係数が大きくなるし、Vacancyは見かけ上拡散係数が小さくなる。
【0043】
更に外方拡散を1次元で計算するがゆえの効果を考慮する必要がある。それは、(3)中心部と外周部との体積差である。円筒形状である育成中シリコン単結晶では、中心部の体積に比較して外周部の体積の方が大きい。このため応力効果によって外方に向かって拡散しやすいI−Siは、拡散して行ける領域が2次元的に広がっており、非常に拡散しやすい。Vacancyの場合は逆に拡散しにくい。
【0044】
以上、I−Siで考えた場合(1)周辺で過飽和濃度(過飽和度)が低下するために、Grown−in欠陥が形成しにくくなる効果、(2)周辺で過飽和濃度が低下するために、周辺に向かう拡散が起こりやすい効果、(3)中心部と外周部との体積差により、周辺部に向かう拡散が起こりやすい効果、の3つがある。これらを拡散係数に背負わせた見かけの外方拡散係数と考えると、I−Siの見かけの外方拡散係数は大きくなる。Vacancyの見かけの外方拡散係数はその逆である。従って外方拡散を1次元で計算する際には、結晶成長方向に平行な拡散を計算する場合とは異なる、見かけの外方拡散係数を用いることが望ましい。
【0045】
上記の結晶成長軸に平行な拡散及び結晶径方向の拡散(点欠陥の拡散)を、点欠陥の濃度勾配による拡散、温度勾配による拡散のいずれか一方もしくは両者とすることが好ましい。この場合、濃度勾配による拡散、温度勾配による拡散のいずれか一方もしくは両者を計算するか、加えて対消滅による点欠陥濃度の減少効果を計算することにより点欠陥濃度を求めることができる。これにより、得られる点欠陥濃度の値を、現実のシリコン単結晶の点欠陥濃度の値により近づけることができる。
【0046】
上記の点欠陥濃度の計算は、融点から欠陥形成温度まで行うことが好ましい。すなわち、点欠陥の拡散及び対消滅を、シリコン単結晶の融点から欠陥形成温度まで計算し、点欠陥濃度を求めることが効率的である。
【0047】
Grown−in欠陥が形成される温度は成長速度を急変させる実験などから求められており、例えば特開平8−337490号公報では1150℃−1080℃とされている。従って点欠陥の拡散による濃度の変化も、融点からGrown−in欠陥が形成される温度まで計算することが好ましい。実際に計算を行ってみると、温度低下に伴い拡散係数が低下し、過飽和濃度増加量が減少するので、点欠陥濃度は1150℃程度までには一定濃度となる。従って、点欠陥濃度はシリコン単結晶の融点から欠陥形成温度まで計算すれば十分であることがわかる。なお、シリコン単結晶の融点は、約1412℃である。欠陥形成開始温度は1150℃付近の温度であるが、この温度に限定されるものではない。
【0048】
[Grown−in欠陥計算方法]
次に、本発明のGrown−in欠陥計算方法について説明する。本発明のGrown−in欠陥計算方法は、上記の点欠陥濃度計算方法で求められた点欠陥濃度から、欠陥形成温度帯における点欠陥の凝集を計算することによりGrown−in欠陥サイズを求める計算方法である。このように上記の方法で求めた点欠陥濃度を用いるGrown−in欠陥計算方法であれば、短時間で正確にGrown−in欠陥のサイズを計算することができる。
【0049】
例えば、シリコン単結晶の融点から欠陥形成温度までで求められた点欠陥濃度から、欠陥形成温度帯において点欠陥が凝集する過程を計算し、Grown−in欠陥サイズを求めることができる。
【0050】
この際、Grown−in欠陥サイズが一定値以下となる領域を無欠陥領域と判断することができる。この場合、シリコン単結晶の成長速度を変数として、点欠陥の凝集等を計算し、Grown−in欠陥サイズが一定値以下となる領域を求めることで、空孔型の無欠陥領域や格子間型の無欠陥領域を得ることができるシリコン単結晶の成長速度を求めることができる。
【0051】
欠陥形成温度帯では、それまでに過飽和となった点欠陥が凝集してGrown−in欠陥を形成すると考えられる。そこでこの温度帯における点欠陥の凝集過程を計算しGrown−in欠陥サイズを求めることができる。また、上記のように求められた欠陥サイズのうち、一定の欠陥サイズ以下を無欠陥領域と判定することも可能である。Grown−in欠陥サイズを知ることができれば、例えばアニール処理により消滅しやすいサイズを持つ結晶を育成する条件を求めることができる。一方で無欠陥と判断される領域は、酸素濃度や欠陥の検出能力の向上によって変化するので、その時の検出能力等に見合ったサイズ以下を無欠陥領域と判断することができる。現状ではこのサイズを10〜30nm程度と定めることができる。無欠陥領域とは、Grown−in欠陥サイズが一定値以下となる成長速度の幅であり、またGrown−in欠陥サイズが一定値以下となる結晶中の位置(領域)である。なお、欠陥形成温度帯の温度範囲は特に限定されないが、例えば、1150℃−1080℃である。
【0052】
[Grown−in欠陥面内分布計算方法]
次に、本発明のGrown−in欠陥面内分布計算方法について説明する。本発明のGrown−in欠陥面内分布計算方法は、上記のGrown−in欠陥計算方法で求められる空孔型・格子間型それぞれの無欠陥領域となる成長速度を、結晶径に対しプロットすることにより欠陥面内分布形状を求める計算方法である。このように、点欠陥が凝集する過程を計算し求められる空孔型・格子間型それぞれで無欠陥と判断される成長速度を、結晶径に対しプロットすることによって、欠陥面内分布形状を簡便に求めることができる。
【0053】
シリコン単結晶の成長速度を変数として、上述の拡散・対消滅・点欠陥の凝集を計算すると、Vacancy過飽和濃度CvとI−Si過飽和濃度Ciとの差Cv−Ciは成長速度が高速から低速になるに従い、正から負になる。Grown−in欠陥サイズは高速から低速になるに従い、Cv−Ci>0の範囲の無欠陥領域(空孔型の無欠陥領域)近傍ではVacancy凝集体サイズが小さくなっていき、Cv−Ci=0で0になり、Cv−Ci<0の範囲の無欠陥領域(格子間型の無欠陥領域)近傍ではI−Si凝集体サイズが大きくなっていく。この時のVacancy凝集体が一定サイズ以下となる成長速度(無欠陥上限成長速度)と、I−Si凝集体が一定サイズ以下となる成長速度(無欠陥下限成長速度)を、結晶径方向にプロットすることにより、欠陥面内分布形状を求めることができる。これは実際の結晶で成長速度を徐々に低下させながら得られた欠陥分布に相当するものである。この欠陥面内分布を用いれば、結晶面内で無欠陥領域が得られるかを容易に判断することが可能となる。
【0054】
以上の計算(点欠陥濃度の計算及び点欠陥の凝集の計算)は、総合伝熱解析ソフト等によって求められた、育成炉内の温度分布に基づいて行うことができる。
【0055】
単結晶育成炉内の温度分布を求めるソフトは、総合伝熱解析プログラムFEMAG(F.Dupret et al.;Int. J. Heat Mass Transfer,33,1849(1990)参照)を初めとして幾つかのソフトが市販されている。これらの解析ソフトはインターフェイスなどが整備され使いやすい上、それぞれ実績があるので一定の条件下で用いる場合にはある程度信頼できる結果が期待できる。従って、拡散・対消滅・点欠陥凝集の計算の元となる温度分布にこれらのソフトによって計算されたものを用いることはメリットがある。
【0056】
[シリコン単結晶製造方法]
本発明のシリコン単結晶製造方法は、上記本発明の点欠陥濃度計算方法、Grown−in欠陥計算方法又はGrown−in欠陥面内分布計算方法で計算した結果に基づいて、育成炉構造、炉内部品、温度環境及び操業条件のいずれか一つ以上の育成条件を変更し、この変更した育成条件にて実結晶を育成する製造方法である。このように、本発明の計算方法を用いて、育成条件を変更し結晶育成温度環境を計算・評価し、その結果を反映させた条件で実結晶を育成することが好ましい。
【0057】
上述してきた計算を実施する最大の目的は、実際の結晶を育成するために最適な条件を簡単かつ精度よく求めることである。また、最適な条件を求めるために本計算方法で様々な熱環境条件を計算・評価し、目的にあった条件(最適条件)で実結晶を引き上げることである。全ての熱環境で実結晶を育成し、欠陥分布を評価していたのでは、膨大な時間とコストが掛かってしまう。これを計算で行うことができれば、幾通りもの熱環境を短時間で、非常に低コストで試すことができる。このため最適な環境を簡単に見つけることができる。この最適条件で実結晶を引上げることにより、低欠陥または無欠陥結晶の開発にかかるコストを一挙に下げることが可能である。
【0058】
本発明のシリコン単結晶製造方法であれば、本発明の計算方法を用いて育成条件を設定しているので、最先端分野で用いられている無欠陥単結晶を低コストで得ることができる。このような単結晶からは、メモリー・CPU・パワーデバイスなど半導体デバイスの基板として用いられるシリコンウェーハを切り出すことができる。
【0059】
ここで、本発明のシリコン単結晶製造方法に用いることができる単結晶育成炉(CZ単結晶製造装置)について図4を参照して説明するが、育成炉はこれに限定されない。
【0060】
図4に示すシリコン単結晶製造装置の外観は、メインチャンバー1、これに連通するトップチャンバー11及びトップチャンバー11に連通する引上げチャンバー2で構成されている。メインチャンバー1の内部には、黒鉛ルツボ6及び石英ルツボ5が設置されている。黒鉛ルツボ6を囲むように加熱ヒーター7が設けられており、加熱ヒーター7によって、石英ルツボ5内に収容された原料シリコン多結晶が溶融されて原料融液4とされる。また、断熱部材8が設けられており、加熱ヒーター7からの輻射熱がメインチャンバー1等の金属製の器具に直接当たるのを防いでいる。
【0061】
原料融液4の融液面上では遮熱部材13が、融液面に所定間隔で対向配置され、原料融液面からの輻射熱を遮断している。このルツボ中に種結晶を浸漬した後、原料融液4から棒状の単結晶棒3が引き上げられる。ルツボは結晶成長軸方向に昇降可能であり、単結晶の成長が進行して減少した原料融液4の液面下降分を補うように、成長中にルツボを上昇させることにより、原料融液4の融液面の高さはおおよそ一定に保たれる。
【0062】
さらに、単結晶育成時にパージガスとしてアルゴンガス等の不活性ガスが、ガス導入口10から導入され、引き上げ中の単結晶棒3とガスパージ筒12との間を通過した後、遮熱部材13と原料融液4の融液面との間を通過し、ガス流出口9から排出している。導入するガスの流量と、ポンプや弁によるガスの排出量を制御することにより、引上げ中のチャンバー内の圧力が制御される。
【0063】
以下、実際のデータを用いながら詳細に説明をする。
【0064】
[実験]
シリコン単結晶においてGrown−in欠陥領域の評価を行う際に、結晶成長速度を漸減した結晶を育成し、これを縦割りにして欠陥分布を調査する。この様にして評価した例が図2である。これは縦割り結晶に650℃2時間+800℃4時間+1000℃16時間の析出熱処理を加えた後、X線トポグラフにて評価したものである。この様な成長速度漸減縦割り結晶では、I−rich領域は結晶外周部で垂れ下がる、OSF領域は外周で垂れ下がってから跳ね上がる分布が一般的である。この外周部における欠陥分布形状は点欠陥の外方拡散により決まっていると考えられる。それは以下のように説明できる。
【0065】
図3は、欠陥面内分布における点欠陥外方拡散の効果を説明した図である。仮に外方拡散を考えない場合に、結晶径方向の欠陥分布がフラットであったとする(図3(a)参照)。次に結晶外周付近でI−Siが、点欠陥の無限のシンクである表面に向かって外方拡散した場合を考える(図3(b)参照)。I−Siの外方拡散によりI−rich/Ni領域境界、Ni/Nv領域境界、Nv/OSF領域境界、OSF/V−rich領域境界は外周部でI領域である下側に曲がる。なぜならI−rich領域外周部ではI−Siが減少してNi領域になるし、Ni領域外周部はNv領域になる。Nv領域やOSF領域はVacancyが優勢な領域ではあるが、外周部でI−Siが外方拡散し、Vacancy優勢度が高まるので、同様に下側に向かって曲がる。
【0066】
更に結晶外周部付近でVacancyが表面に向かって外方拡散した場合を考える(図3(c)参照)。Vacancy優勢であったNvではVacancyが減少し、先に外方拡散したI−Siも減少しているためどちらも優勢でない領域になる。従って線状であったNv/Ni領域境界は外側に向かって幅広になる。OSF領域外周部ではVacancyが外方拡散してNv領域に、V−rich領域外周部ではOSF領域になる。これによりNv/OSF領域境界、OSF/V−rich領域境界は外周部でV領域である上側に曲がる。
【0067】
以上のように考えると、図2の様な実際のSE漸減縦割り結晶の欠陥分布を良く説明できる。この実際の縦割りサンプルにおけるOSF/Nv領域境界に注目すると、中央から周辺に向かって、一度下側に向かって垂れ下がった後、上側に向かって跳ね上がっている。つまりVacancyの外方拡散領域よりも、I−Siの外方拡散領域の方がより内側に食い込んでいることが判る。このことからI−Siの見かけの外方拡散係数Di’はVacancyの見かけの外方拡散係数Dv’より大きいと考えられる。
【0068】
先に述べたが見かけの外方拡散係数Dv’,Di’には3つの効果が含まれている。つまりI−Siで考えた場合(1)周辺で過飽和濃度が低下するために、Grown−in欠陥が形成しにくくなる効果、(2)周辺で過飽和濃度が低下するために、周辺に向かう拡散が起こりやすい効果、(3)中心部と外周部との体積差により、周辺部に向かう拡散が起こりやすい効果である。このため結晶成長軸に平行な拡散を考える場合のDv,Diと区別して扱うことが好ましい。Dv,Diは従来検討されてきており各種の値が報告されている。しかしDv’,Di’に関しては明らかにされてはいない。そこで次にDv’,Di’のおおよその値を実験的に求める。
【0069】
図2に示した様な成長速度漸減縦割り欠陥分布を、熱環境が異なる幾つかの条件下において求めた。次にVacancy外方拡散距離(Lv)とI−Si外方拡散距離(Li)を求めた。LvはOSF/Nv領域境界が上に跳ね上がる部分から外周までの距離、LiはNv/Ni境界が下に垂れ下がる部分から外周までの距離として求めた。
【0070】
一方で成長速度漸減縦割り結晶を育成した条件において、FEMAGにて結晶温度分布を求めた。この温度分布の外周約30mmにおける融点(Tm)から欠陥形成温度帯(Td=1150℃)までの外方拡散距離を
Lv=√∫TmTdDv’tdT、Li=√∫TmTdDi’tdT ・・・式3
t:拡散する時間
として求めた。Dv’,Di’は見かけの外方拡散係数であり
Dv’=0.006exp(−0.4/kT)、Di’=4420exp(−2.0/kT) ・・・式4
とした時に、先に縦割り欠陥分布から実測したLv,Liと1:1対応が得られた。従って見かけの外方拡散係数として式4の値程度が妥当である。この値は一般的に報告されている拡散係数に比較して、特にI−Siの値が非常に大きい。これらが先に(1)〜(3)で述べた応力及び体積比の効果であると考えられる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0072】
(実施例)
図4に概略図を示したシリコン単結晶育成装置において、結晶の直径を306mm、直胴長さを100cmとした時の炉内温度分布を、FEMAGの定常解析により求めた。求められた温度から、結晶内の成長軸方向温度分布を抽出した。抽出位置は、結晶中心部を0cmとして1cm毎に、0cm,1cm,2cm・・・・14cm,14.3cm,15cmとした。それぞれの位置において結晶界面=融点から成長軸に平行な方向に5mm毎の温度を抽出した。
【0073】
このそれぞれの位置において、結晶成長方向に平行な拡散を計算した。先にも述べたがシリコン単結晶におけるGrown−in欠陥の形成論としては、ボロンコフにより提唱されたモデルが広く知られている。これは点欠陥の濃度が濃度勾配による拡散、温度勾配による拡散、対消滅による減少の3つによって決まるものである。特に成長速度Vと界面近傍の温度勾配Gとの比V/Gに依存して点欠陥の濃度が決まり、V/Gが大きければVacancy濃度が優勢、V/Gが小さければI−Siが優勢となることが知られている。このV/Gが大きく影響する要因は、温度勾配による拡散、つまり温度が下がることによって点欠陥の平衡濃度が低下し、このため過飽和になった点欠陥が濃度勾配とは逆に拡散する効果があるからと考えられる。この効果は坂道拡散と呼ばれる。濃度拡散を重視するか、坂道拡散を重視するか、または対消滅にかかる係数をどの程度とするか、など計算の手法はいくつも考えられる。その計算手法によって、点欠陥の平衡濃度や拡散係数が異なってくるので、各種の値が報告されているのが現状である。本手法において結晶成長軸方向に関する計算は、現実の欠陥分布と整合性が取れる計算であれば、どのような方法でも良い。本実施例では坂道拡散を主として拡散を計算し、点欠陥の過飽和濃度を求めた。
【0074】
具体的には結晶成長軸に平行に融点から10−20℃程度毎に拡散の計算を行った。計算は以下のようにして行った。まず、前の温度での平衡濃度と次の温度での平衡濃度との差分を過飽和濃度とし、これが1次元で拡散した後の濃度を求めた。次に拡散後の濃度と、その次の温度の平衡濃度との差が更に過飽和濃度となるので、これをまた1次元で拡散させた後の濃度を求めた。これを融点から欠陥形成が始まる1150℃まで繰り返し行った。拡散する時間・距離は成長速度に依存するので、これらの濃度は成長速度の関数として求められる。この時の計算に用いた平衡濃度および拡散係数の値は
Cev=4.5×1026exp(−3.9/kT)、Cei=2.5×1028exp(−4.5/kT)
Dv=40exp(−1.6/kT)、Di=6.6×10−3exp(−0.55/kT)
である。VacancyとI−Siそれぞれで拡散後の過飽和濃度を求めた上でその差分を点欠陥過飽和濃度として求めた。
【0075】
次に求められた点欠陥過飽和濃度を、先に求めた見かけの外方拡散係数を使って、結晶径方向に1次元拡散させることによって最終的な過飽和濃度を算出した。ここでは計算をより簡単化するため成長方向に平行な拡散を計算した後に外方拡散を計算した。温度毎に成長方向の1次元計算と径方向の1次元計算とを行うことを繰り返しても良い。
【0076】
次に最終的に求められた過飽和点濃度から、点欠陥が凝集する過程を計算した。凝集の温度帯は1150℃から1080℃とした。凝集はこの温度帯の通過時間と拡散係数から求まる拡散距離に影響される。ここで拡散距離範囲内の点欠陥が全て集まるとした最大欠陥サイズを求め、これを実結晶中で確認されたGrown−in欠陥平均サイズで規格化した平均欠陥サイズとして求めた。実結晶中では点欠陥が拡散しながら凝集・分裂を繰り返し、臨界核半径以上となったものがGrown−in欠陥へと成長する。このため最大欠陥サイズ以下で密度分布を持った欠陥が形成されると考えられる。この過程を計算する方がより正しいが、ここでは簡単のため平均欠陥サイズのみ求めた。この方法で求めたVoidサイズは、成長速度を速くしていくとCv−Ciが大きくなるので途中まで大きくなり、更に高速では通過時間が短く拡散距離が短くなるので小さくなり、現実に即した結果が得られている。
【0077】
次に算出された欠陥サイズのうち一定以下のサイズを無欠陥領域と判定した。一定以下のサイズは次のように求めた。ある条件にて成長速度を漸減しながら、図2に示すような結晶を育成し、Nv領域の上端の成長速度、Ni領域の下端の成長速度を求めた。この条件を上述してきた方法で計算し、Nv上端部が得られた成長速度における空孔凝集欠陥サイズ、及びNi下端部が得られた成長速度におけるI−Si凝集欠陥サイズを一定以下のサイズとして求めた。
【0078】
以上述べてきた点欠陥の過飽和濃度及びGrown−in欠陥サイズは成長速度の関数として得られる。この関係から欠陥サイズが一定値以下となる無欠陥領域が得られる成長速度範囲が求められる。この無欠陥領域が得られる上限及び下限の成長速度を、まず結晶中心部0cmで求め、次に1cmで求め、これを繰り返し15cmまで求めた。それを結晶径方向にプロットしたものが図1である。上限成長速度、下限成長速度に加え、Cv−Ci=0となる成長速度も記載してある。また縦軸は結晶中心部でCv−Ci=0となる成長速度で規格化した相対成長速度で表示してある。図1では、図2で得られているようなI−rich領域が結晶外周部で垂れ下がり、OSF領域が外周で垂れ下がってから跳ね上がる特徴的な分布が再現されていることがわかる。
【0079】
この様にして得られた無欠陥上限速度及び下限速度で挟まれた範囲が無欠陥領域と判断される。面内どの部分でもこの範囲に入る成長速度があれば、結晶径方向全面にわたって無欠陥である結晶が得られる(無欠陥条件)と考えることができる。全面にわたり無欠陥となる成長速度の幅が大きければ、無欠陥領域を得るためのマージンが大きいと判断できる。この様にして製造マージンが最大となる様に、炉内部品を変更し、熱環境を最適化することができる。
【0080】
本手法を用いて評価する場合にかかる時間は、条件にも依存するが、総合伝熱解析による温度分布計算が定常解析であれば1時間程度、点欠陥の拡散・対消滅・Grown−in欠陥の計算はマイクロソフト社の表計算ソフトEXCELで数十秒程度である。温度データの引き渡し作業を手動で行っているため十数分かかるが、全体でも1時間半程度である。実際には平衡して計算を進めるので、1条件当り1時間程度である。もちろんこれらの計算時間は、メッシュや温度の分割数に依存する。一方で実結晶を育成し、これからサンプルを切り出し、欠陥分布評価を行う場合、評価手法等にもよるが、少なくとも1週間程度かかる。従って本手法による評価時間は実結晶の1/100程度の短時間である。更に本手法はソフト導入に掛かる初期コスト以外はほとんど無視できる程度の低コストである。
【0081】
途中で述べた様に計算の方法は今回の実施例で示したものの他に幾通りも考えられる。計算方法によって平衡濃度や拡散係数の値が異なってくる可能性もある。その場合には現実に即した調整を行えば良い。本技術の特徴は、結晶成長方向と径方向とでそれぞれ1次元の拡散を計算することである。その際、用いる拡散係数の値を異なるものとすることが望まれる。本発明の最終的な目的は、本発明の計算方法を用いて熱環境を最適化した条件で実結晶を育成することで、結晶開発コストを下げることである。
【0082】
(比較例)
外方拡散を計算しないことを除いては、実施例と同じ操作によって、無欠陥領域が得られる上限及び下限の成長速度の結晶径方向分布を求めた。結果を図5に示す。結晶中心部付近では、図1と同等の欠陥分布形状となっているが、外周部付近では無欠陥領域が得られる速度が低速側にシフトしてしまっている。これは明らかに図2に示される現実の欠陥分布とは異なっており、現実を表現できていない。
【0083】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0084】
1…メインチャンバー、 2…引上げチャンバー、 3…単結晶棒、
4…原料融液、 5…石英ルツボ、 6…黒鉛ルツボ、
7…加熱ヒーター、 8…断熱部材、 9…ガス流出口、
10…ガス導入口、 11…トップチャンバー、 12…ガスパージ筒、
13…遮熱部材。
図1
図2
図3
図4
図5