特許第6135766号(P6135766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6135766磁気光学材料及びその製造方法、並びに磁気光学デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6135766
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】磁気光学材料及びその製造方法、並びに磁気光学デバイス
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/50 20060101AFI20170522BHJP
   G02B 27/28 20060101ALI20170522BHJP
   C01G 27/00 20060101ALI20170522BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20170522BHJP
   C01G 35/00 20060101ALI20170522BHJP
   C01G 19/00 20060101ALI20170522BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20170522BHJP
   C01B 33/20 20060101ALI20170522BHJP
   C30B 29/22 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   C04B35/50
   G02B27/28 A
   C01G27/00
   C01G25/00
   C01G35/00 C
   C01G19/00 A
   C01G23/00 C
   C01B33/20
   C30B29/22 Z
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-536616(P2015-536616)
(86)(22)【出願日】2014年9月11日
(86)【国際出願番号】JP2014074040
(87)【国際公開番号】WO2015037649
(87)【国際公開日】20150319
【審査請求日】2015年10月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-189348(P2013-189348)
(32)【優先日】2013年9月12日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】碇 真憲
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102010021203(DE,A1)
【文献】 特開2009−143751(JP,A)
【文献】 特開2012−036031(JP,A)
【文献】 特開2012−082079(JP,A)
【文献】 特開2013−063868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/50− 35/505
C01G 19/00− 19/08
C01G 23/00− 23/08
C01G 25/00− 25/06
C01G 27/00− 27/06
C01G 35/00− 35/02
C30B 1/00− 35/00
G02B 27/28
G02F 1/09− 1/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表わされる複合酸化物からなる焼結体であって、その粉末X線回折結果から算出されるパイロクロア化率が、該式(1)におけるRがジルコニウム単独の場合には51.5%以上であり、それ以外の場合には97.3%以上である、平均焼結粒子径が2.5μm以下の透明セラミックスからなり、波長1064nmでのベルデ定数が0.14min/(Oe・cm)以上であることを特徴とする磁気光学材料。
Tb227 (1)
(式中、Rはシリコン、ゲルマニウム、タンタル、スズ、ハフニウム、ジルコニウムよりなる群から選択された少なくとも1つの元素である(ただし、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルについては当該元素単独であることを除く)。)
【請求項2】
光路長10mmとして波長1064nmのレーザー光をビーム径1.6mmで入射させた場合、熱レンズが発生しないレーザー光の入射パワーの最大値が30W以上であることを特徴とする請求項1記載の磁気光学材料。
【請求項3】
光路長10mm当たりの波長1064nmの光の直線透過率が90%以上である請求項1又は2記載の磁気光学材料。
【請求項4】
上記透明セラミックスにおける平均焼結粒子径が2.1μm以下である請求項1〜のいずれか1項記載の磁気光学材料。
【請求項5】
酸化テルビウム粉末と、シリコン、ゲルマニウム、タンタル、スズ、ハフニウム、ジルコニウムよりなる群から選択された少なくとも1つの酸化物粉末(ただし、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルについては当該元素酸化物単独であることを除く)とをるつぼ内で焼成して、下記式(1')で表わされる複合酸化物の焼成原料として、その粉末X線回折結果から算出されるパイロクロア化率が、該式(1')におけるR'がジルコニウム単独の場合には41.5%以上であり、それ以外の場合には50%以上である焼成原料を作製し、
Tb2R'27 (1')
(式中、R'はシリコン、ゲルマニウム、タンタル、スズ、ハフニウム、ジルコニウムよりなる群から選択された少なくとも1つの元素である(ただし、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルについては当該元素単独であることを除く)。)
該焼成原料を粉砕して原料粉末とし、この原料粉末を用いて所定形状にプレス成形した後に焼結し、更に熱間等方圧プレス処理して下記式(1)で表わされる複合酸化物からなる焼結体であって、平均焼結粒子径が2.5μm以下であり、波長1064nmでのベルデ定数が0.14min/(Oe・cm)以上である透明セラミックスの焼結体を得る磁気光学材料の製造方法。
Tb227 (1)
(式中、Rはシリコン、ゲルマニウム、タンタル、スズ、ハフニウム、ジルコニウムよりなる群から選択された少なくとも1つの元素である(ただし、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルについては当該元素単独であることを除く)。)
【請求項6】
上記焼成温度が1200℃以上、かつこれ以降に行われる焼結温度よりも低い温度であることを特徴とする請求項記載の磁気光学材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項記載の磁気光学材料を用いて構成されることを特徴とする磁気光学デバイス。
【請求項8】
上記磁気光学材料をファラデー回転子として備え、該ファラデー回転子の光学軸上の前後に偏光材料を備えた波長帯0.9μm以上1.1μm以下で利用可能な光アイソレータである請求項記載の磁気光学デバイス。
【請求項9】
上記ファラデー回転子は、その光学面に反射防止膜を有することを特徴とする請求項記載の磁気光学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気光学材料並びに磁気光学デバイスに関し、より詳細には、光アイソレータなどの磁気光学デバイスを構成するのに好適な複合酸化物を含む透明セラミックス又は単結晶からなる磁気光学材料及びその製造方法、並びに該磁気光学材料を用いた磁気光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力化が可能となってきたこともあり、ファイバーレーザーを用いたレーザー加工機の普及が目覚しい。ところで、レーザー加工機に組み込まれるレーザー光源は、外部からの光が入射すると共振状態が不安定化し、発振状態が乱れる現象が起こる。特に発振された光が途中の光学系で反射されて光源に戻ってくると、発振状態は大きく撹乱される。これを防止するために、通常光アイソレータが光源の手前等に設けられる。
【0003】
光アイソレータは、ファラデー回転子と、ファラデー回転子の光入射側に配置された偏光子と、ファラデー回転子の光出射側に配置された検光子とからなる。また、ファラデー回転子は、光の進行方向に平行に磁界を加えて利用する。この時、光の偏波線分はファラデー回転子中を前進しても後進しても一定方向にしか回転しなくなる。更に、ファラデー回転子は光の偏波線分が丁度45度回転される長さに調整される。ここで偏光子と検光子の偏波面を、前進する光の回転方向に45度ずらしておくと、前進する光の偏波は、偏光子位置と検光子位置で一致するため透過する。他方、後進する光の偏波は、検光子位置から、45度ずれている偏光子の偏波面のずれ角方向とは逆回転に45度回転することになる。すると偏光子位置における戻り光の偏波面は、偏光子の偏波面に対して45度−(−45度)=90度のずれとなり、偏光子を透過できない。こうして前進する光は透過、出射させ、後進する戻り光は遮断する光アイソレータとして機能する。
【0004】
上記、光アイソレータを構成するファラデー回転子として用いられる材料では、従来からTGG結晶(Tb3Ga512)やTSAG結晶(Tb(3-x)Sc2Al312)が知られている(特開2011−213552号公報(特許文献1)、特開2002−293693号公報(特許文献2))。TGG結晶のベルデ定数は比較的大きく、40rad/(T・m)であり、現在標準的なファイバーレーザー装置用として広く搭載されている。TSAG結晶のベルデ定数はTGG結晶の1.3倍程度あるとされており、こちらもファイバーレーザー装置に搭載される材料である。
【0005】
上記以外では、特開2010−285299号公報(特許文献3)に、(Tbx1-x23(xは、0.4≦x≦1.0)であり、Rは、スカンジウム、イットリウム、ランタン、ユウロピウム、ガドリニウム、イッテルビウム、ホルミウム、及び、ルテチウムよりなる群から選択される酸化物を主成分とする単結晶あるいはセラミックスが開示されている。上記成分からなる酸化物は、ベルデ定数が0.18min/(Oe・cm)以上あり、実施例では最大0.33min/(Oe・cm)のものまで記載がある。また、同一文献の本文中にはTGGのベルデ定数が0.13min/(Oe・cm)とも記載されている。両者のベルデ定数の差は実に2.5倍に達している。
【0006】
特開2011−121837号公報(特許文献4)にもほぼ同様成分からなる酸化物が開示されており、TGG単結晶よりも大きなベルデ定数を有すると記載されている。
【0007】
上記特許文献3、4のように、ベルデ定数の大きな光アイソレータが得られると、45度回転するために必要な全長を短くすることができ、光アイソレータの小型化につながり好ましい
【0008】
しかしながら、上記特許文献3、4に開示されている(Tbx1-x23酸化物は、確かに特許文献1に開示されているTGG結晶、あるいは特許文献3の本文中で言及されているTGG結晶に比べ、ベルデ定数が1.4倍〜2.5倍と非常に大きいが、該酸化物は、その利用が想定される波長帯0.9〜1.1μmのファイバーレーザー光をわずかながら吸収してしまう。近年のファイバーレーザー装置はその出力がどんどんとハイパワー化しており、わずかに吸収のある光アイソレータであっても、そこに搭載してしまうと、熱レンズ効果によるビーム品質の劣化をまねき問題となる。
【0009】
ところで、単位長さあたりのベルデ定数が非常に大きな材料として、鉄(Fe)を含むイットリウム鉄ガーネット(通称:YIG)単結晶がある(特開2000−266947号公報(特許文献5))。ただし、鉄(Fe)は波長0.9μmに大きな光吸収があり、波長0.9〜1.1μm帯の光アイソレータにはこの光吸収の影響が出る。そのため、このイットリウム鉄ガーネット単結晶を用いた光アイソレータは、高出力化傾向の著しいファイバーレーザー装置での利用は極めて困難となっている。
【0010】
そのため、TGG結晶(Tb3Ga512)やTSAG結晶(Tb(3-x)Sc2Al312)よりもベルデ定数が大きく、且つ波長帯0.9〜1.1μmのファイバーレーザー光を吸収することのない、まったく新しい材料が求められている。
【0011】
そのような材料の候補として、パイロクロア型の結晶構造をもつ酸化物が挙げられる。パイロクロア型結晶はA227の結晶構造をもち、AイオンとBイオンとの半径比が一定の範囲内にあると立方晶構造をもつことが知られている。結晶構造が立方晶をとる材料を選択できると、単結晶はもちろんのこと、セラミックス体であっても高い透明性をもった材料の作製が可能となり、様々な光学材料としての応用が見込まれる。
【0012】
こうしたパイロクロア型材料の例として、特開2005−330133号公報(特許文献6)では、Aサイトに希土類元素REを有する立方晶系チタン酸化物パイロクロアのうち、当該Aサイトの元素REがLu、Yb、Tm、Er、Ho、Y、Sc、Dy、Tb、Gd、Eu、Sm、Ceの各元素のうちの一つまたは二つ以上から成る複合酸化物RE2-xTi27-δであって、前記Aサイト元素REの不定比量xが当該Aサイト元素REに応じて
0<x<0.5
の範囲内とされる電子導電性セラミックス粉体が焼結され、その後還元処理されることによって形成されていることを特徴とする立方晶系チタン酸化物パイロクロア焼結体が開示されている。用途が電子導電性セラミックスのため、当該焼結体の透明度は言及されておらず、普通に焼結しただけでは、通常不透明焼結体ができあがることが当業者の間では知られており、特許文献6記載の材料も光学材料用途としては利用不可であると推定されるが、Tbを含むチタン酸化物パイロクロアが立方晶になり得るという情報は該特許文献6により開示されている。
【0013】
ただし、それ以前にも単純なTbのシリコン酸化物では、立方晶を取ることができないことは別途知られている("Rare earth disilicates R2Si2O7 (R=Gd, Tb, Dy, Ho): type B", Z., Kristallogr., Vol.218 No.12 795-801 (2003)(非特許文献1))。
また同じ頃、Tbは全く含まれないものの、ある種の希土類ハフニウム酸化物が立方晶パイロクロア構造を取り、透光性を有する事実が開示されている("Fabrication of transparent La2Hf2O7 ceramics from combustion synthesized powders", Mat. Res. Bull. 40 (3) 553-559 (2005)(非特許文献2))。
【0014】
更に、特開2010−241677号公報(特許文献7)では、個々の結晶の少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも98重量%が立方晶黄緑石または蛍石構造を有し、化学量論の化合物
2+xyz7
ここで、−1.15≦x≦0および0≦y≦3および0≦x≦1.6ならびに3x+4y+5z=8、かつAは希土類金属酸化物の群から選ばれる少なくとも1つの3価カチオンであり、Bは少なくとも1つの4価カチオンであり、Dは少なくとも1つの5価カチオンであり、およびEは少なくとも1つの2価アニオンである、
を含む多結晶、透明光学セラミックスであって、AはY、Gd、Yb、Lu、ScおよびLaから選択され、BはTi、Zr、Hf、SnおよびGeから選択される光学セラミックスが開示されており、Tbは全く含まれないものの、数種類の希土類を含んだチタン酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物、スズ酸化物、ゲルマニウム酸化物が、98重量%以上の立方晶黄緑石(パイロクロア)構造を取り得ることが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2011−213552号公報
【特許文献2】特開2002−293693号公報
【特許文献3】特開2010−285299号公報
【特許文献4】特開2011−121837号公報
【特許文献5】特開2000−266947号公報
【特許文献6】特開2005−330133号公報
【特許文献7】特開2010−241677号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】"Rare earth disilicates R2Si2O7 (R=Gd, Tb, Dy, Ho): type B", Z., Kristallogr., Vol.218 No.12 795-801 (2003)
【非特許文献2】"Fabrication of transparent La2Hf2O7 ceramics from combustion synthesized powders", Mat. Res. Bull. 40 (3) 553-559 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、波長帯0.9〜1.1μmのファイバーレーザー光を吸収することなく、そのため熱レンズの発生も抑制し、ベルデ定数はTGG結晶よりも大きな、光アイソレータなどの磁気光学デバイスを構成するのに好適な透明な磁気光学材料及びその製造方法、並びに磁気光学デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、以上の先行技術の知見をベースとして、TGG結晶(Tb3Ga512)やTSAG結晶(Tb(3-x)Sc2Al312)よりもベルデ定数が大きく、且つ波長帯0.9〜1.1μmのファイバーレーザー光を吸収することのない、まったく新しい材料候補として、Tbを含む様々なパイロクロア型材料の検討を行い、光アイソレータなどの磁気光学デバイスを構成するのに好適な磁気光学材料及び磁気光学デバイスを完成した。
【0019】
即ち、本発明は、下記の磁気光学材料及びその製造方法、並びに磁気光学デバイスである。
〔1〕 下記式(1)で表わされる複合酸化物からなる焼結体であって、その粉末X線回折結果から算出されるパイロクロア化率が、該式(1)におけるRがジルコニウム単独の場合には51.5%以上であり、それ以外の場合には97.3%以上である、平均焼結粒子径が2.5μm以下の透明セラミックスからなり、波長1064nmでのベルデ定数が0.14min/(Oe・cm)以上であることを特徴とする磁気光学材料。
Tb227 (1)
(式中、Rはシリコン、ゲルマニウム、タンタル、スズ、ハフニウム、ジルコニウムよりなる群から選択された少なくとも1つの元素である(ただし、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルについては当該元素単独であることを除く)。)
〕 光路長10mmとして波長1064nmのレーザー光をビーム径1.6mmで入射させた場合、熱レンズが発生しないレーザー光の入射パワーの最大値が30W以上であることを特徴とする〔1〕記載の磁気光学材料。
〕 光路長10mm当たりの波長1064nmの光の直線透過率が90%以上である〔1〕又は〔2〕記載の磁気光学材料。
〕 上記透明セラミックスにおける平均焼結粒子径が2.1μm以下である〔1〕〜〔〕のいずれかに記載の磁気光学材料。
〕 酸化テルビウム粉末と、シリコン、ゲルマニウム、タンタル、スズ、ハフニウム、ジルコニウムよりなる群から選択された少なくとも1つの酸化物粉末(ただし、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルについては当該元素酸化物単独であることを除く)とをるつぼ内で焼成して、下記式(1')で表わされる複合酸化物の焼成原料として、その粉末X線回折結果から算出されるパイロクロア化率が、該式(1')におけるR'がジルコニウム単独の場合には41.5%以上であり、それ以外の場合には50%以上である焼成原料を作製し、
Tb2R'27 (1')
(式中、R'はシリコン、ゲルマニウム、タンタル、スズ、ハフニウム、ジルコニウムよりなる群から選択された少なくとも1つの元素である(ただし、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルについては当該元素単独であることを除く)。)
該焼成原料を粉砕して原料粉末とし、この原料粉末を用いて所定形状にプレス成形した後に焼結し、更に熱間等方圧プレス処理して下記式(1)で表わされる複合酸化物からなる焼結体であって、平均焼結粒子径が2.5μm以下であり、波長1064nmでのベルデ定数が0.14min/(Oe・cm)以上である透明セラミックスの焼結体を得る磁気光学材料の製造方法。
Tb227 (1)
(式中、Rはシリコン、ゲルマニウム、タンタル、スズ、ハフニウム、ジルコニウムよりなる群から選択された少なくとも1つの元素である(ただし、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルについては当該元素単独であることを除く)。)
〕 上記焼成温度が1200℃以上、かつこれ以降に行われる焼結温度よりも低い温度であることを特徴とする〔〕記載の磁気光学材料の製造方法。
〕 〔1〕〜〔〕のいずれかに記載の磁気光学材料を用いて構成されることを特徴とする磁気光学デバイス。
〕 上記磁気光学材料をファラデー回転子として備え、該ファラデー回転子の光学軸上の前後に偏光材料を備えた波長帯0.9μm以上1.1μm以下で利用可能な光アイソレータである〔〕記載の磁気光学デバイス。
〕 上記ファラデー回転子は、その光学面に反射防止膜を有することを特徴とする〔〕記載の磁気光学デバイス。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、波長帯0.9〜1.1μmのファイバーレーザー装置に搭載してもビーム品質を劣化させることなく、ベルデ定数をTGG結晶よりも大きくした、小型化の可能な、光アイソレータなどの磁気光学デバイスを構成するのに好適な透明な磁気光学材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る磁気光学材料をファラデー回転子として用いた光アイソレータの構成例を示す断面模式図である。
図2】実施例1−1,1−、比較例1−1,1−の焼成原料粉末(Tb2Hf27)のX線回折パターンである。
図3図2の(622)面近傍のX線回折パターン拡大図である。
図4】実施例1−の焼結体(Tb2Zr27)のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[磁気光学材料]
以下、本発明に係る磁気光学材料について説明する。
本発明に係る磁気光学材料は、下記式(1)で表わされる複合酸化物を主成分として含む透明セラミックス又は下記式(1)で表わされる複合酸化物の単結晶からなり、波長1064nmでのベルデ定数が0.14min/(Oe・cm)以上であることを特徴とする。
Tb227 (1)
(式中、Rはシリコン、ゲルマニウム、チタン、タンタル、スズ、ハフニウム、ジルコニウムよりなる群から選択された少なくとも1つの元素である(ただし、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルについては当該元素単独であることを除く)。)
【0023】
テルビウムは鉄(Fe)を除く常磁性元素のなかで最大のベルデ定数をもつ材料であり、かつ波長1.06μmにおいて透明(光路長1mmにおける光の直線透過率が80%以上)であるため、この波長域の光アイソレータに使用するには最も適した元素である。ただし、この透明性を活かすためにはテルビウムが金属結合状態であってはならず、安定な化合物状態に仕上げる必要がある。
【0024】
ここで、安定な化合物を形成する最も典型的な形態として酸化物が挙げられる。その中でも、パイロクロア型構造を有するある種の材料(複合酸化物)は立方晶構造を取るため(これを、パイロクロア格子を有する立方晶(パイロクロア型立方晶)という)、異方性散乱のない高度に透明な化合物が得られる。よって、Aサイトにテルビウムが入る系からなり、パイロクロア型酸化物であって、立方晶構造をとる化合物(テルビウム含有立方晶系パイロクロア型酸化物)が、波長域0.9μm以上1.1μm以下、より詳細には1064±40nmの光アイソレータに使用する材料として好ましい。
【0025】
また、立方晶構造を取るためのBサイト元素としては、シリコン、ゲルマニウム、チタン、タンタル、スズ、ハフニウム、ジルコニウムが好適に利用できる。
ただし、シリコンやゲルマニウムはイオン半径が小さすぎるため、これらの元素だけでBサイトを充填してしまうと、斜方晶になって透明性が阻害されてしまうため好ましくない。そこで、シリコンやゲルマニウムを選択する場合には、よりイオン半径の大きな他の元素であるジルコニウムと組み合わせて利用する。
【0026】
この結果、本発明の磁気光学材料は、パイロクロア格子を有する立方晶(パイロクロア型立方晶)が主相となったものが好ましく、パイロクロア型立方晶からなるものがより好ましい。なお、主相となったとは、結晶構造としてパイロクロア型立方晶が全体の90体積%以上、好ましくは95体積%以上を占めることをいう。あるいは、この磁気光学材料の粉末X線回折結果から算出されるパイロクロア化率が、上記式(1)におけるRがジルコニウム単独の場合には51.5%以上であることをいい、Rがそれ以外の場合(即ち、Rがシリコン、ゲルマニウム、チタン、タンタル、スズ、ハフニウム、ジルコニウムよりなる群から選択された少なくとも1つの元素(ただし、シリコン、ゲルマニウム、タンタル及びジルコニウムについては当該元素単独であることを除く)である場合)には97.3%以上、好ましくは99%以上であることをいう。
【0027】
なお、パイロクロア化率とは、対象材料の粉末X線回折における立方晶の(622)面に相当するピーク位置(2θの値P(622))から、ベガード則に基づき酸化テルビウムの(622)面の2θの値(PTb)及び対象材料を理想的なパイロクロア型立方晶とした場合の(622)面の2θの値(PTbR)を用いて求めた上記対象材料に占める理想的なパイロクロア型立方晶のモル分率である。なお、(622)面は、パイロクロア型立方晶のX線回折パターンにおける4つの主回折面のうち、最も広角側の回折面である。
【0028】
また、本発明の磁気光学材料は、透明セラミックスにおける平均焼結粒子径が2.5μm以下、好ましくは2.1μm以下であることが好ましい。平均焼結粒子径が2.5μm超では、透明性が確保できない場合がある。なお、平均焼結粒子径の下限は特に制限はないが、製造上1μm以上となる。
【0029】
上記式(1)は、テルビウムと、Rはシリコン、ゲルマニウム、チタン、タンタル、スズ、ハフニウム、ジルコニウムよりなる群から選択された少なくとも1つの元素(ただし、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルについては当該元素単独であることを除く)とを含むもので構成されているが、更にその他の元素を含有していてもよい。その他の元素としては、希土類元素であれば、ランタン、ガドリニウム、ツリウム、セリウム、プラセオジム、イッテルビウム、ディスプロシウムが例示でき、様々な不純物群として、カルシウム、アルミニウム、燐、タングステン、モリブデン等が典型的に例示できる。
【0030】
その他の元素の含有量は、テルビウムの全量を100としたとき、10以下であることが好ましく、1以下であることが更に好ましく、0.1以下であることがより好ましく、0.001以下(実質的にゼロ)であることが特に好ましい。
【0031】
本発明の磁気光学材料は、上記式(1)で表わされる複合酸化物を主成分として含有する。即ち、本発明の磁気光学材料は、上記式(1)で表わされる複合酸化物を主成分として含有していればよく、その他の成分を副成分として意図的に含有していてもよい。
【0032】
ここで、主成分として含有するとは、上記式(1)で表わされる複合酸化物を50質量%以上含有することを意味する。式(1)で表わされる複合酸化物の含有量は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましく、99.9質量%以上であることが特に好ましい。
一般的に例示される、その他の副成分(主成分以外の成分)としては、単結晶育成の際にドープされるドーパント、フラックス、セラミックス製造の際に添加される焼結助剤等がある。
【0033】
本発明の磁気光学材料の製法としては、フローティングゾーン法、マイクロ引下げ法などの単結晶製造方法、並びにセラミックス製造法があり、いずれの製法を用いても構わない。ただし、一般に単結晶製造方法では固溶体の濃度比の設計に一定程度の制約があり、セラミックス製造法の方が本発明ではより好ましい。
【0034】
以下、本発明の磁気光学材料の製造方法の例としてセラミックス製造法について更に詳述するが、本発明の技術的思想を踏襲した単結晶製造方法を排除するものではない。
【0035】
《セラミックス製造法》
[原料]
本発明で用いる原料としては、テルビウム及び元素R(Rはシリコン、ゲルマニウム、チタン、タンタル、スズ、ハフニウム、ジルコニウムよりなる群から選択された少なくとも1つの元素である(ただし、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルについては当該元素単独であることを除く)。)からなる本発明の磁気光学材料の構成元素からなる金属粉末、ないしは硝酸、硫酸、尿酸等の水溶液、あるいは上記元素の酸化物粉末等が好適に利用できる。
【0036】
それらを、テルビウム対Rのモル比率が1:1となるように所定量秤量し、混合してから焼成して所望の構成の立方晶パイロクロア型酸化物を主成分とする焼成原料を得る。このときの焼成温度は、1200℃以上、かつこの後に行われる焼結温度よりも低い温度が好ましく、1400℃以上、かつこの後に行われる焼結温度よりも低い温度がより好ましい。なお、ここでいう「主成分とする」とは、焼成原料の粉末X線回折結果から算出される上記パイロクロア化率が、上記式(1)におけるRがジルコニウム単独の場合には41.5%以上であることをいい、Rがそれ以外の場合(即ち、Rがシリコン、ゲルマニウム、チタン、タンタル、スズ、ハフニウム、ジルコニウムよりなる群から選択された少なくとも1つの元素(ただし、シリコン、ゲルマニウム、タンタル及びジルコニウムについては当該元素単独であることを除く)である場合)には50%以上であり、好ましくは55%以上であることをいう。
また、上記原料の純度は99.9質量%以上が好ましい。次いで、得られた焼成原料を粉砕して原料粉末とする。
【0037】
また、最終的には所望の構成のパイロクロア型酸化物粉末を用いてセラミックス製造をすることになるが、その際の粉末形状については特に限定されず、例えば角状、球状、板状の粉末が好適に利用できる。また、二次凝集している粉末であっても好適に利用できるし、スプレードライ処理等の造粒処理によって造粒された顆粒状粉末であっても好適に利用できる。更に、これらの原料粉末の調製工程については特に限定されない。共沈法、粉砕法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法、アルコキシド加水分解法、その他あらゆる合成方法で作製された原料粉末が好適に利用できる。また、得られた原料粉末を適宜湿式ボールミル、ビーズミル、ジェットミルや乾式ジェットミル、ハンマーミル等によって処理してもよい。
【0038】
本発明で用いるパイロクロア型酸化物粉末原料中には、適宜焼結抑制助剤を添加してもよい。特に高い透明性を得るためには、テルビウム含有パイロクロア型酸化物に見合った焼結抑制助剤を添加することが好ましい。ただし、その純度は99.9質量%以上が好ましい。なお、焼結抑制助剤を添加しない場合には、使用する原料粉末についてその一次粒子の粒径がナノサイズであって焼結活性が極めて高いものを選定するとよい。こうした選択は適宜なされてよい。
【0039】
更に製造工程での品質安定性や歩留り向上の目的で、各種の有機添加剤が添加される場合がある。本発明においては、これらについても特に限定されない。即ち、各種の分散剤、結合剤、潤滑剤、可塑剤等が好適に利用できる。
【0040】
[製造工程]
本発明では、上記原料粉末を用いて、所定形状にプレス成形した後に脱脂を行い、次いで焼結して、相対密度が最低でも92%以上に緻密化した焼結体を作製する。その後工程として熱間等方圧プレス(HIP)処理を行うことが好ましい。
【0041】
(プレス成形)
本発明の製造方法においては、通常のプレス成形工程を好適に利用できる。即ち、ごく一般的な、型に充填して一定方向から加圧するプレス工程や変形可能な防水容器に密閉収納して静水圧で加圧するCIP(Cold Isostatic Pressing)工程が利用できる。なお、印加圧力は得られる成形体の相対密度を確認しながら適宜調整すればよく、特に制限されないが、例えば市販のCIP装置で対応可能な300MPa以下程度の圧力範囲で管理すると製造コストが抑えられてよい。あるいはまた、成形時に成形工程のみでなく一気に焼結まで実施してしまうホットプレス工程や放電プラズマ焼結工程、マイクロ波加熱工程なども好適に利用できる。
【0042】
(脱脂)
本発明の製造方法においては、通常の脱脂工程を好適に利用できる。即ち、加熱炉による昇温脱脂工程を経ることが可能である。また、この時の雰囲気ガスの種類も特に制限はなく、空気、酸素、水素等が好適に利用できる。脱脂温度も特に制限はないが、もしも有機添加剤が混合されている原料を用いる場合には、その有機成分が分解消去できる温度まで昇温することが好ましい。
【0043】
(焼結)
本発明の製造方法においては、一般的な焼結工程を好適に利用できる。即ち、抵抗加熱方式、誘導加熱方式等の加熱焼結工程を好適に利用できる。この時の雰囲気は特に制限されないが、不活性ガス、酸素ガス、水素ガス等が好適に利用できる。また、減圧下(真空中)で焼結してもよい。
【0044】
本発明の焼結工程における焼結温度は、選択される出発原料により適宜調整される。一般的には選択された出発原料を用いて、製造しようとするテルビウム含有パイロクロア型酸化物焼結体の融点よりも数10℃から100℃乃至は200℃程度低温側の温度が好適に選定される。また、選定される温度の近傍に立方晶以外の相に相変化する温度帯が存在するテルビウム含有パイロクロア型酸化物焼結体を製造しようとする際には、厳密にその温度帯を外した条件となるよう管理して焼結すると、立方晶以外の相の混入を抑制でき、複屈折性の散乱を低減できるメリットがある。
【0045】
本発明の焼結工程における焼結保持時間は、選択される出発原料により適宜調整される。一般的には数時間程度で十分な場合が多い。ただし、テルビウム含有パイロクロア型酸化物焼結体の相対密度は最低でも92%以上に緻密化されていなければならない。
【0046】
(熱間等方圧プレス(HIP))
本発明の製造方法においては、焼結工程を経た後に更に追加で熱間等方圧プレス(HIP(Hot Isostatic Pressing))処理を行う工程を設けることができる。
【0047】
なお、このときの加圧ガス媒体種類は、アルゴン、窒素等の不活性ガス、又はAr−O2が好適に利用できる。加圧ガス媒体により加圧する圧力は、50〜300MPaが好ましく、100〜300MPaがより好ましい。圧力50MPa未満では透明性改善効果が得られない場合があり、300MPa超では圧力を増加させてもそれ以上の透明性改善が得られず、装置への負荷が過多となり装置を損傷するおそれがある。印加圧力は市販のHIP装置で処理できる196MPa以下であると簡便で好ましい。
【0048】
また、その際の処理温度(所定保持温度)は材料の種類及び/又は焼結状態により適宜設定すればよく、例えば1000〜2000℃、好ましくは1300〜1800℃の範囲で設定される。このとき、焼結工程の場合と同様に焼結体を構成するテルビウム含有パイロクロア型酸化物の融点以下及び/又は相転移点以下とすることが必須であり、熱処理温度が2000℃超では本発明で想定しているテルビウム含有パイロクロア型酸化物焼結体が融点を超えるか相転移点を超えてしまい、適正なHIP処理を行うことが困難となる。また、熱処理温度が1000℃未満では焼結体の透明性改善効果が得られない。なお、熱処理温度の保持時間については特に制限されないが、焼結体を構成するテルビウム含有パイロクロア型酸化物の特性を見極めながら適宜調整するとよい。
【0049】
なお、HIP処理するヒーター材、断熱材、処理容器は特に制限されないが、グラファイト、ないしはモリブデン(Mo)が好適に利用できる。
【0050】
(アニール)
本発明の製造方法においては、HIP処理を終えた後に、得られたテルビウム含有パイロクロア型酸化物焼結体中に酸素欠損が生じてしまい、薄灰色の外観を呈する場合がある。その場合には、前記HIP処理温度以下(例えば、1100〜1500℃)、且つ前記HIP処理圧力と同等の条件にて微酸化アニール処理を施すことが好ましい。この場合、前記HIP処理設備と同じ設備を利用して微酸化アニール処理をおこなうと、製造プロセスが簡便となって良い。このアニール処理により、薄灰色の外観を呈してしまったテルビウム含有パイロクロア型酸化物焼結体も、すべて無色透明なセラミックス体に整えることができる。
【0051】
(光学研磨)
本発明の製造方法においては、上記一連の製造工程を経たテルビウム含有パイロクロア型酸化物焼結体(即ち、透明セラミックス)について、その光学的に利用する軸上にある両端面を光学研磨することが好ましい。このときの光学面精度は測定波長λ=633nmの場合、λ/8以下が好ましく、λ/10以下が特に好ましい。なお、光学研磨された面に適宜反射防止膜を成膜することで光学損失を更に低減させることも可能である。
【0052】
以上のようにして、波長1064nmでのベルデ定数が0.14min/(Oe・cm)以上の磁気光学材料が得られる。本発明の磁気光学材料は、光路長10mm当たりの波長1064nmでの光透過における直線透過率が90%以上であることが好ましい。なお本発明において、「直線透過率」とは、測定光路中にサンプルを置かずにブランク(空間)状態で測定した透過スペクトルを100%とした場合における直線透過率を意味する。また、本発明の磁気光学材料は、光路長10mmとして波長1064nmのレーザー光をビーム径1.6mmで入射させた場合、熱レンズが発生しないレーザー光の入射パワーの最大値が30W以上であることが好ましく、80W以上であることがより好ましい。上記熱レンズが発生しないレーザー光の入射パワーの最大値が30W未満では高出力のファイバーレーザー装置での利用が困難となる場合がある。
【0053】
[磁気光学デバイス]
本発明の磁気光学材料は、磁気光学デバイス用途に好適であり、特に波長0.9〜1.1μmの光アイソレータのファラデー回転子として好適に使用される。
図1は、本発明の磁気光学材料からなるファラデー回転子を光学素子として有する光学デバイスである光アイソレータの一例を示す断面模式図である。図1において、光アイソレータ100は、本発明の磁気光学材料からなるファラデー回転子110を備え、該ファラデー回転子110の前後には、偏光材料である偏光子120及び検光子130が備えられている。また、光アイソレータ100は、偏光子120、ファラデー回転子110、検光子130の順序で配置され、それらの側面のうちの少なくとも1面に磁石140が載置されていることが好ましい。
また、上記光アイソレータ100は産業用ファイバーレーザー装置に好適に利用できる。即ち、レーザー光源から発したレーザー光の反射光が光源に戻り、発振が不安定になるのを防止するのに好適である。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例、参考例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1、参考例1、比較例1]
上記式(1)において、Bサイト位置(上記式(1)におけるR)に単一元素を充填した例としてハフニウム、スズ、チタン、ジルコニウムを選定した例について説明する。
信越化学工業(株)製の酸化テルビウム粉末、及びAmerican Elements社製の酸化ハフニウム粉末、並びに(株)高純度化学研究所製の酸化第2スズ粉末、酸化チタン粉末及び日産化学工業(株)製のジルコニア粉末を入手した。純度はいずれも99.9質量%以上であった。
上記原料を用いて、Tb2Hf27、Tb2Sn27、Tb2Ti27、Tb2Zr27の4種のパイロクロア型酸化物原料を作製した。即ち、酸化テルビウムと酸化ハフニウムをテルビウムとハフニウムが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと酸化第2スズをテルビウムとスズが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと酸化チタンをテルビウムとチタンが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと酸化ジルコニウムをテルビウムとジルコニウムが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末の4種を用意した。続いて、それぞれ互いの混入を防止するよう注意しながらエタノール中でジルコニア製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は24時間であった。その後スプレードライ処理を行って、いずれも平均粒子径が20μmの顆粒状原料を作製した。
【0056】
続いて、これらの粉末をイリジウムるつぼに入れ高温マッフル炉にて1000℃、1100℃、1200℃、1400℃、1600℃それぞれの温度にて保持時間3時間で焼成処理し、それぞれの組成での焼成原料を得た。得られた各焼成原料をパナリティカル社製粉末X線回折装置で回折パターン解析した。即ち、焼成原料ごとに得られたX線回折パターンにおいてその組成のパイロクロア型酸化物の結晶相(立方晶及び斜方晶)の回折ピークに相当するピークを取り出した後、これらのピークから立方晶、斜方晶のいずれであるかを特定した。例えば、これらのピークにおいて斜方晶由来のサブピークが存在せず、かつリートベルト解析により立方晶の結晶構造モデルにフィットした場合に、立方晶であると判断した。
【0057】
その結果、最初の3種の焼成原料については1200℃以上で処理したものに関してはすべてパイロクロア型酸化物(即ち、それぞれTb2Hf27、Tb2Sn27、Tb2Ti27)ないしはビックスバイト型酸化物の結晶相、あるいはその中間遷移相と考えられる立方晶が確認された。また、1100℃で処理した原料でも上記1200℃以上で処理した場合と同様の立方晶が確認された。ただし、その回折ピーク位置は、よりビックスバイト型酸化物の回折ピーク位置に近かった。なお、1000℃で処理した原料からはパイロクロア型酸化物の結晶相の明確な回折パターンは検知されず、代わりにビックスバイト型酸化物の結晶相と、酸化ハフニウムの単斜晶ないしは酸化スズ、酸化チタンの正方晶の回折パターンが検知された。
【0058】
また、最後のTb2Zr27については1200℃以上で処理したものに関しては立方晶パイロクロア型酸化物の他に立方晶であるビックスバイト型酸化物相が混在していた。また、1100℃で処理したTb2Zr27でも上記1200℃以上で処理した場合と同様の立方晶の混晶が確認された。なお、1000℃で処理した原料からはパイロクロア型酸化物の結晶相の明確な回折パターンは検知されず、代わりにビックスバイト型酸化物の結晶相と、酸化ジルコニウムの単斜晶の回折パターンが検知された。
【0059】
次に、以下の方法で焼成原料それぞれのパイロクロア化率を求めた。
(パイロクロア化率の測定)
ここでは、上記組成式(1)におけるRがハフニウム(Hf)である場合を例に説明する。
まず、酸化テルビウム(Tb47)と作製しようとするパイロクロア型酸化物、即ち理想的な立方晶パイロクロア型酸化物(Tb2Hf27)の、いずれも4つの主回折面のうち、最も広角側の回折面である(622)面の2θの角度(PTb、PTbHf)を文献値より入手する。例えば、酸化テルビウム(Tb47)のPTbは、J.Am.Chem.Soc.Vol.76 p5242−5244(1954)より入手し、Tb2Hf27のPTbHfは、Solid State Sciences. Vol.14 p1405−1411(2012)より入手する。
続いて、パナリティカル社製粉末X線回折装置を用いて、Out−of−plane法(2θ/ωスキャン法)で各焼成温度(1400℃(実施例1−1)、1200℃(実施例1−)、1100℃(比較例1−1)、1000℃(比較例1−))で作製した焼成原料粉末のX線回折パターンを測定する。XRD条件は、Cu−Kα1,2(管球電圧45kV−電流200mA)で、1mm×2mmのスリットコリメーションで、走査範囲10〜110°、ステップ幅0.02°とした。図2に、焼成温度ごとの焼成原料粉末(実施例1−1,1−、比較例1−1,1−)のX線回折パターン及び酸化テルビウム(Tb47)と理想的な立方晶パイロクロア型酸化物(Tb2Hf27)の文献値のX線回折パターンを示す。また、図3に、その(622)面近傍のX線回折パターンを示す。
得られた回折パターンのうち、4つの主回折面のうち、最も広角側の回折面である(622)面の2θの角度データを読み取る。その結果を表1に示す。
すると、すべての原料粉末の(622)面の2θの角度の値は、酸化テルビウムのPTbとTb2Hf27のPTbHfとの間に入ってくることが確認できる。ここで、焼成して得られた原料粉末が、パイロクロア化した立方晶成分と、未だパイロクロア化していない酸化テルビウムと同等の立方晶成分とからなると仮定し、それぞれのモル分率をNP、(1−NP)と定義して、ベガード則(Vegard's rule、固溶体の格子定数とモル分率との間におおよその比例関係が成り立つという経験則)に基づく以下の式(i)を用いてモル分率NPを計算し、これを焼成原料粉末のパイロクロア化率と定義した。
(622)=NP×PTbHf+(1−NP)×PTb (i)
(式中、P(622)は原料粉末の(622)面の2θの角度の値(°)、PTbHfはパイロクロア型Tb2Hf27の(622)面の2θの角度の値(°)、PTbは酸化テルビウムの(622)面の2θの角度の値(°)である。)
以上の結果を表1に示す。
表1より、焼成温度1200℃以上でパイロクロア化率が50%以上となり、立方晶パイロクロア型酸化物が主成分の焼成原料となっていることが確認された。
【0060】
【表1】
【0061】
上記組成式(1)におけるRがスズ(Sn)である場合も上記ハフニウムと同様にして、焼成温度ごとに焼成原料のパイロクロア化率を求めたところ、焼成温度1200℃以上でパイロクロア化率が50%以上となり、立方晶パイロクロア型酸化物が主成分の焼成原料となっていることが確認された(表2)。なお、Tb2Sn27の(622)面の2θの角度(PTbSn)を58.706°とした。
【0062】
【表2】
【0063】
上記組成式(1)におけるRがチタン(Ti)である場合も上記ハフニウムと同様にして、焼成温度ごとに焼成原料のパイロクロア化率を求めたところ、焼成温度1200℃以上でパイロクロア化率が50%以上となり、立方晶パイロクロア型酸化物が主成分の焼成原料となっていることが確認された(表3)。なお、Tb2Ti27の(622)面の2θの角度(PTbTi)を60.561°とした。
【0064】
【表3】
【0065】
上記組成式(1)におけるRがジルコニウム(Zr)である場合、焼成原料粉末については上記のパイロクロア化率算出方法が一応適用できた。ただし、(622)面の2θの角度(58.4°付近)のところ、並びにそれ以上の広角側のピークパターンが常にすべてスプリットしていることが判明した。これはCu−Kα1線とKα2線の広角側のダブルピークとは別に見られる明確な混晶ピークであり、おそらくはTbサイトにZrイオンが固溶した、わずかに格子定数の小さなTb(Zr)47-α立方晶であると考えられた。そして、このTb(Zr)47-α立方晶成分は焼結体でも無くならず、残り続けた。その一例を図4に示す。
【0066】
そこで、Tb2Zr27の焼成原料のパイロクロア化率については、上記式(i)を用いて仮のパイロクロア化率を求め、次いで(622)面の2θの角度のところのパイロクロア型立方晶ピーク(低角側)とTb(Hf)47-α立方晶ピーク(広角側)とのピーク強度比を基に以下の式(ii)で補正係数K(622)を算出し、これを上記仮のパイロクロア化率に乗じてパイロクロア化率とした。なお、Tb2Zr27の(622)面の2θの角度(PTbZr)を58.383°とした。
(622)=ITbZr/(ITbZr+ITbZr’) (ii)
(式中、ITbZrは焼成原料のパイロクロア型立方晶成分の(622)面でのピーク強度(Counts)、ITbZr’は焼成原料のTb(Zr)47-α立方晶成分の(622)面でのピーク強度(Counts)である。)
その結果を表4に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
以上の結果をまとめると、1200℃以上で焼成処理した最初の3種の原料については、いずれも立方晶パイロクロア型酸化物を主成分とする酸化物原料となっていることが確認された。また、1200℃以上で焼成処理したTb2Zr27については立方晶パイロクロア型酸化物相の他に立方晶であるビックスバイト型酸化物相が混在していたが、立方晶パイロクロア型酸化物を主成分とする酸化物原料となっていることが確認された。
【0069】
前記の確認テストで作製した原料のうち、いずれの組成(4種)についても1400℃、1200℃、1100℃、1000℃で焼成処理して得られた原料(各4水準)について、再度エタノール中でジルコニア製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は40時間であった。その後再びスプレードライ処理を行って、いずれも平均粒子径が20μmの顆粒状パイロクロア型酸化物原料を作製した。
【0070】
こうして得られた原料につき、それぞれ一軸プレス成形、198MPaの圧力での静水圧プレス処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をマッフル炉中で1000℃、2時間の条件にて脱脂処理した。続いて当該乾燥成形体を真空加熱炉に仕込み、2.0×10-3Pa以下の減圧下、1700℃±20℃で3時間処理して計16種(4種×4水準)の焼結体を得た。このとき、すべてのサンプルの焼結相対密度が92%になるように焼結温度を微調整した。
得られた各焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar中、200MPa、1650℃、3時間の条件でHIP処理した。得られた各焼結体すべてについて、その一部につき、ジルコニア製乳鉢で粉砕処理して粉末形状にした。続いて得られた各粉末サンプルをパナリティカル社製粉末X線回折装置で回折パターン解析した。即ち、焼成原料の場合と同様に、焼結体ごとに得られたX線回折パターンにおいてその組成のパイロクロア型酸化物の結晶相(立方晶及び斜方晶)の回折ピークに該当するピークを取り出した後、これらのピークから立方晶、斜方晶のいずれであるかを特定した。例えば、これらのピークにおいて斜方晶由来のサブピークが存在せず、かつリートベルト解析により立方晶の結晶構造モデルにフィットした場合に、立方晶であると判断した。
【0071】
その結果、最初の3種の粉末サンプルについては焼成温度1200℃以上で処理したものに関してはすべてパイロクロア型酸化物(即ち、それぞれTb2Hf27、Tb2Sn27、Tb2Ti27)の結晶相として立方晶が確認された。また、焼成温度1100℃で処理したものについては3種類のいずれでもパイロクロア型酸化物の結晶相として立方晶が確認された。ただし、その回折ピーク角度は若干低角度側にシフトしており、ある程度ビックスバイト型結晶相からの遷移過程にある不完全なパイロクロア型酸化物であると推定された。なお、1000℃で処理したもの(3種類の粉末サンプル)からはビックスバイト型酸化物とパイロクロア型酸化物の回折パターンの中間状態の回折パターンが確認されたが、Tb2Hf27、Tb2Sn27、Tb2Ti27の(622)面の文献値との乖離が大きいため、パイロクロア型酸化物が主成分であるとは断定しがたかった。
【0072】
また、最後のTb2Zr27の粉末サンプルついては焼成温度1200℃以上で処理したものに関しては立方晶パイロクロア型酸化物の他に立方晶であるビックスバイト型酸化物相が混在していた。また、焼成温度1100℃で処理したTb2Zr27からも立方晶パイロクロア型酸化物と立方晶であるビックスバイト型酸化物の回折パターンが確認された。ただし、(622)面のピーク角度はより低角度側にシフトしていた。なお、焼成温度1000℃で処理したTb2Zr27の粉末サンプルでは、更にTb47の回折パターンの角度に近い立方晶ビックスバイト型の結晶相と立方晶パイロクロア型酸化物の混晶が確認された。
【0073】
次に、4種類の組成の焼結体についてそれぞれ焼成原料の場合と同様の方法によってパイロクロア化率を求めた(表5)。
その結果、最初の3種の焼結体(Tb2Hf27、Tb2Sn27、Tb2Ti27)については焼成温度1200℃以上で処理したものすべてがパイロクロア化率97.8%以上となっており、特に焼成温度1400℃のものでは100%となった。
【0074】
また、Tb2Zr27の焼結体については、焼成温度1200℃以上で処理したものすべてがパイロクロア化率51.5%以上となった。
【0075】
更に、こうして得られた各セラミックス焼結体を、長さ10mmになるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨した。また、これらのサンプルのうちの各1個ずつを抜きとり、以下の方法でSEM観察を実施して平均焼結粒子径を測定した。
【0076】
(平均焼結粒子径の測定方法)
日本電子(株)製のSEM装置(JSM−7000F)を用いて、加速電圧10kVで反射電子像モードで、試料傾斜角0°で、光学研磨サンプルの表面反射電子像を撮影する。この際、各々の焼結粒の粒界コントラストが得られるように明るさ、コントラストを調整する。続いて、J.Am.Ceram.Soc.、52[8]443−6(1969)に記載されている方法に従い、以下の式を使ってSEM像から平均焼結粒子径を算出した。
D(μm)=1.56×LAVE
(式中、Dは平均焼結粒子径(μm)、LAVEは任意の直線を横切る粒子の平均長さ(μm)、なお、算出に使用したLAVEのサンプル数は最低でも100本以上とし、得られた読取り長さの平均値をLAVEの値とした。)
【0077】
次に、上記光学研磨したサンプルについて中心波長が1064nmとなるように設計された反射防止膜をコートした。ここで得られたサンプルの光学外観もチェックした。
【0078】
図1に示すように、得られた各セラミックスサンプルの前後に偏光素子をセットしてから磁石を被せ、IPGフォトニクスジャパン(株)製ハイパワーレーザー(ビーム径1.6mm)を用いて、両端面から、波長1064nmのハイパワーレーザー光線を入射して、直線透過率とベルデ定数、並びに熱レンズの発生しない入射パワーの最大値を測定した。
【0079】
(直線透過率の測定方法)
直線透過率は、NKT Photonics社製の光源とGentec社製のパワーメータ並びにGeフォトディテクタを用いて内製した光学系を用い、波長1064nmの光をビーム径を1〜3mmφでの大きさで透過させたときの光の強度により測定され、以下の式に基づき、JIS K7361及びJIS K7136に準拠して求めた。
直線透過率(%/cm)=I/Io×100
(式中、Iは透過光強度(長さ10mm(1cm)の試料を直線透過した光の強度)、Ioは入射光強度を示す。)
【0080】
(ベルデ定数の測定方法)
ベルデ定数Vは、以下の式に基づいて求めた。
θ=V×H×L
(式中、θはファラデー回転角(min)、Vはベルデ定数、Hは磁界の大きさ(Oe)、Lはファラデー回転子の長さ(この場合、1cm)である。)
【0081】
(熱レンズの発生しない入射パワーの最大値の測定方法)
熱レンズの発生しない入射パワーの最大値は、それぞれの入射パワーの光を1.6mmの空間光にして出射させ、そこへファラデー回転子を挿入した際の焦点距離の変化が0.1m以下となるときの最大入射パワーを読み取ることにより求めた。
なお、使用したハイパワーレーザーは最大出力が100Wまでのため、これ以上の熱レンズ評価はできなかった。
以上の結果を表5にまとめて示す。
【0082】
【表5】
【0083】
上記結果から、実施例1−1〜1−6、参考例1−1、1−2の4種いずれの組成においても焼成温度が1200℃以上であればパイロクロア型立方晶を主相とする材料となり、平均焼結粒子径が2.4μm以下となって、ベルデ定数が0.16min/(Oe・cm)以上であって、かつ透明性にも優れ、熱レンズの発生しない入射パワーの最大値が30W以上となることが確認された。
【0084】
[実施例2、参考例2、比較例2]
上記式(1)において、Bサイト位置にシリコン、ゲルマニウム、チタン、タンタル、スズよりなる群から選択した少なくとも1つの元素を充填し、実施例1の組成以外の組成となるようにした例について説明する。
信越化学工業(株)製の酸化テルビウム粉末、及び(株)高純度化学研究所製のシリカ粉末、二酸化ゲルマニウム粉末、酸化チタン粉末、酸化第2スズ粉末、並びに昭和化学(株)製の五酸化タンタルを入手した。純度はいずれも99.9質量%以上であった。
上記原料を用いて、種々の複合酸化物原料を作製した。即ち、酸化テルビウムとシリカとジルコニアをテルビウムとシリコンとジルコニウムのモル比が2:1:1となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと二酸化ゲルマニウムとジルコニアをテルビウムとゲルマニウムとジルコニウムのモル比が2:1:1となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと酸化チタンと五酸化タンタルをテルビウムとチタンとタンタルのモル比が2:1:1となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと酸化第2スズと五酸化タンタルをテルビウムとスズとタンタルのモル比が2:1:1となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムとシリカをテルビウムとシリコンが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと二酸化ゲルマニウムをテルビウムとゲルマニウムが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと五酸化タンタルをテルビウムとタンタルが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末を用意した。続いて、それぞれ互いの混入を防止するよう注意しながらエタノール中でジルコニア製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は24時間であった。その後スプレードライ処理を行って、いずれも平均粒子径が20μmの顆粒状原料を作製した。続いて、これらの粉末をイリジウムるつぼに入れ高温マッフル炉にて1400℃、3時間で焼成処理した。得られた各焼成原料をパナリティカル社製粉末X線回折装置で回折パターン解析し、実施例1の上記式(1)におけるRがHfである場合と同様にしてパイロクロア化率を求めた。
次に、得られた各種原料を再度エタノール中でジルコニア製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は40時間であった。その後再びスプレードライ処理を行って、いずれも平均粒子径が20μmの顆粒状複合酸化物原料を作製した。
こうして得られた原料につき、それぞれ一軸プレス成形、198MPaの圧力での静水圧プレス処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をマッフル炉中で1000℃、2時間の条件にて脱脂処理した。続いて当該乾燥成形体を真空加熱炉に仕込み、1700℃±20℃で3時間処理して種々の焼結体を得た。このとき、すべてのサンプルの焼結相対密度が92%になるように焼結温度を微調整した。
得られた各焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar中、200MPa、1650℃、3時間の条件でHIP処理した。得られた各焼結体のうちの一部につき、ジルコニア製乳鉢で粉砕処理して粉末形状にした。続いて、実施例1と同様にして得られた各粉末サンプルをパナリティカル社製粉末X線回折装置で回折パターン解析した(表6)。その結果、立方晶パイロクロア型酸化物と確認できた組成が、Tb2Si1Zr17、Tb2Ge1Zr17、Tb2Ti1Ta17、Tb2Sn1Ta17の群であった。またパイロクロア型ではあったものの、結晶系が斜方晶になっていた組成が、Tb2Si27、Tb2Ge27の群であった。最後にTb2Ta27については明確なパイロクロア型の回折パターンは得られず、3つほどの異なる相の混合パターンらしき結果が得られた。ただし正確に同定することはできなかった。そのため、Tb2Ta27+αと表記している。また、同時にパイロクロア化率を求めた。
【0085】
こうして得られた各セラミックス焼結体を、長さ10mmになるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨し、実施例1と同様に平均焼結粒子径Dを測定した。更に中心波長が1064nmとなるように設計された反射防止膜をコートした。ここで得られたサンプルの光学外観もチェックした。
【0086】
図1に示すように、得られた各セラミックスサンプルの前後に偏光素子をセットしてから磁石を被せ、IPGフォトニクスジャパン(株)製ハイパワーレーザー(ビーム径1.6mm)を用いて、両端面から、波長1064nmのハイパワーレーザー光線を入射して、実施例1と同様にして直線透過率とベルデ定数、並びに熱レンズの発生しない入射パワーの最大値を測定した。
なお、使用したハイパワーレーザーは最大出力が100Wまでのため、これ以上の熱レンズ評価はできなかった。
これらの結果を表6にまとめて示す。
【0087】
【表6】
【0088】
上記結果から、Bサイト単体充填では失透又は失透ぎみとなったり、無色透明であっても複屈折が発生したり、熱レンズの発生しない入射パワーの最大値が10W以下となる元素(具体的には、比較例2−1〜2−3におけるシリコン、ゲルマニウム、タンタル)であっても、適当な第3の元素と一緒にBサイトに固溶させた組成にした場合(実施例2−1〜2−3、参考例2−1)には、パイロクロア型立方晶を主相とする材料となり、平均焼結粒子径が2.5μm以下となって、ベルデ定数が0.14min/(Oe・cm)以上であって、かつ透明性にも優れ、熱レンズの発生しない入射パワーの最大値が30W以上となることが確認された。
【0089】
[実施例3]
上記式(1)において、Bサイト位置にハフニウム、ジルコニウムを選定した他の実施例について説明する。
信越化学工業(株)製の酸化テルビウム粉末、及びAmerican Elements社製の酸化ハフニウム粉末並びに日産化学工業(株)製のジルコニア粉末を入手した。純度はいずれも99.9質量%以上であった。
上記原料を用いて、Tb2Hf27、Tb2Zr27の2種のパイロクロア型酸化物原料を作製した。即ち、酸化テルビウムと酸化ハフニウムをテルビウムとハフニウムが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと酸化ジルコニウムをテルビウムとジルコニウムが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末の2種を用意した。続いて、それぞれ互いの混入を防止するよう注意しながらエタノール中でジルコニア製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は24時間であった。その後スプレードライ処理を行って、いずれも平均粒子径が20μmの顆粒状原料を作製した。続いて、これらの粉末をイリジウムるつぼに入れ高温マッフル炉にて1400℃、3時間で焼成処理した。得られた各焼成原料をパナリティカル社製粉末X線回折装置で回折パターン解析し、実施例1の上記式(1)におけるRがHfである場合と同様にしてパイロクロア化率を求めた。
次に、得られた各種原料を再度エタノール中でジルコニア製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は40時間であった。その後再びスプレードライ処理を行って、いずれも平均粒子径が20μmの顆粒状複合酸化物原料を作製した。
こうして得られた原料につき、それぞれ一軸プレス成形、198MPaの圧力での静水圧プレス処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をマッフル炉中で1000℃、2時間の条件にて脱脂処理した。続いて当該乾燥成形体を酸素雰囲気炉、又は水素雰囲気炉に仕込み、おのおの常圧で毎分2Lの流量で酸素ガス又は水素ガスを流しながら、それぞれ1700℃±20℃で3時間処理して種々の焼結体を得た。このとき、すべてのサンプルの焼結相対密度が92%になるように焼結温度を微調整した。
得られた各焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar中、200MPa、1650℃、3時間の条件でHIP処理した。得られた各焼結体のうちの一部につき、ジルコニア製乳鉢で粉砕処理して粉末形状にした。続いて、実施例1と同様にして得られた各粉末サンプルをパナリティカル社製粉末X線回折装置で回折パターン解析した(表7)。その結果、いずれのサンプルについても立方晶パイロクロア型酸化物と確認できた。また、同時にパイロクロア化率を求めた。
こうして得られた各セラミックス焼結体を、長さ10mmになるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨し、実施例1と同様に平均焼結粒子径Dを測定した。更に中心波長が1064nmとなるように設計された反射防止膜をコートした。ここで得られたサンプルの光学外観もチェックした。
図1に示すように、得られた各セラミックスサンプルの前後に偏光素子をセットしてから磁石を被せ、IPGフォトニクスジャパン(株)製ハイパワーレーザー(ビーム径1.6mm)を用いて、両端面から、波長1064nmのハイパワーレーザー光線を入射して、実施例1と同様にして直線透過率とベルデ定数、並びに熱レンズの発生しない入射パワーの最大値を測定した。
なお、使用したハイパワーレーザーは最大出力が100Wまでのため、これ以上の熱レンズ評価はできなかった。
これらの結果を表7にまとめて示す。
【0090】
【表7】
【0091】
上記結果から、焼結処理について真空焼結法以外の所定のガス雰囲気下の焼結処理としても、パイロクロア型立方晶を主相とする材料となり、平均焼結粒子径が2.1μm以下となって、熱レンズの発生しない入射パワーの最大値が30W以上であって、かつベルデ定数が0.16min/(Oe・cm)以上の、透明性にも優れた、磁気光学材料を作製できることが確認された。
【0092】
なお、これまで本発明を実施形態をもって説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0093】
100 光アイソレータ
110 ファラデー回転子
120 偏光子
130 検光子
140 磁石
図1
図2
図3
図4