【実施例】
【0054】
以下に、実施例
、参考例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1、
参考例1、比較例1]
上記式(1)において、Bサイト位置(上記式(1)におけるR)に単一元素を充填した例としてハフニウム、スズ、チタン、ジルコニウムを選定した例について説明する。
信越化学工業(株)製の酸化テルビウム粉末、及びAmerican Elements社製の酸化ハフニウム粉末、並びに(株)高純度化学研究所製の酸化第2スズ粉末、酸化チタン粉末及び日産化学工業(株)製のジルコニア粉末を入手した。純度はいずれも99.9質量%以上であった。
上記原料を用いて、Tb
2Hf
2O
7、Tb
2Sn
2O
7、Tb
2Ti
2O
7、Tb
2Zr
2O
7の4種のパイロクロア型酸化物原料を作製した。即ち、酸化テルビウムと酸化ハフニウムをテルビウムとハフニウムが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと酸化第2スズをテルビウムとスズが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと酸化チタンをテルビウムとチタンが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと酸化ジルコニウムをテルビウムとジルコニウムが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末の4種を用意した。続いて、それぞれ互いの混入を防止するよう注意しながらエタノール中でジルコニア製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は24時間であった。その後スプレードライ処理を行って、いずれも平均粒子径が20μmの顆粒状原料を作製した。
【0056】
続いて、これらの粉末をイリジウムるつぼに入れ高温マッフル炉にて1000℃、1100℃、1200℃、1400℃、1600℃それぞれの温度にて保持時間3時間で焼成処理し、それぞれの組成での焼成原料を得た。得られた各焼成原料をパナリティカル社製粉末X線回折装置で回折パターン解析した。即ち、焼成原料ごとに得られたX線回折パターンにおいてその組成のパイロクロア型酸化物の結晶相(立方晶及び斜方晶)の回折ピークに相当するピークを取り出した後、これらのピークから立方晶、斜方晶のいずれであるかを特定した。例えば、これらのピークにおいて斜方晶由来のサブピークが存在せず、かつリートベルト解析により立方晶の結晶構造モデルにフィットした場合に、立方晶であると判断した。
【0057】
その結果、最初の3種の焼成原料については1200℃以上で処理したものに関してはすべてパイロクロア型酸化物(即ち、それぞれTb
2Hf
2O
7、Tb
2Sn
2O
7、Tb
2Ti
2O
7)ないしはビックスバイト型酸化物の結晶相、あるいはその中間遷移相と考えられる立方晶が確認された。また、1100℃で処理した原料でも上記1200℃以上で処理した場合と同様の立方晶が確認された。ただし、その回折ピーク位置は、よりビックスバイト型酸化物の回折ピーク位置に近かった。なお、1000℃で処理した原料からはパイロクロア型酸化物の結晶相の明確な回折パターンは検知されず、代わりにビックスバイト型酸化物の結晶相と、酸化ハフニウムの単斜晶ないしは酸化スズ、酸化チタンの正方晶の回折パターンが検知された。
【0058】
また、最後のTb
2Zr
2O
7については1200℃以上で処理したものに関しては立方晶パイロクロア型酸化物の他に立方晶であるビックスバイト型酸化物相が混在していた。また、1100℃で処理したTb
2Zr
2O
7でも上記1200℃以上で処理した場合と同様の立方晶の混晶が確認された。なお、1000℃で処理した原料からはパイロクロア型酸化物の結晶相の明確な回折パターンは検知されず、代わりにビックスバイト型酸化物の結晶相と、酸化ジルコニウムの単斜晶の回折パターンが検知された。
【0059】
次に、以下の方法で焼成原料それぞれのパイロクロア化率を求めた。
(パイロクロア化率の測定)
ここでは、上記組成式(1)におけるRがハフニウム(Hf)である場合を例に説明する。
まず、酸化テルビウム(Tb
4O
7)と作製しようとするパイロクロア型酸化物、即ち理想的な立方晶パイロクロア型酸化物(Tb
2Hf
2O
7)の、いずれも4つの主回折面のうち、最も広角側の回折面である(622)面の2θの角度(P
Tb、P
TbHf)を文献値より入手する。例えば、酸化テルビウム(Tb
4O
7)のP
Tbは、J.Am.Chem.Soc.Vol.76 p5242−5244(1954)より入手し、Tb
2Hf
2O
7のP
TbHfは、Solid State Sciences. Vol.14 p1405−1411(2012)より入手する。
続いて、パナリティカル社製粉末X線回折装置を用いて、Out−of−plane法(2θ/ωスキャン法)で各焼成温度(1400℃(実施例1−1)、1200℃(実施例1−
4)、1100℃(比較例1−1)、1000℃(比較例1−
4))で作製した焼成原料粉末のX線回折パターンを測定する。XRD条件は、Cu−Kα1,2(管球電圧45kV−電流200mA)で、1mm×2mmのスリットコリメーションで、走査範囲10〜110°、ステップ幅0.02°とした。
図2に、焼成温度ごとの焼成原料粉末(実施例1−1,1−
4、比較例1−1,1−
4)のX線回折パターン及び酸化テルビウム(Tb
4O
7)と理想的な立方晶パイロクロア型酸化物(Tb
2Hf
2O
7)の文献値のX線回折パターンを示す。また、
図3に、その(622)面近傍のX線回折パターンを示す。
得られた回折パターンのうち、4つの主回折面のうち、最も広角側の回折面である(622)面の2θの角度データを読み取る。その結果を表1に示す。
すると、すべての原料粉末の(622)面の2θの角度の値は、酸化テルビウムのP
TbとTb
2Hf
2O
7のP
TbHfとの間に入ってくることが確認できる。ここで、焼成して得られた原料粉末が、パイロクロア化した立方晶成分と、未だパイロクロア化していない酸化テルビウムと同等の立方晶成分とからなると仮定し、それぞれのモル分率をN
P、(1−N
P)と定義して、ベガード則(Vegard's rule、固溶体の格子定数とモル分率との間におおよその比例関係が成り立つという経験則)に基づく以下の式(i)を用いてモル分率N
Pを計算し、これを焼成原料粉末のパイロクロア化率と定義した。
P
(622)=N
P×P
TbHf+(1−N
P)×P
Tb (i)
(式中、P
(622)は原料粉末の(622)面の2θの角度の値(°)、P
TbHfはパイロクロア型Tb
2Hf
2O
7の(622)面の2θの角度の値(°)、P
Tbは酸化テルビウムの(622)面の2θの角度の値(°)である。)
以上の結果を表1に示す。
表1より、焼成温度1200℃以上でパイロクロア化率が50%以上となり、立方晶パイロクロア型酸化物が主成分の焼成原料となっていることが確認された。
【0060】
【表1】
【0061】
上記組成式(1)におけるRがスズ(Sn)である場合も上記ハフニウムと同様にして、焼成温度ごとに焼成原料のパイロクロア化率を求めたところ、焼成温度1200℃以上でパイロクロア化率が50%以上となり、立方晶パイロクロア型酸化物が主成分の焼成原料となっていることが確認された(表2)。なお、Tb
2Sn
2O
7の(622)面の2θの角度(P
TbSn)を58.706°とした。
【0062】
【表2】
【0063】
上記組成式(1)におけるRがチタン(Ti)である場合も上記ハフニウムと同様にして、焼成温度ごとに焼成原料のパイロクロア化率を求めたところ、焼成温度1200℃以上でパイロクロア化率が50%以上となり、立方晶パイロクロア型酸化物が主成分の焼成原料となっていることが確認された(表3)。なお、Tb
2Ti
2O
7の(622)面の2θの角度(P
TbTi)を60.561°とした。
【0064】
【表3】
【0065】
上記組成式(1)におけるRがジルコニウム(Zr)である場合、焼成原料粉末については上記のパイロクロア化率算出方法が一応適用できた。ただし、(622)面の2θの角度(58.4°付近)のところ、並びにそれ以上の広角側のピークパターンが常にすべてスプリットしていることが判明した。これはCu−Kα1線とKα2線の広角側のダブルピークとは別に見られる明確な混晶ピークであり、おそらくはTbサイトにZrイオンが固溶した、わずかに格子定数の小さなTb(Zr)
4O
7-α立方晶であると考えられた。そして、このTb(Zr)
4O
7-α立方晶成分は焼結体でも無くならず、残り続けた。その一例を
図4に示す。
【0066】
そこで、Tb
2Zr
2O
7の焼成原料のパイロクロア化率については、上記式(i)を用いて仮のパイロクロア化率を求め、次いで(622)面の2θの角度のところのパイロクロア型立方晶ピーク(低角側)とTb(Hf)
4O
7-α立方晶ピーク(広角側)とのピーク強度比を基に以下の式(ii)で補正係数K
(622)を算出し、これを上記仮のパイロクロア化率に乗じてパイロクロア化率とした。なお、Tb
2Zr
2O
7の(622)面の2θの角度(P
TbZr)を58.383°とした。
K
(622)=I
TbZr/(I
TbZr+I
TbZr’) (ii)
(式中、I
TbZrは焼成原料のパイロクロア型立方晶成分の(622)面でのピーク強度(Counts)、I
TbZr’は焼成原料のTb(Zr)
4O
7-α立方晶成分の(622)面でのピーク強度(Counts)である。)
その結果を表4に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
以上の結果をまとめると、1200℃以上で焼成処理した最初の3種の原料については、いずれも立方晶パイロクロア型酸化物を主成分とする酸化物原料となっていることが確認された。また、1200℃以上で焼成処理したTb
2Zr
2O
7については立方晶パイロクロア型酸化物相の他に立方晶であるビックスバイト型酸化物相が混在していたが、立方晶パイロクロア型酸化物を主成分とする酸化物原料となっていることが確認された。
【0069】
前記の確認テストで作製した原料のうち、いずれの組成(4種)についても1400℃、1200℃、1100℃、1000℃で焼成処理して得られた原料(各4水準)について、再度エタノール中でジルコニア製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は40時間であった。その後再びスプレードライ処理を行って、いずれも平均粒子径が20μmの顆粒状パイロクロア型酸化物原料を作製した。
【0070】
こうして得られた原料につき、それぞれ一軸プレス成形、198MPaの圧力での静水圧プレス処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をマッフル炉中で1000℃、2時間の条件にて脱脂処理した。続いて当該乾燥成形体を真空加熱炉に仕込み、2.0×10
-3Pa以下の減圧下、1700℃±20℃で3時間処理して計16種(4種×4水準)の焼結体を得た。このとき、すべてのサンプルの焼結相対密度が92%になるように焼結温度を微調整した。
得られた各焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar中、200MPa、1650℃、3時間の条件でHIP処理した。得られた各焼結体すべてについて、その一部につき、ジルコニア製乳鉢で粉砕処理して粉末形状にした。続いて得られた各粉末サンプルをパナリティカル社製粉末X線回折装置で回折パターン解析した。即ち、焼成原料の場合と同様に、焼結体ごとに得られたX線回折パターンにおいてその組成のパイロクロア型酸化物の結晶相(立方晶及び斜方晶)の回折ピークに該当するピークを取り出した後、これらのピークから立方晶、斜方晶のいずれであるかを特定した。例えば、これらのピークにおいて斜方晶由来のサブピークが存在せず、かつリートベルト解析により立方晶の結晶構造モデルにフィットした場合に、立方晶であると判断した。
【0071】
その結果、最初の3種の粉末サンプルについては焼成温度1200℃以上で処理したものに関してはすべてパイロクロア型酸化物(即ち、それぞれTb
2Hf
2O
7、Tb
2Sn
2O
7、Tb
2Ti
2O
7)の結晶相として立方晶が確認された。また、焼成温度1100℃で処理したものについては3種類のいずれでもパイロクロア型酸化物の結晶相として立方晶が確認された。ただし、その回折ピーク角度は若干低角度側にシフトしており、ある程度ビックスバイト型結晶相からの遷移過程にある不完全なパイロクロア型酸化物であると推定された。なお、1000℃で処理したもの(3種類の粉末サンプル)からはビックスバイト型酸化物とパイロクロア型酸化物の回折パターンの中間状態の回折パターンが確認されたが、Tb
2Hf
2O
7、Tb
2Sn
2O
7、Tb
2Ti
2O
7の(622)面の文献値との乖離が大きいため、パイロクロア型酸化物が主成分であるとは断定しがたかった。
【0072】
また、最後のTb
2Zr
2O
7の粉末サンプルついては焼成温度1200℃以上で処理したものに関しては立方晶パイロクロア型酸化物の他に立方晶であるビックスバイト型酸化物相が混在していた。また、焼成温度1100℃で処理したTb
2Zr
2O
7からも立方晶パイロクロア型酸化物と立方晶であるビックスバイト型酸化物の回折パターンが確認された。ただし、(622)面のピーク角度はより低角度側にシフトしていた。なお、焼成温度1000℃で処理したTb
2Zr
2O
7の粉末サンプルでは、更にTb
4O
7の回折パターンの角度に近い立方晶ビックスバイト型の結晶相と立方晶パイロクロア型酸化物の混晶が確認された。
【0073】
次に、4種類の組成の焼結体についてそれぞれ焼成原料の場合と同様の方法によってパイロクロア化率を求めた(表5)。
その結果、最初の3種の焼結体(Tb
2Hf
2O
7、Tb
2Sn
2O
7、Tb
2Ti
2O
7)については焼成温度1200℃以上で処理したものすべてがパイロクロア化率97.8%以上となっており、特に焼成温度1400℃のものでは100%となった。
【0074】
また、Tb
2Zr
2O
7の焼結体については、焼成温度1200℃以上で処理したものすべてがパイロクロア化率51.5%以上となった。
【0075】
更に、こうして得られた各セラミックス焼結体を、長さ10mmになるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨した。また、これらのサンプルのうちの各1個ずつを抜きとり、以下の方法でSEM観察を実施して平均焼結粒子径を測定した。
【0076】
(平均焼結粒子径の測定方法)
日本電子(株)製のSEM装置(JSM−7000F)を用いて、加速電圧10kVで反射電子像モードで、試料傾斜角0°で、光学研磨サンプルの表面反射電子像を撮影する。この際、各々の焼結粒の粒界コントラストが得られるように明るさ、コントラストを調整する。続いて、J.Am.Ceram.Soc.、52[8]443−6(1969)に記載されている方法に従い、以下の式を使ってSEM像から平均焼結粒子径を算出した。
D(μm)=1.56×L
AVE
(式中、Dは平均焼結粒子径(μm)、L
AVEは任意の直線を横切る粒子の平均長さ(μm)、なお、算出に使用したL
AVEのサンプル数は最低でも100本以上とし、得られた読取り長さの平均値をL
AVEの値とした。)
【0077】
次に、上記光学研磨したサンプルについて中心波長が1064nmとなるように設計された反射防止膜をコートした。ここで得られたサンプルの光学外観もチェックした。
【0078】
図1に示すように、得られた各セラミックスサンプルの前後に偏光素子をセットしてから磁石を被せ、IPGフォトニクスジャパン(株)製ハイパワーレーザー(ビーム径1.6mm)を用いて、両端面から、波長1064nmのハイパワーレーザー光線を入射して、直線透過率とベルデ定数、並びに熱レンズの発生しない入射パワーの最大値を測定した。
【0079】
(直線透過率の測定方法)
直線透過率は、NKT Photonics社製の光源とGentec社製のパワーメータ並びにGeフォトディテクタを用いて内製した光学系を用い、波長1064nmの光をビーム径を1〜3mmφでの大きさで透過させたときの光の強度により測定され、以下の式に基づき、JIS K7361及びJIS K7136に準拠して求めた。
直線透過率(%/cm)=I/Io×100
(式中、Iは透過光強度(長さ10mm(1cm)の試料を直線透過した光の強度)、Ioは入射光強度を示す。)
【0080】
(ベルデ定数の測定方法)
ベルデ定数Vは、以下の式に基づいて求めた。
θ=V×H×L
(式中、θはファラデー回転角(min)、Vはベルデ定数、Hは磁界の大きさ(Oe)、Lはファラデー回転子の長さ(この場合、1cm)である。)
【0081】
(熱レンズの発生しない入射パワーの最大値の測定方法)
熱レンズの発生しない入射パワーの最大値は、それぞれの入射パワーの光を1.6mmの空間光にして出射させ、そこへファラデー回転子を挿入した際の焦点距離の変化が0.1m以下となるときの最大入射パワーを読み取ることにより求めた。
なお、使用したハイパワーレーザーは最大出力が100Wまでのため、これ以上の熱レンズ評価はできなかった。
以上の結果を表5にまとめて示す。
【0082】
【表5】
【0083】
上記結果から、実施例1−1〜1−
6、参考例1−1、1−2の4種いずれの組成においても焼成温度が1200℃以上であればパイロクロア型立方晶を主相とする材料となり、平均焼結粒子径が2.4μm以下となって、ベルデ定数が0.16min/(Oe・cm)以上であって、かつ透明性にも優れ、熱レンズの発生しない入射パワーの最大値が30W以上となることが確認された。
【0084】
[実施例2、
参考例2、比較例2]
上記式(1)において、Bサイト位置にシリコン、ゲルマニウム、チタン、タンタル、スズよりなる群から選択した少なくとも1つの元素を充填し、実施例1の組成以外の組成となるようにした例について説明する。
信越化学工業(株)製の酸化テルビウム粉末、及び(株)高純度化学研究所製のシリカ粉末、二酸化ゲルマニウム粉末、酸化チタン粉末、酸化第2スズ粉末、並びに昭和化学(株)製の五酸化タンタルを入手した。純度はいずれも99.9質量%以上であった。
上記原料を用いて、種々の複合酸化物原料を作製した。即ち、酸化テルビウムとシリカとジルコニアをテルビウムとシリコンとジルコニウムのモル比が2:1:1となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと二酸化ゲルマニウムとジルコニアをテルビウムとゲルマニウムとジルコニウムのモル比が2:1:1となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと酸化チタンと五酸化タンタルをテルビウムとチタンとタンタルのモル比が2:1:1となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと酸化第2スズと五酸化タンタルをテルビウムとスズとタンタルのモル比が2:1:1となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムとシリカをテルビウムとシリコンが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと二酸化ゲルマニウムをテルビウムとゲルマニウムが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと五酸化タンタルをテルビウムとタンタルが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末を用意した。続いて、それぞれ互いの混入を防止するよう注意しながらエタノール中でジルコニア製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は24時間であった。その後スプレードライ処理を行って、いずれも平均粒子径が20μmの顆粒状原料を作製した。続いて、これらの粉末をイリジウムるつぼに入れ高温マッフル炉にて1400℃、3時間で焼成処理した。得られた各焼成原料をパナリティカル社製粉末X線回折装置で回折パターン解析し、実施例1の上記式(1)におけるRがHfである場合と同様にしてパイロクロア化率を求めた。
次に、得られた各種原料を再度エタノール中でジルコニア製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は40時間であった。その後再びスプレードライ処理を行って、いずれも平均粒子径が20μmの顆粒状複合酸化物原料を作製した。
こうして得られた原料につき、それぞれ一軸プレス成形、198MPaの圧力での静水圧プレス処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をマッフル炉中で1000℃、2時間の条件にて脱脂処理した。続いて当該乾燥成形体を真空加熱炉に仕込み、1700℃±20℃で3時間処理して種々の焼結体を得た。このとき、すべてのサンプルの焼結相対密度が92%になるように焼結温度を微調整した。
得られた各焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar中、200MPa、1650℃、3時間の条件でHIP処理した。得られた各焼結体のうちの一部につき、ジルコニア製乳鉢で粉砕処理して粉末形状にした。続いて、実施例1と同様にして得られた各粉末サンプルをパナリティカル社製粉末X線回折装置で回折パターン解析した(表6)。その結果、立方晶パイロクロア型酸化物と確認できた組成が、Tb
2Si
1Zr
1O
7、Tb
2Ge
1Zr
1O
7、Tb
2Ti
1Ta
1O
7、Tb
2Sn
1Ta
1O
7の群であった。またパイロクロア型ではあったものの、結晶系が斜方晶になっていた組成が、Tb
2Si
2O
7、Tb
2Ge
2O
7の群であった。最後にTb
2Ta
2O
7については明確なパイロクロア型の回折パターンは得られず、3つほどの異なる相の混合パターンらしき結果が得られた。ただし正確に同定することはできなかった。そのため、Tb
2Ta
2O
7+αと表記している。また、同時にパイロクロア化率を求めた。
【0085】
こうして得られた各セラミックス焼結体を、長さ10mmになるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨し、実施例1と同様に平均焼結粒子径Dを測定した。更に中心波長が1064nmとなるように設計された反射防止膜をコートした。ここで得られたサンプルの光学外観もチェックした。
【0086】
図1に示すように、得られた各セラミックスサンプルの前後に偏光素子をセットしてから磁石を被せ、IPGフォトニクスジャパン(株)製ハイパワーレーザー(ビーム径1.6mm)を用いて、両端面から、波長1064nmのハイパワーレーザー光線を入射して、実施例1と同様にして直線透過率とベルデ定数、並びに熱レンズの発生しない入射パワーの最大値を測定した。
なお、使用したハイパワーレーザーは最大出力が100Wまでのため、これ以上の熱レンズ評価はできなかった。
これらの結果を表6にまとめて示す。
【0087】
【表6】
【0088】
上記結果から、Bサイト単体充填では失透又は失透ぎみとなったり、無色透明であっても複屈折が発生したり、熱レンズの発生しない入射パワーの最大値が10W以下となる元素(具体的には、比較例2−1〜2−3におけるシリコン、ゲルマニウム、タンタル)であっても、適当な第3の元素と一緒にBサイトに固溶させた組成にした場合(実施例2−1〜2−
3、参考例2−1)には、パイロクロア型立方晶を主相とする材料となり、平均焼結粒子径が2.5μm以下となって、ベルデ定数が0.14min/(Oe・cm)以上であって、かつ透明性にも優れ、熱レンズの発生しない入射パワーの最大値が30W以上となることが確認された。
【0089】
[実施例3]
上記式(1)において、Bサイト位置にハフニウム、ジルコニウムを選定した他の実施例について説明する。
信越化学工業(株)製の酸化テルビウム粉末、及びAmerican Elements社製の酸化ハフニウム粉末並びに日産化学工業(株)製のジルコニア粉末を入手した。純度はいずれも99.9質量%以上であった。
上記原料を用いて、Tb
2Hf
2O
7、Tb
2Zr
2O
7の2種のパイロクロア型酸化物原料を作製した。即ち、酸化テルビウムと酸化ハフニウムをテルビウムとハフニウムが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末、酸化テルビウムと酸化ジルコニウムをテルビウムとジルコニウムが等量モル比率となるよう秤量した混合粉末の2種を用意した。続いて、それぞれ互いの混入を防止するよう注意しながらエタノール中でジルコニア製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は24時間であった。その後スプレードライ処理を行って、いずれも平均粒子径が20μmの顆粒状原料を作製した。続いて、これらの粉末をイリジウムるつぼに入れ高温マッフル炉にて1400℃、3時間で焼成処理した。得られた各焼成原料をパナリティカル社製粉末X線回折装置で回折パターン解析し、実施例1の上記式(1)におけるRがHfである場合と同様にしてパイロクロア化率を求めた。
次に、得られた各種原料を再度エタノール中でジルコニア製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は40時間であった。その後再びスプレードライ処理を行って、いずれも平均粒子径が20μmの顆粒状複合酸化物原料を作製した。
こうして得られた原料につき、それぞれ一軸プレス成形、198MPaの圧力での静水圧プレス処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をマッフル炉中で1000℃、2時間の条件にて脱脂処理した。続いて当該乾燥成形体を酸素雰囲気炉、又は水素雰囲気炉に仕込み、おのおの常圧で毎分2Lの流量で酸素ガス又は水素ガスを流しながら、それぞれ1700℃±20℃で3時間処理して種々の焼結体を得た。このとき、すべてのサンプルの焼結相対密度が92%になるように焼結温度を微調整した。
得られた各焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar中、200MPa、1650℃、3時間の条件でHIP処理した。得られた各焼結体のうちの一部につき、ジルコニア製乳鉢で粉砕処理して粉末形状にした。続いて、実施例1と同様にして得られた各粉末サンプルをパナリティカル社製粉末X線回折装置で回折パターン解析した(表7)。その結果、いずれのサンプルについても立方晶パイロクロア型酸化物と確認できた。また、同時にパイロクロア化率を求めた。
こうして得られた各セラミックス焼結体を、長さ10mmになるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨し、実施例1と同様に平均焼結粒子径Dを測定した。更に中心波長が1064nmとなるように設計された反射防止膜をコートした。ここで得られたサンプルの光学外観もチェックした。
図1に示すように、得られた各セラミックスサンプルの前後に偏光素子をセットしてから磁石を被せ、IPGフォトニクスジャパン(株)製ハイパワーレーザー(ビーム径1.6mm)を用いて、両端面から、波長1064nmのハイパワーレーザー光線を入射して、実施例1と同様にして直線透過率とベルデ定数、並びに熱レンズの発生しない入射パワーの最大値を測定した。
なお、使用したハイパワーレーザーは最大出力が100Wまでのため、これ以上の熱レンズ評価はできなかった。
これらの結果を表7にまとめて示す。
【0090】
【表7】
【0091】
上記結果から、焼結処理について真空焼結法以外の所定のガス雰囲気下の焼結処理としても、パイロクロア型立方晶を主相とする材料となり、平均焼結粒子径が2.1μm以下となって、熱レンズの発生しない入射パワーの最大値が30W以上であって、かつベルデ定数が0.16min/(Oe・cm)以上の、透明性にも優れた、磁気光学材料を作製できることが確認された。
【0092】
なお、これまで本発明を実施形態をもって説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。