特許第6136017号(P6136017)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6136017-ニッケル粉末の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136017
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】ニッケル粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20170522BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20170522BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20170522BHJP
   H01G 4/232 20060101ALI20170522BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   B22F9/24 C
   B22F1/00 M
   C22C19/03 M
   H01G4/12 361
   H01G4/30 311
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-34595(P2014-34595)
(22)【出願日】2014年2月25日
(65)【公開番号】特開2015-158000(P2015-158000A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】植田 貴広
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−292950(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0191608(US,A1)
【文献】 特開2001−073007(JP,A)
【文献】 米国特許第06454830(US,B1)
【文献】 特開2005−342581(JP,A)
【文献】 特開2011−156520(JP,A)
【文献】 特開2011−149080(JP,A)
【文献】 特開2005−240164(JP,A)
【文献】 特開2005−248198(JP,A)
【文献】 特開2011−195888(JP,A)
【文献】 特開平11−253886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00〜9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ニッケル粉末が水中で高分散状態となる水スラリーを形成し、前記水スラリーを湿式分級処理してニッケルスラリーを形成する第1工程と、
前記第1工程により得られた前記ニッケルスラリーを固液分離後に固相成分を乾燥してニッケル粉末を形成し、還元雰囲気下で前記ニッケル粉末を加熱する第2工程と、
前記第2工程で得られたニッケル粉末を乾式分級処理する第3工程と
を含むことを特徴とするニッケル粉末の製造方法。
【請求項2】
前記原料ニッケル粉末が、湿式還元法を用いて生成されたニッケル粉末であることを特徴とする請求項1に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項3】
前記原料ニッケル粉末が、ニッケル塩水溶液と、還元剤と、パラジウムと銀とを含むアルカリ性コロイド溶液とからニッケル粉末を晶析させる湿式還元法を用いて生成されたニッケル粉末であることを特徴とする請求項2に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程における還元雰囲気が、1〜50体積%の水素を含む不活性ガス雰囲気であることを特徴とする請求項1〜3項のいずれか1項に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程における還元雰囲気下でニッケル粉末を加熱する工程の加熱温度が、150〜350℃であることを特徴とする請求項1〜4項のいずれか1項に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項6】
前記第3工程を経て得られたニッケル粉末における1.0μm以上の粒径を有する粗大粒子の数が、全粒子数の5ppm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程を経て得られたニッケル粉末の平均粒径が、0.1〜0.3μmであることを特徴とする請求項6に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項8】
前記第3工程を経て得られたニッケル粉末の酸素含有量が、1.5質量%以下であることを特徴とする請求項6または7に記載のニッケル粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサ(multilayer ceramic capacitors:MLCC)の内部電極として好適に用いることができるニッケル粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ニッケル粉末は、厚膜導電体を作製するための導電ペーストの材料として使用されてきている。この厚膜導電体は、電気回路の形成、積層セラミックコンデンサ及び多層セラミック基板等の積層セラミック部品の電極等に用いられ、特に積層セラミックコンデンサでは、小型・高容量化の要求から高積層化が進み、そのために用いる導電ペーストの使用量も大幅に増加している。このため、導電ペーストに使用する金属粉末としては、高価な貴金属の使用を避け、安価なニッケルなどの卑金属が主流となっている。
【0003】
この積層セラミックコンデンサは、例えば、次のような方法で製造される。
まず、ニッケル粉末と、エチルセルロース等の樹脂と、ターピネオール等の有機溶剤等とを混練して得られた導電ペーストを、誘電体グリーンシート上にスクリーン印刷して内部電極を作製する。次に、印刷された内部電極が交互に重なるように誘電体グリーンシートを積層し、圧着する。その後、積層体を所定の大きさにカットし、有機バインダとして使用したエチルセルロース等の樹脂の燃焼除去を行うための脱バインダ処理を行った後、1300℃まで高温焼成してセラミック体を得る。そして、このセラミック体に外部電極を取り付け、積層セラミックコンデンサを作製するものである。
【0004】
ところで、内部電極となる導電ペースト中の金属粉末は、上記のように、貴金属よりもニッケルなどの卑金属が主流となってきていることから、積層体の脱バインダ処理では、ニッケル粉末などが酸化しないように、酸素含有量を極めて微量にした雰囲気下にて行われている。
【0005】
さらに、近年、小型化及び大容量化が求められている積層セラミックコンデンサにおいて、その小型化及び大容量化を達成するために、積層セラミックコンデンサを構成する内部電極及び誘電体共に、薄層化が進められている。特に、内部電極に使用されるニッケル粉末の粒径は、0.5μm以下が主流となっている。
この内部電極に使用されるニッケル粉末はさまざまな特性が求められているが、その一つに粗大粒子を含まないことが重要となっている。その理由は、粗大粒子を含むと、内部電極層から粗大粒子が突き出してしまい、別の内部電極層と接触して短絡を起こしてしまうからである。
【0006】
この粗大粒子の混在に対応するために、ニッケル粉粒子の形成の際に、粗大粒子の発生を抑制する方法が提案されている(特許文献1)。また、ニッケル粉粒子が形成された後に、水中分散させ湿式分級機で粗大粒子除去をする方法(特許文献2)、もしくは、乾式分級機で粗大粒子除去をする方法(特許文献3)が提案されている。
しかしながら、これらの方法では、特に、薄層化が十分に期待できる平均粒径が0.3μm以下の微粒子の領域において、粗大粒子が含まれていないニッケル粉末を安定的に製造することが難しく、粗大粒子を含まないニッケル粉末を作製する製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−138291号公報
【特許文献2】特開2004−292950号公報
【特許文献3】特開平11−253886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、薄層化された積層セラミックコンデンサの内部電極を作製するために、好適なニッケル粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
具体的には、平均粒径が0.1〜0.3μmであり、粒子の長径が1.0μm以上の粗大粒子が5ppm以下であるニッケル粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ニッケル粉末が水スラリー中で高分散状態を形成し、その状態から湿式分級を施し、その後還元雰囲気下での加熱を経て、さらに乾式分級することで、薄膜化された積層セラミックコンデンサの内部電極を形成する好適なニッケル粉末が得られることを見出し、本発明の完成に至ったものである。
【0010】
すなわち本発明に係る発明の第1の発明は、原料ニッケル粉末が水中で高分散状態となる水スラリーを形成し、その水スラリーを湿式分級処理してニッケルスラリーを形成する第1工程と、第1工程により得られたニッケルスラリーを固液分離後に固相成分を乾燥してニッケル粉末を形成し、還元雰囲気下でニッケル粉末を加熱する第2工程と、第2工程で得られたニッケル粉末を乾式分級処理する第3工程とを含むことを特徴とするニッケル粉末の製造方法である。
【0011】
本発明の第2の発明は、第1の発明における原料ニッケル粉末が、湿式還元法を用いて生成されたニッケル粉末であることを特徴とするニッケル粉末の製造方法である。
【0012】
本発明の第3の発明は、第2の発明における原料ニッケル粉末が、ニッケル塩水溶液と、還元剤と、パラジウムと銀とを含むアルカリ性コロイド溶液とからニッケル粉末を晶析させる湿式還元法を用いて生成されたニッケル粉末であることを特徴とするニッケル粉末の製造方法である。
【0013】
本発明の第4の発明は、第1から第3の発明の第2工程における還元雰囲気が、1〜50体積%の水素を含む不活性ガス雰囲気であることを特徴とするニッケル粉末の製造方法である。
【0014】
本発明の第5の発明は、第1から第4の発明の第2工程における還元雰囲気下でニッケル粉末を加熱する工程の加熱温度が、150〜350℃であることを特徴とするニッケル粉末の製造方法である。
【0015】
本発明の第6の発明は、第1から第5の発明における第3工程を経て得られたニッケル粉末の1.0μm以上の粒径を有する粗大粒子の数が、全粒子数の5ppm以下であることを特徴とするニッケル粉末の製造方法である。
【0016】
本発明の第7の発明は、第6の発明における第3工程を経て得られたニッケル粉末の平均粒径が、0.1〜0.3μmであることを特徴とするニッケル粉末の製造方法である。
【0017】
本発明の第8の発明は、第6又は第7の発明における第3工程を経て得られたニッケル粉末の酸素含有量が、1.5質量%以下であることを特徴とするニッケル粉末の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るニッケル粉末の製造方法によれば、平均粒径が0.1〜0.3μmで、その粒子の粒子長径が1.0μm以上の粗大粒子の含有量が5ppm以下のニッケル粒子を製造可能である。
そのため、薄膜化された積層セラミックコンデンサの内部電極に用いれば、粗大粒子に起因する内部電極の短絡を引き起こす可能性を低減でき、コンデンサの製品歩留まりを向上させることができ、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の製造方法を示す製造フロー図である。
図2】本発明により得られたニッケル粉末の走査型電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の製造方法は、図1の製造フロー図に示されるように、原料ニッケル粉末を水スラリーにして高分散状態とした後に、湿式分級処理を行う第1工程と、水スラリーの湿式分級処理により形成されたニッケルスラリーを乾燥後、還元雰囲気下での加熱処理を行う第2工程と、加熱後のニッケル粉末の乾式分級処理を行う第3工程からなることを特徴とするものである。
【0021】
なお、本発明以外の粗大粒子除去を行う処理工程としては、得られたニッケル粉末を用いた高分散状態の水スラリーを作製し、一度湿式分級した後に固液分離と乾燥によりニッケル粉末を得る第1方法、得られたニッケル粉末を用いた高分散状態の水スラリーを作製し一度湿式分級した後に複数回さらに湿式分級した後に固液分離と乾燥によりニッケル粉末を得る第2方法、得られたニッケル粉末を一度乾式分級しニッケル粉末を得る第3方法、得られたニッケル粉末を一度乾式分級した後に複数回さらに乾式分級を行いニッケル粉末を得る第4方法、第1、2方法で得られたニッケル粉末の乾式分級を行うことによってニッケル粉末を得る第5方法などが考えられる。
【0022】
高分散状態の水スラリー処理を経る第1、2、5方法では、高分散状態の水スラリーとする際にニッケル粉末の表面が水中で高圧摩砕されることで表面大部分が水酸化物となることが多く、乾燥した後もニッケル粉末の表面は水酸化物支配的な状態となる。そのため、この粉末と石油系溶剤などを用いて内部電極ペーストとした際に、用いられる石油系の溶剤とニッケル粉末が上手く馴染まず、粉末のみが再凝集し粉末と溶剤が分離しやすい状態が発現することが多く、好ましい内部電極ペーストは得られない。
【0023】
得られたニッケル粉末を一度乾式分級しニッケル粉末を得る第3方法では、粗大粒子が十分なレベルにまで除去できていないことが多く、粗大粒子除去の信頼性が低い状態となる。
【0024】
得られたニッケル粉末を、一度乾式分級した後に複数回さらに乾式分級を行いニッケル粉末を得る第4方法では、繰り返して乾式分級を行うことで、粗大粒子除去の信頼性を高めることは可能であるが、乾式分級機の機内付着、堆積が発生し連続的な処理による生産が困難になる問題点が発現する。
【0025】
以上のことから、本発明以外に考えられる第1〜5方法などの分級処理工程では、好適なMLCC用ニッケル粉末を得ることは困難であり、生産および特性面において求められるニッケル粉末を得る方法は、本発明に係るニッケル粉の製造方法が適したものである。
【0026】
<ニッケル粉の製造方法>
以下、本発明の詳細な説明を行う。
本発明は、湿式還元法、CVD法やプラズマ法などの気相法、噴霧熱分解法等、種々の方式により得られたニッケル粉末を原料ニッケル粉末に用いることができるが、湿式分級前に水スラリーとすることから、容易に水スラリーとすることができる湿式還元法により得られたニッケル粉末に適用するのが好適である。以下に湿式還元法にて得られたニッケル粉末を原料ニッケル粉末の具体例として説明するが、もちろんこれに限定されることはない。
【0027】
[原料ニッケル粉末]
湿式還元法によってニッケル粉末を得る工程は、公知の方法を用いればよく、還元剤とニッケル塩水溶液と必要に応じて錯化剤や分散剤を添加してニッケル粉末を晶析させる。
本発明では、平均粒径が0.1〜0.3μmの原料ニッケル粉末を得るために、特許第4957172号公報に記載されているパラジウムと銀とを含むアルカリ性コロイド溶液をさらに添加することが望ましい。
【0028】
[第1工程]
第1工程は、上記方法により得られたニッケル粉末を原料ニッケル粉末として用い、その原料ニッケル粉末を水スラリーにして高分散状態とした後に、湿式分級する工程である。
湿式還元法によって得られたニッケル粉末(原料ニッケル粉末)と反応溶液とを、公知の方法で固液分離し、その固相成分に純水を添加し、ニッケル粉末を純水中で高分散させた水スラリーを形成し、それを湿式分級機で分級させる方法が望ましい。
湿式還元法以外の方法で得られたニッケル粉末の場合は、直接純水を添加して純水中で高分散させ水スラリーとすればよい。また水スラリーとする前に不純物成分を除去するために洗浄を加えてもよい。
【0029】
高分散させる方法としては、湿式カウンタージェットミル、攪拌槽の内壁とほぼ同径の径の攪拌羽根が高速回転することによりスラリー中の粉末粒子表面を磨砕する湿式粉砕機、例えばアルティマイザー(スギノマシン株式会社製)やTKフィルミックス(特殊機化工業株式会社製)等がある。また、別の手段としては、ポンプにより加圧したスラリーを段階的に狭くした流路に通して加速し、ダイヤモンドの固いプレートに衝突させて磨砕する装置、例えば、マイクロフルイダイザー(みずほ工業株式会社製)やナノマイザー(吉田機械工業株式会社製)等を用いることができる。
【0030】
ここで、最初に湿式分級を行う理由について述べる。
製品の粗大粒子除去レベルを担保するためには最終工程で分級処理がなされていることが望ましい。そのため最終工程は乾式分級か湿式分級になる。
仮に湿式分級である場合は、仕上がったニッケル粉末表面が水酸化物となりペーストにした際に先に述べた不具合が発生しやすい。よって最終工程は乾式分級となる。
【0031】
すでに述べたように粗大粒子除去の信頼性を担保するために乾式分級を1回のみ、もしくは複数回繰り返して行うことは非現実的である。そのため、分級を繰り返して粗大粒子除去の信頼性を担保するためには、最終処理の乾式分級の前に別の手法で分級しておくことになり、その分級方法は湿式分級が望ましいことになる。
【0032】
湿式による分級には、サイクロン方式、遠心分離方式による装置、例えば、ハイドロサイクロン(日本化学機械製造株式会社製)、LCSS(株式会社CMS社製)、ナノカット/マイクロカット(Krettek社製)等を用いることができる。
【0033】
[第2工程]
第2工程は、分級後のニッケルスラリーの固液分離と、固相成分の乾燥後に、得られたニッケル粉末を還元雰囲気下で加熱する工程である。
この第2工程の役割は、高分散状態の水スラリーの形成から湿式分級までに形成されたニッケル粉末表面の過剰な水酸化物を除去するものである。
【0034】
湿式分級後の乾燥は公知の方法を用いればよく、この乾燥後に得られたニッケル粉末の還元雰囲気での加熱の条件は、用いる還元雰囲気として水素濃度が1〜50体積%となる量の水素ガスと不活性ガスからなる混合ガスを用い、加熱炉に供給するのが望ましい。
水素ガス濃度が1体積%未満であると、ニッケル粉末表面の水酸化物等の除去が十分に進行せず、効果が明確に現れない。一方、水素ガス濃度が50体積%より多くても、その効果に変わりはない。
不活性ガスは特に限定されず、窒素ガス、アルゴンガスなどが使用できる。
【0035】
さらに、加熱温度は150〜350℃であることが望ましい。加熱温度が150℃未満であると、ニッケル粉末表面の水酸化物等の除去が十分に進行せず、効果が明確に現れない。加熱温度が350℃より高い場合、ニッケル粉末同士のネッキング、焼結による粗大粒子の発生が生じてしまうので望ましくない。
加熱に用いる炉は、還元雰囲気で使用できるものであれば特に限定されず、バッチ炉、ローラーハース炉またはプッシャー炉などを用いることが出来る。
【0036】
[第3工程]
第3工程では、第2工程における還元雰囲気下で加熱して得られたニッケル粉末を乾式分級するものである。
第2工程を経たニッケル粉末は、弱い凝集体の乾燥粉末を形成しているので、乾式分級を加えることによって、ニッケル粉末中の粗大粒子が低減され、かつ一定レベルの分散性を有している。
【0037】
なお、乾式分級の代わりに湿式分級とすることも可能であるが、ニッケル粉末を再度水スラリーとし、湿式分級後に乾燥または還元雰囲気下での加熱が必要となる点から製造コストが増大することになり好ましくない。乾式分級では、マイクロスピン(日本ニューマチック工業株式会社製)、カウンタージェットミルAFG(ホソカワミクロン株式会社製)等の装置を用いることができる。
【0038】
<本発明によるニッケル粉の特性>
[粗大粒子数]
本発明に係るニッケル粉末の特徴は、粒径が1.0μm以上の粗大粒子の個数が、全粒子個数の5ppm以下であることにある。粗大粒子の個数が5ppmを超えると、薄層化された積層セラミックコンデンサの内部電極に用いると、内部電極層から粗大粒子が突き出してしまい、別の内部電極層と接触し短絡し、積層セラミックコンデンサの製品歩留まりが悪化しやすい。なお粒径は走査型電子顕微鏡(SEM)の画像から計測された直径である。
【0039】
[平均粒径]
さらにニッケル粉末は、平均粒径が0.1〜0.3μmとするのが好ましい。
平均粒径が0.1μm未満のニッケル粉末は、熱処理時に粒子同士のネッキングや焼結による粗大粒子が発生しやすくなる。一方、平均粒径が0.3μmを超える領域においては、ニッケル粉を用いた電極の膜厚も厚くなるために、本手法で得られるレベルにまで粗大粒子を低減する必要はない。そのため、本手法の適用は、必要のない工程処理を行うことになりコスト高と過剰品質を招いてしまうので望ましくない。
【0040】
[酸素含有量]
ニッケル粉末の酸素含有量は1.5質量%以下であるのが好ましい。酸素含有量が1.5質量%を超えると、積層セラミックコンデンサの還元雰囲気下での焼成時にニッケル粉末の体積収縮が大きくなり、電極の連続性が保てないことや、酸化物の還元によるガス発生にてコンデンサ内にクラックやデラミネーションを発生させ、結果としてコンデンサの容量低下を引き起こすからである。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明の実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、ニッケル粉末の評価は以下のようにして行なった。
【0042】
[平均粒径]
走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−5510、日本電子株式会社製)を用い、倍率10000倍のSEM像(視野:縦9.6μm×横12.8μm)の写真を得た。このSEM像を画像解析ソフト(Mac−View、株式会社マウンテック製)を用いて像内の粒子形状の全様が見える粒子の面積と個数を計測し、これらから各粒子の直径を求め平均値により算出した。
【0043】
[粗大粒子の数]
走査型電子顕微鏡を用い、倍率5000倍のSEM像(視野:縦19.2μm×横25.6μm)の写真を100視野得る。この100視野のSEM像を、画像解析ソフトを用いて像内の粒子形状の全様が見える粒子の面積と個数を計測し、これらから各粒子の直径を求め、直径が1.0μm以上のものを粗大粒子としてカウントした。
【0044】
[ニッケル粉末の酸素含有量]
ニッケル粉の酸素含有量は、分析装置(LECO社製、TC436AR)にて測定した。
【実施例1】
【0045】
湿式還元法によってニッケル粉末を得る工程においては、以下のとおりである。
パラジウムと微量の銀とゼラチンからなるアルカリ性コロイド溶液に、アルカリ性のヒドラジン溶液を混合し、ニッケルを還元するためのアルカリ性コロイド溶液を作製した。
作製したアルカリ性コロイド溶液におけるパラジウム、銀、ゼラチンの含有量は、始液となるニッケル塩水溶液中のニッケルの全質量に対して、パラジウム:50質量ppm、銀:0.5質量ppm、ゼラチン:500質量ppmとした。なお、溶液中のパラジウムおよび銀の含有量は、ICP発光分光分析法により分析した。
【0046】
上記ニッケルを還元するためのアルカリ性コロイド溶液の作製は、具体的には、次のように行った。
まず、純水300Lに所定量のゼラチンを溶解させた後、ヒドラジンの濃度が0.02g/Lとなるようにヒドラジンを混合し、ゼラチンとヒドラジンを含む溶液を作製した。
次に、純水と所定量のパラジウム塩と銀塩の10Lの混合溶液を作製し、先に作製したゼラチンとヒドラジンを含む溶液に滴下して、コロイド溶液を得た。
【0047】
このコロイド溶液に、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを10以上とした後、さらにヒドラジンをニッケル重量:ヒドラジン重量が1:3.75となるまで添加して、パラジウムと微量の銀からなる複合コロイド粒子が混合されたアルカリ性ヒドラジン溶液を作製し、ニッケルを還元するためのアルカリ性コロイド溶液とした。なお、この時点で、全溶液量は、400Lとなるように純水を更に添加した。
【0048】
そして、このアルカリ性コロイド溶液に、ニッケル塩水溶液としてニッケル濃度が100g/Lの塩化ニッケル水溶液を25L滴下して、ニッケルの還元を行い、原料ニッケル粉末を得た。
【0049】
得られた原料ニッケル粉末を、水スラリーとして水中で高分散状態にし、湿式分級する工程は、以下のとおりである。
得られたニッケル粉末と湿式還元反応後液とを分離し、ニッケル粉末のケーキに6L純水を添加し、羽根攪拌型の攪拌機で懸濁させた。次に、アルティマイザー(スギノマシン株式会社製)により、2000気圧で対向衝突させる処理、得られた水スラリーを静置、上澄み液をデカンテーションにより除去することを10回繰り返し、ニッケル粉分散水スラリーとした。
【0050】
次に、ハイドロサイクロン(NHC−1型(日本化学機械製造株式会社製))の使用圧力1.2MPa、流体を純水とした処理量200L/hrになるように調整し、ニッケル粉分散水スラリーを処理した。その後、固液分離と真空乾燥を行い、ニッケル粉末を得た。
【0051】
乾燥したニッケル粉末を還元雰囲気下で加熱する工程においては、得られたニッケル粉末について、水素濃度1.4体積%の水素−窒素混合ガス雰囲気で、加熱温度200℃、加熱時間60分の処理を行った。
【0052】
得られたニッケル粉末を乾式分級する工程においては、マイクロスピン(MP−250日本ニューマチック工業株式会社製)において、分散圧0.6MPa、供給ノズルφ6mm、ニッケル粉末の給粉量0.5kg/hrで処理した。
【0053】
図2に得られたニッケル粉末のSEM像(倍率5000倍)を示す。得られた試料の平均粒径は0.18μmであった。
これら一連の試料を3ロット作成し、3ロットともに粗大粒子数、平均粒径について評価した。その結果を表1に示す。
【0054】
(比較例1)
実施例1における湿式還元法により得られた原料ニッケル粉末を、水中で高分散状態とし湿式分級する第1工程を省略した以外は実施例1と同一条件にてニッケル粉末を作製した。
すなわち、ニッケル粉末を生成させ、固液分離、真空乾燥した後、水素含有ガス雰囲気下での還元処理を施した後、乾式分級の処理をしてニッケル粉を作製した。
これら一連の試料を3ロット作製し、3ロットともに粗大粒子数、平均粒径について評価した。その結果を表1に示す。
【0055】
(比較例2)
実施例1における湿式還元法によりニッケル粉末を乾式分級する第3工程を省略した以外は実施例1と同一条件にてニッケル粉末を作製した。
すなわちニッケル粉末を生成させ、水中で高分散状態とし湿式分級した後、固液分離、真空乾燥したものを、水素含有ガス雰囲気下で加熱処理をした。
これら一連の試料を3ロット作製して、3ロットともに粗大粒子数、平均粒径について評価した。その結果を表1に示す。
【0056】
(比較例3)
実施例1における湿式還元法により得られたニッケル粉末を、水中で高分散状態とし湿式分級する第1工程と、ニッケル粉末を乾式分級する第3工程とを省略した以外は実施例1と同一条件にてニッケル粉末を作製した。
すなわちニッケル粉末を生成させ固液分離、真空乾燥したものを、水素含有ガス雰囲気下で加熱処理をした。
これら一連の試料を3ロット作製して、3ロットともに粗大粒子数、平均粒径について評価した。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1より、第1工程から第3工程までこの順に処理した実施例1では、1.0μm以上の粗大粒子が5ppm以下のニッケル粉末が得られていることが分かる。一方、第1工程か第3工程うちのどちらかもしくは両方とも省略した比較例1〜3は1.0μm以上の粗大粒子の量が5ppmを超えて存在していることが分かる。
また、実施例1では、湿式分級を行い酸素含有量が上昇したが、その後に還元加熱を行っているので、実用レベルである1.5質量%以下に抑えられている。
図1
図2